レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第47話 幸せとそれぞれの価値観

 通話を終えた後、急ぎ足でマダムへ面会を申し込み、許可された直後に扉を開け放つ。

 慌ただしさを感じたマダムは、眉を潜めた表情を見せるが、僕の現状報告を聞くとキセルに口をつける。

 ゆっくりと煙を吸うと、口から白い吐息を吐き出しながら、僕を見つめてきた。

 

 そして、僕に選択肢を与えてくれたのだ。

 

「リエト、貴方に二つの道があるわ。一つは、『オウニ商会』の力を使わずに解決すること。もう一つは、力を使って問題を解決する方法」

「力を使う、とは?」

「簡単よ。この私に依頼をすればいいだけ」

 

 マダムは微笑みながら、僕を真っ直ぐ見据える。

 

「貴方は私にとって大切な従業員の一人。だからこそ、私は力を貸すわ。もちろん、ただじゃないけれど」

「……報酬を払えば良いということですか?」

「えぇ、それも前払いで。当然よね? だって私は商人なのだから」

 

 そう伝えるマダムの顔は、どこか困り気な雰囲気の様子だった。

 おそらく、これがマダムの提示できるギリギリのラインなのだろう。

 前払い。それはつまり、これさえ解決出来れば後は問題ないという意思表示でもある。

 

 エンマの状況を想像すると、あまり時間は掛けられない。

 かといって、僕自身だけで解決するのも難しい。

 現実として、金銭問題を金銭で解決するのは容易ではないからだ。

 

 仮に僕がマダムに仕事を頼むとしたら、やはり……。

 

「マダム、お願いしたいことがあります」

「何かしら?」

「僕に投資をして下さい」

「……どういうことかしら?」

 

 マダムはこちらをジッと見つめてくる。

 まるで真意を探るように。

 

「大切な人たちをこれ以上被害に遭わせたくない。ですが、今の僕には問題の引き延ばしは出来ても解決する術がありません。そして、マダムに依頼をお願いするにはお金が必要です」

「……続けて頂戴」

「僕の手持ちだけでは足りないと理解しています。ですから、僕の将来を担保にしてください」

「…………」

「無論、これは博打であると自覚しています。ですが、僕は僕自身の未来を賭け金にするだけの自信と自負はあります。マダムの願いを叶えられるだけの人材になれるよう最大限の努力するつもりです。どうか、お願い致します」

「…………」

 

 マダムは無言のまま、僕の目を見る。

 僕もまた、マダムの目を見て逸らすことはない。

 やがて、マダムはため息をつくと椅子の背もたれに寄りかかり天井を仰ぐ。

 

 そして、僕に向かってこう言った。

 

「……随分と強欲になったものね」

「すみません。ですが、今はこれしか方法が思いつきませんでした。僕はまだ未熟者です」

「謝ることは無いわ。私が提示した条件を飲んだ時点で、貴方は私と同じ土俵に立ったに過ぎないもの」

 

 マダムは机の上に置いてあるベルを鳴らすと、一人の女性が入ってくる。

 

「失礼いたします。マダム、ご用件は?」

「リリコ、調査をお願いするわ。この町で詐欺行為を行った者達を調べなさい。特に、最近になって急に羽振りが良くなった連中を重点的にね。それと、私の従業員に迷惑を掛けた連中のリストアップも忘れないで」

「畏まりました」

 

 リリコさんは頭を下げると部屋から出て行く。

 マダムは再び僕を見ると、笑みを浮かべる。

 

「こちらの事は任せておきなさい。貴方は自分のすべきことを全うしなさい」

「ありがとうございます。必ずや期待に応えます」

「私を失望させないで頂戴。期待しているわよ。貴方の未来にね」

 

 マダムはそう発言すると、キセルを吹かす。

 

「それと、リエト」

「はい、何でしょうか?」

「……貴方はもう少し自分の人生を大切になさい。貴方自身が幸せにならなければ、救われた側も嬉しくはないのだから」

「マダム……」

「分かったなら返事をしなさい。返事は?」

「はい! 行って参ります!」

 

 マダムの言葉を聞いた僕は頭を下げて答えると、すぐに駆け出し始める。

 その様子を見たマダムは再びキセルを口に運ぶと、ふぅーっと煙を吐き出した。

 

 ◇◇◇◇

 真っすぐに駐機場へ向かおうと考えたが、キリエを自室に置きっぱなしだったことを思い出す。

 反対側方向になってしまうが、一声掛けてから行こうと思い僕は自室へ足を運んだ。

 扉を開けると、キリエはベッドの上で寝転びながら空を眺めていた。

 

 僕が戻って来たことに気付くと、起き上がってこちらを見てくる。

 端的に起きた出来事を話すと、彼女は心配そうな顔を見せたが大丈夫だと伝えておく。

 

「あ、飛行機操縦するならこれ持ってきなよ。私の使ってる飛行帽とゴーグル」

「ありがと。借りてくね」

「念の為にこれも」

「うわぁ!?」

 

 キリエは必要と思われる物を一斉に僕へと投げつけてきた。

 

「夜間飛行にはならないだろうけど、泊まり込みにはなるっしょ。毛布とか水」

「助かるよ。何かあったら適当に入り込んでいいから。鍵とか……」

「あるある。こっちは適当にやっておくからさ、気を付けてね」

「うん、行ってくる」

 

 キリエに見送ってもらった僕は、駐機場へと向かう。

 既にマダムから連絡があったのか、班長を含めた整備員達が準備を始めていた。

 

「おう、リエト! マダムに啖呵を切ってきたらしいな。お前さんがいると飽きる暇がないな!」

 

 班長は豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。

 痛い。でも、嫌な気分じゃない。

 こういう人達と仕事が出来るからこそ、ここは居心地が良いのだ。

 

「まぁ、やるしかないんで。よろしくお願いします」

「ははっ、頼もしいな! 荷物とついでにコレも持ってけ!」

 

 ナツオ班長は、他の整備員から受け取った物をそのまま僕に渡してくる。

 円形の弾倉が特徴的な銃だ。

 

「また物騒な物を渡してきますね」

「赤とんぼに武器は付いてないからな。護身用に持っとけ。使い方は分かるな?」

「えぇ、一応は。ですが、本当に良いんですか?」

「構わねえよ。地上に降り立つ可能性は低いだろうが、万が一に備えておけ。じゃあ、気をつけてな」

 

 僕は軽く会釈をすると、操縦席に乗り込む。

 計器類異常無し。燃料注入完了。発動機始動、プロペラ回転開始。出発の準備は整った。

 

『離陸許可が出たぞ。ささっとお嬢様を連れて戻ってこいよー』

 

 無線機より班長の声が聞こえ、僕はそれに答えた。

 

「了解しました。では、行ってきます」

『おう、行って来い!』

 

 レバーを前に倒し、出力を上げ、徐々に加速させていく。

 滑走路を飛び立った赤とんぼは、そのまま高度を上げて上昇していく。

『お嬢様学校』行きの特別便だ。

 

 ◇◇◇◇

『お嬢様学校』

 よもや、再びこの場所へ足を運ぶとは思わなかった。

 僕は正門にいた警備員さんに問い合わせのお願いをするとしばらく待つようにと言われ、夕日に染まるレンガ造りの建物を眺めていると一人の女性がこちらへ駆け付けて来る。

 

 なんというか、相変わらず絵になる人だなぁ。

 

「リエト! 来て下さったのね!」

「やっ、エンマ。久しぶり」

 

 僕とエンマは、お互いに手を取り合って再会を喜ぶ。

 

「もう、貴方はいつも無茶ばかりして……。わたくし、心配していたのですよ?」

「その事についてはマダムにも叱られましたので。以後気を付けます」

「本当かしら? ……違いますわ。このような事を伝えたいわけではありませんの」

 

 少しの間沈黙が流れたが、やがて意を決したかのようにエンマが口を開く。

 

「リエト、ありがとうございます」

「どういたしまして。まぁ積もる話は明日の朝にでも」

「えぇ、でも貴方はどこで一晩過ごすつもりなのですか?」

「んー駐機場に置いてきた赤とんぼの中かな。それとも星でも眺めながら野宿しようか迷っているところだけど」

「いけません! そんな場所で寝かせてしまうなんて、わたくしにはとてもできませんわ!」

「いやいや、先に言わせてもらうけど、寮に侵入とか絶対にしないからね?」

 

 警備員さんに聞かれると流石にマズいので、つい小声になってしまった。

 だが、この反応を見る限りだと僕の想像は間違っていなかったようだ。

 

「分かっていますわ。ですが、やはりダメなものはダメなのです。せめて、建物内に……」

「いやまぁ、気持ちは嬉しいんだけど、『お嬢様学校』の敷地内に入るだけでも結構勇気いるんだよね。ほら、前にも何回か言ったけど、僕の性別は男だし」

「それは……そうかもしれませんが……」

「大丈夫だって。いざとなったら警備員さんにしがみ付くからさ。それより、そろそろ戻らないと怒られるんじゃない?」

 

 エンマは不満げな表情を浮かべるが、これ以上言っても無駄と判断したのか諦めてくれたようだ。

 

「分かりました。リエト、明日は朝一番に来て下さいまし」

「はいはい。それじゃまた明日ね。お休み」

 

 彼女は渋々といった様子だったが、踵を返して自分の部屋がある寮の方へと向かっていく。

 ここでエンマの指示に従って寮の潜入を試みてしまった日には、恐らく翌朝には朝日を拝むことは叶わないだろう。

 バレる可能性よりも、精神的に追い詰められた状態で一夜を過ごす方が危険なのだ。

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