レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第49話 兄妹からの援軍

 洗いざらい吐き出したあと、こんこんとレオナお姉ちゃんからお説教をされ、『コトブキ飛行隊』が三人になったあの日から時が過ぎる。

 飛行船は微調整を残してほぼ完成状態へ姿を変え、外装には船の名前を表す、『羽衣丸』の文字が大きく書かれていた。

 

 あれからというもの、エンマはラハマに戻り、隊員の一員として日々訓練に励む。

 忙しなく過ぎて行く毎日の中で、新たな出来事が起きようとしていた。

 

「ケ、ケイト……?」

「久しぶり、リエト」

 

 目の前に立っているのは、紛れもないケイトの姿。

 以前会った時とは違い、動きやすそうな服装を着こなしている彼女の元へ、僕は慌てて歩み寄った。

 

「どうしてここに? 手紙には特にラハマへ来ることなんて書いてなかったよね?」

「時期が指定出来なかったから。アレンから『驚かせちゃえば?』と提案され、ケイトも賛同した」

「相変わらず無茶苦茶な兄妹だね……」

「リエトの姉弟に比べれば、些細なもの」

 

 ケイトは涼しい顔で言い放つと、辺りを見渡す。

 

「ここがリエトの育った町?」

「うん。といっても、見た目通りの田舎町だけどね」

「そんなことはない。リエトが育った町と考えれば、ケイトは興味深い」

「それなら町の案内をしようか? って言っても、すぐに周り切ってしまうけど」

「構わない。むしろ望むところ」

「そっか。じゃあ行こう……」

「観光は、採用試験が終わってからにしようじゃないか」

 

 ケイトとの話に夢中になっていた僕の背後に、レオナお姉ちゃんがゆっくりと現れる。

 

「こんにちは、レオナ」

「ああ、こんにちは。ケイト。こちらの要請に応えてくれてありがとう」

「気にしないでほしい。アレンから提案を受けたが、ケイトは自分の意思に従っただけ」

「そうか。それでも感謝しているよ。早速だが準備が整い次第、私と模擬空戦を行ってもらいたいのだが」

「了解」

「リエトはどうする?」

「もちろん観戦させてもらうよ。ケイトの格好良いところを見たいし」

「アレンから一通り訓練は受けてきた。期待して欲しい」

「頼もしい限りだ。今回使用する機体は隼一型で副隊長のザラから機体を借りてある。お互いに一対一で前後一回ずつ行う。評価については私と地上班の面々で行う。以上だ。質問はあるか?」

「問題ない。いつでも始められる」

「では、これより『コトブキ飛行隊』による演習を行う。各自、所定の位置についてくれ」

 

 整備班が動き始め、僕は二人に会釈を済ませて建物屋上へと向かう。

 そこには既にザラさん、エンマ、ナツオ班長が待機していた。

 

「お待たせしましたー」

「うむ、来たな。リエト」

 

 僕が来たことで、四人が揃う。

 

「あの子、どんな飛行をするか楽しみだわ~」

 

 ザラさんは楽しげに言うと、エンマは小さく笑う。

 

「ご自身のお兄様から操縦方法を短期間で学んだと聞いておりますが、果たしてどこまで出来るのか見ものですわね」

「大丈夫だよ。僕の知る限りではアレンもケイトも天才肌だから」

「あら、リエトの口からそのような言葉が出るとは意外ですわね」

「そうかな? 僕に知識を与えてくれた先生か、師匠みたいな存在だから自然と贔屓目になってるのかも」

「なるほど、納得致しました。しかし、わたくしの知る限りですとリエトの姉弟も大概かと存じ上げておりますが」

「いやー? 少なくとも天才肌では無いよ?」

「その代わりに、二人とも努力家なのは確かだわ。それも並外れたね」

 

 ザラさんの言葉を聞いたエンマは、呆れたように溜息をつく。

 

「それはもう才能と言うべきでしょう。一体どこを目指しているのやら」

「きっと、自分の信じた道を進むためよ。レオナのそれが何なのか私は知ってるつもり。リエト君だって、同じだと思うわ」

「……だとしたら、わたくしは羨ましいかもしれませんわね。そこまでの信念を貫けることは、この厳しい世界では中々無いことかと」

「……ええ、本当に」

 

 二人の会話を横目に、僕は無線機のスイッチを入れ、レオナお姉ちゃんとケイトの乗機に通信を送る。

 

「こちらは地上班のリエト。準備はよろしいでしょうか?」

『こちらレオナ。問題はない。始めてもらって構わないぞ』

『同じく、ケイト。こちらも問題ない』

 

 無線の返事を聞き、僕は班長に合図を送る。

 班長は首肯すると、拡声器のマイクを握りしめた。

 

「これより、『コトブキ飛行隊』による演習を開始する。各員、所定位置につけ」

 

 ナツオ班長の指示に従い、整備班が配置につくのを確認すると、班長へ無線を手渡すのだ。

 

「これより演習を始める。双方、用意!」

 

 ナツオ班長の号令と同時に、上空で待機していた二機が配置についた。

 

「演習……開始ぃ!!」

 

 ◇◇◇◇

 こうして行われた演習は、ケイトの動きに目をみはるものがあった。

 慣れない機体であることから先手開始となった彼女は、レオナお姉ちゃんの機体を照準に収めようと最小限の動きで追尾していく。

 一方、レオナお姉ちゃんは機体を旋回させながらタイミング良く照準から逃れるように機体を滑らせる。

 

「これって決着つくの?」

「難しいだろうな。そもそも今回は演習で勝敗を競っているわけじゃないんだ。レオナはケイトを試しているだけだ」

「レオナお姉ちゃんは、ケイトの実力を測りきれてないの?」

「いいや、逆さ。彼女の実力を十二分に理解した上で、レオナはあえて手加減をしているんだよ」

「どうして?」

「ケイトの操縦技術と飛行特性を見極めるためだ。恐らくだが、あいつはこのまま終わるようなタマじゃねえ」

 

 ナツオ班長の言葉は、入れ替え戦で証明された。

 背後を取られ続けていたケイトは、突如落下ともいえる機動で地上に向かい、寸前のところで背面飛行を行い、空へと戻っていった。

 

「班長、アレって」

「ああ、そうだ。ケイトは機体の操縦技術だけならこの中でも群を抜いている。全く、イジツは広いぜ」

「凄いなぁ。あんな動きが出来るなんて」

 

 思わず感嘆の声を上げてしまうが、仕方ないと思うのだ。

 

 ◇◇◇◇

 飛行隊の模擬空戦が終了したあと、ケイトを連れてラハマの街を探索する……といっても、ゆっくり歩きながらブラついてるだけなんだけどね。

 結果は改めて言うまでもないだろう。

 首元に藍色の布をリボンのように巻いた彼女がいるのだから。

 

「合格おめでとう、ケイト」

「ありがとう。でも、まだ気は抜けていない」

 

 ケイトは相変わらず表情を崩さずに答えてくる。

 

「ケイトらしい言葉が聞けて嬉しいな。でも、無理は禁物だよ」

「分かってる。リエトは、これからが忙しくなると予想されるが」

「整備士だからね。でも文字通り夢が叶う直前だし、楽しみなんだ」

「ケイトもその場に立ち会えると嬉しい」

「ふふっ、その時はよろしく頼むよ」

 

 そんな話をしながら、アイスを買い食いしたり、本屋でケイトが教本に夢中で動かなくなったり。

 

「ケイトは相変わらず本を読むのが好きなの?」

「好みである。知識が増えると楽しい。それをリエトに伝えるのは、ケイトにとって至福の一つ」

「それは嬉しいな。また以前の時の様にケイト先生から知識を教えてもらいたいものだよ」

「同じ本からケイトとは違う視点からの意見を述べるリエトに、ケイトは学ぶところがあった」

「手紙では良く教えたことがあったっけ。職場も同じところになったし、時間を見つけてまた話をしようか」

「とても魅力的な提案。ケイトとしても望むところ」

「なら、次のお休みにでもどう?」

「了解した」

 

 約束を取り付けたケイトは、満足げに微笑む。

 

「さて、確か飛行隊で歓迎会をするんだっけ。お店まで送っていくよ」

「感謝する。リエトは一緒に参加しないのか?」

「飛行隊には所属していないからね。お誘いはありがたいけど用事もあるから遠慮しておくよ」

「残念。ならば次の機会に期待したい」

「あはは。ありがと。ケイトを送り届けたら部屋の整理を再開させないと」

「整理……リエトは既に飛行船内で生活をしているのでは?」

「まだだよ。ラハマに住んでいなかった人たちを優先で受け入れているからね」

「なるほど。であればラハマにはリエトの住む家があると」

「家なんて立派なものじゃないよ。部屋を一つ借りてるだけ」

 

 実際にそのとおりなのだが、ケイトの好奇心を刺激してしまったようだ。

 

「興味がある。是非とも案内してほしい」

「それは構わないけど……想像よりも狭いかもしれないよ?」

「問題ない。むしろ、狭ければ好都合」

 

 ……どういう意味なんだろう?

 そう疑問に思いつつも、ラハマの町外れにある僕の部屋に案内することになった。

 どうやら座敷童の一人は仕事中で出払っているようだ。

 

「ここが僕の部屋。散らかっているけど、我慢してもらえると助かるかな」

 

 扉を開き進入すると、後ろからついてきたケイトは、室内をキョロキョロと見渡した。

 

「これがリエトの住処。興味深いものがある」

「大したものはないと思うけど……」

 

 ケイトの視線が向かったのは、山積みにされた手紙の数々。

 その手元には、僕が書いたノートも置いてある。

 

「これは、ケイトがリエトに向けて送った手紙。ノートを見ても?」

「汚い字ですが、どうぞどうぞ」

 

 僕は返事をしながら、ベッドの脇に座った。

 彼女は、パラパラとページを捲りつつ、感想を口にする。

 

「謙遜する必要はない。リエトの字はとても綺麗。ケイトはリエトの書いた文字が好きだ」

「ありがとう。読めば分かるけど、ケイトが教えてくれたことをまとめたノートだよ」

「ケイトの伝えたい事が正しく書かれている。あの頃と変わらずに」

「癖になったみたいでさ、今でも暇を作っては書いているんだ」

「良い事だと思う。ケイトも見習わなければ」

「そう言われると照れるってば」

「照れなくても良い。事実」

 

 ケイトの真っ直ぐな瞳に見つめられると、心の底を覗かれている気分になる。

 ノートを片手に僕の隣へと腰掛けるケイトだが、彼女の顔は近い。

 

「あの、えっと……」

「リエト、どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ。何か聞きたいことでもあるのかなって?」

 

 動揺を悟られないように平静を装う。

 

「ケイトはリエトのことが知りたい」

「僕のこと? ケイトはどうしてそこまで僕に興味を示すのかな?」

「リエトとは師弟であり良き友人でもあるとケイトは認識している」

「それは嬉しいな。僕にとっては光栄だね」

「これからは同僚にもなる。リエトのことをもっと知っておきたい」

「そっか。でも、僕がケイトに教えられることなんて少ないよ?」

「構わない。リエトの言葉を聞きたい」

 

 ケイトは真剣な眼差しで僕を見据えてくる。

 こういう時の彼女は決して譲らないと知っているため、素直に話すことにした。

 

「とはいえ、まずは何について話せばいいのかなぁ……」

「ケイトの質問に答えてほしい。リエトの言葉で、リエトの思うままを聞かせて欲しい」

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 そして、ケイトの問いに答える形で、自分の思いを話していく。

 僕の育ったホーム、そこでの生活のこと、整備士を目指す道のり。

 

「こうして振り返ると、小さな頃とはいえ本当に色々なことがあったんだな」

「ケイトにとっても貴重な体験だった。リエトに出会えたことは、ケイトにとっての幸運」

「そう言ってくれると嬉しいな。さて次は……と思ったけど、時間みたいだね」

 

 窓の外を見ると、太陽の高度が落ちているのが見える。

 

「歓迎会は夕方からだよね?」

「肯定。リエトの部屋で話の続きを聞きながらのんびりと過ごしたかったが、残念」

「気持ちは嬉しいけど、本日の主役が不在なのも問題だから。それに、僕たちは以前と違ってまた直ぐに会うことができるから」

「確かに。リエトの言う通り。ケイトはリエトに会いに行く」

「その時は歓迎するよ」

「嬉しい言葉。リエトはケイトを喜ばせる天才」

「褒めすぎだって。お店まで送っていくよ」

「道順は覚えた。ケイトは一人で向かえるが」

「もう少しだけケイトとお喋りしたいんだ、駄目かな?」

「リエトが望むなら、ケイトは付き合う」

「ありがと。ケイトは優しいね」

「当然の事を言ったまで。やはりリエトはケイトを甘やかす天才」

「なんだか新しい称号を得た気がするよ」

 

 そんな会話を交わしながらも、僕たちは横並びでお店へと向かう。

 彼女の歩幅は狭く、歩く速度も遅い。

 なので、自然と僕がペースを合わせる形になっていたのだが、それが心地良いと感じていた。

 

 それは、会えなかった空白期間をゆっくりと埋めるかのように。

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