レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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最終話 姉と僕の物語

 紆余曲折とはまさにあのことだろう。

 たっぷりと時間を使い、キリエを連れて『羽衣丸』へと足を踏み入れた頃には、既に夕焼けで船体は茜色に染まっていた。

 腰に手を当て待ち構えていたエンマは、キリエの姿を捉えると一目散に駆け寄るなり抱きしめる。

 

 大変力強いらしく、キリエの口から苦し気な声が漏れるが、エンマの気が済むまでは我慢してもらうしかない。

 エンマとキリエのやり取りを眺めていると、ケイトとザラさんが僕の元へ歩み寄ってくる。

 

「二人とも、お待たせしてすみません」

「ケイトは気にしていない。ぼーっとする良い時間だった」

「あの様子だと随分と溜め込んでたみたいね。一目瞭然だもの」

 

 視線をキリエ達に向ければ、泣きながらお互いに感謝と謝罪の言葉を繰り返している。

 どうやら積もりに積もった想いをぶつけ合ったようだ。

 

「……夢の先を見つけないとなぁ」

 

 二人の姿を遠巻きに見つめていると、自然と言葉が溢れた。

 ケイトは、不思議そうな視線で僕を見つめてくる。

 

「リエトの夢は叶った。これ以上、何を望むのか」

「ふふっ、ケイト。夢は叶えるためにあるんじゃなくて、追いかけるためにあるものなのよ」

「理解不能。何故、追い求める必要がある?」

「んーそうねぇ。ケイトは何か夢か目標みたいなものはあるの?」

「特にない。強いて言えば、リエトの力になりたいことを目標としてきた」

「あら、素敵な目標じゃない。でも、それはもう叶えたわよね? なら、その先は?」

 

 ザラさんはケイトの頭を撫で回す。

 ケイトはされるがまま、目を細めて心地良さそうにしている。

 

「分からない。ただ、『コトブキ飛行隊』いるのは悪くない。リエトも傍にいてむしろ居心地が良い」

「それが答えじゃないかしら? これからは自分で見つけていかないといけないのよ」

「そういうものなのか」

「ええ、きっとね。だけど、無理に一人で探さなくてもいいわ。私たちと一緒に探していきましょうよ」

「ん、分かった。まずはケイト自身の気持ちを確かめたい」

「ええ、焦らずゆっくりと。自分だけでなく、誰かに頼りながらでも全然構わないのだから」

「ありがとう、ザラ」

 

 ザラさんは微笑みを返し、そっと抱き寄せる。

 

「ええ、いつでも頼って頂戴。私たちは同じ飛行隊の隊員なんだから」

「困ったら相談させてもらう。今度はリエトのことで」

「ケイトにまで言われてるわよ、リエト君?」

「返す言葉もございません……」

「全力で人助けをするのは悪い事ではないけれど、親しくなった子に熱量高めで自分の夢について話してしまうのは程々にしなさいね? 女の子なんて男の子の語る壮大な夢物語に憧れて、いっつも理想に振り回されてばかりなんだから」

「肝に命じておきます……。それにしても二人はすっかりと仲良くなっていますね。いつの間に?」

「ザラにはケイトに欠けている一般常識を教えてもらった。あと、リエトの話をするといつも楽しそうに耳を傾けて聞いてくれた」

「だって、リエト君に関するお話は面白いんだもの。ケイトから見た視点と、エンマから見た視点、ここにあの子が加わってくれれば、更に面白くなると思うの。例えば、あの子とリエト君の関係性とか、気にならないかしら?」

「気になる。大変興味深い」

「……会話のツマミとして楽しんで頂けているのなら、まだ良いんだなと考えますね」

「ふふっ、私はお酒の肴としても楽しめるわよ。レオナなんてリエト君の話となると前のめりになって聞き入るくらいだもの」

「レオナはリエトのことになると、目の色が変わる」

「お姉ちゃん……」

 

 その話を聞いて、僕は呆れたように呟く。

 どうやら僕たち姉弟は、お互いにナントカ離れが出来ずに、一緒にいることを選んでしまったらしい。

 

「幼い頃は一緒にいることがどうしても出来なかったんだ。だけど、今こうしてお姉ちゃんといられることを僕は素直に嬉しい」

「……だそうよ、レオナ?」

「…………」

 

 顔……というよりも眼を真っ赤にして俯き黙っている。

 お姉ちゃんの反応を見る限りでは、一緒にいることは嫌われてはいないはず。

 

「レオナお姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だ。けど、嬉しくても涙が出ることがあるんだよ。恥ずかしいところを見られてしまった」

「そんなことは無いわ。レオナの新しい一面が知れて私は嬉しいもの」

「ザラは優しいな。私が隊長なのに、これじゃ立場がないな」

「立場なんて関係ないわ。私とレオナの仲でしょう?」

「そうだな。うん、本当にありがとう、ザラ」

「どういたしまして。それで、これからの予定なのだけれど……」

「チカの反応が無い。ケイトは気になるのだが」

 

 ケイトの発言を聞いたお姉ちゃんが、視線を移動させる。

 その先には器用に椅子へ寄りかかったまま、口を開けて寝ているチカの姿があった。

 

「あらあら、随分と待たされていたから、飽きて寝ちゃったみたいね。どうしましょう?」

「チカの性格上、のけ者扱いにされたら拗ねるだろうな。仕方ない、起こすか」

「それじゃ私とケイトは、エンマとあの子の様子でも見てくるわ。チカのことはお願いするわね」

「ああ、任せてくれ」

「僕はどうしたらいい? ここから先は、『コトブキ飛行隊』に関わる話になるから部外者の僕がここに残るは気が引けるんだけど」

「しかし、彼女にとっては現状、味方であるリエトが傍にいた方が安心するだろう」

「それならお口チャックで端っこにでも座っておくことにするよ。僕に出来ることは何もないし」

「すまないな、リエト。よろしく頼む」

「気にしないで。お姉ちゃんも贔屓せず飛行隊を優先して評価してね」

「分かってる。私なりに最善を尽くして答えるつもりだよ」

 

 僕はサルーンの端っこに移動し、キリエの面接を見守ることにした。

 途中、チカとキリエが口喧嘩を初めて暴れだし、途中からエンマまで参戦するとは思いもよらなかったけど。

 それでも、キリエがレオナお姉ちゃんの差し出した藍色の布を受け取る姿を、僕はこの目で見ることが出来た。

 

 ◇◇◇◇

 それから半年ほど月日が経ち、『コトブキ飛行隊』は順調に依頼をこなしていき、知名度が少しずつ上がり始めていた。

 その間に起きた出来事を掻い摘んで振り返るとしてみよう。

 

 

 ホームについて。

 レオナお姉ちゃんと共に帰省する機会が増え、その度に後輩たちから質問攻めを受けるようになった。

 

「にぃにぃ! またお話し聞かせてよ!」

「私もリエト兄さんの話しが聞きたいです!」

 

 ユーカとエリカから同時に話しかけられ、困惑しているとレオナお姉ちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「ほら、二人とも。リエトが困っているじゃないか」

「……そうだ。たまにはレオナお姉ちゃんから話しを聞いてみたらどうだい? なんたって六人編成の飛行隊の隊長さんを務めているんだから」

「むー誤魔化された気もするけど、レオナさんの話しも気になる!」

「では、お言葉に甘えてお邪魔します。でも以前の様にリエト兄さんの話しもまた聞かせてくださいね?」

「もちろん。でも、あまり期待しないで欲しいかなー」

 

 ザラさんに釘を刺されて以来、僕の話す内容には細心の注意を払うことにしたのだ。

 ただまぁ、僕が注意しても第三者が勝手に喋ってしまうこともあるわけで……。

 

 

 アレンについて。

「いやー、最近アレに関して僕自身の中でブレイクスルーが発生してね、検証の為にイジツ中を行ったり来たりの毎日さ」

「それはまた凄いですけど、大丈夫なんです? 生命の危機的な問題で」

「もう一歩、踏み込み始めたら危険かな。ただ僕としても興味がある分野だから、どうしても止められなくてねぇ」

「あははは……、死なない程度に留めて下さいよ」

「善処しよう。駄目だったらリエトに研究内容が届くようにしてあるから、その時は是非読んでくれたまえ」

「絶対に命狙われるやつじゃないですか! やめろよぉ!」

 

 

 郵便屋の二人について。

「ムサコさん、ヒガコさん。今回はこれをお願いしてもよろしいですか?」

「構わないぜ。通り道だからな。でも不思議なもんだよ」

「ほんとにね~。ヒガコたち以外でも覚えていてくれている人がいるんだもん~」

「あの人の事、忘れようとも忘れられませんって」

「そんで気になるのが……刑務所宛てか。一体何の用なんだか……」

「レオナお姉ちゃんを助けてくれた人について、もっと知りたくて。一か八かで本人に手紙を書いてみました。もしも届いたのなら、返事をくれると嬉しいですね」

「はぁ……変わり者もここまでくれば才能かもな。うっし、アタシらは自分の仕事を全うするだけさ!」

「そうしましょうか~。今回はちょっと遠出だけど~頑張ろうね~」

 

 

 チカについて。

「チカ様、『羽衣丸』の探索に付き合うのは良いのですが、空気路を伝って移動をするのは勘弁してもらえますか?」

「えぇ!? どうして!? 面白いじゃんか!」

「好奇心旺盛なのは分かりますが、僕には狭くて厳しいんですよ。代わりにキリエとケイトを呼んできますから、それで手を打ってくれませんか?」

「むぅ、リエトがいると反応が面白いから一緒に行きたかったんだけどなー。仕方ないかー」

「仕方ないのです。毎度、下着を覗かせて貰っている身としては我慢しないといけませんので」

「パンツ見るなって言ったよね!?」

「見てません。前を向くとチカ様の短いスカートが見えてしまうのですよ。不可抗力なので許して頂けませんか?」

「ぐぬぬ……なんか納得いかない。リエトのバカァ!!」

 

 

 ザラさんについて。

「それでね、レオナったら真面目に答えるものだから、おかしくって」

「昔からお姉ちゃんはそういう所ありますね。冗談の類を真剣に受け取ったり」

「ふふっ、そうなのよ。そんなレオナが私は大好きで、尊敬しているの。でも、最近は少し心配でもあってね。無理していないといいけれど」

「聞きづらいことがあれば寄り添ってあげてください。自然と向こうから喋り出しますよ。レオナお姉ちゃんだって、本当は誰かに聞いてもらいたい気持ちはありますから」

「やっぱり姉弟ね。私もリエト君みたいになれたらいいのになぁ」

「僕なんか既に超えていますよ。ザラさんは本当に素敵な女性ですし、お姉ちゃんにとってかけがえのない存在になっています。自信を持ってください。お世辞じゃなくて本気ですよ」

「もう! 前に注意したばかりなのに、お姉さんまで口説こうとしているのかしら?」

「実現したら本当に僕たちと家族になれますね、ザラさん」

「……そっか。それも良いかもしれないわね」

「いや、その、これは、あくまで仮定の話であって、なんと言うか……」

「お姉さんをからかった罰として、暫くの間、口を利いてあげないっ」

「すみませんでした!! どうかそれだけはご容赦を!」

「ふふっ、冗談よ。リエト君の慌てる姿もレオナに似て可愛いわ」

 

 

 ケイトについて。

「液冷エンジンと空冷エンジンの比較は以上である。次は……」

「ケイト、ちょっとタイム。久しぶりの詰め込み式学習で頭とノートの整理が追い付かないよ」

「確かに。ケイトも気分が高揚していたようだ。休憩にしよう」

「ありがとう。助かるよ。しかし、本当にケイトが先生になったみたいで良く似合ってるよ。その伊達メガネ」

「リエトからプレゼントされた時、このような物で気分が変わるとは思わなかった。だが、実際に装着して教えを請われると、不思議とやる気が出てくる。リエトはケイトを扱う天才」

「その称号はちょっと不名誉な気がするけど……。まあ、ケイトが喜んでくれているのなら、いっか」

「至福のひととき。こんな時間がいつまでも続けば良いのにと思う。この時間だけは誰にも邪魔されたくない」

「そうだね。ずっとこうしていられたら幸せだろうね。僕たちの時間は有限だし、今は大切な時間を過ごそう」

「同意。ケイトはリエトと一緒にいるだけで楽しい。それに、今が一番充実しているように感じる」

 

 

 エンマについて。

「リエト、こちらへいらして下さい」

「どうしたの? 急に呼び止めて」

「貴方の名前を呼びたくなりましたの。迷惑でしたかしら?」

「全然。特に予定は無いし問題ないよ。僕を呼んだ理由は何かな?」

「貴方の顔を見たくなりましたの。ただそれだけのことですわ」

「なんだか照れ臭いね。でも、ありがとう。エンマはいつも僕のことを考えてくれていて、感謝しています」

「あら、お礼なんて必要ありません。私がしたいからしていることですもの。むしろ、わたくしの方がリエトに助けられているのだから、お互い様ですわ」

「ううん、それでもだよ。僕の想いは変わらないからさ」

「ふふっ、リエトらしいわね。そういうところもわたくしは好きですの」

「エンマってたまに凄く恥ずかしくなるようなことを言うよね。僕、顔赤くなっていないかな?」

「貴方の頬を触らせて下さいな。確かめないと不安になりますわ」

「いや、熱とかでは……」

「んっ……ふふっ、貴方の唇に触れたくなりましたの」

 

 

 キリエについて。

「ほっっっんと、リエトって女心を弄ぶ天才だよね。自分の気持ちに素直になった途端、ライバルの多さに愕然とするよ!」

「例えば?」

「エンマなんか隠そうともしないし、それどころか見せつけてくるんだもん。アレは絶対狙っている目だったよ!!」

「キリエって嫉妬深いタイプなのかな。今までは余裕があったように見えるんだけど」

「そりゃね、私だって自分はフトコロの広い大人な女性だと自負しておりますよ。えぇ。でも、イザ一人きりの夜が続くと、やっぱり寂しいじゃん。リエトが恋しくなるじゃん。リエトの夢とか、空に嫉妬して、私が私でなくなる日が来てたんだよ。そんなのもう嫌だー!!」

「あの時のキリエは感情が不安定になっていたんだよ。仕方が無いことだと思う。僕たちはお互いに支え合ってきたからさ、手紙があったとしても離れると心細くなるのは当然だよ」

「それはそうなんだけどさ。私はもっと強くなりたいの! はぁー、私って重いのかな……」

「キリエ、キーリエっ」

「なにさ、すけこまし」

「好きだよ」

「……あーもう! 私ってばチョロい、チョロすぎる!! こんなのに惚れちゃった自分が憎い!!」

 

 

 レオナお姉ちゃんについて。

「薄麦ビールをリエトへ」

「畏まりました。……どうぞ」

「ありがとう、リリコさん」

「いえ、仕事なのでお気になさらず」

「リエト、最近の調子はどうだ? 元気にしているか?」

「まるで久しぶりに会う親戚みたいな言い方だよね、レオナお姉ちゃん」

「むぅ、最近は私に冷たくないか? お姉ちゃんは悲しいぞ」

「レオナお姉ちゃんはレオナお姉ちゃんでしょ。それとも良い機会だから呼び方を改める? 姉貴とか、隊長さんとか」

「そ、それは駄目だ。リエトからお姉ちゃんと呼ばれなくなったら、お姉ちゃんは生きていけないぞ」

「大袈裟だなぁ。じゃあ、今まで通りレオナお姉ちゃんでいいよね?」

「ああ、それで構わない。むしろ変えないでくれ。リエトがお姉ちゃんと呼んでくれる限り、私は頑張れる気がするんだ。お姉ちゃんは弟を甘やかすのが好きなのだ」

「相変わらずよく分からない理由で安心したよ。僕はこれからも変わらず、レオナお姉ちゃんと呼ぶことにするよ」

「ありがとう、リエト。やはり私の目に狂いは無かった。お前は最高の弟だ」

 

「お姉ちゃんってば。……それで、二人きりで話があるんでしょう? サルーンに呼び出すぐらいなんだから」

「そうだ。少し真面目な話をしようか。リエト、お前はこの世界をどう思う?」

「まるで革命家のような質問をするね」

「いや、そ、そういう意味ではないぞ? 好きか嫌いかの話をしているだけだ」

「うーん、そうだねぇ。その時折で感じ方が変わるけど、今は『嫌いじゃない』と思えるようになったかな」

「ほう、それはどうしてだ?」

「僕たち姉弟に関わってくれた人たちのおかげだよ。今でこそ用心棒の姉と整備士の弟がいるけれど、一歩違えば空賊として暴れていたかもしれない。だから、こうして穏やかな生活が出来ているのはレオナお姉ちゃんを含めたみんなのおかげであると思っている」

「なるほどな。つまり、この世界には『希望』があるというわけだな」

「そこは人それぞれだけど、僕にとっては『オウニ商会』と『コトブキ飛行隊』のみんな、『ホーム』にいる後輩たちのことだね」

「そうか。では、改めて聞くとしよう。リエトは、この世界で生きていく覚悟はあるのか?」

「うん、もちろん。この世界は絶望だけじゃないと信じているから。『僕はまだ、この世界が嫌いじゃない』」

「ふふっ、私と同じ答えじゃないか。だが、良い返事を聞けて満足だ。これからもよろしく頼むぞ」

 

 ◇◇◇◇

『羽衣丸』がとりわけ大切な物資を輸送中、サイレンと共に副船長からのアナウンスが入る。

 

『総員、戦闘配置!』

 

 慌ただしく動く人影とイナーシャハンドルを片手に檄を飛ばすナツオ班長の姿。

 

 そして、船内を駆け回る足音と共に、こちらへ駆け寄ってくる一人の女性。

 

「リエト!!」

「ほいきた!」

 

 僕の背中を踏み台に主翼の付け根へ足を伸ばすレオナお姉ちゃん。

 片手で身体を回し、格好良く操縦席へと滑り込む。

 操縦席は狭苦しいはずなのに、レオナお姉ちゃんは慣れた手つきで計器類を確認し、操作をしていく。

 

 やがて、僕に向けて掛け声を上げる。

 

「始動準備!」

 

 その声に従うように、僕はイナーシャハンドルを差し込み回す。

 回転数が上昇していくのを確認して、僕は大声を張り上げる。

 

「点火!!」

 

 レオナお姉ちゃんの指先が世話しなく動き、ペダルが踏まれると、隼の発動機が格納庫に轟音を響かせる。

 プロペラが勢いよく回転を始め、機体が震えだすと、各所の確認を行い、問題が無いことを知らせる。

 

「行ってくる!」

「行ってらっしゃい、レオナお姉ちゃん!」

 

 僕がお姉ちゃんを見送る時の決まった言葉。

 レオナお姉ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべると、滑走路へ機体を走らせていく。

 二番目にザラさん、エンマ、ケイト、キリエとそれぞれにこちらへ合図を送ってくれるのを確認し、僕もそれに応えるように親指を立てて見送った。

 

 チカは怪我をして療養中のため、今回はお留守番。

 最後にレオナお姉ちゃんの機体に目を向けると、すでに離陸を始めていた。

 

 お姉ちゃんの機体は、尾翼に描かれたマークを輝かせながら、力強く上昇していく。

 その姿は、まるで雄々しく羽ばたき、獲物を狩ろうとするハヤブサのようだった。

 

「(お姉ちゃん達なら大丈夫)」

 

 お姉ちゃんは強い。

 用心棒としての実力はもちろんのこと、何よりも沢山の出来事を乗り越えてきたから。

 僕はそんなレオナお姉ちゃんに憧れている。

 

 でも、まだ未熟な僕には足りないものが多すぎる。

 それでも、少しでも追い付きたくて、頑張っている。

 きっと、もっと、整備の腕前を上げればお姉ちゃんの役に立てると思うから。

 

 だから、僕は今日もここで汗を流すのだ。

 

「リエト! こっちの整備始めんぞ!」

「はい! すぐに行きます!」

 

 ──これは、姉と弟の物語である。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 上空に飛行船が浮かぶ。

 その周囲には幾多の戦闘機が飛び立ち、空中戦が始まる。

 地上から眺めていれば、襲い掛かる空賊に分が悪く、用心棒側の方が優勢に見える。

 空戦技術に優れた者が空を飛ぶ害鳥を狩り、それを食すために群がる獣の如き戦闘機乗り達の戦いであった。

 

 そして、離脱していく空賊に食らいつくべく戦闘機の一機が追っていく。

 しかし、その空賊は他の者とは違った。

 一機のみ突出してきた用心棒を軽くいなすと、そのまま翼を振って逃走する。

 

 取り残された隼一型は、ただただ、呆然とすることしかできなそうにみえる。

 

「あの隼、危にゃー飛び方をする奴もおるものだにゃ……」

 

 うちのギリギリを掠めて飛行した隼に対して、冷ややかな視線を送る。

 操縦していたパイロットは、相当腕の良いやつだとわかるが、あれは下手すると墜ちていたかもしれんな。

 そう思うと、背筋がゾッとする。

 

「……あぁいう輩もいるのが世の中ということだにゃ」

 

 それにしても、あいつは一体、誰なんだろう?

 気になりはするが、これ以上関わることはあるまいと思考を打ち切る。

 今は仕事の時間であり、余計なことを考える余裕はない。

 

「まっ、うちには関係ねーなー。さっさと終わらせるか」

 

 うちは発動機を始動させ、プロペラの回転数を確認すると、操縦桿を握る。

 徐々に回転数が上がり、発動機の音が高鳴る。

 この瞬間が好きだ。

 

 自分の手で飛行機を動かすことができるのは、生きていると実感できるからだ。

 

「それじゃ、久々にあの姉弟へ会いに行くとしよみゃーか!」

 

 復活した零戦一一型と共に、うちはまだ夜更けの空の中を駆け抜ける。

 向かう先は、ラハマの町だ。

 

 ──これは、姉と弟と、それぞれが主役の物語である。




最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
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