レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第5話

 出会いのきっかけなんてものは、いつも突然やって来るものだ。

 レオナお姉ちゃんから届いた一通の手紙には、近々帰省するという旨が記されていた。

 久しぶりに会える嬉しさからか思わず頬が緩んでしまうが、そんな気持ちをグッと抑え込み、院長先生へと手紙を渡すことにする。

 

「院長先生、レオナお姉ちゃんから手紙が届いていました」

 

 手紙を院長先生に渡すと、先生は受け取った手紙に目を通すなり笑顔を浮かべて頷いてみせた。

 

「あら、レオナから連絡があったのね。元気そうでなによりだわ」

 

 院長先生にとってもレオナお姉ちゃんというのは、少し特別なのだろう。

 嬉しそうに微笑みながら僕の頭を撫でてくれる院長先生を見ていると、僕も嬉しくなってしまうものだ。

 

「きちんとお出迎えの準備をしておかないとね」

「はい!」

 

 元気よく返事をする僕を見て、院長先生も笑顔で応えてくれたのだった。

 

 ◇◇◇◇

 数日後、ホームへと帰ってきたレオナお姉ちゃんは、抱えきれないほどの手荷物を手にしていた。

 その様子を見る限り、どうやら今回は荷物持ちとして同行してきた人がいるようだ。

 

「ただいま! みんな!!」

 

 いつものように明るい笑顔を見せるレオナお姉ちゃんに対し、皆も口々に帰還を歓迎する言葉を投げかけていた。

 そして最後は僕と二人になったところで、ようやくレオナお姉ちゃんが僕の方へと顔を向けてくれた。

 

 その目は優しげに細められており、何か良いことがあったのかと思えるほどだった。

 

「ただいま、リエト」

 

 そう言ってお姉ちゃんは手を伸ばしてくるものだから、僕はそっと抱き着くと精一杯のおかえりを伝えたのだった。

 

「お帰りなさい、レオナお姉ちゃん」

 

 そうしてしばらくの間抱き合っていた僕たちだったのだが、不意に聞こえてきた言葉に思わず驚いてしまった。

 

「レ、レオナ……感動の再開もそれぐりゃーにして荷物を……」

「す、すまない。ナカミズ」

 

 申し訳なさそうに頭を下げたかと思うと、すぐさま荷物を受け取るべく動き出したレオナお姉ちゃんの姿に苦笑しつつ、僕もナカミズと呼ばれた人の手伝いを始めることにした。

 すると彼女はお礼の言葉を口にした後、僕に向けて話しかけてきた。

 

「キミがリエト君だね? 私はナカミズ。キミのお姉さんと同じ飛行隊に所属しとる者だわ」

 

 特徴的な口調で自己紹介をしてくれたナカミズさんは、人懐っこい笑みを浮かべてきたかと思えば、握手を求めてきたので応じることにした。

 

「よろしくお願いします、ナカミズさん」

「こちらこそよろしゅうなぁ。うんうん、レオナが大事にしとるだけあってしっかりした子だわぁ」

「ナ、ナカミズ。それはリエトの前では言わないでくれってお願いしたじゃないか!」

 

 慌てた様子で注意してくるレオナお姉ちゃんに対して、ナカミズさんは悪びれることなく笑っていた。

 

「ムサコとヒガコにええ土産話が出来たわぁ、あのレオナがきちんとお姉ちゃんをしとる姿が見られたんだでねぇ」

「……っ!」

 

 顔を真っ赤にしているレオナお姉ちゃんだけど、多分怒ってはいないんだと思う。

 その証拠に本気で怒っている時は無言になるし、今は恥ずかしそうな表情を浮かべているから。

 そんな様子を眺めていると、不意にこちらを向いたナカミズさんと目が合う。

 

「どうしたんでゃー?」

「レオナお姉ちゃんが僕以外の人に素を見せている姿が新鮮でつい……」

 

 僕が素直に思っていたことを口にしてみると、ナカミズさんは納得したように頷いてみせた。

 

「まぁ、普段はあれだけ無愛想なんだで仕方にゃーがね」

「無愛想?」

 

 そんなことを思いながら首を傾げていると、彼女が小さく笑った。

 

「いつもはこう眉間にシワを寄せながら険しい表情をしとるんだわ。やー悪い意味ではにゃーよ? むしろそこがレオナの魅力だと私は思っとるでよ」

 

 まるで我が事のように誇らしげに話すナカミズさん。

 そんな彼女の様子を見ていると、自然と笑みが溢れてくるのだった。

 

「そうですか……ふふっ」

「キ、キミ。ど、どうしてそこで笑うんでゃー!?」

「すみません、何だか嬉しくて」

「嬉しい? うちの話にキミが嬉しなる要素でもあったというのきゃー?」

 

 不思議そうな表情を見せるナカミズさんに、僕は正直に答えた。

 

「はい。レオナお姉ちゃんのことを理解しようとしてくれる人が傍に居てくれて、それが凄く嬉しかったんです」

「…………」

 

 その言葉にどう反応したら良いのか迷っているらしい彼女に、僕は言葉を続けた。

 

「レオナお姉ちゃんって昔からずっと自分で考えて行動してきて、自分のことは全部自分で片付けちゃうような人だったんです」

「……うん、それ分かるわぁ」

 

 頷く彼女だが、それでも話を続けても良いということだろうと判断して僕は続けた。

 

「だから周りの人たちが心配しても『大丈夫』としか言ってくれなくて、そんな姿を見る度に僕は不安になっていたんです」

 

 そこまで話してから、僕は大きく息を吐いた。

 

「そんなレオナお姉ちゃんにも仲間が出来たんだって分かったら、本当に嬉しくて」

 

 当時を思い出していると自然に笑顔が浮かんでしまうもので、気が付けば僕の頬は緩んでしまっていたようだ。

 

「……んもう! 姉弟そろって似た者同士め! そんなに嬉しそうな顔をされたら、うちまで嬉しなって何も言えんくなってまうではにゃーか!」

 

 突然感極まったような声をあげたかと思うと、いきなり抱きついてくるナカミズさんの行動に驚きつつも何とか受け止めることに成功すると、彼女は僕を抱きかかえたままその場で回り始めたではないか。

 

 それなりに成長したと思う自分の身体を、女性にいとも容易く持ち上げてしまったことに驚きと、若干の凹みを感じながらもされるがままになっていると彼女は唐突に口を開いた。

 

「うちも今日から名前で呼ばせてもらうがね、リエト君!」

 

 そう言ってニコニコしている姿は無邪気なもので、どこか可愛らしい印象を抱かせてしまうものだ。

 彼女のテンションについていけず、呆然としたまま見返しているとふと気が付いたことがあった。

 

「わ、私はそんなに険しい顔をしているのだろうか……?」

 

 この状況下で自分の日頃の表情が気になったらしく、一人小さく呟くレオナお姉ちゃんの姿を見つけて僕は思った。

 

「(レオナお姉ちゃんって、少し抜けているような、ズレているような)」

 

 今なおナカミズさんにグルグルと回されているせいなのか、頭が上手く働いていないようで、そんな考えが頭の中に浮かんだのだった。

 

 ◇◇◇◇

 レオナお姉ちゃんが届けてくれた突然のプレゼントに、ホームのみんなは大いに喜んだものだ。

 普段はお下がりの衣類ばかりなため、こういった物を見る機会が少なかったという理由もあるのだろう。

 

「にいにー! どう? どう?」

「リエトにいさん、どうですか?」

 

 はしゃぎながら新しい洋服を見せてくれる金髪と黒髪の女の子。

 その姿に微笑ましく思いつつ、僕は素直な感想を伝えることにした。

 

「二人ともよく似合っているよ」

「えへへ、ありがとう!」

 

 嬉しそうに笑う二人の頭を撫でると、満足したのかお互いに顔を合わせて微笑みあっていた。

 その様子に癒されていると、後ろからツンツンと突かれた感触がした。

 僕の頭に顎を乗せた状態のナカミズさんが、何かを伝えようとしているようだったので黙って耳を傾けてみることにする。

 

「ほら、レオナがリエト君に気づいて欲しいことがあるみてゃーだわ」

「そうなんですか?」

 

 そう尋ねると、ナカミズさんは器用に頷きつつ視線をレオナお姉ちゃんに向けた。

 視線を追ってみると、そこには一点を見つめたお姉ちゃんの姿があったのだ。

 そこから更に視線を追いかけてみると……僕へのプレゼントが入った袋があったのである。

 

 それを認識した瞬間、思わず顔が熱くなってしまうのが分かった。

 思わず照れてしまっていると、ナカミズさんが小声で呟いた。

 

「早う開けて欲しゅうてウズウズしとるみてゃーだよ?」

 

 そう言われて初めて気が付いたのだが、確かに先程からレオナお姉ちゃんはこちらをチラチラと伺っているように思える。

 その視線からは期待のようなものが感じ取れる気がしてならないほどだ。

 

「じゃあ、開けるね」

 

 一言断りを入れてから袋を開けると、中から出てきたのは整備員の人が着ている作業服であった。

 早速着替えてみたものの、まだ少し大きい感じがした。

 けれど成長期を迎えている身体にとっては丁度良いサイズであることも分かる。

 

「どうかな? 似合ってるかな?」

 

 そう言いながら視線を向けた先には、両腕を組みながら何度も頷いているレオナお姉ちゃんと、ニヤニヤしながらこちらを見つめているナカミズさん。

 

「どえりゃー良う似合っとるがね、なぁレオナ?」

「あぁ、良く似合っているぞ、リエト」

 

 そう言って優しい眼差しを向けてくれるものだから嬉しくなってしまう。

 

「ありがとう、レオナお姉ちゃん。あの子の整備をする時に着させて貰うね」

 

 そう言って笑うと、お姉ちゃんは満足気に頷いた。

 それからしばらくの間、レオナお姉ちゃんの土産話に花を咲かせる僕たちであった。

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