もしかしたら僕は…主人公になってしまったのかもしれない。昨夜のユーハバッハらしき人物との会合の時、自然と口から出てきた言葉はまるで『信じていた友人が実は裏で秘密結社を設立し、僕の知らないところで活動している陰の実力者かもしれないと悲しんだ主人公ムーブ』だった気がする。
このままではまずい、これではモブAどころか考えたくはないが少し…ほんの少しだけ『陰の実力者ムーブ』ですら遅れをとってしまった気がする。そしてちょっとだけ、かっこいいとも思ってしまった
盗賊の派生みたいな人に負けるはずがないと思っていたアルファ達が倒れていたことで少し頭に血が昇っていたのが原因かもしれない
あの時はそう、ちょっと悪い予感がしてアルファ達がいると思わしき所に駆けつけたのだったか
しかしよく考えてみるとなぜあのハッシュヴァルト*1は自分の能力について説明したのか、そして僕は…どうして自分の能力も自分自身についても説明しなかったのか
あの時は既に奥義を使用した後だったから改めて説明せずに終わったが、万全の状態なら『陰の実力者ムーブ』は僕に軍配が上がるだろう…待っていろ、多分ユーハバッハっぽい人!友人のユーハバッハとの関係性は分からないけど!…今度それとなくアルファにでも聞いてみよう
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アレクシア王女殿下がシャドウガーデンより救出された後、数日の休講の末、初の登校となった
ディアボロスの腕を奪いに行った時は証拠として残りそうなモノはなかったはずだが、学園に行った瞬間不法侵入者として罰せられる可能性もある。
しかしあの時は姉妹が同じ聖文字の能力に目覚めたロイド・ロイド姉妹の妹の方が私の見た目と能力、魔力痕跡までもを模倣してアリバイ作りのため家にいたはずなので問題ないだろう
「今日から皆の剣術指南役に抜擢されたレイ・クロスフローリーだ。前任のゼノン・グリフィが一身上の都合により学園を離れることとなったその代わりとして任された。私が今日から教える剣術も私の家が独自に開発し、私が形にしたもので歴史としても真新しいモノだが、よろしく頼む」
まさか剣術指南役に兄さんが抜擢されるとは思ってもみなかった。確かに実力と言った点なら、剣だけだが私が毎度の如くコテンパンにされているので割とこの人が王国最強のアイリス王女殿下といい勝負どころか普通に勝てるんじゃないかと思っているほどである。というかこの兄さん、聖別が使える私目線でも魔力量もとてつもないが、魔力の身体強化なしでも瞬歩みたいなこと出来るからな、能力チートが私なら身体能力チートは多分兄さんだろう。…更木剣八かよ
しかしこの人の教え方はかなり上手い。転生するまで全くと言っていいほど剣術について触れてこなかった私が剣だけの実力でも学園内で上から数えた方が早いほどに成長させたくらいである。アイリス王女殿下に一目置かれるだけはある
「私の家の剣術は少々特殊なもので、基本的に利き手とは逆の手に銃を持つ遠近両立のスタイルを軸とする実践的なものであるが、既存の剣術とは一線を画すモノであるので、申告者のみクロスフローリー式を教えることとする。それ以外のものは既存の王国式の指南を受けてもらうことになるが…とりあえず見せた方が早いだろう」
そういうと兄は腰のベルトにつけられたホルスターから拳銃を取り出した。そう拳銃である
この世界の主な銃といえばマスケット銃であったが、兄が基礎設計を行い、クロスフローリー家が家の威信をかけて作り出したハンドガンサイズの銃となっている。しかしマガジンなどの複雑なものはなく、ライフル弾のような大きさの弾を装填する一発打ち切りリロードの『トンプソン/センター・コンテンダー』そのもののような銃となっている
この世界において魔力で強化された肉体にダメージを与えるには同じく魔力で強化された剣で斬るなどの方法を用いるが、この銃であれば余程の魔力で強化した肉体でもない限り、ノーダメージはありえない作りとなっている上に、銃と弾そのものと火薬の爆発力すら微弱ながら魔力による強化が施せるので更なるダメージも期待できることとなる…これはアイリス王女殿下も一目置くよ
そして的となる木で作られた人形に向かい、兄は見事なまでの剣術と銃術を融合させたクロスフローリー式のいわゆる『ガン=カタ』を見せる。見せるというよりこの場では魅せると言った方が正しいな、
当然というべきか、兄さんの技術を見て既存の王国式を受けたいと思った者はおらず、腕の怪我で見学だけのアレクシア王女殿下なんて食い入るように見ていたからね
確か姉のアイリス王女殿下との差がコンプレックスだったはずだが、この剣術なら基礎的で下地がしっかりしているアレクシア王女殿下向きとも言える。単純に攻撃手段に銃という項目が追加されるのだからこの興奮具合もわかるというもの。しかし両手を使う剣術故に今すぐできない事に悔しそうにしているな、「くっ!」って声を漏らしてるし
一緒に指南を受けているカゲノーくんもニヤリと不敵な笑みを浮かべているが…はて、彼ってあんなバトルジャンキーみたいな顔してたかな
…そういえばカゲノーくんで思い出したが、カゲノーくんと王女殿下は別れたらしい、理由は聞いていないがこういうのはあまり詮索するのは良くないだろう、『親しい者にも礼儀あり』と言った風にいくら友人だからとなんでも聞くのは憚れる
◆◆◆
学園内のカフェにて、昼下がりのティーブレイクを楽しんでいると、対面にメガネをかけた金髪の縦巻きカールがかかった生徒が座ってきた
「
「学園で"様"付けは怪しまれるよ、ドールさん」
失言を指摘されて慌てて口を抑えたちょっとポンコ_抜けている彼女はドールさん、本来の名はドリスコール・ベルチという。彼女の持つ『
ちなみに他にも諜報関連の聖文字を持っている者はベレニケを始め、彼女の家の養子として迎え入れており、各々が学園での過干渉を控えながら日常に潜んでいる。…諜報関連とは言ったが、監視盗聴探索特化の聖文字に目覚めた者はストーカーの素質があるよな…聖文字の因子を与えた瞬間に能力に目覚めた才能には目を見張るものがあるけど限度というものがあるよ、アズギアロ・イーバーン
「ではユウくん、
ユウくん…一気にフランクになったな、いや学園ならこれくらいが普通か
しかし辻斬りか…アレクシア王女殿下を助けたシャドウガーデンとしては妙だな
ちなみに漆黒園とは見えざる帝国以外でシャドウガーデンを指す名称だ。学園とはいえ誰に聞かれているか分からないからね
「その顔はわかります。"妙"…ですよね?」
「そうだね、わざわざお姫様を救った白馬の騎士団が辻斬りみたいな真似は妙だからね、言うなれば高潔さというものが感じられないから誰かの作為的な思惑があるんじゃないかな?」
「最高位も同じ意見でした」
シャドウガーデンと一戦交えている私の右腕でもあり、
「定期連絡は以上ですが…ところで、今度のブシン祭の選抜大会には出場するのですか?」
「ハハハッ、冗談はよしてくれ、今更実戦形式の大会に参加したところで得るものはないよ」
◆◆◆
観客席からは応援とも怒号とも聞こえてくる多種多様な声が飛んでくる。スポーツ観戦をやったことない身ではあるが、前世でのスポーツ観戦もこれくらい観客席が白熱しているものなのだろう。是非とも私も観客席でこの熱気を味わってみたかった。出場選手でなければな…そう、私は今ブシン祭に出場している…
いや待てカゲノーくん、ヒョロくんとジャガくんに嵌められた腹いせに私にもブシン祭の選抜大会の参加登録するというのはどういう冗談だ。というか参加締め切り的にあらかじめ参加登録してたな?はぁ…アレクシア王女殿下にフラれた八つ当たりのつもりか?
何故私がこうまで注目を集めねばならないんだ…このユーハバッハは平穏に暮らしたいだけだというのに…
激しい喜びもいらない、その代わり深い絶望もない、植物のような生活、それこそが私の目標だった。…まぁ流石に冗談だ。見えざる帝国を造った時点でそんなことは無理だろうからね
しかし一回戦負けというのもなんというか癪だから、適当に三位辺りを狙っておくか
ただ問題は最初の対戦相手がカゲノーくんだと言うことだな。出来ればギリギリの戦いを演じたいが、どうやって手を抜こうか…
お疲れ様でした
ドリスコールさんの聖文字は全知全能により未来を改変した…まぁ実際、悪魔憑きの時の記憶を忘れたい思いがあるなら自分を含めた対象の記憶改ざんの能力に目覚めることは割とあり得ると思ったので、『聖文字"O"』の能力は変更しました
[『ジ・オーバーライド』対象に触れることで対象の記憶に自分の存在を上書きさせる。ただし自分の年齢よりも過去の記憶は改ざんできない上に生物しか能力を発動できない]
ぶっちゃけ月島さんの下位互換ですね、月島さんが凄すぎるだけなんや…なんであの人は人間なのに全知全能に対抗できるんだ?
弟のユーハバッハくんがやべー性能ならその兄もヤバい性能じゃないと説明ができないよな?ってことで、ユーハバッハくんの兄、レイ・クロスフローリーくんは魔力お化けだし、技術が鬼高いし、多分初代剣八くらい剣術がヤバいと思いますね…影ではアイリス王女と比較されてレイ王と呼ばれているとかいないとか
せいぜい一週間かそれに満たないくらいで、ユーハバッハガチオタク疑惑が浮上したしれっと名前だけ登場したアズギアロ・イーバーンちゃん。最近悪魔憑きから解放されたばかりなので幼女の姿なんだよなぁ