超昂大戦SS 届け、最後のバレンタインチョコ! ~魔女と女神と戦士の愛を込めて~   作:環 藍河

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第3章 大地の贈り物! 破邪の秘薬は戦士の心に

翌・13日、敵の攻撃は遂に一般人にその牙を剥く。

「市内各地で幻魔が市民を精神攻撃! 負傷者はいないものの、被害者が無気力化しています!」

「映像、出ます!」

 

  (寂しい…よお…。)

  〔みんな賑やかなのに…!

   どうして私だけ、浮いてるの…?〕

  〈寒いよ…一人ぼっちだよ…。〉

 

「…昨日のルビーやノノノちゃんと、同じ症状ね。」

「ああ…向こうは実験から、実戦投入に切り替えたってわけだ…!」

 

ビーッ、ビーッ、ビーッ…!

「市街地で戦闘中の超昂戦士2名、幻魔の精神攻撃を被弾! チームから撤退の報告!」

(なっ…!!)

(…やはり、狙ってきたか…!)

 

……

「…バカみたいよね、わたし…。」

「ホント、私も…、今まで何してたのかしら…っ!」

 

心に穴を空ける、幻魔の新たな精神攻撃。

昨日のルビーとノノノへの戦果に勢いづくコマンダーと幻魔。今日はさらにその魔の手を拡大し、じわりじわりとダイビートの戦士たちを囲い込む。

 

「フーマン様への愛なんて…報われるはずも無いのに…。

バカみたいに独りはしゃいで、これがわたしの愛だー、なんて身勝手に押し付け続けてさあ…。」

 

「つぼみは…花開くまでの僅かな瞬間、その儚さが、美しいの…。

…でもおっ、でもお〜〜〜っっ!!

私自身がどんどん老いさらばえていくのにいっ!

そんなBBAの私があっ、ロリータを愛でる資格なんてえええ〜〜〜っっ!!

…うっ、ううっ、うぐう〜っ!!

イーイーちゃん…クルルちゃんも…由雅ちゃんも…! 

街のJSのみんな、JYのみんな…!

尊すぎるのよお〜〜〜!! 

イエス・ロリータっ…、NOオオォっ・私いいいーーーっっ!!」

 

…事もあろうに、ルビーとノノノに次いで精神攻撃の毒牙に倒れたのは、ビートフーマン・ツクモと、元ジークフリート派の魔女・戦車のニコール。

ダイビートで最も激しく、愛のために戦う戦士たち…!

(注)この2人、愛のベクトルの大きさでは、他の超昂戦士の追随を許さない。ベクトルの方向が斜め上なだけである。

 

「つ…つくもちゃあ〜ん! 目を覚ましてよお! いつもの唯我独尊なつくもちゃんに、戻ってよお〜!!」

「ニコールっ! お前らしくないんだぞ!」

「あ…あり得ないのです! いつだってドン引きされても猪突猛進のニコールさんが…自己否定なんて…ですう!」

「う…ウチ以上の対人恐怖症です…!

ニコールさあ〜ん! 元に戻ってくださいよお〜っ!」

リンドウが、由雅がイーイーが、クルルが…。

萎れる2人を励ます声が、虚しくこだまする。

 

……

「これが実験・フェーズ2か…!

昨日のルビーとノノノは、周囲からの愛情を感じる絆を封じられたが…。」

「ええ…こちらは逆。ツクモちゃんもニコールちゃんも、周囲に注ぐ愛情を根こそぎ封じられたみたいね…。」

「むしろ、ニコールさんがあんなに泣きわめくバイタリティが残っている方が、奇跡に等しいくらい…。」

「でも、かえってニコールさんは、躁状態に移りかねません…。暴走したら何をするか危ないですし、感情の波が逆巻いて沈んだら、落差が大きすぎてやっぱり危険です…!」

司令室の2人に、さやかとセラフィールが医療的見地から分析を進言する。

 

「アカリとのののは…?」

トキサダの問いに、セラフィールが無言で首を横に振る。

「ユユエルさんが注ぐ献身も、良くて現状維持です…。私もそばにいる限りは、お二人の手を取り、背中をハグし、言葉だけじゃなくスキンシップで情愛を伝えていますが…。」

 

治療者として、仲間として、悔しさを吐露する。

 

「今のアカリさんとのののさんは、情愛を受け止める器の蓋を閉じられてしまっています。注いでも注いでも、どんどんこぼれるばかりなんです…!」

 

「市民の要治療者も同じ状況みたいね…。」

「精神科医が圧倒的に足りていない…危険よ。」

「打開策を持たないまま、明日を迎えることになるな…!」

明日は年に一度の、女性が想いを伝える祝日。

 

「さしずめ、バレンタインデー壊滅作戦ね。」

「今年はあの黄色いコマンダー達が、全力で斜め上に突っ走るくらいでは済まない、ってことか…

!」

「…切り札が届くのも、おそらく明日になる。それまでは現有戦力で抵抗するしかない。

総員通達。明日は長いバレンタインデーになる。スタッフは明日の激闘に備え、今夜は休養。英気を養ってくれ!」

 

……そして、一夜が明けた。

 

《はあーーっ、はっはっはっ、閂市の哀れな愚民どもよ、我々は既にダイビートの戦士を…それも、あのエスカルビーを含む4人を絶望に沈めたあっ!!

この下賤な日…女どもが浅薄な愛とやらを駄菓子に込めるこの2月14日を、貴様たちは絶望の一日として、永遠に語り継ぐがよいっ!!

さあ、俺の可愛いクレイド軍団っ! 街に虚無の福音をばら撒くのだあ!》

『クレッ!』〘クレクレッ!!〙

【クレエエエっ!!】

 

「トキサダ…!」

「市民には外出を控えるよう国防軍や行政から通達済だ。不安を和らげるよう、神州アマツの生配信も続けているが…根本的対策じゃない。

厳しいが…うちの戦士たちでクレイドのヘイトを引き付け、まずは時間を稼ぐ。」

「被害は最小限に…と言っても、市民への精神攻撃を防ごうとすれば、一定の損害は免れないわね…。」

「…今や、リーマの薬が、最後の希望…!」

 

……

ビーッ、ビーッ、ビーッ!

「商店街で交戦中の超昂戦士2名、精神攻撃を被弾!」

「くっ…!」

「今度は…誰?」

 

〈トキサダさん…ごめんなさい…!

どんなに尽くしても、捧げても…。

至らない私は…あなたの愛に釣り合う妻にはなれません…!〉

〔どんなに熱く盛り上がっても…祭りの後はむなしさばかり…!

来年まで待つなんて…耐えられないよお…!〕

 

(チマに、ツルコまで…!)

良妻賢母の献身も、常在戦場のお祭り魂さえも、この幻魔には抗えないのか…!!

 

《ふひゃひゃひゃひゃーーーっ!!

ほらほらあ、どうしたダイビートお! 無様だなあ?!

貴様らのふがいなさで、市民の不安と抑鬱も広がる一方だぞお?!》

 

「好き勝手、言いやがって…!」

「でも…いよいよ万策尽きつつあるわ…!」

 

このまま防戦一方では、いよいよ市民全部が幻魔の餌食。

いや…防戦どころか、既に撤退戦。

 

「…リーマ…まだなのか…!」

 

ビーッ、ビーッ、ビーッ!

「こちら航空管制! 基地ヘリポートに着陸要請です!

 機体識別コード・ノストロモ2! 着陸許可、出します!」

 

【トキサダお兄さんっ! 特効薬、お持ちしました!!】

「リーマっ! よくやった!!」

輸送機からの通信が告げたのは、ダイビート大逆転への礎を築く、魔女の凱旋だった。

 

……

 

「これが…特効薬…?」

「アカリさんっ、失礼しますっ!」

夜を徹して薬を調合し、運んだのだろう。リーマの顔には疲労の色が、目元にも頬にも濃くあらわれる。

それでもリーマは、憔悴しきったアカリの口を開け、黒檀色の薫り高い粒を一つ、優しく含ませる。

 

(うっ…ううっ!?)

ずっと光を失っていたアカリの瞳は、その瞬間かっと見開く。

ふくよかなアロマが、舌から鼻腔へ。

心地良い苦味が、五臓六腑へ。

リーマの薬は、薬師の全身全霊の願いごと、アカリの全身に回り、五感の全てを、そして心を包む。

「ぐうっ…、あああーーー~~っ!!!」

 

「アカリさん…!」

(どうなの…?)(頼む…効いてくれ…!)

 

(はあっ…、はあっ…)

衰弱した心身で、薬の強すぎる効き目に必死に耐えるアカリ。

見守るトキサダが、ユーノが、さやかもセラフィールもユユエルも。

そして誰より、リーマが、固唾を呑んでアカリを見守る。

(お願い…甦らせて、アカリさんの強い心、優しい思い…!)

 

  つう…っ…。

 

  「…熱い…!」

 

幻魔に凍らされてしまった心に、リーマの薬が情熱を灯す。

ハートを激しく揺さぶられ、瞳から溢れた至高の愛が、アカリの頬を伝った。

 

「感じるよ…この一粒を作るために…汗を流した人たちの、熱い心…!

私が忘れていた…護りたい人たちの声だ…。

リーマちゃん…届いたよ…私にも…!」

「アカリさあんっ!! よかったっ、よかったですううっ!!」

 

小さく静かなアカリの声は、しかしこれまでの厭世や虚無を引きちぎり、燃える闘志と力強さを含んだ、超昂戦士のそれに復活していた。

 

「この薬は…?」

トキサダが嗅いだ薬の香りは、広大な沃土と太陽の灼熱、雄々しい大樹の枝葉が織りなす、芳醇な命の結晶。

「…チョコレート…!」

「はいっ! アフリカの…私たちジークフリート派が解放した国で獲れた、世界最高のカカオで作った、世界一のチョコレートですっ!」

 

そう、リーマはまる一日がかりでアフリカに飛び、このチョコの原材料を入手。再び一日かけて日本に帰る機内で、このチョコレートを作ったのだった。

 

  「なっ…何じゃあああああっ!!!」

 

  びくうっ!!!

 

「我はこんなチョコ、食べたことが無いのじゃあああっ!!

 旨いっ、美味いっ、うまいいいいいいーーーーーっ!!!!!」

「の…のののちゃんっ!?」

その場の皆が驚くほどの、のののの回復と大声。

 

「皆さんっ! 他に倒れた人にも、このチョコ…食べさせてください!」

リーマの指示に突き動かされ、メディカルスタッフが勢いづく。

 

「トキサダさんっ…。

私…ふつつか者ですけど…。それでもやっぱり…あなたの側に、いたいんです…!

このチョコを育てた人たちみたいに、水を引き、日照りに耐えて雑草を抜いて、実りを一緒に喜ぶ…それだけで私、幸せですから…!」

 

「祭りの後の寂しさは、人生のスパイスなんだ…! 思い出したよ! お祭りは人生! 悲しみも寂しさも、次の喜びを倍にしてくれるんだね!

私…もう、迷わないよっ!」

 

チマが。ツルコが。いつもの情熱を取り戻す。

 

「バカよ私はっ…!

報われない愛? おうおうおうっ、上等だああああーーーーっ!

元からあたしは究極エゴイスト! いつだってフーマンさまへの愛は押し売り上等、返品不可!

これまでもこれからも、突き返される以上に自爆テロ吶喊なんだからあああああっ!!!」

 

「リ…リーマちゅわんがっ、わたしのっ、わたしだけのっ、た、め、にっ…!

地球の裏まで赴いてっ、このチョコっ、届けてくれたなんてええええっっっ!!!!

こ…これはもうっ、リーマちゃんのアモーレ…!

いやっ、無償の至上の究極の、アルティメットのアブソリュートのっ、

神の愛にも比肩するアガペーよおおおっ!!

でゅ…でゅふっ、でゅふっ、でゅふふひゃーーーーーっ!!!!

イエスロリータっ、イエス私っ!!

銀河に生まれて良かったあああーーーーーっっ!!!」

 

…この2人は、しばらく前のままでも良かった気もするが。

 

「リーマ…よくやった。効果覿面だな!」

「でも…精神攻撃がチョコで治るなんて…?!」

労をねぎらうトキサダと、医者として科学者として衝撃を受けるさやかに、喜色満面のリーマが応える。

「だってっ! もともとチョコレートはお薬なんです!」

 

チョコレートは、かつてのヨーロッパでは強壮剤。貴族は賓客をチョコでもてなし、元気の源として珍重した歴史がある。かのマリー・アントワネット御用達の薬師は、薬を包んだチョコプラリネを処方したというほどだ。

 

「このチョコに使われたカカオの実は、国の人々のシンボルとして永く崇められ、そしてニコールさんやニル様たち…魔女が護り抜いた樹から採れた、魔力と真心の結晶なんです! 幻魔の呪いなんか、吹き飛ばしちゃいます!」

 

そして日本では…チョコは思い人への真心を託す逸品。

洋の東西を結ぶ思い人への祈りが、超昂戦士の止まった時計の針を、再び進めたのであった。

 

「でも…リーマさん。」

セラフィールが冷静に現状をただす。

「今…市民の皆さんがどんどん…何千人単位で幻魔の手にかかり、隣人との絆を失っています…。」

「あっ…!」

こうしている今にもモニター越しに届く、市民の悲嘆。あちこちでダイビートの防衛線を破り、幻魔が侵食し、バレンタインデーに込めた希望をむさぼり食らっていた。

「とても、今日中に皆さんの呪いを解いて、普通のバレンタインデーを取り戻せるとは…?」

 

「リーマちゃん、このお薬、1粒頂戴な。」

「えっ…?」

 

ぱくっ。とろりっ。…ごくん。

 

「…うん、最高の神力、ご馳走様。

これなら街のみんなに分けても、十分効くわね。」

ユーノは独りごち、別室との通信を開く。

 

《あ…アマツ様っ!?…もとい、ユーノさん!》

「ベガ? 生配信のゲスト割り込みって可能?」

《ゲスト…ですか? …まさか…っ?!》

 

「やっぱり…アドリブは無茶かしら?」

 

微笑むユーノの強い意志を感じたベガは。

《何をおっしゃいます! こんな事もあろうかと、うちの神州アマツが…カナデがどんな努力を重ねてきたか、存分にご覧いただきますよっ!》

いつもの力強さで応える。

 

《2000%、大丈夫ですっ!》

 




筆者です。第3話、大ボリューム(当社比)でお届けしました。
週末に完結編(第5話)まで持って行けるよう、鋭意努力する所存です。
次話は先月のイベント初出場の2名が大活躍!? 乞うご期待。
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