超昂大戦SS 届け、最後のバレンタインチョコ! ~魔女と女神と戦士の愛を込めて~ 作:環 藍河
翌・13日、敵の攻撃は遂に一般人にその牙を剥く。
「市内各地で幻魔が市民を精神攻撃! 負傷者はいないものの、被害者が無気力化しています!」
「映像、出ます!」
(寂しい…よお…。)
〔みんな賑やかなのに…!
どうして私だけ、浮いてるの…?〕
〈寒いよ…一人ぼっちだよ…。〉
「…昨日のルビーやノノノちゃんと、同じ症状ね。」
「ああ…向こうは実験から、実戦投入に切り替えたってわけだ…!」
ビーッ、ビーッ、ビーッ…!
「市街地で戦闘中の超昂戦士2名、幻魔の精神攻撃を被弾! チームから撤退の報告!」
(なっ…!!)
(…やはり、狙ってきたか…!)
…
……
「…バカみたいよね、わたし…。」
「ホント、私も…、今まで何してたのかしら…っ!」
心に穴を空ける、幻魔の新たな精神攻撃。
昨日のルビーとノノノへの戦果に勢いづくコマンダーと幻魔。今日はさらにその魔の手を拡大し、じわりじわりとダイビートの戦士たちを囲い込む。
「フーマン様への愛なんて…報われるはずも無いのに…。
バカみたいに独りはしゃいで、これがわたしの愛だー、なんて身勝手に押し付け続けてさあ…。」
「つぼみは…花開くまでの僅かな瞬間、その儚さが、美しいの…。
…でもおっ、でもお〜〜〜っっ!!
私自身がどんどん老いさらばえていくのにいっ!
そんなBBAの私があっ、ロリータを愛でる資格なんてえええ〜〜〜っっ!!
…うっ、ううっ、うぐう〜っ!!
イーイーちゃん…クルルちゃんも…由雅ちゃんも…!
街のJSのみんな、JYのみんな…!
尊すぎるのよお〜〜〜!!
イエス・ロリータっ…、NOオオォっ・私いいいーーーっっ!!」
…事もあろうに、ルビーとノノノに次いで精神攻撃の毒牙に倒れたのは、ビートフーマン・ツクモと、元ジークフリート派の魔女・戦車のニコール。
ダイビートで最も激しく、愛のために戦う戦士たち…!
(注)この2人、愛のベクトルの大きさでは、他の超昂戦士の追随を許さない。ベクトルの方向が斜め上なだけである。
「つ…つくもちゃあ〜ん! 目を覚ましてよお! いつもの唯我独尊なつくもちゃんに、戻ってよお〜!!」
「ニコールっ! お前らしくないんだぞ!」
「あ…あり得ないのです! いつだってドン引きされても猪突猛進のニコールさんが…自己否定なんて…ですう!」
「う…ウチ以上の対人恐怖症です…!
ニコールさあ〜ん! 元に戻ってくださいよお〜っ!」
リンドウが、由雅がイーイーが、クルルが…。
萎れる2人を励ます声が、虚しくこだまする。
…
……
「これが実験・フェーズ2か…!
昨日のルビーとノノノは、周囲からの愛情を感じる絆を封じられたが…。」
「ええ…こちらは逆。ツクモちゃんもニコールちゃんも、周囲に注ぐ愛情を根こそぎ封じられたみたいね…。」
「むしろ、ニコールさんがあんなに泣きわめくバイタリティが残っている方が、奇跡に等しいくらい…。」
「でも、かえってニコールさんは、躁状態に移りかねません…。暴走したら何をするか危ないですし、感情の波が逆巻いて沈んだら、落差が大きすぎてやっぱり危険です…!」
司令室の2人に、さやかとセラフィールが医療的見地から分析を進言する。
「アカリとのののは…?」
トキサダの問いに、セラフィールが無言で首を横に振る。
「ユユエルさんが注ぐ献身も、良くて現状維持です…。私もそばにいる限りは、お二人の手を取り、背中をハグし、言葉だけじゃなくスキンシップで情愛を伝えていますが…。」
治療者として、仲間として、悔しさを吐露する。
「今のアカリさんとのののさんは、情愛を受け止める器の蓋を閉じられてしまっています。注いでも注いでも、どんどんこぼれるばかりなんです…!」
「市民の要治療者も同じ状況みたいね…。」
「精神科医が圧倒的に足りていない…危険よ。」
「打開策を持たないまま、明日を迎えることになるな…!」
明日は年に一度の、女性が想いを伝える祝日。
「さしずめ、バレンタインデー壊滅作戦ね。」
「今年はあの黄色いコマンダー達が、全力で斜め上に突っ走るくらいでは済まない、ってことか…
!」
「…切り札が届くのも、おそらく明日になる。それまでは現有戦力で抵抗するしかない。
総員通達。明日は長いバレンタインデーになる。スタッフは明日の激闘に備え、今夜は休養。英気を養ってくれ!」
…
……そして、一夜が明けた。
《はあーーっ、はっはっはっ、閂市の哀れな愚民どもよ、我々は既にダイビートの戦士を…それも、あのエスカルビーを含む4人を絶望に沈めたあっ!!
この下賤な日…女どもが浅薄な愛とやらを駄菓子に込めるこの2月14日を、貴様たちは絶望の一日として、永遠に語り継ぐがよいっ!!
さあ、俺の可愛いクレイド軍団っ! 街に虚無の福音をばら撒くのだあ!》
『クレッ!』〘クレクレッ!!〙
【クレエエエっ!!】
「トキサダ…!」
「市民には外出を控えるよう国防軍や行政から通達済だ。不安を和らげるよう、神州アマツの生配信も続けているが…根本的対策じゃない。
厳しいが…うちの戦士たちでクレイドのヘイトを引き付け、まずは時間を稼ぐ。」
「被害は最小限に…と言っても、市民への精神攻撃を防ごうとすれば、一定の損害は免れないわね…。」
「…今や、リーマの薬が、最後の希望…!」
…
……
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「商店街で交戦中の超昂戦士2名、精神攻撃を被弾!」
「くっ…!」
「今度は…誰?」
〈トキサダさん…ごめんなさい…!
どんなに尽くしても、捧げても…。
至らない私は…あなたの愛に釣り合う妻にはなれません…!〉
〔どんなに熱く盛り上がっても…祭りの後はむなしさばかり…!
来年まで待つなんて…耐えられないよお…!〕
(チマに、ツルコまで…!)
良妻賢母の献身も、常在戦場のお祭り魂さえも、この幻魔には抗えないのか…!!
《ふひゃひゃひゃひゃーーーっ!!
ほらほらあ、どうしたダイビートお! 無様だなあ?!
貴様らのふがいなさで、市民の不安と抑鬱も広がる一方だぞお?!》
「好き勝手、言いやがって…!」
「でも…いよいよ万策尽きつつあるわ…!」
このまま防戦一方では、いよいよ市民全部が幻魔の餌食。
いや…防戦どころか、既に撤退戦。
「…リーマ…まだなのか…!」
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「こちら航空管制! 基地ヘリポートに着陸要請です!
機体識別コード・ノストロモ2! 着陸許可、出します!」
【トキサダお兄さんっ! 特効薬、お持ちしました!!】
「リーマっ! よくやった!!」
輸送機からの通信が告げたのは、ダイビート大逆転への礎を築く、魔女の凱旋だった。
…
……
「これが…特効薬…?」
「アカリさんっ、失礼しますっ!」
夜を徹して薬を調合し、運んだのだろう。リーマの顔には疲労の色が、目元にも頬にも濃くあらわれる。
それでもリーマは、憔悴しきったアカリの口を開け、黒檀色の薫り高い粒を一つ、優しく含ませる。
(うっ…ううっ!?)
ずっと光を失っていたアカリの瞳は、その瞬間かっと見開く。
ふくよかなアロマが、舌から鼻腔へ。
心地良い苦味が、五臓六腑へ。
リーマの薬は、薬師の全身全霊の願いごと、アカリの全身に回り、五感の全てを、そして心を包む。
「ぐうっ…、あああーーー~~っ!!!」
「アカリさん…!」
(どうなの…?)(頼む…効いてくれ…!)
(はあっ…、はあっ…)
衰弱した心身で、薬の強すぎる効き目に必死に耐えるアカリ。
見守るトキサダが、ユーノが、さやかもセラフィールもユユエルも。
そして誰より、リーマが、固唾を呑んでアカリを見守る。
(お願い…甦らせて、アカリさんの強い心、優しい思い…!)
つう…っ…。
「…熱い…!」
幻魔に凍らされてしまった心に、リーマの薬が情熱を灯す。
ハートを激しく揺さぶられ、瞳から溢れた至高の愛が、アカリの頬を伝った。
「感じるよ…この一粒を作るために…汗を流した人たちの、熱い心…!
私が忘れていた…護りたい人たちの声だ…。
リーマちゃん…届いたよ…私にも…!」
「アカリさあんっ!! よかったっ、よかったですううっ!!」
小さく静かなアカリの声は、しかしこれまでの厭世や虚無を引きちぎり、燃える闘志と力強さを含んだ、超昂戦士のそれに復活していた。
「この薬は…?」
トキサダが嗅いだ薬の香りは、広大な沃土と太陽の灼熱、雄々しい大樹の枝葉が織りなす、芳醇な命の結晶。
「…チョコレート…!」
「はいっ! アフリカの…私たちジークフリート派が解放した国で獲れた、世界最高のカカオで作った、世界一のチョコレートですっ!」
そう、リーマはまる一日がかりでアフリカに飛び、このチョコの原材料を入手。再び一日かけて日本に帰る機内で、このチョコレートを作ったのだった。
「なっ…何じゃあああああっ!!!」
びくうっ!!!
「我はこんなチョコ、食べたことが無いのじゃあああっ!!
旨いっ、美味いっ、うまいいいいいいーーーーーっ!!!!!」
「の…のののちゃんっ!?」
その場の皆が驚くほどの、のののの回復と大声。
「皆さんっ! 他に倒れた人にも、このチョコ…食べさせてください!」
リーマの指示に突き動かされ、メディカルスタッフが勢いづく。
「トキサダさんっ…。
私…ふつつか者ですけど…。それでもやっぱり…あなたの側に、いたいんです…!
このチョコを育てた人たちみたいに、水を引き、日照りに耐えて雑草を抜いて、実りを一緒に喜ぶ…それだけで私、幸せですから…!」
「祭りの後の寂しさは、人生のスパイスなんだ…! 思い出したよ! お祭りは人生! 悲しみも寂しさも、次の喜びを倍にしてくれるんだね!
私…もう、迷わないよっ!」
チマが。ツルコが。いつもの情熱を取り戻す。
「バカよ私はっ…!
報われない愛? おうおうおうっ、上等だああああーーーーっ!
元からあたしは究極エゴイスト! いつだってフーマンさまへの愛は押し売り上等、返品不可!
これまでもこれからも、突き返される以上に自爆テロ吶喊なんだからあああああっ!!!」
「リ…リーマちゅわんがっ、わたしのっ、わたしだけのっ、た、め、にっ…!
地球の裏まで赴いてっ、このチョコっ、届けてくれたなんてええええっっっ!!!!
こ…これはもうっ、リーマちゃんのアモーレ…!
いやっ、無償の至上の究極の、アルティメットのアブソリュートのっ、
神の愛にも比肩するアガペーよおおおっ!!
でゅ…でゅふっ、でゅふっ、でゅふふひゃーーーーーっ!!!!
イエスロリータっ、イエス私っ!!
銀河に生まれて良かったあああーーーーーっっ!!!」
…この2人は、しばらく前のままでも良かった気もするが。
「リーマ…よくやった。効果覿面だな!」
「でも…精神攻撃がチョコで治るなんて…?!」
労をねぎらうトキサダと、医者として科学者として衝撃を受けるさやかに、喜色満面のリーマが応える。
「だってっ! もともとチョコレートはお薬なんです!」
チョコレートは、かつてのヨーロッパでは強壮剤。貴族は賓客をチョコでもてなし、元気の源として珍重した歴史がある。かのマリー・アントワネット御用達の薬師は、薬を包んだチョコプラリネを処方したというほどだ。
「このチョコに使われたカカオの実は、国の人々のシンボルとして永く崇められ、そしてニコールさんやニル様たち…魔女が護り抜いた樹から採れた、魔力と真心の結晶なんです! 幻魔の呪いなんか、吹き飛ばしちゃいます!」
そして日本では…チョコは思い人への真心を託す逸品。
洋の東西を結ぶ思い人への祈りが、超昂戦士の止まった時計の針を、再び進めたのであった。
「でも…リーマさん。」
セラフィールが冷静に現状をただす。
「今…市民の皆さんがどんどん…何千人単位で幻魔の手にかかり、隣人との絆を失っています…。」
「あっ…!」
こうしている今にもモニター越しに届く、市民の悲嘆。あちこちでダイビートの防衛線を破り、幻魔が侵食し、バレンタインデーに込めた希望をむさぼり食らっていた。
「とても、今日中に皆さんの呪いを解いて、普通のバレンタインデーを取り戻せるとは…?」
「リーマちゃん、このお薬、1粒頂戴な。」
「えっ…?」
ぱくっ。とろりっ。…ごくん。
「…うん、最高の神力、ご馳走様。
これなら街のみんなに分けても、十分効くわね。」
ユーノは独りごち、別室との通信を開く。
《あ…アマツ様っ!?…もとい、ユーノさん!》
「ベガ? 生配信のゲスト割り込みって可能?」
《ゲスト…ですか? …まさか…っ?!》
「やっぱり…アドリブは無茶かしら?」
微笑むユーノの強い意志を感じたベガは。
《何をおっしゃいます! こんな事もあろうかと、うちの神州アマツが…カナデがどんな努力を重ねてきたか、存分にご覧いただきますよっ!》
いつもの力強さで応える。
《2000%、大丈夫ですっ!》
筆者です。第3話、大ボリューム(当社比)でお届けしました。
週末に完結編(第5話)まで持って行けるよう、鋭意努力する所存です。
次話は先月のイベント初出場の2名が大活躍!? 乞うご期待。