超昂大戦SS 届け、最後のバレンタインチョコ! ~魔女と女神と戦士の愛を込めて~ 作:環 藍河
【神系Vストリーマー・神州アマツのバレンタイン突発生降臨!】
(ただいま休憩中…再開まであと29:58)
配信技術担当のスタッフたちも、慣れた手順で休憩のインサート映像を挟む。
《ベガ? どうしたの、30分も休憩なんて…?
いま配信を止めたら、市民の不安が増幅しちゃうのに…》
今やアマツと一心同体、すっかり配信者が板についた、虹村カナデ。平日昼にも関わらず、突発配信を敢行するのは…バレンタインデーを狙い澄ました敵の精神襲撃に耐え、市民の不安を和らげるための窮余の一策だった。
だが、ミキサー室からの突発指示に、配信ブースのカナデは戸惑う。
「その不安をイッキに希望に変える、サプライズゲストの参上なんです!」
《ゲ…ゲストって…?!》
「カナデちゃん…いや、アマツちゃん。いつも私を素敵に演じてくれて、本当にありがとう。」
《ユ…ユーノさんっ!? ゲストって、貴女ですかっ!?》
カナデはもちろん、自身が演じるVストリーマー・神州アマツのモチーフが、ダイビート副官・ユーノを仮の姿として世を忍ぶ、創造神・アマツであることを知っている。
もっと言うならば、神騎ヴィアールとして目覚める直前、カナデは神力に当てられて暴走し、自分がオリジナルに取って代わらんと、ユーノを…アマツを亡き者にせんと、牙を剥いた。
既にその咎はユーノ本人によって赦されてはいるものの、その悔恨の念まで消えたわけではない。
神騎を統べる恐れ多い存在、ユーノを。
未遂ながら、加害者である私のゲストに…?!
…カナデは当惑し、自信を失いかける。
《あわわ…っ! 私…わたし…、どう接すれば…?》
「それをこれからすり合わせるための30分ですよ!」
「カナデちゃん…貴女は神州アマツ…もう一人の私よ。胸を張って、いつも通り堂々と、同接のみんなをおもてなししてほしいな。
そして、今日の私も、いつもの私じゃないの。」
《えっ…?》
…
……
《あのっ、今日のユーノさんは…ユーノさんが今日のユーノさんだったら、ですが…。
どんな朝ご飯を、どうして食べてきたと思いますか?》
『ふふっ、そうね。パワーがぎゅっと湧き出るように、ソーセージを多めに添えた、目玉焼きかな。
塩こしょうを軽く振って、レモンをきゅっと絞ったサラダに、バタートーストと牛乳を付けたと思うな。』
《なるほど…さすが、愛を伝える女の子たちの応援団長ですね!》
配信ブースに入ったユーノに、カナデがイメージづくりの為の質問を、さまざまな角度から浴びせる。
そこには、先ほどまでユーノに向けていたへりくだりや気後れは無く、慕う姉をみんなに紹介する妹のように張り切る、神州アマツの姿があった。
…
……
「配信再開まで5秒前、…3、2、1、…!」
ベガの指がカウントゼロ代わりに振られ、それを合図にスイッチャーが休憩画面を切り替える。
《神系Vストリーマー・神州アマツのバレンタイン生降臨、なんとココから、第2部スタートですっ!》
すっかりタイトルコールも様になってきた。
《突然の休憩でしたが、皆さん戻ってきましたか? …たくさんの同接、本当にありがとうございます。今日は大変なバレンタインデーになっちゃいましたが、信者の皆さんが私を信じる気持ちと…、そして皆さんの温かい感情が波紋を広げて、きっとこの夕方が、夜が、輝く素敵な時間となりますように。》
台本なしのアドリブながら、カナデはさまざまな状況に対応できるよう、四六時中自分を神州アマツとして磨いてきた。
そしていま、その真骨頂が、遺憾なく発揮されていた。
《それでは、ここからの第2部。皆さんに紹介したい、素敵なお姉さんをサプライズゲストにお招きしているんですよ…!》
ざわっ…!
《…って、誰ですか?
ミズキさん[彼氏じゃないのお?]
KAZさん[ワンチャン百合もアリ]
かなっちさん[バレンタインに百合神降臨]
…もおっ! 3人は神罰決定ですねっ。震えて待つこと。》
コメント読みも今や、同接者との信頼関係が築かれてこそ成せる域に達していた。
《百聞は一見にしかず、神の子たちよ、刮目するのです…それでは、ゲスト神・降臨!》
『こんにちは、はじめまして。神州アマツのもう一つの姿、西方の大陸で女神と崇められて幾星霜。
愛と結婚を司る女神・ユノと申します。こちらの私も、どうぞお見知りおきを。』
基地にある服でのコーディネートは限られるが、そこは愛の女神様。
淡めのピンクをベースに、清楚さと包容力、そして今日の主役となる女性を勇気づける天女としての使命感を引き立てるよう、爽やかなシャツをベースにカーディガンを組み合わせてきた。差し色のカーマインレッドのショールが、さながら羽衣のように女神ユノに神々しさを纏わせる。
[また女神キタ]
[洋風アマツ様尊い]
[アマツママのお姉様…神騎の伯母さま?]
もともと神州アマツの顔立ちは、ユーノをモチーフにキリカが描き起こしたもの。
生き写しのようなユーノの…女神ユノの登場に、同接者が息を呑む。
《神の子たちよ、ご存じですか? 世界を渡れば神話も変わり、そして神の名も変わることを。》
ギリシャ神話、ローマ神話、北欧神話、日本神話…各地のさまざまな神話には、さまざまな神が登場する。
豊穣の女神、美の女神、勝利の女神、運命の女神…。
そして、愛と絆の女神。
ある地域では最高神の妻ヘラ、またある地域では天照大神…日本神話初のカップル、イザナギとイザナミの娘で、アマツのもう一つの姿。
そしてまた、ある地域では…ユノ。
《ユノお姉さまは、いわば私の同位存在。
そして今日は…2月14日は、お姉様のバースデーなんです!》
[ハピバ][おめ][何千歳?]
『うふふっ、誕生日に歳を尋ねる不埒者は、神罰確定ですよ?』
《女の子たちの決戦の日…バレンタインデーは、もともとユノお姉様の誕生と家庭の幸せを祝う、ローマ時代のお祭り・ルペルカリア祭から始まったんです。》
『そうなんです。だから…この国で、素敵な出会いを叶えようと頑張る女の子たちを応援するため、今日の私はバースデーパワーを爆発させちゃいます!』
[女神さま乙]
[ぼっちにもお慈悲を]
[男も祝ってー]
…
……
「…お兄ちゃん…私、起きたよ。」
(…えっ?)
閂市のとあるアパート。大学が午後休講で、帰宅が臨時配信第2部に間に合った兄。
そこに起きて来た妹は、昨日から幻魔の精神攻撃に当てられ、塞いでいたはずだった。
「ま…マジ? 心療内科もさじを投げたのに…?!」
《ユウさん[妹が元気でた! ユノさまのパワー?]
Rayさん[母ちゃんが起きた! いや嘘松違う]
アニーさん[昨日からの鬱が止まりました! ユノさまのおかげです]
みなさんメッセージありがとうございます! 信じなくても救われる、救われましたら信じてオッケー!》
アマツのチャット読みがにわかに忙しくなる。
そう、ユーノがV配信を通じて、街に、市中に、全国に。
リーマのチョコから得た破邪の神力をばらまき、幻魔の精神攻撃を打ち破っていく。
『神の子たちよ、ユノからのお願いです。皆さんの周りや職場に学校…この佳き日に暗く沈む人がいましたら、この配信のことを教えてください。URLを拡散して向こうに見てもらうだけじゃなく、皆さんが観ているスマホを元気の無い人のそばに置くだけでも、効き目があるかもしれませんよ。』
《この配信で元気が出たー、という皆さんの姿が、いちばんのバレンタインプレゼントになるんです。ユノお姉様とこのアマツが、ここから神の力をノンストップでお届けします。》
…オフィスの休憩室や学校の保健室に留まらず。
電車で、駅で、ショッピングモールで。
市役所で、警察署で、工場で。
ビルで、イベントホールで、アリーナで。
そして遂には、病棟で。
ユノの…アマツの神気が電脳網を越えて届き、幻魔の呪いを打ち破っていく。
先ほどまで沈鬱に陰っていたモノトーンの街が、人々が。
愛する気持ちと生きる喜びを、みるみるうちに取り戻していった。
…
……
《な…何があったんだあああっ!!》
バレンタインに幻魔をけしかけ、市民と超昂戦士の心を鬱屈に閉じ込めてやろうと企てたコマンダー。
あと一歩で満願成就、アルダーク復活の狼煙とばかりに喜色満面だったはずなのに…。
一転、今や狼狽するばかり。
《こっちの精神攻撃が効かないばかりか…倒したはずの…アイツらまでえええっっ!!》
「わははははーーっ! 日本の神は寛大なのじゃー! 異教の神でも仏でも、信者が美味〜いチョコを供えるなら、蛇神も大歓迎じゃあっ!」
「女の子たちの大事な日に、穢れた呪いを振りまくなんて! ダイビートは…私たちはっ、絶対に許しません!」
[クレっ…]【クレっ! クレっっ!!】
「甘味の初穂は三倍返しっ! 今日はマシマシ、大盤振舞じゃーーーっ!」
両手の護符が命を宿し、
「みんなの怒りをこの身に込めて!」
瞳の翠光が右脚のパルシオンと共鳴し、蹴撃をブーストさせる。
「清め札、十倍乱れ咲きーーーっ!!」
「ストライクうううっ! エスカレーショーーーーンっっ!!」
〔クレええええっっっ!!!〕
ドガアアアアーーーーンッ!!!
ユノとアマツの神力は、今や閂市全部をヴェールのごとく包み、祝福のシャワーを浴びせていた。
幸福感に誰もが突き動かされ、もはや呪いなど蹴散らさんばかり。
そして、復活したエスカ・ルビーの連撃は、まるで空き瓶の山を真っ赤なマシンガンで撃ち尽くすかのごとく。
神職のくせに洋菓子で狂喜乱舞するノノノの御札も狂い咲き。
次々に爆散するクレイド軍団の映像を目の当たりにし、コマンダーは自らの命運の尽きを自覚した。
…だが、追い詰められた鼠こそ、何とやら。
《くそったれえええっ!!! どうせ死ぬなら、お前らもろともおおっ!!!》
悪あがきの叫びとともにコマンダーが剥がしたのは、古い壺に貼られた陰陽道の呪符。
ごごごごごごごご……っ。
「光源氏サマもいいけどお〜。
令和のVイケメンにもぉ〜、
ごあいさつよおぉ〜っ! キャハっ。」
市街のど真ん中、ビルを呑み込むサイズでおどろおどろしく顕現した、顔だけ日本髪の少女にして、首から下は骸骨の人外…!
「だ…っ…!」
《【「『大往嬢おーーーーっっ!?』」】》
「あ…アズエル、時…時季外れとは…一概に言えないよな…?」
「ええ…むしろ、何で今までこの日を狙わなかったのか…不思議なくらい…?」
「それより…こいつが出てきたということは…!」
レイドバトルはこれまでも、夜を徹して敵襲を退け、明け方未明にようやく鎮まる持久戦。
つまり、ダイビートはこの聖夜に、50名×3交代制の総力戦が確定。
「総員通達! 市街地から大往嬢を追い払うぞ! せめて市民のバレンタインは護り抜くんだ!」
《【「『ええええええーーーーーっっ!!?』」】》
トキサダの指令は、至極もっとも。
敵がそう仕掛けてきているのだから、憎むべきはコマンダー。
それでも。
《【『「こんなバレンタインデー、イヤあああーーーーーっっ!!!」』】》
超昂戦士全員が、絶望した。
筆者です。不規則アップロードですみません。
次話、いよいよクライマックスです。