超昂大戦SS 届け、最後のバレンタインチョコ! ~魔女と女神と戦士の愛を込めて~   作:環 藍河

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第5章 時よ戻れ! 最後のチョコは地平線を越えて

人類の絆を奪う幻魔・クレイド軍団。

その精神攻撃でバレンタインデーを陰鬱の沼に沈めようとするコマンダーの陰謀は、豊穣の魔女リーマが地球の裏から持ち帰った秘薬と、神州アマツのVストリーム配信でその神力を拡散したユーノによって、すんでのところで阻止された。

だが、捨て鉢になったコマンダーが、バレンタインデーの夜に繰り出した大往嬢。

急遽始まったレイドバトルは、徹夜確定の大迷惑イベントだった。

 

「はひゃーーっ、ひゃっひゃっひゃーーーっ!!」

やけくそのコマンダーが自嘲気味に叫ぶ。

「ダイビートおっ! せめて貴様らのバレンタインデーだけでも、台無しにしてくれるわあっ!」

 

 《【「『ふざけんなあああーーーーっっ!!』」】》

 

仕事明けにチョコを渡そうと準備していた一般職員も。

あわよくばチョコにかこつけてトキサダを誘い、そのままDチャージを目論んでいた戦士たちも。

それぞれの素敵な瞬間を奪われ…全員が心で泣いた…のだが。

 

『長官より総員通達! 渡すギフトがある一般職員および戦士は、シフト交替のタイミングで必ず贈呈を完了せよ。

繰り返す。チョコは必ず日付の変わる前に渡すこと!』

 

 (…えっ…?)

 《【「『えええーーーーっっ!?』」】》

 

もっとも、トキサダの粋な計らい…ではなく。

 

「コマンダーの企みを完膚無きまでに潰す。

そのためには【敵襲にも挫けず、全てのギフトが渡された】という事実が必要なのです。」

 

…という、アズエルの進言による通達だった。

 

ともあれ、この通達により、

 

「た…タクミくんっ、コレ…!(ぽっ…。)」

「マナちゃんっ!?」

「アッくん…」「カナさあんっ!!」

交代シフトの間隙を突き、一般職員は意中の相手にチョコレートを渡して行った。

なお、職員は戦闘任務中でアドレナリン全開の男女ばかり。いわゆる吊り橋効果で、今年のバレンタインはカップル成立確率が高かったようだ。

 

そして。

「失礼します! 頭領っ、あのっあのっ…チルカのチョコ、お口よごしですが…、お召し上がりくださいっ!」

「プロデューサー! い…いつも私たちのこと…お忙しい中、ありがとうございます!」

「雄しべ様、隠し味たっぷりの私の特製チョコ、是非ご堪能くださいませ…。」

戦士たちは代わる代わる司令室を訪れ、義理以上のチョコを手渡し。

戦闘指揮の合間に受取対応に追われたトキサダには休む間が無くなったが…休む以上の元気が回復したので、文句など出なかった。

 

「食べたらどんな症状が出たか、余すところなく教えてくれ給え、ご同輩。」

「タカマル様に喜んでもらえるよう…今年はブートジョロキア味です。お召し上がりくださいね。」

「こちら、猫屋敷の秘術を余す事なく込めた、その名も『やべーチョコ』よん。食べたらもちろん精力MAX、フェロモン出まくりで惚れ薬効果も兼備、忘れられない夜を確約するわよん。」

 

…文句は出なかったが、生命の危機に瀕した。

 

……

「はあ〜、ワンちゃんにチョコレートは禁忌なんですね…残念です…。」

「あっ、メイファールさん! 休まないとダメですよ?」

「…ルビーさんは…そのチョコ、渡しに行ったのではなかったのですか?」

「えっ? …あ、司令室が渋滞してたから…。

次の出撃に遅れたら大変だし、12時までにもう一回チャンスがあるから、出直そうと思って。」

「そうですか…? じゃあ、我らC班の第2回出撃は、ルビーさんのためにもキッチリ定刻で引き揚げられるよう、頑張ることにしましょう!」

「メイファールさん…」

 

ルビーの所属するC班は、メイファールやミカフィールら天界神騎、あるいはアキレスや魔想姉妹にリズナやサテラ、はたまたブロクミエルや由雅やマリアやケンシン…図らずも、チョコを渡そうにも渡せないメンバーや、恋に目覚める前の少女たちばかりの構成。

逆に、前のB班でチョコ渡しの大渋滞を起こしてしまったため、ルビーは一巡待つ選択をした。

 

…だが、このためらいが、悲劇の第一歩となろうとは…!

 

……

「くうっ…しぶといっ!」

「まだ夜は長いのです! C班第2次出撃はここまで、撤退します!」

あと数十分で日付が変わるが、ここで一旦退き、戦力を立て直して第3出撃に備える。

そして今度こそ、ルビーがチョコを渡す…!

 

《まだだああっ! まだ終わらぬっ!!》

だが…さらに往生際が悪いコマンダーが引っ剥がしたのは、古ぼけた石人形に貼られた封印。

 

  ずぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…っ。

 

【ああああんっ? あんだコラっ!

幸せボケたツラ振りまいてっ、どいつもこいつもおおっ!

当てつけてんのかコラっ! 

殴るぞタコ、コラっ! 

吹っ飛べリア充、コラああああっっ!!】

 

山奥から響く、神話のお祭りには不釣り合いな破戒僧の巨人像と、頭からはみ出る罵声まみれの小さな地蔵は…

 

 《【「だ…堕威大仏いいいっ!?」】》

 

まさか、2体同時対戦とは…!

 

《C班! 今出撃したA班を堕威大仏に回す!

大往嬢に当てるB班の出撃体勢が整うまで30分、C班はそのまま耐え凌いでくれ!》

「なっ…!?」

「了解しました! C班、戦線を維持します!」

「ルビーさんっ!!」

 

シンデレラの魔法も解ける、午前零時の瞬間。

アカリとリーマの最高のチョコレートは、未だアカリの部屋にぽつんと置かれていた。

 

……

「はあ〜、Vイケメンって、チョコよりスパチャの投げ銭がお好きなのねぇ〜…がっかりぃ。」

「覚えてろコラあっ! また来年だコラあっ! 

ぼっちの怨念、たっぷり溜め込んで殴りに来てやんよコラあっ! 来てやんよコラあっ!!」

 

  ずももももももも……っ…。

 

大往嬢と堕威大仏を押し戻した頃には…。

翌朝どころか、太陽が真上に昇っていた。

 

「…っ! アカリさん…そのチョコレートっ!」

「ごめんね、リーマちゃん…。

せっかく作り方を教わったのに…、助けてくれたのに…!」

「…! いえ、私はいいんです!

でも…アカリさんの思いが…!」

 

2月15日、間もなく正午。

聖なる祝日はとっくに過ぎ去っていた。

 

「…大丈夫だよ。」

悲しげに、しかし健気に微笑むアカリ。

「チョコの味と、込めた心は変わらないから。じゃあ、これから長官に渡しに行ってくるね…。」

 

 「愚かなっ!!」

 「うわあああああっ!?」

 

「アカリさん! このまま1日遅れのチョコを渡すことは、そのまま貴女があのコマンダーに屈したことになるんですよっ!!」

「ア…アズエルさんっ!? 

だって…もうどうしようも無くて…!」

 

「クククッ…アカリさん、そんなお困りのあなたに、ファイナルチャンスがございますぜ?」

「ラ…ライカちゃんっ?! どういうこと?!」

 

 過ぎてしまったバレンタインデーを。

 それこそ、時を遡ってやり直す…?!

 

「ま…まさかっ、時渡りの鐘っ!?」

 

それは昨年夏、闇堕ちしたサイカが濫用し、悲劇の忠臣・閃忍リコリスを生み出した因縁の秘具にして、現在は想破の里の奥深く、上弦衆により幾重にも封印を施され眠る、諸刃の剣。

 

「だ…ダメだよライカちゃんっ!! 

たかが私のバレンタインチョコに、そんな危険な命がけの術を使うなんてっ!!」

「いいえ! これは幻魔の野望を根源から断つための決断! 危険を冒す価値があります!」

アズエルが前向き…そこまで意義があるのか…!

 

「…何を言ってるんですか? そーんな物騒なアイテム、使いませんよ。

大体、ホントに時渡りの鐘を使うなら、この場にサイカ様を連れてきてますってば。」

「…ほへっ?」

「もっと言うなら、このファイナルチャンス、アカリさんにはノーリスクです。命の危険も、タイムスリップのリスクもありませんし、金銭負担は戦費なのでダイビートもち。

…以上を踏まえて、アカリさんっ、イエスかハイかでお答えください。

ファイナルチャンス、乗りますか? 乗りますよね? 乗ってくださいっ!!!」

 

「は…ハイっ…!」

 

くるっ。

「というわけでクラリスさん、経費計上、よろしいですね?」

「ああ…ただでさえ予定外のレイドバトルで、カツカツなのにぃ…!!」

「ハイっ決定! それでは参りましょうっ!」

 

  きいいい………んっ!

 

一昨日は秘薬を求めてリーマが飛び乗り、夕陽を目指した無人機・ノストロモ2。

そしていま再び、戦士たちと…トキサダを乗せて飛び立つ。

その方角は…ほぼ真逆の、南東。

 

……

約8時間のフライトを経て、時刻は夜7時半過ぎ。

 

 《フェリニちゃんの【勝手に】ダイビート【公式チャンネル】

 突発緊急配信は…なんとっ!

 初の海外ロケ案件、いただいちゃいましたーーーーっっ!!!》

 

空港でハイテンションで叫ぶ、いつものタイトルコール。

フェリニが映すのは、徹夜のレイドバトル+長時間フライトでくたびれ果て、つい先ほどまでノストロモ2の機内で泥のように眠っていた、寝起きのアカリ&トキサダ。

※さすがに身だしなみは整えています

 

なお、すべての首謀者ライカは画角から外れ、疲労に耐えつつほくそ笑む。

(クククッ…バレンタインにかこつけて、まんまと海外旅行ゲット…!

これが終わったら、時間外勤務の補償として、バカンスを満喫しちゃうのだ…!)

 

  ぴっ。(録音を開始します。)

(ライカは海外でも、ブレずに邪悪だな!)

(イノリいいいいっっ!! あんたは来る必要無かったでしょおおおおっっ!?)

※生配信中につき小声です

 

ライカは必ず、トキサダやアカリのためとか言って小賢しく現地経費を上乗せしてくる。

それよりも、帰りの交通費を払ってイノリを監視役に据えた方が安く収まる…という計算が働いたクラリスの、いわば保険であった。

 

《昨日のバレンタインデー、同接の皆さんはちゃ~んと告白できましたか?

ダイビートでは激戦の末、我らがエスカルビーも幻魔の呪いを打ち破り、一昼夜に及ぶ激闘に勝利することができたのですっ! ぶいっ!》

フェリニのトークもまた、神州アマツに負けず劣らずの、プロ配信者のそれだった。

 

《ところで…アカリさん、そちらにお持ちの包みは、もしや…?》

『はい、長官に渡そうと思っていた、チョコレートなんですけど…』

 

  ざわ…!

 [渡しそびれたんだ]

 [あの激闘だもの]

 [ルビー、泣くなっ!]

 

チャットがにわかに急速スクロールを始める。

 

《ところでアカリさん、今日は何日、いまは何時ですか?》

『えっ? 15日の、もう夜の7時52分で…?』

《ダメですよアカリさん? それはあなたのスマホ…表示されているのは、日本時間です。

改めて、この空港の時計を見て、現地時間で答えてください?》

 

  はっ…!

 

 『23時…52分…、日付は…!』

 

全てを理解したアカリの表情に、ぱあっと希望の朱が差す。

 

 『まだ…2月、14日ですっ!』

 

 ざわ…っ!

 [どゆこと?!]

 [ヒント:海外]

 [やり過ぎだろ]

 

  同接者からも次第に、ライカの仕掛けを悟る者が出始めた。

 

 【LIVE/アメリカ領サモア・パゴパゴ空港】

 

配信画面に差し込まれたテロップ。

《ここは日本から8000km、日本からの時差が20時間あるんですよ!

私たちが日本を出発したのは15日の正午前。

それでも、日付変更線を跨いで到着したこちらでは、ギリギリ14日なんです!》

 

 [知っててもやらねえ]

 [バカ降臨]

 [いいぞもっとやれ]

 

(コイツら…後で個人特定してぶっちめて、ネットで晒してデジタルタトゥー刻んじゃるっ…!)

 …後日〔普通やらない〕味方も呆れる謀略を巡らせて外法天りるかを手玉に取ることになる、鈴森ライカの知謀の片鱗が発揮された。

 

《ここ、アメリカ領サモアは、ニュージーランド東の島国・ニウエと並んで、有人島ではタイムゾーンが最も後ろの島。

従いましてこちらのチョコ…現地時間で午前0時直前に長官さんに手渡されるこのチョコは、この2023年、世界で最後のバレンタインチョコなのですっ!》

 

 わああああ…っ!

 [尊い]

 [ロマンチック?]

 [忘れられない逸品]

 

『あ…あのっ、長官? あくまでこのチョコは、エスカチームの4人から、ですからねっ!

わ…私だけ3人を出し抜いて、とかじゃ…ないですからっ!』

〈アカリ…? でも…。〉

 

《はいはーいっ、こんなこともあろうかと、アカリさんとどうしても話したい3人と、回線が繋がってます!》

『えっ…?』

 

(やっほー、アカリー! ダメよお、勝手に自分のチョコ、連名にしちゃうなんて!)

〔私たちは私たちで、それぞれに自分のチョコは若頭領に送達済みだぞ…!〕

{3倍返しが4等分になっちゃうでしょーがっ! 長官っ、ホワイトデーは4人分別々に準備しなさいよっ!}

 

 『み…みんなっ、そこは口裏合わせてよおおおおっっ!!』

 

想破の里からネットが繋がるのはまだわかるが。

NAUの欧州ヘッドオフィス(現地時刻15日午前10時55分)から繋いでくるエリーもご苦労様だが。

四道城から背景を隠しもせず繋いでくるのはどうなんだ、うらら。

 

『そ…それじゃあ、長官…。

ダイビート設立から3年目の、バレンタインデー…

こんなところまでお連れしてしまって、本当にすみませんでした…!』

 

〈…いただくよ。〉

『はい…っ。』

ぺりっ…ぱきっ、ぱくっ。

 

〈…うん、素朴で、でも懐かしい味で…!

元気になれる。

アカリ、ありがとう。ホワイトデー、期待していてくれ。〉

『長官…!』

 

基地で見守る超昂戦士たちとダイビートのスタッフたち、そして世界中の同接者が見届ける中、アカリのチョコレートは無事に聖なる祝日にトキサダに届いた。

 

 

蛇足だが。

「わざわざ封印解いてさあ~、イケメン収穫ゼロで帰そうなんて、イケズはしないわよねぇ~?」

【結局リア充のダシじゃねえかコラあ! てめえボコるぞコラあ! てめえに怨念注入だコラああっ!!】

「ぐっ…ぐぎゃああああーーーーーあっ!!!」

因果応報、呪いのレイドボス2体を使役しきれず、コマンダーは自らが地獄に墜ちた。

 

こうして、文字通り東奔西走、ダイビートは世界を跨ぐ奮闘でコマンダーの野望を叩き、今年もバレンタインデーを護りきった。

 

ただ。

「な…何っ、この閲覧数…?!」

「いやあ~、やっぱり【世界最後のバレンタインチョコ】ってフレーバーテキストが効き目抜群で、トレンドワードにも入ったみたいなんですよ! 収益もうはうは、クラリスさんがホクホクですっ!

アカリさんっ、ごちそうさまでしたっ!」

「い…いっ、イヤああああーーーーーっっっ!!!」

 

衆人環視でのバレンタインチョコ贈呈であることを忘れていたアカリは、日本に帰ってから初めて当日の凄まじい同時接続数を知り、羞恥に悶えるのであった。

 

【完】?

 

……

 

  2023年2月15日(水)09:12(現地時刻)

 アメリカ領サモア パゴパゴ空港 搭乗カウンター前

 

《ライカさん? 帰りはノストロモ2は使えませんよ?》

「…はい?」

《ちょうどサモアにNAUの輸送物資があったので、そっちに回します。》

「はあ…それじゃあ帰りは旅客機ですか。電子チケット送ってくださいね。」

《あ…それと、帰りはトキサダさんやアカリさんとは別便です。》

「…へっ?」

《経費節減です。お二人にはフルサービスキャリアを手配しましたが、ライカさん・イノリさん・フェリニさんはLCC乗継になります。時間はかかっても構いませんので、気をつけてお帰りくださいね。》

 

  ぽちっ。

 [会議室がホストの操作により閉鎖されました]

 

「ライカー? えるしーしーって何だ?」

「…安さ第一、帰れればオッケーって人のための…格安航空会社よ…!」

「の…ノおおおーーーンっ!! 何で…なんでっ、配信で貢献した私までええええーーーっっ!?」

 

次回作 超昂大戦SS「中継地不明!? サモア→閂市 深夜バスなみの旅」Coming soon…!?




以上をもちまして、プレ・バレンタイン超昂大戦SS「最後のバレンタイン」完結と相成ります。
改めまして、筆者の環藍河(たまき・あいか)より、御礼と挨拶申し上げます。

バレンタインの蘊蓄をたらたら織り交ぜてリーマやルビーやユーノに被せ、最後は日付変更線トリックでオチと致しました。
※古くはゴルゴ13でも使われ…ラブひなでもありましたね…って、こっちも20年前かっ。
ちなみに、サモアは日本と結ぶ直行便が無いので、民間機でサモアに向かっても現地で日付が変わるため、このトリックは無効です。消印有効の入試受験願書は、余裕を持って出しましょう。頑張れ受験生!(何モンだ環)

きちんと超昂大戦のバレンタインイベントを楽しみたい方は、3年目のイベント解禁となる水曜日は間もなくです! あとちょっとの辛抱ですね。
純愛・敗北問わずエロいのが読みたい方には、ご期待に添えず申し訳ないです。
(というより、イラスト・1枚絵・4コマ・もちろんSS…、形態不問、健全/成人向も不問! どなたか超昂大戦の二次創作、もっともっと書いて(描いて)ください~っ!! )

今回も、ジェネリックでプラトニックでエキセントリックな、環の「あったらいいなあ」SSにおつきあいいただき、ありがとうございました。
用法用量を正しく守って、おまけレベルでゆる~くお楽しみいただければ幸いです。

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