真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
──山の長い獣道を抜けると、ド田舎中のド田舎が街になっていた。
「……あれ?」
思わずそんな声が口から飛び出た。
見間違えたのかと何度か目を擦ってみるが変わらない。
呼吸を整え、精神状態をリセットしても*1目に映るものは同じ。
とりあえず一度瞼を閉じ、脳味噌をフル回転させて入山前の記憶を掘り起こしてみる。
この辺りは戦後の無計画な土地開発や震災の影響で地脈の流れが阻害され、半ば枯れかけてしまった霊地だ。
そのせいで人の流出が止まらず、今では高齢の夫婦が数組、こぢんまりと農家を営んで生活している程度だった。
バスは1日1本、最も近いスーパーは車で2時間とかそういうレベルで過疎ってる。
トレーニングがてら走ってここまで来たから記憶にはしっかりと刻まれていた。
しかし、実際には田んぼや畑だった場所がそれなりに高いビルが建ち並ぶオフィス街へ。
慣れてなければ転びそうだった砂利道は車が何台も行き交う舗装された道路に。
どこからどう見てもそれなりに活気のある地方都市だ。
「…………あっれぇ?」
修行で籠っていた異界が突如として崩壊し、気になって原因を調べようとしたらこの状況。
崩壊の影響で次元の挟間にでも放り出されて、どこか遠い別の土地にでも転移したのだろうか?
いわゆる神隠しというやつ。昔そういう話を実家で耳にしたことがある気もする。
「いやでも、遠目で見える看板の地名とかそのまんまだし……あれれぇ???」
あるいは、とても考えたくはない事なのだが。
「………………時間が飛んだ?」
異界は現実空間から切り離された場所であり、中と外では時間の流れがまるで違うパターンがある。
中で1時間しか経過していないのに外では丸1日経っていたという事も珍しくない。
そう考えればこの光景にも説明がつくのだが。
「待て待て、ステイステイ。
あんな吹けば飛ぶような木っ端な異界だぞ?
事前に調べた情報でもそんな報告なかったろ」
嫌な方向に傾きかける思考を自分で論破する。
例えこんな辺鄙な場所を再開発したとしても10年以上はかかるはず。
たかだか2週間籠っていた程度でそれだけの時差が出るなど、とてもじゃないが笑い話にもならないし出来ない。
そうだ、例え悪魔なんて化け物が日常の陰に存在する世界だとしても。
自分のようにそれを狩る異能の力を持った人間が居るのだとしても。
物事には大抵限度ってものがあるのだ。
何せさっきまで居たあの異界は精々スライム程度しか沸かない不人気スポット。
同業者は中堅どころか新人すら足を踏み入れないから、誰にも邪魔されずのんびり修行出来ると思って選んだくらいに旨味が無い。
紹介してくれた斡旋所──通称“魔労ワーク”*2──の受付嬢も、
“え? 本当にこんな所行くんですか何もないですよ、頭大丈夫? ”
って目で見てきたし。
だから間違いなくそんなふざけた現象が起きる場所じゃないのだ。
「ん、ん~~~…………どうしよマジで」
困った、本当に困った。判断材料が足りなさすぎる。
明らかに異常事態で、こうなると強大な力を持った悪魔か異能者の企みに巻き込まれている可能性も十分に考えられる。
ソロの
以前レベル60越えの化け物と戦う事になった時と同じように、ギリギリで生を掴むなんて真似はそう何度も出来る事じゃない。
だからしばらくその場であーでもないこーでもないと頭を掻きむしりながら考え込んで。
時々逆立ちして腕立て伏せとかランニングやって。
「────仕方ない、行くか」
大きく迂回して街を避ける事も考えたが、ルート的にどうやっても街に入らなければならない。
ならここでうだうだ悩んでいてもどうにもならない、進むしかない。
この業界、石橋を叩き壊して新しく作り直すくらいの慎重さは必要だ。
しかし虎穴にはいらずんば、という言葉もあるようにリスクを恐れるだけでは何も出来ない。
もちろん備えだけは十全に行うのが前提ではあるが。
「符はあんまり無ぇから節約して、服は……ボロいけど大丈夫」
今回は技を磨く事がメインの目的だったのであまり荷物は持って来ていない。
あるのは普段使いしてる黒染めの外套*3と頑丈なアナログ式腕時計*4。
薬や携帯食料などの道具類。
そして竹刀袋に入れて隠している愛剣だけだ。
本当は着替えも何着かあったが全部バラバラに破けて使い物にならないので、今着ているのが最後の一張羅だったりする。
「……人は普通にいるっぽいし、まずは街を見て回るか。
気ぃ張って注意してりゃ奇襲されても何とかなるし」
おっかなびっくり、しかし躊躇いなく歩き出す。
腹を括ったのなら迷わない。
そもそも、この先でどんな強敵が現れたとしても────。
「ぶった斬るだけだ」
畢竟、己に出来る事はそれくらいなのだから。
・
・
・
「いや、これは斬れねぇよ……」
数時間後、街の片隅にある小さな公園のベンチに座って項垂れていた。
なんか失業中のサラリーマンみたいになっていた。
母親に手を引かれた子供がこちらを指さして何かを言っているが聞きたくない。
子供を抱えてものすごい勢いで走り去るのが見えた。
ちょっと涙が出そうになる。出た。
たぶん、他人が自分を見たら暗黒オーラ垂れ流しているを幻視するのではなかろうか。
だがそれくらいは……許してとは言わないが多めに見て欲しい。何故なら、
「10年どころの話じゃないとかさぁ……」
自分の手には昨日街に入ってすぐ拾った新聞が握られている。
そこに書かれている日付は20XX年──記憶にある年代より20年以上先のものだ。
太陽にすかしたり穴が開くほど見つめても数字は変わらなかった。
タイムマシンを探して自販機の受け取り口に頭を突っ込んだら、警察に通報されて逃げ出す羽目にもなった。
「テレビもパソコンも薄い、ケータイは板になってる。
紙幣の類は旧札とか言われるし、元号は平成じゃなくて令和とかになってるのマジかよ陛下どうなったのよ?
挙句の果てには仮面ライダーが両手で数えられんくらい出てる…………夢であってくれ」
錯乱した脳が見せる幻覚にしてはリアリティがあり過ぎる。
技術面に関しても下手なSFよりまだ理解が出来る範疇での進歩。
何者かが作り上げた異界だとしてもここまでの規模で、これだけの設定を詰め込むなどまず無理だ。
「……連絡先は全滅、やけ食いしたせいで財布の中身も空っぽ。
どうしようもなく現実かよ」
修行中は連絡を絶つのがマイルールである。
携帯電話はセーフハウスに置いて来た。
だから公衆電話──まるで見つからなくて街中探し回った──で知っている番号に片っ端からかけて。
繋がらないか、まるで知らない他人が出るかのどちらかだった。
あまりのショックとついでに空腹だったので適当な店で食いまくった。
頻繁に連絡先を変えるのが常な仕事関係は仕方ないにしても。
実家の番号が使われていなかった時が一番堪えた。
「…………はぁ」
思わず空を見上げる。
曇り一つ無い良い天気なのにちっとも心は晴れない。
ここが未来だという事実を否定する材料がどんどん無くなっていく。
突然異国に放り込まれた時と同じ感覚、いやそれ以上に悪い。
所詮、角度の付いた鉄の棒を振り回す事と、ちょっとした仙術が使える程度の己ではどうしようもない。
「………………京都、行ってみるか」
ふと、口から零れたのは久しく戻っていない地元の名前。
高校卒業と同時に実家を飛び出し早3年。
学生時代に積んだ経験を生かして悪魔退治と剣の修業を続けて来て。
生存報告で偶に手紙くらいしか出していなかったあの場所が無性に恋しくなる。
「親父含めた親戚全員があそこから離れるなんてまずあり得ん。
何があったのかくらいは確認しねーと」
純粋に家族を心配してるのか、現実逃避の為の理由が欲しいのか。
自分でも最早分からないがとりあえず行動方針を決める。
金が無いから頭の中で現在地から京都までの距離を大雑把に出し、数日走れば着くかなと計算して。
「あ?」
匂いがした。
風に乗って運ばれてきた血の匂い。
嗅ぎ慣れた──―荒々しい殺意と狂気の残滓。
同時に、ガタガタと背負った竹刀袋が揺れる。
これがこんな反応をするという事は答えは1つ。
「悪魔か」
気が付けば、足がそちらに動いていた。
どんな時代であろうと、街中でこんな気配を漂わせる悪魔が居たのなら。
──斬らなきゃ駄目だろ。
・
・
・
「さい、あく……なんでこう、悪い方向に行くんだろ……?」
ゼイゼイ、と荒い呼吸を繰り返しながら悪態が零れ落ちる。
言葉の主は黒色のセーラ服にゴツめのメガネをかけた、それだけを切り抜けばどこにでもいそうな女子学生。
しかし注目すべきはその容姿だろう。
白銀を溶かしたような銀髪のショートヘアにモデル顔負けのプロポーション。
何処か幼さが残りながらも美しいと呼べる、少女と女の中間的な顔立ち。
もし人の集まる場所であれば間違いなく視線を釘付けにする、どこか神秘的な雰囲気。
陳腐な表現をすれば、絵から出てきたような美少女と言った所か。
(血は……大丈夫、このくらいなら平気。それよりもこっちだ)
──―もっとも、今は別の理由で目立つだろう。
黒色で目立ちにくいが制服の所々が赤く染まっており、一目で大怪我を追っているのが分かる。
無関係の第三者が居れば即座に救急車を呼ぶほどの重傷を負いながら、少女は震える手で顔に掛かったメガネへと触れる。
《──System Error──》
レンズ──―ARグラスに表示された文字列が最悪の事態を告げる。
それが意味するところは1つだ。
| サイコメトラー | 若槻美野里 | Lv28(デモニカ装着時Lv39) | 破魔・呪殺無効 |
「
少女──―
「そりゃそうだよね、ずっと素人整備で使ってたんだし。
けどこのタイミングだけは勘弁してよね……っ」
自分のレベルを10以上も底上げしていた生命線とでも言うべき装備。
“デモニカ”とも呼ばれる
そもそも
どさくさに紛れて借りパクしていただけの自分がここまで使えていたのが奇跡に近い。
(スーツと連動してたCOMPも止まった。
《スキルハック》*5で覚えてた《トラフーリ》が使えないのがヤバい)
通常弾しか入っていないマガジン1つと消耗し切った生身の体。
それが今の自分の手札でなんとも頼りない。
大一番の勝負でブタしか来なかった気分だろうか。
「ちっくしょー」
ほんの短いため息と共に、背中を近くの塀へと預ける。
視線を左右へと走らせるが人はおろか生き物の気配さえ皆無だ。
何せここは
「…………なんでこんな事になってんだろ?
あたし高校3年生よね、普通は受験とか就職とかそういう事で頭悩ませるもんだよね。
どうしてこんな命の切った張ったで神経すり減らさなきゃいけないワケ???」
愚痴と共に過去の記憶が蘇って来る。
天の絆学園──―“学園都市須摩留”における超能力開発の拠点へと、家から近いなんて理由で入学して。
優れた素質を見出され、奨学金含めた待遇の良さに釣られた結果、自警団である「特別課外活動部」へと入部して。
都市内に出現した悪魔や暴走する超能力者と数え切れないほど戦ってきた。
折れそうになった事は何度もある。
後悔して、逃げようとした事も何度だってある。
死を覚悟した回数は両手の指では数え切れないくらい。
急激なGPの上昇と共に学園都市が自衛隊によって封鎖された時も。
降臨した黙示録の四騎士が無慈悲に市民の命を刈り取って回った時も。
そして突如として拡大し始めたシュバルツバースが須摩留を飲み込もうとした時も。
それでも──―仲間と力を合わせて何とか潜り抜けて来たのだ。
「こうなったら魔界にでも逃げようぜーってテレポートしたら見知らぬ田舎に1人で出た上、
あんな訳分からん奴にいきなり狙われるなんて……ひょっとしてあたし、運なさ過ぎ?」
だが、その自嘲を聞かせる仲間はこの場所におらず。
今まさに、その命運は尽き果てようとしていた。
| 鋭い勘 | 自動効果 | 何かに気付く判定にプラス補正して判定できる |
「ッ──―!」
背筋に走る強烈な悪寒。
脳で思考するより早く、本能が回避行動を取る。
直後、大気を震わす轟音と共に。
数秒前まで美野里が居た場所へと巨大な鉄塊が叩き付けられていた。
「ぁああああああっ!!」
余波だけで無様に転がりながらも、懐にしまっていた愛銃を抜き取り襲撃者へと向ける。
それが無駄な足掻きなのは百も承知だ。
『────闘え、闘え闘え闘え!!』
やがて、巻き上げられた砂埃から人型のシルエットが浮かび上がる。
そこに居たのは身の丈ほどある漆黒の大剣を持った
声を出す器官など存在しないはずなのに。
本来口があるであろう場所から狂気と執念に濡れた声が響く。
『勝者が生きる、勝者こそ生き残る!
積み上げた殺戮の数こそ勝者の証である!!』
美野里は何も知らないし分からない。
目の前の怪物が、先日発生した“受胎”と呼ばれる蠱毒儀式で生まれた魔丞なる存在である事も。
望まぬ殺し合いの中発狂し、どうしようもなく歪み切った
『闘え、技を磨け!
闘え、敵を喰らい糧としろ!!
闘え、全てを戮し尽くすまで!!』
分かるのは自分を閉じ込められている異界の主である事。
皆で死に物狂いになって撃退した四騎士たちよりも遥かに格上の相手である事。
そして────。
──― ANALYZE COMPLETE ──―
| 魔丞 | ケートゥ | Lv73 | 物理反射、火炎・氷結・電撃・破魔・呪殺・BS無効 |
『それこそが“カバネ”のコトワリである!!!!』
理不尽なまでに穴が無い事を。
「ざっけんな……っ」
デモニカを装着していた時でさえロクに攻撃は通らなかった。
例え使えたとしても属性弾も使い切った今、どう足掻いても勝ち目はない。
「ざっけんなぁ!!」
それでも吠える、抗う。
こんな所で死んでたまるかと気炎を吐く。
絶望に屈しそうな心を奮い立たせ活路を模索し続ける。
修羅場を切り抜けたと思ったら更なる修羅場で、世界が自分を殺したがってるのかと思うくらいに理不尽であろうとも────
「自分からゼロになんてしてやらない……っ!!」
諦めて膝を折った者に勝利の女神は微笑まないのだから。
『その意気や善し!
ならば我が剣によって散るが良い!!』
しかし諦めなかったとしても生き残れるかはまた別の話。
現実は少女の決意を容易く踏みにじる。
| 暗夜剣*6 | 剣相性 | 前列の敵1体にダメージ。確率でPALYZE状態。 |
「あ──―」
先程よりも迅い──―美野里の眼では追えない──―踏み込みから放たれる必殺の一撃。
防ぐことも躱す事も、耐える事さえ不可能だ。
よってここに、若槻美野里の末路は決定付けられた。
「そりゃ駄目だろ」
──― 《カバー》*7 ──―
──― 《受け》*8──―
──― 《禁金符》*9 ──―
甲高い金属音が鳴る。
刃と刃が激しく衝突──―そして拮抗する音。
「……え?」
いつの間にか、美野里の前に一人の男が割り込んでいた
中肉中背でありながら、服の上からでも分かる鍛えられた肉体。
髪の色と同じ黒い外套を身に纏った、二〇歳前後の青年だ。
男は手にした刀──―魔丞の大剣と比べれば恐ろしく細い──―で絶死の剣を完全に防ぎ切り、
「ぅらあっ!」
──― 《引き》*10 ──―
──― 《霊活符》*11 ──―
| 忽の剣*12 | 剣相性 | 一呼吸の千分の一の時間で切り下す疾風の剣。回避・防御にペナルティ。 |
あまつさえ剣を弾き飛ばし、反撃さえしてみせる。
暴虐の化身のような魔丞ケートゥのそれとはまるで正逆。
荒々しさの欠片もない、無音で放たれる疾風の如き太刀筋。
薄い光に包まれた白刃が、あらゆる物理攻撃を反射するはずの身を捉えた。
『────―!』
一瞬の攻防、予想外の反撃に魔丞と美野里の意識に刹那にも満たない空白が生まれる。
「ハイ失礼」
それを狙っていたのか。
男は美野里を片手で抱えて──―更に言うと胸を鷲掴みにして──―後方へ大きく跳躍。*13
まるで空を舞うように、軽やかに距離を取る。
「──―ってあんた、どさくさに紛れて何処触ってんの!?」
「掴むのに丁度良かった……正直役得です。
後でもっと揉ませてくんない?」
飛んできたセクハラに対し、生き延びれたら必ずグーパンする事を美野里は誓った。
貞操観念は強い方なのだ、緊急事態とはいえこの返答は許せない。
──―それはそれとして。
「まぁ、助けてくれてくれたのはありがとう。
……で、これからどうすんの?
ここで転移アイテム*14使っても異界から逃げられるか正直微妙よ」
助けられた感謝を口にしながら、何故か微動だにしない敵を視界に入れつつ尋ねる。
傷一つ負わなかった筈なのに行動しない事は疑問だが、今は好都合だ。
まだ窮地を脱した訳ではない。
だが救援が来た事によりほんの僅かだが希望は見えた。
くらましの玉や煙幕弾*15など使って逃げ回れば──―。
(一瞬だけならCOMPの再起動いけるかも。
異界の端に辿り着けば《トラフーリ》で無理矢理脱出の可能性だって……)
「悪りぃけどそっち系の道具は全く持ってない。
マジのマジで偶然通りかかっただけだからな。
ついでに言うと防ぐのはもう無理」
しかし返って来たのはそんな希望を打ち砕くふざけた返事だった。
役目を果たし粉々になった符を放り捨てながら男はさらに続ける。
「やっぱ符術の類は苦手でよ。
これ一枚作るのに2週間掛かるんだぜ。
しかも防げて一発程度、不意打ち防ぐお守りにしかならん」
霊活符の方はまだ保つんだけどなー、とか。
つかあいつ硬過ぎ、防御もしてねーのに通らんとか、などと。
暢気に宣う男に対し沸き上がって来るのは失望や絶望などではなく怒りと呆れだった。
「馬鹿なのアンタ、それともヒーロー気取り?
逃げる手段も無しに助けに来るなんて!!
あいつがどんだけやばい化け物なのか分からないの!!?」
「そこまで鈍感じゃねーよ。これでも目にはそこそこ自信があるし*16」
「──―それじゃあ自殺志願者ね。あんた程度のレベルでどうにかなる相手とでも?」
──― ANALYZE COMPLETE ──―
| 剣士 | 八瀬宗吾 | Lv33 | 破魔・呪殺無効、全体的にやや強い |
最初に見た時から薄っすらと感じていた事が確証に変わった。
男と魔丞ケートゥとのレベル差は40。
戦い方や工夫でどうにかなる域ではない。
差が10を超える相手との戦いが偉業の一つである事を考えれば、無謀を通り越して愚行である。
身も蓋もなく言えば要救助者がもう一人増えただけ。
先程のような斬り合いが成立したのは奇跡のようなもので二度も続かない。
助けに来た白馬の王子様が返り討ちにあうなど、女児が見たら批判殺到間違いなしだ。
「いやぁ、そこを突かれると痛いわな。
正直暴れてる悪魔が居るから憂さ晴らし兼ねて斬るかー、ってくらいのノリで来たんだけど。
まさかあんなのが出るとは想定外だろ、うん。
ツエーのは分かってたが、昔殺し合った魔人よかレベル高いとか信じられん」
「そこは同意だけど……なおさらでしょ。
本当に何でこんなとこに入って来たのよ」
この異界は美野里のみをターゲットにしたものだ。
なのにこの男が此処に居るということは、巻き込まれたのでなく後から侵入したという訳で。
レベル30を超えた猛者でなくとも、中に強大な悪魔が居る事は肌で感じ取れるはず。
「わざわざ死にに来るような真似なんかして……馬鹿通り越して大馬鹿よ」
本来なら準備万端でも避けたい相手。
常識的に考えれば躊躇わずに回れ右をするだろう。
MAG太りしただけのハリボテでないのは間違いないのに何故そんな事を?
「だって、誰かが必死に戦ってる気配がしたからな。
そういう奴見捨てるのも後味悪いだろ?
あと────」
刀を担ぐようにして構えを取りながら。
口元に不敵な笑みを浮かべて男──―八瀬宗吾は疑問の答えを口にする。
「──―斬れそうな感じがしたから」
『──―斬れるだと?』
その言葉に対し、真っ先に反応したのは日野里ではなく沈黙を保っていたケートゥだった。
| 禍時:蛮攻 | マガツヒスキル | ターン中、味方全体にスキルの消費MPが2倍になる代わりに攻撃ダメージも2倍になる効果を付与する |
突如として吹きあがるのは、禍々しき赤色のオーラ。
同時に叩き付けられるのは、凄絶なまでの
全身を刻まれ、バラバラにされるイメージが鮮明に焼き付く。
覚醒していない者ならば、思い込みだけで斬殺されるであろう
「~~~~~~ッ!!」
意識が飛びそうになるのを美野里は唇をかみ切って堪える。
先ほど己の命を奪いかけた一撃は本気でも全力でもなかったのだ。
それを今更ながらに理解させられ、圧倒的プレッシャーで呼吸さえ難しくなる。
だがしかし。
『己を斬ると言ったか、数多の屍の山から生まれたこの己を!
斬れるというのか、幾つもの闘いの果て生き残ったこの己を!!
カバネの王を───闘い続け剣の極致に至ったこの己を!!!!』
「
彼の周囲だけが、まるで台風の目のように静寂へと包まれる。
「剣の極致? ふざけんバーカ。
そんなもん軽々しく口にすんじゃねぇ」
呼吸が戻り、大きく咳き込む美野里に一瞥もくれず言葉を紡ぐ。
「確信したぞ、
魔丞だかソープ嬢だかよく分からん種族だがよ」
彼は一切動じていない。鞘に納まった刀身の如く静謐を保っている。
レベル的には大して美野里と変わらないはずなのに、息1つ乱さず相対する。
「これが単なる大悪魔だったら、百に一つも勝ち目はねぇわな。
だけど──―」
そしてただ淡々と、自分が感じた事実を告げるのみ。
「剣の
また話は変わって来る……そう思わねぇか?」
『──―吼えたな
メキャリ、と鈍い音がする。
発生源はケートゥが持つ大剣、その柄の部分。
常軌を逸した握力によって砕けて食い込み、
『己を擬きと抜かすなら、超えてみせろ我が
出来なければ貴様も屍の一つと化すだけだ!!』
「上等だよ、まだ龍騎のラスト2話見てねーからな。
お前ぶっ殺したら最新作まで一気見してやる」
常人には──―少なくとも美野里には──―理解できない概念で話をする
レベル差や種族の差も無視して、殺し合いが成立すると当たり前のように納得している。
ここは実は違う世界で、自分は異世界転移してしまったのではないかと錯覚しそうになる。
(分かんない……全っ然分かんない。
この数時間で過去最高の混乱を更新し続けながら。
それでも美野里の超能力者としての勘が囁くのだ。
(
いやそれが当たり前なんだけど……っ!)
8:2、いや9:1で宗吾の不利。
理屈をすっ飛ばしてそんな答えが脳裏に閃く。
むしろ1割も勝率がある事自体出鱈目ではあるのだが。
ならどうするか?
自分も戦うのは論外だ。
この体では足手纏いにしかならないし、万全だとしても勝率が下がる気がする。
であればこのまま後ろで自身の運命を委ねる他ないか──―。
「──―冗談じゃない、守られるだけなんてクソ食らえよ……っ!」
そんな惰弱な思考は即座に蹴り飛ばした。
そもそもの話、出会って数分も経たない男に頼り切りなど癪に障るのだ。
現実を弁えた上で、敵に舐められっぱなしなのは性に合わないのもある。
──―だから。
「あたしの力、全部持って行け……っ!!」
| 昂ぶりの歌*17 | 補助魔法 | 味方全体の攻撃力・魔法威力アップ |
ボロボロの体に鞭打って
自分単体であれば一手無駄にする自殺行為な選択肢。
しかしこの状況であれば勝機を引き寄せる妙手に他ならない。
「ぜったい……勝ち、なさいよ……」
息も絶え絶えになって、しかし宗吾の背中に視線を向けたまま。
ばたりと、美野里はその場力尽きて倒れる。*18
限界寸前の状態でさらに力を振り絞ったのだ。当然の結果と言えるだろう。
「──―タイプだぜ、お前みたいな奴」
そんな彼女の最後の足掻きを。
見方によっては水を差す行為を、宗吾は苦笑と共に受け入れる。
元より正々堂々や尋常なんて言葉をそこまで気にする性質ではない。
むしろ、己に出来る事をやり切った彼女に敬意さえ覚える。
ケートゥもそこは同じであるのか、特に気にしたそぶりも見せない。
あるいは、どのような小細工を弄そうとも叩き潰すつもりなのか。
そして、機が熟したと言わんばかりに。
「では、いざ……」
『────―勝負!!』
再びの、最後となる激突が始まった。
『受けよ我が雲耀、屍を晒すがいい!!』
先手は当然ながら魔丞ケートゥ、首の無い闘争王。
音の壁を超え、衝撃を撒き散らしながら相対者へと迫る。
単純なステータスでは宗吾を遥かに上回る故、
──― 《万能プロレマ》*19──―
──― 《万能ギガプロレマ》*20 ──―
──― 《煌天の会心》 *21──―
──― 《切り落とし》 *22──―
受胎の勝者が持つ特権、
血を浴び続ける闘争によって獲得した
この2つが合わさり、あらゆる剣士が目指す奥義は防御回避反撃不可能の魔剣へと昇華する。
| 雲耀の剣*23 | 万能格闘 | 敵前列に万能相性ダメージ。確定クリティカル、防御・回避・反撃不可 |
名前は同じなれど、中身は最早別次元。
受胎の中で編み出し、全ての敵を屠った剣戟の極致と信じるもの。
先程のような術による防御は不可能で、万能無効・反射などという
食いしばる余地も無く、一瞬後に八瀬宗吾は命を散らすだろう。
「──────―」
ならばどうするか?
──― 《構え》*24 ──―
──― 《急所》*25 ──―
刃圏に入るや否や、音よりも早く動いていたはずのケートゥは後手に回っていた。
あるはずの無い視線が、驚愕の色で宗吾を射抜く。
最初の交差で呼吸は覚えた。
肉体の硬さも確かめた。
弱い部分も暴き出した。
渾身の一撃も誘い込んだ。
懸念だった火力不足*26は美野里が補った。
よって今ここに、魔剣を超える秘剣が解き放たれる。
「────―“雲耀”」
| 雲耀の剣*27 | 剣・風相性 | 剣と剣風による攻撃。回避・防御に-80%のペナルティを受ける。剣そのものか、剣風を問わず、 |
『…………見事なり』
紫電一閃。
幾つもの屍を積み重ねたカバネの
・
・
・
「おーい、起きて、起きなさいって」
ユサユサと体を優しく揺さぶられるのを感じる。
同時に耳を打つのは透き通るようなソプラノ声。
なんだかものすごく美味しいシチュエーションのような気がしてならない。
「う~~ん、つかれれるんだよ~あと5分(棒)」
なので狸寝入りを決め込む事にした。
当然、寝ている事をアピールするのも忘れない。
小学校の学芸会で完璧に木の役をやり切った演技力には自信がある。
「──―オラァッ!!」
「ぶべらっ!!」
顔を殴り飛ばされて跳ね起きた、超痛い。
無理矢理開かされた視界に広がるのは空中に漂う幾つもの赤い光と崩壊していく異界。
そして満面の笑顔を浮かべながら額に青筋を立てる銀髪の美少女。
「気付け代わりにもう一発いっとく?
なんなら鉛玉でもOKだけど」
「……かわいい子に殴られるのならってステイステイ。
本気で腕を大きく振りかぶるのは止めようか」
慌てて止める。
体が冗談抜きに重い、全身に重りをつけているような感覚だ。*28
こんな状態で良いパンチを受けようものなら永眠する。
「目が覚めたらあんた倒れてるし、相打ちにでもなったのかって心配したのに……。
ふざけた返事来たらそりゃ怒るでしょ」
正論が飛んできて軽口も叩けなくなる。
感覚からして10分ほど気絶していただけなのだが、随分な心配をかけさせてしまったらしい。
「あー……ゴメン、悪かった。
でも洒落にならないくらい消耗してるのは本当だから許してくれ
今ならその辺のスライムにも負ける自信がある」
だから素直に謝る。
年齢問わず、女を本気で怒らせると洒落にならないのは学生時代に学んでいるのだ。
「はぁ? あんたずっと余裕そうに見えてたんだけど。
レベル70超えた化け物に平然と話して、怪我だって一つも無いじゃない」
「んなもん取り繕ってただけだって。
余裕とか欠片も無かったぞ」
この疲労感は雲耀なんて大技を使った事もそうだが、
何よりも遥か格上の相手に一切の集中を切らさず、綱渡りを続けたのが大きい。
あんな真似は出来れば二度と御免被りたい。
ぶっちゃけあと数秒遅かったら集中が切れて死んでいた。*29
「倍以上のレベル差の相手を殺しておいて、その台詞は信じらんないんだけど。
一応聞くけどあんた人間よね? 実は悪魔が化けてるとか?」
「先祖に悪魔はいるが分類上は人間だぞー。あとさっきも言ったけどさ。
あいつが剣士じゃなくて、剣士擬きに成り下がってたからどうにかなったんだ
斬れたのは、お前さんの協力含めて噛み合わせが良かった結果な」
重い頭を動かして視線を横に向ける。
そこには大きく抉れたアスファルトと、墓標のように佇む1本の大剣があった。
それ以外には何も残っていない。
「―――ほんと、綱渡りだったよ」
最初に一太刀浴びせた時点で、普通に雲耀を放っただけでは通らない事を確信した。
物理反射と純粋な強度*30のせいで掠り傷さえ与えられなかったからだ。
防御されてしまえば死に体となった所へ反撃でゲームオーバー。
だから、渾身の一撃を誘ってカウンターをする必要があった。
それでも無防備な急所を狙って通るのは1~2割。
正面に居る美少女の助けが無ければ勝率はそんな物だっただろう。
「真っ当な
そもそも構えた剣士に突っ込む愚行もありえない。
こっちが崩れるまで待つか、遠距離技を使えばそれで終わってた」
闘い続けたとか言っていたが、駆け引きという概念はそこに無かったに違いない。
威力を底上げした回避防御反撃不可能の万能攻撃など、
もちろんある種の到達点であり凄まじい技ではあるのだが。
「駆け引きとか諸々含めて武術な訳で。
技だけ上手くなったって脆いだけだ
―――そうでなくても、無敵なんてあり得ない」
そんな風に締めくくったら変な生き物を見る目をされた、解せぬ。
普通の事しか言ってない気がするのだが。
「……だからって限度はあるでしょ……本っ当に今日は何なのよもう!?
世界が滅びそうになって逃げた先で化け物に出くわして、
その化け物をよく分かんない馬鹿野郎が
「いい加減に馬鹿呼ばわりは卒業しても良いと思うんだ……って待った。
世界が滅びそうって何? 俺が異界に籠ってタイムスリップしてる間に何が起きたの???」
「そっちこそ何おかしな事言ってんの!?
須摩留のシュバルツバースが広がって――――」
そんなこんなで。
異界が完全に崩壊するまで、自分たちは噛み合わない話を続ける事となる。
その後すぐにやってきた『キリギリス』なる組織のメンバーに保護され。
更になんやかんやで自分たちの身に何があったのか、ここが何処なのかを知る事になるのだが。
「あ、そういやお前さんの名前聞いてなかった」
「いきなり話変えるんじゃないわよ―――!!」
それはまた、別の話であった。
◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> LV33
シリーズポジション:八瀬三郎(200Xリプレイ・退魔生徒会シリーズ)
千葉宗吾(200Xリプレイ・退魔生徒会シリーズ)
八瀬童子の1人、すわなち酒呑童子の末裔。
その中でも京都の霊的守護を担う家の出身。
とはいえ、本人曰くそこまでガチガチな所ではなかったとのこと。
学生時代は京都の名門校『加茂玉帝学院』の退魔生徒会の一員として活動していた。
卒業後はフリーのデビルバスターとしてあちこちフラフラしながら剣の修業を積む。
時々奇行に走るのでしょっちゅう馬鹿扱いされるが、戦闘での頭は回る方。
善性の人間である事は間違いないのだが、剣に生きる鬼である事もまた事実。
戦闘スタイルは実家と各地で学んだ剣術メインの前衛タイプ。
気功・タオ・符術を含めた仙術も補助に使うがそれほど高度な術は修めていない。
“現時点では”TRPG基本システム、TRPG誕生篇の技能を使用。
ちなみに一番得意な流派は薩摩示現流屋久島派、またの名を日高示現流。
主要ジャンル:仮面ライダーシリーズ。派生作品含めて履修中。
・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV28(デモニカ装着時Lv39)
シリーズポジション:若槻美野里(TRPG200X 異形科学)
エレン宇津井(TRPG200X 異形科学)
北陸日本海沿岸部に存在した“学園都市・須摩留”出身。
好待遇に惹かれて自警団である“特別課外活動部”に所属した結果、色々と大変な目に遭う。
外見は銀髪ショートヘアにモデル並みのプロポーションをした美少女。
人気はかなりあったが、気の強い性格でもあるため彼氏は居た事が無い。
戦闘スタイルは愛銃であるベレッタを使う後衛タイプ。
超能力者由来の能力で情報収集にも長ける。
どさくさに紛れて研究所からパクったデモニカは現在全損中。
“現時点では”TRPG200Xの技能を使用。
ちなみに、本人に自覚は無いがウカノミタマの転生である。
主要ジャンル:ゴシップ
・魔丞ケートゥ Lv73
とある場所で起きた受胎に巻き込まれ、友人も仲間も師も弟子も全てを斬り殺した男。
その事実に耐えられず“自ら首を切り落とした”結果、首無き闘争王へと変貌してしまった。
受胎終了後、覚醒者を狙い打って各地を放浪。
その果てに宗吾に敗れた。