真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
香港―――そこは世界でも有数の貿易都市。
多種多様何でもござれな価値観の交差点、あるいは無法地帯。
イギリスからの返還以降、驚異的な速さで発展を続けるアジアの要所だ。
しかしそれは光り差す表側は勿論な事、影である裏側でも同じ事が言えた。
犯罪組織、魔術結社、多国籍企業、国家、個人、そして悪魔。
あらゆる勢力が入り乱れ、虚々実々の駆け引きと衝突を繰り返す。
全てはこの地を通る運気の流れ、すなわち龍脈を完全に支配する為。
昨日の友が今日の敵、今日の敵が明日の友など日常茶飯事。
あちこちで銃弾に魔法が飛び交い、剣戟の音は止む事を知らず。
それでもなお止まる事の無い、あまねく欲望に満ちた都市。
これが香港の真の姿であり、東京にも匹敵する霊的な戦場の一つ。
よって、一部の者たちは恐れを込めてこう呼ぶのだ。
人外魔境、悪鬼羅刹蔓延る地上の魔界―――“魔都香港”と。
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それは恐ろしいほどの怨嗟に満ちた声だった。
怒りと悲哀、絶望と渇望に濡れた叫びだった。
本当に人の喉から出た物か分からぬ音だった。
《異界・九龍城》、かつての巨大スラム街跡地に存在する香港最大の異界にして危険地帯。
ここ半世紀以上に渡る社会の激変と戦乱により、過剰な刺激を受け続けた龍脈。
その乱れの果てに自然発生したこの地へ足を踏み入れ、無事生還した者はそう多くない。
だがその最深部、いまだ人知未踏の筈の領域にて。
呪詛を吐き続けながら何らかの儀式を行う人影がそこには存在した。
一見すれば仕立ての良い黒のスーツを身に纏った長身痩躯の男である。
名を董建勝―――多国籍企業SEBECの香港支社長を務める才人にして風水師。
香港を巡る戦いにおいて、その卓越した見識を以て常に有利に立ち回り続けて来た人物だ。
本来ならこのような場所にいる筈がなく、また今は明らかに正気とは呼べない状態であった。
窪んだ眼窩の奥で光る狂気に満ちた目。
自らの血さえ使って陣を描き続ける手。
ひどく歪な形で吊り上がり固まった唇。
常日頃の、余裕に満ちた態度を崩さない彼の姿を知る者なら目を疑う有様。
見比べれば一目で分かるほどの異様な変貌を遂げている。
『香港、滅ぶべし、滅ぶべし!!!!
滅ぼさぬ訳にはいかぬだろう!!!!』
言葉にするごとに指数関数的に高まる力の波動。
やがて血で描き上げた幾何学的模様の陣が輝き胎動を始める。
仮に何も知らない者が見たとしても、尋常ではない事態が起きているのは理解出来るだろう。
『来たれ来たれ来たれ――――香港滅ぶべしぃいいいいい!!』
「生憎と、その願いを叶えてやる訳にはいかない」
カツン、と堅い床を叩く足音が響いた。それも1つではなく複数。
ここに居る董以外、誰も辿り着いた事の無いはずのこの最深部へ。
凶悪極まりない悪魔蔓延る領域を、確かな足取りのまま乗り越えて。
――――滅びを拒絶する者たちが現れた。
「それは世界の秩序を乱す行いだ。
……悪いが阻止させてもらおう」
\カカカッ/
| 封剣士 | 秋山凛子 | Lv3■ | 相性:破魔・呪殺無効 |
最初に口を開いたのは青紫髪の女。
豊満な体付きと美貌、だがそれ以上に本来左腕のある場所へ装着した
どこか昏い瞳と声音に、しかし確かな意思と信念を滲ませて宣言する。
「《撼龍》*1だっけか? 最大出力なら街1つ崩壊させる風水の奥義。
んな事されたら流石に目覚めが悪いんだわ、行きつけの店もあるし。
―――だからまあ、斬っていいよな」
\カカカッ/
| 剣士 | 八瀬宗吾 | Lv30 | 相性:全体的に強い、破魔・呪殺無効 |
続けるのは黒髪の男。
不敵な笑みを口元に浮かべながら腰に差した刀を抜き放つ。
溢れんばかりの剣気を漂わせ、闘いの時を今か今かと待ちわびている。
「この都市が消えれば“商品”の売り上げが落ちますので。
そうでなくとも人の
貴方にはここでお引き取り願いましょうか」
\カカカッ/
| 地仙 | 翻香鈴 | Lv3■ | 相性:氷結に強い、破魔・呪殺無効 |
最後に告げたのは緑髪の女。
深いスリットの入ったチャイナドレスを身に纏い、両手には何種類もの符が握られている。
口調こそ穏やかだが、冷徹な殺意の込められた視線が相手を射抜く。
しかしこの場における目的は共通している。
即ち―――
『邪魔するというのか匹夫共が!!
この我を!!!!』
直後、
弾けた血肉が宙を舞い、膨大なマグネタイトと共に違う形へと再構成される。
悪魔変身、否。これは人間変身の解除。
変身に必要としたのは時間にして1秒未満、晴れた血煙の先に姿を見せたのは―――。
『香港を! 悪徳の都を滅ぼさんとする我を邪魔するならば!!
この“カンセイテイクン”が直々に葬ってくれよう!!!!』
\カカカッ/
| 魔人 | カンセイテイクン | Lv60 | 相性:ガンに強い、精神・神経・魔力・破魔・呪殺無効 |
それは古代中華の衣服を身に纏った赤顔長髭の悪魔。
この国において武神、商業神として祀られているはずの神格が厄災を齎す存在へと転じた姿。
生身の人間を乗っ取る事でGPを無視して顕現した正真正銘の怪物。
レベル60の魔人――――“カンセイテイクン”に他ならない。
しかし、“万人に等しく凶事と死を撒き散らすもの”たる魔人に対して。
3人はまるで臆する様子も無く当たり前のように構えた。
こうなる事は想定していたし、覚悟もとうに決めている。
そして自分たちが死地に居る事を理解した上で、冷静に判断を弾き出す。
状況―――圧倒的危機。敗北はつまり香港とそこに住む民の終焉を意味する。
増援―――望み薄。自分達をここへ辿り着かせる為、仲間は死力を尽くした。
勝率―――極めて極小。単騎で挑めば100回殺されてもお釣りがくる戦力差。
これより始まるのは観客のいない英雄譚。
魔都香港の命運を賭けた決戦。
圧倒的なまでの格上に挑む人間の物語。
「行くぞ」「行こうぜ」「行きましょうか」
始まりを告げる宣誓と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
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「――――って感じで最終的に右腕以外の手足千切れて内臓も幾つか潰れたけど何とか勝った。
いや死ぬかと思ったなー実際。楽しかったけど」
「ごめん言ってる事分かんないよやっさん」
何故か思い切りドン引きされた。解せぬ。
とりあえず皿に乗せられたおはぎを口に頬張りながら目の前の少女、錦木千束へと向き直る。
今日はいつもの制服姿ではなく和服ベースの仕事着だ。
この店―――秘密組織リコリスの支部にして、そのカバーである和風喫茶店『リコリコ』
その看板娘を自称するだけあって素直に似合っていると思う。
ただ、今はその整った顔がどこか引きつっているのが残念だが。
「いやさー、閉店時間過ぎてやる事もやっちゃたし。
暇だから昔の話して~って言ったらそんな話飛び出るとは思わないじゃん。
しかもR18指定間違いなしのアクション映画みたいな」
「んむっ……シン・仮面ライダーよりも流血描写が激しかったのは認めよう」
いやあれPG12指定だったじゃん、という言葉は無視する。似たような物だろう。
セットの煎茶で口の中の甘さを押し流しながら、改めて当時の事が思い浮かぶ。
正直、あれは今でも生きてるのが不思議なくらいの激戦だった。
何か一つでも歯車が欠けていれば、ここでゆっくりお茶をする事も無かっただろう。
コスト度外視、実家の伝手まで頼って符や香に秘薬を用意した姐さん。
肉体への負荷を度外視してサイバーウェアを過剰使用した凛子。
無茶なドーピングと刀身への負担を省みずに振るった自分。
文字通り手足が無くなろうが内臓がはみ出ようが無理矢理戦い続けて。
全員血反吐を吐きながらも掴んだ奇跡的な勝利。
戦いの影響で異界が崩壊していなければ、そのまま3人でくたばっていたかもだ。
間違いなく人生でトップ10に入る死の危機、であったのだが、
「―――でもま、あれ以上の奴がゴロゴロいるんだけどなこの世界。
レベルだけならこの間殺し合った
残念な事に、あれクラスの魔人であってもこの世界では丁度いいくらいの獲物扱い。
今の自分ならサシでも勝てるほどに環境のインフレが激しい。
こちらの主観ではそう昔の話ではないのに、随分と遠くまで来てしまった。
「いや今の時代がおかしいだけだって。
数か月前までは20あれば十分優秀だったよ……とゆーかさ」
途中で千束ちゃんが複雑そうな表情を浮かべ言葉を切る。
いつも活発に話す彼女にしては珍しい姿だ。
数秒ほど言い淀み、やがて意を決してから再び口を開く。
「―――あいつらぶつかるよう誘導したの怒ってない?
美野里はちょっとだけ小言言ってきたけど、やっさんはどうなのかなって」
「? ……あ、あ~なるほど」
最初は何を言われたのか理解出来なかったが、どうやら病院での件を気にしているらしい。
あの時、自分たちの前に現れた
遭遇は偶然ではなく、千束ちゃんとたきなちゃんが遅延戦闘と誘導を行った結果だった。
それを知ったのは飲み会の翌日、ベッドで寝込んでいた時に美野里ちゃんから聞かされた。
「―――いや別に全然気にしてないんだが。
むしろ強い奴斬れて大満足」
素直に感想を言うとまたしてもドン引きされてしまった。何故だろう。
美野里ちゃんはともかくとして。自分は問題ない。
いや、そもそもの話―――。
「てか、千束ちゃんは自分が出来る事やっただけだろ。
むしろそこまでやった後ぶっ倒れたってたきなちゃんから聞いたんだが。
そこまで頑張った相手に怒るのは常識的に考えると……ちょっとアレだと思うぞ」
それが最良だと考え、自分が持てる全てを尽くした行動であるなら。
あまり非難する気にはなれない。あくまで個人的な考えだがそう思う。
実際、あの局面、あの場所で正面から戦えたのは自分たちくらいだ。
だからむしろファインプレーと言ってもいい。
「なんかさー、やっさんって変な所で常識語るよね~剣キチのくせに」
「自分で言うのも何だが俺は割と常識的な方だと思ってる。
……本当によく誤解されるんだが」
脳裏を過る退魔生徒会時代の面子や知り合いたちと自分を比較。
女絡みで暴走する事も無ければ、刺されそうになる事も無かった。
己が剣に偏っている事を考慮しても、やはり自分はまともな方だと思う。
「こういうのって大抵無自覚なんだって。
けど、そう言ってくれるとなんだか気が楽になったかな。ありがとね。
……という訳で話は変わるのですが!」
よっと、と元気な声を出しながら千束ちゃんが座っていた椅子から飛び降りる。
そのままカウンターまで進むと、棚から大きめの封筒を取り出しテーブルへと置いた。
今まで何度か見たもの――――次の仕事についての話だ。
「先生とたきなは外に出てるから、私から軽く説明するよ~。
といっても、やるのはいつも通り突貫と急襲だけど」
「ん……ヤクザ関係、拉致られたアストラルシンドローム患者の救出か」
仕事モードに意識を切り替え、中に入っていた書類にざっと目を通す。
書かれているのは金回りや物資の関係でボロが出た、拠点らしき場所の幾つか。
おそらく患者たちの意識が戻った事で扱いが難しくなった影響だろう。
そこに仕掛ける、つまり今度は逆に攻める側へ回るいう訳だ。
「もちろん本丸じゃねーだろうが、いいな。斬り甲斐がありそう」
「あはは、頼もしいねーそういうとこ。
向こうも相応の防御は固めてるだろうから準備はしっかりしないとね。
詳しい話は先生たちが戻って来てからにしよっか」
推定される要救助者数と建物の構造を頭に叩き込みながら、ふと店の奥へと向かう彼女を見る。
その後ろ姿、歩き方に異常はない、体感にもブレは見られない。
一般人に偽装出来るよう訓練されたプロフェッショナルそのもの。
(でも、倒れたんだよなぁ……)
だがそれなのに倒れたと言っていた。
少なくとも肉体的には健康にしか見えないのにだ。
勘ではあるが、何らかの状態異常を喰らったとかそういう話じゃない。もっと根本的な問題。
しかし理由は聞いてないし、聞いたとしてもはぐらかされるだろう。
それなりに信用はあると思っているが、そこまで聞けるほどの信頼は無い。
仕方ないし当然の事だ―――それはそれとして注意しておく必要があるけども。
(何事も起こらなきゃいいんだが)
とりあえず今は――――。
「ちくしょうお前絶対イカサマしてんだろ!?
なぁ言えよ怒んないから!!」
「将棋でイカサマなんか出来る訳ないでしょ。
あんたが弱くて私が強いだけよ」
「おいこれで10連敗だぞ。
そろそろ諦めたらどうだ?」
座敷スペースでボードゲームに熱中している相方に話を通すべきだろう。
座席から立ち上がり、ヒートアップする女子3人組の下へ向かうのだった。
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「おっと、もしもしどうしたんだい雇い主サマ。
こっちは素敵なバックコーラスを聞きながら仕事の毎日さ。
使いっ走りの用があるなら喜んで受けるがね」
「……へぇ、河岸を変えるのかい。
確かに最近は“足跡”が多く残ってしまっているからね。
優れた猟犬ならあっという間に嗅ぎ付けて来るだろう」
「最悪放棄して俺だけ戻ってきてもいいって?
そりゃこんな使い捨ての駒に過大な評価をありがとう
嬉しくて涙が出るかもだ――――けど止めておくよ」
「ああそうさ。勘だけど……きっと“彼女”が来る。
特段根拠も無いがそう感じるんだ。
この世界に流れ着く前からずっと待ち望んでいた」
「気持ち悪いとはストレートな感想ありがとう。
だけど、あんたは強くなり過ぎたからもう関係ないんだろ。
なら最初に言った通り、オレが戦わせて貰う」
「ああ、だからこれで縁切りになるね。
分かり切っていた事さ。
こっちはあんた個人に雇われただけの、期間限定の道具だ」
「だから情報なんてロクに持ってないし、何処で死んだってかまわない
実際、オレもあんた以外のヤクザなんて興味が無かったし」
「今更だが、あんたの言うバランス論は嫌いじゃなかった。
元々は偏った既存秩序をぶっ壊す側に居たからね、オレも。
それじゃ、今まで世話になったよ」
「さてと。これで本当に根無し草。
勝っても負けても先は無い、我ながら笑える状況だが……別にいいか」
「さあ、あの時の決着を付けよう―――
◎登場人物紹介
・秋山凛子 <封剣士><サイボーグ> Lv3■
苦行で左腕を斬り落とした封剣士の美女。
詳細は不明だが、かつての世界では封剣士はほぼ壊滅状態だったとの事。
宗吾とは香港で知り合い、敵対と共闘を繰り返した仲。
剣術もそうだが卓越した気功の使い手でもあり、幾つかの技を盗んでいる。
・翻香鈴 <地仙><符術師> LV3■
シリーズポジション:翻香鈴(200Xリプレイ『ナイト・テイル』シリーズ)
中国マフィアの幹部にして仙女。表向きは輸入雑貨店「大陸棚」の店長を務める。
修行兼仕事の為に香港を訪れた宗吾へタオ、符術を含めた仙術を教えた張本人。
色々あって彼を気に入り仕事も含めて様々な便宜を図っていた。
宗吾自身も「姐さん」と呼び敬意を払っている。
彼女に関しては実家が実家なので中国の何処かに流れ着いてる可能性があると思っている。
・カンセイテイクン Lv60
かつて宗吾が自分の世界で戦った魔人。
本来は《英雄》に分類される悪魔なのだが、魔都香港を取り巻く様々な要因の果てに災いを齎す存在と化した。
人間の肉体を乗っ取る形で地上に顕現し、香港を滅ぼそうとしたところを阻止される。
・tips 《魔都香港》
「別冊FSGI第3号」に記載されたTRPG覚醒篇の追加ステージ。
国内外様々な勢力が入り乱れ暗闘を続ける風水の都。
サイバーパーツの流通事情は日本を遥かにしのぎ、ファッション感覚で改造する者もいるほど。
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1話でちょっとだけ言ってた魔人との戦い。
そして次の話に繋げる箸休め回でした。
しれっと出て来た雌ブタさん。
本編ではどうなっているかは分からない(震