真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
そこは月明かりに照らされた薄暗い山中の獣道。
ぬかるんだ地面に露出した樹木の根や小石の数々。
人の手が一切入っていないそこは、熟練の登山家でも気を抜けない悪路だ。
「チッ―――!」
そんな場所を一人の青年が風のような速さで駆け抜ける。
鍛え上げた脚力とバランス感覚、そして軽巧に物を言わせた走法。
僅かでも踏み間違えれば勢いよく転倒する事は間違いない。
舌打ちをした青年―――宗吾はそれでもトップスピードを維持し続ける。
視覚だけではなく足音から広がる反響音を拾って地形と障害物をいち早く把握。
索敵を行いつつ、障害物競走のように邪魔なものを躱し、時に飛び越えひたすら前へと進む。
一度息を吐いて、むせるほど草木の匂いがする空気を吸い込む。
走りながらのほんの僅かな休息。同時に背後へと視線を向ける。
『ニンゲン! クワセロ!!』
『コロセコロセコロセ!!!!』
『ニクニクニクニクニク!!!!』
\カカカッ/
| 軍勢 | 鬼の群れ | Lv50 | 相性:■■ |
――――鋭く睨みつけた。
視界に映るのは殺意を滾らせ、こちらに追いすがる悪魔の群れ。
闘鬼、妖鬼、地霊、邪鬼、鬼女―――鬼族に分類される者たち。
百鬼夜行という言葉はまさしくこれに相応しいと断言する光景。
だが、1体1体の格はそれほどでもない。
この鬼たち全てを合わせた上で、その脅威はせいぜいレベル50相当。
数の差はあれど、今の宗吾であれば問題なく対処出来るであろう相手だ。
「だあああクソっ!!」
しかし宗吾が選択するのは逃走一択のみ。
睨みつけるだけで削る様子さえ見せない。
普段の彼を知る者ならば疑問に思う姿だ。
あるいは頭がおかしくなったのかと思うかもしれない。
多少の不利程度なら笑って斬りかかる、剣に生きる鬼にそぐわぬ行動。
暗闇の中に立ち並ぶ何本もの樹木、障害物の多い地形で大勢を相手取る危険性。
いざという時フォローしてくれる味方のいない孤立無援の状況。
敵戦力の総数がどれほどなのか一切不明。
理由は幾つも挙げられるだろう。
だが最も大きいのは―――――。
「鬼神楽どこ行った!
てか何で呼び出せねーんだよぉっ!!?」
剣士にとって半身というべきもの―――肌身離さず持ち歩いている
無いなら呼び出そうとしても一切の反応がない。*1
右手が空しく宙を掻くだけに終わる。
完全な徒手空拳。
彼に限らず、武器使いが武器を使えないのならその力が大幅に制限されるのは自明の理。
だからこそ、不本意ながら命がけの鬼ごっこが十数分に渡って繰り広げられているのだ。
しょっちゅう馬鹿呼ばわりされる彼だが、無策かつ無手で悪魔に挑む阿呆ではない。
―――とはいえ、追いかけられている本人からすればたまったものではないが。
「そもそも何でこんな事に……っ!?」
口から零れた疑問と共に、ほんの少し前の記憶が呼び起こされる。
そう、始まりはいつも通りリコリコへと足を運んだ後。
―――美野里とクルミがグロッキー状態で倒れているのを発見した事から始まった。
・
・
・
「な……なんだこの、偏執的通り越したロックの数は……!?
ボクの
その言葉を最後にガクリ、と電源が切れた玩具のようにクルミが机へと突っ伏す。
おそらく疲労と寝不足によるものだろう。
寝息を立てながら年齢不詳の幼女は夢の世界へと旅立つ。
とりあえず店の毛布を被せてから、宗吾はカウンターの死にかけへと視線を向けた。
こちらも負けず劣らずの消耗っぷりではあるが、意識を飛ばすほどではない。
おそらくは基礎体力の差、日頃からの運動量が違うからだろう。
「で、何してたんだよ美野里ちゃん。
クルミちゃん巻き込んで情報収集でもやってたのか?
つか、超人がそこまで疲れる真似するか普通」
「んなわけ……ないでしょ……」
気付け代わりの黒い液体を喉に流し込みながら、力の無い返事が返って来た。
ちなみに今日は休業日である。
仕事の打ち合わせだけ予定だったので、千束とたきなはまだいない。
一足先に来て、わざわざコーヒーを淹れてくれた
(後で礼言っとかないとなー)
お返しに何か買ってくることを考え、頭の中でスケジュールを練り直す。
そうしている内に少しは復活したのだろう。
美野里は顔を上げて、テーブルに置かれていた眼鏡を持ち上げた。
「“これ”に掛かってたロック解除に挑戦してたのよ。
クルミの力も借りればもうちょっと行けると思って。
……熱中してて気がついたらこんな時間だったけど」
ほっそりとした指でペン回しのようにくるくると回す。
それは一見すれば無骨な、この少女には似合わないデザインの眼鏡。
そして美野里のCOMPであり、元の世界から持ち込んだ超技術の産物。
「―――学園都市って所の
科学と魔術の合い子―――――異形科学の結晶である事を宗吾は知っていた。
ボロボロのデモニカスーツから物理的に取り外す手伝いをしたのは彼だった。
リアルG3のようなスーツを斬る事は非常に残念だったが、良い経験になった。
「そういえば、あんまり詳しく話した事なかったっけ。
これ、正式名称は“タイムマシン・レジスター”っていうの
正確にはこれに組み込んだ“異形機関”*2のことだけどね」
ピン、と指に弾かれた眼鏡がゆっくりと宙を舞う。
ガラス部分へと光が当たり、一瞬だけ光り輝いた。
「そりゃまた……大した名前だな。
ひょっとしてあれか、ドラえもんのタイムベルト的なやつ?
そんな機能あるならこの世界の数か月前に飛ばして欲しいんだが」
「名前が大仰なのは同意するわ。
―――名前負けしないスペックがあるのは本当だけど」
ため息をつきながら一拍おいて。
どこか自分でも信じられないような口調で。
見た目よりもずっと重い眼鏡をキャッチして美野里は告げる。
「
学園都市須摩留、その最先端技術の粋を集めて作られた異形機関。
こんな小さな眼鏡に、都市の大半が詰まってるって言ったら信じる?」
それは予想斜め上の言葉だった。
異形科学の栄えた都市、科学と魔術を融合させ発展した世界。
その核と呼べるものの1つが“これ”なのだと目の前の少女は言っている。
流石の宗吾も冗談だろう、と軽口で笑い飛ばせる雰囲気でもなかった。
「その……随分と凄そうだな」
だから、出た感想も陳腐なものになってしまう。
理解し切れない事に対し、それはある意味当然の事ではあった。
彼自身、異形科学の類にはそこまで詳しくは無いのもある。
これがサイバーウェアやパワードスーツならば話は違うのだが、残念な事にコンピューターに関しては素人同然だ。
漂流した時代的に20年以上の差があるのも大きい。
スマートフォンやタブレットの扱いには慣れたが、それ以外は今でも不慣れな所があった。
「ま、ふつーは信じられないわよね、こんな事聞かされても」
「いやそもそもの話、何でそんなモン持ってるんだよ?
自警団とはいえ美野里ちゃん一応学生じゃなかったか」
「デモニカ盗みに研究所押し入った時、一緒に見つけたの。
COMPとしては使えそうだったし、ついでに拝借した訳。
他にも試作品の
もう一度予想斜め上の言葉が飛んできた。
そういえば以前、デモニカはどさくさに紛れて借りパクしたと言っていたのを思い出す。
厳密に言えば借りパクではないような気もしたが何も言わない事にした。
断片的に聞いた限りでは致し方ない状況だったのだろう。
生きる為、戦う為に最善を尽くすのは当然の事だ。
宗吾自身褒められた学生ではなかったので、彼女を咎めるような資格も持っていなかった。
「あー、ちなみにそのスパコン? で何が出来るんだ。
今までも悪魔召喚にスキル自動的に発動させてるアプリ。
あと倒した悪魔からスキルコピーもやってたろ」
「えっと、まず学園都市が世界各地から回収してた
“アンティキティラ島の機械”*3とか“バベッジの解析機関”*4の機能再現でしょ」
「ふむふむ」
「それと悪魔支配プログラムのサーバーだった“バベル”の機能。
流石にそのまま使えないと思うけど、上手くやれば悪魔召喚プログラムの補助にはなるかも」
「ほうほう」
「他には悪魔とマシンの合体に関する情報にサイバーウェアの設計図が幾つか。
『ザ・モノリス』*5―――研究施設中枢に保管されてた研究データも。
あたしも全部知ってる訳じゃないから、たぶんまだあると思う」
「へぇ~~………………まあ、すごいのはわかった」
つらつらと並べられる言葉の羅列。
とりあえずSFレベルの代物で、使うことが出来れば戦力増加になる事はかろうじて理解出来た。
あと思ってた数十倍の厄ネタでもあった。
(……学生に盗まれる程度の警備で置いとくもんじゃねーだろそれ)
作為的なものを感じるが確かめるのは無理だな、とか。
迂闊な相手に漏れたら襲われそうだな、とか。
強い奴が来て返り討ちに出来れば限界超えられそうだな、とか。
次々浮かぶ思考を脳の隅に追いやり、ひとまず話を最初へ戻す事にする。
「けど、結局鍵は全然開けられずそのザマって訳な。
……クルミちゃん居ても駄目なら無理じゃね?」
「普通ならもっと設備と
それでもどれだけ時間かかるか分かったもんじゃないけど。
でも―――こういうの得意な相手に心当たりあるの」
「……ひょっとして、この間聞いてた中立ドリフの話か」
思い出すのは先日の模擬戦と情報交換。
凄まじき魔剣を魅せた女剣士“鳴神虎春”から聞いた中立派ドリフの居場所について。
美野里の目的の一つ、生き別れた仲間を探すためのもの。
「そう、あの2匹探すついでにダメ元で聞いてみてたんだけど……。
なんかそれっぽい子が首都圏のレルムにいるみたい。
倫理観ゼロのハッキング常習犯な後輩でね。
何度しばいても車で跳ねても懲りない子だったけど腕は確かよ」
「よくいるよなー、性格破綻してる代わりに能力高いの」
古今東西、何かに突出した人間は何処か“普通”という基準から外れている事が多い。
宗吾の周りにも何故かそういう人間は多くいた。その分気苦労も相当だった。
今聞いた話だけでも相当アレな人物なのは間違いないだろう。
「いやあんたも人の事言えないから。自覚ないの一番アウトでしょ。
………………それに、さ」
美野里は少し言い淀んでから、意を決したように言葉を続ける。
「……あんな子でも、あたしの知り合いだから。
あの後、須摩留がどうなったのかも聞きたいし」
「――――、……」
どこか過去を懐かしむ様な、失ってしまったものを思うような声音だった。
宗吾は何も言えない、言えるはずもない。
例え関係が複雑な相手でも、元居た世界から残った確かな縁である事は間違いないのだから。
どのような感情が胸裏に渦巻いているのか、推し測ることは不可能だ。
若槻美野里という少女違って、八瀬宗吾という男は。
――――失ってしまったという実感が薄い人間なのだから。
「……ハイ、暗い話は終わり。
明るい話しましょう。クルミの協力でこの機能だけは使えるようになったの」
切り替えるようにパンパンと手を叩きながら美野里が立ち上がる。
そして、一緒にテーブルへ置かれていた端末を宗吾の方へと向けた。
画面いっぱいに表示されているよく分からない文字列が視界に映る。
正直何がどのような意味なのかさっぱりだが、かろうじて読めた部分にはこう書かれていた。
「……
「装着者の意識を仮想空間に飛ばして設定した
えっと、マトリックスの戦闘訓練って言ったら分かりやすいかも」
「おっ、それなら分かるぞ。
つーか、脳に直接プラグインしなくても出来るのか。
メガネするだけで良いとかマジで技術進歩してんだな」
宗吾からすればVR空間へのダイブなど、重改造のサイボーグにのみ許された特権だった。
それが生身の人間でも可能になるというのだから驚きも相当である。
ちなみに現実と仮想空間の区別がつかなくなった
「―――せっかくだから試してみる?
千束たち来るまでまだ時間あるし、ちょっとくらいなら大丈夫でしょ」
そうして言われるがままに眼鏡をかけて。
とりあえず銃火器で武装した兵士30人を想定した訓練を設定して。
意識が光の波に飲み込まれたと思えば。
――――なぜか非武装状態で悪魔の群れのど真ん中にいたのだった。
・
・
・
「っとお――――――!?」
回想が終わると同時に、開けた空間へと飛び出た。
そこは朽ち果てた神社の境内、さほど広くは無いが邪魔になりそうなものは何もない。
あるのは崩れた社とへし折れ黒焦げになったご神木程度。
それにどこか既視感を覚えつつ、ボロボロに風化した石畳を削るようにして停止する。
「……っ」
状況の把握に要した時間は瞬き2回分。
背後の鬼たちが追い付くのに残り3秒。
結論――――――それだけあれば十分。
『ゲギャギャギャ!!!!』
| 《怪力乱神》*7 | 物理攻撃 | 敵単体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う。 |
歓喜と狂気を練り混ぜた絶叫を上げて、集団から突出した1体が命を散らそうと襲い掛かる。
それは
歴戦のDBであろうと受ければ致命傷になりかねないもの。
だがしかし――――。
あらかじめ来ると分かっているなら話は別である。
振り向きざまに強烈な殺意を
それだけで鬼の身体は硬直、振り下ろそうとした凶腕は勢いを失った。
結果、ぼすんと情けない音を立てて宗吾の身体に当たるのみ。
これでは虫一匹殺す事も叶わないだろう。
最早死に体、晒される無様な隙。
―――これは当てずっぽうでも、その場の思い付きによるものでもない。
敵の命を狙っていたのは宗吾も同じなのだから。
逃走中に軽く
逃げに徹していたのは無策、不利な状況で戦うのを避けていただけ。
自分にとって有利、最低でも同等の条件の場所を探していたからに過ぎない。
そしてこの場所に辿り着いた時点で目的は達成した。
よって、愚かにも釣られた間抜けは相応の対価を支払う事になる。
宗吾は右手の五指を揃えて伸ばし、大きく振りかぶるように構えを取った。
「―――“雲耀”」
宣告と同時に
空間を引き裂くかのような轟音。
動きを止められた鬼と背後に居た数体が文字通り
肉片を残すどころか断末魔さえ許さない剣鬼の絶技。
『グギギャッ……!!?』
それを目撃した残りの鬼たちは慌てたように足を止め、完全に攻め時を見失う。
機会の喪失、それはすなわち攻守逆転の合図。
「剣が無けりゃ剣を振るえない。
得物が無けりゃ何も出来ない。
技術が使えなけりゃ戦えない。
――――んな訳ねーだろ」
呟くように告げた。
ある意味で剣士である事を捨てる話。
剣が無いのに剣術を使うという矛盾。
己の五体を刀剣として見当てる技術。
「そりゃ流石に威力は落ちるし、忍者君がやってた……《暗刃》*10だっけか?
あれより使い勝手は悪いがよ――――」
ゴキリと、薄煙を上げる右手の骨を鳴らしながら。
顔に獰猛な笑みを浮かべて言い放つ。
「
| 《手刀》*11 | 武器を失った際、自らの手を剣に見立てて戦う技。 3倍のコスト消費で剛剣に分類される技を使用出来る。 《受け》を使用する場合、素手の攻撃に対してダメージを反転する効果は無い。 《雲耀の剣》(200X仕様)は剛剣に分類されるものと裁定する。 |
| 《無刀術》*12 | 技相性。武器が無い場合に、手を刀に見立てて相手を斬る技。 |
言うやいなや、今度は自ら悪魔の軍勢へと踊りかかる。
追われていた者が襲い掛かり、追っていた者が襲われるという逆転した光景。
何者であれ避ける事も防ぐことも許さない、万能の手刀が絶え間なく閃く。
――― 立っているのが一人になるまでさほど時間はかからなかった。
・
・
・
「ちょっとー、やっさんマジで起きないんだけど本当に大丈夫?」
「頭に熱湯でも掛けてみればどうでしょう」
「あまり勧めたくないが、もっと強い刺激を与えてみるか」
「それならいっそのこと手足でも撃ったらどうだ?
いやでもこいつのことだから、勝手に動いて反撃されるかもしれないな」
「ごめん、みんなちょっと静かにしててくれる……っ!」
喫茶リコリコのバックヤード、従業員用に使われている座敷スペース。
そこで美野里に膝枕され横になった宗吾は、目を閉じたままピクリとも動かない。
幾ら呼び掛けても殴っても蹴っても、かれこれ1時間近くはこのままだ。
途中で異変を感じ、訓練プログラムを中止したというのに宗吾の意識が戻らない。
誰がどう見ても異常事態。即座にクルミを叩き起こして原因究明を図った。
だが分かったのはVR機能の影響ではない事。
それはせいぜいこの昏睡現象の切っ掛けになっただけという程度だった。
騒ぎを聞きつけたミカ、出勤してきた千束とたきなも様々な手を試したが効果は無い。
混乱の末、顔に落書きまでしてから落ち着きを取り戻した美野里は最終手段に踏み切った。
| 《サイコ・ダイブ》*13 | ESPまたはチャネリングに分類される超能力。 意識を失っているか、受け入れを認めている人物の精神世界に入る。 |
対象の精神世界に自ら入り込む力だが、仮に悪魔が網を張っていた場合、下手をすれば自分も戻ってこれなくなるリスクもある。
だがその可能性は承知の上だった。
このような状況に陥ったのは自分が切っ掛けである。
ならば責任を取るのは当然の話だ。
そもそも―――仮にそんな事が無くてもやっている。
「~~~~っ駄目、全っ然見つからない!
道場っぽい所に、山奥とか色々あったけど本人の姿が何処にも……っ!!」
が、意気込みとは裏腹に何の成果も得られなかった。
精神世界をくまなく探しても、宗吾の意識へ接触する事が不可能だったのだ。
干渉しているだろう存在の気配さえも感じる事が出来ない。
「えっと、それってつまりどういう事?
やっさん今どういう状態なの???」
「考えられるとすればたぶん――――
人間が持つ無意識、その中でも“個人的無意識”よりさらに下の階層。
「“集団的無意識”……ううん、“集団・民族無意識”の階層かも。
悪魔の血引いてるって言ってたし、ペルソナ使いでもないんだから。
専門のサイコダイバーではない美野里では潜れない深度の
今の状況ではどうやっても手出しのしようがないという事実が重く圧し掛かる。
――――だが、だからと言って諦める訳にもいかない。
「ごめん、
あの人の協力があれば何とか出来るかも」
「はいはいちょっと待ってねー、あと運ぶための足もいるでしょ」
「では車の手配をします。
ちょうどあの
「仕事の話どころではなくなったな……仕方ないか」
「……これボクのせいでもあるのか?
騒がしいのにも程があるなまったく」
美野里の頼みに、リコリコのメンバーが淀みなく動き出す。
彼らにとってこの漂流者2人は決して長い付き合いがある訳ではない。
しかし、見捨てるほど薄情な繋がりの相手では断じてなかった。
戦場を何度も共に潜り抜け、築いた絆が確かにそこにある。
だから美野里もやれる事をやろうとする。
車が来るまでの間、無駄かもしれないが再び精神世界へ侵入しようとして―――。
「――――――え?」
途端に、
・
・
・
「…………………………おいおいおい、マジかよ」
鬼の軍勢を一体残らず殲滅し、一息ついたところで新たな気配感じた。
その数は3つ。いまだ姿は見えないが、間違いなく“斬れる”相手だと勘は囁く。
しかし宗吾は一切の油断なく構えた。“斬れる”と“勝てる”は別の話である。
1つの油断、過ちで格上が格下に食われるなど当たり前の話であり、宗吾自身それを実践してきた身だからだ。
そして、ここからが本番であろうと意識を一層引き締める。
この世界がVRなどでない事はとうの昔に気付いている。
なにせ鬼たちの放っていた殺気は、どう考えても作り物に出せるものではなかった。
だが同時に現実でもない。
悪魔たちはどれだけ倒してもマグネタイトを放出することはなかった。
おそらくは外見だけを真似た存在―――シャドウかそれに類する存在。
そこから推測するに、ここは自身の精神世界。
自分の中に流れる悪魔の
そうと考えるならば、
――――だから、姿を現した
口から出た言葉とは反対にどこまでも冷静にいられた。
「それがマジなんですよ先輩……残念な事ですけど」
\カカカッ/
| 候補者 | 山本総次郎 | Lv30 | 相性:破魔無効 |
「私たちは文字通り悪い夢だ、所詮一時の幻想にすぎん」
\カカカッ/
| アルカニスト | 藤原塔也 | Lv33 | 相性:神経・破魔・呪殺無効 |
「まあワシにとっちゃ夢も現も関係ないがのぉ―――久々に喧嘩しようや」
\カカカッ/
| 格闘家 | 風祭新 | Lv33 | 相性:破魔・氷結無効、呪殺に強い |
子犬のような雰囲気を纏った、少女と見違えそうになる中性的な男。
爽やかな顔立ちに鋭い目つきの、日本刀を携えた美丈夫。
快活な笑みを浮かべながら、硬く拳を握り締める好漢。
知っている、知らない筈がない、飽きるほど見た顔なのだから。
学生時代、力を合わせ戦い、時には争い、共に青春を過ごした。
あちこちふらつく自分にとって数少ない、友人と呼べた者たち。
――――――第128代、加茂玉帝学院退魔生徒会。
最早二度と会うはずがない、かつての仲間の姿がそこにあった。
前・中・後編予定。
なるべく間が空かないようにするつもりです。