真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
これはほんの一時の交差にして幕間。
夢から浮上し現実に戻るまでにあった僅かな語らいに過ぎない。
有っても無くても決して大局に影響を与えず、これまで通り世界は回り続ける。
―――だがそれでも確かに意味はあるのだ。
例え死者は時を刻まないとしても。
忘れない者が、背負って進む者が生き続けているのなら。
決して、忘れ去られる事は無いだから。
「いやーお疲れ様でした先輩! ナイスファイト!!
まー半分以上は僕のおかげなんですけど」
「何言っとるんじゃ一番最初に落ちたくせに。
首無し死体になっても動き続けたワイの活躍あってこそや!」
「寝言は寝て言え雑魚共め。
どう考えても痛打を与えた上に動きを封じた私がMVPだろう」
気がつけば、目の前で馬鹿共が馬鹿を言っていた。
視界に飛び込んできた―――嫌な事に慣れ親しんだ―――いつも通りの光景。
今の今まで死闘を繰り広げていたはずが、いきなり場面の飛んだような感覚。
「……………………うっげぇ」
とりあえず、最初に出た言葉がそれだった。
こういう展開は知っている。漫画でよく読んだやつだ。
死ぬ直前の脳内会話とかそういった類。
くたばる覚悟自体は常に決めているが、最期にこいつらが出て来るのは対象外である。
「ちょい待ち流石に失礼じゃないですかそのリアクション?
僕繊細なんで傷ついちゃうナー。
詫びになんか面白い一発芸やってくださいよほら早く」
「どの面下げて繊細とか抜かすんだよ顔面詐欺師。
面倒ごと引っ掛けて今まで何回俺らに泣きついた?
言ってみろ、ん?」
「ふむ、私は20件を超えたあたりで数えるのを辞めたな。
確かギャングのボスの娘に手を出した時だ」
「ついでにヤクザの組長の孫娘にも粉かけてたのう。
キレた組員たちに追い掛け回されてヒイヒイ言うとった」
「流石にあの時は死を覚悟しましたねぇ……。
でもあれはちゃんと理由あったんですよ。どっちも家が勝手に婚約者決めて、
それで逃げようとしたの助けたらなんか惚れられちゃって」
「最終的に暗示で記憶操作と死亡偽装、あと逃亡先の手配までする羽目になったんだが?
どー考えても高校生のガキがする仕事じゃなかったぞあれ」
こいつらしい理由を
―――今更気付いたが、どうやらここは駅のプラットホームらしい。
ただし、発車標どころか看板に時刻表、売店や自販機さえも見当たらない。
あるのは遥か先の何処か遠くへと続く線路。
停車している古ぼけた一両だけの電車。
そして今、自分たちが座っているベンチ―――このくらいだ。
「……これって俺の妄想? それとも既にあの世に居るのか?
出来れば前者であって欲しい、いやそれはそれで気持ち悪いから嫌だな」
「我儘な事を言うな贅沢者め。
……残念ながらどっちでもない。
強いて言うなら白昼夢と表現した方が正しいだろう」
疑問に塔也が答えながら髪をかき上げる。
無駄に様になっているのにムカついたので脛を蹴った。蹴り返された。
――――あまり痛くない。
「ギリギリ勝って目が覚める寸前ってとこでしょ。
にしても女の子の応援されて限界超えるとか、先輩も中々やりますねー。
てっきり剣にしか発情しない変態だと思ってました」
「自分、ちゃんと女に興味あったんやな。正直びっくりや」
「よし、もう1回殺してやるから首出せ刎ねてやる」
鞘に納まったままの鬼神楽を振り上げると、ゲラゲラ笑いながら距離を取った。
このノリ、高校時代からまるで成長していない。
自分たちの歳考えろ20歳児共、という言葉を飲み込んで刀を腰に戻す。
――― ひとつ、息をつく。
分かってしまった、どうしようもないくらい。
この短い会話でも十分過ぎるほどに理解してしまう。
出来ればそうあって欲しくて、そうあって欲しくなかった。
此処に居る3人は。今目の前にいる
―――暫くとりとめのない話をした後で切り出した。
「―――お前らさ、
俺の認知から生まれた存在じゃない」
理屈を超えた先、本能よりもずっと深い場所にて、己の魂がそう叫んでいる事を自覚した。
塔也は何も言わない。
新は何も言わない。
総次郎は何も言わない。
先程までのふざけた様子が嘘のように、ただ静かにこちらの言葉を聞いている。
「そう考えると疑問も解ける。
お前らは最初あのデカブツに操られてた。
……それが1回死んだ程度で自由になるとは思えん」
精神世界内限定とはいえレベル100に近い大悪魔なのだ。
そんな奴に縛られた存在が死んだとはいえ制御から解放されるとは思えない。
ましてや、限りなく再現性が高くとも所詮魂を持たない人形。
起き上がって敵対する事はあっても、味方として動く事はあり得ない筈だった。
あの時は友情パワーとか言っていたが、それだけで無茶を通せるほど甘いものでもない。
だからと言って本物だという結論も我ながらどうかと思うのだが―――。
「
私たちはお前の認知から生まれた偽物であって、同時に本物でもある」
返って来たのは玉虫色の返答だった。
ここはぶん殴るべきだろう。
殴ろうとしたら先に殴られたのでついでに3人とも殴ってやった。
「まあ……あれじゃ。
本物の欠片が認知存在に宿ったとでも言えばいいんか。
器は偽物でも中身は……薄まった本物やな」
「あのクソヘビが引き込んだ場所、“普遍的無意識”の領域に近かったですからね
そこに残ってた情報残滓が人形に引き寄せられてフュージョンしたってコト。
自己認識としちゃ死んだのは間違いなく理解してます」
「――――――っ」
本物の欠片が再現された偽物に宿った。
その言葉がストンと胸に落ちる。
なるほど確かに、それなら偽物でありながら本物というのも間違ってはいない。
俄かには信じがたいが、あのイレギュラーはそれが理由なのだろう。
だけど、それは。
「ああそうだ―――
完膚なきまでに、確実に命を落とした。
お前のように未来に逃げ延びた、なんてことはない」
分かり切っていたはずの事が確定する。
心の底の底にあった思いが撃ち砕かれる。
―――死んだのだ、こいつらは。自分が知らない時に、知らない場所で。
「僕らが具体的にどう死んだのかは……あ~、そこは微妙に残ってないな。
“禍の団”とかいうヤバい連中と戦って、最期はたぶん女の子逃がしたっぽいんですけど」
「ついでに言うと五島陸将も日高の婆さんもワイらより先に逝ってもうたわ。
詳しくは知らんが、くたばる前に相当大暴れしたみたいやで」
「…………そうかよ」
込み上げてくる物を堪えるように天を仰ぐ。
僅かに滲む視界には老朽化し錆びた屋根が映るだけ。
言いたい事とか聞きたい事が洪水のように頭を巡るが、何一つとして形にならない。
無念無想の境地とは程遠い、雑念に塗れた状態。
剣士として無様極まりない有様を晒している。
それでも時間をかけて、ぐちゃぐちゃの思考の中から質問をくみ上げた。
「なあ……………………
それは確認の言葉だった。
この世界に流れ着いて数か月。
強敵と戦い成長し剣の腕が磨かれる事に喜びを感じている自分がいる。
―――けれども。
家族や友人、仲間と最後まで戦えなかった事を悔いる自分がいるのもまた事実だった。
自分がいれば何とかなった、なんて自惚れるつもりは勿論無い。
結果は変わらず、仲良く死体を晒すのが目に見えている。
そもそも不可抗力でどうしようもなかった。
だけど、どうしても思ってしまうのだ。
慙愧に耐えない、という言葉を身をもって思い知らされる。
だから聞いた、聞かずにはいられなかった。
こんな自分を、人でなしの剣鬼を恨んでいるかと。
肝心な時に居なかった役立たずを恨んでいるかと。
「とうとう頭がおかしくなったんですか? いや元からおかしいけど」
「打ち所が相当悪かったのだろう。馬鹿が大馬鹿にランクアップしたか」
目に溜まっていた液体が即座に枯れた。
ついでに鞘で一閃するが上手い事躱されてしまう。
流石にこれは読まれやすかったか。
「お前らさぁ、ここ茶化す場面じゃないだろ……っ!」
「だってキャラじゃないですもん!!
強い敵いるぜヒャアっ! って風にテンション上げる変態が宗吾先輩でしょ?
そんな風にナイーブな言葉が飛び出すとかくっそウケるんですけど」
「一番死地に飛び込んでは生還してるお前なら大丈夫だろうとは思っていた。
なにせゴキブリ並みの生命力と悪運の持ち主だからな。
誇っていいぞ黒光りGめ」
「あの剣キチは絶対どこかで戦っとると確信はしとったで。
けど恨んでるっていうのはあり得んのう。
むしろ煽り倒したい気分や異界に籠ってた間抜けめ」
返って来たのは予想とは違う、いつものような罵倒と暴言の嵐だった。
なので普通にキレそうになるのを抑え込む。
何をどうしたらこんな変な連中が生まれるのだろうか?
世界の不思議を感じていると、塔也が再び口を開く。
「じゃあ逆に聞くがな―――
呆れ交じりの言葉に息が詰まった。
恨む? 立場が逆なら?
思考に空白が生まれるが、答えなど考えるまでもない。
そして―――それこそが求めていた答えに他ならない事に気付いた。
「あれこれ考え過ぎや、悩みなく突っ走ってるように見えるくせにな」
新が立ち上がって歩き出す。
「先輩は先輩らしく、何一つとして恥じることなく進めばいいんです」
総次郎が立ち上がって歩き出す。
「お前は“ロクでなし”ではあるが、決して“人でなし”ではないのだからな」
塔也が立ち上がって歩き出す。
3人はそのまま停車している電車へと向かう。
いつの間にか、閉じていたはずのドアが開いていた。
こちらから中の様子は窺えない。
ひたすら真っ暗な空間が広がっているだけだ。
なんとなく分かってしまう―――ああ、もう時間なのかと。
拳を強く握りしめる、血が滲みだすほどに。
痛みで目頭が熱くなるのを無理矢理抑える。
こいつらに情けない姿は見せたくないから。
ここまでいつも通りのノリだったのだから。
ならば、最後までそれを貫くべきだ。
いつものように―――笑いながら別れるべきだ。
ドアの前に立つと総次郎が振り返る。
「楽しかったですよ、先輩たちと過ごした時間。
またいつか、縁があったら会いましょう」
「おう、来世あたりでまた馬鹿やろうぜ。
見つけたら誘ってやる」
子供のような笑顔を浮かべながら電車へ乗り込んだ。
姿はもう見えない。
ドアの前に立つと新が振り返る。
「じゃあの宗吾。先に行っとるで。
なるべく遅く来いや、出来ればヨボヨボの爺さんになってからな」
「その前にお前が戻って来るのが早いかもしれねーぞ。
むしろ俺がくたばる前に会いに来いよ」
快活な笑顔を浮かべながら電車へ乗り込んだ。
姿はもう見えない。
ドアの前に立つと塔也が振り返る。
「あの美野里という少女、大切にした方がいい。
お前とつるめる相手は希少だ」
「うるせー言われなくても分かってる。
あとお前より絶対マシだからな」
微笑を浮かべながら電車へ乗り込んだ。
姿はもう見えない。
そしてドアが閉まり、電車が動き出す。
はるか先の何処かへと。
あの世と言える場所か、あるいは来世へと。
同時に自分の意識が白んでくるのを感じた。
おそらく眠りから覚める前兆、意識が覚醒する寸前なのだろう。
現実へと帰還するまでもう時間は無い。
だから、その前に。
遠ざかっていく電車に一言だけ告げた。
「――――あばよ、ダチ共」
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目を覚ませば、そこは見覚えのない天井だった。
◎登場人物紹介
・藤原塔也 <剣士> <アルカニスト> LV33
シリーズポジション:藤原塔也(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)
宗吾の高校時代からの友人。
一見すればクールな美男子なのだが、実際は戦闘狂の気があるトラブルメーカーその1。
同じ剣士という事もあって宗吾とは互いに切磋琢磨した仲。
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。
・風祭新 <黒魔導師> <番長><格闘家> LV33
シリーズポジション:風祭新(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)
宗吾の高校時代からの友人。
時代遅れの番長で、強そうな奴に喧嘩を売るのが趣味のトラブルメーカーその2。
無手での戦い方を含めた一部の技は彼から
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。
・山本総次郎 <候補者> LV30
シリーズポジション:山本総次郎(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)
宗吾の高校時代からの友人。
女好きでしょっちゅう遊んでいた為か、厄介事を引っ張って来るトラブルメーカーその3。
その性格と役割上、割と死にかける事が多く
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。
・ヤマタノオロチ Lv97
国津神にして旧支配者、ひいては九頭龍に連なる神性。
宗吾の
今回出てきたのは宗吾の側面、悪魔としての彼である。
それ故か直接攻撃を好み魔法はあまり使わない、趣味を最優先するといった行動が見られた。
敗北を受け入れ、今後も宗吾の一部としてそこに存在し続ける。
・remarks
事件後、治療費やら迷惑代にスキルの調整などであちこちで仕事をする事に。
そのせいでレイドバトルへの参加には間に合わなかった。
前話で現実に戻るまでにあった一幕。
これを以て<導師>への覚醒条件
・パーティー全滅
・内面への旅における自己の暗い面との対決
・転生の神との出会い
これらの達成に成功しました。
次回は別視点でレイドバトルの話をやりたいと思います。