真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
突然の手紙を差し上げる失礼をお許しください。私、八瀬と申します。
この度、衛藤様よりご紹介を頂き、お手紙を差し上げた次第でございます。
私は現在、剣の道を極める為、様々な方と手合わせをお願いしております。
衛藤様より、佐々木様が素晴らしい腕前でいらっしゃるということでご紹介頂きました。
ぜひ一度手合わせの機会をお願いできないでしょうか。
不躾な話で誠に恐縮ですが、ご検討頂ければ幸いです。
「―――ヨシッ!」
「いやヨシじゃないから。
また変な事してると思ったら何書いてんのよ、しかも毛筆」
うららかな昼下がり。
喫茶リコリコのカウンター席、もはや定位置と化した場所にて。
宗吾は注文したコーヒーに一口も手を付けず、黙々と筆を執っていた。
無駄に真剣な表情かつ無駄に綺麗な字であった為、美野里も終わるまで口を出せなかった。
だからこうして、宗吾が書き終わるまで待っていたのだが―――。
「え、手合わせの願いだが?
ノーアポで斬りかかるなんて蛮族極まりないだろ、常識的に考えて」
返って来たのはやはりと言うべきか、馬鹿丸出しの返答であった。
思わず美野里の口から思わずため息が漏れる。
「いやどの道斬りかかる時点で蛮族でしょ……。
しかも相手って最前線で戦ってる有名人よね。
普通断られると思うんだけど」
「そん時はそん時だよ。
今は色々と小康状態らしいし、少しは時間空けてくれるかもだろ。
……闘技場で見た時から戦ってみたかったしな」
「聞こえてるわよ最後」
小声で呟いた言葉を美野里は聞き逃していなかった。
一応、そうしたくなる気持ちは分からないでもない。
なにせ、自分たちは先日起きた
ここ最近はヤマタノオロチの1件で周りに掛けた迷惑代及び霊薬の費用を稼ぐため、地方にまで足を延ばしていたのが仇となった。
掲示板で情報を得ると急いで駆けつけたものの、既に事件は終息済み。
おまけに宗吾が目当てとしていた“帽子の男”とやらもとうに姿を消した後だった。
その時の宗吾の落ち込みようは凄まじかった。
魂の抜けたような、という表現がぴったりと当て嵌まる有様だった。
同時に勃発した宝石争奪戦においては、半ば八つ当たり気味に参戦したほどだ。
―――切っ掛けは他の剣士たちが斬りかかれた事を煽ったのが原因であるが。
加えて、今言ったように現在の異界GPは小康状態にある。
最長で半年程度、短くとも3ヶ月は続くとされる凪の時間。
つまり、一息つきつつ戦力の増強を図れるという事だ。
新たに得た
仲魔の合体と追加戦力の確保。装備の更新に情報収集。
やるべき事は沢山あって、その一つとして格上と手合わせするのも間違ったものではない。
問題は―――――。
「まあいつもの事だからともかく……普通に頼むのって駄目なの?
視線を宗吾の隣の席へと向ける。
そこに置かれているのは今日の仕事帰りに購入したフルーツの詰め合わせ。
そして……ここ数日の異界潜りで入手した数種類の宝石が納まった箱だ。
悪魔由来の宝石―――数を揃えれば能力が上昇するという情報が判明し、現在100倍以上のバブルが起きている代物。
自分達の強化の為に集めるのは最優先で、そうでなくとも売れば纏まった金にはなるだろう。
それを手土産として差し出すのは流石にどうかと思う所がある。
一言で言えば―――
天井知らずに価値の上がり続けている物を差し出す。
最前線で戦う人間とのコネ作り、という事を踏まえてもこれは重過ぎではないだろうか。
可奈美が慕っている相手なのを考えても、逆に変な疑いを持たれる可能性も捨てきれない。
「―――美野里ちゃんの言いたい事も分かるけど、こっちはお願いする立場だからな。
なら疑われようと礼を尽くさなきゃ駄目だ……細かいけどそういうの守るのは大事だぞ」
いつになく真面目な口調で返答があった。
宗吾は書き上げた手紙を封筒へしまってから美野里に向き合う。
彼女を見つめるその瞳は、ふざけた様子の無い真剣味を帯びたものだった
「血で血を洗う生活ばっかだと忘れられがちになるけどさ。
“こういう事”が出来ない奴ほど社会から弾かれる。
そんなのどうでもいいって輩ならともかく、俺も美野里ちゃんもそうじゃないだろ」
無礼討ちという言葉があるように、礼を欠いた者が殺される時代もあったのだ。
時代とともにそういう事も少なくなったが、少なくともまともな扱いはされない。
裏の世界で生きるものだからこそ、守らねばならない一線がある。
―――不要な敵を作らない、周囲に好印象を持ってもらう。
そういった意味においても、一定の理にかなった言葉だった。
「……うん、ごめん軽率だった。
確かに宗吾さんの言う通りだわ」
「あーいや……偉そうな事言っといてなんだけど。
美野里ちゃんの意見も間違ってる訳じゃないからな。
俺がかしこまり過ぎてるって言われたらその通りだし」
しゅんとした顔を浮かべる美野里に、思わず頭を掻きながら宗吾は言葉を続ける。
「俺も
特に道場破りする時は毎度毎度フクロにされて―――」
「ごめんあたしの納得と反省返してくれる???」
ちなみに、可奈美を介して送られた申し込みの手紙であるが。
後日―――了承の返事が返って来るのだった。
・
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「いらっしゃいませご主人様!!!!」
恥ずかしさを無理矢理誤魔化すような大声が、少々手狭な店内に響く。
発生源はメイド服の上にスカジャンという、前衛的スタイルの店員から。
小柄な体躯に整った顔立ち、そして吊り上がったキツめの眼差し。
一見すればチンピラ子供、あるいは悪ぶった小学生程度にしか見えないだろう。
だが―――瞳の奥から滲み出る迫力はどう見ても素人ではない。
例えるなら血に飢えた肉食獣、あるいは獲物を噛み殺す猟犬と言うべきか。
迂闊な真似をすれば次の瞬間には、頭が弾け飛んでもいてもおかしくない。
やるかどうかは別として、それが実行可能なだけの力を彼女は持っている。
よって随分な挨拶を受けた2人―――宗吾と美野里は思わず目をぱちくりさせた。
この店を訪れたのは本当に偶然だった。
仕事の達成報告と報酬受け取りの為に足を運んだオタクの聖地こと秋葉原。
治安悪化もあり、数か月前と比べれば人通りも少なくなったがそれでも賑わいの絶えない街。
指定された場所で依頼人と話を終えた頃には―――稀にある騙して悪いが案件ではなかった―――昼過ぎであった。
時間的に今からリコリコに向かっても遅くなる。
そう判断した2人は近場で食事を済ませる事にした。
最近の騒動で閉店した所も多いが、それでも適当に歩けば飲食店はそこそこ目に付く。
そういう訳で訪れたのがこの店―――『メイド喫茶スクワッド』だった。
選んだ理由は特にない。
強いて言うならば、一度くらいはメイド喫茶に入ってみたかった事。
次に最初に目に留まった店だから、という程度のものだ。
だから彼らは知らない。
この店が表向きはドリフター互助のDB拠点である事を。
実際はそれを隠れ蓑にした
「ねぇこの店ってまさか」
「だろうなぁ……荷物は少し離しておくか」
座席へと案内された後、2人は足元に置かれたカゴへ手荷物を入れる。
―――当然、持ち歩けるよう偽装された武器ごと。
そしてやや離れた位置、すぐには手に取れない場所へと
すると、こちらにさりげなく向けられていた視線が最小限のものとなった。
おそらく非武装状態である事をアピールしたからだろう。
一般の客ならともかく、それなりに“出来る”相手が来たのなら当然の対応だ。
よって気分を害する訳もなく、テーブルに貼られたメニューへと目を走らせる。
「初めての方限定ぴなもえセット……お嬢様限定きゅんきゅんセット……。
話には聞いてたけど、色々スゲーなおい。
マジでこんなのあんのかよ」
「私もネット知識でしか知らないからなんとも。
学園都市でメイドって言ったら
美野里の脳裏を過るのは“Cleaning&Clearing”と呼ばれた精鋭部隊。
何度か共同任務を―――戦場はそれぞれ別だった―――した仲だ。
メンバーの顔こそ知らないが、その活躍はまさしく獅子奮迅。
任務失敗の話は噂さえ聞いた事もない。
(私がいなくなった後、どうなったんだろ……考えても意味無いか)
とりあえずメニューから適当にオムライスセットを注文する。
流石にメイドさんと写真セットは―――主に美野里の―――羞恥心が勝ったので止めた。
思わず宗吾が苦笑するとテーブルの下で脛を蹴られた。
「しかしまあ、本場の
批判とかも結構あるんだろ? こういう店って」
「そういえば宗吾さんの世界、っていうか時代はまだなかったんだっけ」
「なんか噂で聞いた事あるくらいか。*1
……あ~、そういやちょうどそれくらいの頃か。連中とやり合ったの」
連中、という言葉に美野里が首をかしげる。
どうやら興味を惹かれたようだった。
注文した品が来るまでの時間潰しも兼ねて口を開く。
『ブフォッ!?!?』
『ちょ、ネルさんどうしたんですかいきなり!?』
少し離れた場所で吹き出すような声がした。
「ごめん、なにその……イカれた言葉」
「そう思うだろ、俺も思う。
なんでもロンドン発祥のメイド保護組織? とかいう連中でな。
マジカルメイド教団とかの秘密結社相手にメイド保護って名目のカチコミしてた」
「ひょっとしてハーブキメてない???」
「俺は正気だしあいつらは素で狂ってたわ、うん」
しみじみと呟きながら宗吾は頷く。
思い返すだけでも随分な連中であったと思う。
自分も真っ当とは言い難いが、アレに比べればマシでありたいとも。
メイド愛好家たちがメイド保護の為に結成した“MMM”。
メイド服を脱がして無理やり寝巻きにする“水銀旅団”。
男装こそが女にしか出来ない最高に男らしい行為と謳う“バレット・ボーイ・ラバーズ”
自分たちこそ真祖と宣う“大英帝国マジカルメイド教団”。
秘密結社、組織はいつの時代どの国でも数あれど。
ここまで螺子の外れたのはどの世界でもそういないだろう。
―――むしろいたら困る。
「特に俺が見た限りだと……水銀旅団が特に酷かったか。
欲望の塊っつーか、ほとんどは女の子の写真を撮るために集まった集団。
そのためならどんなえげつない事も平気でやってやがった」
なにせスタンバトンでメイドを気絶させてまで写真を撮るほどだ。
至近距離から胸の谷間撮影、スカート内部激写、縄で縛って緊縛写真に仕立てあげるなどやりたい放題。
しかもその撮った写真は有料サイトにアップするというオマケ付き。
これが活動内容の一部でしかないというのだから救いようがない。
他にはどんな事をしているのか、当時の宗吾は知る気にもなれなかった。
そもそも出くわした瞬間斬りかかっていた。
「あいつら全員寝間着に枕ってふざけた装備のくせにしぶとくてな。
正直斬りごたえはあったが……自分から積極的に関わりたくない類」
「安心して私もだから。
そんなの見たら、逃げるか鉛玉ぶち込む自信ある」
『嘘だろ、マジで実在したのか……』
『あのネルさん? 本当に何してるんですかそんな所で???』
こっそり聞き耳を立てていた店員がそんな事を呟いたが、2人には届いていなかった。
「んで、そんな
終いには過剰反応した“矛ノ会*2”……右翼の連中と合わせて5つ巴の抗争に発展して」
「地獄みたいな展開ね」
「ちなみに俺は“矛ノ会”の傭兵として戦う事に……」
「馬鹿じゃないの?」
「その件に関しちゃ反省してる」
ちょうど武者修行のため香港へと渡る前。
路銀稼ぎと修行も兼ねて依頼を受けたのが間違いであったと宗吾は語る。
彼の人生トップ10に入る失敗だった。
「最終的に全部いい感じに(トップ連中ぶった斬って)削ったら日本から出ていったんだったか。
―――――この世界にもいないよな?」
「いてたまるか」
『……いるかもしれねえんだよな』
その後、注文したオムライスを完食し2人はリコリコへと戻るのだった。
なお、しばらくスカジャンメイドの少女が頭を悩ます事となるが。
――――それはまた別の話である。
・
・
・
都内に数多く点在するサマナー御用達の施設―――“邪教の館”。
悪魔合体を主なビジネスとするこの場所に、少女の絶叫が響き渡る。
幸いにも、よくある合体事故での絶望の叫びではない。
施設の奥、
少女の前方、少々小さめのガラステーブルの上にあるのは都内全域の地図。
そして放り出されるように置かれた水晶製の
「ここまでやっても駄目って事は何処かの結界か異界で匿われてる。
……あるいは、最初からこの世界にいないかね」
「絶対にいます、私の
机を挟んだ向かい側からの言葉に対し、がばりと少女は顔を上げた。
| チャネラー | 九条ななみ | Lv52 |
さらさらとした銀髪に紫水晶のような瞳。
人形のように整った容姿と白磁の如き肌。
絵画から出てきたと形容するしかない姿。
すれ違えば10人中10人が振り返る―――そんな美少女だった。
「そして再会したら素敵! 抱いて! あの女と別れて!!
このコンボを決めるんです絶対―――!!」
「はいはい頑張れ頑張れ、応援してるから」
――――ただし中身は非常にクセがあった。
というよりクセしかない。
幻想を一瞬で壊すタイプの人間である。
呆れながらななみの向かいにいた人間―――美野里がコーヒーに口をつける。
……微妙、否、不味い。
インスタントなのもあるが、ミカの淹れたリコリコの物に舌が慣れた弊害であろう。
残すのも嫌なので一息に飲み干す。
「ふぅ……実際、
縁のある物使ってダウジングしても駄目なら地道に探すしかないでしょ。
私もそうしてるし」
| 《マップ・ダウジング》*3 | ESPまたはチャネリングに分類される超能力。 探し物、失せ物や人など地図の上で振り子を使って探し当てる。 サイコメトリー能力を合わせて使えば、尋ね人の持ち物などから イメージを持つことができ、成功率にプラス補正。 |
美野里が彼女、九条ななみと繋がりを持ったのは偶然だ。
よく利用している邪教の館のバイトで、自分と同じ
そういった共通点から話をするようになり、やがて“先輩”とやらを探している事を聞いたのだ。
なんでも元の世界では、自分も少し巻き込まれたあの“受胎”とやらに関わっていたらしい。
敵を投げては千切りを繰り返すうち、“先輩”と逸れいつの間にかこの世界にいたとか。
話の内容からして相手は彼女持ちかつ、ななみの一方的な片思いであるようだが。
しかし、探している相手がいるという点では自分と同じである。
だからこうして、合体や調べ物の合間を縫って互いに失せ人探しの協力をしている訳だ。
―――もっとも、どちらも成果はいまだにゼロであるが。
「フフフ……探すためには衣食住揃ってなきゃ駄目なんです。
その為にはこんなブラック環境で働くしかないんです。
カオスのおじいちゃんのとこで弟子入りしてた経験があって良かったのか悪かったのか」
ここじゃマネカタからカツアゲできねー、などと呟いているが美野里は無視する。
悪魔合体師はどこでも過労死寸前まで扱き使われる状況だ。
仲魔の合体計画をあれこれ考えている身である。
酷な話ではあるが、ななみにはこのまま頑張ってもらいたかった。
「でも、先輩から預かったこの“婚約マガタマ”に“婚約ヒモロギ”使っても駄目とか……。
この間のレイドで手に入れた宝石売り払って、もっといい触媒買おうかなぁ?」
「無駄遣いだから止めなさい。
それとなんでも婚約って付けるのも」
「これも既成事実作戦ですよ。
先輩が諦めるまでぜぇったい諦めないって誓ったので……っ!!」
「倫理観はともかく、その熱意は素直に凄いと思う」
自分も仲間や知り合いを探す身だが、これほどの熱量があるとは決して言えない。
そういった点で、この少女はすさまじい意志力の持ち主だろう。
―――真似はあまりしたくなかったが。ぶっちゃけストーカーである。
「……そういえば、あんたの言う先輩ってどんな人なの?
今まで詳しく聞いた事無かったけど」
「ん、先輩ですか?
名前は“ハクジ・セイト”っていって、私はあだ名のダンシ先輩と呼んでいたんですが―――」
少々早口になりながら、ななみは想い人について語り出す。
「性格はちょっとスケベで優しくて明るくてどこか抜けてて、割と考え無しで突っ込んで後悔する事もしばしばあるんですがそこも可愛くてぶっちゃけ濡れる時も、ではなくキュンとする時もあってスケベで何だか放っておけなくてでも仲間がピンチだと駆けつけて助けてくれるんです。それとカッコつけてる時は空回って悶える事もあるけど自然体の時はさらっと良い事も……初めて会った時なんて私がチンピラに絡まれているのを――――」
「うん、もういい分かったから。
先輩が大好きなのはよく分かった」
あまりのマシンガントークに美野里は途中でストップをかけた。
おそらく、この休憩時間が終わるまで永遠と話し続けていたのが直感に頼らずとも分かる。
「……それに、たとえ私を知らない違う先輩だったとしても。きっとこう言うと思うんです。
“覚えてなかったらもっかい自己紹介すればいいんだよ”って」
最後に、ななみは少しだけ微笑んで締めくくった。
「ループだの並行世界だの今は棚に上げます。
―――とにかくあの人と会って話す。全てはそれから。
その為ならどんな困難だって乗り越えてみせる」
「――――隣に彼女がいたら?」
「正面から寝取りに行きますが何か???」
美野里は思った―――恋の情熱は出来る限り程々にしておこうと。
あと顔も知らぬ先輩に心底同情するのであった。
次回、レルム内でのちょっとした事件()を予定してます。