真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
―――その日は朝から調子が良かった。
頭は雪を溶かした水のように冷たく冴え渡り曇り1つありはしない。
肉体はかつてないないほど滑らかに自らの意志へ忠実に従う。
この世界に来てから―――否。
間違いなく己が生涯最高の状態である事を宗吾は確信した。
今ならば、習い覚えた技全てを。
過去のいつよりも速く。
過去のいつよりも強く。
過去のいつよりも鋭く。
十二分に繰り出すことが出来るだろう。
その自信がある。根拠のなき妄想では断じてない。
言葉にする必要のない確信としてだ。
「――――――」
呼吸を1つだけ行う。気がつけば息をするのを忘れていた。
就寝前の鍛錬を終えて寝ていただけのはずなのに、心拍が際限なく高まり続けている。
このまま口から心臓が飛び出したとしてもおかしくないと納得するほどに。
「は、はは……そうか、そういう事か―――今日なのか!」
ベッドから下りるやいなや、愛剣を掴んで部屋から出る。
このまま拠点の外へと飛び出し、本能が命ずる場所へ向かうつもりだ。
何故己がこうまで昂っているのか―――理由など今更問うまでもない。
「……行くの?」
―――その前に、背中へと声が投げかけられた。
足を止め振り返ると、既に着替え終えた相方の姿がそこにある。
今の時刻は体感的に日が昇る寸前といった所だ。
普段の彼女の起床時間からすると随分早い。
おそらく、いや間違いなく。宗吾が起きるよりもずっと早い時間からそこに居たのだろう。
ひょっとすれば眠らずに待っていたのかもしれない。
今日この日、一体何が起こるのかを無意識に感じ取って。
「ごめん、行く。悪いが下手しなくても死ぬ」
相方の瞳に浮かぶ不安を見抜き、その上で宗吾は謝った。
今から自分が行おうとしているのは、客観的に見て自殺行為同然だ。
常の彼であればこのような無謀をそうそう犯すはずもない。
だがそれでも―――これだけは譲れない。
剣士として、剣者として、剣の道に生きる剣鬼として。
しばらくの間、無言で目を合わせ続ける。
やがて、いつものように呆れ交じりのため息が美野里から零れた。
「ほんと馬鹿なんだから。
……なら私も行くわ。いいでしょ、
それと――――」
一歩踏み出して隣に並び立つと、美野里は抱えていた物を宗吾へと差し出す。
それは丁寧に手入れされた防具一式。
来る日の為に、仕事で各地を巡りながら集めたものだ。
「これ忘れてどーすんのよ。
興奮するのは良いけど暴走は駄目。
時間の余裕はまだあるんじゃないの?」
「……ああ、そうだな。悪い助かった」
当然だがこの絶頂は長続きもしなければ無償の物でもないだろう。
翌日には燃え尽きた蝋燭のようになっていても不思議ではない。
しかし、美野里が言うように時間的はまだある。
無意識に先走っていた心に、自分もまだまだ未熟と苦笑して受け取った。
余裕のない剣には焦りが生まれ、焦りのある剣には隙が生じる。
なら今は、少しでも余裕を作らねばならない。
――――
剣士として、現時点の己が全てをぶつけなければならない相手と。
死力を振り絞り魂を燃え上がらせてなお届くかどうか分からぬ怪物と。
恐れがある―――死ぬ事ではなく剣が届かないかもしれない事が。
興奮がある―――“あの日”以来、ずっと待ち望んでいた時が来たから。
決意がある―――必ず斬ってみせると。
運命の時は、すぐそばまで迫っていた。
・
・
・
456:名無しさん@LV上げ中
駄目だな宝石ある程度揃えても斬れる絵が見えねぇ
457:名無しさん@LV上げ中
同じく。
躱されて輪切りにされました!
458:名無しさん@LV上げ中
こっちはあの万能魔法で命削られてから首チョンパ。
そもそも速過ぎるってあいつ。
459:名無しさん@LV上げ中
イメージだけでこれだぞ。
ブーストもいいがやっぱ地力を上げんと話にならん。
460:名無しさん@LV上げ中
なのでレイド復刻はよ(
461:名無しさん@LV上げ中
アウラ、経験値寄越せ
462:名無しさん@LV上げ中
数揃えて斬りかかればワンチャン?
戦いは数だよ兄貴!
463:名無しさん@LV上げ中
サシで斬り殺したいんだよ!!!!!
464:名無しさん@LV上げ中
魔人相手にサシで挑もうだなんて……
頭おかしくありません???
465:名無しさん@LV上げ中
>>464 そうか、本音は?
466:名無しさん@LV上げ中
そうですか、本当は?
467:名無しさん@LV上げ中
隠さず言えよ。
どーせここにいるのは全員同じだろ。
468:名無しさん@LV上げ中
あのつまらんって顔を首ごと斬り落としたいよぉおおおおおお!!!!
もちろんタイマンでな!!!!!
469:名無しさん@LV上げ中
物理は通るんだ、貫通なくても斬れはする。
問題は当たらないことであって。
470:名無しさん@LV上げ中
反撃なら物によっては必中ですが火力も手も足りませんね。
471:名無しさん@LV上げ中
物反鏡使って突っ込んだ阿呆もいたっけ。
当然の如く貫通されてたが。
472:名無しさん@LV上げ中
どう見ても抜けてくる気配でしたのに。
躱すか防ぐの2択でしょう。
473:名無しさん@LV上げ中
防ぐ方はともかく、あっちは命中と回避にバフデバフってくるから避けらんねー
ソロだと解除する暇も無いんだぞ。
474:名無しさん@LV上げ中
2回行動したい、切実に……っ!
475:名無しさん@LV上げ中
そんなに動けてもお前じゃ結果は変わらねーよw
と、実際斬られたサイボーグ剣士が申します……
476:名無しさん@LV上げ中
実体験かい!!!!
477:名無しさん@LV上げ中
ガチガチに防具固めるのは前提。
意味ない? そうか、しらん。
478:名無しさん@LV上げ中
地方巡って修行するかー。
誰か一緒に行くやつおりゅ?
479:一般剣士@LV上げ中
上野レルム、匂いがした。
斬りに行くから見たいやつ来い。
480:名無しさん@LV上げ中
は?
481:名無しさん@LV上げ中
あ?
482:名無しさん@LV上げ中
はい?
483:名無しさん@LV上げ中
マジで、行くわ
484:名無しさん@LV上げ中
先越されたぁー!!?
「何してるの?」
「んー、ちょっと連絡をな。
たぶんこれでいいや」
スマホを弄り終えると空いた方の手に持っていたピザ、その最後の1ピースを一息で頬張る。
最近よく食べるようになったお気に入りの1つだ。
口の中に広がるチーズとベーコンの塩気、ケチャップの酸味をマッスルドリンコで胃の中に流し込みながら、宗吾と美野里は所々瓦礫の転がる道を行く。
彼らが今いるのは都内に複数存在するレルムの1つ――――“上野レルム”。
つい先日、
現在は崩れた建物の解体と建て直しも進み、大部分は元に戻っている。
しかし主要な道を少し外れると、放置されたままの箇所もちらほらと目に付く。
実際はまだまだ荒れた状態―――租界というよりスラムに近い。
その証拠と言わんばかりに、すれ違う人間たちもどこか昏い色を瞳に宿しているものが多い。
監視に取り締まりを行う傭兵や自警団も数が少なくなっている状況だ。
おそらく、警戒心が少ないものは物陰にでも連れ込まれてロクな目に遭わないだろう。
本来であれば仕事でもない限り、この2人が訪れる理由はない。
ただなんとなく、宗吾が勘任せにぶらついた先がここだったという話。
そのまま歩く、ひたすら歩き続ける。
時折雑談を挟みながら曲がり角を曲がる。
積み重なった瓦礫によって作られた道なき道を進む。
途中で浮浪者の集団とすれ違い、胡乱な目で睨まれながらも無視して――――。
ざあ、と一陣の風が2人の頬を撫でた。あるいは死神の鎌が喉を掠ったのだろうか。
……否。勝手にそう感じただけだ。
この先にいる
「―――――カハッ」
しかし宗吾は笑う、怯え竦むどころか歓喜を露わにする。
これが意味するのは取るに足らぬ雑草ではなく。
これより死合うに足る者と認められた証拠である故に。
その様子に努めて平静な口調で美野里が言葉を紡ぐ。
「ここで見てる……あたしは、ここに居るから……っ」
「ああ頼む――――見届けてくれ、美野里ちゃん」
ここで己の戦いを見届けて欲しいと、ある意味最も残酷な願いを口にする。
彼女の本音、今すぐ引き返して欲しいという思いを理解した上で。
返答代わりに、美野里は全力でがら空きの背中を
―――――ここに来て進む以外の選択肢など存在しない。
剣鬼は少女を残し、ゆっくりと歩を進めていく。
少しばかり進むとそれなりに開けた場所に出る。
おそらく元は公園か何かであったのだろう広場だ。
人か悪魔が相当大暴れしたのか、戦闘による破壊跡が他の場所よりもかなり目立つ。
地面や瓦礫に残る変色した血痕がそのすさまじさを伝えていた。
ある意味で
羽飾りのついた大きな帽子に赤と黒地のロングコート。
全てを射抜くかのような金色の瞳と鋭い目つき。
背中に背負っているのは身の丈ほどある
そして、先程から自分を襲っている戦気の発生源。
その姿を見間違えるはずもない。
かつて裏闘技場で出会った時とは異なる戦装束であろうとも。
曰く、万人に等しく凶事と死を撒き散らす悪魔。
| 魔人 | Lv87 |
即座に鯉口を切る。同時に相手も剣を抜き放つ。
どちらも言葉を発さない。前口上どころか名乗りさえもしない。
視線、呼吸、剣圧。この場においてはそれだけで十分過ぎるから。
―――戦いの火蓋が切られた。
| 《スピードスター》*1 | 悪魔のバトルスピードへの影響が50%増加する |
魔人が加速する。風よりも速く、音よりも疾く。
必中必殺を確実のものとすべく、死の舞を踏む。
半端な者には反応さえ許さない、絶殺への引金。
| 《スピードスター》 | 悪魔のバトルスピードへの影響が50%増加する |
魔人は
「これは―――」
「初手は貰う」
| 「鬼神楽」 | 草薙の剣*2+魔晶剣*3 |
| 《ATTACK》*4 | 剣相性の通常攻撃。 草薙の剣の通常攻撃は前方複数に1~3回 |
| 《宿曜経》*5 | 敵・味方とも戦闘中の自動効果が発生しない。 ヤマタノオロチが保有する能力の1つ。 |
本来ある筈の物がない違和感が生んだ一刹那にも満たぬ停滞。
大多数の者にとっては隙とも言えぬ空白。
その間隙に―――必斬の意志を以て3つの閃刃が疾った。
・
・
・
「――――なんだありゃ?」
「大道芸の練習か、こんな所で」
「はえーなぁ……早過ぎて何してるのかも見えないって」
「高レベル同士で遊んでやがんのさ、いい御身分だぜ」
「……でもすごい。本当に斬り合ってるみたいだ」
―――人が集まる。
上野レルム復興のために働く作業員。
小金稼ぎの途中で通りがかった小悪党。
やる事もなくぼうっとしていた浮浪者。
善人悪人老若男女、それどころか人か悪魔かさえも問わず。
まるで炎に誘われる蛾のように。
多くの者がそこで足を止め、その光景に見入っていた。
かつて公園として存在していたレルムの一画。
その中心で行われているのは2人の剣士による、息継ぐ暇もない
片方が相手の刃をギリギリで避けてから斬り返す。
ただひたすらにその繰り返し。
どれ一つ取っても同じ太刀筋はなく、また同じ避け方は一度たりとてない。
無限に近くある剣の型を延々と続けているように見えるだろう。
―――最初に通りがかった者が見つけてから、
「……どうする?」
「んなもん何もしない一択だろ。
割り込む余地あるように見えるのかお前」
「ゼッテー死ぬよなぁ……よりにもよってオレらのシフト中に面倒な事しないでくれよ」
その異常さを、これが遊びでも大道芸でもない事を理解する者たちもいる。
例えば、このレルムの警備を担当するDBたち。
連絡を受け現場に急行したはいいが、繰り広げられているのは目を疑う光景だった。
先日このレルムを襲った《神》とついでに多数の剣士を輪切りにした魔人。
その魔人相手に単独で渡り合う若い剣士。
この2名による人知を超越しかける
現状の戦力では鎮圧する以前の問題なのをアナライズせずとも肌で感じる。
仮に一歩でも間合いへ踏み込めば、その瞬間膾斬りにされる未来しかない。
よって自分達に出来るのは待機。この斬り合いの結末を見届ける事だけだ。
「一応聞くけどさー、あそこで動画とか撮ってるバカはいねぇよな?
いたら斬り殺したいんだけど。
つーか斬るわ」
「何人かそれらしき動きを見せましたが問題ありません。
某が剣気を飛ばして動きを止めましたので。
余計な騒ぎをするのは後にしましょう」
「《
今後の参考になるかもだ……結果はどうあれな」
「……なるほど、帽子野郎の業を幾つか殺してやがるのか。
道理で俺らが殺られた時の動きが無い訳だ。
なるほどねぇっ!!」
例えば、掲示板のコメントを読んで駆けつけた剣士勢。
その多くは
マタドールにどのように斬られたか、どのように死んだか。
敗北者の習いとしてその情報を提供する事となった。
なので将来的にはリベンジをするつもりではあるが―――今は見に徹する。
古今東西あらゆる剣士が夢見る剣戟の頂点、それを魂に刻み付けるために。
いずれその領域へ辿り着く、研ぎ澄まされた刃よりも鋭い誓いを胸に秘め。
「おやおや、これはどういう事でしょうか」
「一見すればただひたすらに攻撃と回避の繰り返し。
ここまで当たらないのも非常に珍しいですが―――」
「あれほどの魔人であれば
ですがやっているのはただ斬り返すだけ」
「手加減でしょうか?
しかしそのような雰囲気は欠片も見えません。
あの青年が何かしている可能性もありますね」
例えば、一部のメンバーから情報提供を受け現場に到着した《黎明の手》。
複数のビデオカメラを回しながらこの戦いを記録する。
情報があまり出回っていない魔人のデータを抜く貴重な機会だ。
同時に誰もが真剣に推論と考察を重ねながら目を離さない。
「複数回動かない理由?
それは簡単ですよ」
とあるボンボルドが他のボンボルドの疑問に答えた。
「彼らの中ではまだ終わっていないのですよ、1手目が。
あれは攻撃と回避ではなく、
……言っておいてなんですが自分でも信じられませんねこれ」
――――全てのボンボルドが絶句した。
・
・
・
戦いとは読み合い、そして忍耐の競い合いとも言える。
筋肉の収縮、重心の位置、視線の向き、呼吸の仕方etc。
自身が得られる遍く情報から対象の行動を予測し、それに対応する動きを繰り返す。
やがて相手が、もしくはこちらが崩れた一瞬に勝敗は決するのだ。
もちろんこれは数ある戦闘理論の1つに過ぎない。
共通する部分はあれど明確な差異がある戦法。
あるいは根底から異なるロジックも存在するだろう。
人の数だけ、歴史を重ねた分だけ戦い方は無数に広がっていくのだから。
―――ただ、この瞬間において要求されるのは忍耐である事に間違いなかった。
| 《見切り》*6 | 相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。 回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。 相手は回避や防御にペナルティ。 攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。 |
鼻先に
しかし胴体に風穴を開ける事を企図した刺突に手ごたえはない。
精々がロングコートの端を掠めるに終わる。
| 《見切り》*7 | 相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。 回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。 相手は回避や防御にペナルティ。 攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。 |
弾丸よりも速い刺突を見切り、マタドールが反撃する。
悪魔が持つ
使わないだけで使えない訳ではないと言わんばかりに。
積み重ねた死山血河と鍛錬の果てにある太刀筋が襲い掛かった。
「――――――」
頸、胴体、腰を狙った3連斬を再び見切り、もう一度斬りかかる。
戦闘開始から今まで、この終わりの見えない繰り返しだ。
一体どれくらい続けているのかもう分からない。
時間間隔は曖昧で、一瞬のような気もすれば一時間のような気もする。
分かるのはこの連鎖が永遠ではない事。
刹那でも気を抜けばその瞬間終わる事。
そして―――
第一に、宗吾はマタドールの防御相性をある程度知っている。
特にこちらのメインである物理は素通し―――反射でギリメかる心配は少ない。
これが人間なら装備で幾らでも変えようがあるが、悪魔である以上その可能性は低いだろう。
主にマタドールと交戦経験のある者―――千束や輪切りにされた剣士から入手した情報だ。
特に疑う必要もない。
第二に、
一見何処までも続くようなこの舞踏であるが。
実はマタドールがその気になればいつでも終わらせられるものに過ぎない。
そう、
そうすれば手番が向こうに回る。
己に能力強化を行い命中率を上げてから改めて攻撃すれば良い。
探りも兼ねて通常攻撃、そこから大技に繋げるといった所か。
宗吾が行っているのはスキルによらない通常攻撃。
鋭さこそあれ、魔人の膨大な体力からすれば微々たるものでデメリットは無いに等しい。
合理的に考えればとうの昔にそうするべきで……魔人はその札を最初から放棄している。
何故か―――それは魔人が
闘牛士とは赤きカポーテを纏い、華麗なる体捌きで猛牛と闘う戦士だ。
断じて相手の突進を正面から受け止めるような真似はしない。
それは単なる力自慢であり、闘牛士としての
無論、この魔人は通常の悪魔とは異なる。
情報生命体であるゆえ困難な自己矛盾も平然と行えるに違いない。
むしろその思い込みさえ戦略に組み込んでくるだろう。
だから結局はシンプルな、しかし最も譲れない理由。
――――ここで引けば負けを認めた事になる。
かつて取るに足らぬと思った剣餓鬼の挑戦、純粋な剣腕の競い合い。
興が乗ったのもある。そして乗った以上逃げる訳にはいかない。
例え兵法と分かっていても―――漢には意地とプライドがある。
そこから更に数十合を重ねて。
互いの動きのクセ、呼吸、思考の掌握と先読みを続け。
やがて風切り音や踏み込みの音さえも無駄なものとして削り切り。
「――――ッ」
静寂の世界での斬り合いの最中、宗吾の目に汗の雫が飛び込んだ。
幾千幾万のパターンに紛れ込んだ
これ自体は問題ない、反射で目を閉じるような鍛え方はしていない。
だがしかし、視界がほんの僅かに滲んだのは事実。
それを闘争の化身が見逃すはずもなく、僅かな歪みに斬り込んで――――。
八瀬宗吾は人間だ。悪魔と違って生理現象は存在する。
飛び散った汗が目に入る事など、血が流れ込むより可能性は高い。
だから想定している。だからそこを突いて来る可能性も承知の上。
よって―――急所を狙った刃がマタドールを捉えた。
深々と頬骨を削り、帽子とピアスの付いた耳が鮮血と共に宙を舞う。
続いて胸に刻まれた十字傷は
観客のどよめきが広がるが、どちらも意に介さない。動きが止まる。
宗吾は愛剣を通して伝わった初撃の感触に。
魔人は己の見切りを超え正面から斬られた事に。
そして互いに現実が意識へと追いついた瞬間――――――。
「……カ、ハハハハハハ――――ッ!!!!」
剣鬼が笑う。たとえ一時の幻想であろうと、白刃で捉えたことに歓喜して。
「……ク、ハハハハハハ――――ッ!!!!」
魔人が笑う。たとえ一時の幻想であろうと、この身へ届かせたことに歓喜して。
永劫に続くと思われた死の剣舞が終わる。
真の死合いはこれより始まるのだ。
片や戦場界を制覇する畏怖すべき
片や戦場の常軌を逸して羽撃く
優劣勝敗は武の神であろうと知り得ない。
―――地を蹴ったのは同時だった。
後篇もなるべく早めに書き上げます。