真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
カキン、と金属特有の甲高い音が響く。
それは持ち主の手から得物―――刀が弾かれた証。
刀はくるくると回転しながら放物線を描き、やがて地面へ突き刺さるように落下する。
「これで5連勝……気分はどうだ、ん?」
「最悪極まりねーよ、色々と」
刀を弾いた側―――藤原塔也は軽く挑発するように笑って残心を解く。
刀を弾かれた側―――八瀬宗吾は荒く息を吐きつつその場へ座り込んだ。
放課後、生徒会の仕事が無い日に偶に行う1対1の模擬戦。
そこで宗吾は塔也相手に5連敗を喫していた。
剣士同士で互いの手札をよく知り、実力も拮抗する2人だ。
大抵の場合は一進一退で、どちらか片方に白星が偏る事は珍しい。
これは塔也が急激に腕を上げた結果……という訳ではない、むしろその逆。
「当たり前だ―――そもそも風邪を引いて絶不調の相手に負けるか馬鹿め」
単純に、宗吾がまともに戦えるような体調でないのが全てである。
前日、疲弊した状態でも剣を振れるようと滝に打たれながら修行したのが原因だ。
当然のように風邪を引き、普段の半分も技のキレがない。
挙句、今度は風邪のままでも戦えるようにと無理に模擬戦を挑んだ結果がこれであった。
「馬鹿じゃねーよ、馬鹿は風邪引かないって諺知らんのか。
国語の勉強し直して来いよ」
「それは風邪を引いた事にも気付いていないという意味だ。
お前はいっその事小学校からやり直せ馬鹿」
「俺は気付いてるから関係ねーな、この馬鹿生徒会長」
「馬鹿な事言って論点をずらすな書記の癖に」
ちなみに、彼らの役職はくじ引きで決めたものである。
近くで訓練をする生徒たちが“またやってる”、“馬鹿のゲシュタルト崩壊”と呆れ顔になるが2人は止まらない。
そのまま口論は一層ヒートアップしていく。
「そもそも何故“休む”という選択肢が無いのだお前は!?
生徒会は基本的にブラック企業ではない。
病人は大人しくしていろ!!」
「調子最悪でも剣振らなきゃいかん時もあるだろーが!
それに備えて何が悪い!?
いつも万全で戦えると思ってんのかバーカ!!」
「前提として自己管理が出来ていないだけだろう!
しつこく頼み込んでくるから付き合ったが今日はこれで終わりだ。
家に帰って剣を振らず静かに寝ろ、いいな!?」
「……もう1回くらい駄目か?」
「断る」
「どうしても?」
「くどい」
「そうか………実はお前の妹ちゃんと総次郎がデートしてる。
俺はその足止めを頼まれてるんだわ。
どうだビックリしたか?」
「―――キサマヲコロシテアイツモコロス」
「よっしゃあもう1回やろうぜ!!」
「そこをどけぇっ! 妹はまだ中学生だぞ!!?
あの
そのまま本日6度目の模擬戦、もとい時間稼ぎが始まった。
なお結果は乱入して来た新が両者殴り飛ばして無効試合。
一方で総次郎は総次郎で新たなトラブルに巻き込まれていたが、それはまた別の話である。
・
・
・
| 「シーンBGM:創痕」*1 | 交渉など無い、逃走はあり得ない。死力を尽くすべし。 BGM『創痕』 |
「―――まずは探るか」
| 《疾風の咆哮》*2 | 3ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、 味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。 |
| 《乱れ打ち》*3 | 手技属性、敵全体に物理小ダメージ。 敵全体に魔封(沈黙)の追加効果。 |
マタドールが動く。
疾風を身に纏い放たれるのは魔封じの刺突。
これまでの物よりなお鋭くなった一撃。
宗吾は回避の為に体を捻るが躱しきれない。右肩が抉られる。
剣を伝いマタドールが感じたのは、鉛に沈められたかのような重い手応え。
魔封も入った様子が無い、否―――
思考と並行して手首を返し、再び刃を走らせる。
| 《ATTACK》*4 | 剣相性の通常攻撃。 その斬撃は単体にて |
3太刀、いずれも急所を狙った斬撃の内2つは回避。
残る1つは腹を裂いたが、返って来たのは先程よりも硬い感触。
鷹の如き鋭い眼が切り裂いた服の下―――白き輝きの鎧を捉えた。
「
「結構苦労したんだぜ、手に入れるの」
| 《猛反撃》*5 | 攻撃してきた対象に中確率で剣相性ダメージ。 防御力無視及び必中。 ⇒オプションルール採用。 本来は剣相性のみだが、格闘攻撃であるなら万能含めて発動する。 とあるデビルサマナーとの模擬戦で完成させた。 |
| 《急所》*6 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
大気が爆散する音を伴う、肉体強度を無視した2連打。
木っ端悪魔なら原形を留めず粉砕されるであろう威力の反撃。
魔人はあえて踏み止まらず、勢いを利用して数歩分の距離を取る。
(ニヤリ中、だがそれ抜きにしてもあの動き。
やはりこの青年―――!)
記憶を掘り起こす。
かつてヒマつぶしで雇われていた裏闘技場。
目の前の青年とはそこで遭遇している。
仕事中、安ビールとホットドッグを奢られたのだ。
その返礼としてイメージトレーニングに付き合った。
ソウルはともかくとして強さはまるで足りていなかった。
時間から逆算しても、己とここまで戦える力を得られるはずがない。
外法によって無理矢理力を上げたとしてもここまでは不可能。
自らの内にある知識、経験を総動員し導き出される答えは1つ。
「貴様“ゾーン”に入っているのか―――面白い!」
| 「ハイ:HI」*7 | グッドステータスとして扱う。 ⇒「全能力が一時的に倍になる」 1/100の確率で発生する効果。 |
| 「絶好調」*8 | 攻撃力・防御力・命中・回避・クリティカル率が上昇、バステ付着率が低下 |
| 「ニヤリ」*9 | ・攻撃ダメージはおおよそ3倍に上昇。 ・クリティカル率アップ。 ・スキル命中率100% ・弱点および被クリティカル攻撃が無効化する。 |
それは極小の確率で発生する一時の幻。
200%のポテンシャルを発揮するという奇跡のような現象。
実質レベルが倍になったに等しく、当然ながら自らの意思でなれるものでもない。
ただこの日、この時、この瞬間だけは。
奇跡ではなく目の前の魔人を斬り伏せるという執念が引き寄せた必然であり。
\カカカッ/
| 剣士 | 八瀬宗吾 | Lv60(120) | 相性:全体的に強い、破魔吸収、呪殺無効 |
| ◆防具 頭:Aマックスヘルム(全対応) 胴:白桃海青(対刃物、体+2) 足:ローラーブレード(速度・回避率上昇、速+3) 手:鬼神の小手(呪殺無効、力+2) アクセ:悪魔のピアス(HP20%アップ) |
| 「命中のバンビーノ」*10 | 命中率上昇、攻撃回数複数の攻撃回数が多くなる。 |
剣鬼―――八瀬宗吾は本来なら届くはずもない超越者の域へと足を踏み入れていた。
「カハッ! ありがとよぉっ!!」
| 《デスバウンド》*11 | 敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。 術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。 ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業 |
| 《急所》*12 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
歓喜と感謝の叫びと共に7つの剣閃がマタドールに喰らい付く。
極限まで威力が跳ね上がった
―――手番が回る。
「ならこれはどうする」
| 《疾風の咆哮》*13 | 3ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、 味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。 |
| 《魂砕波》*14 | 万能相性。特殊魔法攻撃。 対象のHPを1にする。 |
加速と減速の咆哮、続けて魔人の手より放たれるのは魂砕く波動。
生命力そのものに干渉し極限まで削り切る死神の鎌。
「―――そいつは
迷うことなく、宗吾は刀を振った。
| 《魔法防御Ⅱ》*15 | 魔晶剣と魔晶杖で使用可能。 回避の代わりに使用する。 魔法攻撃1回に対し、魔晶剣(杖)の威力修正を魔法防御点に加える。 魔晶剣(杖)の属性攻撃に対応する相性の攻撃だった場合、 その相性に「強い」ものとして扱う。 この判定にクリティカルした場合、ダメージと効果を完全に打ち消す。 ⇒無効と裁定する。 |
| 《絆スキル:判定値上昇》*16 | 判定値を「絆レベル×10%」上昇する。 ⇒剣士仲間たちとの絆を使用。 ⇒彼らとの絆レベルは【4】である。 |
空間ごと
“魔法防御”―――魔晶剣を持つ者が使う対魔法用の防御技法。
理論上、例え万能であろうと嵌まれば必ず軽減、もしくは無効化する。
だがそれは飛来する弾丸を斬るよりもはるかに難易度の高い―――少なくともこの魔人相手には―――芸当だ。
これまでの観察があったとして、初見の魔法相手にここまで上手くいくはずもない。
ならこれは偶然か? ―――否。
「うおっしゃぁああああ!
やりやがったアイツ!!」
「体張った甲斐がありましたなぁっ!」
「残念です、あれも私が先に攻略したかったのですがね」
少し離れた場所で観戦する集団の1つから大声が上がった。
宗吾と同じ剣士であり、魔人に輪切りにされた経験のある者たち。
彼らがその身で受けた技を全て、
そして、マタドールもこの結果に一瞬目を見開く。
無形たる魔法、それも万能の力が破られた事を目の当たりにして。
宗吾が何を行ったのか理解した後、湧き上がったのは“それでこそ”という思い。
この程度で躓くようであれば、端から単独で挑む真似はしないだろう。
こちらの首を取る為、この青年はあらゆる準備をして来たのは間違いない。
―――よって、次に放つのは
「
| 《アンティクトン》*17 | 魔法攻撃。敵全体に万能属性で特大ダメージ。 攻撃力・防御力・命中・回避率を一段階低下させる。 |
再びの万能魔法。
だがこれは先のものとは比較にならない精度と密度だ。
生命力を削るどころか、まるで存在その物を否定する神の裁定に他ならない。
―――斬って防ぐのは困難。
―――躱すのはそれ以下。
―――受けるのは論外。
論理的思考ではなく第六感で判断。
よって宗吾が選んだのは第4の手段。
「平成ライダーの数知ってるか? ―――20人にも居るんだぜ」
| 《形代》*18 | 人形を作って、術者の身代わりに使用する。 本人の代わりに呪詛返しや 符術に分類されるカルトマジック。 |
同時刻、宗吾の部屋にある自作のフィギュアが1つ砕け散った。
“呪詛移し”。
古来より存在する人形を用いた呪詛、あるいは呪い避けの術。
消耗品かつデメリットもあるが、魔法および数少ない万能への対抗手段として、宗吾は普段からコツコツと製作していた。
彼の場合、作れるのは最も思い入れの深い仮面ライダーのフィギュアである。
無論、宗吾は純粋な術師ではない。あくまで補助目的に修めているだけ。
1つ完成させるだけでも困難であり、実を言えばストックの数はそれほど多くない。
ただ総数を知らぬ以上、相手にとっては1手無駄にするリスクを背負う。
馬鹿のように万能を連打するなら話は変わるが―――そのような手合いでもないだろう。
視線が交錯する。
「卑怯と思うか?」
「いいやちっとも!」
| 《デスバウンド》*19 | 敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。 術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。 ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業 |
| 《急所》*20 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
・
・
・
瓦礫まみれの公園は、今や剣戟による神楽の舞台と化していた。
ある種の芸術の域に達した魔人と剣士の殺し合い。
それに魅入られた観衆から離れた位置で、美野里は事の行く末を見守っていた。
ここまでは良い。ほぼ最善の展開を引けている。
相棒の連撃―――卑劣滅多切りと呼んでいる―――はこれ以上ないほど命中し、対して魔人の攻撃はそれほど深手を負わせてはいない。
この日の為に、彼の魔人を知る相手から超能力を用いた
その集大成がこの光景と考えれば当然とも思える。
それを踏まえた上で―――
まず前提として人間と悪魔では基本性能が違う。
10も上回れば単位が。40も超えれば別次元に。
例え実質的なレベルで上回っていようと、厳然な力の差がそこに存在する。
まして相手は
人間であれば消し飛んでお釣りがくる斬撃を10回以上受けてなお、マタドールの体力は半分も削れていないだろう。
単独で戦う選択肢自体が間違いであり、徒党を組まねば人に勝ち目はない。
―――だというのに。
「……全っ然諦めてないんだから。
斬り殺せるって欠片も疑ってないわよねあれ」
今なお剣を振るう相棒は敗北の可能性を全く考えていない。
自身の力を過信した愚か者だからでは断じてない。
心が勝利を疑えば、その時点で押し込まれると知っているからだ。
斬る、絶対斬る、斬り殺して勝つ。
力を使わずともその意思が手に取るように分かる。
別の場所にいる
ああいった人種がまだまだいる事にゲンナリするが、今はいい。
どの道、美野里はこの戦いに割り込むつもりはない。
そういう約束をしていたし、説得は全て暖簾に腕押しだった。
だから―――自分の出番はまだここではない。
「あんだけ苦労したんだから―――勝ちなさいよ宗吾さん。
負けたらタダじゃ済まないわよ」
自分の感覚ではなく、自分の相棒を信じて。
少女は応援を口にした。
・
・
・
―――手番が回る。
| 《疾風の咆哮》*21 | 3ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、 味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。 |
三度目の咆哮。
流れる血を置き去りに、音すら許さぬ速度でマタドールが駆ける。
最速最短距離で敵へと向かう弾丸のような疾駆。
構えは下段、切り上げを狙ったもの。
疾走とは相性の悪い構えだが、魔人の身体能力はそれを誤差とした。
(大技が来る―――!)
意に先んじて宗吾の肉体が回避運動に入った。
しかし強化と弱体化を重ねられた状態だ。
かと言って素直に喰らってやるつもりは毛頭ない。
迫る、逃げる、迫る、逃げる、迫る、逃げる―――果たして。
| 《見切り》*22 | 相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。 回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。 相手は回避や防御にペナルティ。 攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。 |
決め手は前方に出していた左足だ。
膝を全力で後方へ向けて押し伸ばし、全身の退避に成功。
動いた距離はほんの僅か。それでも、予測される斬撃の軌道から僅か数ミリ単位で脱出。
―――見事、
(いける、剣を振り切った所にまた連撃を叩き込んで)
「甘い」
| 《雷霆蹴り》*23 | 足技属性、敵2体に物理ダメージ。 術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。 魔人のHPで放たれる蹴りは想像を絶する。 |
―――都合のいい錯覚を知る。
「ぐ……がっ!?」
激痛と衝撃が共に現実を突きつけた。
知覚から発生源を逆算。受けた場所は胸。
おそらく胸骨と肋骨が粉々に砕けている。
防具が無ければ見るも無残な状態になっていたに違いない。
原因を推測する。
おそらく、予想していた軌道とタイミングがズレた事が負傷の理由だ。
(なんでズレた……っ!?)
目に映るのはマタドールが斬り上げた姿勢。そして不自然に片足の浮いた状態。
脳に電流が走る。
彼が一体何をしたのかを宗吾は理解した。
(
西洋剣術の一部にはそういった奇襲目的の技法がある事を思い出す。
おそらくはその応用。
攻撃の最中。回避される事を悟り、
恐るべきは常軌を逸した即応能力。
人間を上回る知覚機能、積み上げた戦闘経験によって磨かれた“勘”が合わさって成るもの。
喰らった側だというのに称賛せずにはいられない超絶技巧。
だが―――これは前段階に過ぎない。
(マズイ、浮かされてる!)
斬り上げを受け、衝撃で両足が地面から離された。
これが意味するのは1つ。身動きの取れない死に体にさせられたという事。
これより放たれるであろう“本命”への対処が極めて困難となる。
「では踊ろうか―――“血のアンダルシア”」
| 《血のアンダルシア》*24 | 敵複数に物理属性で大威力の攻撃を4~12回行う。 |
これまで宗吾が放ってきた7連撃を上回る
血のように赤い輝きを放つ刃に刻まれ、剣鬼は勢いよく吹き飛び地面へと叩きつけられた。
それを見た観衆からどよめきの声。
何が起きたのか理解していないのが大半だが、それでも剣士が追い込まれたのは分かる。
ある者は思った―――流石にこれで終わりだろうと。
ある者は思った―――そろそろ鎮圧に動くべきかと。
ある者は思った―――今更だが逃げた方がいいなと。
剣士達は思った―――ここからが本番だろうと。
検証班は思った―――もっとデータが欲しいから頑張ってくれと。
美野里は思った―――まだあの馬鹿は終わらないと。
「…………すげぇなぁっ今の業!!!!」
興奮を隠し切れない声と共に、跳ね上がるようにして剣鬼は起きた。
誰がどう見ても重傷だ。傷口からとめどなく零れる血は傷の深さを物語っている。
出血量からして持って1分程度……だというのに、その瞳には爛々とした輝きが宿っている。
当たり前の話である―――
マタドールは思った―――当然立つだろうと。
交差の際、斬り落とされた左の小指を見る。
死に体にされながらも最善手を掴む、天性の勘を磨いた果ての生存技術。
正直、今の業で仕留められると確信していた。
それを見事外されたのだ―――魔人もまた昂りを隠し切れずに口元が歪む。
「カハハァ―――ッ!!」
吹き飛ばされた距離を詰めるように、今度は宗吾が疾走を開始する。
迅い、しかしマタドールには及ばない
これでは不十分。
でなければ、
―――ならば、捉えられるようにするまでの話。
(これは、速度が一定ではない……惑わしか)
すぐさまマタドールは宗吾の狙いを看破する。
彼が行ったのは歩幅を
速度を一定にしない事で敵を幻惑し間合いを狂わせる歩法。
マタドールとは正反対の、スペックに頼らぬ人智の技術。
惑わされれば攻撃を受け、逆に見切れば斬り捨てられる。
「いいだろう、来るがいい」
ならば迷うまでもない。
立場を入れ替え、此度はマタドールがカウンターの姿勢を取った。
半端をすれば剣鬼の命脈はここで尽きる。
間合いが狭まる、際限なく。
指呼の間が対話の間に。対話の間が斟酌の間に。
それさえ過ぎて―――互いの瞳の中に、己の姿を視認した。
| 《見切り》*25 | 相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。 回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。 相手は回避や防御にペナルティ。 攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。 |
マタドールが気を吹く。
足を蹴り出し全身を射出。
迸る刃、狙うは眼前の宗吾。もはや吐いた息さえ届く距離。
間合いを完全に見切り、繰り出すのは《冥界破》*26
周囲一体を全て破壊する斬閃にして破滅の嵐。
回避不能、確実に断ち切った自信がある。
―――なのに何故、
かろうじて動かせる眼球だけをゆっくりと上に向けた。
これといった理由は無い。強いて言えば風に違和感があったから。
だがそこに、明快にして異常なる答えがあった。
マタドールの頭上、体を前に屈め宙返りしつつ。
刀を担ぐように構えた剣鬼がそこに居た。
歯を剥き出しにして笑う口元から零れるのは一言。
| 《雲耀の剣》*27 | 一呼吸の十万分の一の時間で切り下すと言われる神の剣。 回避や防御に-80%のペナルティ。 たとえ、回避や防御をしても、音速を超える刃先の速度によって 剣風が相手及び相手の後方にいる敵全てを切り裂く。 対象となった者は、射撃回避をする。 剣そのものか剣風かを問わず、 この攻撃によって最終的に1点でもダメージを 受ければ打撃のショックが全身に伝わって瀕死となる。 もちろん、HPが0未満になれば即死する。 |
| 《踏み込み》*28 | 補助動作(手番を使用しない) 一瞬の踏み込みによって移動のペナルティを受けず攻撃可能。 直後の攻撃に対し、回避・防御の判定値が威力分低下する。 |
| 《急所》*29 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
宗吾は信じていた―――この魔人は確実に間合いを把握すると。
見切った上で、己を斬り裂く剣を振るってくると。
だから、その未来を捻じ曲げた。
見切られたと確信した瞬間に跳躍、そして回避からの即斬。
創作の中だけにしか存在しない筈の剣――“鬼走り”*30の亜種。
魔人の勘を文字通り飛び越えて、神速の刃ががら空きの背中へと叩き込まれた。
・
・
・
膝を折って着地―――宗吾は勢いを殺さぬまま駆けて距離を取る。
振り返ったのは互いにほぼ同じタイミング。
目にしたのは楽しげに笑う魔人の顔。
自分も同じように笑っているのだろう。
しかし、
流石に曲芸染みた真似をしつつ
頭の中の冷静な部分が現状を分析する。
こちらの残り体力は1割あるかどうか。
対する相手はようやく半分を割ったという所か。
斬り殺すには
そして非常に残念な事に、そんな余裕は体のどこにも残されていない。
大技は使えてあと1回が限界といったところか。
「上等……っ!」
笑みを深める。
1回でも剣を振れるなら十分過ぎるほどだ。
ここに来て、宗吾から発する剣圧が最大のものとなる。
静謐さを保ったままの、触れれば思い込みだけでショック死しかねない気当たり。
「ハッ、ならばもう一度だ」
それを一身に受け、返礼としてマタドールも同等の剣圧を発し相殺する。
マタドールは敵を、全身を血に染めた青年を見た。
その命は既に風前の灯火。この圧は蝋燭の炎が燃え尽きる前の最後の輝きだ。
だからこそ気を抜く訳にはいかなかった。
手負いの獣は信じられない力を発揮する。
残された全てを燃やし、目を焼かんばかりに輝きを増すソウルを前に手を抜くなどあり得ない。
マタドールもまた瞳の奥の炎へ薪をくべ続ける。
―――最大の
温存していた札を切る。
| 《挑発》*31 | 敵全体の防御力を2段階下げ、攻撃力を2段階上げる。 |
| 《気合い》*32 | 一度だけ自分の物理攻撃力を2.5倍に強化。 |
独特のステップを踏み、敵の防御を弱めつつ力を溜める。
ギチリ、と肉と骨の軋む音が内側から響いた。
これより放たれるのは文字通り必殺を期したもの。
| 《血のアンダルシア》*33 | 敵複数に物理属性で大威力の攻撃を4~12回行う。 |
| 《 | 補助動作(手番を使用しない) 一瞬の踏み込みによって移動のペナルティを受けず攻撃可能。 直後の攻撃に対し、回避・防御の判定値が威力分低下する。 使わないだけで、使えない訳ではない。 |
形なきカポーテを振るい、世界さえ叩き割る12の赤き閃光が宗吾へと襲い掛かった。
「
刹那、マタドールの耳にあり得ざる幻聴が届いて―――――。
| 《 | 相手の格闘攻撃に対する反撃技。 この特技を使用すると、相手の格闘攻撃が反射される。 反撃に分類されるスキルであり ⇒物理反射と裁定。 |
| 《絆スキル:判定値上昇》*36 | 判定値を「絆レベル×10%」上昇する。 ⇒錦木千束との絆を使用。 ⇒彼女との絆レベルは【7】である。 |
12の刃を受け止め、それらを剣先から柔らかく流し、廻り出すように前へと射出。
膨大な運動エネルギーを体内で循環させつつ。
すれ違いざま、鏡写しのように―――全て叩き返した。
「なにっ!?」
マタドールは己の業に打ち据えられた。
先程の宗吾と同じく、いやそれ以上の勢いで吹き飛び、地面に転がり続ける。
札を温存していたのはマタドールだけではない。
最大の効果を発揮する時を狙い、抱え落ちする覚悟でこの瞬間まで伏せ続けていた。
企みは成功し、魔人の姿勢は大きく崩れた。
今ここに千載一遇のチャンスが訪れる。
数十メートル先。
ダメージを無視して起き上がったマタドールは見る。
直後、魔人の本能が最大の警鐘を鳴らした。
そう、八瀬宗吾に勝機があるとすれば……最初からこれしかない。
これまでの剣の応酬は、ここに至る為の布石。
膨大な体力を半分以上消し飛ばしうる、彼だけの“魔剣”。
いまだ完成に至らずとも、ニヤリ中ならばある程度は補える。
「今度は俺の全霊だ―――受けろよマタドール」
| 《我流魔剣・■■■》 | 詳細不明。いまだ完成に至らぬ―――八瀬宗吾だけの魔剣 |
| 《絆スキル:判定値上昇》*37 | 判定値を「絆レベル×10%」上昇する。 ⇒若槻美野里との絆を使用。 ⇒彼女との絆レベルは【■】である。 |
その日、上野レルム全域に原因不明の地震が発生した。
・
・
・
「っ……皆さん無事ですか?」
「衝撃でひっくり返った程度です、問題ありません」
「おやおや、土埃が凄まじいですね。視界が殆ど塞がっている」
「カメラは死守しました。撮影を続行します」
パラパラと降り注ぐ砂を払いながら、《黎明の手》の検証班たちが辺りを探る。
メンバーの誰かが言ったように、視覚は役に立たない。薄暗い土煙だけを映すだけ。
しかし音は別だ。
何があった、魔法でも使ったのか、爆発した―――そういった声が耳に届く。
自分たち以外のギャラリーが発する声だろう。
悲鳴や絶叫の類は聞こえる範囲では存在しない。
少なくとも、離れていた者たちには然程影響は無いようだ
精々が転んで腰を打った程度……異能者であれば事故にもならない。
「“一般剣士”殿*38が何かしましたね。
おそらく彼の奥の手……剣技であるのは間違いないですが。
記録を後で見返すとして――― 一体何したんだよあいつ」
「地が出てますよ。今は検証班の1人として振舞うように――――ッ!」
ボンボルドの1人が窘めた瞬間、一際強い風が吹く。
人為的な気配の無い、純粋な自然現象。
戦場を覆う土埃のベールが払われ、開けた視界の中で観衆たちが目の当たりにしたのは。
「……なるほど、それが貴様の“魔剣”か」
「人である事を誇り、人であり続けようとするが故の業」
「俺が使ってもこれだけの威力は出せないだろう」
「――――惜しかったな」
右上半身が吹き飛び、残された手に持った大剣も半分に折れた魔人の姿。
そして魔人の
| 《食いしばり》*39 | HPが0になる攻撃を受けた時、DEADの状態になる代わりにHP1とする |
| 《反撃》*40 | 剣相性の攻撃を受けた際、回避の代わりに使用する。 攻撃してきた対象に剣相性のダメージを与える。 この反撃に対する回避や反撃は行えない。 オプションルール採用により、格闘攻撃に反撃可能。 真Ⅴにおいてマタドールは習得している。 |
誰もが息を呑む。
マタドールとは逆に宗吾は食いしばれなかった。
限界寸前まで消耗した所に想定外の反撃を受けたからだ。
―――命の灯火は消え、後は敗北の躯を晒して終わるだけ。
| 《男気Ⅱ》*41 | 使用者のBSを解除し、HPが0以下の場合は1にする。 このスキルは使用者がDEAD状態でも使用できる。 ランク回数まで使用可能。 |
燃え残った物をもう一度燃やし、気合いと根性、男の意地で息を吹き返した。
まだ終わらない、終わってなるものか、絶対に斬るという決意。
そのまま空いた手でマタドールの胸倉を掴み上げた。
超至近距離―――手番が回り、魔人の折れた剣が閃く。
鍛え上げた腹筋と壊れかけの防具で刃を止め、執念で固めた首の骨は断たれる事を許さない。
目と目が合う―――最後の交差。
カキン、と金属特有の甲高い音が響く。
刃が届いたのは―――宗吾の方が速かった。
この結末に至った原因を挙げるなら2つある。
1つ目はマタドールが口にした通り、技が完成していなかった事。
参考とした鳴神虎春の物と同様に、空間に威力が逃げたのが大きい。
2つ目は武器だ。
鬼神楽は間違いなく名刀であり業物。
1流のDBが振るう武器にも決して負けない代物である。
――――魔剣を1度放つ、そこが現状における限界だった。
よって、マタドールの剣は心臓を貫き。
宗吾の剣は頸に当たった所で折れて宙を舞ったのだ。
・
・
・
柄から手を離し、よろめくようにしてマタドールは数歩下がる。
気を抜けば霊核が壊れかねないほどの消耗状態。
戦闘を終えた事で少しは体力が戻ったが、*42それでもまだ危ういままだ。
同時に―――そのような事が些事に思えるほどの満足感に満たされている。
(実に良き闘争、良き死合いであった)
眼前の、立ったまま息絶えた青年に改めて視線を向ける。
歯を剥き出しにして、心の底から楽しそうな笑顔だ。
これまで数え切れないほどの強敵と刃を交えて来た。
しかし、本来であれば2、3合で終わる程度の。
人間の剣士1人相手にここまで追い詰められたのは、流石の魔人も初めての経験であった。
少なくとも……この青年の事は生涯忘れないだろう。
「……む?」
ふと、気配を感じる。
敵意は無い。さらに言えば興味さえ感じない。
漁夫の利を取りに来た無粋な輩ではあるまい。
やがて、剥き出しになった土を踏みしめながら1人の少女が近づいて来た。
ボロボロのマタドールを無視し、心臓を貫かれた青年を見つめて一言。
「―――馬鹿。馬鹿過ぎるでしょ、こんなになって。
斬り合いにしか興味ない馬鹿、剣に欲情するヘンタイ!
なんでそんな風に笑ってんのよ……っ!!?」
最後は怒鳴りながら少女は青年を横たえると、心臓に突き刺さった剣を抜いて反魂香を使う。
ついでに1発ビンタをするとガハッ、と呼吸が戻る音。
どうやら無事蘇生に成功したらしい。
だが、よほど消耗が激しいのか意識は戻らず気絶したままであった。
「…………っ」
無言で抱きしめる。
壊れ物を抱くように優しく、赤子を守るように強く。
その表情は安堵の一色だ。
「その青年の女か……どうも縁に恵まれた男のようだな」
「……満足してるんでしょ、この人と斬り合って。
余計なのが来る前にさっさと行きなさいよ。
私も……今は何もしない」
マタドールの言葉に答えず少女―――美野里は冷たく返す。
実際その通りだ。
今は観戦していた剣士たちが動いているがいつまでも持たない。
このままでは余韻に水を差す者が確実にやって来るだろう。
マタドールとしても今日のヒマつぶしの成果は十分過ぎた。
美野里の言う通り踵を返し、この場から離れようとして―――。
「餞別だ、剣と一緒にくれてやる」
土に埋まっていた何かを、美野里に向けて蹴り飛ばす。
危うげなくキャッチした手には、シンプルなデザインのピアスがあった。
宗吾が初めて一太刀入れた際に耳と一緒に斬り落としたもの。
「起きたら伝えろ。
それは再戦の証だ……次に死合う時を楽しみにしているぞ」
「―――言っとくけど、その時は私も戦るわよ。
二度も人の男ボコらせるか」
最後に、宗吾に匹敵する殺意を背中に浴びつつ。
死の運び手たる魔人は音もなく姿を消すのだった。
・
・
・
「…………負けたのか俺」
「起きてすぐ言うのがそれ?
―――負けたわね。常識で考えたら当然だけど」
「修行が足りなかったかー……。
まあいいや、生きてるならリベンジ出来る。
って訳で一から修業を―――」
「今は休んでなさいよ馬鹿。
言っとくけど、次は私も混ざるわよ。
魔人相手にタイマンはこれっきりだから」
「……どうしても?」
「ダメ、ゼッタイ。
あと無茶に無茶重ねたんだから動けないでしょ。
そもそもあんたの剣折れてるから先に修理しないと」
「言われてみると全然力入らんな……って折れた?
俺の幻覚とかじゃなくてマジで折れたの???」
「ほら、真ん中からポッキリといってる」
「ぁ、ああああああっ!! 一応家宝がぁっ!!?」
「ちょっ、くすぐったい膝の上で頭動かさないで!」
この後、2人はいい笑顔をしたレルムの警備責任者に捕まるが。
それはまた別の話である。
・Result
八瀬宗吾 Lv60⇒58
・メイン武器である鬼神楽が破損。
・レルム内で戦闘行為を行った事で1週間の
(戦闘を行ったのが廃墟区画、及び相手が魔人であったため軽いものに)
・12連撃を模倣した事で技に何かしらの影響?
・折れた魔剣(相気の杖)、カポーテピアスを入手。
(本人は使いたがらないが美野里に押し切られた)
・ちょっとは有名になったかもしれない。
若槻美野里 Lv55
・キレて本音が出た。
・片鱗は出ていたがかなり重い女である。