真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
時系列的には漫画さんとの模擬戦の少し前くらいです。
「ぷげらばっ!!」
鈍い悲鳴と共に、道衣を身に纏った人間が宙を舞った。
そのまま重力に従い天井近くから床へ叩きつけられた後、潰れたヒキガエルのように痙攣するのは10代半ばほどの少年だ。
全身に広がる滅多打ちにされたような痣。
正常な位置からくの字に折れ曲がっている鼻。
焦点がまるで合っていない1対の瞳。
その姿は満身創痍という言葉を文字通り体現している。
そして、それは彼だけではなかった。
周囲にも同じように転がる同世代ほどの少年が3名。
状態は誰も彼もが似たようなもの。
普通なら病院へ連れて行き精密検査を受けねばならないだろう。
しかしその内の1人―――顔が半分潰れている少年が荒い息を吐きつつ口を開く。
「起きてるかぁ、お前ら……?」
「し、白い髭生やしたジジイがマッカ寄越せって、追いかけてくる幻が……」
頭蓋を割られ滝のように血を流す少年が返答した。
「おかしいな、会長のおっぱいに挟まれて優しく介抱されてた筈なのに」
片目と耳が抉れている少年が返答した。
「ハッ! ……そうか、夢だったんだな。
好きな幼馴染が年上のチャラ男と付き合い始めたなんて」
自由落下後、僅かな失神の間に失恋がフラッシュバックしていた少年が返答した。
「うっし―――ならもういっぺんやれるな。
あと最後。BSSは現実だから諦めろ」
「……ちくしょぉおおおお!!!!」
ボロボロな状態とは反対に、それぞれ余裕のある答え。
当然の話だ―――今ここにいる人間の全ては覚醒者。
回復魔法もあれば治癒する道具もありふれているこの世界の、悪魔業界で戦い生きる者なら備えて当然の精神性。
十数秒の僅かな休憩を終え―――1人は泣きながら―――立ち上がる。
全員の瞳には強い感情の炎が宿っていた。
怒り、あるいは嫉妬、あるいは情景、あるいは八つ当たり、あるいは―――。
そして細部こそ違えど、根本で共通する思いは同じ。
「―――ようやく温まって来たか」
不敵な笑いの含まれた声がした。4人の視線が1つに集まる。
その先にはTシャツにジーンズというラフな格好の青年がいた。
木刀を軽く担ぐように構えた、少年達より少し上程度の若者。
だがその身から発する威圧は並大抵ではない。
気分はまさに蛇に睨まれた蛙―――腹を括ってそれぞれ一歩踏み出す。
恐れを乗りこなしつつ戦うのは
「しっかし楽すぎるな。
ハリセン……いや布切れ1枚で“指導”してやろうか?
それくらいハンデがあれば十分だろ」
青年はポケットからハンカチを取り出し、ヒラヒラと目立つように振る。
あからさまな挑発。
分かり切った侮蔑。
煽りに装った誘導。
彼らは冷静に思考を張り巡らせる。
張り巡らせた果てに―――同時に血管がぶち切れる音がした。
煽り耐性、もとい沸点がそれほど高くなかった故に。
| 軍勢 | 修練会門下生 | Lv40(各自20~30) |
| 導師 | 八瀬宗吾 | Lv60 |
この後、修練会の門下生たちが笑顔の教官に一太刀浴びせるまで
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―――“修練会”と呼ばれる組織がある。
未覚醒者、霊格の上がらない人間たちを中心にした基礎互助会。
身も蓋も無く言えば、昨今のインフレする環境に追いつこうとする者の集まりだ。
宗吾達は現在、とある伝手からここの指導依頼を受けていた。
元より需要こそあったが、本来であれば外様かつドリフの彼に回ってくるようなものではない。
だが――――ここ1年での環境変化と同じように事情は常に変動する。
切っ掛けはつい先日発生した東京各地のレルムにおける
それに関連するかは不明であるが、GP上昇の抑制が起きた事。
現在はいわば小康状態―――3ヶ月~半年程度と推測される凪の期間と推測されている。
であれば。
余裕のある今の内に少しでも強くなろうと死に物狂いになる者。
弱い人間を今の内に選別しようとする者。
這い上がろうとする弱小を蹴落とそうとする者。
張り詰めた精神を解す為、オタ活を兼ねた休養に入る者。
こうした者たちが多くなる訳であり。
結果として、修練会は一時的なキャパオーバーとなってしまったのだ。
現在彼らの指導を行っているのはガイア系、中立系組織に所属する人間のボランティアが殆ど。
もちろん、ボランティアと銘打っているが、その目的は芽の有る者のスカウトである。
しかし、どの組織でも新戦力追加は重要度も高いが、非常にばたついているのが現状だ。
追加で人間を派遣するのは難しく、手が足りなくなるのは当然の帰結だった。
よって猫の手も借りなければならなくなった訳で。
最低限の信用はある臨時指導者の1人として宗吾は雇われたのである。
ただ、問題があったとすれば1つ。
「―――って訳でシゴキに残った4人を重点的に教えてる。
今頃は……治療終わって寝込んでるんじゃねーかな。
最後糸が切れた人形みたいに倒れてたし」
「うん、やっぱりあんた人に教えるの向いてないわ」
―――名選手が名監督であるとは限らないという話である。
「確か最初20人くらい預かってたわよね?
なんで1週間で五分の一にまで減るのよ……」
「気合いの問題だろ?」
正午もやや過ぎた時間帯。
修練会の所有する施設の一画、休憩所として利用されている場所で宗吾と美野里は昼食を取っていた。
他の利用者とは利用するタイミングがズレたのか、今ここにいるのは彼らだけだ。
ちなみに美野里も指導者として雇われていた。
担当するのは非覚醒者が中心に、力に目覚めていない、あるいは扱いが不慣れな者たち。
戦力になるには時間がかかり過ぎるので、目的としては後方で働ける人員増加の為だ。
アイテム作成や儀式の補助など、低レベルであろうと人手はあればあるほど良い。
ESP系の能力は覚醒を促す切っ掛けとして適性が高いのもあって、宗吾とは逆に抱えている人数は多かった。
今の所辞めた人間はいない。
「実際の所、俺に教えられるのなんて剣の振り方と体の作り方。
あと限界超えるための心構えくらいだしなぁ。
でも正直逃げた連中は必死さが足りんと思う」
「気持ちは分かるけど、よーく聞きなさい。
ひたすらボコられるて苦しいだけのトレーニングなんて拷問だから。
誰だって逃げたくなるわよ普通」
相棒から呆れられた視線を向けられ、ばつの悪くなった宗吾は頭を掻く。
言う事は分からなくもない。
成果のまるで見えない鍛錬を続けるというのは中々に辛いものがある。
自分も昔そういった事をやらされていた時はきつかった。
本当に正しい事なのか、こんな物を続けていていいのか。
悩み戸惑ったのは1度や2度ではない。
だが、決して無意味ではないと断言できる。
宗吾とて、別に何も考えずに無茶を課している訳でもないのだ。
「俺が見てたのは才能限界、
あの程度乗り越えようとする気概がないと無理だって。
最初に説明したし会長さんにもちゃんと言ってあったんだが……」
「で、残ったのが根性ある数人だけなのは仕事としてどうなの。
指導役としてクレーム来そうなもんだけど」
「―――いえ、八瀬さんはそのままで構いません。
クビは考えていないので引き続き残った方の指導をお願いします」
第三者の声がした。
他に誰もいない故、離れた位置まで声が通っていたのだろう。
部屋の入口から手荷物を抱えた人物がやって来る。
褐色の肌に相反するような銀髪。
低身長でありながら胸の部分が大きく膨らんだ改造済みの巫女服。
そして柔和な美貌を携えて微笑む麗人。
| 符術師 | ヴァズィ・ウリムェング | Lv50 |
修練会における事実上トップ―――ヴァズィ・ウリムェング。
そして今回の仕事における雇い主でもあった。
「おっと会長さん。そっちも休憩か?」
「ええ。ついでに頼まれていた物を渡そうと思って来たら話が聞こえたもので」
軽く挨拶を返しつつ、ヴァズィは2人がいるテーブル席へと座る。
その際、大きく揺れた物を宗吾は見逃さなかった。
見逃さなかった事に気付いた美野里は相棒の脛を蹴った。
「言っちゃなんだけど、いいの?
着いて来れる奴だけ着いて来いってスタイルはこういう所と相性悪い気もするんだけど」
「そうかもしれませんが、私個人としては必要だと思いますよ。
甘くしたところで、それこそ本当に無意味になりかねませんから。
……実は先ほど、私の方に門下生の数名から相談が来ていました」
「相談?」
ええ、と少し間を置いて宗吾の質問に答える。
のんびりとした口調だが、どこか愚痴が混じっているようにも聞こえた。
否……実際に愚痴なのだろうこれは。
「―――限界を超えるにはもっと別の方法はないのかと。
思いつく限りあれこれ言ってましたね、あれは。
ちなみに八瀬さんの指導から逃げた面子です」
「……一応聞くけど、例えば?」
「例えばそう、高レベルの悪魔を捕獲してからそれを殺すとか。
強いDBに引率して貰う……あと、覚悟を決めて人間を殺す、なんていうのもありましたか」
そんな
「いやそれ
「んなお手軽に限界超えられたら俺もっとレベル高かったぞ」
「ですよね~~~」
言葉にした後、3人揃って同時にため息が漏れた。
呼気と共に吐き出された思いは1つ。
―――才能
まず、才能限界というものには2つのタイプが存在する。
1つは大器晩成型。
レベルを上ために膨大なMAGが必要で、それによるほぼ進化というべき成長を遂げるタイプ。
牛歩の如き歩み、若木が大樹になるほどの時間を要するが、完成した時の強さは別次元となる
こちらは良い。
時間がかかるという点で現環境では致命的になりかねないが、まだ上がる芽が存在している。
腐らず修練を重ね地獄を潜り抜けるだけでいい―――もちろん若木の内に死ぬ事もあるが。
もう1つは
卵の殻に覆われているように固く、何度も何度も叩いても叫んでも上がらないタイプ。
―――これはもうどうしようもない、1個の生物としてそこが終点なのだ。
技を磨くか装備を整える方向に舵取りした方が建設的とさえ言える。
後者を突破するとすれば、文字通り死んだ方がマシな経験を経る。
強大な悪魔を安全策を抜きで打倒する。
自分が生まれ変わるほどのMAGを吸収する。
あるいは―――。
「
……それまでの自分とは違う領域に飛ばなきゃならん。
道なき道を、自分の手1つで切り拓くのと同じだ」
「イヤボーンみたいなノリでしょうね。 悪堕ちでもいいですが」
「それだと最悪外道になりそう」
基本的に後者の限界突破はパワーレベリングでは出来ない。
MAGは入れど、己の殻を破る事は決してない。
その個人にとっての“偉業”を成し遂げなければ扉は決して開かない。
そして宗吾、美野里、ヴァズィ。彼らはそれを経験した事がある。
持てる全てを行使して強大な悪魔を打倒した事も。
絶望に打ちひしがれ、それでも膝を折らず立ち上がった事も。
だからこそ、門下生の言葉がただの都合の良い幻想でしかない事もよく分かるのだ。
宗吾はこれまでの人生を振り返った。
中学時代の無軌道な道場破りから始まり、高校時代に仲間と共に潜り抜けた幾多の戦い。
“雲耀の剣”を体得するべく、屋久島で平家の怨霊をひたすら相手にした日々。
香港での修行時代には十中八九死ぬ相手とも斬り結んだ事もある。
特に記憶に焼き付いているのは異界・九龍城における“魔人カンセイテイクン”との戦い。
それと―――。
(“マッカーサー”と悪魔ヘリ相手の
それを討伐、または足止めするべく集められた各組織の紐付きによる総力戦。
50人がかりで囲んで殴ったにも関わらず、最後まで立っていたのは自分含めて2人のみ。
街中で平然と
這って向かう力すら残っておらず、後方で控えていた
宗吾はそこで無念の
(んで結局、
辛うじて生き残った凛子から聞いた話では“魔盾”のコピー品、そしてDASUのトップである“黄金のGUMP使い”が召喚した悪魔の力で何とかなったとの事だったが、そこはあまり詳しく覚えていなかった。
―――ここで思考が逸れている事に気付き一旦リセットする。
「……あるとすりゃ古い方式で
あれならまだやれない事もないが……」
「もっと無理でしょ。
安全な修行を指導できる導師がまず見つからないわよ」
「そんな伝手もありませんし、大人しく偉業にチャレンジした方が速いですね。
そう思って私も伝えませんでしたし」
古式の覚醒儀式―――手っ取り早く行えるとすれば“悪魔の憑依と克服の勝利。”*1
だがそれをやるならば合った悪魔を見つけ、いざとなれば介入出来る導師の存在が必要不可欠。
一応宗吾は導師の域にこそあるが……どう考えてもそちらに関しては向いていない。
もう1つの条件である“熾烈な修行の完了”を達成させる方がまだ可能性がある。
つまり結論として。
「例外除いて、強くなるのに近道なんてありゃしない……だな」
―――楽に限界を超える方法など無いという事だった。
・
・
・
それから数日間、特に何事もなく時間は流れた。
「うごらばぁっ!!」
「ヒデブギャッ!?」
「まそっぷ!!」
「俺が先に好きだったのにぃいいい!!!!」
変わった事があるとすれば、まず宗吾が受け持つ門下生たちがしぶとくなった事だろうか。
互いに連携し庇い合い、手加減しているとはいえ宗吾相手に戦える時間が伸びてきている。
幾度も叩き伏せられ、辛酸を舐めさせられた経験がレベル以外の強さを伸ばし続けていた。
「……BSSをOSSに変えても同じじゃね?」
「夢見るくらい良いだろこのクソ教官っ!! 地獄みたいな現実でもそれくらいさぁっ!?!?」
「あんたに勝って限界超えれば、きっと会長がおっぱい一揉くらい許してくれる……っ!!」*2
「つーかいつまでも余裕こいてんじゃねぇぞオラァッ!!!!」
「良し―――じゃあ練習中の必殺技使うけど死ぬなよ」
無論、最終的にぶっ飛ばされる事には変わりはないのだが。
その日、彼らは4人仲良く天井に頭から突き刺さるのであった。
他には、空いた時間でヴァズィと話す機会が増えた事だろう。
休憩時間や仕事が終わった後、数冊の本を片手に教えを受けている。
そも、彼がこの仕事を受けた理由はこれが目的でもあるからだ。
「それにしても意外というか……八瀬さんってかなり多芸ですよね。
術の腕はともかく、知識自体はかなりありますし」
「鍛錬の一環で気功術は修めてたからな。
あと通ってた学校じゃ符術系が盛んだったから、下地だけならそれなりだと思う」
「では基本的な術もそこで?」
「いや、香港で修行してた時にマフィアの幹部やってた人に教えて貰った。
本人曰く水簾洞育ちとか言ってたなー」
「……それ本当ならガチの仙人では???」
なお、授業中思わず視線が胸に行くのだが、後で必ず相棒から脛を蹴られるのであった。
そうして短いながらも濃密な時間は矢のように過ぎて。
依頼の最終日、傷だらけながらも脱落せず残った4人に対し、最後の試験として宗吾が真剣を持ち出した時――――。
「すみません八瀬さん、とんでもない事が――――!!」
血相を変えてやって来たヴァズィの嘆願と共に、事態は急展開を迎えるのであった。
今回の話は原作者のほびー様より頂いたプロットを元に書きました。
次話もなるべく早く書き上げたいと思います。