真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
ギリメカラとヘカトンケイル。
今や本名さえも失った彼らは外法に手を染める前、すなわちただの人間だった頃は場の状況に流されるだけの存在であった。
いわゆるどっちつかずの風見鶏、あるいは日和見主義者と呼ぶべき者。
それ自体は別に珍しい事ではない。
むしろ世の大多数は“そう”である。
秩序と混沌、善と悪、光と闇。
殺さなければ何をしても良い非殺主義者。
力を絶対視し弱者をいたぶる邪悪な信奉者。
自分のやりたい事のみに殉ずる求道者。
世界そのものを破壊し作り直す開放主義者。
そういった
大抵は中間地点、その近似値をふらつくものだ。
昨今情勢もあってか、ある程度は外れる者もいるが根本は変わらないだろう。
そして、どれかの色に染まらなければならない、などという決まりも無いのだ。
何かを捨てなければ強くなれない訳ではないのは、現在の環境が証明している。
しかし、だからと言って―――――覚悟まで半端なままではどうしようもない。
修練会に属する者、とりわけ漂流者はその傾向が顕著だった。
流されるまま逃げ延びてこの世界に辿り着き、必要に迫られて力を得ようと藻掻く。
自らの意思で力を求めた者も勿論いるだろうが、大体はそうである。
だから、彼ら2人が簡単な限界突破法を求めたのも結局はそれ。
つるんでいた面子のリーダー格であった男に言われるがまま資料を漁り、そこで見つけてしまった“造魔ノ法”なる怪しげな儀式に軽い気持ちで挑んだ。
それがどのような結果を招くか、深く考えもせずに。
上手くいくだろう、失敗しても大したことじゃない。
そんな甘い考えの人間が精神闘争で勝てる筈もなく。
結果、外道たちの中で彼らが最もかつての面影を残していなかった。
かつての口調も性格も―――今や外見すら豹変し別物と化している。
只人であった頃はまだあったはずのモラルはどこにも見当たらない。
まさに魂の残響さえ残さぬ変貌。
悪魔人間を通り越したケダモノの類。
この瞬間にも摩耗していく記憶の残量が、彼らだったモノのタイムリミット。
自業自得と言えばその通り。
全ては自己責任で何もかもが自分に返って来る。
選ばない、流されるという選択を取った彼らの結末がこうだったという話。
――――与える慈悲など、欠片も存在しなかった。
「コール」
鈴の音が響くような声。
同時に音声入力によって眼鏡型COMPが起動する。
所有者である美野里のマグネタイトを喰らい、魔法陣と共に姿を現したのは2つの異形。
『主よ、御命令を』
| 英雄 | ハゲネ | Lv57 | 相性:物理反射 |
『格上なんですけどー! マジカー!!?』
| 幽鬼 | ガキ | Lv38 | 相性:呪殺無効、火炎・破魔に弱い |
全身を黒い装束で包み剣を携えた武人。
紫がかった肌に子供程度の身長の鬼。
以前、病院で戦った時とは異なる仲魔。
レベルアップと度重なる遠征という名の資金稼ぎの合間に組み直した手札。
インフレする環境に追いつく為、何処かにいるはずの友人を探す為。
そして相棒と肩を並べて戦う為に得た、若槻最乗という少女の新たなる武器であった。
| 《S烈光の秘法:スクカジャ》*1 | 味方全体の回避・命中が1段階上昇(真Ⅲ) |
| 《ハイアナライズ》*2 | 対象1体の悪魔のデータを見る。 |
| ギボアイズ*3 | アナライズを強化する。 戦闘中、補助行動としてアナライズが行える。 失敗しても相性1種類かBS1種類を指定し、 それが効くか効かないかを知ることが出来る。 |
| 「回避専念」*4 | 次の プレスターンバトルの場合でも同様とする。 |
同時に発動するのは回避・命中増加の
奇襲をかけた今、選択するのは
―――次に動いたのはヴァズィだった。
「では私は魔法対策を」
懐や袖から大量の符が飛び出し、味方の周囲に張り巡らされる。
『ここは待ちましょう』
黒衣の騎士は動かず呼吸を次へと回す。
『下げろ下げろ~』
ガキの口からどす黒い煙が吐き出され外道たちにまとわりつく。
「―――大体分かった」
最後に呼吸が1周した美野里が敵の攻撃力を弱体化させつつ再びアナライズを実行。
―――手番が回る。
「アメェンダヨカンガエガ!!」
| 《会心の覇気》*8 | 自身に次に行う力依存攻撃が必中になり、 必ずクリティカルになるチャージ効果を付与する。 |
叫んだのはもう言葉さえ怪しい、
力を弱められようと関係ない。レベル差と必中かつ急所に入るのであれば大抵は死ぬ。
これまでの漂流者狩りで何度も実践してきた事であり、結末はいつも一緒だった。
だから今も同じだろうと考え無しに力を滾らせる。
「原型は留めとけよ、後で遊ぶからさー」
それは共にいる外道ギリメカラも同じだった。
すぐ後に訪れると思っている“お楽しみ”の時間に思考を割かれ、適当に呼吸を回すだけ。
「ヒィイイヤッハァアアアアア!!!!!」
| 《 暴れまくり》*9 | 敵全体ランダムに2〜5回中威力の物理属性攻撃。命中率は低い。 |
| 《 会心専心》*10 | クリティカル時ダメージが上昇。代わりに通常時のダメージが低下する。 |
| 《 物理プロレマ》*11 | 物理属性で与えるダメージを上昇させる。 |
武器を持った手を振り回しながらヘカトンケイルが突進する。
技も何もない素人丸出しの動き、例えるなら子供のグルグルパンチ
しかし掠っただけでも人を容易に挽肉へと変える、純粋たる暴力。
まともに喰らえばそれだけで勝敗は決しかねないだろう。
だが―――それは悪手であった。
| 《カバー(手番放棄済み)》 | 味方1体をカバーする。 対象⇒ガキ |
| 《カバー》*12 | 集団スポーツで他者のカバーに入る臨機応変の能力を示す。 他人が失敗したときに、何らかのカバーとなる能力。 判定に成功時、他のPCの行動に割り込んで自分の行動を行える。 代わりにダメージを受けるのも可能。 この場合、回避は出来ないが防御は可能。 |
| 《神明鏡符》*13 | 符を使用した防御技。 この符を貼った人物は、1回だけ格闘攻撃を反射する力を得る。 |
物理を反射する黒衣の英雄が、符術の使い手たる麗人が。
それぞれ味方を庇い合い、貫通を持たない暴力を完全にはね返す。
結果、どうなるか。
「……ヒャ?」
自身の暴力に、ギリメカラと違って物理反射を持たない外道は打ちのめされた。
反射されたエネルギーによって折れ曲がる両手と潰れた複数の目。
意識が現実へと追いつかず、間抜けな声が零れる。
―――手番が回る。
「……試すか」
再び《スクカジャ》を自動発動させながら、ゆらりと美野里の体が前方へ傾く。
ガンベルトに差し込まれた愛銃は抜かず、倒れる力を推力に変え無手のまま駆け出す。
向かうのは口元から長い牙を生やした外道ギリメカラ。
(なんだぁこのアマ?)
見るからに後衛タイプの女が突っ込んできた事にギリメカラは違和感を抱く。
とはいえ白兵戦は自分の土俵だ。
あらゆる物理をはね返すこの剛体が負けるはずもない。
耐えて次の手番で確実に終わらせる。
厄介なサマナーを潰せばあとはどうとでもなる。
そんな絵を頭で描いて―――。
| 《狂■の■■》 | 物理貫通を得る。物理属性で与えるダメージが20%増加。 命中率とクリティカル率が40%増加。 美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。 |
| 《■■の舞■》 | 味方全体を会心状態にする。 敵単体に4回、物理属性の打撃型ダメージを与える。 美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。 |
| 《会心》*14 | クリティカル率上昇。 サイコメトラーが習得する。 彼ら彼女らは意外にも格闘面でも強くなる。 |
「がっ、あああああああああ!!!!」
反射の壁を紙切れのように裂いて急所へと刺さる4つの軌跡。
それは紛れもなく物理耐性を無視する貫通攻撃だった。
想定外の事態にギリメカラから苦痛に満ちた絶叫が響く。
『参る』
| 《忠義の斬撃》*15 | 敵単体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う。ニヤリ時即死付加。 |
続けて呼吸が回ったハゲネがヘカトンケイルに一閃。
主の敵を屠る忠義の業が決して無視出来ない傷を刻み込んだ。
どちらも会心とはいえ、格上相手にあり得ない火力……無論タネはある。
『いいもん持ってるなぁオマエラー!
使わせてもらったぜぇえええ~~!!』
| 《グリード》*16 | 敵のみに影響する戦闘中の自動効果が、味方にも影響するようになる。 NINEにおいてガキが所有するスキル。 |
| 《会心専心》*17 | クリティカル時のダメージが上昇する代わりに通常時のダメージが低下する。 |
| 《物理プレロマ》*18 | 物理属性で与えるダメージを上昇させる。 |
敵対者の
足らぬ足らぬもっと寄越せと叫ぶ幽鬼の食欲が牙を剥く。
そのまま再び《フォッグブレス》を放ち、呼吸がヴァズィへと渡る。
「出番ですよ、“オシラサマ”」
『キャハ! 分かったの!!』
| 神樹 | オシラサマ | Lv21 | 相性:破魔・呪殺・精神無効、火炎に弱い |
行うのは悪魔召喚。符より現れるのは樹木が着物を着たような悪魔。
ヴァズィの普段は細目な瞼が静かに開かれる。
その瞳にあるのは普段の優しさと正反対な冷徹さだけ。
腐り切った汚物、あるいは屠殺場の家畜を見る目だった。
| 《式神(役鬼)》*19 | 悪魔を召喚し使役する。 手番は使用しない(補助動作)と扱う。 |
| 《 | 味方全体へ魔法攻撃を1ターン防ぎ敵に反射する。 |
| 《沈黙のささやき》*21 | 敵味方全て対象、万能相性。 魔法(特技)を使用出来なくなる。 このスキルが発動時、反射状態なら以降も効果を発揮しないと裁定。 |
そして発生するのは万能相性の封殺結界。
以前の
対抗手段がなければボスさえ抗えない殺し間であった。
「今からあんた達を削り殺す。
MPはまだまだあるし、アイテムもありったけ持ち込んでるからリソース切れは無い。
そっちも使いたいなら使っていいわよ……使える頭残ってるとは思えないけど」
再び呼吸の回ってきた美野里が駄目押しに《テトラカーン》を使用して告げた。
―――手番が回る。
「ア……ウウウウ」
「待て、待ってくれ頼むから」
デバフを重ねられ牙さえ捥がれた外道たちは何も出来ない。
意味のない呻き声を上げるか、無駄な命乞いをするかのどちらか。
自棄になって攻撃する事も、亀のように丸くなって奇跡に縋る事さえもしない。
如何な彼らでも、自分たちが詰んでしまった事を理解した故に。
「あなた方は同じことを言った相手にどうしましたか?」
「泣いてこっちがミスるのを祈れクズ共」
外道2体がこの世から姿を消すのに、そう長い時間はかからなかった。
・
・
・
チェルノボグは外道たちの中で最も小心者だった。
楽に限界を超えたい、しかしなるべくリスクは冒したくない。
だから儀式を行ったのは最後で、降ろす悪魔も他の3人に比べて弱くした。
そのおかげだろうか、外見に人格の変質は最低限で済んだと言える。
勿論外道である事は変わらないが、それでもリスクを計算する頭は残っていた。
だから、内心ではこのレルムでの“修練”を最後にしばらく身を隠す心算であった。
GPが低下傾向にあるとはいえ、国内が混沌とした情勢にあるのは変わらない。
さらに自分のような
ほとぼりが冷めれば名と顔を変え、また地道かつ低頻度な“修練”に戻ればいい。
それがどれほど浅い考えであるか自覚もなく。
机上の空論、取らぬ狸の皮算用と思いもせず。
脆く儚い、容易く砕け散るだろう妄想をした。
故に―――彼の顔面へ叩きこまれた一撃は痛烈に現実を突きつける。
| 「シャドウジャック」*22 | 敵複数体に3~5回攻撃する。 ヘアリージャックの魔晶変化武器。 |
| 《狂乱》*23 | 「ヤケクソ」状態に入る。本来は「狂乱」となるスキル。 “心の一方影技・憑鬼の術”とも。 汝はチャラ男、罪ありき……と言うか死ね!! |
| 《大虎》*24 | ヤケクソ状態だと通常攻撃の威力が上昇する。 |
| 《双手》*25 | 通常攻撃が、小威力+通常の2回攻撃になる。 |
| 《獣の反応》*26 | 命中・回避率を上昇させる(スクカジャ1段階分) |
| 「突進」*27 | 誕生篇における戦闘ルールの1つ。 全力移動と格闘攻撃の組み合わせ。 最低でも身長の2倍以上の直線距離を全力移動し格闘攻撃を行った場合、 そのダメージに【力】の能力値を加えることが出来る。 |
意味不明の雄叫びと共に放たれるのは、両手に持った棘付き棍棒による連打
装備品の重量さえ自身のウェイトとして扱う、介者剣術の流れを汲んだ業。
そして失恋と脳破壊と怒りと絶望が生みし
「死ねぇっ! 詫びろ!! 償え!! !
あ゛あ゛あ゛あ゛――――!!!!!!」
「人違いしてんじゃねーよこのキチガイ!?」
計12回―――チェルノボグは反応さえ出来ず格下の相手に殴られ続けた。
無論、この程度でやられるはずもない。
同格以上ならばともかく、レベル差が2周りはある相手なのだ。
ダメージはあるものの、まだ体力には余裕がある。
(早くこいつを殺す。散々殴りやがって―――!)
目の前の―――BSSされた門下生を屠らんと細身の剣を振り上げた。
狙いを定めて、血走った目と視線が交差する。
凶器を両手に持ち涎を撒き散らしながら咆える姿ははっきり言って狂人だ。
しかしどれだけ外見がアレでも殺せる相手なのは間違いなく―――。
「ちなみにそいつ、失恋が切っ掛けでアストラル・シンドロームになった。
で、その間にチャラ男くんと幼なじみちゃんは出来ちゃった婚というね」
| 「ムダ話」*28 | 敵の行動回数を1回減らす。 白髭の老人から逃げる、あるいは時間を稼ぐ為に磨いた話術。 使用する度、パテント料として老人へマッカを支払う必要がある。 |
絶妙なタイミングで言葉が挟み込まれた。
本来であれば何の影響も無い筈の雑音。
しかし、何故か無視する事の出来ない不思議な声音。
それは“1/fゆらぎ”と呼ばれる声だからこそ成されるもの。
三途の川にて実践を重ねた話術と合わさり、振り下ろした剣筋を僅かにブレさせる。
そのブレによって生まれた隙間へ、獣のような俊敏さで潜り込まれ必殺は外された。
「そろそろデバフが切れる。
重ねるぞ巨乳好き」
「了解、筋肉マン。
あと巨乳好きじゃない―――褐色巨乳が好きなんだ」
| 《威嚇》*29 | 敵の攻撃力最大低下する。 敵の攻撃力最大強化する。 |
| 《デカジャの石》*30 | 敵の能力上昇を打ち消す。 |
すかさず残る2名―――筋肉マンと巨乳好きと呼ばれた少年―――が攻撃力低下のデバフを掛け、手番が1巡する。
戦闘開始以降、この光景が延々と続いていた。
三途の川常連の門下生。
幼なじみをBSSした門下生。
分厚い筋肉を持った門下生。
褐色巨乳好きの門下生。
宗吾が指導し最後まで残った4名は格上相手に十分過ぎるほど食らいついている。
素のポテンシャルの高さはもちろんあるだろう。
だがそれ以上に積み重ねて来た連携力、そして覚悟と執念が彼らをここまで強くしていた。
「はぁはぁ……俺もう、新しい恋探そうかなぁ」
「おい、幼なじみNTR系のASMR音量全開で流せ。
こいつを正気に戻すな脳破壊を継続しろ」
「私、彼氏が出来たの(裏声)。
幼なじみだから祝福してくれるよね?(裏声)
キミはずっとずっと一番の友達よ!!(裏声)」
「思い出せ、武〇弘光先生の作品一気読みの荒行を!
思い出せ、読了後に湧き上がった殺意の波動を!!」
「うがあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
強くなる為、生き残る為、そして最後まで戦い抜く為。
レベル以外の武器を研鑽し手を尽くした者たち姿がここにあった。
「…………ふざけやがって」
ギチリと、チェルノボグが歯ぎしりをする。
それは
そして人を捨ててまで得た力に食らいついて来る元同門たちへの嫉妬。
思考能力が昏い感情によって燃え上がる。
脳裏に過っていた適当に崩して逃げるという案が破棄される。
残されたのは全員纏めて殺してやるという意志のみ。
剣の柄を砕けるほどに強く握りしめ、大きく足を開く。
意識を
言葉による妨害があるというならば、それよりも速く動けばいいだけだ。
「死ね」
放つのは《血祭り》*31、敵全体を恐怖で犯す斬撃。
カバーした所で半分は確実に落ちるだろう威力。
チェルノボグは躊躇いなく、その技を解き放つ。
「やってみろ、それで俺の筋肉が斬れるか試してみな」
| 《気に障る存在》*32 | 攻撃目標になる確率が50%上がる。 |
| 《鉄壁》*33 | 敵の攻撃による被ダメージ時、一定確率でガード効果が発動する。 |
| 《ガード高揚》*34 | ガード時に受けるダメージを激減する。 |
ざくり、と鈍い音がした。
「…………あ?」
何故かチェルノボグは《ブレイブザッパー》*35を筋肉マンと呼ばれた少年へ放っていた。全体を薙ぎ払うはずだったのに、気づけば彼一人に攻撃を繰り出していた。
攻撃の瞬間、自ら前へと飛び出し
視線誘導からの行動制限、三途の川常連の門下生とは異なる妨害法。
無論、2周り以上格上からのスキルによる攻撃。ただでは済まない。
防御に用いた腕は両方斬り落とされ、刀身は肩から心臓近くまで深く食い込んでいた。
傷口は勿論の事、口の端からも大量の血が流れ出ている。
――――しかしそれだけだ。
生体反応は消えていない、目が死んでいない、何より《食いしばり》さえ切っていない。
圧倒的なまでの暴力をその身一つで完全に受け切っていた。
「マッスルドリンコキメて火力も落としてなかったらヤバかったかもなあ……っ!!」
「こっちの《ドーピング》*36も忘れるな。
褐色巨乳美女以外にはやりたくないんだよ本当は!」
せり上がった血を吐き出しながらも少年は笑う。
笑いながら―――全身に力を籠め、食い込んだ剣を筋肉で完全に固定。
同時にチェルノボグの足を踏み潰し、刹那だが動きを封じてみせる。
「殺す! コロス! ロス! ロォオオオオスッ!!!」
「棒立ちだな間抜け」
「会長苦しめた罰だっ!!」
| 《慈愛の反撃》*37 | 攻撃を受けた際、仲間が反撃を行う |
その刹那、棍棒、銃、剣。
3人の仲間たちがそれぞれの武器を叩き込む。
一糸乱れぬ総攻撃にたたらを踏んでチェルノボグが後退する。
「雑に払えると思ったか、雑魚だけに?
舐めんなよ腰抜けの根性無しが」
「あのクソッタレの教官に何度三途の川送られたか。
あれに比べりゃずっとマシなんだよ、てめーなんてな」
「死ぬときは会長のおっぱいに挟まれて死ぬと決めている。
故に死なないし、逆にお前を殺す」
「八つ当たりのサンドバッグに最適だなぁ……っ!
チャラ男撲殺の礎となって散れ!!!!」
チェルノボグが原型を留めない挽肉になるまで、残り十数分だった。
・
・
・
外道たちのリーダーであるヨシツネは
他の者たちもそうだが何か特別な背景がある訳でもない、十把一絡げの存在。
だからこそ、そんな状況から脱しようという気持ちが人一倍強かった。
なにせこの世界は強くなければ生き残れない。
かつては超越者とも呼ばれたレベル50を上回る怪物たちがゴロゴロしている環境下で、弱いままでいるのは純粋に恐ろしかったのだ。
噂で
最優先なのは自らの身を守れるだけの強さを得る事。
しかし教官の課す修行と彼らの言う格上殺しの試練では時間が掛かる上リスクも大きい。
何より、辛く苦しいだけで自分にはまるで合わなかった。
故に求めた、簡単に強くなれる方法を。
手っ取り早く限界を打ち破り、更なる強さを楽に得られる手段を。
そうしなければせっかく永らえた命を今度こそ失ってしまうかもしれないから。
強迫観念に突き動かされるまま、身近な相手に声をかけひたすら資料を漁った。
少なくとも、正真正銘の外道へ堕ちる前はその程度の……楽な方向に流されるどこにでもいる人間だったのだ。
運が良ければ何も見つからず、また別の道へ向かう可能性もあったかもしれない。
―――彼にとって不幸だったのは4点。
資料室の奥、誰からも忘れられたような本の山に目当ての物があった事。
儀式に干渉し、いざとなれば中断出来る導師が居なかった事。
そもそも見つけた資料が不完全で、安全性に関する記述が抜け落ちていた事。
そして―――高望みして高レベルの悪魔を降ろそうとした事。
その結果、精神闘争において瞬時に魂はすり潰された。
軍神の欠片と言えど、せめぎ合うにはあまりにも差があったのだ。
故に、残ったのは外道と化したヨシツネ―――その擬き。
名前と力だけは似ている、ただの血に酔った悪魔である。
「いい加減にくたばりやがれぇえええ!!!!」
| 《鎧通し》*38 | 敵単体に小威力の物理属性攻撃。 3ターンの間、対象の防御力を1段階低下させる。 |
| 《貫通撃》*39 | 敵単体に中威力の物理属性攻撃。相性を無視して貫通する。 |
大勢の人間から奪ったMAGにより底上げされたそれらは、人間一人など容易く引き千切る力を秘めていた。
事実、これまで抵抗のため剣を取った
「―――駄目だな」
| 「回避専念」*40 | 次の プレスターンバトルの場合でも同様とする。 |
| 《■■》*41 | 格闘回避、防御、反撃の成功率を上昇させる。 本来は■■■に分類されるスキル。 抜刀術の奥義に通ずるものがある為、例外的に使用が可能。 |
だが―――当たらない。
剣閃が予め軌道に
手応えらしい手応えなどまるでない。まるで霞を斬ったが如き感触。
どれもこれも見当違いの方向へと導かれ不発に終わる。
まるで先読みされたかのようにヨシツネの攻撃は捌かれ続けていた。
力で大きく上回る筈の暴力を、軽妙なる業にて翻弄する。
軽きを以て重きを凌ぎ、遅きを以て速きを制す。
いわゆる柔剣……その極意。
無論、レベル的には相手が格上である以上、全てを回避出来ている訳ではなかった。
防御してダメージを軽減したのもあれば、避け損ねて直撃を受けた傷もある。
しかし、いずれも最小限で致命傷には程遠く、戦闘行動に支障は見られない。
対して―――。
「“意”が見え見えなんだよ、もう少し隠せ。
だからこんな簡単にいなせる」
「また偉そうに訳分かんねぇ事を―――」
「なら死ね」
| 《デスカウンター》*42 | 物理型攻撃に対し50%の確率で発動。 3倍の威力で通常攻撃を行う。 未だ不完全であり、銃撃に対しては発動不可。 クリティカルも発生しない。 |
| 《急所》*43 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
| 「鬼神楽」 | 草薙の剣*44+魔晶剣*45 草薙の剣の通常攻撃は前方複数に1~3回 |
| 《物理・銃撃貫通》*46 | 物理・銃撃属性で攻撃する時、 耐性・無効・吸収を無視してダメージを与えられる。 ヤマタノオロチより奪い取った能力の1つ。 |
理解及ばぬ外道に急所を狙った回避不能の刃が3つ疾る。
ヤマタノオロチの力を喰らって得た、物理耐性をものともせぬ死へと至る反撃。
浅くない斬傷を刻みつつ、突っ込んだ勢いのまま前方へと投げ飛ばす。
アスファルトの上で何度も転がされたヨシツネは……確実に死の淵へと追い込まれていた。
「ギッガァッ……クソ、クソがクソが!
俺の方が強いんだぞおかしいだろ!!
何でさっさと死なねえんだこのペテン野郎!!?」
「ペテンなら引っ掛かってるお前が悪い。
ほら、もう一度見せてみろよ。
次は届くかもしれねーぞ」
悲鳴染みた悪態―――現実を認められない喚き―――を受け流しつつ、宗吾は攻めない。
ひたすら回避、あるいは防御に集中し続けている。
攻撃はカウンターに絞り、自発的な攻撃は一切行っていなかった。
無法を尽くして得た力を否定する為。
新たな剣技の使い勝手を確認する為。
理由は複数あるが―――最も大きいのは。
「ヨシツネなんだろ、見せろよ“八艘飛び”。
ずっと探してたんだが中々縁が無くてさ。
……それともこのまま抱え落ちするか?」
かつて聞いた軍神の業、連撃の完成系たる
それを自らの身で受け、斬り返し盗む為だった。
| 《ドリンク各種》*47 | 特定の能力値を1.5倍する。 BARでオーダーできるドリンク。 数種類あり、それぞれに効果が違う(効果は次の満月まで有効)。 飲んだドリンクの効果はすべて反映される。 酒の効果が切れるとランダムで軽いBSとなる。 |
マッスルドリンコと合わせてドーピングを行っているとはいえ、分の悪すぎる賭け。
そもそも盗める可能性などかなり低い。
悪い言い方をすれば自殺行為に等しい考えである。
「―――カハッ」
それら全てを理解した上で、剣鬼は笑う。
あらゆる経験を血肉に変える必要があるから。
でなければ、あの魔人に挑むなど夢のまた夢だと理解しているから。
だからこれは、外道に堕ちた元教え子に要求する最後の授業代。
―――お前の全てを寄越せ、それから殺す。
そうとしか聞こえない挑発にヨシツネは一瞬激昂しかけるが、寸での所で踏み止まる。
ここで使ってしまえば向こうの思う壺。
むしろ何かを仕掛ける為に誘っている可能性もあるのだ。
膨れ上がったプライドを無理矢理押し殺し、彼が選んだのは―――。
| 《メギドラ》*48 | 敵全体に万能相性ダメージ。 NINEのヨシツネが習得する。 |
どんな相手でも通じるまさしく“万能”の攻撃。
かつては使う事さえ夢のまた夢であった超絶魔法。
この瞬間まで、それこそ仲間にさえ伏せていた手札だ。
例え殺せなくとも相当な痛手は与えられる筈。
消耗は大きいが、もう1度繰り返せば勝利は確実なものとなる。
| 《魔法防御Ⅱ》*49 | 魔晶剣と魔晶杖で使用可能。 回避の代わりに使用する。 魔法攻撃1回に対し、魔晶剣(杖)の威力修正を魔法防御点に加える。 魔晶剣(杖)の属性攻撃に対応する相性の攻撃だった場合、 その相性に「強い」ものとして扱う。 この判定にクリティカルした場合、ダメージと効果を完全に打ち消す。 ⇒無効と裁定する。 |
厳密には威力を減衰した上で、防具によって被害を最小限に抑え込んだ。*50。
それでも傍から見れば、髪の毛が少し焦げた程度の被害しか確認出来ない。
剣鬼にとって、単なる万能魔法はさした脅威でもなかった。
「まだドーピング分も削れてないんだが?
―――それしかないなら終わりだ」
| 《デスバウンド》*51 | 敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。 術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。 ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業。 |
| 《急所》*52 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
| 《会心》*53 | クリティカル率上昇。 |
硬直した外道を容赦なく刻みながら宗吾が終わりを告げる。
既にヨシツネは限界に近い。
積み重ねた負傷、技の連発による消耗。
止まらない出血と流出するMAG、荒い呼吸で上下する肩。
この状態では逃げる事さえ困難。
このままでは間もなく死ぬ―――その確信が彼の中に芽生えた。
「……そんなに、見てぇなら――――!」
| 「チャージ」*54 | 使用後に1度だけ、物理スキルのダメージを倍以上にする。 |
「見せてやるよぉおおおおおおっ!!!!!」
咆哮、そして跳躍。
恥も何もかも捨てて、周囲の建物を足場に縦横無尽に跳ね回る。
残像すら捉えるのが困難な高速機動。
(殺す、これで殺せなきゃ死ぬ……っ!!)
死を拒絶する意思が、ヨシツネに限界を超えさせていた。
儀式で手に入れて以降、この瞬間まで使った事は無かったが、もうこれしかないと信じて。
視線を千切り背後へ、加速し続ける
そして、ヨシツネの象徴たる技が放たれた。
「―――――」
対して宗吾は。
軽く横に逸れて躱してから、がら空きの腹部を蹴り上げていた。
飛ばされるのは空中、翼無き者の自由を奪う殺し間。
「…………なんで?」
内臓が潰された痛みも知覚出来ぬまま、そんな言葉が零れる。
己の渾身がハエでも潰すかのように簡単に躱された事への疑問。
問いへ答える者など誰もいない。
そんな上等なものが、この外道に与えられるはずもない。
「―――考えてみりゃ当然だった。
外道に堕ちた輩に
だからこれは剣鬼の独り言だ。
当てが外れた事への失望と納得の言葉。
死を目前に遅延する世界で、強化された聴覚が拾う終わりの声。
「使えて“八艘飛び”じゃなくて“一艘飛び”*55。
昔やり合った
“ヨシツネ”とは悪魔を調伏し、悪魔と共に戦い、民草を護る―――護国の剣たる悪魔。
そんな悪魔が、自らの代名詞と呼べるものを外道に許す筈もないのだと。
慢心し格下相手に使う必要もなかった故、この瞬間まで気づけなかった。
「芯なく義なく道外れた愚物。
―――ふさわしい惨めさで死ね」
侮蔑の言葉と共に幕が閉じる。
| 《■界■》 | 使用者の周囲にいる敵に対して物理ダメージを与える。 |
| 《飛霊八方》*56 | 幽体離脱の術。MPを使って分身を作り出す。 分身のダメージは本体が受ける。 タオに分類されるカルトマジック。 |
粉砕された外道ヨシツネは最後まで、奇襲直後に背後を取られていた理由を考えもしなかった。
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「……あんた本当にやるの?」
「もちろん」
目的地へと向かいながら、最近お気に入りのピザを口にする相棒を見る。
明らかに楽しそうだ。遠足前日の小学生と例えられるかもしれない。
それもその筈。なにせ以前から申し込んだ果し合いをこれから行うのだから。
向こうにもスケジュールがある以上、今更断るのは失礼だと美野里も当然分かっている。
それでも――――。
「昨日やっと修練会関係のゴタゴタが片付いたのに……。
何回か死んだんだからちょっと休もうって気は無いの?」
「ワクワクは止められねぇ……ってのは半分冗談で。
調整も兼ねて少しは休むって、これ終わったら」
美野里の言葉に流石の宗吾も少し苦笑いで返した。
“修練会門下生が起こした虐殺事件”。
当然これは業界に広まる事となった。
だが幸いと言ってはなんだが珍しい事ではなく、被害者も非合法レルムの住人が主だった以上そこまでの騒ぎにはならなかった。
無論、ロクな管理も出来ていないなどの声もあり、スポンサーが幾つか撤退。
修練会から去る者も少なくはなかった。
ここまではまだ良い。
問題は―――被害を受けた非合法レルムを支配する者たちからの報復。
全てではなく極一部ではあったが、修練会の拠点が襲撃を受ける事もあった。
最後の仕事としてそれら全てと戦い、交渉し、手打ちとして。
諸々が片付いたのがつい昨日の話である。
契約期間は超えていたが、そこは気にしていなかった。
ヴァズィとも連絡先を交換した上で、笑顔で終われたのだから上々だろう。
「そういえば最後に弟子4人と戦ってたけどどうなったの。
もしかして負けた?」
「いや、試運転で《宿曜経》使って戦法崩しつつ速攻で片付けた」
「大人げなさ過ぎでしょ……」
卑怯、汚い、せこい、等と色々言われたが、全部無視してぶっ飛ばした事を宗吾は伝える。
それでも、誰一人として最後まで折れはしなかった。
今回の件で限界突破に成功したので、彼らはこれから更に伸びて来るだろう。
「相性悪いのもいるって知れて良かっただろ。
絶対リベンジするって言ってたしさ......っと、ここか」
やがて目的地―――千束に紹介されたリコリス所有物件へとたどり着く。
すでに先方は中で待っている。
かつて闘技場で見た赤目の解析屋、最前線で戦う凄腕のデビルサマナーが。
「じゃあ、挑ませてもらいますか」
「男ってやつはもう……」
武者震いと共に笑う宗吾。呆れるながらも離れない美野里。
並びながら、彼らは同時に建物へと入るのだった。
◎登場人物紹介
八瀬宗吾 Lv60⇒??⇒60
暴走した門下生の中で最も強い奴を斃した事でレベルアップ。
しかし以降のゴタゴタで何度か死んで結局据え置きのまま。
《デスカウンター》にはまだ先がある模様。
修練会での仕事を終えた後、念願だった漫画好きと戦う事に。
若槻美野里 Lv55⇒58
新しい手持ちが登場。
サマナーとしても順調に成長している。
以前の無茶なブーストが原因なのか強力なスキルが使えるようになった。
最近、宗吾と距離が近いとは千束の談。
修練会門下生4人 Lv30以上
最後まで残った宗吾の教え子たち。
全員変な方向に覚醒したかもしれない。
いつか宗吾にリベンジする事を誓い修練に励んでいる。
以下は彼らのスキルデータ。
・三途の川常連
《ムダ話》※真Ⅳ 《ルレオタ》※LBSP 《マジックシール》※P2
《逃走加速》※P3 《応援上手》※デビチル 《水に流す》※デビチル
《存在感無し》※デビチル 《食いしばり》※シリーズ全般
・筋肉マン
《威嚇》※デビサマ 《カバー》※誕生篇
《気に障る存在》※デビチル 《ガード高揚》※ライドウシリーズ
《鉄壁》※SH2 《1分の活泉》※シリーズ全般
《慈愛の反撃》※SH2 《食いしばり》※シリーズ全般
・褐色巨乳好き
《ドーピング》※真Ⅳ 《メディラマ》※真Ⅱ
《リカームドラ》※真Ⅲ 《フォッグブレス》※真Ⅲ
《形代》※誕生篇 《霊活符》※覚醒篇
《玉女喜神術》※基本システム 《食いしばり》※シリーズ全般
・BSS
《狂乱》※誕生篇改変 《大虎》※P3
《双手》※デビサバ2 《反撃》※真ⅢTRPG
《回避強化》※200X 《獣の反応》※真Ⅳ
《会心》※200X 《食いしばり》※シリーズ全般
大分時間が掛かりましたがこれで修練会編は終わりです。
次回からマタドール戦以降の話となります。