真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
次話はなるべく早めに書くつもりです。
「最初に言っておく―――こいつは直せぬ」
「………………マジで?」
告げられた衝撃の事実にたっぷりと間を置いてから宗吾は視線を下へと向ける。
炉から放たれる殺人的な熱気に満たされた室内。いわゆる鍛冶場と呼ばれる場所。
そこの長年使い込まれただろう金床の上に乗せられた、真っ二つに折れた刀が目に映った。
銘は鬼神楽―――彼の愛剣にして実家で代々受け継がれてきた名刀。
今まで幾つもの死闘を共に潜り抜けて来た、まさしく半身と呼べる相棒。
それが直せない―――再起不能であると彼女は言う。
「待って、ステイステイストップ!
そりゃ確かに折れてる、綺麗に真っ二つだ真ん中からポッキリいってる!!
通常、刀剣というものは折れたらそこで終わりである。
折れた刀身を材料に1から鉄を鍛え直すというのが精々だろう。
だが、それは一般的な刀剣の話。
力を持つ剣の類―――合体剣あるいは魔晶剣―――であるなら話は別。
一定以上の腕がある魔匠ならば多少のコストはかかっても修復は十分に可能なのだ。*1
現に、宗吾は高校時代と武者修行時代を合わせればこれまで4回ほど折った経験がある。
いずれも己の未熟が原因であり、更なる研鑽を誓ってここまでやって来た。
過去周回から時を超えてなお、絆を結び魂を通わせて共に強くなって来た。
だから、目の前の鍛冶師の言葉はそう簡単に受け止められるものではない。
「何か足りねー物があるなら持ってくる。
芯鉄に使ってるヒヒロノカネか?
それとも――――」
「すまん、言葉が足りんかった。
正確に言えば“今は”じゃな……だから揺さぶるのは止めい!」
| 魔匠 | 正宗 | Lv57 |
宗吾に肩を掴まれ前後へと揺さぶられながら、魔匠・正宗は言葉足らずを謝罪した。
その姿は一見すれば小学校中学年ほどの幼女……もとい少女にしか見えない。
古びた作業着から覗く華奢な腕も、槌どころか枝を振る事さえ難しそうだ。
鍛冶師などという肩書からはどう考えても程遠い。
―――しかし、それは見かけだけに限った話。
ほんの僅かな所作から感じさせる老練さ。
幼い声音に乗る幾千霜もの年月を経た重み。
碧眼の奥から覗く大木のように揺らがない在り方。
少し会話をするだけでも外見を否定する情報は山のように入って来る。
直接聞いた事はないが、間違いなく実際の年齢は宗吾の倍以上はあるだろう。
小耳に挟んだ話では
そもそも、初対面は拉致しようとした馬鹿を自ら返り討ちにしていた時だった。
「…………今は?」
少なくとも仕事に誇りを持ち、そこに虚言を混ぜるような人物でないのは確かだ。
一旦手を放し、そのまま話の続きを促す。
―――それはそうとして、もし仮に適当を言っているなら再び揺さぶるつもりだが。
「うむ、では一から話すぞ。
おぬしが工房に折れたこいつを持ち込んだ後、わしはすぐ修復にかかった。
幸いにも破損状態は酷くなかった故、手間も大してかからんはずであったが……」
――――だがしかし。
折れた鬼神楽の刀身を軽く撫でながら一拍おいて。
「途中でこちらの干渉が弾かれた。
誓って工程を間違えた訳でも材料をケチった訳でもない。
……わしも鍛冶師を生業として長いが、こういった事は数えるほどしかない」
それはまさしく青天の霹靂。想像だにしない出来事。
刀自身が修復を拒否するという謎の事態。
目を白黒させる宗吾に構わず正宗は説明を続ける。
「聖剣や魔剣は意志を持つ物が多い。
時に主へと忠告や警戒を促す事もある。
こいつも口こそ利かんがそういったタイプじゃろ? *2」
「悪魔が近くに居たり不意打ちされそうになると震えて教えてくれたりするしな。
じゃあえっと、まさかのストライキ……それともまさか愛想尽かされたか?」
修練前の刀礼と毎日の手入れを怠った事はないが、それでも扱いが雑に過ぎたか。
そもそもが実家から勝手に持ち出したので正式に継承した訳でもない。
無茶に何度も付き合わせた事も含め、拒絶される理由にはそれなりに心当たりがあった。
「それならおぬしはとうの昔にくたばっておろう。
逆じゃ逆―――己の不甲斐なさに憤っておるのよ、
可愛いもんじゃな、と付け加えた正宗の言葉に反応してか。
カタリと音を立てながら一瞬だけ鬼神楽の柄が震える。
不甲斐なさ……それが何を意味するのか分からないほど宗吾は鈍くない。
「不甲斐なさって……ありゃ完成してない技に頼った俺の責任だろ、どう考えても」
―――思い返す。マタドールとの最後の交錯を。
未完の、不完全な“魔剣”では殺しきれず、拡散した破壊力の一部は刀身へと牙を向いた。
むしろその時点で砕けず、反撃しようとした時まで形を保っていたのは奇跡に等しい。
少なくとも不甲斐なさを感じるのは己1人で十分の筈。
そんな考えが表情に出ていたのだろう。
呆れながら正宗がため息をつく。
「阿呆、
おぬしが刃を振る事を求めて、こやつは応えられなかった。
屈辱、怒り、後悔……意思ある剣なら感じて当然の話じゃ」
力の有る無しに関わらず、刀剣とは使い手が何かを斬るために存在する。
その役割を最後まで果たせない時点で意味は無く価値も無い。
観賞用のレプリカにも劣る、角度が付いただけの鉄の棒切れだ。
―――そんな事は、とてもではないが受け入れられないだろう。
「だからこそ、ただ直るのではなく先を求めておる。
次からは二度と折れない、最後まで使命を果たしてみせると。
こやつなりの意地……要するに“もあぱわー”というやつじゃな、うん」
「もあぱわーって、言葉にすんのは簡単だけどなぁ……。
具体的にどうやってって話なんだが?」
もう一度宗吾は鬼神楽を見る。
直せない、直らない理由は理解した。
使い手として、半身としてその意を組んでやるべきだろう。
だが現実問題、これ以上の強化は難しいものがあるのも事実なのだ。
性能的に言えば鬼神楽は“草薙の剣”に匹敵する。
これは合体剣における事実上の最終段階であり終着点。
一昔前ならば一握りの一流のみが振るえた武器である。
実際は流れ者の一般DBである宗吾が知らないだけで、まだ強化には先があるのかもしれない。
キリギリスの掲示板や修練会で閲覧した資料にはそれらしきものも僅かにだがあった。
しかし、その手の代物は最前線で戦う人員に回されるべきものだ。
将来的にはともかく、現時点でレベル60そこそこの剣士が手に出来る可能性はかなり低い。
考えられるとすれば鬼神楽の力をさらに引き出す事だが―――。
(そもそもこいつは素の力の強化を求めてる訳で、それじゃ意味がない)
宗吾としても強く出来るなら越した事はないが無理なものは無理。
加えて、身の丈に合わないものを振れば自滅するリスクもあるので強過ぎても駄目。
はっきり言って手詰まりである。
「正宗さん、不可能かつ都合が良いのを承知で言うけどさ。
今すぐ俺に使いこなせる範囲かつ、こいつが納得出来る強化ってあるか?」
頭を掻きながらなんとなしに宗吾は尋ねる。
別に良い返事は端から期待していない。
ただ何かきっかけになれば儲けものといった程度の問いかけ。
「童貞小僧が妄想する理想の女性並みの無茶ぶりじゃな。
そんなもんあるか……と、普通なら言うが。
―――再び衝撃の事実が告げられた。
「…………え、マジで???」
思わず顔を上げると、悪戯が成功したかのような少女の笑みが見える。
正宗は近くの作業台まで歩くと、そこに置かれていた一振りの刀を手に取った。
少し離れた場所かつ背中越しである為全体像は見えにくい。
「以前おぬしらが新宿地下の異界で《餓鬼王国》を相手にした時を覚えておるか?」
「美野里ちゃんがあのガキを仲魔にした依頼だろ。
数は多いしかなり強い個体も居たから忘れられねーって」
それは修練会での指導依頼を受ける前の出来事。
宝石購入の資金稼ぎかつ修業のため手頃な仕事を探していた宗吾達は、新宿地下各所に存在するガキの
本来であれば自衛隊が任務の一環として処理する案件だ。
民間人かつ無関係の宗吾たちが関わる余地は一切ない。
だが、昨今の多忙を極める状況によって間引きに割く人員に不足が生じたせいか。
負担軽減の方法あるいは苦肉の策として一部の担当がフリーのDBへと委託されるようになっていたのだ。
結果から言えば―――これが大当たりの仕事であった。
彼らの担当した区域は高GP環境下で勢力争いをするうちに、蟲毒のように強くなっていったガキが多かった。
中には特殊な能力を持つ個体、宝石含めた希少なアイテムを貯め込んでいる個体も複数いた。
その際美野里はとあるガキを仲魔にし、宗吾は何故か囚われていた浮遊霊を助け出したのだが―――。
「おぬしが浮遊霊から礼に貰ったという
この刀を打つのに使った材料の残り。
時間はちと掛かるがこれだけあればわしなら出来る。
久々に面白い仕事となりそう故、値段はサービスしてやろう」
正宗は刀を鞘に納めると、振り返りながら宗吾へと投げ渡す。
それなりの勢い――― 一般人なら顔面直撃確定―――だが問題ない。
軌道に合わせて危うげなく刀を掴み取る。
ずしりとした重みを感じ―――
「ッ―――!?」
刹那にも満たない瞬間。在り得ざるモノを見る。
幻視するのは鮮血舞う闘争の舞台と死を招く無謬の刃。
叩き込まれるのは首を刎ね腹を裂き魂が寸毫まで刻まれるイメージ。
理解する、これは聖剣でもなければ魔剣でもない。
これは使い手を呪うモノ。
これは使い手を嗤うモノ。
これは使い手を喰うモノ。
いずれ使い手を破滅させるモノ――――“妖刀”の類であると。
「
どう頑張っても妖刀になってしまったが、おぬしなら使いこなせよう。
喰い殺されんよう十分注意しろよ」
「カハッ、予備の刀にしちゃ随分と物騒なこった。
適当に形整えてくれるだけで良かったんだが……助かるよ」
空いていた腰の定位置に妖刀を差す。
鬼神楽とは重さも長さも微妙に異なる。
重心や間合いの把握、振る際の調整も必要だろう。
それ抜きにしてもとんだじゃじゃ馬だが、間に合わせの代刀には丁度いい。
この程度使いこなせなければ、あの魔人に本当の意味で追いつけるはずもないのだから。
「…………それにしても随分凝った造りだなーって。
いやホント、どんだけ手間暇かけたのか怖いくらい。
その、聞くんだけど。割引とかある???」
「分割払いはやっておるから安心せい。
高ついても構わんといった自分の迂闊さを呪え」
後日、行きつけの喫茶店にて。
諸々に掛かった費用は宝石を揃えるよりは安ついたと愚痴るのであった。
・
・
・
――――そこは既に死地だった。
須摩留市沿岸部臨海公園。
学園都市・須摩留の中でも人気のあるスポットの1つ。
つい最近までは、放課後に多くの学生たちが訪れる憩いの場であった。
それが今やスクラップと化した兵器に防衛機構の廃棄場だ。
綺麗に整えられていたはずの芝生や花壇は戦闘の余波で根こそぎ抉られて。
大人でも遊べる最新式の遊具は原型を留めないオブジェに姿を変えている。
かつてを知る者なら、この光景に目を疑う事は間違いない。
―――原因は分かり切っている。
本来であれば日本海を一望出来るはずの場所へと穿たれた黒い巨大な孔。
それを囲みつつゆっくりと広がる、接近物を分子レベルまで分解するプラズマの壁。
そして、その内側から溢れるように這い出す悪魔の群れ。
アバドンゲート―――あるいは
そう呼称される、都市を襲うかのように出現した大厄災。
此処ではない何処か、魔界ですらない彼方へと繋がる門。
以前から前兆はあったらしいがここ最近急激に拡大を始め、悪魔たちがその力を振るい始めた。
―――もちろん何もしなかった訳ではない。
しかし異形科学の粋を集めた兵器による迎撃は数日で敗北。
風紀委員を始めとする力を持った生徒たちでも遅滞戦闘が限界。
学園都市の実質的支配者である生徒会長には対抗策か避難計画、あるいはその両方があるようだが具体的には伏せられたまま。
噂の“ガイア再生機構”とやらも動かず、都市の……世界の終わりまで秒読み段階かもしれない。
―――だから今、自分がこの場所にいるのは間違ってるのも理解している。
本来なら数十人単位で動き守りに徹するべき状況。
なのに防衛線は遥か後方。すなわち敵地のど真ん中。
いつ囲まれて嬲り殺されてもおかしくはない。
加えて仲間には何も伝えずここまで突貫したので援軍も期待出来ない。
特攻とさえ呼べない、自殺行為を通り越した愚行中の愚行。
普段の己なら間違っても行わないと断言出来る。
頭では分かっている―――ただ心が無視した。
逃げろと理性が叫ぶ―――でも体は従わない。
自分は死にたいのか―――むしろ殺しに来た。
―――仲間の多くが傷付き、殺された。
こんな所で死にたくないと泣きながら息絶えた子がいる。
余計な負担になりたくないと生命維持装置を自ら外した子がいる。
奴の呪いを受け今なお病毒に苦しめられている子がいる。
次に襲撃を受ければ無事な者たちもどうなるか分からない。
いや、確実に前回以上の犠牲が出るだろう。
一度撃退した以上、本腰を入れて来るのは間違いないからだ。
そして気付かなかったが……どうやら自分はそれを許容出来ない性質らしかった。
外部からの転入生だとか、
今まで心の何処かで気にしていた事が些事に思える程に……
―――殺す、最低でも皆が逃げる時間を稼ぐ。
胸の内で燃え盛る炎は留まるところを知らず。
―――殺す、皆を守るために。その為なら手段は択ばない。
敵を討つべくあらゆる規則に道理を踏み躙った。
―――殺す、もう誰も失いたくないから。
激情に突き動かされながら障害を乗り越えて。
『にははは……! え? 責任? なんですかそれ?
あ、ちょっとマシンに乗るの止めてってうわあー!!?』
『風紀委員がこれぐらいで痛がるはずないだろ……って待て!
市街地でロケットランチャーなんて止めろ!!?』
ふと思い浮かんだのはピンク髪の問題児と銀髪の友人の姿。
今まで散々手を焼かされたあの後輩をもはや責められまい。
友人の方も今回ばかりは呆れる事さえしないだろう。
ある意味、後輩以上の被害を出してしまっているし
「…………ん」
操作していたタブレットの電源を落として短く息を吐く。これで準備は完了。
装備も素人整備であるがなんとか終わらせた。肉体の疲労も薬で誤魔化せる。
後は放たれた矢のように目標へ向かって突き進むだけだ。
スクラップと瓦礫の山で作った仮初の拠点から這うようにして抜け出すと、沈み始めた太陽に光が目に刺さる。
ほんの数時間でも悪魔に見つからない環境が必要だったとはいえ、無理な姿勢でいたため体の節々が音が鳴った。
軽く息を吐いてから意識を研ぎ澄ませて――――。
「―――準備は整ったか。では決戦と行こう美野里。
幸いにも悪魔たちは然程うろついてはいないようだ」
「ったくしょうがないニャア!
言っておくけどこっちは死ぬ気ねーからニャ!!」
待っていたかのように声が掛けられた。
この無謀に付き合い、周囲の警戒をしてくれていた
足元を見ればそこには赤色の犬と黒色の猫が佇んでいる。
「最後にもう1回だけ聞くわ。
―――良いのねブラッディ、シャノワール。
仮に生き残ってもアンタらまで責任問われるわよ」
| サイボーグドッグ | ブラッディ | Lv28 |
「私は勝手に動くだけだよ。
だから気にする必要はないさ。
それに、君を置いて逃げたら一生後悔しそうだ」
| サイボーグキャット | シャノワール | Lv28 |
「ぶっちゃけ私は逃げたいニャ。
何故かサーバーと繋がらなくて悪魔支配プログラム使えニャイしさあ。
……けど逃げた先に楽園なんて無い。それなら身内と一緒に地獄に行くニャア」
特別課外活動部の一員にして入学当初からの付き合いである生物兵器たちが答える。
数日前にこっそりと抜け出した際、動物特有の直感で追いつかれてしまったのだ。
人間の足で振り切るのは不可能で―――まあ、終わりを共にするなら悪くない。
「そう……じゃ、行くわよ。腹括りなさい」
メガネ型のデバイス―――“タイムマシン・レジスター”―――へと触れる。
同時に召喚と同じ原理で現れた鋼の装甲が全身をくまなく覆った。
次世代型極地用装備―――デモニカスーツの起動。
連動して異形機関のロックが解除され、網膜ディスプレイに使用可能な機能が表示される。
脳が破裂しかねないほどの情報が流れ込むが気合いで無視。
少し震える手を無理矢理抑えて手元のスイッチを押す。
直後、爆発と炸裂音。そして異音を上げながら再起動するマシンたちの姿が遠目に映った。
持ち込んだ爆薬とまだ動かせた兵器を遠隔操作し囮として、雑魚があちらに引きつけられている内に本命を叩くというシンプルな作戦。
逆を言えば複雑な策を立てられる余裕も無かったのだが……
マップ・ダウジング、そして量子コンピューターの演算によって補足した
近くに他の反応もあるが取り巻き辺りだろう。
少なくとも、戦闘中に余計な乱入を心配する必要はない。
―――あるいは、向こうも自分が殺しに来たことを把握しているのか。
だとすればそれはそれで好都合だ。
「アバドンゲート手前の埋立地! ナビゲートするから足は任せた!!」
| 《コンピュータ操作(異)》*3 | 情報を一つ得る。 異形機関「タイムマシン・レジスター」のスキル。 本来は習得スキルとの交換だが、その制限は解除されている。 |
「了解、振り落とされるなよ2人とも!!」
| 「特殊ハーモナイザー」*4 | 召喚以外の契約をした悪魔を強化する。 契約者は降魔、悪魔変身、魔晶変化武器装備中に 種族専用スキルの使用が可能となる。 |
| 《獣の跳躍》*5 | 種族専用スキル(聖獣・魔獣)。 使用者は1回の移動の機会を得る。 近くにいる任意の味方もともに移動可能。 |
『振り落とされるなっておま、首輪噛んでニャァアアアア!!!!?』
| 《思考性無線》*6 | 声に出さなくても無線による会話やデータ交換が可能となる。 本来はこのスキルを習得した者同士限定だが、その制限は解除されている。 |
そして、音も色も何もかもを置き去りにして。
自分たちは死病を撒き散らす黙示録の騎士の元へと向かう。
断崖への疾走、早過ぎる終わりへの片道切符。
その果てに何があるのか――――この時はまだ予想だにしていなかった。
・
・
・
「…………結局、あたしのした事って意味無かったのかな」
ぽつり、と力無い声が2人だけの廊下へ零れた。
少し先を歩いていた宗吾が振り向けば、そこにはどこか遠くを見るような少女の姿がある。
普段の、先程までの気丈な様子はすっかり鳴りを潜めていた。
《新世塾》―――自衛隊の皮を被った外道たちへの襲撃前にしてはやや似合わない表情だ。
客観的に考えれば無理もないだろう。
偶然再会した顔見知りから聞かされた内容―――守りたかった後輩、親しかった友人の死を知ってしまえば。
覚悟はしているつもりだった。
理解はしているつもりだった。
自分がいれば何とかなったとも思わない。
それでも胸を刺す痛みが止まらないのだ。
今でも目を閉じれば鮮明に思い浮かぶ光景。
後先考えず死力を尽くしたペイルライダーとの戦い。
そして
もちろん機能停止寸前のデモニカを動かし追撃を図ったが、同じタイミングで穴からあふれ出した魔人たちの群れと急速な拡大を始めたアバドンゲートが行く手を阻んだ。
距離としては1㎞あるかないかで追いつく前に飲み込まれるのは目に見えた状況。
怒りに駆られたまま追いかけていれば確実に死んでいただろう。
『美野里、無理矢理でもテレポート*7して逃げるニャ!!
魔界でも何処でもいい……自分から生きる可能性をゼロにするニャアッ!!!!』
それでもギリギリで踏み止まれたのは仲間のおかげだ。
死に体になりながらもなお、無線を介して伝えたあの言葉が無ければこうして生きてはいない。
滅びから生き残れたならそれで十分とも言える筈。
だがどうしても考えてしまうのだ。
復讐より、皆と共にいる事を選べば良かったのではないかと。
そうすれば最期まで心配をかける事もなかったのではないか。
切り替えねばならない状況で思考がブレたまま。
このままでは宗吾にも迷惑が掛かるのにどうしようもない。
その焦りが更なる思考の迷路へと己を誘うのを感じて―――。
「野郎ぶっ殺してやるってノリで動いたなら意味あると思う。
少なくとも自分はスッキリするな」
「あんたに聞いた自分が馬鹿だったわ」
思わず美野里は目の前に男へと脛蹴りをお見舞いしていた。
脛を抑えて跳び回る姿を絶対零度の瞳で睨みつける。
どう考えてもデリカシーに欠ける言葉だ。
そもそも
「まあ聞け、俺は美野里ちゃんの後輩とかは知らん。
死んだ人間の気持ちも代弁出来る訳じゃない……けどな」
痛みを堪えながら、宗吾は話を続ける。
友人家族全てを失った者として。
多少なりとも別れを告げられた者として。
「
後悔するなとは言わんが、その時の気持ちまで否定したら何もかも茶番になるだろ?」
「―――――っ」
それは、ある意味無責任な言葉だった。
自分勝手に過ぎる台詞とも言えた。
我が道を行く男だからこそ飛び出た助言だった。
「ウジウジ悩むより“これで良かった”って思う方が前向きになれる。
後ろ向きになり過ぎてたら更に取り零すモンが増えるしな。
全部失って無かった事も知れたろ?」
「…………その言い方ズルい」
万人を納得させるには程遠く、むしろ怒りを買うには十分過ぎて。
美野里にとっては……この瞬間は霧がかった思考を晴らすモノであった。
「どうしても頭こんがらがったままなら後方で支援要員やるか?
別に無理する必要ないぞ」
「……ふざけた事言うな、放っておいたら死ぬ剣キチ鉄砲玉野郎のくせに。
あんただけ先に行かせて後悔するのは却下よ」
美野里の目に気勢が戻る。元より悩みを引き摺る性質でもない。
弱気になって悲劇のヒロインぶる趣味は欠片も無いのだ。
後で生き残った面子とも話をしなければならないのだから止まっていられない。
「無理に突っ込んで足引っ張るんじゃないわよ。
ただでさえ慣れてない剣使ってるんだから」
「慣らしは大体済んでるって。
そっちも向こうの対悪魔兵器には気を付けろよ」
軽快に言葉を交わして2人は並んで歩を進める。
向かう先は訓練を受けた軍人たちが待ち受ける戦場。
足取りに恐れはあれど躊躇いは無かった。
◎登場人物紹介
・正宗 <魔匠> LV57
シリーズポジション:正宗(TRPG200X)
ドワーフの鍛冶屋(真Ⅱ・TRPG200X)
都内でひっそりと店を開く見た目は幼女の鍛冶屋。
優秀な腕前で研鑽も忘れないが、最近のブラック環境は勘弁して欲しいので宣伝はしていない。
時折状況を考えない馬鹿に拉致されそうになるが返り討ちにする実力もある。
とはいえ、ひっそりやるのもそろそろ限界かと遠い目をする事もある。
「老人を扱き使って欲しくない」とは本人の弁。
・ブラッディ <犬><サイボーグ><アルカニスト> LV28
シリーズポジション:ブラッディ(TRPG200X)
ニュートン(偽典・女神転生)
学園都市・須摩留で製造されたサイボーグドッグ。
ペルソナ使いの能力を再現する機能も付加されている。
紳士的な性格で暴走しがちな美野里の抑えに回る事も多い。
それはそれとして、必要と判断したら無茶にも最後まで付き合う。
美野里と同時にテレポートしたはずだが現在行方不明。
・シャノワール <サマナー><猫><サイボーグ> LV28
シリーズポジション:シャノワール(TRPG200X)
学園都市・須摩留で製造されたサイボーグキャット。
サマナーとしての能力以外に半神アヌンナキとしての力も持つ。
気が強いが面倒見が良く、仲間意識も強い性格。
美野里の無茶には文句を言いつつ、何だかんだで一度も逃げた事は無い。
美野里と同時にテレポートしたはずだが現在行方不明。