真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
室内に響く軽快な音楽―――ジャズが耳に入る。
他にも武装したDB同士の戦略や装備に関する会話、サマナーとその仲魔のスキル構成や合体先についての雑談が情報として流れ込む。
しかし、それらが
「こいつはこうして……いや、こうするべきか」
細心の注意を払いながら、手に持った小刀を動かす。
生理的な手の震えすら大きなブレとなって邪魔になる、ミリ単位の超精密作業。
さほど大きくない木製テーブルの上は、今やある種の戦場と化していた。
何せ毛ほどの失敗も許されないのだ。
もし手元が少しでも狂えばこれまでの努力の成果は水の泡。
全てが一からやり直しとなる。
刀を振るのとはまた別の技術、思想、気概が求められる“これ”に対し、今の自分に出来るのは意識を研ぎ澄ませこの瞬間瞬間に成長する事のみ。
額から流れ落ちる汗さえ拭わず黙々と。しかし大胆かつ繊細に作業を続ける。
時間の感覚さえもはや曖昧で、どれほどこうしているのかさえ分からなくなってきた。
途中で傍を通りがかった
害意があれば即座に斬り捨てていたが、精々飲みかけのジュースをアイスシャーベットにされたくらいなので問題ない。
むしろ漂う冷気のおかげで、長時間の集中で湯だった頭が冷えてくれるので助かるくらいだ。
そうやって四苦八苦してる内に、無限に続くかと思えていたこの戦いにも終わりが見えて来た。
「いいぞ……最高の仕上がりだ」
始めた時は終わりのまるで見えない作業と難易度で心が折れかけた。
正直、耐性とか装備、ギミック諸々の勉強よりもしんどかったかもしれない。
だが継続は力なりという言葉があるように、何事も続けてみなければ分からないと言うやつで。
「……出来た、完成―――!」
今ここに、全ての工程が完了する―――!
「10分の一スケール“仮面ライダー龍騎”木彫り人形!!!!」
「お客様、申し訳ないのですが退店をお願いします―――さっさと出ていけ」
人形の完成と共にずっと作業をしていた喫茶店から叩き出された。
ついでに出禁も言い渡されてしまった。
流石にドリンクバーだけで4時間は粘り過ぎだったらしい。
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「―――って事があってさ。やっぱもうちょっと食い物頼むべきだったかなーって」
「いやそれ以前の問題だから。あんたやっぱ馬鹿オブ馬鹿だわ」
追い出された経緯を説明したら二度も馬鹿呼ばわりされた。
今いる場所は先程まで居座っていた喫茶店とは別の、屋外にテーブルと椅子が設置されたオープンカフェ。
そこで向かい側の座席に座る、自分を馬鹿呼ばわりした相手を見る。
暖色のセーターに動きやすさを重視したズボン。
その上からブルゾンを羽織っただけの、どこにでもありそうなシンプルな服装。
しかし、着ているのが容姿端麗な美少女だと0が5つはある高級ブランド品に思えて来る。
少女―――若槻美野里はこちらの視線に気づいたのか、怪訝な表情を浮かべて口を開く。
「なによ、事実でしょーが。
受験生だってそこまでやらないわよ。
それとも何? あんたの世界だとそれが普通だったわけ?」
「あのなぁ、常識で考えろよ。
―――そんな客、普通なら1時間も経たずに追い出されるって」
むしろあの店主は相当理性的だったのかもしれない。
こっちの作業が終わるまで声一つ掛けずにまっていてくれたのだから。
もし自分が向こうの立場なら鞘で一発殴っていたかもだ。
「……ふんっ」
テーブルの下から飛んできた鋭い蹴りが脛に突き刺さる。超痛い。
「てか、そんな事してるんだったら仮面ライダー見てないの消化しなさいよ。
せっかくiPadとか動画配信サイトの使い方教えてあげたのに」
「もっともな意見だがやる事が多いんだよ……っ!」
ズキズキ痛む脛を摩りながら、ここ最近の1日の流れを振り返る。
まず朝早くから起きて基本の型から応用技までの鍛錬と磨き直し。
次に
そしてコロシアムで殴り殴られ、斬り斬られての戦闘経験蓄積と戦法の修正。
終わればファイトマネー(とギャンブル)で得た報酬で装備の調整と更新。
最後はレルムにある古本屋を見て回り、使えそうな魔導書の類を物色。
その合間合間にライダーシリーズ含めたサブカルを消化している訳で。
「精神と時の部屋が欲しい、いやマジでね」
結果、恐ろしいほど時間が無い。全っ然足りていない。
睡眠時間を短縮する術*1は心得ているがそれでもだ。
正直、動画配信なんて神みたいなシステムが無ければ危なかったかもしれない。
巻き戻しにも時間のかかるビデオデッキだとどれほど時間が掛かったことか。
『ビデオ? 何それ……あ、待った。DVDの前にあったやつか!』
『ビデオデッキ? 荼毘に付したよ』
『昭和の遺産では???』
『平成の前半くらいまでなら使ってたような気がしないでもない』
同時に
自分にとって最新機器であったDVDでさえ型落ちになりつつある事や、
PS2がもはやレトロゲー扱いでPS5まで出ていた時の衝撃は凄かった。
あるいは、掲示板で教えられた事が事実であると信じたくなかったのかもしれないけども。
そこまで言うと相手は一瞬俯き、黒縁の眼鏡へと触れる。
「……異界籠りからトンデモ経験しておいて欲しがるとか、ほんと図太いわね八瀬さん。
それでこんな
やっぱり馬鹿じゃない、という言葉を最後につけ足す。
流石にそれを言われると馬鹿呼ばわりも否定出来ないのでちょっと困る。
が、それでも。
「んにゃ、逆だよ美野里ちゃん。
こんな
どうせ踊るなら――― 一番派手な所が良いだろ?」
場所が場所なので互いにあえてぼかして話す。
事情を知らない人間が聞いても理解出来ないか暗喩だと思うだろうが万が一がある。
そう―――異世界。
正確には幾重にもループを繰り返しているらしかった世界の最前線。
死に物狂いで体得した秘剣ですら、ちょっと珍しい扱いされる程度の修羅場。
足切りラインがレベル50、敵も味方も100越えがいるというまさしく魔境。
「色んな意味で強くなる必要がある。俺もお前さんも、お互いにさ」
あの日、魔丞なる
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戦闘後、しばらく噛み合わない会話を続けていた自分たちだったが。
異界が完全崩壊した後、蓄積したダメージと疲労で互いに動けなくなってしまっていた。
状況としては道のど真ん中でぶっ倒れている刀持った野郎と血まみれの女子高生だ。
“あれ、これやばくね? ”
現状の不味さに気付き、冷や汗が背中を流れた。
このまま一般人に見つかれば、少なくとも自分は通報・逮捕からのブタ箱直行ルートである。
しかも戸籍が残ってるかも怪しいので、本気でどんな扱いを受けるか分かったものじゃない。
なので死ぬ気で体を動かし、少女を連れて人目に付かない場所へ逃げようとしたところで。
『未成年者略取誘拐―――!?』
そんな恐ろしい呪文と共に現れたのは『キリギリス』なる完全武装したDB連中だった。
アナライズの類をしなくても身のこなしだけで分かる、全員が格上の超人集団。
実際、後で聞いた話だと機械式で平均レベル60だったらしい。超こわい。
万全かつサシならともかく、どう足掻いても斬れる相手じゃなかった。
例え後先考えずに修羅に入ったとしても、数の差もあって確実に圧し潰されていただろう。
なので武装解除してから身振り手振り交えて必死に事情説明と身の潔白を話した。
途中、魔丞なる悪魔をぶった斬った事を驚かれつつ最終的に彼らも納得したのか、ある程度の監視を受けながら2人とも保護される運びとなった。
これでもし相手がミトレア教団や薔薇十字団系*2の連中だったのなら話は別だが、
そういう気配じゃなかったし斬るべき相手だと感じなかったのは幸いだった。
――――しかし、問題はそれからで。
彼らにどこかの大病院へと連れて行かれ、そこで治療と精密検査を受けて。
最後に幾つかの質問をされてから軟禁される事となった。
扱いとしては正直不満だったが、身元が不確かな人間相手にはむしろ上等かと納得し、
筋トレしたりよく分からないテレビ番組見たり変身ポーズを決めたりして数日後。
“ここは貴方たちの世界ではありません”
数日ぶりに顔を合わせた少女、若槻美野里と共に聞かされたのはそんな荒唐無稽な話。
映像越しに語るのは何処か死んだ、というか疲れて逝っちゃったような目をした少女。
手渡された資料に書かれていたのは、俄かには信じがたい、いや、信じられない真実。
世界は今まで数え切れないほど滅んではループしている事。
自分たちはそんな滅んだ世界の一つから浮上してきた残滓である事。
そして――――共に生き延びる為に、協力し戦って欲しいという事を。
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「そして最終的に快く承諾した俺たちは戸籍とかの保護を受けつつ、
地力を上げる為に日夜頑張っている訳だ」
「否定はしないけどあんたと一緒にされたくない……」
ひどい言い草である。
これでも5秒くらいかなり悩んだというのに。
「―――あたしはさ、納得出来たよ。
証拠なんてなくても、この目で世界の終わりを……その始まりを見たから」
美野里ちゃんがテーブルのケーキへフォークを突き刺す。
そのまま半分千切る様にして持ち上げてから口に放り込む。
「んぐっ……敵も味方も、家族も。何もかもがあの
それでも死にたくなかったから、一か八かの
それは前にも少し聞いた話だ。
曰く、彼女の世界には何やらヤバい異空間があって、それの研究・攻略も目的とした街に住んでいたとか。
ちなみにこの世界にもあったらしいが、数年前に破壊されたと聞いた時は腰を抜かしていた。
「あたしは、今でも死にたくないしそれに抗う為なら戦う覚悟はある。
蹲って目を閉じて耳を塞いで、嵐が通り過ぎるのを待つなんていうのも嫌。
何処かにいるかもしれない仲間だって探したいもの」
だけど、と一言挟んで。
「あんたは違う。
山籠もりしてたらいきなり世界が変わってただけ。
…………実感も何も無い筈なのに、どうしてなの?」
「ん――――、……」
彼女が言外に問うているのは、何故自分が戦おうと思ったのか。
それはまっすぐにこちらを見据えた、真剣な質問だった。
同時に、これまで一度も踏み込んで来なかった疑問だ。
だから、自分も正直に答える必要がある。
今日まで行動を共にした彼女へと、嘘偽りは許されないし許しては駄目だ。
「……まずだけど、あの媛巫女さんを
出来る出来ないは別として、少なくとも嘘偽りは無いってな」
こっちを利用して悪事を成そう、なんて思惑を疑うより先にそう感じた。
割とドン引きされるのだが、この
シン財閥、もといクレハ・コーポ―レーション*3の殺戮兵器群に囲まれた時もそれで切り抜けられたし。
更に言えば、
「それに、実際この目で確認する時間も貰えたろ」
まず初めにレベル100が3体暴れたとかいう地元に向かった。
―――おんぼろだった
貰った資料によれば、京都ヤタガラスとやらによってどちらも随分昔に取り潰されたらしい。
次に調べたのは昔よく世話になった日高示現流の連中。
―――拠点としていた屋久島が物理的に消滅していた。
草薙の剣はどうなったんだとか、クソ強かった御当代の婆さんが死んだのかも分からない。
他にも手当たり次第に確認を取った。
自分以上の剣の達人だった、ふんどしと虎徹がトレードマークの自衛隊陸将。
何度か共闘したり敵対した、青紫の髪と巨乳が特徴の封剣士。
爽やか王子様系の優男だった、同級生のペルソナ使い。
関西弁黒魔導士番長に子犬系の後輩等々。
―――結果は全滅。
誰一人として知っている相手を見つけることが出来なかった。
生まれる時代が違う、その周回では現れない事もあるらしいが、自分の場合はかなりのズレがあったようだ。
「家族も知り合いも居なくなった、二度と会えない。
悲しくないかって聞かれたら首を横には振れん。
……けど、
剣の道に生き、剣の道を征く。
そんな生き方をしていれば、いつか必ず何処かでくたばる時が来る。
故に、別れる度に二度と会えなくなる覚悟は常にしていた。
とはいえ、まさか自分だけが生き残る形になるなんて予想外だったが。
「正直言うと、実感は今でも微妙だ。
色々見たし体感したが、話のスケールがデカ過ぎてピンと来ない。
でもな―――――」
カチン、と腰に差したままの刀に触れて。己にとっての真を口にする。
「
俺にとっちゃ戦う理由は十分に過ぎるんだよ、それでさ」
メシア救世主派、三業会、阿修羅会、マンハント。
セプテントリオンなる怪物や神出鬼没の魔人たち。
おそらく居るのであろう黒幕とでも言うべき存在。
今の自分では返り討ちにされるしかないだろう強者、あるいは集団。
その事実に、武者震いと共に口元に笑みが浮かぶのが抑えられない。
喪失の悲しみと同じくらい興奮している自分が居るのだ。
この世界でなら、己の剣は更なる高みへとたどり着けると叫んでいる。
ああ、改めて思うが―――やはり自分はどうしようもなく人でなしのクズなのだろう。
「まーそれとは別に、ライダーシリーズが無くなるのは許せんから戦うってのもあるんだが。
ガキの頃から親父のコレクション見て育ったんだぜ、ある意味バイブルな」
そこまで話すと長い溜息が1つ漏れる。
引き過ぎて縁を切りたくなってしまったのだろうか。
ぶっちゃけ関わりたくないと言われても納得の感情しかない。いろいろ心配だけども。
「……訂正するわ。あんたはろくでなしの剣馬鹿よ。
あるいは剣狂い?」
「他には
ほら、あの媛巫女さんも言ってたろ」
「思うんだけど二つ名とか中二臭いわねー」
そんな事を言って、残りのケーキを食べてから美野里ちゃんは立ち上がる。
その表情には何故か呆れの色は無く、ただ静かに微笑んでいた。
相変わらず女心はよく分からないが―――少なくとも今は縁を切らずに済みそうだ。
「あっ、会計よろしくね! 嫌とは言わせないわよ。
さっきの試合、人の反対押し切って有り金ほぼ全部賭けたんだから」
「男にはやらなきゃならない時があってなぁ……」
ケーキ一つとコーヒー2つで凄い値段がしていた。
やはり最前線は物価も最前線だったりするのだろうか。
◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> LV33⇒Lv42
山から下りたら世界が変わってた系漂流者。
色々と確認したし受け入れてもいるが、元居た世界が滅んだ実感は薄い。
様々な勢力が小競り合いをしていたものの、滅ぼせるほどの奴はいなかった事も理由。
世界が滅んだのは悲しいし、黒幕を見つけたら容赦なくぶった斬るくらいには怒っている。
しかしそれと同等に「オラ、ワクワクしてきたぞ」的な思いもある。
・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV28⇒Lv36
世界の滅びを目撃した系漂流者。
事情の説明を受けたら納得の感情しか浮かばなかった。
なお、シュバルツバースが破壊済みな事には超びっくりして腰を抜かす。
自分が生きる為、脅威に抗う為に戦う事を決める。
今は半ば流れでコンビを組んだ宗吾と共に地力を上げる真っ最中。
ちなみに元居た世界での仲間は犬と猫。
・ふんどしと虎徹がトレードマークの自衛隊陸将
レベルは20代後半程度だったが、純粋な技量では宗吾を上回る達人。
曰く、変態技に変態技を重ねた“魔剣”の使い手。
仕事回してくれるのはありがたいが、度々勧誘してくるのは勘弁してほしかった。
・クソ強かった御当代の婆さん
齢90を超えていた日高示現流の当主。この世界線では一族ごと存在したかさえ怪しい。
曰く、年の功で雲耀を無刀取りしてくる化け物。
若い頃には帝国陸軍の人型決戦兵器を破壊したとかなんとか。
・青紫の髪と巨乳が特徴の封剣士
香港で仕事をしていた頃に共闘したり敵対した美女。
曰く、甘い展開とか一切ない腐れ縁。
実はこの周回でも存在しているが、残念な事に雌豚となった。