真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~   作:ジントニック123

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今回のシャドウに関するあれこれですが、ほびー様より監修を受けています。


Chaos War-後篇②-

 

 

 まず前提として、己がロクな人間でない事を佐藤ケイは自覚している。

 

 国を守るだの民を守るだの立派な目的を持てず。

 あれがしたいこれがしたいといった野望も無く。

 

 そのくせ汗水垂らして働くという真っ当な生き方に背を向け、こちらが性に合っているからと裏稼業に身をやつした小悪党だ。

 

 ただただ旨い汁を啜って日々を生きるだけの小物。

 強い者の顔色を窺い、弱い者を食い物にする社会のクズ。

 十把一絡げの、世界中どこにでも転がっている落伍者。

 

 そして、そういった輩は凡そ早死にするのが世の定めというものである。

 

 義憤を抱いた英雄に殺されるか。

 野望を掲げし悪鬼に潰されるか。

 中庸に揺れる凡人(だれか)に倒されるか。

 

 はたまたクズ同士の殺し合いや事故に巻き込まれるというオチもあるかもしれない。

 

 自分がこれまで生きてこれたのは、多少は腕が立つのと世渡りの上手さがあっただけ。

 綱渡りのような幸運がいつまでも続くはずはなく、相応しき末路は自分にも必ず訪れる。

 それを分かっていてなお生き方を変えられないのだから、腐った性根は筋金入りと言ってもいいだろう。

 

 ―――だからこそだろうか。

 

 佐藤という男はクズなりの美学、通すべき筋を持っていた。

 

 それは“真剣に生きる人間を好む”という事。

 

 その日その日を慎ましく生きる者。

 他者から利益を奪い肥え太る下種。

 強者に取り入り悪銭を稼ぐ企業家。

 正義を志し不正を正さんとする者。

 

 極道の聖域(クニ)を作ろうなどと嘯く阿修羅会。

 政治家生命を投げ捨て活路を切り開いた総理大臣。

 自分の生活を守る為に武器を取り戦場に立つDB達。

 

 一般人でも覚醒者でも構わない

 善でも悪でも中庸でも関係ない。

 

 自分がやりたい事を懸命に頑張っている人間を。

 自分で考えて納得した事を真面目にやる人間を。

 

 彼は良きものだと思っているのだ。

 付き合ってみてもぶつかってみても、半端が無くて良い。

 そういう人間を見かけると気分が良くなるし楽しくなる。

 時には出来る範囲で手を貸す事さえあった。

 

 自分がそう成れないから。

 ダラダラと楽に生き、己の都合だけを優先する人間だから。

 単純に―――美しいと思ったから。

 きっと理由としてはそんな物だろう。

 

 そういう訳で、佐藤としては今の情勢はとても好ましい物だった。

 

 破滅の予兆が齎す治安の悪化。

 GP上昇に伴う高位悪魔の出現。

 世界を滅ぼしうる怪獣の脅威。

 裏で蠢く未知なる勢力の暗躍。

 

 おまけに滅んだ世界からやって来たという漂流者たちの出現。

 まさに厄介事のオンパレード。厄ネタに次ぐ厄ネタの嵐。

 

 そんな風に、段々と生きにくい世の中になって来ているからこそ、誰も彼もが真剣になる。

 半端な覚悟でいたカジュアル共の中から自分の道を定め進み出した者もいる。

 今まで一歩引いた立ち位置で傍観者を気取っていた己にさえ、最期まで付き合ってみるかと思わせる者まで現れた。

 

 全くもって面白い世の中だ。

 脅威が人を強くするという理屈はあながち間違いでもないらしい。

 命ある限り彼らの生き様を見届けたいと願っている。

 

 ―――だからこそだろうか。

 

 各方面との繋がり(コネ)を買われ、一時の仮宿として転がり込んだカルト結社(花鳥風月)

 幼い外見をした邪悪丸出しのトップから、ついでと言わんばかりに下された雑用の数々。

 その内の1つ……謎の狂人“シャドウ”の監視任務を受け、その在り方を眼にした時。

 

 

 何があっても―――この男を殺さなければならないと直感したのだ。

 

 

 

 

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「もう一度言ってやる―――テメエはおちゃらけた半端野郎だ」

 

 みるみると遠ざかっていく地上を視界に収めながら。

 上昇に伴う激しい風切り音の中でも、不思議とその声は耳に届いた。

 シャドウは聞き返すべく口を開こうとして―――動かない。

 それどころか指先の1つまでもが己の意志に従わない事を把握する。

 

 妖刀によって心臓を貫かれたままなのもあるだろう。

 肉体が内から凍て付いて筋肉の活動を阻害している。

 

 だが、それ以上に。

 

(血が……()()()()()?)

 

 尾を引くようにして空中へラインを描く血液。

 それは命の残量が失われ続けている証であり。

 

 

 ―――同時に、己の不死身が消え失せている事を示していた。

 

 

《応急措置:薬物》*1薬物の効果の進行を停止する。

⇒効果時間中は回復アイテムの効果を発揮しないものとする。

 

 

 薬効阻害(不死殺し)

 どれだけ出鱈目な不死性を持とうが、大本が薬物の力であるのならば対抗手段はある。

 佐藤が我武者羅に攻め続けていたのは効果時間が切れる瞬間を待っていたのではない。

 

 自分に対抗手段があると悟られぬ為。

 ある程度はシャドウの体力を削る為。

 必殺のタイミングを作り殺しきる為。

 

 ―――やがて急上昇が終わる。

 

 空を駆ける揚力が完全に失われ、1つとなった影が上昇限界へと達する。

 ここまで来れば地上の光は淡く頼りないものだ。

 太陽はまさに水平線へと沈む直前で、最後の光が彼らを照らし出す。

 

 目と目が合う。

 

「……()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()

 

 ゾブリと、シャドウの心臓から刀が抜き放たれた。 

 

 

《ギガバイオレンス》*2点滅状態のプレスターンアイコンを4個追加する。

⇒X-1に搭載されていた《バイオレンス》の改造。

リミッター解除による1度限りの超高速機動。

通常攻撃(ATTACK)「妖刀村正」による攻撃。攻撃回数:0~7回

《双手》*3通常攻撃が、小威力+通常の2回攻撃になる。

 

 

 噴水のように噴き出す血を合図として。

 誰の目の届かない天空を舞台に神速の剣舞(ソードダンス)が幕を上げる。

 

 踊り手は刀剣を振るう武者と刻まれる黒衣。

 それはいっそ破滅的なまでに美しい斬殺芸。

 

「―――、―――」

 

 血を撒き散らしながらシャドウの視界は激しく揺れ動く。

 上下左右に回転し、時には急反転まで。

 三半規管が意味を成さず、もはやどこが地上でどこが空かさえも分からない。

 

 更には深々と身体を斬られているはずなのに、痛みをまるで感じない。

 氷結で感覚が麻痺してしまっているのか。

 神経信号を受け取る脳が破損してしまったのか。

 

 いずれにしろ危険な状態であるのは間違いなく。

 数秒後には色調の喪失(グレイアウト)まで発生しモノクロの世界へ放り込まれる。

 これが起きるという事は出血がいよいよ洒落にならないレベルに達したのだ。

 

 それでもまだ―――聴覚だけは鮮明なままであった。

 

「仕事でテメエを初めて見た時、起きたまま夢を見てるんじゃねぇかと思った。

 こんな奴がいていいのかと、何度も顔を抓ったさ」

 

 揺れ動く度、体の何処かが欠落すると共に独白が叩き込まれる。

 

 それはこの筋者が受けた途方もない衝撃を現すかのようだった。

 佐藤ケイと言う男だからこそ一目で分かった。

 真剣に生きる人間を好む彼だからこそ、真実の一端を掴めた。

 

 

「テメエからすればこの世界はゲームか何か。

 周りの人間はNPCで事件はイベント。

 夢の中(現実)じゃあおそらく単なる一般人―――大した頭してるぜまったく」

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 自分が世界の中心となって生きる……そんな“英雄の夢”を。

 

 どこまで行っても現実()の出来事だから何をしても気にしない。

 死に至る苦痛も本物ではないから無視出来るしどうでもいい。

 そんな事より如何にして楽しむか、恰好をつけて遊ぶのか……それだけしか頭にない。

 

 そんな振る舞いをするから敵も味方も。

 誰も彼もがシャドウを狂人と呼ぶ……あるいは勘違いするのだ。

 傍から見れば確かにその通りだが―――本質は住む世界(レイヤー)が違うだけの異邦人。

 

 狂う狂わない以前の話。

 土台から異なっている。

 仮に違っていたとしても、そう遠くはない答えのはずだ。

 

「……別によ、1人で夢の世界に閉じ籠ってたならまあいいさ。

 そういうのは探しゃあいるし、別に否定もしねぇ。

 テメエの勝手だ、好きにしな」

 

 だが、そういう人間は佐藤のようなクズと同じでどこにでも転がっている。

 珍しくもないしありふれた存在だ。

 それだけなら佐藤も大して気にはしない。

 

 真剣に生きていない人間だからと言って別に嫌う訳でもないのだ。

 人間は可変性に満ちた生物であり、何かが切っ掛けで化ける事もある。

 今はそうでも将来は、それこそ死の間際の一瞬でも至るかもしれない。

 

「――――だがな。テメエは殺しやがる」

 

 声に熱が籠る。

 激しい感情が……怒りが滲み出す。

 

「夢見たまま、馬鹿みたいな力でおちゃらけながら殺す。

 真剣にやってる連中を。真面目に足掻く連中を。本気で魂燃やす連中を。

 こっちの好きなもんを殺して、邪魔しやがる……!」

 

 

 滲み出した怒りに―――火がついて爆発する。

 

 

 

 

「ふざっけんじゃねぇえええええええええ!!!!!!」

 

 

 

 爆発する剣閃は勢いを増し、シャドウの生命維持に必要な機能を次々と停止させていく。

 彼は落下と共に終わり行く命を前に、ただ茫然とした目だけで“敵”を見る。

 

「殺すなら素面でやりやがれ半端野郎! 

 ちゃんと現実だと理解した上で殺せ!!」

 

 半端者の代表とも言えるカジュアルでさえ、現実である事を理解しているのが殆どだ。

 そうでない輩も、死に際には強制的に理解させられる。

 

 だが……シャドウはそうではない。

 夢を見続ける限り、現実に目を向ける可能性は完全皆無。

 誰もが持つ可変性は、この男には適応されない。

 

「英雄気取るなら相手の目ぇ見て堂々と殺せ!! 

 悪鬼と嘯くなら相手を嗤いながら踏み躙って殺せ!! 

 凡人のままなら相手を歯ぁ食いしばりながら腹括って殺せぇっ!!!!」

 

 無論、佐藤の言葉も穴だらけの極論で彼の価値観にしか沿っていない。

 他の誰かが聞いても、納得するより眉を顰める者の方が多いはずだ。

 当然本人もそれを自覚していて―――それでも言わずにはいられなかった。

 

「邪魔される方の身にもなれ! 

 テメエみたいなのにやられてちゃたまったもんじゃねぇ!! 

 白けるんだよ、なあ―――ッ!!!!」

 

 続く斬撃で遂には音の世界さえも遠くなる。

 シャドウに残されたのは狭まった視界に映る敵の姿と声だけ。

 ―――また体の何処かが欠けた。

 

「そっちの事情は聴かねえし興味もねぇ。

 ただ、夢見てる半端者の分際で殺し殺されの世界に踏み込んだ。

 ―――それが一番の間違いだぁ」

 

 

《狸寝入り》*4使用者のBSを睡眠に変更し、HPが0以下ならば1とする。

死亡状態でも使用可能。

《アボイドスリーパー》*5睡眠状態の時、攻撃に対する回避率が100%となる。

 

 

 そして最後の生命線が発動する。

 肉体を死亡から睡眠状態へと移行させ、絶対回避を付与するもう1つの不死身。

 

 相手がどれほど鋭い攻撃を放とうとも関係ない。

 息切れを起こした所で転移魔法(トラポート)でも使えばそれで終わりだ。

 シャドウという男は生き残り、これからも夢を見続ける。

 

 それを目の当たりにして―――。

 

 

「結局()()か。ハッ、分かりやすくて助かるぜ」

 

 

 佐藤は吐き捨てるように呟き、再び天へと上昇―――そして垂直反転(ヴァーチカル・リバース)

 

 

「突進」*6誕生篇における戦闘ルールの1つ。

全力移動と格闘攻撃の組み合わせ。

最低でも身長の2倍以上の直線距離を全力移動し格闘攻撃を行った場合、

そのダメージに【力】の能力値を加えることが出来る。

 

 

 重力をも攻撃力に加える為の加速。

 それが意味するのは必殺への確信。

 

 “狸寝入り(夢に逃げる事)”さえ―――彼の予想の範疇だった。

 

 

「テメエが()()()にやってりゃ、お友達(ブラックフィエンド)が助けに来たかもしれねぇがな。

 ここでお終いだ……死んじまえ」

 

 

《奥義一閃》*7敵全体に物理属性で中威力の攻撃を1回行う。即死の追加効果(50%)。

《切り落とし》*8補助アクション(手番消費無し)。

武器を使用した次の格闘攻撃1回の威力に力能力値×2を加える。

この格闘攻撃に対しては回避・防御・反撃を行えない。

⇒一刀流奥義と同名にして異なる技法。

あるいは対覚醒者・悪魔を想定した崩し技(アレンジ)

 

 

 加速、そして一閃。

 日が水平線の彼方に沈み、緑閃光(グリーンフラッシュ)が輝くと同時。

 

 

 3度目の正直と言わんばかりに―――シャドウの頸は宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そうか、そういうことだったのか」

 

 

 

 

 夜に切り替わった世界で、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

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シーンBGM:「BLADE ARTS IV」*9

 

 

 

「なッ――――!?」

 

 

 残心を解かなかったのは筋者としての生き汚さではなく、武人としての心得だった。

 

 手に残る確かな手応えと相反する背後の気配。

 身に染み付いた感覚がまだ終わっていない事を思考より早く悟らせる。

 

 すぐさま振り―――そこにいたのは()()()()()()()

 

 身体全体から紫の光を発し、翼を持たぬ身で滞空する黒衣の怪人。

 ―――殺したはずのシャドウがそこにいた。

 

「テメエ、どうやって……っ!?」

 

 確かに刎ねた筈の頸は元通り繋がり、刻まれ欠落していた体も傷1つ見当たらない。

 表面上の見せかけではない。文字通りの全快状態だ。 

 

 食いしばり―――傷が全快している理由にならない。

 不屈の闘志―――死の淵から戻った気配を感じない。

 未知の技術―――違う、そういう類のものではない。

 

 脳裏を過る幾つもの可能性に否を出す。

 

 敵を前にしてダラダラと考えるのは下策だが、考え無しの行動は愚策である。

 特にあの紫の光が何なのか分からない。

 これまで使ってこなかったのは奥の手か使えない理由でもあったのか。

 

 そこまで考え、思考し、考察して―――。

 

 

「ようやく……ようやく逢えたんだな。

 俺への“敵対者”が、俺という人生の障害が!」

 

 

 それは歓喜に満ちた声だった。

 夜闇の中においても分かる紫光の中、恍惚の笑みを浮かべるシャドウが発したもの。

 見るからに精神が高揚し、リミッターが外れたかのような。

 

 

 

 

 

―――超えられなかった壁を越えて、万能感に包まれているかのような。

 

 

 

 

「ッまさか―――!?」

 

 

 

「俺を否定して、それを乗り越えてみせろという試練(イベント)が!!!」

 

 

 佐藤が答えに辿り着くと同時に、シャドウが()()()()

 

 

 ―――《黒子の歩法》―――

 

 

 大気を足場とする異次元の域へ進化した歩法を以って眼前の敵へと距離を詰める。

 身体の底から沸き上がる力を武装COMPへ集束し、繰り出すのは()()()()()()()()

 

 

《オーラスラッシュ》*10剣に全身全霊の力を込めての一閃。

悪魔が魔獣と呼ばれていた頃―――それよりもなお古き時代の力。

 

 

「ォ、オオオオオオ――――ッ!!」

 

 

()()()()()()()()()()()()

 その事実を本能で悟り、佐藤が行ったのは極めてシンプルな技。

 

 

 

《防御》*11回避の代わり使用。

キャラクターの基本格闘威力に等しい物理防御点を得る。

クリティカル時、使用者に対するダメージと効果を完全に打ち消す。

《絆スキル:判定値上昇》*12判定値を「絆レベル×10%」上昇する。

⇒「個人目標:信念」との絆を使用。

⇒己が信念との絆レベルは【10】である。

 

 

 シャドウの攻撃を真正面から受け止め、()()()()()

 接触の瞬間にベクトルを弄ればどれだけ強力だろうと関係ない。

 “切落”のように迎撃(カウンター)を成立させられずとも致命の刃を遠ざける程度は可能だ。

 

 もちろん言うは易い行いである。

 地上にいる覚醒者たちの中で同じことが出来るとすればほんの一握りだろう。

 佐藤でさえ連続して行えと言われても不可能な神業だ。

 

「アハハハハハハ―――!! 

 流石だライバル、俺の宿敵!! 

 幾つもの世界(シナリオ)を巡ってようやく出会えた運命!!!!」

 

 しかし防いだのは事実で―――シャドウが絶笑する。

 空中で鍔迫り合いをしたまま、苦々しく佐藤は口にする。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 

「中盤のイベントには相応しいよなぁっ!!!!」

 

 

\カカカッ/

導師シャドウLv75

 

「覚醒の発動」*13相応しきイベントが発生した際、いつでも覚醒判定が可能。

覚醒成功時、HPとMPは完全回復しする。

全てのBSも解除される(死亡を含む)。

⇒「PC本人の死亡」「内面への旅における自己の暗い面との対決」達成。

⇒「覚醒段階:導師」

 

 

 窮地に追い込まれた末、自らの枷を外すのは万人に許された権利。

 例え夢の住人であるシャドウとはいえ、それは変わらない。

 捉え方が異なろうとも、彼の霊格はさらなる進化を果たしたのだ。

 ―――あるいは、遥か“深淵”と繋がってるからかもしれないが。

 

 

「この……クソッ!」

 

 もはや勝敗は決した。

 先ほど頸を刎ねた段階で終われなかった佐藤の負けである。

 シャドウは更なる領域へと至り、勝ち目は悉く潰えた。

 何の準備も策も無く戦える相手ではない。

 

 もし仮に。

 佐藤が淡々と何も言わず……相手に火を付けるような言葉を発さなければ。

 いつも通りのありふれた出来事(イベント)としてシャドウに認識させていれば。

 

 この覚醒は無かったのかもしれない。

 怪人は覚めない夢へと落ち、相応しき末路を辿ったのかもしれない。

 結果は……逆だったかもしれない。

 

 しかし、そうはならなかった。

 ―――それが現実である。

 

「ありがとう。

 お前と出会えた運命に最大の感謝を。

 これで俺は、世界を救う英雄になれる」

 

「ふざけんな半端野郎が。

 寝たままだからって寝言ほざきやがって。

世界ってのは残酷で……英雄ごときじゃ救えやしねぇ

 

 

 鍔迫り合いを行いながら、シャドウから一層激しく紫の光が溢れ出す。

 明かな大技の兆候、しかし現状維持で精一杯の佐藤にはどうしようもない。

 少しでも気を緩めればその瞬間に膾斬りにされるだろう。

 

 やがて光は臨界に到達する。

 美しくも毒々しい輝きが宿す熱量は万能魔法(メギドラオン)を軽く超えていた。

 スクラップ寸前の肉体(マシン)ではどう足掻いても耐えられないのは明白だった。

 

 ―――だからこそ。

 

 

「“エデン”、“シャドウ”―――影野 実

今日この時を俺たちの黎明としよう」

 

 

「“小野派一刀流”、“筋者”―――佐藤ケイだ。

 テメエにもいつか相応しい末路が来るぜ」

 

 

 最後に名乗りを行って―――シャドウの内から終焉の炎が解き放たれた。

 

 

 

「アイ・アム―――アトミィイイイイイイイクッ!!!!」

 

 

 

インドラの矢(アイアムアトミック)*14敵全体に火炎属性ダメージ。

 極めれば惑星さえも薙ぎ払う最強最悪の炎。

 人に行使し出来る筈のない絶技。

 

 

 


 

 後に語り継がれる混沌の奇禍事変において、度々話題とされる現象がある。

 

 それは日没と共に上空数千メートルで発生した謎の大爆発。

 

 直接的な被害はゼロであったものの、もし地上で発生していれば大惨事は確実であった。

 

 多くの有識者が仮説を出しているが―――真相はいまだ闇のベールに包まれたままである。

 


 

 

 

 落ちる、落ちる―――影が落ちていく。

 

 はるか下の東京へ。

 未だに戦いが続く戦場へ。

 秩序と混沌がぶつかり合う鉄火場へ。

 

 しかし今は、今だけはどうでもいい。

 意識を向けるのはただ1点。

 

―――己と同じように地上へと落ちていく黒鉄の武者のみ。

 

 

―――《ドラッグホルダー:バルーンシールド》―――

 

 

 生き延びたのは不思議でも何でもない。

 全てを焼き尽くす炎であろうと、火炎属性である事には変わらない。

 ならば防ぎようは幾らでもあり、ライバルはそれを持っていたのだ。

 

 それが―――たまらなく嬉しい。

 また腹の底から笑いたくなる。

 流れ的に死なないとは思っていたが、見事期待に応えてくれたのだから。

 

 影―――シャドウはニヤつく顔を隠そうともせず、誰に聞かせるでもなく独り言を呟く。

 

 

「長い長い第一クールはこれにて終了。

 次回からの第二部にこうご期待! 

 ……けど、その前に」

 

 

 視線を切り、黒衣を広げ空気抵抗を調整。

 ムササビスーツの要領で滑空を開始する。

 

 目指すのは地上ではなく()()。 

 あらかじめ身内から聞いていた作戦地点。

 そこにある“爆弾”の事を思い出したのだ。

 

 

「どうせなら舞台はシンプルにすべきだ。

 余計な愚者(モブ)は必要ない。

 俺たちの背景に映るなら最低でも覚醒者じゃないと」

 

 ―――英雄の夢はこれからが本番。

 

 来たる次のシーズンを前に、シャドウは胸を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

 ―――そして地上では。

 

「むむっ、あれは佐藤か。

 ……負けたなあいつめ。

 いやしかし相手も悪かったか」

 

 空から落ちる武者を確りと捉える者がいた。

 

 豆粒にしか見えないほど距離は離れていたが問題ない。

 己の付き添い人 (マネージャー)を見間違うほど目を悪くした覚えはなかった。

 

「うーむ、拾いに行くべきか。

 オレとしては一休みしたい所なのだがなぁ……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の山を椅子代わりにしながら考える。

 

 こうして座っているだけでも全身が軋み軽く悲鳴を上げていた。

 その巨体に無事な場所なと1つも無く、あちこちから出血している。

 内側―――内臓も幾つか損傷しているだろう。

 

 取り巻き含めて殴り続けたせいか流石に消耗が大きい。

 いくら何でも単独で挑むのは無理があり過ぎた。

 相性が悪ければ今頃死んでいたのは間違いない。

 

 少し休めば問題無いが、わざわざ歩いて行くのも面倒だ。

 障害物全てを薙ぎ払って行けば近道出来るが、一般人(カタギ)や無関係のDBを巻き込むリスクもある。

 それは趣味ではないし興味もない。 

 

 そもそも、今回はあちらから別行動を切り出してきた。

 見つけてしまった怨敵を前に、幾重にも準備と策を重ねて挑んだ戦い。

 それに負けてしまったばかりの男に会いに行くのはプライドを傷つける行為だろう。

 

 “空気を読まない筋肉達磨”。

 “脳味噌まで筋肉で出来てる”。

 “我が道を行く奴(ゴーイングマイウェイ)”。

 “つーかお前本当に現代人”?

 

 などと腐れ縁(カーナッキ)とその一行からよく言われる身であるが。

 そのくらいの機微は分かるのだ……普段は気にしないだけで。

 

「……まあ、秘神(さんどばっぐ)でも殴りながら行ってやろうか。

 奴には普段から世話になっているしな」

 

 

 ゆっくりと、のんびりと歩き出す。

 地獄のような鉄火場の中を悠然と。

 威風堂々、王者が道を征くが如く。

 

 

 

 

 

 

 

――――アイドルが履くようなヒラヒラのスカートを靡かせながら。

 

 

 

 

 

*1
※誕生篇

*2
※DDSAT2

*3
※デビサバ2

*4
※200X

*5
※DSJ

*6
※誕生篇

*7
※真Ⅳ

*8
※200X

*9
※200X

*10
※創世のエル

*11
※200X

*12
※200X

*13
※覚醒篇

*14
※新約LB




シャドウはこんな感じのイベントを経て本編に登場しました。
3次なので並行世界ではあるけど、最悪な覚醒(

次回、エピローグです。
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