真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
―――そもそもの話、自分だけは最初から気付いていた。
強力な幻視能力を持っていたせいか、誰かから告げられるまでもなく。
本来なら知る事の出来ない情報を漂流時に垣間見てしまったから。
ここが並行世界なんてものではなくもっと別の、幾度となく繰り返される舞台の一幕であると。
自分たちの世界はとっくの昔に幕を下ろし、誰からも忘れ去られてしまったのだと。
最初はもちろん信じられなかった。
何度も幻覚だ、つまらない妄想、悪い夢だと自分に言い聞かせ続けた。
……正確に言えば、信じたくなかったのだ。
だってそうだろう?
世界中を探しても七名しかいない格上殺しの王者が。
どのような敵であろうと勝利を齎す神殺しの魔王が。
自分が、友人、配下の者たちが崇拝し敬愛した男が。
草薙護堂が―――彼はもう手の届かない所へ逝ってしまったなどと。
彼は今でも戦い続けている。
宮殿の地下シェルターを背にして。
自分たちか援軍に来ると信じて。
だから力を付けて、一刻でも早くその期待に応えなければならない。
ただその一心で仲間たちと動き続けた。
そのために非合法レルムでの唾棄すべき所業を行った。
しかし、時が経つにつれて……彼の死が揺るぎない事実なのだと思い知らされる。
狂った環境を生き抜いた故か、信じられない力を持った者たちが跋扈する世界。
最強であったはずの七人に並ぶ超越者でさえも最前線には及ばないという絶望。
……自分は真実を口にするべきだったのだ。
結果として護堂は命と引き換えに自分たちを終わりから逃がした。
ひょっとすると己の末路も悟っていたのかもしれない。
神殺しとなる前の、単なる野球少年として培った勝負勘で。
なら、その意思を無駄にしないよう動かなければならない。
これ以上犯罪組織と手を組み非道に手を染めるなど遠回しな自殺行為だと。
彼との思い出を胸に生きる努力をしなければと。
『我らが魔王のためにも必ず帰らなければ!』
『負けやしない、護堂なら絶対に勝ってくれる!!』
『『必ずや勝利し、征服し、私たちと共に蹂躙する!!』』
けど……言えなかった。
半ば狂気に染まった目を前にして口が動く事を拒絶した。
日本人である自分と、欧州人である彼女たちでは価値観が異なるのもあったかもしれない。
追い詰められて視野狭窄になっていたのもあるだろう。
魔王を絶対視し盲信するか否かで分かれた可能性もある。
恐れではない。彼女らに残された唯一の希望を奪う勇気がどうしても湧かなかったのだ。
だから、結局自分に出来たのは静観する事だけ。
レルムの外で活動すると言って物理的に距離を置く事のみ。
悪い言い方をすれば放置、問題の先送りである。
これでは何の解決にもならないのは分かり切っていた。
いたずらに犠牲と敵を増やすだけ。
それでもいつか時間が何とかしてくれる。きっと冷静さを取り戻してくれる。
そんな風にまた己を誤魔化し続けて……。
聞いた話ではレルムが襲撃を受け、ヴァリアーたちと共に命を落としたらしい。
状況からして配下の人間もほぼ死んだか捕まったか。
分かり切っていた結末で―――何もしなかったからこうなった。
自分のせいで仲間が死んだのだ。
また誤魔化す真似をしたから、とうとう一人ぼっちに。
居場所もやるべき事も……もはや何処にも無い。
知っているのに知らない街の片隅でそう自覚した時、自分の何かが砕ける音がした。
それからはもう糸の切れた凧だ。
流されるままあちこちへふらふらと彷徨う生きた亡霊。
全てがどうでもよくなってしまったのだ。
生きる事も死ぬ事も……己の命運でさえも。
荼毘に協力したのもたまたま最初に声を掛けられたからというだけ。
彼の成す事が何を引き起こすのかさえも構わないどうでもいい。
―――その果てに自分が命を落とす事になったとしても、きっと。
・
・
・
「―――コール!」
日本最高峰たる富士山の上空。
眼下に群れを成す残党連合に対し真っ先に動くのは超能力を繰る少女。
思考操作で呼び出すのはこの状況で最も適した仲魔。
「まずは探ってグルル!!」
『任されたぁあああっ!!!!!!』
| 凶鳥 | グルル | Lv63 | 相性:破魔に弱い、呪殺反射、精神・神経無効 |
現れた魔法陣より顕現した凶鳥は主の意を汲み狙いを定める。
繰り出すのは露払いの一撃。正射必中の貫通矢。
| 《ヤブサメショット》*1 | 敵全体に小威力の物理属性攻撃。 相性を無視して貫通し、必ずクリティカルが発生する |
| 《凶鳴》*2 | 《ハーモニクス(召喚)》によって外付けされた種族専用スキル。 戦闘開始時、味方全体の判定値を1段階上昇させる。 ⇒《スク・カジャ》*3と裁定。 |
命中精度の上がった矢の雨が連合へと降り注ぐ。
「ひぎぃっ!?」
「あ、足ぎぃいいあああああっ!?」
「落ち着け大した威力ではない!」
「そいつはてめえの所だけだろうが!!」
「退け、一旦退けぇええ!」
「オイ勝手に下がるなァッ!!」
避けられない防げない耐えられない。
直撃し手足が吹き飛ぶ者。
奇襲へと怒声を上げる者。
途端に仲間割れをする者。
這うようにして逃げる者。
―――反撃しようとする者は皆無という有様。
| 「士気崩壊」*4 | 前線が崩れ出し、全軍が引きずられて交代する。 移動と逃走を除く行動が次のターン終了まで禁止となる。 |
たった1度の全体攻撃。
蘇生不可能なほどのダメージを与えられたかも微妙だ。
だというのに―――それだけで軍勢は完全な烏合と化した。
纏めようとする者もいるが、誰一人として耳を貸す様子はない。
「あれはもう鴨撃ちでは?
あるいはまな板の上の鯉とか」
「ゴミが集まってもまるで利点を活かせてねぇわな。
ちゃんと指揮が取れてりゃこうはならない―――と、そこのお前ちょっと待て」
「掠った! ちょっと掠った!! 敵はこいつらだけー!!!」
冷静なのは飛来する全てを
そして何故か荼毘は近くを通って逃げようとした下っ端の首を掴む。
ちなみに女の方は運悪く攻撃に巻き込まれて騒いでいた。
『ノック完了! 耐性ある奴ぁいねえええ!!!!』
「そ、良かった―――なら合わせて」
| 《クイックロードⅡ》*5 | 即座に銃弾の装填、弾倉交換が出来る。 ランクⅡ:銃器を装備していなくても即座に銃器を準備できる。 必要ならば装備している武器を地面に落としてもよい。 |
| 「M134ミニガン」*6 | 敵全体を攻撃する機関銃。 ⇒「劣化ウラン弾」装填中。 |
| 「劣化ウラン弾」*7 | 全ての悪魔に対して猛毒付与効果を与える銃弾。 これは毒無効耐性にとっても付与判定を与える。 |
| 《ヤクシャの凶爪》*8 | 敵が毒状態になったとき、次の連動効果が発動。 ランダムな敵に3回、物理属性の打撃型ダメージを与える。 成功時、ヒットした敵を基礎確率30%で緊縛状態にする。 |
| 《毒追撃》*9 | 敵が毒状態のときに与えるダメージが30%増加する。 |
続けて万物を侵す劣化ウランの弾丸と毒に反応する凶爪の
浮足立った敵はさらに混乱し、2つの意味で分断されていく。
そして―――。
「ついて来れるか剣の鬼よ―――ッ!」
「誰に言ってやがる凄拳使いの
「ケヒャヒャ、大将も兄さんもどっちも大したもんですよ!!」
| 《フェイタルブロウ》*10 | 命を顧みず、相手を粉砕する一撃を与える特殊スキル。 装備相性。直線上の敵全員を対象とする。 近接・射撃・魔法の全てを加味した物理ダメージを与える。 ⇒3ターン、物理・四属性・破魔・呪殺耐性を1段階低下させる。 とある邪神狩人とのアレコレで入手した装備によるスキル。 |
| 《居合一心》*11 | 敵全体に物理属性の打撃型ダメージを与える。 攻撃成功時、自身をチャージ状態にする。 |
| 《会心ブースタ》*12 | クリティカル率及びクリティカル威力上昇。 フツヌシの武威を取り込み《会心》を昇華させたもの。 |
| 《奥義一閃》*13 | 敵全体に物理属性で中威力の攻撃を1回行う。即死の追加効果(50%)。 |
守りを崩す流星の如き一撃。
それに続く二つの神速抜刀。
烏合に耐えられる道理がある筈もなく、残心を取る三つの影の背後で人型の残骸が散らばった。
前座は消え、次に動くのは本命たる蒼炎の使い手。
またしても生き延びた亜麻色髪の少女に目もくれず、原型留めぬ肉塊*14を投げ捨てながら荼毘は懐のスマフォを起動する。
| 「パッチワークCOMP(失敗作)」 | 阿修羅会が独自に改修、改悪したCOMP……の失敗作。 悪魔召喚アプリのインストールが出来ず廃棄された物。 荼毘はこれを密かに回収していた。 |
| 《アクセラレート》*15 | HPを消費し発動者の行動回数を増やす。 パッチワークCOMPによる強引発動。 強化された人体にのみ耐えられる。 ―――明日の生を切り捨てたのなら話は別だが。 |
| 「魔反鏡」*16 | 味方1体に魔法攻撃を1回反射するバリアを張る。 安上がりの魔反鏡。仲間などいないので自分を守るだけで事足りる。 |
残像が生まれるほどの加速、人体の限界を超えた
……常識で考えるならばあり得ない。
阿修羅会が使用していた
悪魔人間、またはそれに類する強化された者が使う前提であり、外見は恐ろしくとも分類上は人間である荼毘が耐えられる筈がない。
良くて重傷……悪くて即死。どうやっても命を削る事はまず間違いない。
―――逆に言えば、それさえ飲み込めば問題なく使用可能という事だ。
明日を知らぬ者からすればそのようなデメリットは無いに等しいのだから。
| 《 | 灼熱の刃が刹那の速度で敵を切り裂く特技。 敵1体に13回の極小魔法ダメージを与える(裁定)。 |
| 《混沌の波動》*18 | ターン終了時まで攻撃の対象を全体に変更(手番消費無し)。 攻撃の威力に【レベル】を加える。戦闘終了時まで速度が半分になる。 使用者は攻撃の■■■■■■■できる。 パッチワークCOPMに無理矢理組み込んだ機能。 相応の負担はあるが知った事ではない。 |
| 《火炎ブースター》*19 | 火炎スキルの威力を2倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に+20%する。 |
| 《火炎ハイ・ブースター》*20 | 火炎スキルの威力を3倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に更に+20%する。 火炎スキル2つと《火炎ブースター》の習得が必要。 火力を上げる―――それしか知らず、それだけに心血注いだ。 |
凝縮された炎の熱線が蜘蛛の巣めいた模様を描きつつ全員に襲い掛かる。
回避する空間を殆ど潰した灼熱の刃だ。
1発1発は威力が弱くとも、増幅された上での連撃であれば話は別。
無効化以上の耐性が無ければ超人と言えどただでは済まない。
「そっちも相変わらずですなぁ“火男”の旦那」
窮地を前にして―――嬉しそうに弾んだ声がした。
| 《ドラッグホルダー》*21 | 味方1人を対象とする消費型アイテムを1つをいつでも使用できる。 1ターンに1回のみ。 ⇒味方全体へと仕様変更。 |
| 《物資調達Ⅲ》*22 | 味方全員は購入可能な消費アイテム、武器・防具以外の装備を入手する。 ランクⅡ:上記に加え、味方全員に「サバイバル」のスキルを付与。 ランクⅢ:更に購入可能な消費アイテムを入手する(合計1人2個まで)。 |
| 「火障石」*23 | 1ターンの間、味方全体に火炎属性攻撃を1度だけ無効化する効果を付与する。 |
蒼い炎はその隔たりを超える事は出来ずに溶けるようにして消えていく。
それを成した者を一瞥すると、荼毘は呆れたように鼻を鳴らした。
「今は“そっち側”に着いてんのかコウモリ野郎。
風の噂じゃ阿修羅会の傘下組織にいたって聞いてたんだがな」
「そちらが抜けた後で世話になってたんですがね……方向性の違いでリストラされちまいまして。
丁度いいんで足洗って世のため人の為に働こうかと……ケヒヒッ!」
―――主犯の情報は事前調査の段階である程度抜かれていた。
1日程度のほんの僅かな準備期間であろうと国家の支援があるのだ。
個人やフリーの人間が調べるのとは精度も範囲も訳が違う。
「ぁあああぁああぁぁぁぁあっ!!?!!?
仕事がぁあああ増えるニョォオオオオオオオッ!?!?
仕事仕事仕事仕事仕事休みが無くて仕事仕事仕事ぉっ!!!!!」
「行方知らずの阿修羅会幹部追跡……その他の要注意人物の手配……セプテントリオンに関する情報の開示準備……ふはっ、カアアハッハッハッハヒッヤハァアアッ!!」
「おーい誰かパトラと栄養ドリンク頼むわ~……まだ働かせろ」
「若いねぇ……仕事は30連勤からが本番だってのによ」
「それはそれとして仕事増やした奴は絶許」
「だね」
ちなみに不要な仕事を増やされた情報部の人間はバチクソにキレていた。
目の前に現れたらハチの巣にしてやりたい程度には。
彼らの涙ぐましい労働の成果として得られたのは、主犯が裏社会において多少は耳にする指名手配犯であるという事。
幾つかの交戦記録、“火男”という異名通り炎を多用するスタイル。
その情報だけでも十分に対策は取れた。
―――直接の面識があり、共に仕事をした事のある者がいたならばなおさらに。
| 《裏ルート》*24 | 現状GP限界を超えたアイテムや情報を手に入れられる。 秩序側に立ったとはいえかつての縁が切れた訳ではない。 時にはグレーゾーンを歩む必要もあるのだ。 |
「という事で旦那ァ……悪いんですが死んでくださいよ。
訳あってアタシももっと強くならなきゃならんので」
「ンだよやる気に満ちやがって。
オーケーオーケー知り合いのよしみだ、黒コゲまで焼いてやる」
無論、知り合いだからといってどちらも手心を加えるつもりは毛頭無い。
片方は好ましく思っているからこそ全力で。
片方は己以外の全ては畢竟、敵である故に。
「へへ、ならついでにもう一つ。
……
「―――
視線と視線が、殺意と殺意が、蒼炎と武威が衝突する。
先程までとは桁がまるで違う。
ウォーミングアップは終わりと言わんばかりに、敵である
「出鱈目過ぎでしょう……」
ただ一人、裕理はその場に座り込んで動かない。
彼女からすれば超越者同士のふざけた激突だ。
強くなったとはいえ支援型である自分が混じれば簡単に消し飛ぶ。
そもそもこれ以上付き合う義理も無い。
だからそのまま戦場から離れようとして――――。
| 《黒子の歩法》*25 | 敵から狙われにくくなる。 |
| 《短剣郡舞》*26 | 最大6本の短剣を任意の相手に投擲する。 回避側はそれぞれ避けなければならない。 |
| 「肉体の設定 :毒身」*27 | 毎日少しずつ毒を摂取する事で、自分の身体に耐性を付けている。 【ランク1】BS:毒にならない(毒無効) 【ランク2】BS:病気にもなりにくい(毒無効、病気・風邪耐性) 【ランク3】接触時、毒状態となる⇒《毒追加》を習得(裁定) |
| 《毒追加》*28 | 通常攻撃・物理系スキル使用時発動。 中確率で対象にPOISON(毒)を付与する(魔力相性)。 |
| 《バステブースタ》*29 | 敵にBS全般を付着させる確率が上昇する。 |
目立つ暴威の陰に隠れ潜んでいた
音も気配も殺意も無い、完全な死角からの奇襲。
投げ放つのは毒に濡れた
毒蛇の牙がそれぞれ3本づつ、最短距離を飛翔して獲物へと喰らい付く。
「……ああ、逃げた方の女か。
毒持ちだったから人気なくて放置されてたあの」
荼毘は避け切れず腕や足に突き刺さるが、特に気にする様子はない。
元より毒が効かないのだろう。大したダメージでもなかった。
「―――ぁ」
対して。裕理は2本が外れたが、最後の1本が胸に突き刺さる。
こちらは毒への耐性が無いのだろう。
体が大きく揺れたかと思えば背後の斜面―――山頂火口へと傾く。
「これでまず一人―――ッ!?」
弱兵といえども生きていれば動ける以上、不安要素は排除したい。
この程度では殺せないだろうが、火口に落とせば一時的にでも盤面から追い出せる。
その後にジールが人質の救助及び離脱を行う手筈であり―――。
「ごめんジールとその他の皆さん!!
ちょっとあの娘のトコ行ってくるわ!!!!」
「「「「「―――はい???」」」」
あろうことか、拘束から脱した人質が敵を追いかけ斜面へ飛び出して行った。
度重なる攻撃の余波に晒されてロープが緩んでいたのだろうか。
それにしても信じられない早業である。
「た、龍姫さん!! いけません全部見えてしまっています!!?」
……しかも全裸で。
ジールは慌てて二人を追った。
・
・
・
「~~~~~~っ!!」
胸から流れる血をラインとして引きながら、ゴロゴロと斜面を転げ落ちる。
回転する視界、毒が回り力が入らなくなる手足、全身を岩で滅多打ちにされる感覚。
やがて火口底―――いわゆるお鉢の中心部まで落ちてようやく裕理の体は停止した。
「―――ッ、はあ……っ」
体中が痛い―――けど痛いだけでじき納まる。
息が苦しい―――動きが止まるほどではない。
もう死ぬか―――胸に刺さった短剣を握りしめていた。
「ッ……ふぅうううう!!」
空いた手で何度か空中を切っててから、勢いよく抜き放つ。
同時に首を持ち上げて傷口へと息を吹きかけた。
| 《息吹払い》*30 | 手刀を切りながら強く息を吹きかける浄化法。 味方単体の毒、麻痺を治癒する。 |
神通力に類する穢れ祓いの術を以って体内に広がっていた毒を浄化。
少し息を整え、毒が完全に抜けた事を確認してから裕理は体を起こした。
「…………はあ、随分汚れましたね」
改めて自分の状態を確認するが、思わずため息が漏れた。
所謂巫女の恰好をしていたのだが、血と泥でひどく汚れてしまっている。
遠目から見れば周囲の景色と一体化してしまいそうなほどだ。
一体どれだけ落ちたのやら、と上を見る。
―――爆炎と火柱、一瞬遅れて轟音が響いた。
あちらはもう
「おっす、思ったより元気そうね。
毒は自力で何とかした感じ?」
全裸の蛮族、もとい生贄予定だった女が滑り落ちて来た。
どうやってかは知らないが拘束を解いて追ってきたようだ。
何故かは考えても分からないので思考から放棄する。
―――しかし。
「……貴女怪我はどうしたのですか。
やけに綺麗になっていますけど」
「ちょっと気合い入れたら治った」
| 《ハイリジェネレート》*31 | 行動するたびHPが少し回復する。 |
散々痛めつけられていたはずの体には傷一つ残っていない。
強力な自己再生能力―――おそらく身に宿した山神の因子を由来とする力だ。
おそらく、今までは敢えて見える部分の傷を治していなかった。
どうりで監禁中でも軽口を叩き続けられた訳である。
「やけに元気だった理由はそれですか。
てっきり空元気で喋っていると思っていました」
「いや疲れは溜まってんのよこれでも? メシもろくに出なかったしさぁ。
正直やる事やったらしばらく寝てたいもの」
やる事? と裕理が口にしようとして―――女が腕を振りかぶった。
| 《ティタノマキア》*32 | 敵全体に中威力の物理属性攻撃。クリティカル率が高い。 |
| 《龍眼》*33 | 命中率を大きく上昇させる。 |
| 《物理・銃撃貫通》*34 | 物理・銃撃属性で攻撃時発動。 耐性・無効・吸収を無視してダメージを与えられる。 |
まるで挨拶をするかのように軽い調子で、必殺の拳が裕理の頭を粉砕せんと迫る。
踏み込んだ先が溶けた雪でぬかるんでいて、
しかし、逸れた拳が空気の壁をぶち抜いて起きた衝撃まではどうにもならない。
「きゃぁっ!」
短い悲鳴を上げて大きく吹き飛ばされた。
再び土と雪の上を転げ回りながらも、今度は袂へと手を入れそこにあった
「………………は?」
ここでようやく、裕理は自分が何をしようとしたのかに気付く。
黒い紙片―――名を”
服用するだけで悪魔の力を得られる、阿修羅会の開発した特殊ドラッグ。
最低限の護身道具、という名目で一枚だけ荼毘から押し付けられた物。
悪魔化薬と記憶溶剤をデチューンしたそれは一度や二度の服用ならば問題ない。
相応の才能と霊格があれば
それはいい。そこはいいのだ。
おかしいのは―――
生きる事も死ぬ事も……どうでもいい筈なのに。
どうして己は―――生にしがみつこうとするのか。
「やっぱり気付いてなかったんだ。
アンタ、
静かに、それでいて否定を許さない声が耳に届く。
| 《幸運》*35 | 自分に対する攻撃のダメージと追加効果を完全に打ち消す。 |
| 《運命の支配者》*36 | 味方一人の判定またはダイスロール1回を振り直す。 |
「感覚からして数秒先の未来予測と運勢操作?
自分にとっての幸運、敵にとっての不運を重ねて切り抜けたってとこね。
じゃなきゃ最初の攻撃でミンチになってる……もっとも、限界はあるようだけど」
「―――――、……」
女の言葉を否定しようとして、何も出てこない。
確かに自分にはそういった力がある。
護堂を支えるために磨いた自らの才能だ、分からない筈がない。
冷静に考えればその通りなのだ。
今こうして生きている事自体あり得ない。
あれだけの攻撃に晒されながら致命傷だけは避け切っているなどと。
つまり、生存のため無意識に力を行使していたという事の他ならない。
もっと考えれば此処に落ちた後もそうだ。
何故わざわざ解毒を行ったのか?
本当にどうでもいいならそんな事をする必要はなかったというのに。
「だからもう一度言う―――アンタを殺す」
「ッそんなに恨めしいですか!? 辱められた復讐がしたいんですか!!?」
変わらぬ殺害宣告にまたしても体が勝手に動く。
時間を稼ぐように言葉を返しながら紙片を口へ。
一瞬の苦みが舌の上に広がり――脳が沸騰した。
灼熱からの極寒。苦痛からの快楽。不快感からの爽快感。
相反するあらゆる要素が一瞬にして脳を駆け巡る。
繋がる―――自らの力と重なる悪魔と。
繋がる―――自らの魂と重なる悪魔と。
繋がる―――自らの
この富士山という
それは吉祥ならざる事柄を司る女神。
ドゥルガーの化身でもあり仏教においては黒闇天と呼ばれし天女。
| 女神 | アラクシュミー | Lv80 | 相性:破魔・呪殺無効、衝撃弱点 |
不幸不吉の名を持つ姉妹神の片割れ―――アラクシュミー。
裕理の肉体をベースに、黒衣を纏った退廃的な美女としてその姿を現した。
感じられる力は本来の裕理が束になっても及ばないほどの域にある。
―――それがどのような意味を持つのか、本人も分かってはいなかった。
「
―――じゃあこっちも本気見せてあげる」
日本で最も通りの良い名前を叫びながら、女は自分の腹を数度叩く。
続いて口から吐き出したのは小さな宝石が二つ。
囚われる直前、飲み込んで胃に隠していた物。
足役である悪魔の入った管は取り上げられても守り抜いた
『それは……まさか《鎮魂帰神法》*37!?』
「管使いがそれ以外使っちゃダメなんてルールないでしょ」
不敵な笑みを浮かべながら、指で宝石を宙へと弾く。
弾かれた石は太陽の光を反射しながら―――一瞬脈打った。
名を呼んだ瞬間、宝石から閃光が迸る。
マグネタイトを喰らいながら構築されるのは3メートル越えの巨体。
女の背後に顕現するのは白い肌に筋肉質な人型の悪魔。
無言を貫く以外の特徴は目元から生える左右二対の翼か。
感じられる異質な波動からしても、まず普通の悪魔ではない。
事実、女の呼んだその名前に裕理は思わず耳を疑った。
『―――ありえない、
| 神将 | マクラ | Lv65 | 相性:剣・火炎にやや強い(75%)、ガンに強い 電撃・破魔・呪殺・神経・魔力・緊縛・突撃・手技・足技・飛技・万能無効 氷結吸収・衝撃吸収 |
十二神将―――薬師如来を守護する武将にして仏尊。
そして人間には使役不可能なはずの強大な悪魔たち。
かつての世界ではそうであったし、この世界でも契約した話など聞いた事も無い。
第一、神道系の術で仏教の高位悪魔を従えるというのはどうなのか。
「驚いた? 普段は隠してるのよ、
ちょっと昔、私が可憐な女子高生だった頃に学校の地下深くで封印されてたのを流れで契約してさー。色々五月蠅かったけど便利よね、神仏習合って言葉♪」
軽くとんでもない事を言う女だが、その装いもまた変わっていた。
露出度こそ高いが急所を防御する巫女服のような具足。
鋲が幾つも付いた殺傷力の高い肘まで覆う手甲。
全裸の蛮族スタイルとはまるで違う―――おそらく神降ろしによるもの。
| 神将 | パジラ | Lv65 | 相性:剣(37.5%)・ガン(12.5%)・緊縛(12.5%)・衝撃に強い 火炎・氷結・電撃・呪殺反射、神経・破魔・魔力無効 |
| 《 | シーンまたは戦闘終了まで効果継続。 相性を悪魔のものに変更し、そのスキルを使用できる。 |
神将二体を従える異端の巫女は、駆けつける黒衣の少女の気配を感じながら口を開く。
「んじゃ、改めて自己紹介。
―――
その名乗りを宗吾と美野里が聞けば目を見開いただろう。
そんなふざけた名前の流派が世に幾つもあっていいはずがないのだから。
彼女はかつて京都に存在したとある名家の生まれであった。
しかし、家は京都ヤタガラスに主義主張に真っ向から反発し、その結果一族郎党離散させられた上ロクでもない扱いを受けた過去がある。
残されたのはヤマタノオロチをルーツとする力と受け継いだ技のみ。
それを武器として今日この日まで駆け抜けて来た。
それを誇りとしてあらゆる困難に打ち勝って来た。
故に堂々と叫ぶのだ。恥ずべきものなど一切無いと。
「人呼んで“暴力巫女”―――
さあさあ楽しく
| 巫女 | 八瀬龍姫 | Lv68 | 相性:パジラのものに変更済み |
―――遠いかつての周回では存在しなかった
・Tips
「種族:十二神将」
コンシューマ版やTRPGにおいても仲魔にはならない悪魔。
しかし「PBM 真・女神転生~光と闇の鎮魂歌~」には仲魔としてのデータが存在する。
◎登場人物紹介
八瀬龍姫 <格闘家><巫女> Lv68
シリーズポジション:千葉さな子(退魔生徒会シリーズ)
八頭龍姫(誕生篇リプレイ 魔界の扉)
“暴力巫女”の異名を持つデビルバスター。
名前から分かる通り周回違いの宗吾の親戚……どころか関係上は妹にあたる。
宗吾が居なくなった事でバタフライエフェクト的に誕生した。
拳を武器に仲魔を従えて戦うなどスタイルこそ真逆だが共通する点も多々ある。
頭の悪いエロ同人展開にしょっちゅう遭うし、全部殴り飛ばしてきた。
ちなみに好きなジャンルは戦隊シリーズ。
野上ケンジ
シリーズポジション:野上ケンジ(真・女神転生CC戦記 ダンテの門)
元ソリテアの一員である余命僅かな少年。
基本的に球子と杏と戦って死ぬはずだが、今周回では出会わなかった。
死に場所と世界に自分を刻む事を望んでグッドルーザーズに参加する。
フロースガル
シリーズポジション:フロースガル(世界樹の迷宮Ⅱ)
騎士然とした漂流者。見た目はイケメン、中身もナイスガイ。
世界樹と呼ばれる異界に浸食された世界出身(200X ラグナロク アース神族世界ベース)
本人曰く、トレジャーハンターとして生計を立てていたとの事。
今回の件は純粋な善意で参加したが、そこで己が相対せねばならない少年と出会う。