真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
おや、こんな場所にお客さんとは珍しい。
せっかく来てくれたのだからお茶の1杯でも出すべきだが……生憎切らしていてね。
診療所であればともかく、こんな牢屋の中では買い出しにも行けやしない。
ああ……別に愚痴っている訳ではないよ本当だとも。
嗜好品の購入さえままならないこの扱いは極めて当然の事だと思っている。
流石にブラック・ジャックを気取れる様な人間じゃあないさ。
闇医者の常として無免許での医療行為はまだしも、薬機法を無視した麻薬処方から死にかけの人間を使った実験の常習犯。
今じゃ廃れてしまったが臓器売買も少々……いや、廃れた事自体は非常に喜ばしく思ってるんだ。臓器培養が可能になるほど医療技術が進んだ証なのだからね。
カドゥケウスやドクターKに睨まれていた連中からすれば堪ったものじゃないだろうが、牢屋かあの世で受け入れて欲しいよ。
っと、脱線してしまったかすまない。
あとはそちらも知ってるように、ここ1年は阿修羅会と癒着して
私としてもアレはとても楽しい仕事であったよ。
薬学は専門という訳ではないが、おかげで幾つものインスピレーションを得ることが出来た。
残念なのはそれを活かす前に警察にお縄となってしまった所か。
だから正直、こうして裁きを待つ身でいられるのが不思議でならない。
事故か何かに見せかけて、どさくさに紛れて殺されるだろうと思っていた。
この国がまだそこまで理性を投げ捨てていない事に感謝しなくては。
―――あるいは、私のような存在でさえ“使う”場合も考えられるが。
……そう怖い顔をしないでくれ。
私自身はひ弱な人間なんだ。覚醒者どころかその辺の鍛えた一般人でも殴り殺せる。
何か聞きたい事があって来たのだろう―――どの
私に聞きたい事といえばそれくらいだろう。
これでも個人情報保護に関してだけは守ってきた身だから本来であれば口にしたくはないのだが、国側から言えと言われたのなら仕方ない。
そもそもバラして報復に来るような連中も大半がいなくなったのだけれども……。
ああ、関わった
―――――荼毘、そうか彼についてか。
なるほど、つまり彼は
結果はともかく、この忙しそうな時に事後調査をするとはさぞ凄まじい事になったのだろうね。
……最初に言っておくが、彼が何を企んでいたかまでは全く知らないよ。本当だとも。
10年ほどの付き合いで仕事の世話もしていたが、半年くらいはさっぱりだ。
そう、最後に会ったのは父と弟を手にかけた後で治療を受けに来た時だね。
―――おや、知らなかったのか。ま、驚くのも無理はないが。
周りからはファントムとの戦いで死んだと思われていたんだったか。
まあそれはいいとして。話を戻すが彼―――敢えて荼毘と呼ぶが。
彼は絶対に諦めない、目的を成し遂げようとする男なのを私はよく知っている。
なにせ
む、それも知らなかったのか。
彼はね、本来ならもうとっくに死んでいるはずだったんだ。
確かに私は死体同然の彼を買い取って無断で手術を施した。
当時のあらゆる技術、私が持てる全てを費やしたと断言する。
ぶっちゃけ私財の半分以上が吹き飛んだが後悔はしていない。
それでも目を覚ますのに1年近くかかったし……動き出せば長くないのは見えていた。
理由は単純に医者の力不足。
つまり、彼を万全に戻せなかった私の完全敗北さ、ほら笑ってくれよ。
……荼毘を何もせず送り出したのはその償いと、せめて最期は家族と過ごせるようにと考えたからだ。
らしくない? 悪党だって気まぐれに善行がしたくなるのと一緒さ。
悪い事ばっかりしていると気が滅入る時があるんだよ。
それに“轟家”……ヤタガラスの名家出身というからちゃんと保護されるとも踏んでね。
当主の事は多少知っていたし、京都の
―――だからあの時は驚いた。
すぐにでも家の人間が捕まえに来ると思って高飛びしようとしたら、彼がまた目の前に現れたのだから。
様子からして行ってすぐ戻って来たのは分かった。
そして、何よりも驚いたのは……その“目”さ。
―――ただひたすらに死へと向かう熱を宿した瞳。
神も魔王も侵せぬ偏執狂の死炎を宿した少年。
……一体どんな歯車の組み合わせの果てに、あんな子が生まれてしまったんだろうね?
・
・
・
真っ先に異変に気付いたのは今まさに拳を撃ち込んだ七海であった。
(この……手応えは!?)
先日の事変において、幾多の魔丞及び秘神を喰らった牙。
数ヶ月前の死闘にて、己が五体粉砕と引き換えに体得した絶技。
いまだ
「ーーーッ、ハハハッ」
| 《天佑》*2 | 自分が受けた攻撃1回のダメージを半減する。 防具の付加スキルであり、1度発動するとこの防具は失われる。 |
| 《食いしばり》 | 敵の攻撃でHPが0になる際、1度だけHP1で耐える。 |
それが届かなかった。
正確には威力の大部分を散らされた。
全身の骨と内臓が粉砕され血反吐を吐いているが死んでいない。
おそらく、荼毘が身に纏っていた黒いコートの機能だろう。
塵となって跡形もなく消滅したそれが、主をギリギリで生かしたのだ。
何たる無様、何たる未熟か。
あまりの情けなさに七海は憤死しそうになるが……すぐに切り替える。
今は戦闘の最中、そのような感情は終わった後で向き合えばいい。
幸いにも七海の背後では追撃に移ろうとする2人がいる。
彼らなら万一があっても仕損じる事は無い。
荼毘の行為は単なる悪足掻きにしかならないはずだ。
―――本当に?
ふと沸いた疑問が稲妻となって頭の天辺から爪先まで駆け抜ける。
武人としての勘が、野生の本能が叫び出す。
「……ギリ、間に合ったか」
それを証明するかのように、荼毘の口が三日月の形に歪んだ。
| 《神威:原初の炎》*3 | あらゆるものを焼き尽くす原初の炎を召喚する。 シーン属性を「火炎」に変える。 使用者はすべての火炎相性のダメージに、レベルの3倍を加える。 火炎に弱いキャラクターは毎ターン、20%の確率で即死する。 シーン属性が「火炎」である間。 ⇒敵味方共に火炎に強い、無効、反射、吸収の相性を失う。 ⇒火炎相性の特性を変更する効果を打ち消す。 ⇒貫通(D2仕様)を付与する(裁定)。 |
瞬間、視界の全てが蒼い炎に包まれた。
「んじゃあこりゃ!? 荼毘の野郎がやったのか!!?」
「いいぞおっこのままやっちまぇえええ!!!!」
ある場所では、突如として灼熱の世界に放り込まれた烏合たちが興奮気味に咆えた。
「ッ全員逃げるか防御しろぉっ!」
「仲魔でも何でもいいから盾に、とにかく死ぬな!!」
ある場所では、歴戦の経験から死地にいると判断したDBたちが焦ったように叫ぶ。
「ボ……ス、……そこ、にいたの……ですね」
ある場所では、袋叩きにされ血溜まりの中へ沈んだヴァリアー元幹部が小さく呟く。
「マズイ、ここから離れて―――ッ!?」
「バカ、野郎が……その足で逃げれるか。オレに勝った奴が、こんなとこで死ぬな」
ある場所では、ズタボロになって動けない騎士へ怪物が覆い被さりながら告げる。
―――蒼炎の発生源は言うまでもなく荼毘だ。
正確に言えば、
それよって生まれたのは岩も地面も何もかもを焼き尽くす焦熱の世界。
人の身では到底行使できるはずのない大火力による
富士山頂上付近は今まさに、地上に顕現した原初の地獄と化す。
その
| 「煙幕弾」*4 | 戦闘から逃走する。 メガCD版ではボスからも逃走が可能。 |
マシン装甲の隙間から噴射された煙幕を、剣圧によって荼毘へ叩きつけ僅かに時間を稼ぐ。
打ち合わせも何もない、直感に任せた即席連携である。
片方は持ち前の生き汚さで死臭を感じ取ったから。
片方は今、この場では斬れないと勘で悟ったから。
どちらも元より逃げることに躊躇いなど一切ない。
故に最低限の意思伝達を終えて、それぞれの相方へと手を伸ばす。
「ぬぅっ、佐藤!?」
「悪いですが一時撤退ってやつでさぁ。
少しばかり我慢してくださいよ大将!」
| 《飛行》*5 | 条件:非戦闘シーン。 空を飛ぶ。地上の障害物に関わらず移動できる。 シーン移動や登場の判定にボーナスを与える。 条件:戦闘シーン。 衛、後衛の移動を補助アクションとして行える。 射撃回避を除く回避の判定、次に行う格闘攻撃の1回の威力に補正を得る。 |
「ちょっ、そこお尻――――っ!?」
「めっちゃ柔らかい……じゃなくて仲魔戻せ、跳ぶぞ!!」
| 《搬運功》*6 | 気功に分類されるカルトマジック。 外界の気の流れを操作し 導師へと至った事で複数人の転移が可能となった。 |
佐藤は七海の襟を掴んでから重力に逆らう急上昇。
宗吾も美野里を抱き抱えながら限界距離まで空間転移を行う。
荼毘が纏わりつく煙を吹き飛ばした時には、もはや影も形も残ってはいなかった。
所要時間、僅か1秒半―――あっという間の早業である。
「速ぇなあ……ほんとすげえよ」
元から焼け爛れていた皮膚が真っ黒に焦げ付き、ボロボロと肉体が崩れていくのも気にせず荼毘は笑う。
この戦場で最も厄介な相手は逃がしたが、居なくなったのであれば結果は同じだ。
ならば無理に追う必要もない。一度離れた以上、この段階まで来たなら邪魔する事は不可能に近いのだから。
常人であればとっくに焼滅している状態を気力で抑え込みながら、思考操作でパッチワークCOMPを起動。
―――最期にして最大の大詰めを始める。
| 《ハイアクセラレート》*7 | HPを消費し発動者の行動回数を更に増やす。 明日など要らない、欲しいのは今この瞬間だけ。 |
| 《捧魂の法》*8 | 自分のHPを1にする。 攻撃力・防御力・命中・回避率を最大まで上げる。 |
| 《 | 灼熱の刃が刹那の速度で敵を切り裂く特技。 敵1体に13回の極小魔法ダメージを与える(裁定)。 |
| 《混沌の波動》*10 | ターン終了時まで攻撃の対象を全体に変更(手番消費無し)。 攻撃の威力に【レベル】を加える。戦闘終了時まで速度が半分になる。 使用者は攻撃の射程を3(300m)に変更できる。 パッチワークCOPMに無理矢理組み込んだ機能。 相応の負担はあるが知った事ではない。 |
| 《火炎ブースター》*11 | 火炎スキルの威力を2倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に+20%する。 |
| 《火炎ハイ・ブースター》*12 | 火炎スキルの威力を3倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に更に+20%する。 火炎スキル2つと《火炎ブースター》の習得が必要。 火力を上げる―――それしか知らず、それだけに心血注いだ。 |
| 《■■:制■解■》*13 | HPとMPをレベル分回復する。 崩れゆく体を怨嗟の炎だけで踏み止まらせてきた。 |
そして、各所で戦っていた敵も味方も何もかもを巻き込んで。
噴火と見間違うほど巨大な火柱が天蓋を貫いた。
・
・
・
―――まず前提の話をしよう。
荼毘たち
技術的な問題というのは勿論ある。
火山噴火を引き起こす大儀式など、いくら知識があったところで実現出来るかは話が別。
マニュアルを渡されただけの素人にF1カーを乗りこなせと言っているようなものだ。
良くて
そんな当たり前の事も分からない者が手を出していい術式では断じてない。
そして、それ以前の問題として。
そのようなテロ行為に対し、国が何の対策もしてないなどあり得ないだろう。
日本の歴史は災害、特に地震との戦いの歴史でもある。
江戸時代頃までは、地中奥深くに潜んだ鯰が地震を起こすと信じられていた。
信仰的な意味でも、地震を抑える神としてタケミカヅチとフツヌシが祀られているのは有名な話だ。
その他にも神話から民話、大小様々な地震に纏わるアレコレが存在する。
異能に関わらない表でこれだ―――であれば。
裏では当然、霊脈への干渉により地震被害を最低限に抑える術も編み出される。
その逆として最大規模へと跳ね上げる術も、更にそれを防ごうとする手段も。
よって、事件発生直後。
これは予め仕込まれていた安全装置を起動するようなものであり、さしたトラブルもなく終わった。
知識不足に加え、自分たちが邪魔をされるとは露とも思っていないのが大半であったからだろう。
これで各地の火山を連鎖的に噴火させるなど不可能になり、富士山自体の噴火も困難となる。
付け焼刃の鈍らで、連綿と受け継がれてきた知識と技術の牙城を崩すなど夢のまた夢だったのだ。
後は無謀な企みをした愚か者たちをしばき倒せばそれで終わる、まさに大事の前の小事。
規模が大きいだけの暴動……それだけのはずであり―――。
―――
敗残者たちが無謀も分からず乾坤一擲の策に賭けようとしている。
ロクに統率も取れない烏合たちの、悪足掻きにもならない足掻き。
一部の有志と十分なバックアップがあれば問題ない程度の掃討戦。
そうやって注目度を下げた。
そうやって警戒度を下げた。
そうやって状況を
用意した
聖域とした富士山頂上付近を血と臓物、怨嗟と狂気で汚染する為に。
裕理から聞き取った術式を独学で学んだ知識で改悪し、噴火に使われるエネルギーを一種の
ヤタガラス側の霊脈干渉を逆手に取り、リソースの制御を容易とする為に。
最後の最後、致命傷による死に際の集中力を用いて術式を起動させる為に。
その果てに、あらゆる道理と条理を踏み躙り―――ここに狂望は成就する。
手始めに生じたのは
遠くから見えれば、蒼い炎が噴火口から噴き出しているようにも見える異常事態。
その最中、設置されていたライブカメラ*14で状況を伺っていた者たちは見た。
蒼炎により生じた上昇気流に身を任せ、遥か天空へと飛翔する人影を。
日本で最も高い場所から大地を見下ろす、己の炎に焼かれ続ける白髪の魔人。
ほんの一時、持って10秒程度しか開かぬ花火の如き超越者。
親殺しにして弟殺しを成してしまった死炎の偏執狂。
| 魔人 | 轟燈矢 | Lv110 | 相性:火炎に弱い、氷結に強い 精神・神経・魔力・呪殺・破魔無効 |
荼毘改め―――轟燈矢。
運命の掛け違いが生んだ前代未聞の存在は、目前まで迫った死を前にしてなお笑い続ける。
まだこの程度で終わらない、これからが本番の始まりだと言わんばかりに。
『燈矢は死んだ……許されない嘘だ』
『捜したんだ、当時俺は……お前が生きていると信じて―――』
『親父! 動けない皆を守ってくれ!! 俺が戦う!!
頼む動け―――後にしてくれ!!!!』
『イカれてんのか燈矢―――――!!!!』
「
お母さんも冬美ちゃんも、お前が守りたかった
脳裏を過るのはファントムとの戦いで消耗した所を襲った家族の姿。
戦闘の末、倒れ伏した部下たちを守る為に立ち続けた父と弟。
そして最高傑作である弟が焼き殺され、絶望の中同じように部下ごと殺した父の顔。
込み上げる笑いを抑えもせず、炎と同色の蒼い双眸が捉えるのは100㎞以上先にある大都市。
この日本という国家の中心にして最大の人口密集地帯―――帝都・東京。
裏社会で力をつけ、阿修羅会の出涸らしを徹底的に使い潰したのはその為だった。
これまで荼毘として生きて来た10年に渡る年月の集大成にして終着点。
最期に
このような事態、常識であれば考えられない。そもそも根本から破綻している。
希釈もしていない膨大な火山のエネルギーを人間一人で直接受け止めるという無謀。
如何に超人と言えども、そんな真似をすればコンマ1秒も持たずに弾け飛ぶ。
大地から力を得る事自体はありふれているが、いくらなんでも度が過ぎている。
……だからこそ誰も読めなかった。
不可能を前提とした目論見など如何なる賢者であっても見透かせない。
―――では、その不可能を可能とした理由は何か?
あろうことか根性―――精神論だった。
崩壊する肉体を、いつものように意志力で無理矢理繋ぎ止めているだけ。
削れ続ける
聞いた者が呆れるか冗談かと一笑に伏すような理屈。
これを常としていた燈矢だからこそ許される、偉業ならぬ
その異業の支えを受けながら放つのは生涯最後にして最大の一撃。
何者にも止められない死炎の極地に他ならなかった。
| 《 | 消し炭も残さない炎を纏った拳で敵を焼き尽くす特技。 直線上の敵全員に対し近接・射撃・魔法を全て加味した魔法ダメージ。 更に、低確率で5秒間、大炎上の状態変化を付与する。 残りHPが多いほど威力が上昇する。 |
| 《火炎ブースター》*16 | 火炎スキルの威力を2倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に+20%する。 |
| 《火炎ハイ・ブースター》*17 | 火炎スキルの威力を3倍にする。 その攻撃によって生じるBS発生率に更に+20%する。 火炎スキル2つと《火炎ブースター》の習得が必要。 火力を上げる―――それしか知らず、それだけに心血注いだ。 |
| 《爆炎の礫》*18 | ユニークスキル。ターン中、味方の攻撃のヒット数が多いほど、 自身の火炎属性スキルのダメージが上昇する。 敵も味方も全て薪として火力を上げた。 |
さながら横向きの噴火―――
・
・
・
同時刻、東京で対応出来た者は皆無であった。
媛巫女、ヤタガラス、警察、自衛隊、キリギリス。
果ては
端的に言えば―――時間が足りなさ過ぎた。
混沌の奇禍事変とは異なり、今回の一件は予兆も周知も皆無であった。
そんなもの、流星を何も知らないのに撃ち落せと言っているのと同じである。
数少ない即断即決で動ける面子も他の盤面を注視していた為、初動で致命的に遅れてしまった。
そして、仮に動けていたとしても
奇跡が重なり途中で飛来する燈矢を討てたとして。
その体に溜め込まれた膨大なエネルギーは抑えを失い、東京まで巻き込む大爆発を引き起こす。
どの道東京は火の海に沈み、燈矢の目的は達成される事になる。
生き残る者がいたとしても、都市としては完全に命を絶たれる。
つまり―――この状況は既に詰み。
そして、間近に迫った第三次セプテントリオン戦への致命的瑕疵となり―――。
「まさかセプテンの前にこんな事になるなんてね―――っ!!」
そうなる前に―――全てを燃やす突貫の軌道へ、突如として
・
・
・
「この状況で動けるのは私たちしかいないわ」
| 「ヴァーチャル・トレーナー」*19 | トレーニング用のVR機器。 異形科学を用いた完全な仮想現実空間。 タイムマシン・レジスターによるシステム的な再現。 |
| 《テレパシー》*20 | 精神による対話能力。 対象と距離が離れていても会話が可能となる。 |
「ああ、ビックリした?
近くにいた全員を対象にしてVR空間に意識飛ばして
あんまり長く持たないけど、これで何するべきかは伝えられる」
「簡潔に言うけど―――あの火達磨迷惑マンが東京に辿り着く前に仕留めるわよ。
あいつダバダバと思念波垂れ流してたから触らなくてもサイコメトリー出来たの。
……ついでに嫌な物も見ちゃったけど」
「で、これが即興で考えた作戦……全員乗り気ね、助かったわ。
言っておくけど少しでも失敗したらアウトだから」
「
え、成功以外考える方がおかしいって何よあんたら???」
「じゃあ時間加速解除するわよ―――絶対成功させるから、最後は任せた」
・
・
・
『あばばばば死ぬ、ロストする!!
捕まったと思ったら何で呼び出すのがこんな状況だよサマナー!!??』
「いつもより輪をかけて酷い展開です!」
「愚痴ってないで働けアッシー君! ジールも運転に集中!!」
「さあて―――殺るか!!!!」
「ここで殺ったらまずいって聞いてなかった!? ちゃんとタイミング合わせるのよ!!」
「クケケケ、そのくらいの意気込みって事ですよお嬢さん」
| 天津神 | アメノトリフネ | Lv59 |
| 《天鳥船》*21 | 神々の天空船である天鳥船を召喚する。 PT全員を戦場から連れ去り、術者の望む場所へと運ぶ。 空が見える場所限定の召喚術。 |
特撮に出てくるような飛行船の姿をした悪魔―――アメノトリフネ。
龍姫の足役にして表立って連れている仲魔である。
残党たちによって管ごと遠くへ引き離されていたが、空の見える場所であれば何処でも召喚できた。
龍姫が能天気に喋っていたのは、脱出手段を確保していたというのも大きい。
燈矢の範囲攻撃も、咄嗟の召喚転移術によって回避したのだ。
なお余談であるが、裕理は気絶したまま船内で転がっている。
その屋根の上に龍姫、七海、美野里、佐藤が陣取った。
眼前には進行方向の全てを焼き尽くしながら飛来する魔人の姿。
こちらから先に打って出る余裕は既にない。
しかし、後手で攻撃しようとする時には射程の外にいるだろう。
―――であれば、方法は1つのみ。
すなわち反撃―――肉を
佐藤は大気を切り裂き、作り出した真空で熱を遮断しつつ反撃した。
龍姫は再生能力と降魔したマクラの頑強性を頼りにしつつ反撃した。
七海は素の肉体強度と鍛え上げた
美野里はそんな3人を盾として被害を免れつつ反撃した。
結果―――刃、拳、弾丸が同じタイミング、同じ角度へと打ち込まれる。
無論、この程度では止まりはしない
目的を達成するまで燈矢は死なない。
魂が砕けようとも食いしばり続ける。
――――だが。
東京までまっすぐに突き進むルートから大きく南側へ。
三国山へ差し掛かる直前に箱根方面へと進行方向が大きく変わる。
圧倒的な加速を逆に利用され、過疎化した日本有数のリゾート地を焼き尽くしながら。
瞬きの間に燈矢が辿り着いたのは大海原―――日本3大深湾の1つ“相模湾”。
半年前までは観光客で賑わっていた海岸部も、今では富士山や箱根と同様に過疎化が進み人の姿は殆どなくなっている。
つまり―――仕留めるのであれば此処しかない。
弾き飛ばした先へ“置く”ように、
ここで宗吾が失敗すれば燈矢は軌道を修正し、再び東京へと向かうだろう。
そうなってしまえば止める者は誰もいない。
この瞬間、比喩抜きに東京の命運は彼の肩にかかっていた。
(1発くらいなら気合いで耐えられるとして……ま、やれる事やるだけか)
そんな
―――そして。
| 《激怒モード》*22 | 展開スキル。全ての攻撃でクリティカルが発生する。 怒りに血をたぎらせ、捨て身の攻勢に出る。 |
| 《食いしばり》 | 敵の攻撃でHPが0になる際、1度だけHP1で耐える。 |
| 《火属性不死》*23 | 火属性の攻撃ではHPがゼロにならない。 燈矢本人も知らない力にして、暴発を生き残ることが出来た理由。 信心深かった母が息子に祝福があるようにと祈り、そして宿った加護。 無償の愛が無数の嘆きを生むとは夢にも思わなかったのだ。 |
もはや意識さえ曖昧になり、更に火力を引き上げた燈矢を見て。
反撃どころか食いしばりさえ出来ずに死ぬのを悟った。
・
・
・
『え、急所入らなかった理由?
仲間から借りた“カラクリ帽子”着けてたからね。
事前情報もあったし、全力尽くすのは礼儀でしょ』
最前線で戦う
本調子を取り戻したらもう一度手合わせをと願った。
今度こそ勝たなければいけない。
『目で見るな、鼻と耳と肌と味で探せ。
それが成れば動きを“聴く”のはすぐだ。
なに、拙者の見込んだおぬしなら必ずモノに出来るとも』
高校時代、ふとした縁で指導を受けた国津神系忍者からの言葉。
息子の自慢話ばかりしてくる中年であったが学ぶ事は多かった。
冤罪の疑いをかけられて、それを晴らす為に皆で走り回ったのも今ではいい思い出だ。
『狂った輩を相手にするのは慣れている……身近に居たからな。
要は自分のペースを乱されなければいい。
その時出せる最大のパフォーマンスを発揮するだけだ』
香港で出会ってしまったテロリスト崩れの
後にそのストーカー女がイカれた理由で殺しに来たのだったか。
本当にいい迷惑だったので慰謝料を請求したい。というか殴らせろ。
『な、なんでお前がこんな所にいる!?
しかも、よりにもよって私を指名するとかどういうつもりだ!?
……潜り込むには丁度良かった? そうか、首を出せ』
香港の違法風俗に潜入していた元封剣士の怒り顔。
仕事で潰しに行ったら偶然見かけ、共闘を持ちかけたらキレられた。
それはそうと“アルコ”とかいう偽名はどうなのか。
今この瞬間に祈っている少女の声が、確かに聞こえた。
「―――――――――うし、やるか」
悟った終わりを斬り捨て、迫る脅威へと目を向けた。
・
・
・
そして赫灼の拳が宗吾へと直撃する。
回避も防御も、生き残る事も不可能な焼滅の暴威。
皮膚が焼け血が蒸発し肉が焦げ炭の塊へと変貌させていく。
高レベルの超人であろうと、人の形を保てるのは持って数秒だろうか。
顎が崩れ落ち、発音も怪しくなるが燈矢の火力はまだまだ上がり続ける。
轟家が生んだ最高傑作、異業の徒花はいまだに散る事を知らず―――。
| 《達人の見切り》*24 | 敵からのクリティカル攻撃を100%受けなくなる。 カラクリ帽子の機能を技で再現した。 |
| 《食いしばり》 | 敵の攻撃でHPが0になる際、1度だけHP1で耐える。 |
以前の模擬戦で急所に斬り込むのを散々妨害された防具の機能。
それを技によって再現し、食いしばる事を可能とする程度までダメージを抑え込む。
| 《聴勁》*25 | 格闘回避、防御、反撃の成功率を上昇させる。 本来は太極拳に分類されるスキル。 抜刀術の奥義に通ずるものがある為、例外的に使用が可能。 宗吾はこれをとある忍者から教わった |
本来であれば肉体の接触面から動きを読み取る技法。
これを応用・発展させ、自らの意に先んじて動き出す。
| 《急所》*26 | 割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。 |
相手の肉体構造、意識の隙間から斬りやすい部位を見抜く。
特に怒り狂い曖昧となった状態なら簡単に見つけられる。
| 《 | 物理型攻撃に対し50%の確率で発動。 3倍の威力で通常攻撃を行う。 ⇒段階1:クリティカルが発生する。 ⇒段階2:食いしばり効果を無視する。 1刀流に伝わる5つの奥義、その1つを独自に昇華させた秘剣。 とある魔人の業を返した経験無ければ難しかったかもしれない。 |
そして、積み重ねて来た全てを総動員し―――絶殺の秘剣は燈矢の
―――直後。
相模湾にて巨大なキノコ雲を伴う大爆発が発生。
数分後には海岸部に津波が押し寄せたが被害は奇跡的にゼロであった。
・
・
・
「………………死ぬかと思った」
海上を仰向けに漂いながら、青く澄み渡った空を見つつ宗吾は呟く。
全身が重度の火傷と疲労で悲鳴を上げている。
というか、海水が傷に染みて洒落にならない痛さであった。
下手をすればショック死しかねない状態を気合いで堪えながら、宗吾は右腕を掲げる。
目に映ったのは焼け爛れた腕と刀の柄……それだけだった。
もっと詳しく言うのであれば、あまりの高熱で融解し溶け落ちた刀身があった。
「―――正宗さんにどやされる」
せっかく作って貰った代刀がお釈迦になった事に気が遠くなる。
最近ようやく代金を払い終えたというのに、あんまりであった。
この状態では流石の彼女でも直しようがないだろう。
(もう少しで
ネガティブになっていた思考を無理矢理切り替える。
セプテントリオン戦の前に更なる昇華を経たのだと思えば悪い事ではない。
自分はまだまだ腕を磨ける、新たな境地へと至れる。
つまりはそういう事だ。
―――もっとも。
「しかし、どうすっかなこれ……泳いで帰るしかないか」
いつまでも漂っている訳にはいかない。
このままだと下手をすれば更に沖まで流される。
そうなってしまえば違う意味でも漂流者になってしまう。
最悪、海に出現した悪魔の餌食にもなりかねない。
精魂尽き果て、気功術による転移も難しいので残された手段は陸まで泳ぐ事のみ。
ぶっちゃけ、かなりの難題であるがやるしかない。
荼毘の妄執を断ったのと同じように、やれる事をやるだけである。
結局―――回収に来た美野里たちに拾われるまで宗吾は海上で藻掻くのであった。
◎登場人物紹介
八瀬宗吾 Lv70⇒72
セプテン前の仕上げとして仕事に行ったら東京を救う事態に。
それはともかく予備の刀は折れるわ海の藻屑になりかけるわと酷い目にあった。
ただ、未完成であった秘剣をようやく完成させられた事には満足している。
余談であるが、過去周回において“甘い展開は無かった”というのは自己認識である。
若槻美野里 Lv68⇒70
セプテン前の仕上げとして仕事に行ったら東京を救う事態に。
ものすごく苦労したけど、一番重要な役割を任せた宗吾が無事で安心した。
それはそうと、相方の女性関係については何も聞いた事がない……聞いたらどうなるのか。
佐藤ケイ・蔵田七海
今回の1件で全員が連絡先を交換した。
七海は久しぶりに学園に顔を出すか検討中。
復学は無理でも最低限の報告はしておくべきと佐藤に言われたので。
八瀬龍姫・ジール
今回の1件で全員が連絡先を交換した。
苗字を聞いた時思わず関係者は固まったが、その場ではあえてスルーした。
話をするにしても落ち着いてからの方がいいという判断。
なお、2人とも職場では有給扱いにして貰っていた。
・Tips
「日本沈没計画」
残党連合が行おうとしていた無謀な企み。
DB達によって阻止・鎮圧されたが、幾つか謎の現象も発生した。
しかし、後のセプテントリオンとの戦いで詳細情報は消失し、後に世で知る術はない。
―――そういう事にした方が良いとヤタガラス上層部が判断した。
この事件で何があったのか、至るまで何が行われたのか。
知らない方が影響も少なくて済む故に。
これで残党連合編は終わりです。
次回も幕間の話を挟んでから新シナリオに入りたいと思います。