真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~   作:ジントニック123

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過去の女と今の女のお話です。



Fragment⑧

 

 

「Fragment:眠らない街での逢瀬」

 

 

――― 過去周回〈200x/xx/xx 香港〉―――

 

 

 ガタン、ゴトンと独特の振動を感じさせながら路面電車(トラム)が走る。

 

 日が沈み、名物とも言える電飾看板が輝き不夜城と化した街中を。

 “香港血戦”からの復興を終え、かつての姿を取り戻した香港島を。

 最大の異界たる九龍城の攻略も終わり、一時の平穏を得た魔都を。

 

 路面電車(トラム)の2階から、宗吾はその光景を目に焼き付けていた。

 思えば、香港名物とも言えるこの乗り物に乗った事は数えるほどしかない。

 走った方が速いし、天井や看板を足場に戦った回数の方がはるかに多い。

 

 だから新鮮な気分で―――()()()には丁度良かった。

 

「………本当に帰ってしまうんですか?」

 

 そんな風に考えているのを察したのか。

 隣の席に座りずっと沈黙を貫いていた女……香鈴が口を開いた。

 口調には普段の人を揶揄うような雰囲気も、裏社会の人間としての圧も感じられない。

 ただ静かに……努めて平静を装っているかのような雰囲気だ。

 

 服装もいつものチャイナドレスではなく、上から下まで高級ブランド品に身を包んでいる。

 初めて会った時―――お忍びで街を出歩いていた―――と同じスタイルだった。

 普段の彼女をよく知る者ほど見誤ってしまうだろう、顔を隠さない変装術の一種。

 雑踏に紛れようものならば、宗吾とて見失いかねない精度だ。

 

 


 

 

「そこの素敵な犯罪者(殿方様)たち、お待ちになって!

 ワタクシ、貴方たちに一目惚れしてしまったのです!!

 どうか―――お突き合いするか恋人になってください!!」

 

 

「う わ あ あ あ あ あ あ(PC書き文字」

 

「チィッ! なんだって杭打機(パイルバンカー)向けながら告白なんかしてくるんだよ!?」

 

「ご存知、ないのですか!? 彼女こそ香港最狂の警察官の1人!!

 犯罪者に一目惚れしてはブタ箱にぶち込む血塗れの初恋モンスター!!

 人呼んで“求愛娘々(デスオアダイ)”!!!!」

 

「イカれてんのか香港警察!?!?」

 

 


 

 

「いや、元々言ってただろ姐さん。情勢が落ち着いたら日本に戻るって」

 

 路面電車(トラム)すぐ傍を横切った集団を無視して告げる。

 ちなみにこの路面電車(トラム)には他に誰も乗っていない。

 三業会の力を使って半ば強引に貸し切り状態だ。

 なので、窓の外を見て悲鳴を上げる輩も存在しない。

 

 今の香港は―――ここ最近に比べれば―――かなり安定している。

 

 香港内における勢力争いの終結と平定。

 ボンゴレファミリーを代表する外部勢力の撃退。

 そして最大の問題となっていた九龍城異界の消滅。

 

 騒動こそ絶えないが大きな争いも早々起こらない……ある種の凪の時期。

 つまりそれは、血沸き肉躍るような戦いの機会も減ったという事。

 剣の道を極めんとする剣鬼が河岸を変えるのには十分過ぎる理由。

 

「それにレベルもとうとう頭打ちだから、鬼神楽含めて1回鍛え直さなきゃだ。

 まずは師匠の所に顔出して修練用の異界紹介して貰わねぇと……」

 

 もちろん、それが全てではない。

 

 圧倒的格上(カンセイテイクン)との戦いを乗り越えたというのに、宗吾のレベルはそこまで上がらなかった。

 幾度もの激闘を経て成長を続けて来たが、ここまでの手応えの無さは初めてだ。

 そこで悟った―――いわゆるレベル限界、ついに壁にぶつかったのだと。

 更には無茶が祟って愛剣も力を失うというおまけ付き。

 

 ぶっちゃけ、戻らない理由が無かった。

 

「では………修行が終わったら、帰ってきます?」

 

「そこはまぁ……断言出来ないな。

 嫌って訳じゃなくて死ぬ可能性が高いから」

 

 限界突破の例を挙げるなら、まず浮かぶのは師匠。

 純粋な人間でありながら、彼の魔人にも肩を並べる程の超越者。

 その域へ至るまで、どれだけ死にかけたのか皆目見当もつかない。

 

 壁越えはそう簡単に成せるようなものではないのだ。

 才能、努力―――あるいは執念。そういったものが必須の偉業。

 大抵の者は叩いても叩いても割れない蓋を前にして諦めるのみ。

 そうして、別の方向からアプロ―チして強さを求めるようになるのだ。

 

 例えば、武装含めた装備面を充実させる。

 例えば、悪魔召喚を代表する他の技術を習得する。

 例えば、肉体を機械化して能力の向上を図る。

 例えば、悪魔と合体しその力を貪り喰らって我が物とする。

 

 前者ならともかく、後者に手を出す気は一切ない。

 楽をして得た強さに、強靭(つよ)さが宿るとは思えない。

 だから命と魂をかけて修行し苦難に挑むしかない。

 

 故に、己なら何があっても乗り越えられると。

 絶対に戻ってくると断言出来る筈もなかった。

 出来ない約束をするような阿呆にはなれない。

 

 あと、アメリカやメキシコにも興味があるのでそっちにも行ってみたかった。

 


 

 

「うっ……ふぅぅぅう。

 あー、そこの犯罪者たち大人しく投降したまえ。

 今なら酷い目に合わないと約束しよう……賢者タイムだからね」

 

 

「う わ あ あ あ あ あ あ(PC書き文字」

 

「チィッ! なんだってドラゴンが移動式屋台(フードトラック)に腰振りながら追って来るんだよ!?」

 

「ご存知、ないのですか!? 彼こそ香港最狂の警察官の1人!!

 龍系悪魔に変身し、犯罪者の車相手にDCSしながら追いかけて来る異常性愛者!!

 人呼んで“愛車凌龍(イニシャルD)”!!!!」

 

「イカれてんのか香港警察!?!?」

 

 


 

 

「…………」

 

 路面電車(トラム)すぐ傍を横切った集団には目もくれず、香鈴は黙って俯いた。

 窓に張り付いて中に入ろうとした何人かがドラゴンに引き剥がされる。

 移動式屋台(フードトラック)に放り込まれて体液塗れになるだろうが知った事ではない。

 

「……………っ」

 

 元々分かっていた事だ。いつかこんな日が来るかもしれないと。

 理解していた筈だった。彼が自分の傍から居なくなるだろうと。

 知った風に思っていた。この剣鬼は知らぬ何処かでくたばると。

 

 本音を言えば……ずっと香港にいて欲しかった。

 もっと言えば……ずっと傍らにいて欲しかった。

 

 嫌だ、行かないでと言えばどうだろう。

 無駄、そんな言葉で止まる男ではない。

 

 そんなみっともない真似は出来ないし、したくもない。

 香港裏社会に立つ巨頭の1人として。道術を教えた師として。

 何より彼を心の底から愛してしまった女として。

 

 その選択を、生き様を否定する事は決して。

 

「なら―――生きて事を成せたのなら。

 真っ先に私の所へ来てくれますか?」

 

 だから、言の葉に乗せられたのはそれだけ。

 立場と見得を前にして、本音を胸に押し留めながら告げた精一杯の願い。

 果たして―――。

 

 


 

 

「そこのおじ様たち! さっさと汚ねぇケツをお出しになって!!

 愛と正義のセーラー服美少女警官セーラームーン!」

 月に代わってぇっおしおきよぉおおおっ!!」」

 

 

「う わ あ あ あ あ あ あ(PC書き文字」

 

「チィッ! なんだってセーラー服着た中年のおっさんがケツ狙って来るんだよ!?」

 

「ご存知、ないのですか!? 彼こそ香港最狂の警察官の1人!!

 おしおきした相手を同類(変態)へと目覚めさせる恐るべき生物災害!!!!

 人呼んで“月光刑事(セーラームーン)”!!!!」

 

「イカれてんのか香港警察!?!?」

 

 


 

 

 

「いや、絶対その前にトラブルに巻き込まれると思うんだが」

 

「それは、そうですけど!!!!」

 

 

 いい加減無視するのもきつくなってきたので、2人して路面電車(トラム)から飛び降りた。

 

 


Danger           Danger                 Danger   


 

 

「これが! 私の!! 本日20回目の初恋パワァアアアアアッ!!!」

 

 

《デストロイパイル》*1打撃相性でダメージを与える。

敵全体のうち1体から、敵全体に拡散する。

倒れた相手は留置所(愛の巣)へ連れ込まれる。

 

 

「あぁあああエクスタシィイイイイイイッ!!!!」

 

 

《エーテルメイス》*2敵全体に突撃相性ダメージ&PALYZEの効果。

動けなくなった相手はDCS中の車内に放り込まれる。

 


Danger           Danger              Danger   


 

 

 

 直後、杭打機(パイルバンカー)移動式屋台(フードトラック)が勢い余って路面電車(トラム)に激突し横転。

 勢いよく近くの建物に突っ込むが、怪我人もいないようなので誰も気に留めなかった。香港では珍しくない光景だ。

 なお、やらかした警察官2人は始末書の海に沈むのだがそれはまた別の話である。

 

「えっと、どうするよ姐さん?」

 

「どうしましょうか八瀬さん♪」

 

 背後で響く犯罪者たちの悲鳴と絶叫をBGMにして。

 香鈴は宗吾の手を取り、引っ張るようにして歩き出す。特に行先は考えていない。

 この逢引(デート)の最後にはホテルへ向かう予定だったが、そんな空気でもなくなってしまった。

 

 


 

 

「デュワッ!」「デュワッ!」「デュワッ!」「デュワッ!」

 

「う わ あ あ あ あ あ あ(PC書き文字」

 

「ちぃ、なんだってウルトラマンに仮装したデブ共がいるんだよ!?」

 

「ご存知、ないのですか!? 彼らは近所に住むウルトラマンをこよなく愛する集団!!

 肉体を苛め抜き、厳しい鍛錬を乗り越えたのに腹周りはそのままの自警団!!!!

 人呼んで“咸蛋兄弟(ウルトラブラザーズ)”!!!!」」*3

 

「警察ですらねぇただの一般市民かよ!?

 というか、さっきから思ってたんだが―――お前誰だ???」

 

「人呼んで“解説野郎(メガネマン)”!!!!」

 

「いやだから誰だよ!!!!!」

 

 


 

 そう、だから。

 

「せっかくなので……このままブラブラしません?

 思えば2人でこういう風に出歩いた事もありませんでしたよね」

 

身柄(ガラ)狙って来る馬鹿が絶えなかったからなー。

 ま、今なら大丈夫だろうし、それでいいなら気の済むまで付き合うよ姐さん」

 

 繋いだ手をより強く握りしめながら。

 2つの人影は不夜城の何処かへと消えていくのだった。

 

 


 

 

 

             


 

 

 

 

 

 

 

「其實我最近都冇用避孕藥」

 

「ブフォ!?!?」

 

「フフフ、嘘ですよ。そんな卑怯な真似しませんから♪」

 

 

 

 

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「Fragment:別れの日、最後の熱」

 

 

――― 過去周回〈200x/xx/xx 香港 オーシャン・ターミナル〉―――

 

 

「……なんだ、密航はしないのか」

 

 

 太陽が頂点を過ぎた時間帯。

 香港の中心であるヴィクトリア・ハーバーの一角。

 日本へと向かうクルーズ船に乗るべく発着場(ターミナル)を訪れた宗吾を出迎えたのは見知った顔だった。

  

「お前俺を何だと思ってる訳???」

 

「不法滞在者のゴロツキ剣士。

 ブタ箱にぶち込めなかったのが心底残念だ」

 

 むぅ、と思わず宗吾は言葉に詰まる。間違ってはいないからだ。

 日本を発ち欧州に渡ってから地元組織相手に色々とやらかして。

 そこからシルクロードを経由し、中国本土で紆余曲折あった末に香港へと辿り着いた身である。

 

 当然―――と開き直るのは問題があり過ぎるが。

 入国審査の類はほぼ全てぶっちしているので、このまま帰ればお縄となる未来しかない。

 身内や友人も自業自得、馬鹿丸出し、馬鹿なのでいつかやると思っていました……等々。

 とても温かいコメントを送って来るだろう。

 

 香鈴の力を借りて渡航記録を捏造しなければ間違いなくそうなっていた。

 同時に思い切りデカイ借りを作ってしまったが、深く考えない事にした。

 

 なので、気を取り直して目の前の相手を見る。

 

 膝上まであるベージュのニットワンピース。

 首に巻かれたチェック柄のマフラー。

 長い脚線美を包む黒のタイツ。

 滅多に見た事のない装い―――私服姿の凜子がそこにいた。

 

 


 

【第一話 ROMANCE DAWN】

 

\ドン/

「俺の名はルーフェイ! 富! 名声! 力!!

 この世のすべてを手に入れて海賊王になる男だ!!!!」

 

 

「船長、目出し帽に麦わら帽子を被ったお客様が物騒な事言ってます!」

 

「落ち着くんだ船員くん。なるべく穏便に、お静かにして貰えないか聞いてこよう」

 

「ママー、あのおじさん何してるの?」

 

「シッ、まだ見るのは早いわ」

 


 

 

 これから乗る予定の船が俄かに騒がしいが無視する。

 香港では日常茶飯事の出来事なので慣れてしまった。

 なので、あれこれ考えて―――思った事を口にした。

 

「………私服なんて持ってたのか。

 てっきり制服か戦闘衣(ピチスー)しかないもんかと」

 

「お前は私を何だと思っているのだ?」

 

「変態の群れに放り込まれた秘密結社出身の残念警察官。

 ヤケ酒に付き合わされた回数忘れてねーからな」

 

 むぐく、と口をへの字にして今度は凜子は押し黙る。

 残念という所は否定するが、それ以外は事実だからだ。

 同僚という名の変態たちのせいで、封剣士時代とは違う意味で疲れる日々の連続である。

 何故出勤して最初の仕事がバキハウスと化した派出所の掃除なのか小一時間問い詰めたい。*4

 

 そのせいで、心の底で澱のようにストレスが溜まってしまうのだろう。

 先日も壮行会という名目で行われた飲み会で、醜態を晒してしまったのは記憶に新しい。

 気が付いたらこの男とベッドを共にしていた回数など、両手の指でも数え切れない。

 

 


 

【第二話 伝説は始まった】

 

 

「おれは全てのカモが集まる海(オールブルー)を見つける為に」

「おれは海賊王」

「おれァ大富豪に」

「私は密航路を描くため!!」

「お……お、おれは勇敢なる海の賊になるためだ」

 

\ドン/

「「「「「いくぞ!!! 偉大なる狩場(グランドライン)!!!」」」」」

 

 

 

「船長、どう見てもシージャックしそうなお客様たちが進水式をやっています!」

 

「落ち着くんだ船員くん。なるべく穏便に、お静かにして貰えないか聞いてこよう」

 

「ママー、あのおじさんたち何してるの?」

 

「シッ、まだ見るのは早いわ」

 


 

 

「………」

 

「………」

 

 ただ無言のまま時が過ぎていく。

 喧騒さえ彼らには届いていない。

 思い出すのは初めて出会った時。

 

 天尊流星―――正確にはそれを()()()()()()()劉 嘉伸(リュウ カシン)に敗走した凜子。

 インドに拠点を置く暗殺集団を返り討ちにして、密航したばかりの宗吾。

 偶然出会い、勘違いから斬り合い、最後は警察病院でお世話になったのが始まり。

 最悪の出会い方をした縁がここまで続くとは、正直どちらも想像さえしなかった。

 

 故に。

 

「……香港(こちら)へ戻って来るかは知らないが。

 次に会った時、外道に墜ちていたのなら私が斬り捨ててやる。

 精々気を付けるのだな」

 

「誰に言ってやがるんだてめぇ……そんな無様晒すくらいなら自分で腹切るわ。

 そっちこそ次会えた時にヒーヒー言ってたら爆笑してやるよ。

 ありがたく思え」

 

 どちらも笑いながら、悪態をついて別れを告げる。

 何度も斬り合い、何度も背中を合わせ、何度も肌を重ねて来た。

 好敵手で戦友で―――セフレ以上恋人未満な関係。

 

 こういったやり取りこそ、自分たちらしいのだろう。

 

 


 

【第三話 救えないっ!】

 

 

「だしゃあ!!!!」

 

 

《ミサイルパンチ》*5打撃相性でダメージを与える。

敵全体のうち1体から、敵全体に拡散する。

理不尽な悪事にはワンパン対応!!

 

 

「船長、今のパンチでお客様4名が汚ねぇ海の藻屑と消えましたぁっ!」

 

「警察を呼んでくれるかい、船員くん」

 

\ドン/

「何だ……おれは……!! 仲間一人も、救えないっ!!」

 

「ママー、あのおじさんたち何してるの?」

 

「ようこそ打撃マンの世界へ……」

 

「ママ????」

 

 


 

 

 

 遠方で水飛沫が上がるのと同時に、宗吾はタラップを登り始めた。

 最後の挨拶は済んだ。次があるか分からないが―――願わくばそうであって欲しい。

 沸き上がった思いを言葉にせず、胸に秘めたまま歩を進めて。

 

 

「――――()()

 

 

 初めて名前で呼ばれ、意図せず振り返れば―――。

 

 

「お前と出会えた事を、私は幸運に思うよ」

 

 

 唇へと感じた柔らかい感触。

 そして恥じらいながら顔を赤らめた凜子の微笑み。

 

 

 


 

 

 

             


 

 

 

 

()()()

 

 

 それが、香港最後の思い出となった。

 

 

 

 

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「Fragment:交わす言刃、交錯する刃」

 

 

――― 過去周回〈200x/xx/xx 屋久島〉―――

 

 

「なるほどなるほど……ぼっちゃんも色々と経験してきたのだね。

 3年もあれば少年から青年になるのも当然というものだ」

 

「じゃあ“ぼっちゃん”呼びはいい加減辞めろよ師匠(ババア)

 

 屋久島の外れにある小さな庵。

 囲炉裏の上で燃える薪を火箸で弄りながら、宗吾は愚痴るように呟く。

 

「それは無理な相談というものだのう。

 なにせ、よちよち歩きをしていた頃から知っているのだから」

 

 カラカラと笑うのは盃を傾ける妙齢の美女だ。

 大胆に露出した白装束にせびらかすような太もものスリット。

 どう見ても20代前半―――宗吾とさして変わらない程度の外見。

 台詞と年齢がどう考えても合っていない。

 

 ―――当然の話だ。

 

 一見若く見えるが実際は齢90を超える超越者。

 何らかの方法で全盛の肉体を維持する老剣客。

 己の曽祖父とも交流のあった日高示現流当主。

 

 

\カカカッ/

剣士日高 桜Lv65備考:超越者の域にある魔剣使い

 

 

 それが宗吾の師匠―――日高桜という女剣士に他ならない。

 レベルもそうだが純粋な剣腕でも足元にも及ばない相手である。

 渾身の雲耀を片手で無刀取りされたのはいまだに忘れられない。

 

 今までマグレの1本も取れた例がなく、成長した現在でも斬れる絵がまるで見えない。

 どう頑張っても単独(サシ)では血達磨になって転がされるだろう。

 

 ―――というか。

 

「なんで最後見た時より強くなってんだよ???

 歳考えろって……」

 

「ぼっちゃんが武者修行に出たと聞いて少し張り切ってしまったのだ。

 私もまだまだ捨てたものではないであろう?」

 

 仮に見鬼の能力を持っていなくとも分かる。

 僅かな立ち振る舞いや仕草から、最後に会った時と比べ1周りは強くなっている。

 何て事のない風に言っているが、宗吾としては正直、驚きよりも興奮の方が強かった。

 

 ―――何処の何と戦えばそうなるのか。

 ―――どうすればそこまで行けるのか。

 

 香港で戦ったイマージュ・スラッシャーやカンセイテイクンをも上回るレベルの高さだ。

 天尊流星と相打ちになった悪魔召喚士さえも超えるだろう。

 無論、人間と悪魔では比べるのは間違っている。

 同じレベルであっても性能面では後者が勝るのだから。

 

 しかし、それを踏まえても抑えきれない。

 絶対にその域へと至る、至ってみせると。

 

「そんな目をしなくとも、ちゃんと修業用の異界は紹介するとも。

 ただ準備にしばらく時間がかかる故に、まずはその刀を直してからだがね」

 

「ちょっとだけでも駄目か?」

 

「最近どういう訳かGPの値や空間の揺らぎが不安定なのだ。

 下手をすると何処かへ神隠し……なんてことになりかねないのでね。

 安定するまで大人しく技の鍛え直しでもしていたまえ」

 

「……了解、分かったよ」

 

 正論過ぎて宗吾も納得するしかなかった。

 必要とあれば幾らでも無茶無理を押し通すが、今回は違う。

 逸る気持ちはあれど、準備不足で死ぬのは笑い話にもならない。

 魔労ワークにでも顔を出して、仕事と修業を行いながら待つのが一番だろう。

 

 

 

「さて、話は終わった事だし――――いつでも来たまえ」

 

 

 

雲耀の剣*6剣・風(疾風)相性ダメージ。

回避・防御に-80%のペナルティを受ける。

剣・剣風を問わず、()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 言葉が終わった瞬間、宗吾は抜き打ちで首を狙った斬撃を繰り出す。

 首飛ばしの颶風。刃と剣風による二重必殺斬撃。

 間違っても身内へ向けて良い筈のないその絶技は―――。

 

 

「……両手を使わせるか!」

 

 

《無刀取り》*7素手で相手の刀剣を奪い取る柳生新陰流奥義。

大成功時、相手の刀剣をそのまま叩き折ることが出来る。

判定に成功時、相手の武器を奪い、失敗すれば離す。

どちらにしても敵の刀剣による攻撃を止める。

 

 

 剣士とは思えない白魚のような手で()()()()()()()()

 柳生新陰流奥義“無刀取り”。

 神業を以て絶技を制し、その勢いを殺さずに斬りに来た相手を刀ごと投げ飛ばす。

 

「――――クハッ!!」

 

 障子戸をぶち抜きながら、適当に整えられた庭へと放られた宗吾が受け身を取る。

 そこにいるのは歯を剥き出しにしながら笑う剣鬼の姿。

 その瞳にあるのは“斬る”という目的のみ。

 庵からゆっくりと歩み出て来た桜も愛刀片手に薄く微笑んでいる。

 

 別にどちらも気が狂ったわけではない。

 これは宗吾が顔を出す度に行っている恒例行事のようなもの。

 どれだけ腕を上げたか確かめる為の稽古の一種だ。

 知り合いに話すとドン引きされる行いだが、特に気にした事は無かった。

 

「まさか、そのナマクラを折る事も出来ないとは驚いたぞ。

 見誤っていたよぼっちゃん―――大した男に成った」

 

「驚くのはまだ早いぜクソババア。

 今日こそは1本取る……いや」

 

 構えて。

 気力を滾らせ。

 総身を刃振るう機構へと変貌させながら。

 

 

                                              

 

 

「アンタの()()を引きずり出してやる」

 

「フフフ、10年は早いぞ若造」

 

 

                                              

 

 


 

 

 

             


 

 

 

 言の()を交わしてから鉄の刃が交錯する。

 剣による語り合いが終わったのはそれから10分後。 

 

 結果はいつも通りだったので、目覚めたあと宗吾は心底悔しがるのだった。

 その後に行われた夜の戦いではリベンジ出来たが、あまり嬉しくなかった。

 

 

 

 

 

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「Fragment:想いはどうあるべきなのか」

 

 

――― 現行周回〈20xx/xx/xx 東京某所 ヤタガラス所有物件〉―――

 

 

 

「…………はぁぁぁあ」

 

「ため息ばっかついてると気が滅入るぞー」

 

「これ以上気分最悪にならないから大丈夫……でもない」

 

 ヤタガラス所有の物件。

 外部からの干渉をほぼ防ぐ完全防護の施されたシュエルターハウスの一室。

 その片隅の席で美野里は項垂れていた。

 

 自分が盗んだ、ではなく借りパクしたタイムマシン・レジスターの意味。

 セプテントリオンに関する……知る必要があるが知りたくなかった情報。

 トドメにノアの口から語られた、過去周回にて須摩留が行ってきた所業。

 

 正直な話、頭がパンクしそうだった。

 あまりいい印象を持っていなかった総生徒会長だが、そこまで狂っているとは想定外だ。

 隣の席に座る剣バカが遥か上等に見えてくるなど勘弁して欲しい。

 

「厄ネタとは思ってたけど。まさかそこまで重要だったなんて」

 

 手元のメガネ(T・R)を弄りながらぼやく。

 工科大学にカチコミを仕掛けたのはDスーツを含めた最新装備が欲しかったから。

 これを持ち出したのは半ば偶然で、特に狙った訳ではない。

 

 ひょっとしたら生徒会長には何かしらの思惑があったかもしれないが、今はもう分からない。

 ただ、後輩たちの言葉を信じた“先生”の遺言が重くのしかかる。

 ―――そこまで大した人間ではないというのに。

 

「……私さ、あんまり裕福な育ちじゃないって言ってたっけ?」

 

「いや、初耳だな」

 

 だからだろうか。

 今まで話した事のない―――それこそ須摩留の仲間にさえ―――身の上話を相棒に語っていた。

 

「両親が小さい頃に事故で死んじゃってさ、親戚に引き取られて。

 だけどその人たちもそんなに余裕があった訳じゃなくて。

 それで、学費が免除されるっていう須摩留のスカウトに乗ったの」

 

 はっきり言って厄介者の自覚はあった。

 口には出さずとも、視線や雰囲気だけで察せるものがあったから。

 思えばサイコメトラーとしての片鱗がこの頃から発揮されていたのだろう。

 

 だから進学を機に学園都市へ転入という形で逃げるように移り住んだ。

 正直、常識の違いや覚醒者としてのあれこれに馴染むのに苦労した。

 天輪(ヘイロー)持ちの生徒たちとどこか噛み合わない異質感も感じていた。

 

 それでも仲間が出来て、ここが自分の居場所なのだと思えるようになった。

 何があっても守りたい、青い思い出(ブルーアーカイブ)がそこにあった。

 きっと、自分の攻撃性はそこに起因しているのだろう。

 

 理性を容易く振り切り行ってしまう所業。聖域を脅かす者への排撃。

 規律と倫理を重視する癖に、いざとなったら容易く踏み躙れる矛盾。

 これでいい先輩とは、我ながら笑えるジョークだ。

 

「結局はさ……自分の為なのよ。

 誰かの為なんて口が裂けても言うべきじゃない。

 いい先輩なんて、言われる資格は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺といきなり共同生活しながら組める時点でいい奴なのは確定じゃね?

 じゃなきゃ同類(バカ)同類(キチガイ)同類(やべぇやつ)だろ」

 

「ごめんいきなり説得力のある言葉で論破するの止めて」

 

 

 

 

 

 深刻な悩みが一刀両断された。

 厳密には惚れた弱みとかもあるのだが、同類扱いはされたくない。

 

「自分の為に怒った? 結構だろ。

 誰かを助けたいのも守りたいのも、結局は自分のやりたい事で自分の為なんだし。

 むしろ自分が無い方が俺は恐いね」

 

 我欲に、自らの定めた道に従う宗吾からすれば恥ずべき事でもなんでもない。

 無論何でも許されるわけではなく、行き過ぎれば当然の報いを受けるだろう。

 

 それでも、誰かの為に行ったこと全てを否定されるのは間違っている。

 基点の無い無造作な救済はただの現象であり、想いは欠片も宿らない。

 己を持たない者が行う、機械染みた救いより何倍も高潔だと信じたい。

 

「例えば俺の高校時代の先輩……。

 ジャンケンといえば野球拳しか知らなかったり、腕内(ワンナイ)と称したカンニングの達人だったり、全裸で校内うろついたり、女出来た仲間の家焼き討ちに行ったりしてたが、全員いい先輩だった」

 

「欠片も思えない……っ!」

 

「もちろん見かける度にぶっ飛ばすかぶっ飛ばされてたんだが」

 

「ねぇ、本当にあんたが通ってたの名門校???」

 

「つまり細かいことは気にするなって事だよ。

 仲間に慕われてたならそれでいいだろ別に」

 

 ポンポン、と宗吾は撫でるように美野里の頭へと触れる。

 慰めるのではなく、しっかりと前を見据えさせるために。

 

「予想外のデカい荷物背負ったなら、半分くらいは担いでやる。

 どうしても背負い切れないなら捨ててもいい。

 一緒に謝るくらいはしてやるさ」

 

「……そんな無責任な真似する訳ないでしょ。

 後悔も反省もするけど、やった事からは逃げる気なんてない。

 そっちこそ無駄な荷物背負って大丈夫なの?」

 

「いい重しになる。トレーニングには便利だな」

 

 どちらも思わずクスリと笑う。

 いつの間にか、悩みは吹き飛んでいた。

 消えた訳ではないが心の棚に上げる事が出来たようだった。

 

 


 

 

 

             


 

 

「―――ありがと、助かったわ」

 

「どういたしまして」

 

 今優先して考えるべきは目の前に迫ったセプテントリオンの襲来。

 悩み苦しむのはそれを乗り越えてからだ。

 悩み苦しむ為にも乗り越えねばならない。

 決意に燃料を加え、美野里は顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「あのミノリ先輩が……嘘だぁっ信じられないんですけどぉっ!!」

 

「温泉開発部が泣いて土下座する特別課外活動部の暴走機関車って話だったのに……」

 

「怒らせてもいいけどキレさせたら絶対駄目とイオリも言ってましたね」

 

「ん、もうちょっと踏み込むべきだと思う」

 

「デイビッドさんの忠告が無意識に残っているのでしょうか……?」

 

 

 

 

 須摩留組含めた周囲の生暖かい視線に美野里はマッハで沈んだ。

 宗吾はまるで気にする様子も無かったので思い切り脛を蹴られた。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 ―――そして決戦の日は訪れる。

 

 予想より一日早かった襲来。

 予期せぬ他勢力による襲撃。

 予断を許さぬ選択肢の連続。

 

 

『スベ、全てノ 文明 ハ……滅ぼさ、ネバ、ねばばばNA羅ない……!』

 

『世界ヲ救うノ堕!!!!!!』

 

 

 そして、混沌の奇禍をも超える騒乱の空を征く強大なる龍。

 かつて、とある周回を滅ぼした者たちの尖兵。

 それを、地上から見上げる2つの人影。

 

 

「随分と強そうなのがいるじゃねえか」

 

(あ、嫌な予感――……)

 

 

 これは世界を【救わん/滅ぼさん】とする龍との戦い。

 怪物を倒すのが英雄の役割であるのならば―――。

 

 

「ぶった斬らせてもらおうかぁっ!!!!」

 

 

 怪物を斬り殺すのは―――剣鬼の宿痾である。

 

 

                                            

 

第三次セプテントリオン迎撃戦―――開幕!!

 

                                            

 

 

 

 

*1
※SH1

*2
※SH1

*3
※ 他の三次作者様より香港には「サンダル履いてるウルトラマンゼロ(デブい)のコスプレが実在する」との情報提供あり

*4
「対策室死ね」

「超越雌豚」

「かかって来いや!」

「俺は逃げも隠れもせん」

「命取ったる」

*5
※SH1

*6
TRPG誕生篇

*7
※誕生篇




次回よりセプテントリオン戦、あるいはほびー様謹製ボスとの戦いです。

その前に1回キャラ紹介とか補足が入るかも。
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