真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
ある程度この街に慣れた者なら知っている事だが。
現在活動の拠点としている“吉祥寺レルム”には表と裏、2つの闘技場が存在する。
自分が闘技者として連日切った張ったをしているのは前者。
《王雅》や《拳願会》が主催する、精々手足が飛んだり臓物がはみ出たりして死ぬ程度の至って“健全”な場所である。
仮にお茶の間に流れようものなら大問題間違いなしだが。
個人的には結構いい場所だと思ってはいる。
なにせ死んでもすぐに蘇生魔法を飛ばしてくれるし、治療含めたアフターケアもばちっちり。
特に盛り下げない限り、場外から罵声以外の手出しが来ない所も。
それにリング上という限定的な空間とはいえ様々な人間、悪魔との戦闘経験も積めるのも大きい。最近はメタゲームの応酬対策に3対3の集団戦もやっていて、戦術面も含め中々に面白みもある。
だから見世物になる事を受け入れられるのなら、腕を磨くには適した場所と言えた。
―――では裏がどんな場所なのかと言えば。
「おらぁっさっさとその豚ぶっ殺せよぉおおお!!」
「見て見て! あの女ったら土下座して泣き喚いてるわよ!!」
「お・か・せー! こ・ろ・せー! ギャハハハハ!!!!」
ゴミ屑のたまり場。
汚物以下の匂いがする肥溜め。
人の皮を被った畜生共のパーティー会場。
そんな言葉がぴったり当てはまるくらいに腐り果てた、抑圧された外道共の発散場所である。
現在は法の緩い海外へ渡る事が出来ないから、このような場所と需要が生まれてしまったのだとか。
「…………予想以上に末法だわーここ」
リング上で低レベルの―――おそらく覚醒したての―――少女が複数の人間に嬲り殺しにされ、何が楽しいのか歓声を上げる阿呆共を視界に収めつつ。
軽く息を吐いて精神状態をフラットにする。怒りは重要だが今は
ここで目に付く連中をぶった斬っても意味はない。だから我慢する、我慢するしかない。
―――そう、本命までは我慢だ。もう少し後で行われるエキシビジョンマッチまでは。
なんでもそこに“レッドアイホーク”なるキリギリスの発起人が処刑対象として出るらしい。
可能な限り調べて貰った情報だと“隻眼の殺し屋”とか“極道殺し”といったぶっそうなあだ名がある人物だ。
最前線でレベル100を超える連中と戦う精鋭でもあるとか。羨ましい。
そんな人が悪趣味全開な処刑場を開催する輩なぞに捕まったのは、実はワザとで内側から潰しにかかるのが目的だろうと掲示板には書かれていた。
恥をかかせて面子を潰せば、勢力としては今後とてもやりにくくなる云々……要は嫌がらせ。
自分が買う恨みを無視した、実にストロングなスタイルで好みだ。
なので―――“全部アイツのせいにするから暴れたい奴集まれー”という募集に乗ったのだ。
元々、近所にこういう連中が居るという事自体気に入らなかったし、なんと《王雅》のトップも変装して乗り込む予定なのを闘技者仲間から小耳に挟んだのもある。
普段は強すぎて出禁喰らってるので、こういう機会じゃなければ戦う姿をお目に掛かれないし。
ちなみに今回美野里ちゃんは不参加だ。
色々と調べたい事があるらしいし、こういう場所に来るとキレない自信が無いとか。
正解だったけど。
しかし。
「今までそれなりの経験はしてきたつもりだったけど……。
さすが最前線の世界、クズ度でもレベルがちげぇや」
とめどなく流れる汗を拭いながら思う。
表の闘技場での伝手を頼り一足先に潜入したのはいいものの、予想以上のクソさにびっくりである。
これなら他の突入組―――何故か全員仮面ライダー王蛇のコスプレをしていた*1―――と一緒に行った方が良かったかと
一応王蛇のコスは受け取っているので、開始直前には着替える予定だが。
「ちなみに、何であんたはこんなとこに居るわけ?」
「――――ヒマつぶし」
だから、ふと気になった事を隣の席にいる人物に話しかける。
ワイシャツに黒のズボンというラフな服装の、しかし鷹のように鋭い目をした男はこちらを一瞥してそう返すと、手元の新聞へと視線を戻す。
この会場の用心棒であろうにえらくやる気が無い。
こちらの目的もおおよそ察しているだろうに何もしてこないのだから。
まるで何時クビにされようが構わない、無敵状態な派遣社員のようだった。
直後―――首を狙った渾身の一太刀を躱され、カウンターで心臓を貫かれる。
「―――――」
軽く胸に触れる。傷一つ無い、鼓動を続ける心臓がある。
当たり前だ―――今のはあくまでもイメージ。
頭の中で組み立てたシミュレーションでしかない。
現実では趣味の悪いショーが続いていて、端にある観客席に野郎2人が並んで座っているだけ。
そしてこれまでの
雲耀の剣―――躱されて死ぬ。
兜割り――――弾かれて死ぬ。
刀で防御―――刃がすり抜けて死ぬ。
構えての割込み―――意味なく死ぬ。
先の先も後の先も。カルトマジックを併用しようとも。修羅に入っても。
現時点での己が行使できる全ての業を以てしても、髪の毛1本断つ事すら叶わない。
どう足掻いても刃を届かせるためのヴィジョンが欠片も見えてこない。
圧倒的なまでの実力差。レベルもそうだが技量においても絶望的に負けていた。
男―――推定で魔人がこちらを殺さないのは本人が言っている通りヒマつぶし。
そして今の自分など取るに足りない雑魚でしかないからだろう。
あと迷惑料代わりに安ビールとホットドッグのセットを奢ったからか。
「くはっ……!」
その事実に。思わず笑いが零れた。
己への不甲斐なさと、そびえ立つ壁の高さへの歓喜によるもの。
知識の上で、この世界にはそういう埒外の連中が居る事は知っていた。
だがこうして、実物を前にするとその出鱈目さがよく分かる。
心が至らない、技が届かない、体が足りない。あらゆる全てが不足している。
何もかもが無い無い尽しで―――逆を言えば足りない物も逆算出来る訳で。
『さあ、さあ、さあ!
盛り上がっているかぁ、クソ野郎共!
三度の飯よりも血と悲鳴と殺し合いが大好きなろくでなし共!』
そして気付けば、闘技場では最後のイベントが始まろうとしていた。
残念ながらこの楽しい妄想をする時間もここまでのようだ。
このタイミングで移動するのは目立つので、気配を消して空気を動かさないようにしながら静かに立ち上がって歩き出す。
レッドアイホークなる人物の試合は、テレビか何かの映像越しに見せて貰うとしよう。
「行くのか?」
その前に。
今度は視線さえ向けず、退屈さを滲ませる声音で短く問われた。
「ああ、そろそろ“祭り”の時間なんでね。
ヒマつぶし、助かったぜ」
こちらも視線を向けないまま答えて。
「―――――次会う時は、あんたが死合いたいと思う程度にはなって来るよ」
それだけを言って立ち去る。返事は聞こえなかった。
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「まあ綺麗に死んだし、おかげで呪いも解けたけどね!
じゃあ全力でやろうか!!」
「無理です、殺して」
それから起きた事を語るならば。
エキシビジョンマッチは観客たちの期待する展開とは正反対の結果となった。
即ち―――レッドアイホークによる返り討ち。
誰もがその結果に困惑するが無理もない。
いかに高レベルのDBとはいえ、状態異常を重ね掛けさせられ肉袋と化していたはずなのだ。
それを嬲り殺す為に用意された4人のパフォーマーたちも決して無能の雑魚ではなかった。
しかし現実として。
鉄拳の格闘家は泡を吹いて無様に倒れ伏し。
雷撃使いの凶獣は猛反撃によって腹を抉られ。
天賦の才を持つ牙は万能物理へのカウンターで頭を吹き飛ばされた。
ただ一人、殺し筋を探っていた薄命の介錯人が頸を狙い一矢報いたものの。
《不屈の闘志》による自己蘇生、及び呪いの解除で万全の状態へと戻った事で心を折られた。
そこからは事前の打ち合わせ通り、王雅のトップと王蛇のコスプレをした集団の殴り込み及び、会場のあちこちに潜んでいた者たちの奇襲が開始。
多少の抵抗はあったものの、当たり前のように残酷処刑場は強制閉店へと至った。
背後で糸を引いていた者たちの存在もあるが、この話にそれは関係ない。
これより語られるのはそんな騒動の最中で起きた出来事。
中心人物であるレッドアイホークとは少し離れた場所で起きた一幕。
―――とある剣鬼が、新たな位階へと踏み出した瞬間の話だ。
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赤と紺の2色が怒号と銃声、激しい戦闘音が鳴り響く中を駆ける。
一見すれば何処かの学校の制服を着た見目麗しい、この場には似つかわしくない少女たちだ。
当然、その実態は異なる。
旧ヤタガラス傘下治安実働部隊員『リコリス』。
女系暗殺組織『彼岸花』から名を変え形を変え、現在に至るまで存続してきた治安維持組織。
どこにいても怪しまれないという理由で、戸籍の無い少女たちに偽装制服を与え運用する機関。
少女たちはそこに所属する一員であった。
だが今、この場所にいるのは任務によるものではない。
ふとした縁で知り合ったレッドアイホークに付き合う形で、彼の戦いを観に来ただけ。
興味本位が半分以上を占めるプライベートな理由である。
だから、2人が態々戦場と化した会場で銃を取る必要は本来無い。
いや、治安維持組織の一員である為、ここを潰す行為に協力するのは良い。
人身売買の販路を潰す事にも繋がる故、上からペナルティを下される可能性も低かった。
しかし、戦うにしても襲撃者たちと共闘し、堅実に行動すべき状況で2人は走っていた。
例え混乱に紛れていようと、そのような事をすれば敵の目に留まる可能性が高いというのに。
今この瞬間にも運営側の人間たちから袋叩きを受ける可能性がある。
その事を承知の上でリスクを負う理由は――――
「ッ―――千束、確保しました!!」
紺の制服の少女―――井ノ上たきなが叫ぶ。
辿り着いたのは会場中央、即ちリングの上。
滑り込むようにして腕に抱えたのは先程倒されたパフォーマーの1人。
電撃を扱う超能力者で、元リコリス―――たきなの知人であった
「よっしゃ、急いで離脱ー!」
油断なく銃を構える赤の制服の少女―――錦木千束が応える。
そう、つまるところ。
彼女たちはどさくさに紛れて知り合いを―――正確にはたきなの―――助けに来たのだ。
気付いたのは偶然で、どのような経緯でパフォーマーなどしていたのかは知らない。
特別親しかった訳でもなく、千束に至ってはたきなから聞いて初めて元同僚だと知ったほど。
同じ組織に所属していた事だけが唯一の接点で―――しかし動く理由はそれだけで十分だった。
よって身柄を確保した後は安全な場所まで撤退するのみ。
事前に会場の構造は頭に叩き込んである。現在地と状況から最も良いルートを探って。
「ッテメェらそこで何してやがる―――!!」
| 軍勢 | ちんぴらの群れ | Lv25 | 剣・銃に強い、破魔無効 |
―――
怒号と共に複数の銃口―――それも機関銃―――が自分たちへ向けられたのが視界に映る。
(やっばっ!)
千束の顔に僅かながら焦りの色が浮かぶ。
自分は問題ない。例え機関銃相手でも、あの程度の連中が撃つ弾など回避し切れる自信がある*2。
それが己の武器であり、強みでもあるのだから。
避けて、お返しに神経弾をダース単位でお見舞いすればいいだけ。
だから問題となるのは―――要救助者を抱えた状態のたきな。
場所がリング上という事もあって身を隠せる遮蔽物も存在しないのだ。
先手を取り無効化しようとしても、手持ちの火器では数が多すぎて全ての対処は不可能。
加えて、敵の攻撃に状態異常を齎すものが混じっていればそこから一気に
火力差もあって、あっという間に美少女のミンチが3人分出来上がるだろう。
(
よって即座に迎撃を諦め、懐から煙幕弾を取り出そうとして―――。
「―――――俺、参上!!!!!!」
全然違うライダーの台詞を吐きながら、王蛇の1人が射線へ躍り込んだ。
・
・
・
「俺の名前を言ってみろぉ!!」
「てめそれもはや仮面ライダーですらぎゃああああ!!」
耳に残る断末魔を無視して縦横無尽に駆け抜ける。
手当たり次第に
気付けば、宗吾の周囲に動く者はほとんど居なくなっていた。
逃げたか、他の面子にやられたかのどちらかだ。
「俺は最初からクライマックスだぁっ!!」
だから走って、探して、斬るのを繰り返していた。
一旦手を緩めるのもありだが、こんな場所に通う輩を逃がしたくない気持ちの方が勝ったのだ。
決して食べたい放題ならぬ斬りたい放題にテンションが上がっている訳ではない。
本人も問われれば間違いなく否定するだろう。
「えっと……やべぇそろそろネタが――――ん?」
そんな事を呟きながら次の敵を探そうと周囲を見渡すと、
| 広角視界*3 | 広い範囲を同時に認識する事が出来る。 後方など死角からの攻撃に対しても通常通り対応できる。 |
視界の端に、年若い少女たちへ銃を向けるチンピラの群れを捉えた。
「―――待てやコラ」
肉体が思考というプロセスを破棄。無駄な時間を使う前に反射で行動を開始。
軽巧により羽毛の如く軽くなった身体が弾丸のように飛び出す。
結果、1秒もかからず決め台詞を叫びながら射線へと割り込んでいた。
(……どーすっかなぁ)
加速する時間の中で、宗吾はふとそんな事を思う。
それは銃撃への対策をしていない―――などという事ではない。
近くに盾に出来る物は無いが、
マッスルドリンコを限界ギリギリまで飲んでいる事も合わせて、機関銃の斉射を受けたとしても全力で防御を固めてこの身を盾とすれば少女たちが退避する時間は十分に稼げるはず。
その後で敵を全員纏めて斬ればいいだけの話だ。
向こうの質と装備、自身の戦力を比較してはじき出した判断。
相手に隠し玉でもない限り、間違いはほぼないだろう。
最悪、自分が死んでも後ろの3人だけは確実に逃がせる。
しかしそれは。
(
もうここから立ち去ったのか、気配を全く感じないあの魔人を思って。
未熟に過ぎる自身の全て。至らない、全く足りていないものを思って。
(じゃあ…………進まないとダメだろ、なあっ!!)
己が今成すべき、否。なさねばならない事を決める。
あの男を斬るためには、これくらい出来なければ話にもならないのだから。
「――――――ッ」
内息―――丹田で練り上げた
脳の回路、そのギアが跳ね上がり意識は更に加速。
刹那よりも僅かな六徳の先、より細い虚の瞬間、それよりも遥か果ての浄の境地へと到達。
僅かな気流の変化、軋む筋肉の音、漂う硝煙と血の匂い、五感で感じる全てを認識し掌握。
その中で、全ての照準が己へと据えられた事を理解し。
宗吾は大きく踏み込み、刀を振る。
| 金城湯池*6 | 防御 | 技相性。武器で受ける防御技。 格闘攻撃のみならず、射撃攻撃のダメージに対しても、 受けに使用した武器の威力分ダメージを軽減する。 本来は抜刀術に分類される特技。 |
1つ、2つ、3つ、4つと超音速で飛来する殺意の礫。
その数だけ閃刃が疾り―――刃鳴となって悉くが散った。
(―――出来た、か)
遍く剣技における到達点の一つ、『
いつかものにしたいと願い、修行と試行錯誤を続けて10年以上。
遥か遠い最前線の世界にて。今ここに―――絶技開眼。
「…………は?」
呆けた言葉を出したのはチンピラか、千束か、たきなか、それとも全員か。
秒間数十発で撒き散らされた銃弾が、1発の例外もなく斬り払われたという現実に理解が追い付かない。
避けるなら分かる。防ぐのも分かる。
そのくらいであれば覚醒者なら珍しくも無いし当然のようにやる。
装備や魔法によって反射する事も常識レベルの事だ。
しかし、だからと言って。超音速の弾丸全てを刀1本で斬るなどという事は話が別だ。
そのような行いは無駄で無謀で無理があり。思考に空白が生まれる、生まれてしまう。
「間抜け面してんじゃねーっての」
そしてその隙を、更なる領域に踏み込んだこの剣鬼が逃すはずもない。
―――《急所》―――
―――《大地鳴動》*7―――
| 乱入剣*8 | 格闘攻撃 | 敵複数体に1~5回の物理属性ダメージ&PANIC効果 |
無防備を晒す敵へ、急所を狙った会心の剣が襲い掛かる。
装備による耐性を火力で無理矢理突破して文字通り数人が吹き飛ばしながら。
剣鬼、八瀬宗吾は仮面の下で絶叫した。
「お前らぶっ殺すけどいいよな!! 答えは聞いてねぇっ!!」
「せめてキャラは統一しなよ!!」
思わず千束は突っ込んだ。
◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾
ヒマつぶししてた魔人と出会った事で新たな域へと足を踏み入れる。
なお、チンピラたちは30秒も持たなかった。
今回の件でリコ・リコの面子と知り合ったり、謎のタイガーマスクから業魔殿への紹介状もゲットした。
・若槻美野里
今回はお留守番。借りてる部屋でノンフィクション勧誘ビデオを視聴中。
相方がスクワットしつつ観てたのを気にしなくなった自分が別の意味で怖くなった。
・錦木千束
王蛇なのに刀振り回すわ電王の台詞叫ぶわキャラぶれし過ぎでは?
・井ノ上たきな
仮面ライダー王蛇は刀を使うのだと刷り込まれてしまった。
・ヒマつぶししてた魔人
実はほとんど会話らしい会話をしていない。
宗吾「隣座っても? 迷惑料代わりにこれ奢るから(安ビールとホットドッグのセット渡す」
魔人「……いいだろう」
彼が宗吾をどう思っていたかは不明。
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更新遅くなって申し訳ない。
次回は掲示板回を予定。