真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』のBGM推奨。
―――それは何時かの周回の話。
もはや覚えている者も少ない過去の世界。
後の総生徒会長、あるいは征異大将軍と呼ばれる超人。
地上に降りた神の1人、“峰津院都”が各周回、各方面の人材と情報をかき集めていた時期。
たまたま欧州方面の情報収集とコネクション構築が上手く行き。
たまたま世情と周囲の後押しを受けやすい環境が噛み合い。
たまたま国家間の政治的思惑が都にとって都合の良いもので。
まったくの偶然と幾重にも幸運と奇運が重なって。
本来はずっと先の周回で作り上げる筈だった決戦学園都市須摩留。
その部分的モデルを日本ではなく地中海のとある島に建設する事となった。
後の
欧州方面の人材及び脅迫材料や技術を獲得するために用意された巨大な釣り場。
無制御の混沌が齎す可能性を探る為の下書きにして穴だらけの急造品。
その名を<エリューテリア>。
ギリシャ語で“行きすぎた自由”の意味を冠した、地中海に浮かぶ帝都の姉妹都市である。
そして幾つかの小競り合いや横槍を乗り越えた建設からそれなりの年数が経過して。
表向きはリゾート地にして<A.G.E>や<モーリアン・コーポレーション>を始めとする幾つもの大企業が軒を連ねる最先端技術都市。
裏ではあらゆる勢力が血で血を洗う抗争を繰り返す、ヨハネスブルグも真っ青な犯罪多発都市。
そんな著しく乖離した二面性を持つ、実に自由過ぎる欧州の新たな火薬庫と化していた。
―――例を挙げるならば。
例えば、元々住んでいた現地民と外から入ってきた住民たちとのいざこざ。
例えば、この都市の在り方を危惧したキリスト教、あるいはメシア教の介入。
例えば、利権に1枚噛もうとするマフィアと企業子飼いの兵隊たちとの暗闘。
例えば、逃げ込んだ賞金首を捕まえようとする
一日の事件発生数は数え切れず、誰もがそれを当たり前のように受け入れる日常。
綺麗な表通りから一歩裏道に入れば死体となって転がってもおかしくない非日常。
開発から取り残された旧市街は無法者の巣窟と化し、警察は素知らぬ顔をするだけ。
高級店に押し入った強盗が返り討ちに遭い、ブタ箱か精肉所に行くのも珍しくない。
その混沌具合は“地中海の香港”、“地上の楽園にして地獄”と称されるほどであった。
ある意味で当然の話である。
都市運営のノウハウも人材も根回しも何もかもが不十分。
オマケに言葉も人種もバラバラな異国の地である。
如何な超人であろうとも、完全な制御など不可能に等しい。
一応は都市の体を成して、なおかつリゾート地として成功したのは偉業とさえ言えるだろう。
しかし、無駄に終わった訳でも無価値であった訳でもない。
端から失敗前提、試しに作ってみただけの箱庭だ。
どのような事になろうと問題は無いし、最終的に本命に活かせれば良いのだから。
実際、ここで得られた参考データは須摩留の運営だけでなく“
仮に
後の世界における聖華学園の設計思想も違う物になっていたかもしれない。
―――そして。
八瀬宗吾という男がインデックスのマーキング対象となったのも。
各周回における平均値を大きく上回るほどレベルを上げたのも。
魔人、吸血鬼、
このエリューテリアが観測される限り初めての事であり―――。
その最期は■を斬らんとする“剣魔”たちとの死闘だったと記録されている。
・
・
・
「カハッ!」
相対する敵手―――何時かの己を前にして宗吾は獰猛な笑みを浮かべた。
脳裏を過るのは以前千束から聞いた話。
曰く、自分の同位体であるメスガキ剣士から襲撃を受けたという件。
相手が推定レベル90代だったと聞いた時は思わず地面を叩いてしまった。
今回の場合は同位体そのものではなく、過去のデータから再現された偽物だろう。
あの須摩留が何らかの形で関わってると思わしき空間なのだ。
それくらいの出鱈目があってもおかしくはない。
そして―――再現精度は相当高いらしい。
先程の
発しただけで死を錯覚させる気迫は紛れもない本物だ。
つい先ほどまで戦っていた
(さて、どうする)
まずあり得ない
自分の知らない自分、異なる道を歩んだ限りなく近くて遠い己。似て非なる剣客。
一介の剣士として、どれほどの物なのか試したくて仕方がない。
(――――逃げるか)
だが、感情から切り離した冷静な部分は逃走を訴えている。
心底残念であるが、確かに今はそれどころではないからだ。
―――最優先目標は美野里と合流、そしてこの異界から脱出。
―――敵陣の真っただ中で後先考えず暴れ回るなど愚の骨頂。
―――斬り合ってる最中に増援によって囲まれる可能性が大。
―――最善は今すぐ懐の煙幕弾をぶち撒けて、相手がこちらを見失った隙に離脱。
―――瞬殺出来る程度の相手ならばともかく、無駄な戦闘と消耗は避けるに限る。
そもそもこの広大な異界を探る
美野里を探す事さえ難しいのに余計な事をしている暇など無い。
そんな言葉が次々と意識に浮かび上がってくる。
全くもってその通り、言い返せない正論ばかり。
だから、1秒ほどじっくりと熟考して―――。
「うん………やっぱ斬るか」
己の中に浮かんでいた小賢しい考えを全て一刀両断した。
無論、理由はある。
なるほど、普段なら確かに逃げの一択だった。
特に今は単騎かつ防具も使えないのだからより慎重に動かねばならない。
油断しても問題無いと断言できる程厚顔な存在になった覚えもなかった。
……しかしだ。
そもそもの話としてこの世界は敵の庭、あるいは胃袋の中である。
何処へ逃げようとも瞬時に座標を補足されるだろう。
でなければ異界に突入直後の熱烈な歓迎はあり得ない。
具体的にどれほど見られているかまでは不明だが、楽観視は自殺行為だろう。
逃げた先で回り込まれ、数の暴力で押されるという間抜けな展開は避けたい。
そして、何よりも。
『――――、――――――』
どのような手段を用いても追跡し、立ち塞がって斬りに来る。
背中を向けて走る事自体が致命的……勘がそう囁いて来るのだ。
「こう言っちゃなんだが……敵に回すとめんどいな
故に斬る、道を斬り開く為に。
ほぼ無意識に
刀を抜き放ち、ほぼ同じタイミングで踏み込む。
―――鋼と鋼が交差して火花が生じる。
『―――斬る!』
| 《蛇ニラミ》*1 | 敵からの先制攻撃を高確率で阻止する。 心の一方の変形。剣気を叩きつけ機先を制する技術。 |
立ち位置が入れ替わるように初撃を繰り出した後、先に動くのは戮刀。
―――ガリッ、と何かを噛む音がした。
| 「至■のひ■■」*2 | 戦闘中に使用すると、プレスアイコンが3つ増加する。 深夜テンションで料理の試作をしていたら何故か出来ていた一品。 残念ながらレシピはまったく覚えていなかった。 これを作った吸血姫は再現の為に何度も研究を重ねていた。 |
「―――!?」
戮刀の速度が跳ね上がった。
一挙一動が別物となり、刹那の連続行動を可能とするまでに至る。
宗吾の顔に驚愕の色が浮かぶが無理もない。
それだけの出鱈目だったからだ。
連続行動を可能とする能力や技術自体は何度も見て来た。
それぞれの使い手と戦った事も何度もある。
だから、それ自体は驚くに値しない。
脅威であっても理解出来るし受け入れられる。
問題は―――それを
そんな効果がある道具など聞いた事もない。
掲示板や検証勢との交流で情報収集を続けているが、ネタでさえ存在しなかった。
一体誰がそんなものを作り上げたのか。
少なくとも製法がバレれば材料の高騰はまず間違いないだろう。
そして―――驚愕はそこで終わらない。
| 《気合い》*3 | 次の物理型攻撃の威力を2倍以上にする。 |
| 《集中》*4 | 指定した次の行動1つの 誰でも出来るごく普通の戦闘行動。 |
| 《ブラッドラスト》*5 | 武器用付加スキル(手番消費無し)。 使い手のカオス属性値に等しいHPを支払う。 ターン終了まで、攻撃の威力にカオス属性値を加える。 |
戮刀の目が真紅に染まり、発せられる圧が一気に膨れ上がった。
血の薫りが入り混じる気迫。人の形をした“魔性”特有の気配。
それらに呼応するように、刀身も薄っすら瞳と同じ色を帯びる。
「ッ―――まさか」
何かを察し、目を見開く宗吾へ返答代わりの殺戮刃が閃く。
| 「備前長船」*6 | 攻撃力:145 命中:45 攻撃回数:2~4 追加効果:PANIC 体質の変化が影響し使えなくなった鬼神楽の代刀。 |
| 《双手》*7 | 通常攻撃を2回行う。 |
| 《会心》*8 | クリティカル率が上昇する。 |
手始めに繰り出された6つの剣閃が宗吾の肉を抉り骨を砕いた。
まるで獣に噛み千切られた痕のように、斬られた部分が爆ぜる。
圧倒的な膂力とそれを制御する身体操作が融合した
血飛沫が弾けて色さえ残さずに消え失せる。
単なる武器攻撃にてそれを成すという異常。
格上であってもただでは済まないそれを受けて―――。
「やるじゃねぇかぁっ!!!!」
| 《無刀取り》*9 | 素手で相手の刀剣を奪い取る柳生新陰流奥義。 大成功時、相手の刀剣をそのまま叩き折ることが出来る。 判定に成功時、相手の武器を奪い、失敗すれば離す。 どちらにしても敵の刀剣による攻撃を止める。 |
| 《達人の見切り》*10 | 敵からのクリティカル攻撃を100%受けなくなる。 カラクリ帽子の機能を技で再現した。 |
続く7つ目の剣閃を
連撃の切れ目、隙にもならない瞬間に自らの動きを捻じ込んだのだ。
例えるなら回転するミキサーに手を突っ込む様なもの。
「
だが成し遂げた。
片手真剣白刃取り……そう呼ぶにはあまりに不格好であろうとも。
掌に食い込んだ刃は容赦なく肉を抉り、傷口から血が滴り落ちて地面を濡らしている。
だが、それだけだ。
命には届いていない。致命には至らない。
斬り抉られた部分も痛みはあれど戦闘に支障はきたさない。
衝撃で脳を揺らし鈍らせる効果も素で耐えきった。*11
如何に強力無比な業であろうとも、威力があるだけならやりようはある。
『……っ』
とはいえ、敵もさる者と言うべきか。
止められた瞬間、力の向きと角度を変えて得物が奪われる事を防いだ。
刀自体も相当な代物なのか、側面から力を加え破壊を試みてもビクともしない。
「じゃあ、こっちの番だ」
だが、戮刀の体が
連撃の途中で動きを止められた事によるほんの僅かな隙。
刀を折られない事に注力し、次の動きへと繋げられない。
よって呼吸は続かず―――攻守が切り替わる。
「―――ぶった斬る!!!」
| 《個人目標:信念》*12 | 敵味方すべての相性特性を与える一時的な効果を解除する。 ⇒貫通(D2仕様)を付与する(回数制限あり)。 |
| 《居合一心》*13 | 敵全体に物理属性の打撃型ダメージを与える。 攻撃成功時、自身をチャージ状態にする。 |
| 《会心ブースタ》*14 | クリティカル率及びクリティカル威力上昇。 フツヌシの武威を取り込み《会心》を昇華させたもの。 |
零距離での斬殺宣言と連動し、大地を粉砕し亀裂を入れるほどの震脚。
そこから得られた運動エネルギーを余すことなく剣に乗せて斬り上げる。
この姿勢と距離であれば外す方がむしろ困難なほど。
鬼神楽の刃が刀ごと抑え込んだ腕に食い込み、予想以上の硬さで僅かに抵抗されて。
「シィイイイッ!!」
果たして―――鮮血と共に、戮刀の両腕が二の腕から両断された。
斬り飛ばされた腕が宙を舞う。
勢いのまま、刀ごとくるくる回りながら放物線を描く。
その下で呼吸を奪い取った剣鬼は止まらず次の行動へと移っていた。
自由になった手で刀を両手で掴み、選ぶのは上段の構え。
繰り出すのは回避困難にして得意とする必殺剣。
反射でなければ抜ける故に
意識が極限まで加速する。
視界の端で宙を舞う腕が静止するほど世界が遅延する。
この瞬間、宗吾だけが認識する時の狭間にて呟かれるその名は。
「――――雲耀」
| 《雲耀の剣》*15 | 一呼吸の十万分の一の時間で切り下すと言われる神の剣。 回避や防御に-80%のペナルティを与える。 物理と風(疾風)相性のダメージを与え、後者は全体に拡散する。 どちらかでもダメージを受けた場合は即死する。 ⇒これまでの戦闘経験を反映し最大強化済み。*16 ―――まだ一歩踏み込めていない。 |
| 《物理・銃撃貫通》*17 | 物理・銃撃属性で攻撃する時、 耐性・無効・吸収を無視してダメージを与えられる。 ヤマタノオロチより奪い取った能力の1つ。 |
振り下ろされたのは神速の斬撃と不可視の衝撃による2重攻撃。
防ぐ術のない戮刀の肩口から腰にかけて巨大な斬傷が刻まれる。
『オ、オオオオオ―――ッ!!』
―――だが死んでいない。
かろうじて反応し、後方へ自分から跳んで殺傷範囲からギリギリで逃れた。
だから真っ二つの死体となって転がっていない。
凌がれて、手番が回る。
『ゴフッ!』
ガリガリと足元を削りながら急制動を掛けると同時に、戮刀の口から夥しい量の血が零れる。
致命傷だけは避けた。だが刻まれた斬撃と両腕の欠損は間違いなく重傷。
ちょうどすぐ傍に落ちて来た刀を拾い上げる事も出来ない。
もう1、2太刀でも受ければ終わりなのが見て取れた。
というか、剣士が両腕を失ってしまえば戦闘力のほぼ全てを消失する。
稀に足刀やら気当たりだけで斬ってくる変わり者もいるが、おそらく戮刀はそうではない。
詰みである……ただし、
『――――――――ッ』
| 《小治癒》*18 | 手番開始時、HPが【体】分回復する。 これは体質でありスキルとして数えない(裁定) |
両腕の断面から肉が盛り上がり、急速に再生を開始した。
そして普通ではない事が、肉持つ者ではありえない事が起きた。
欠損部位の自動再生という物質的な制限に喧嘩を売る現象。
いかに覚醒者であろうとも、適切な治療も無しにはあり得ない光景。
人間の再生は情報生命体である悪魔が行うのとは訳が違う。
最低でも回復魔法なりアイテムなりを使用して時間をかける必要がある。
でなければ専門の装置や技術は不要な物に成り果てるはずだ。
もちろん例外はあるが、少なくともそれに該当するような状況でもない。
しかし現実として。
戮刀は足元に転がっていた刀を拾い上げ、口元の血を手で拭っていた。
斬られた黒衣の袖部分、そして今も地面に転がる両腕が夢でも幻でもない事を告げている。
「……やっぱりか」
その光景を見届けた後、宗吾はどこか得心が行ったように口を開いた。
「お前、“
そして戮刀―――胸の斬傷も塞がりつつある剣士の正体を看破した。
| 擬人/魔族 | Lv65 | 相性:全体的に強い 破魔・呪殺・神経・精神・魔力無効 |
―――
悪魔ではない、太古より存在する生体吸血鬼の血を受け入れ強靭な肉体を得た下僕。
以前阿修羅会が
アストラル・シンドロームの一件では2度受血した連中と交戦した経験もある。
―――人体を斬ったにしては違和感のある手応え。
―――体躯に見合わぬ恐るべき膂力と人にあるまじき再生力。
―――夜の匂いを纏う魔性の気配と血の如き真紅の瞳。
これだけ情報が揃えばよほど鈍くない限り気付ける。
以前聞いた各周回における自分の平均レベルを大きく超える事にも納得がいく。
鬼神楽を使っていないのは人から半ば外れた影響で“波長”がズレたからだろうか。
色々と納得して、しかし一つだけ分からない事がある。
「なーんで吸血鬼の下僕なんてやってるんだか。
俺なら腹切るか大元ぶっ殺して自由になってるだろうに」
受決とは血を介した呪縛でありある種の契約でもあるからだ。
血を入れた者は主に魅了され、いかなる命令もこなす忠実な駒と化す。
それでも、おおよその吸血鬼は人間を蛆虫としか見ていないので隙だらけな事が多い。
その隙を突いて自決は勿論、抗ヴァンプ剤を服用し主殺しを成した例は何度も聞いた事がある。
ヤクザたちに捕まって強化アイテム扱いされていた原因もそこにあるだろう。
だから。
八瀬宗吾という男であれば。
例え世界が違えど、剣の鬼として生きているならば。
間違いなくどちらかを実行に移しているはずだ。
人を外れ無様な剣を振るうくらいなら死んだ方がマシであるし、可能なら逆襲する。
そうしていないのならば、まさか自分から進んで受け入れたか?
……それも考えにくい。
ほんの数合であろうと刃を交えて分かった事もある。
戮刀の太刀筋には確かな術理があった。
人外が振るう事を前提に構築された理論があった。
考えて、魂で動かし、肉で動けるようになるまで積み上げた研鑽があった。
ただ人外の力だけを求めた剣使いにはあり得ない重さがあった。
それまでの多くを失い、それでもなお走り続けた軌跡があった。
だから、酷く矛盾している。
その疑問を解くべく思考のリソースを回そうとして―――。
「……いや、野暮か」
それ以上の推測を打ち切った。
どれだけ考えても正解かさえ分からない事だから。
何よりも剣士同士―――斬り合った方がまだ理解出来るというもの。
対する戮刀の返答は一つだけ。
| 《夜の力》*19 | 自身の 夜の王者とそれに連なる者にのみ許された最上位の異能。 戮刀の場合、自らの血をある程度流す必要がある。 |
| 《集中》*20 | 指定した次の行動1つの 誰でも出来るごく普通の戦闘行動。 |
キーワードと共に身体から流れ落ちた血液を
例えるならば方角を指し示す羅針図、あるいは踏み込んだ者を斬り殺す境界線だろうか。
いずれにしろ、切り札であろう事は間違いない。
「―――いいな、最高だ」
口元を歪めながら推測する。
宗吾の知識にはない、おそらく生体吸血鬼由来の異能。
迂闊に踏み込めば死ぬしかない、構えと似た系統の何か。
意識の端に浮かび上がるのはリベンジすると誓った魔人の姿。
この状況で出て来るという事は、己の勘が形を変えて答えを出したという事。
狙いは回避からのカウンターと見ていいだろう。
(攻めずに一旦回復―――は論外。後手に回れば押し切られる)
脳内で時間を斬り刻んでシミュレートする。
これまでの戦闘経験全てを参照し、幾百幾千の術策を叩き出す。
その中から選ぶとすれば―――。
「やっぱ前のめり一択だよなぁっ!!」
乗る以外ありえない。
それ以外の選択は剣士ではない。
音より疾く、光さえも追い抜かんとばかりに踏み込んで、最速の絶技が放たれる。
狙うは頸、吸血鬼ないし不死者の普遍的弱点とされる部位。
八瀬宗吾がこれまで繰り出してきた中でも最高速度の一閃。
対する戮刀は
羅針が初動を感知し、集中した意識で斬撃を捉えるがそれで精一杯。
純粋に速過ぎる。人外の肉体を以てしても対応不可能。
『―――そうだよな、俺
それでも戮刀は避けた。
斬撃に合わせて側方宙返り―――首の半ばから肩の肉がごっそりと抉られる。
その程度で済ませた。かの魔人でさえ通じた業が事実上不発に終わる。
上下逆転した視点で互いの目が合う。
そして、側転の勢いを利用し戮刀が返し技を放つ。
狙うは剣を振り終えた直後の死に体。
どれだけ早く立て直しても間に合いはしない。
「俺も使えるんだよ
その前に、一拍遅れてやってきたカマイタチが体を上と下に両断した。
空中で反撃を行おうとしていたので全くの無防備で受けた。
故に何も出来ず、戮刀は泣き別れした下半身と共に後方の建物へと激突する。
「さっきのお返しだ、驚いたか」
保険として
かつて師匠から喰らい、その後違う意味で喰われた色々な意味で思い出深い業の
サーヴァントの再生力でも追いつかない損傷を間違いなく与えた。
確実に命を奪う太刀筋だった。
『っぁああああああああ!!!!』
当然の如く食いしばる。
精神力で意識を繋ぎ、下半身を引き寄せて無理矢理接合する。
そして意識が途絶えない以上、反撃はまだ続く。*23
「だろうなぁっ!!」
分かっていたと言わんばかりに宗吾が咆えた。
この程度で止まらないと確信していた。
ゆらりと立ち上がった戮刀へと空いた右腕を伸ばす。
狙うは無刀取り。
次こそ初太刀で止めてから斬り殺す。
(雲耀が来ても止めて斬る! 兜割りの類なら避けて斬る!!)
戮刀の次なる一手に全神経を集中させて―――。
| 《瘋■剣》 | 敵1体に電撃相性で攻撃する。 対象は回避・防御・反撃を行えない。 ■ターンの間、自身の■■■を■■■■■させる。 とある時代に無双を誇った奥義の一つ。 人の形をした修羅に敗れた鬼神の秘剣。 サーヴァントとしての肉体により行使が可能となった。 |
空間を撓ませるほどの雷を帯びた一閃が、止めようとした宗吾の右腕を斬り飛ばした。
「…………使えんのかそれ」
自分も知る、しかしいまだに使いこなせない業を受けて。
内臓を焼き尽くす電流により1度は絶命しながら、思わずそんな言葉が零れた。
『もう、一発……!』
手番が回り、僅かに回復した体力を全て燃料に変えて再び雷光が閃く。
進行方向の全てを破壊する、雲耀に匹敵する速度の刺突。
右腕を失い防ぐ術の無い宗吾の胸を穿ち―――そのまま後方の建物数十棟をぶち抜いていく。
援軍に駆けつけていた残滓共も途中で巻き込まれ消し飛んでいく。
幾重にも張られていた悪辣なギミックを踏み潰して蹂躙していく。
複数体用意されていた須摩留謹製対悪魔マシンが破壊されていく。
何もかも破壊し尽くすその姿はまさに鬼神と呼ぶに相応しかった。
「―――カハッ!」
それでも。
「ハ、ハハッ、ハハハハハハハ!!」
それでもなお。
「すげぇなおい! もっと魅せてくれよテメェの剣!!」
剣鬼は終わらない。
心臓を貫かれ、全身血達磨になろうとも哄笑を続ける。
貪欲に自らを殺そうとする業を奪い取ろうとしている。
再生能力など持たぬというのにその姿は下手な不死者より不死身めいていた。
―――故に、完全なトドメを刺すべく戮刀が最後の業を開始する。
『行くぜお前ら……!!』
| 《 | 万能相性攻撃。 ランダムに1体にダメージを与え、これを10~12回繰り返す。 本来はDDSスキルと呼ばれる、悪魔たちによる一斉攻撃。 戮刀の場合、絆を結んだ者たちの業を剣で再現して放つ。 |
例えばそれは装甲の隙間を穿つ正確無比な一撃。
例えばそれは風のように捉えられない変幻自在の一撃。
例えばそれは闇の中から出でて喉元へと喰らい付く一撃。
例えばそれは自らの怒りをどこまでも響かせる憎悪の一撃。
それは、戮刀と絆を紡いだ者たちの一撃だった。
「――――、――――」
右目が潰れ臓腑が抉られ全身の骨が粉々に砕かれて行く。
感覚は遠く、色彩は意図せず灰となり肉体と意識の乖離が始まる。
紛れもなく
数秒後にその意識は永遠の闇へと落ちるだろう。
―――それでも。
現状の一切を無視し、唯一残った目で見極め続ける。
業に込められた想い、歴史、研鑽……文字通り身を以て魂に刻む為に。
「――――――ぁ」
瞬間、生と死の狭間でいつかの
「私は貴方を縛るつもりなんてありません。
故郷に家族や友達だっているんでしょう?」
夕暮れの砂浜に長い銀髪を靡かせた少女がいた。
「こんな街でも住んでいれば愛着が沸くのさ。
お前はどうなんだソーゴ」
どこかの屋上で酒を飲みながら微笑む金髪の女がいた。
「旦那様! 今日は趣向を変えて白ニーソにしてみました!!
どうですか興奮しますよね!!?」
色々と際どいメイド服を着た黒髪の女がいた。
「申し訳ありません我が主。
その……またお客様を吹き飛ばしてしまいました」
悪質な客を意図せず店外に殴り飛ばした白髪の女がいた。
他にも剣の魔王や対機・新陰流の使い手がいた。
狂気に満ちたエクソシストや恐るべき魔人がいた。
偽鍮の王を名乗る強くて暑苦しい老人がいた。
そして。
「剣士の至上命題は斬る事と考えている。
だから俺は手始めにこの■を斬れるようになりたい。
―――ただそれだけだ」
人としての全てを斬り捨てた求道の剣魔がいた。
「――――ああ」
一瞬で弾けて消えた泡沫の夢。
記憶にはほぼ残らず―――しかし確かに“観た”。
自らの血肉として
「感謝するぜ色男―――おかげで掴めた」
どれだけ修業を重ねようとも。
どれだけ強敵と戦い経験を積もうとも。
どれだけ装備を強化し使いこなそうとも。
続けて来た年月の差は大きい。
若過ぎる故に完成に至らない。
だから、いつかの記憶を血肉に変えてそれらを補う。
この状況、この敵だからこそ可能だった反則技。
何となく出来る気がして命を賭けて挑戦してみた。
美野里が見れば激怒するだろうが―――賭けには勝った。
「返礼の時間だ、受け取ってくれ」
残された左腕で鬼神楽を握る。
今使うべき業は一つのみ。
―――ここに、新たな秘剣が開帳される。
そして、あまりにも静かに決着がついた。
広がっていた血陣ごと、戮刀と呼ばれた男の再現体は欠片も残さずに斬滅された。
一体何が起きたのかは、成した剣鬼以外理解出来る者はこの場にいなかった。
・
・
・
「……………いてぇ」
地面に突き立てた愛刀を杖代わりにして体を支える。
満身創痍、どころか死の一歩手前の有様。
雑魚の一撃を受けただけで死んでもおかしくない状態であった。
途中から斬り合いが愉しくなって本来の目的を半分忘れた罰かもしれない。
「傷、塞がねぇと」
戦闘の余波で他の敵も仕掛けも消し飛んでいたのが幸いした。
応急手当程度なら出来る時間はあるだろう。
全身に気を張り巡らせつつ、手持ちのアイテムと合わせて体力の回復を図る。
「右腕は……まあいいか。何とかなるだろ」
ただし、欠損した部位はそうはいかない。
プラプラと消え失せた右腕を振りながらそう呟く。
戮刀とは違いって再生能力やそれに類するスキルは持っていない。
斬り落とされた右腕を探そうにも、瓦礫の山の中から見つけられるとは思えないし時間もない。
最低限の処置を終え、ボロボロの体に鞭打って歩き出そうとして―――。
「お前正気ニャ? そんな状態でよく動けるニャア」
「流石は美野里が選んだ男……と言うべきかな」
背後から掛けられた2つの声が宗吾の足を止めるのだった。
威力・命中率の上昇。
「特技の鍛錬」 ※誕生篇
HP/MPどちらのコストを使用するか選択可能。
次回は1ヶ月空けないようにしたいです。
ちなみに今回の戦闘は鬼滅から影響受けました。
おかげで書き直した所が(