真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
―――夢を見る。
ほんの数ヶ月前、何処にでもいる十把一絡げの覚醒者だった頃。
リーベラとかいうマイナーな悪魔だか悪魔人間だかに成り果てる直前。
顔と体と酒の強さ以外にこれといった取り柄のない“弱音ハク”という女だった時の。
「―――今の時代、今の世界においてその神は彼の救世主の原型とも言われている」
まるで自分に言い聞かせるように、退廃的な雰囲気を纏う金髪の美男子がそんな事を言った。
「東方の死と再生の神。狂気と酩酊を運び込む魔術と酒の神。人の身から生まれ変わった神。
そんな複雑極まりない
手にしたワイングラスを揺らす。
中に注がれた琥珀色の液体が光を乱反射させて様々な色に煌いた。
「ギリシャではザグレウス、ローマではバッカス、リーベル。エトルリアではフフルンズ。
少し離れたエジプトではオシリス、果てはインドのソーマと結びつくまで至った。
……あるいはその逆で起源が“そこ”だとする説もあるね」
中には彼の最高神こそ始まりだとする異説もある、と付け加えて男はワインを飲み干す。
その瞳に浮かぶのは歓喜や呆れ、あるいは感慨といった様々な色が浮かんでいた。
「―――結局の所、本当の事は分からない。
勝者によって歴史は都合よく書き替えられ、本来の姿は時の果てに忘れ去られた。
今となっては至高の座に至った事があるのかさえ曖昧だ」
ボトルから再びワインを注いで飲み干す。
自棄酒のように、嫌な事を忘れるように。
ただ愚痴を吐くように朗々と話し続ける。
「―――だからこそ戻りたい。かつての在り方を取り戻したい。失った栄光を再び手にしたい。
そう願うのは当然の話で権利であると私は思っている」
言葉に熱が籠った。
大神の子として定義され、人から神に生まれ変わった存在という型に嵌められた。
かつてあった信仰ごと取り込まれあるべき形を喪失した。
その屈辱、悲憤、絶望はいかなものか。
「同時に、これは今を生きる君にとって関係のない話だ。
ただの一般人、ただの覚醒者、どこにでもいる誰かの人生に必要な物ではない。
遠く離れた異国の、遥か昔から繰り返されてきた神話の一つでしかない」
男は体ごと視線を隣の席に座る己へと向ける。
どこまでも真摯に、あるいは情熱的な思いを込めて。
まるでプロポーズをするかの如く。
「だからこそ君に願う。我が半身、我が片割れ、我が知恵たる君。
この手を取り、共にかつてへと旅立って欲しい。
君の全てを―――私にくれ」
この時、何となくであるが思った。
このまま差し出された手を取ればどうなるか。
―――死ぬ? それとも消える??
少なくとも自分は今までの自分ではなくなるのは間違いなかった。
致命的なまでに何かが終わって変わってしまう。
―――だけど、というか、そもそも。
「さっきからごちゃごちゃ言ってるけどさぁ―――おにーさん、ここ居酒屋だよ!
ほら飲んだ飲んだ!! 私と飲み比べで勝ったら全部聞いてあげるから!!
あっ、この高そうなワインちょーだい!!!!」
「え???????」
私は酒が飲みたかったので、許可をもらう前にワインをラッパ飲みした。
そこから数時間ひたすら飲み続けて。相手が吐いて気絶しても飲ませて。
やがて空が白み始めた頃、店員ごと完全に酔い潰し敗北を認めさせたら。
「我が知恵たる君よ……いざぁっあうええええええ!!」
「―――――ふえっ?」
そして気づけば―――私はナ■ビ■ノなんてものに成ってしまっていたのだ。
説明聞かないの、ダメ。ゼッタイ。
・
・
・
「美野里ぃっ! 人型になって分かったけど―――巨乳なんて邪魔だニャア!!
重いし動きにくいし肩凝るし、良い事なんてぜんっっぜん無かった!!!!
だからそのぶら下げた見苦しい虚乳捨てて元のペチャパイに戻るニャ!!」
「ンニャァアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
「ハイ撤収」
「ふむ、あのような手札も持っているのか」
持たらざる者全てを敵に回す発言をスルーしつつ、宗吾たちは煙幕弾を投げ込んで逃げ出した。
「聞きたまえ美野里! 元が動物の我々には少々理解しにくいのだが!!
君は―――尻から太腿にかけての肉感とラインが最高らしいぞ!!!!
よく盗撮写真を撮っていた子が鼻血を垂れ流しながら力説していた!!!!」
「ワオオオオオオオオオオッッ!!!!」
「ハイ撤収」
「今のでおおよその耐性は抜けたニャー」
乙女心を刺激する発言をスルーしつつ、宗吾たちは煙幕弾を投げ込んで逃げ出した。
「脂肪の代わりに夢をたくさん詰め込んだんだな……か わ い そ 」
「うおおおおおっ!? やべぇちょっと掠った!! すげえ伸びたぞ今の!!」
「マジの煽りには一番反応するのニャア」
「いや、彼が言ったからではないかな?」
刃を振り回しながら近づいて来る
・
・
・
「じゃあ作戦会議な―――このまま放置すんのってあり?」
「実に魅力的な提案だね」
「ぶっちゃけ賛成したいニャア……」
崩落したビルの影、周囲から死角となる場所で宗吾は開口一番にそう告げた。
相手の強さに気圧され飛び出した弱気な発言……ではない。
合理的かつ堅実な考えから導き出された選択肢である。
「美野里の様子はどうだ?」
「全っ然変わってない。
こっちがちょっかいかけない限りずっとああやってるニャ」
シャノワールが隙間から顔を出し、それなりに離れた距離にいる美野里の様子を伺う。
目に入るのは抉れ焼けた大地の中央で、叫びながら踊り狂う彼女の姿。
正確に言えば、一面に転がる四騎士の残骸を執拗に踏み潰す姿だった。
「流石に死体蹴りまでしてるのは初めて見た」
「あれ見ると普段のキレ方がだいぶ優しく思えるわな」
「コユキ踏みつける時も意外と手加減してたしニャア」
彼らにとってありがたい事に、ヘイトは未だに死んだ仇敵たちへ向いたままらしい。
でなければレベル100の怪物となった美野里を相手に情報収集が成功するはずもない。
何度煽りながら接触しても追って来ないのはその証だった。
「けど―――
覚醒直後のイヤボーン状態とか新フォームお披露目回みたいな一過性のもんのはずだ」
「暴れるだけ暴れて、そのうちスッキリして元に戻る可能性が高いニャ。
こっちはそれまで遠くで見守ってればオッケー」
「確かにそれが一番穏便に済むパターンだね」
要は泣いてぐずる子と同じである。
時間が経てば経つほど疲れ始めて落ち着きを取り戻す。
ベースが肉持つ人間である以上、レベル以上の力を発揮し続けるのは不可能に近い。
それに、そもそもの話だが。
仮に戦うとしても、こちらは地力で劣る上に一人は隻腕かつ疲弊している。
抜けるだけの情報を抜き、途中で回収した装備やアイテムをフル活用したとしても勝ち目は限りなく薄いと言わざるを得ない。
戦力的にも心情的にも戦闘行為はなるべく避けたい所だった。
―――しかし。
「
このままだとたぶん、美野里が落ち着く前にぶっ壊れちゃうニャ」
現実はそう都合よく行ってはくれないものだ。
―――美野里が割れた大鎌を踏み躙る。世界が軋み崩壊が加速する。
―――美野里が折れた直剣を踏み砕く。世界が軋み崩壊が加速する。
―――美野里が砕けた大弓を踏み潰す。世界が軋み崩壊が加速する。
―――美野里が焦げた天秤を踏み抜く。世界が軋み崩壊が加速する。
この異界を構築する解析機関は既に
あらゆるリソースを空間維持に注ぎ始めたが修復がまるで追いつかない。
原因はただ一つ。
「カーリーの伝承、
「世界最古のテヘペロで有名なあれだね」
曰く、アスラとの戦いに勝利したカーリーが歓喜の踊りを始めると、そのあまりの激しさに大地が砕け始めた。
曰く、夫であるシヴァが世界の滅びを防ぐべく、彼女の足元に伏せて身を差し出し大地の代わりに踏み続けられた。
曰く、正気に戻ったカーリーは暴走した気まずさからその長い舌を出して戯けてみせた。
故にカーリーは
最高神以外に止める術を持たない、正真正銘最高位の女神とされるのだ。
これはその再現。カーリ―の力を宿す彼女が暴走しているが故の現象。
美野里が怒り狂ったまま暴れるほどこの箱庭は終わりへと向かって行く。
「現実世界ならともかく、こんなちっぽけな異界じゃあ耐えきれねーと。
……ちなみに、もしこのまままぶっ壊れたらどうなる?」
「地上のどこかに落っこちればマシ。
最悪の場合は次元の狭間に落ちてお陀仏ニャ」
「マシの方でもセプテントリオンが襲来している現状、文明圏でなければ確実に死ぬだろうね。
分の悪すぎる
それはつまり進んでも退いても地獄という事であり。
「んじゃ、どっちも地獄なら前のめりに行く方に1票な」
「こういう時に怖気づけば大抵ロクな事にならない……行こうか」
「確認する必要あったかニャこれ?」
同意は一瞬で成された。
ここまで来て美野里だけを放っておくなどあり得ない。
そも、彼女を見捨てて速やかに異界から脱出するという選択を彼らは最初から放棄していた。
―――帰るのなら全員一緒でなければあり得ないから。
「3対1だがもっとハンデが欲しい所だね」
「頼んでみるかニャ? その前に死にそうだけど」
「会話不可能なら仕方ない」
決断し覚悟を決めて物陰から踏み出す。
その足取りに躊躇いは一切皆無で―――。
「―――ねぇ、もう1人くらい追加オッケー?」
今の今まで眠りについていた女の声がした。
・
・
・
「―――?」
こちらに近づく気配を感じ取り、美野里は
目に映るのは4つの人影。血の上った頭では
何度か邪魔をされた事さえ記憶していない
「さーて、しこたまぶん殴って頭冷やさせてやるニャアッ!」
| シャノワール | Lv70 | 相性:破魔吸収、全体的に強い、神経・魔力に極めて強い |
「君と喧嘩をするなんていつ以来だろうね」
| ブラッディ | Lv70 | 相性:破魔吸収、電撃無効、全体的に強い |
見覚えがないのによく知っているような獣人たちがいた。
「そっちが新フォームならこっちもだ。コスプレかどうかは試してみな」
| 剣士 | 八瀬宗吾 | Lv7■ | 相性:破魔吸収、物理・BS無効、全体的に強い |
どこかで見たような気がする鎧を身に纏った剣士がいた。
「サマナー……ううん、美野里ちゃん。一緒に帰ろ! まだお酒飲み足りないの!!」
| 合一神 | Lv75 | 相性:火炎・氷結・破魔・呪殺無効 全体的に強い |
そして―――なんかとんでもない進化を遂げた飲んだくれがいた。
「ァアアアアアアアアアアッ――――!!」
| 転生神 | カーリー・マー | Lv100 | 相性:全体的に強い(75%)、BS無効 |
違和感と疑問が一瞬だけ浮かぶが、すぐさま溢れ出す怒りによって上書きされる。
煮えたぎったマグマの如き熱量が静まらない限り如何なる説得も届きはしない。
荒ぶるまま、湧き上がる衝動に従い
「先手は譲らんニャア!」
| 「コミュニケーション・プレイヤー」*6 | 通称「COMP」 生徒や教師、関係者に貸与される現実拡張ツール。 シャノワールは猫の頃から頭蓋骨に埋め込んでいる。 |
| 《速攻戦型》*7 | オートコマンダースキル。 発動ターンは味方全体が敵より先に行動できる。 敵が味方より「速」が高いと発動率が上昇する。 |
「厄介なモンも使わせねぇ……っ!」
| 《宿曜経》*8 | 敵味方共に自動効果を封印する。 |
先制奪取並びに自動効果封印。
宗吾たちも弱体化は免れないが、
事前に打ち合わせていた分含めて被害は少ない。
「早速やらせてもらうね」
最初に動くのは―――弱音ハク!
胸の谷間から取り出すのは2つの
「バ先で磨いた
| 《ケミストリー》*9 | ターン中、アイテムを2個使用可能になる。 合一神としてではなく人として鍛え上げた技術。 迅速な品出しや棚卸しを行う内に自然と身についていた |
| 「ラスタキャンディ」*10 | 1度に攻撃力・防御力・命中力・魔法威力が上がる。 シャノワールたちが収集していた貴重品の1つ。 |
| 「物反鏡」 | 次のターンまで味方全体を物理反射状態にする。 |
己が何者かを正しく自覚した事で取り戻した人の力。
磨き続けた技術と合わさりアイテムの同時使用という早業を成し遂げる。
もっとも―――。
「もうちょっと早く出来ねーか?
昔のダチは4つくらい出せたぞ」
「ちょっと! カッコつけたのに台無しだよ!!」
猛烈な抗議にスマンスマン、と軽口で返しながら。
宗吾はバックルに付けられたカードケースから1枚
「ソードベント―――なんつって」
「久々に咆えてみようか!」
隙間を埋めるようにブラッディが血も凍るような咆哮を放つ。
| 《雄叫び》*11 | 敵の攻撃・防御力を低下させる。 |
「殴ると言ったニャ―――あれは嘘!」
あっかんべーと舌を出しながらシャノワールが挑発する。
「それじゃあ一周した所で―――覚醒した私の新技見せてあげる」
長い髪を揺らし、ハクはカーリーを指差した。
途端に指先へと集中するのは超高密度の破壊的エネルギー。
規模は違えど、かの星毒竜を抑え込んでいた英雄が放ったのと同質の物。
オリュンポス十二神の一角、ディオニュソス。
記憶を取り戻し、根源と接触し、本来あるべき姿を自覚した彼女が目覚めた力。
それは―――。
「ぶっ飛べ青春! あと訳分かんない力押し付けたイケメン!!!!」
| 《ジハード》*12 | 敵全体に万能相性で大威力な攻撃を行う。 敵の全能力を1段階低下させる。 |
森羅を焼き尽くす万能の光。
| 味方陣営 | 攻撃+1 防御+1 命中+1 |
| 敵陣営 | 攻撃-2 防御-2 命中・回避-1 |
そのあり得ざる一撃に、星毒竜ほどの巨体を持たぬカーリーは
幾つもの
| 《混沌の波動》*13 | このターンの攻撃対象を全体に変更する。手番は使用しない。 本来は習得不可能なスキルを暴走のゴリ押しで使っている。 ⇒四騎士から受けたダメージにより効果が一部使用不能。 |
| 《デッドリーイレイサー》*14 | 敵1体に万能属性の物理攻撃で超特大ダメージ。 ステータス・反射・威力上昇の補助効果を打ち消す。 本来は二人で行う合体技を一人で行う(狂戦士×召喚士)。 ⇒攻撃対象を全体に変更。 |
「ンニャ――――!?」
「これ、はっ!」
「あのドラゴンがやってたのと同じ……っ」
「次来るぞボサっとすんな!!」
体を削られながらも宗吾は叫ぶ。
確かに強力かつ驚異的な理不尽極まりない一撃だった。
星毒竜との戦いがなければまだ驚きが残っていたかもしれない。
―――だが、致命的ではなかった。
| 「Aマックスアーム」*15 | 万能含め全ての攻撃に対して耐性を持つ腕部防具。 ⇒《異形化》のカスタマイズ済み。 須摩留にて開発されていた悪魔でも装備可能な防具。 |
| 「カラミティスーツ」*16 | 万能含め全ての攻撃に対して耐性を持つ胴防具。 ⇒《異形化》のカスタマイズ済み。 須摩留にて開発されていた悪魔でも装備可能な防具。 |
| 《異形化》*17 | 条件:全身防具以外の防具限定。 この付加スキルを持つ防具は人間・悪魔どちらの形態でも使用可能となる。 ⇒装備品の付加スキルは《宿曜経》で無効化されないと裁定。 |
| 「ジパニウムアーマー」*18 | ⇒《重ね着可》のカスタマイズ済み。 数少ないBS無効の効果を持った全身防具。 須摩留にて開発されていた最先端装備の一つ。 |
| 《重ね着可》*19 | この付加スキルを持つ部位防具は全身防具と併用可能となる。 ⇒装備品の付加スキルは《宿曜経》で無効化されないと裁定。 |
此処に来るまでに回収、あるいは準備してあった須摩留時代の装備。
悪魔でも装備可能な物やBSを完全遮断するという超科学の鎧が彼らを護った。
如何に万能であろうとそれだけで仕留められるほど弱くは無い。
敵の強化と結界を剥がし、本命を撃ち込む為の下準備でしかない。
果たして―――宗吾の目に入ったのは10本腕で構えられた5つの光弓。
既に矢はつがえ終わっており、鏃は自分たちを向いていた。
「ッ来るぞぉおおおお!!」
―――矢が放たれる。
| 「ブラフマーストラ」*20 | 攻撃:199 命中:51 攻撃回数:0~7 弾:神経弾 貯蓄されたフォルマを利用して生成された専用武装。 本来は銃であるが現在の姿に合わせて弓の形状を取っている。 これ以外の武装は四騎士との戦闘で喪失している。 ⇒攻撃対象を全体に変更済み。 |
| 「マスターリング」*21 | 攻撃回数が確実に最大になる。 サルベージに成功した |
例えるならばそれは光の
幾千幾万と分裂し増殖した光矢が数秒間怒涛の勢いで降り注ぐ。
避ける隙間など毛頭存在しない圧倒的なまでの物量攻撃。
―――“ブラフマーストラ”。
インド神話の名だたる英雄豪傑たちが使用する必殺奥義。
その名を冠するに相応しい
幸い、それぞれ耐性持ちである故か
ここで意識を落とせば次に来るだろう攻撃は本当に避けられないだろう。
(
敵の行動分析を行いながら―――気付く。
黒き母の10腕、その内の1本に握られている物。
伝承からすれば持っていてもおかしくはない物。
人間から変身した美野里が持つには不自然な物。
「ちょっと待てまさか……」
それは
宣告と共に変形し剣のように細長くなる髑髏。
気づきが悪寒へと変わるまでに要したのはコンマ2秒。
| 《 | 敵複数に物理属性で大威力の攻撃を1~5回行う。 混乱・貫通効果。スキルクラックにより簒奪したスキル。 ⇒攻撃対象を全体に変更済み。 |
「―――守れ!」
「了解した!!」
「ぐうぅうううううう!」
「ブラッディ!?」
相棒を庇った狼男の肉が爆ぜ骨が断たれる。
防具を貫き、彼の体毛よりもなお赤い血がその毛に滴り落ちて染めていく。
反射さえも貫通する力を宿した赤騎士の奥義そのもの。
異形科学により再現された権能はまさに具現化した死そのものだった。
仮に弱体化が入っていない状態でカバーすれば、確実に命を落としていただろう。
それほどのスキル。
それだけの猿真似。
それまでの劣化品。
―――だから。
「ド素人が光り物振り回してんじゃねぇよバァカッ!」
| 《無刀取り》*23 | 相手の格闘攻撃に対し割り込む防御技。 相手の武器を奪い攻撃を無効化する。 悪魔の場合、奪う事は出来ないが攻撃は無効化される。 |
| 《猛反撃》*24 | 攻撃してきた対象に中確率で剣相性ダメージ。 対象の防御力を無視し必中する。 |
| 《物理威力強化》*25 | 格闘・射撃威力に+20する。 ジパニウムアーマーに備え付けられた運動補助機能。 ⇒装備品の付加スキルは《宿曜経》で無効化されないと裁定。 |
| 「仁王の指輪」*26 | 全ての攻撃の威力が1.5倍となる。 シャノワールたちが収集していた貴重品の1つ。 初代キョウジが使役したとされる悪魔を討伐した際に入手した。 |
剣に生きる鬼にそのような付け焼刃が通用するはずもない。
一太刀だけ受けた後、義手代わりに使用している装甲服の右腕にて掴み取り動きを封殺。
指輪による底上げと
「いつも言ってんだろ? 考え無しに振り回すだけじゃ斬りたいもんは斬れねーって」
頭蓋骨剣ごと斬り落とされ地面へと転がる10腕の1本。
三眼の瞳の奥でさらに燃え上がる怒りの炎を見つめながら―――手番が回る。
「ここが正念場ぁっ! ドジったらごめんなさい!!」
「――――――」
仮面の下で、宗吾は両目を閉じて1秒だけ集中する。
刀は既に鞘へと納めて居合の構えを取っていた。
タイミングを狙い、増幅された膂力を完全に制御した上で―――抜刀。
| 《カード・チャージ》*29 | 悪魔カードを1枚消費する。 悪魔のスキルを1つ選択し、その相性に応じた属性攻撃を得る。 天使「ケルプ」のカードを使用。 |
| 《フィジカル・エンハンスⅡ》*30 | 剣・ガン(物理)相性の習得済みスキルを指定する。 「属性攻撃」に対応する相性へと変更。 |
| 《居合一心》*31 | 敵全体に物理属性の打撃型ダメージを与える。 攻撃成功時、自身をチャージ状態にする。 物理⇒対ボス属性へと変更。 |
「ギィイイイイイアアアッッ!?」
ここで初めてカーリーから苦痛の声が響いた。
対ボス属性―――
「めっちゃ貴重だけどマジで使って良かったのか?
「むしろここが使い所だよ。エリクサー症候群になるより遥かにマシさ」
たたらを踏んで後退するカーリーへと追いすがるようにブラッディが間を詰める。
その両腕には紫電の輝きが閃いていて―――。
「そら、ドギツイ目覚ましでも受けたまえ!!」
| 《グリフデトネール》*32 | 敵単体にクリティカル率50%の電撃属性の打撃型ダメージ。 反撃効果・死亡時踏みとどまる効果を無視する。 |
爪撃と共に体内を焼き尽くさんばかりの超高圧電流が奔る。
長きに渡る旅の中で得た
宿曜経の影響で
「だっしゃぁあああああああっ!!」
間髪入れずに赤狼の背後より黒猫が迫る。
| 《破邪の紅炎》*33 | 敵単体に3回、火炎属性の魔法型ダメージを与える。 1ターンの間、火炎属性相性を1段階低下させる。 攻撃成功時、味方のアイコンを1つ増加させる(1T中1回のみ) |
カーリーに纏わりつき心身を焼くその炎は奇しくも同種の物。
複数の顔を持つ地母神ハトホルが持つ
殺戮者としての面である
「もう1発かますニャァッ!!」
「イケメンへの恨みアゲイン!!!!」
宣告、そして刀を担ぐようにして構えた。
カーリーは纏わりつく炎を振り払い意識を宗吾へと向ける……そのわずかな隙間。
常軌を逸した足捌きを以て宗吾は一息に距離を詰める。
一足一刀の間合い。
互いの呼吸さえ感じられる間隔。
剣士にとっては十分過ぎる広さ。
「――――ッ」
「―――ァア」
刹那にも満たない間に視線が絡み合う。
相も変わらず怒りに染まった三眼に疵は無く。
敵対者の動きを寸毫たりとも見逃す事はありはしない。
―――だからこそ、その“秘剣”は常軌を逸していた。
| 《閃耀の剣》*34 | 敵全体の中からランダムに3回攻撃。 物理相性による特大ダメージと疾風相性の中ダメージを与える。 疾風相性の攻撃は全体に拡散する。 回避や防御に-80%のペナルティを与える。 どちらかでもダメージを受けた場合は即死する。 ⇒物理攻撃は対ボス相性へ変更済み |
全ての腕が断ち斬られ、全身から噴水のように血が噴き出した。
カーリーの目で捉えられたのは6つの軌跡のみ。
全ての腕がどうやって斬り落とされたのか。
全身を如何にして斬り刻んだのか。
それさえ把握出来ない“ナニカ”。
一呼吸の十万分の一の速度で振るわれる雲耀の剣。
あらゆる剣技において最高位とされるそれを遥かに上回る
これまでの鍛錬、師が見せた魔剣、戮刀との死闘にて掴んだ核心。
積み重ねて来たそれら総てを以て組み上げ辿り着いた秘剣。
理論的に構築され論理的に行使される魔剣とは異なる境地の一端に他ならない。
「―――未熟にて、御免」
ぐらりと大きく揺れてカーリーは地面に倒れ行く。
目は光を失い、膨大なマグネタイトが零れ出す。
それはすなわち決着を意味していて――――。
「っっっつざっけんなぁあああああああああああああ!!!!!」
踏み止まって絶叫、同時に三眼が炎を取り戻した。
怒りに呼応するかのように、斬り落とされた10腕が再生し力を滾らせる。
理不尽に噛み付き終焉を拒絶して生にしがみつく―――
「カハッ、やっぱそう来るよなぁっ!!」
「予想通りだけど床ペロして欲しかったよー!」
「タフな子に成長してとても嬉しいが……」
「限度ってもんがあるニャ―!!」
歓喜と呆れ声と共に手番が回る。
弱体解除と共にカーリーが遥か上空へと跳躍。
連動して起きるのは
足場が崩れ、砕かれ、異界を構築するあらゆる物質が法則を無視して空に集まり始める。
さながら神話の如き光景で、これより最大規模の一撃が放たれる予兆でもあった。
「―――あのドラゴン乗ってたのと同じくらい?」
「つまり絶望的って訳か」
ハクが合一神としての勘でおおよその答えをはじき出す。
今の自分たちであれば3度殺してもお釣りがくるだろう超火力。
どうやっても阻止出来ない。対処する時間はほぼ無い。
―――であるのならば。
「
返答の前に“それ”は解き放たれた。
| 《フィジカル・エンハンス》*35 | 剣・ガン(物理)相性の習得済みスキルを指定する。 「属性攻撃」に対応する相性へと変更。 やり方は散々間近で見た来た。 |
| 《パールヴァターストラ》*36 | 敵全体に壊属性の魔法攻撃で超特大ダメージ。 3ターンの間、敵の攻撃・防御力が低下する。 ⇒100%属性へと変更済み。 |
それは巨大な“山”であった。
異界を構成する99%の物質を無理矢理奪い取り作り出した質量兵器。
インド神話恒例の超インフレを体現するかのような破壊魔法。
先ほどの光矢とは違い、隙間を作って避けるという芸当は不可能。
「落ちろォオオオオオオオオオオオ!!!!」
そして、地を這うしかない宗吾たちへと
・
・
・
ざくり、と柔らかい土を踏みしめる音がした。
かつての原型を留めない、膨大な土の塊と化した異界へと着地したカーリーのものだ。
大技の使用で著しく消耗しているが、その瞋恚の色は欠片も褪せていない。
「ァああっ、アアアアッ……」
正真正銘何もかもが無くなった箱庭に殺戮神妃は1人佇む。
これぞ鏖の果てに至る結末。
怒りだけの存在が至る終焉。
いつかの人の形をした修羅が墜ちた混沌。
いつかの魔人王の傀儡が作り出した虚無。
違いがあるとすれば、もはや彼女が何もせずともこの異界は崩壊するという点か。
その果てにどうなるかは……今の
「アァアァアアアッ、殺す……殺す!!」
だからフラフラと歩く。
いる筈もない敵を求めて。
やり場のない怒りをぶつけられる存在を探して。
歩いて。
歩いて歩いて。
歩いて歩いて歩いて
歩いて歩いて歩いて歩いて―――――。
何か柔らかいものを踏んだ事に気が付いた。
「…………?」
足元へ視線を向ける。
大きくて柔らかい肉の塊だった。
具体的に言うと土に塗れながらも不敵に笑う女の上半身だった。
「ねぇ知ってた―――
それは極めてマイナーな伝承。
極一部の学者が提示したディオニュソスの起源はシヴァにあるという異説。
紀元前4世紀頃のギリシャ人メガステネスが「インド史」に著した程度の同一視。
聞く者によっては鼻で笑うかもしれない。
知ってはいても真に受けない者が大半かもしれない。
確固とした理屈で反論して来る者さえいるかもしれない。
しかし、真贋はともかくとして―――情報として確かに存在しているのだ。
故にハクは
故にハクは本来使えるはずもない
故に――――ハクはシヴァの代理をこなす事が可能となる。
「………………………………………ぁ」
美野里の中で渦巻いていた膨大な怒りが静まり始める。
膨大な熱量が冷水を掛けられたかのように冷えていく。
三眼は機能を停止し、その奥に理性の光が戻ってくる。
「わ、たし……は――――っ」
「ようやく素面に戻って来たか暴走娘」
声と共に土の中から這い出してくる影が3つ。
全身土塗れの宗吾と、両腕に抱えられた瀕死状態のブラッディとシャノワール。
おそらくモグラのように地上まで
息も絶え絶えに立ち上がり、ゆっくりと美野里の前まで歩いて来る。
「リーベラ……いや、ハクがいなきゃこんなプランは立てられなかった。
たぶん9割玉砕して終わってただろうな」
つまりここまでが彼らの描いていた
カーリーの神話再現を用いた暴走状態の停止。
わざわざ戦闘を行ったのはハクが踏まれる前に死ぬ可能性が高かったからである。
それはそうと、正気を取り戻しても体はまだ元に戻っていない。
おそらく一種の変身状態であり、意識を失わない限りはこのままだろう。
―――だから。
「つー訳でこの1発で色々チャラな……動くなよ?」
「えっとその……なるべく痛いのなしでお願い」
ばつの悪そうな顔を浮かべる美野里に宗吾は軽く頷いて。
渾身の峰撃ちが美野里の頭へと叩き込まれ―――暴走に終止符が打たれるのだった。
・
・
・
「……………ん」
「お、やっと起きたか」
「……どのくらい寝てたの?」
「大体10分くらいだな。体は大丈夫か?
見た目は虚乳含めて元に戻ってるが」
「死ね馬鹿、煽って来たのは覚えてんのよ」
「殴る力もないくらい疲れ切ってると。
ちなみにあれはお前を正気に戻す為だから許してくれ」
「今言ったのは根に持つからね。
……他の皆は?」
「ハクはちょっと離れたとこで気絶。
お前さんのお友達たちは死に物狂いで安全な場所に出られるように計算中。
たぶん最初に入って来たグランギニョル社の方だってよ」
「大丈夫かしら色々と」
「別に俺らがいない程度で変わる訳じゃねーだろ。
……とは言いつつ、瓦礫の山になってる可能性も十分ある。
そもそもセプテン襲来の真っ最中な訳だし」
「ごめん、正直気合い入れても踏ん張っても戦えるか微妙」
「俺も似たようなもんだから安心しろ」
「でもやれそうならやるんでしょ?」
「もちろんだが???」
「馬鹿、剣馬鹿……っ! 何でこんなのに惚れた私……っ!!」
「けどまぁ、意外ともう終わってるかもだし。
今回の俺らの活躍はここまでだろ」
「対外的にはあのドラゴンと途中で倒したセプテンに
あんまり数多くないわね」
「強いのと十分戦れたから俺としては大満足」
「……人の事情に巻き込んでごめん。迷惑かけた」
「お前のトラブルは俺のもんでもあるから気にすんな。
こっちは普段から迷惑かけまくってるしさ」
「どうしようそれ言われると感謝の気持ち薄くなるんだけど」
「ま、何はともあれ―――――」
物理属性ダメージが20%増加。命中・クリティカル率が40%増加。
敵スキル効果によりプレスターンアイコンが減少する時、連動効果が発動。
⇒物理攻撃力が最も高い味方をチャージ状態にする。
自ターン開始時、連動効果が発動。
⇒1ターンの間、味方全体をスキルによる即死無効状態にする。
⇒敵全体を基礎確率80%で呪い状態にする、
自身が生存中、味方全体は次の効果を発揮。
⇒グッドステータス状態時、与ダメージ25%増加、命中率が30%増加
◎登場人物紹介
八瀬宗吾 Lv72⇒82
待ちに待ったセプテントリオンとの戦い!
と意気込んでいたが戦ったのはドラゴンと自分の同位体と暴走した相棒。
怒涛のボスラッシュで大きく成長出来たし楽しめたので満足している。
それはそうと過去からの因縁も迫ってるかもしれない。
若槻美野里 Lv70⇒80
相棒に付き合って世界を滅ぼしうるドラゴンと戦う羽目に。
それを乗り越えたと思ったら過去の因縁が追って来て最終的に暴走。
新たな力に覚醒したはいいが今回はメチャクチャ疲れた。
今度は相棒の方に過去の因縁が迫ってくるらしい。
弱音ハク、ブラッディ、シャノワール
そういえばナホビノだった女と美野里の古馴染みたち。
色々とパワーアップしているが2人に負けないくらいグロッキー。
ハクはしばらく酒漬け生活を送るつもりでいる。
ブラッディとシャノワールは動物形態でリコリコにお世話になる予定。
これでセプテントリオン編は終了。
次回は外伝をやっていきたいと思います。