真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
―――その“壁”は絶対に破られてはいけないものだった。
神奈川県北部に位置するかつての政令指定都市こと相模原。
かつて人口の緩やかな減少こそあれど、多くの人間が行き交い生活を営んでいたこの地は、今では全く異なる様相を呈していた。
例えば、県境に沿うようにして建造された高さ数十メートルにも及ぶ巨大防壁。
例えば、都市部のあちこちに過剰と言えるほど設置された無人兵器の数々。
例えば、不要と判断された建造物を取り壊し広げられた超高性能地雷原。
すなわち、いつ戦闘が始まってもおかしくない最前線。
敵味方の屍を重ねながらも維持する巨大な墓場だった。
こうなっている理由は至極単純な話。
現存するネストの位置と地形の都合上、ヒュージが攻めて来る場合まずここを通過するからだ。
事実、この数年で起きた大規模戦闘の大半はこの地で行われている。
いずれの戦いもギガント級が複数襲来など当たり前で、前回の戦いに至ってはアルトラ級の姿まで確認されていた。
『とうとう世界の終わりが訪れたのだ』
『人類の長きに渡って紡いできた歴史はここで潰える』
『ああ、感情などという病を克服した我々が……一体何を間違えたのか』
諦観と疑問に満ちたセリフを宣う者が出るほどの戦場。
それこそが大規模侵攻こと“ヒュージ大攻勢”―――形を持った絶望。
日本以外の全てを飲み込み平らげた滅びの晩餐に他ならない。
―――だがしかし、人類は幾度もそれ切り抜けて来た。
未来を見ているかの如き戦略眼を持つ最高司令官。
平均してレベル30を超える
最新の装備に身を包み、長きに渡って戦場を駆け抜けて来た古強者たち。
儚く淡い希望を胸に宿した者たちの奮戦があったからだ。
大多数の存在から失われた
無論、簡単な話ではない。夥しい量の血が流れた。
破壊された陣地に数え切れないほどの慟哭が響いた。
後方のベッドの上で無力さに数え切れないほど打ちのめされた。
それでも。
例え綱渡りであろうとも。屍山血河を築こうとも。
明日を望む彼ら彼女らは立ち上がり、絶望を討ち続けた。
故に相模原は人類最終防衛ラインにして難攻不落の要塞都市。
ここから先は決して通さぬという不退転の誓いを掲げし砦。
この壁が破られるという事は人類の滅亡が秒読みという証であり―――。
「あはははははははは!!!!」
\カカカッ/ \カカカッ/
| 軍勢 | ヒュージの群れ | Lv45 |
| ヒュージ | ホモ・カリブディス | Lv92 |
\カカカッ/ \カカカッ/
| ヒュージ | ホモ・ジャバウォック | Lv90 |
| 軍勢 | ギガント級ヒュージの群れ | Lv67 |
\カカカッ/ \カカカッ/
| ヒュージ | 巣無しのアルトラ | Lv93 |
| ヒュージ | 巣無しのアルトラ | Lv90 |
この蹂躙は当然の帰結であった。
スモール級の群れが地を覆うようにして迫る。
ミディアム級の群れが溢れんばかりに迫る。
ミドル級の群れが障害物全てを飲み込んで迫る。
ラージ級の群れが全てを薙ぎ払いながら迫る。
ギガント級の群れが雑魚たちを急かすようにして迫る。
そして、雲を突くような巨体を揺らすアルトラ級が
築かれた防壁は障子紙のように穴を開けられた。
強固な装甲でも食い破るはずの無人兵器は全て沈黙していた。
敷き詰められた地雷は僅かたりとも足を止める事が出来なかった。
かつてない規模の大攻勢。
今までの絶望が可愛く見えるほどの悪夢。
本来であれば人類の全戦力を投入し可能な限りの足止めを行いつつ、予定を繰り上げ選抜された住人たちを方舟へ乗船させねばならぬ事態だ。
だがそれは最早叶わない。
ヒュージが攻め滅ぼす前に、既に人類は詰みに入ってしまったから。
元々相模原にいた者たちも発狂するか殺されるか怪物と化したかのいずれか。
最悪を超えた最悪の事態。
しかしどうしようもなく、どうしようもない。
ゆっくりと、しかし確実にヒュージの大群は相模原を踏み荒らして超える。
目指す先は横浜。
数少ないながらも人類が生き残っている最後の場所。
慈悲無く、ただ哄笑だけを響かせて怪物たちは無人の野を行くがごとく突き進む。
「――――ふむ」
だからこそ、突如として現れたその男はあまりにも場違いだった。
雑に切り揃えられた黒髪。
擦り切れた着流しの和装。
腰に帯びた二振りの太刀。
そして―――あまりにも澄み切った力強い瞳。
人が失せた筈の地獄に立つ
この場に、世界にいる事自体に違和感を覚えてしまう何者か。
そんな不自然を身に纏ったまま、男は形の良い唇を開く。
「この抑え付けられる感じは……魔人王の系譜が作った世界か。
しかも
悩むように顎を摩りながら、誰に言う訳でもなく呟く。
実際、これは独り言なのだろう。
考えをより明確に纏める為、口に出しているに過ぎない。
「だが力の弱まり具合は随分緩い……どこかに穴でもあるのか?
……いやあの時は
とんとん、と柄頭をもう片方の手で弄りながら思考にふける。
その背後には既にヒュージの群れが迫っているというのにだ。
「人の気配―――無し。
知り合いの姿―――無し。
居るのはこちらを狙うケダモノのみ」
無論、男は気付いている。
気付いた上で―――放置していた。
「………うん」
一度頷いて、刀の柄を握った。
| 《察気》*1 | 悪魔や害意、罠の存在を察知する。 斬殺対象の座標をこの男は見逃さない。 |
| 《■■》*2 | 敵の数に応じて攻撃力と最大HPが上昇する。 この男とその同類にとって【己以外の全ては斬殺対象である】 |
刀が抜かれて―――
音も、空気も、匂いも、空間を構築する何もかもが消失した証。
それは極まり過ぎて凪にしか見えない高純度の剣気が成した事。
“斬る”という概念が辿り着く極地に他ならない。
| 《フィジカルロスト》*3 | フィールド上の結界・ギミックを破壊する。 この男とその同類が進む先には殺戮の荒野が広がるのみ。 時には世界の法則さえ踏み躙る求道者の在り方。 |
| 《虚■斬■》*4 | ターン終了時まで、攻撃の相性を万能に変更する。 この攻撃によるダメージは反射されない(反射無効) |
特異点の影響により弱いとはいえ、世界を制した異能否定の祈りは未だ健在。
この世界で生まれ育った者ならばともかく、異物の彼にはより強く作用する。
だが、その程度の拘束など知った事かと蹂躙し、腰だめに刀を構え体を捻る。
「ではまず……一太刀馳走しよう」
| 《ヒートウェイブ》*5 | 前方に飛距離無限の斬撃を放ち物理特大ダメージ。 間合いという概念を置き去りにした無限を征く斬撃。 かつてのラ■ド■が使用した絶技を修練によって体得した。 |
端から見れば男はただ刀を振っただけに過ぎない。
それだけなら何も斬っていない、斬れている筈がない。
なのに―――。
ただそれだけでスモール級が斬滅した。
ただそれだけでミディアム級が斬滅した。
ただそれだけでミドル級が斬滅した。
ただそれだけでラージ級が斬滅した。
ただそれだけでギガント級の半数が斬滅した。
ただそれだけでアルトラ級が宙を舞い、遠方の山へと墜落した。
絶望の軍勢が一振りで半壊するという異常極まりない光景が生み出された。
「カハッ、ハハハハハ!!」
笑う、哂う、嗤う。
口元を歪め、心底楽しそうな笑みが顔に浮かぶ。
ヒュージのものとは異なる、しかし人とは思えな哄笑が響く。
「これはいい! 一太刀で殺れないのは久しぶりだ!!」
あろうことか、口にしたのは仕留めきれなかった事を喜ぶ言葉。
新しい玩具を前にした子供のように、男は残りのヒュージたちへと突進していく。
視線の先には生き残ったギガント級とアルトラ級が既に戦闘態勢へ移行していた。
「もっとだ、もっと斬らせてくれ!!」
肌を刺す敵意と殺意を一身に受け、その笑みはより一層深まる。
もし仮に。世界を救う存在を救世主と呼ぶのならば、この男は間違いなく
滅びの危機に立ち向かう事はあっても誰かを助ける事は無い。
それどころか立ち塞がる者全てを最終的に
剣士としての至上命題を果たすべく、人としての全てを斬り捨てたが故に。
「一切合切―――我が求道の糧となれ!!!!」
| 剣魔 | Lv■■ | 相性:??? |
魔人王の系譜が生み出した悪魔無き世界に、斬殺の颶風が吹き荒れる。
―――結末など、語るまでもなかった。
・
・
・
「ボクが負けるだっけ―――もう一回言えるかい?」
感情の起伏を感じさせない声音で、超越者は地に倒れ伏す666部隊を見下ろしていた。
その言葉に答える者は誰一人としていない。
翡翠色の
今ここに残っているのは魂の抜け落ちた肉の器に過ぎない。
―――見えていた結末だった。
ここまで善戦出来た事自体が奇跡に等しい。
ここまで戦い抜いた彼らに誰一人として弱兵はいなかった。
ただひたすらに、相手が理不尽の塊であったのだ。
こうして、長きに渡って戦い抜いた666部隊の軌跡は終わりを迎える。
「っ……ぁ、あー……」
だが―――例外は付き物だ。
「思ったより……きっついな……っ」
呻くような声と共に、瓦礫を押しのけて立ち上がる人影があった。
片腕を失い、腹には巨大な穴が開いている。
愛用のサングラスは砕けて未来を見る目は焼け爛れている。
満身創痍、生きているというよりは死に損なっただけの姿。
それでもまだ副隊長……迅悠一の命は消えていなかった。
「ふーん……ご自慢の予知で致命傷はギリギリ回避したのかな。
空気読んで大人しく死んでれば楽になったのに」
「生憎と……この実力派エリートはしぶとくてね」
息も絶え絶えにふらつきながらも迅は何時ものように飄々と応えた。
もはや剣を振れるような状態ではない。
死んでいないだけで既に致命傷である。
痛覚含めた感覚はほぼ機能せず、凄まじい倦怠感だけが全身を襲っていた。
ほんの僅かでも気を緩めれば意識が飛び、2度と目を覚ます事は無いだろう。
―――だから。
「なんでもうちょっとだけ……悪足掻きだ」
なけなしの魔力を振り絞り最後の
| 《 | 敵全体に3ターン戦闘逃亡不能効果。 |
周囲の路面やビルの壁面から次々と防壁が展開されていく。
ヒュージの行動を阻害、あるいは身を隠す為の魔道器。
空を飛べる大沢にとっては大した障害になる物ではない。
だがこれにはジャミング機能が付加されている。
すなわち転移と追跡の妨害で、これがある限りは雨柳の現在地さえ知る事が出来ない。
「おいおい、こんな骨董品よく持ってたね。
ここまで準備が良いと逆に感心するよ」
大沢の言う通り、これは廃れてほぼ忘れ去られた初期の魔道器だ。
消耗の割に使い所も少なく、倉庫で埃を被っていたはずの代物である。
そんな物まで用意していた事に若干呆れながら、しかしやる事に変わりはない。
然程長い効果時間でもないが、魔力を注ぐ使用者が死ねばジャミングも効力を喪失する。
一秒でも早く雨柳を追いたい大沢からすれば、わざわざ時間切れまで付き合う理由もない。
そもそもこうして足止めされている事自体が不本意かつ不愉快なのだから。
「無駄な足掻きご苦労様……もう逝っていいよ」
よって、最後のゴミを処分するべく、機兵の腕が持ち上がる
―――その刹那。
「毎度結界壊してるって事は反射はされるって事だろ」
『こっちの攻撃が通じない―――なら
正真正銘最後の一手が起動する。
| 《自己修復機能》*7 | DEAD状態でも使用可能。 使用者のCURSE以外のBSを解除する。 HPを「レベル+体力値」だけ回復する。 |
| 《カバー》 | 攻撃の対象を自身に差し替える。 |
| 《 | 相手の物理的な攻撃を反射する。 “真Ⅰの《テトラカーン》と同等の効果と裁定する”。 《神釣り》と呼ばれる特殊技法の亜種、あるいは原型。 |
跳ね返った万物破壊の一撃が黒い機兵へと突き刺さった。
「――――――――――――――――――あ?」
それは無敵のベールをぶち抜く、血染めのブラフに隠された最初にして最後の痛打。
鈍い轟音と共に装甲が拉げ、血のように
出鱈目な破壊力をその身で受け、反動で黒の機兵が大きく吹き飛んで行った。
『装甲に刃が食い込んだ痕と電撃で焦げた部分。
それ含めてあんたの性格考えれば不死身の条件も見えて来る』
自分たちと隊長の違いは何か。
レベルの差、数の差、あるいは特殊な異能による攻撃。
否、そのどれでもなくて。
「
| 《不死の者》*9 | 特定条件を満たさないダメージは0となり、BSも無効化となる。 条件を満たした場合であってもダメージを大幅に軽減する。 ⇒執着によって発現した異能が超常の力によって強化されている。 ⇒自身の世界にいる住人、己と雨柳巧以外の攻撃は拒絶する。 |
自分たち以外―――正しくは“人”と認識する者以外―――の存在拒絶。
それこそが大沢一光の不死の源泉であり絶対のルール。
ヒントが無ければ辿り着く事は極めて困難な
それでも。
曖昧な推測と仮説を元にした極めて分の悪いギャンブルに彼らは勝利した。
とはいえ代償も大きい。
「……って、ああ……もう限界……」
どさりと音を立てて迅が倒れ込む。
この結果に誘導する為のハッタリをかますだけで、文字通り全ての力を使い果たしていた。
もはや指一本動かす力も残ってはいない。
『こっちもだ―――今までよくやってくれた、感謝する』
そしてそれはもう片方も同じ事だった。
罅割れた音声は半壊状態からの再起動という無茶を行った愛機への言葉。
外部モニター含めた電気系統も停止し、使えるのはスピーカー程度。
そして―――少し離れた場所から禍々しい翡翠色の輝きが溢れ出す。
「―――お前らさぁ……何してくれるんだよ」
輝きの向こう側から耳に届くのは怒りに燃える声。
感じるのは今までの無関心とは正反対の黒い殺意。
「巧以外が、僕に何してくれてんだよぉおおおおおお!!!!!」
それは毛ほども興味を抱かれていなかった者たちに向ける初めての憎悪。
自分たちの絶対にして至高の聖域に土足で踏み入れられた事による憤怒。
『こんな執着されてたのか隊長は……今までよく隠せてたもんだ』
「
同時にそれは大沢という男の在り方に一筋の亀裂を入れたという事でもあって―――。
『お前のプラン通り出来る限りの事はやった。後は隊長と三雲次第だ。
………ところで聞くが、あの世でも将棋って出来ると思うか?』
「出来なきゃ……自分で、流行らせればいいだろ。
おれも、偶には……やってやるからさ」
『特別に未来視ありでやってもいいぞ、ハンデには丁度いい』
「それなら……連敗記録も、止められそうだ」
もう抗う術はない。
そして未来が見えずともどうなるか分かる。
次の瞬間にはぐちゃぐちゃのミンチとなって仲間の後を追うのだろう。
だから、迅は最期の瞬間に目の前まで迫る最高司令官へと告げた。
「お前は負けるよ―――おれの勘がそう言ってる」
その予言を残して、今度こそ人類最後の精鋭部隊はここに全滅した。
・
・
・
「ハァ……ハァ……っ」
―――荒い息が零れる。
出血で朦朧とする意識。
疲労で震え続ける両足。
修は歯を食いしばり、己へと無理矢理喝を入れた。
今立っているのは666部隊駐屯地の訓練場、そのど真ん中である。
集団での利用を前提としたそこはとにかく広く作られている。
訓練用の機材や障害物もあるが、特に視界を邪魔する物でもない。
つまり隠れる事には極めて向かず、いつ発狂者やヒュージに見つかってもおかしくない。
今のところ気配は感じられないが、補足されるのも時間の問題だ。
いくら慣れ親しんだ拠点とはいえ地の利など望むべくもないだろう。
「―――――、………」
それでも修は動かず盾形態にした魔道器を構える。
何時襲われるか分からないという不安の証であった。
「………っ、は…………」
肉体の消耗と
だが獲物を狙う狙撃手のように集中を緩める事だけは絶対にしない。
1秒が1分にも10分にも感じられる極限状況の中、何も起きない時間だけが流れ続ける。
―――だから。
「本当にやってくれるよね君ら」
突如として空間を割って現れた機兵の手に、ほんの僅かだが早く反応出来た。
「ッデモニカ―――
| 《幸運》*10 | 自分に対する攻撃を打ち消す。 デモニカスーツと引き換えに使える緊急手段。 |
音声入力と共にスーツが強制解除―――
その反動で修の体は後方へと吹き飛び、目測を誤った巨腕が宙を掻く。
文字通り奇跡じみた回避だ、次の
「トリガー、オン!!」
意を決し、魔道器を剣形態へと変形。
仲間たちを殺し尽くした黒い機兵目掛けて大きく腕を振りかぶる。
「スラスタァアアア!!!!」
| 《スローイング》*11 | 汎用付加スキル。格闘武器を投擲し敵1体に剣相性ダメージ。 三雲修が得意とする数少ない攻撃手段。 |
自らが使える最大の攻撃手段。
ありったけの魔力を推進力へと変えて敵を撃ち抜く1回限りの大技。
ラージ級の装甲でも食い破る投擲が吸い込まれるように向かって、
「?」
金属の壁に当たった様な軽い音を立てて弾かれた。
それで全てが終わった。
おそらく装甲に小石がぶつかった程度の認識でさえないだろう。
これは不死の守り以前の問題で、単純に力の差があり過ぎた結果だ。
最初から分かり切っていた事である。
想いだけでは、覚悟と執念だけではどうにもならないのだと。
―――三雲修では、この怪物に歯を立てる事は出来はしない。
「よいしょ」
そしてそのまま順当に―――投げ終えた姿勢の修を機兵は無造作に握りしめた。
「~~~~~~~~~っ」
まるで万力で締め上げるように全身が潰された。
全身の骨が粉々に粉砕し内臓も致命的な損傷を負う。
この相手からすれば覚醒者も豆腐も大した差は無い。
いとも簡単にグチャグチャの挽肉を作る事が出来るだろう。
あまりの激痛に叫ぶ事も出来ず、クラゲになった修の頭からヘルメットが落ちる。
―――あちこちに罅の入った、
「まあバレてるとは思ってたさ。そこまで間抜けじゃないだろうし。
だから単刀直入に言うよ―――巧はどこだい?」
「言うと……思いますか……っ」
つまるところ、修は徹頭徹尾囮役に徹していた。
眼前の怪物、大沢の執着心は覚醒者たちから見ても異常なレベルだ。
であれば、居場所を探る仕込みの1つや2つあってもおかしくはない。
だから
だから雨柳をそこにいた人物に預けた後、ヘルメットを被ってここまでやって来たのだ。
1分1秒でも長く時間を稼ぐ、ただそれだけの為に。
「じゃあ仕方ないか」
言うや否や、機兵の手が真っ赤になる程発熱する。
「ア゛ッギイ、ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ジュウ、と肉の焼ける音とタンパク質の燃える悪臭。
全身の血液が沸騰し穴という穴から血が零れて蒸発する。
本来は障害物を焼却し道を切り開く為の機構。
それを拷問に用いるという暴挙を止める者は誰もいない。
無人となった駐屯地に少年の絶叫が響き渡る。
「別に君から聞けないなら穴熊してるメスガキ共の所行くだけだよ。
片っ端から潰してたらその内来るだろうしさ。
ほら、護る為って理由あげたんだからさっさと吐きなって」
子供が木の枝で地面に絵を描くように、修を剥き出しのアスファルトにこすりつける。
炭化した手足が削れ、炭画のアートへと変わり始めたが大沢からすれば些細な問題だ。
喋る機能さえ残っていれば構わないし、死んでも今言ったようにすればいいだけの事。
「――――――、ぃ」
やがて、原型を半ば失った唇がゆっくりと開いて。
「行かせ、ない……!」
震える声と共に、奥歯に仕込んだ最後の起動スイッチを噛みしめた。
| 《 | エリアに『バインドトラップ』を構築する。 侵入した敵の移動を停止する。 年の近かった先輩から使い方を教わった ⇒エリアレベルによって効果が変動。 ⇒エリアレベル【4】:8ターン敵の異動を停止する。 |
事前仕込まれたワイヤーが機兵の下へと奔り、全身に余すとこなく巻き付く。
それは遠目から見ればワイヤーで編まれた球体、あるいは牢獄のようにも見えた。
「お前は、どこにも……皆の所には、行かせない……っ!!」
修は何も考え無しにこの場で陣取っていた訳ではない。
訓練場という特性上、この施設には
その魔力を使えば、修単体では使用不能なワイヤー陣を仕込む事も出来た。
二重の意味で自らを囮とし、ほんの少しでも足止めするための選択だ。
―――当然、その代償も理解している。
「あっそ、じゃあいいや」
ぶちぶちとワイヤーを引き千切りつつ、無情なる死刑宣告が告げられた。
使えない塵を地面に叩きつける、それだけで修の体は完全に粉砕された。
最後の最後まで足掻く事を諦めなかった少年のあっけない最期であった。
ならば、彼の行いは何もかも無意味だったのだろうか……否である。
「もう一度言っておく。これはあの世への片道切符だ。
結果がどうあれ、戦いが終われば君は燃え尽きて終わる。
……覚悟はいいね?」
「動ける体と剣を振れる腕があるだけでも十分過ぎる。
そっちこそいいのか? 別に最後まで付き合う必要はないだろ。
方舟の方にさっさと逃げたって文句はないんだが」
「俺は大丈夫さ、そういう体質だからね。
それに、何だかんだ今まで一緒に働いてきたんだ。
ここで君を見捨てて自分だけ、なんて薄情過ぎるだろう」
「……ずっと思ってたけど、アンタ相当変わってるよ」
「変わり者だからここにいるのさ……よし、これで処置は終わった。
フォローはするから、あとは全力で決着を着けて来ると良い」
「ありがとう、
今まで本当に助けられた。この恩は最期まで忘れねぇ」
「俺も君という戦士がいた事を忘れない。
今まで一緒に戦えて良かったよ雨柳君」
666部隊の奮闘、少年の足掻き―――その果てが結実する。
| 《 | 戦闘開始時の状態に戻す。 この霜の妖精に時を戻す力があると知る者は殆どいない。 |
戻る、戻る、戻る。
焼いて砕かれたはずの少年の体が回帰する。
地中から飛び出していたワイヤー陣が起動する前の状態に巻き戻る。
空間を割って飛び出したはずの機兵が元の座標に引き戻される。
そして、
「え―――?」
「は―――?」
驚愕は修と大沢から。
片や死んだはずが何故か生きていて解除したデモニカスーツまで着ている。
片や塵を消したはずが何故か生きていて空間を跳躍した時まで戻っている。
ただ違うのは一点―――両者の間に存在する人影。
着ているのはデモニカスーツではなく666部隊の隊服。
潰れて失ったはずの両腕には鈍い輝きを放つ鋼の義手。
どちらもその姿を見間違うはずもない。
どちらもその姿を望んでいたのだから。
だから、驚愕が形を得る前にその名を叫んでいた。
「雨柳隊長ぉおおお!!!!!!!!!!」
「巧ぃいいいいいい!!!!!!!!!!」
| 悪魔召喚士 | 雨柳巧 | Lv70(イグナイター使用) |
世界より失われた悪魔と共に戦いし戦士が、敗北の底より飛翔した。
「ヒョォオオオオウッ!」
奇声を放ちながら突貫するのは当然の如く大沢。
ブースターを吹かせ、殺人的な加速で雨柳へと肉薄する。
今起きた超常現象―――おそらく時間回帰―――は心底どうでも良かった。
理解―――知るか。
分析―――要らない。
対策―――そんな事考えるより早く動け。
ゼロから最大値に振り切れたテンションが理性を押しのけて行動する。
ただひたすら、散々お預けされた
「穿て―――“クーフーリン”」
その前に、雨柳の背後へと白鎧の戦士が顕現した。
| 《葛葉流悪魔使役術:かごめ舞》*14 | 敵攻撃時召し寄せ・隠し身・前転が低確率で発動。 この世界においては前転のみ使用可能。 |
| 《降魔》*15 | 相性を契約した悪魔のものに変更する。 また、そのスキルを使用可能となる。 補助動作(手番を使用しない)。 自らに悪魔を降ろし、その力を行使する召喚術。 |
| 《 | 敵単体に力依存による中威力、貫通効果の衝撃属性攻撃。 必ず命中しクリティカルが発生する。 |
舞うように大沢の背後を取り、鋼の躯体に同じく鋼の腕を触れさせる。
直後―――風の魔槍が解き放たれ、機兵は遥か遠方の隊舎まで吹き飛ばされた。
「な……!」
あまりの急激な展開に思わず修は目を白黒させる。
囮役を買い、文字通り体を張ったのは確かにこういう展開の為だ。
雨柳だけがあの怪物を打ち負かせると信じて行動した結果だった。
だが、これは常識外れにも程がある。
雨柳も持つ理外の力は知っているが、ここまでの力は無かった。
つまりこの短時間で大沢にも張り合える力を得て戻って来たという事だ
そんな奇跡、代償はどれほどのものなのか……考えるまでもない。
「たい、ちょ……っ」
一歩前に出ようとして―――力が入らず膝を着いた。
視界も半分ほど黒に染まり、声を出す事も難しい。
当然の話だ。肉体的な損傷は回帰したとしても、精神はそうではない。
常人なら数度は発狂する責め苦を受け、さしもの修もただでは済まなかった。
今の彼の魂は全身ズタズタに斬り刻まれているようなものである。
こうして意識だけでも保てているのが不思議なほどだ。
「三雲……よく頑張った。
お前がいなかったら俺はここに立つ事も出来なかった」
雨柳は膝を着き、修に視線を合わせながら語り掛ける。
「実を言うと、お前が
お世辞にも才能は無いし、その癖メンタルだけはガン決まってるし。
死なせないようにどんな動き仕込むか、皆で何時も話し合ってたもんだ」
隊長としての厳しさを感じさせない、子供を見守る大人の口調と視線。
「それがこんなに立派になって……本当に成長したよ」
それはどこか遺言染みていて。
「だから、
俺たちはもう助けられない」
懐から何かを取り出し、修のポーチへと収める。
「方舟の行き先が天国とは限らねぇ。
ひょっとしたらここ以上の地獄かもしれん
けど、諦めない事に関しちゃお前は誰にも負けやしない」
最後に軽く胸を叩いてから微笑む。
「リリィたちとも上手くやれよ、男子代表。
―――生まれ変わりなんてもんがあったらまた会おう」
そこまで聞き届けてから修の意識が闇へと落ちる。
そのまま後ろへと傾き―――背後に立っていた人物が抱えるようにして支えた。
「このまま彼を方舟まで連れて行く―――勝てよ雨柳君」
| 探■者 | アハシェロス | Lv30(弱体化中) |
掘りの深い顔立ちをした金髪の男。
海外から流れ着いたという、発足時より666部隊を長く支えた医官。
死に体であった雨柳に未知のテクノロジーを用いて復活させた技術者
「勝つに決まってるだろ」
雨柳は立ち上がり踵を返す。
同時に視線の先にあった隊舎の残骸が翡翠色の波動によって消し飛ぶ。
その中心で仁王立ちするのは黒き機兵。
予想通りと言うべきか、多少の傷はあるが機能停止には程遠い。
―――無論、絶望する理由になどなりはしない。
今ここに―――神魔なき世界における最後の戦いが幕を開ける。
・
・
・
天井知らずに高まる
自分はどうでもいいが、背中の少年だけはなんとしても生かさねばならない。
どの道、この世界では大した力も使えないのでいるだけで邪魔になる。
(しかしまさか、
古い時代から幾つもの世界を渡り歩いてきた彼は様々な出会いをして来た。
一時期は“ゲマトリア”と呼ばれる集団に属していた時もある。
故に、世界へと大きな影響を与える人物に関しての知識も相当に深い。
その中でも大沢は上澄みに位置する男だ。
とはいえ、この周回では今になってようやく正体に気付けた。
(名前とか多少違う事もあったが、今回は全部まるで掠ってない。
あの魔人王のアホが仕込んだ世界だからか?
いやでもやってる事は最終的に同じだな)
なにせ、大体の世界において彼は異なる名前で呼ばれていた。
肩書もそうだ。人類最後の最高指導者など知る範囲とはまるで正反対だ。
―――“黄金のGUMP使い”。
―――
―――“DASU総帥”。
とある周回ではマカオを半分消し飛ばし、新宿を崩壊させた。
またある周回では天尊流星の支配に抗い、香港を壊滅させた。
つまるところ
自らの我欲に従い、その果てに世界が滅びようとも構わない狂人。
異端中の異端、
「本当に恐ろしい男だよお前は――――なぁ、
◎登場人物紹介
・大沢一光 Lv20
シリーズポジション:大沢一光(真・女神転生RPG 世紀末サバイバルガイド)
葛葉恭一(真・女神転生デビルサマナー TVドラマ版小説)
■■■■
―――詳細を語るにはまだ早い。
次回、最終決戦。