真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ 作:ジントニック123
「―――どこへ行くつもりだね美野里」
背後から名前を呼ぶ声がした。
振り返ってみても、そこには誰もいない。
いや、正確に言えば“人”はいなかった。
視線をやや足元へ向けるとそこには1頭の犬が佇んでいる。
赤銅のような体毛に子供程度なら圧し潰せそうなほどの巨躯。
そして獰猛なように見えて確かな知性を感じさせる瞳。
普通に考えれば、都市の外の常識で考えればあり得ない事だが。
声はこの犬から発せられたのだと信じる者はそういないと思う。
少なくとも学園を訪れる前の自分なら鼻で笑っていたかもしれない。
―――面倒なのに見つかった。
過った思いと共にため息をつきながら、無視して正面を向く。
無駄な時間を使っている暇は無い。
たぶん、今を逃せばチャンスは二度と転がって来ないだろうから。
半ば廃墟と化した街中を早足で歩く。
しかし、自分以外の足音も後ろから着いて来る。
「この先は……確か工科大学の研究施設だったな。
あの場所に何の用がある?
許可の無い人間が近づけば警備システムが動くぞ」
「…………強盗」
やがて隣に並ぶようにして追いついた犬―――
何も言わないままだと遠吠えでもして注意を集めてきそうだったからだ。
周囲に悪魔の気配は無いが、目的を考えると余計なトラブルを招くリスクは避けた方が良い。
そう、今からやろうとしているのは強盗。つまりは犯罪行為。
本来取り締まる側の人間、特別課外活動部の一員であった自分がやるべきことではない。
いや、元々そこまでルールにこだわるタイプではないし必要ならダーティな手を取る事もある。
そもそも状況が状況なので緊急避難と言えなくもないかもだし。
「随分前に
あそこで新型のデモニカスーツ開発してるって情報があったの。
一から育てるんじゃなくて今のレベルを底上げするタイプ」
歩きながら口に出すのはいつかの仕事の時の事。
倫理観を投げ捨てた後輩ハッカーを締め上げたよくある事件の一つ。
マシンで撥ねて鎮圧していつも通り縄でぐるぐる巻きにした後で、確認がてらに覗き込んだモニターに映っていた情報だ。
厳重なセキュリティを突破する手腕に呆れながらも、興味を引かれたので自分も閲覧した。
無論、バレたらペナルティが来そうだったので、見た事全ての責任はコユキに擦り付けて誤魔化したけども。
「―――病院の件は君の責任ではない。
むしろよくやった。生き残って、なおかつ多くの人間を守ったのだ」
一瞬足が止まりそうになって、そのまま加速。
気付けば早足から駆け足になっていた。
壊れた銃の残骸や薬莢を時折踏み散らして進み続ける。
「次も、上手く行く保証はないでしょうが。
死んだ子だっている、守り切れなかった人だっている。
何より―――元凶をぶっ殺せてない」
先日あった病院への襲撃。
レベル50越えの大悪魔―――魔人ペイルライダーとの戦い。
あれが最後に放った致死の呪いで蘇生の間に合わなかった“学生”が何人もいる。
しかも自分たちに出来たのは手傷を負わせて追い払っただけ。
「このままじゃ、敵を討つ前に全滅する。
あいつだけじゃなくて他にも最低3体以上は魔人がいるわ。
なら……手段選んでる暇じゃないっての!」
学園というか理事長にはまだ切り札が残っているのだろう。
おそらく、アバドンゲート対策の精鋭か兵器辺りが。
だけどそれを四騎士相手に切らない事からそう容易く使えるものではないのは間違いなくて。
「仮に特別課外活動部と風紀委員だけで対処しなければならないなら……なるほど。
君のやろうとしている事にも納得がいく。
―――ただ一つを除いてね」
一拍の間を置いて。
「何故私を置いて行く?
後輩たちや“シャノワール”はまだ動ける状態ではないが、少なくとも私は大丈夫だ」
どこが大丈夫なのだと言いたくなった。
確かに特別課外活動部の後輩たちはベッドの上の住人。
だがこいつだって生体部分の幾つか削れて機械化部分が増えたばかりだ。
「あんたがさっき言ったみたいに警備システムはまだ生きてる。
最悪ハチの巣にされるのはあたしだけで十分よ」
ぶっきらぼうにそれだけを答える。
実際、他の面子の復調を待っている暇もない。
もう暫くすれば各所で起きた四騎士襲撃の混乱も納まる。
そうなってしまえば装備は切り札の一つとして安全地帯へと移送されるだろう。
だからその前に回収する必要があるし、諸々の罪を被るのも自分だけでいい。
「では勝手に私も動かせてもらおうか。
勝手に囮役として暴れるからそちらも勝手にしたまえ
30分ほどならまあ稼げるだろう」
「人間以上に勝手な犬ね。
帰ったらブラッシングしてあげる」
「それは楽しみだ―――では始めよう」
懐から円筒状の物体を取り出し、歯で安全ピンを抜く。
視界に映るのは鉄柵で囲われた研究施設。
対人・対悪魔センサーが反応し設置された幾つもの銃座が自分たちを向く。
躊躇わずに進み―――煙幕弾を投げ入れた。
・
・
・
「愛してる! 愛してるの! 愛してるのよ!!」
一方的な
地面を、壁を、樹木を、電柱を、車を。
まるでスーパーボールが弾むかのような高速かつ不規則な立体機動。
四肢を使って這い回るその動きは、恰好も相まってさながら人間大の蜘蛛のよう。
「気色悪いのよっ!!」
返答代わり美野里は牽制の弾をばら撒いた。
自分はノーマルだし、そうでなくともこんな相手は御免被る。
だが拒絶の籠った銃撃は当たらない、時々掠めはするものの直撃には至らない。
(狙いにくい―――でもっ!)
下がり続ける少女に追いすがる女。
鬼ごっこと言うにはあまりにもおぞましい光景だ。
捕まりでもしたらどうなるのか―――あまり想像はしたくない。
「
狙いもあったとはいえ、
どうやら向こうも美野里だけを
接敵して以降、特に何かを仕掛けた訳でもないのに追いかけ続けている。
そうして一定の距離を保ちながら移動を続け、やがて辿り着いたのは開けた場所。
襲撃前まで宗吾と話していた広場だった。
ここならばあのふざけた動きも抑えられると踏んでの誘導だ。
(素直に着いて来てくれるかが問題だったけど。
……こんな奴にモテても全然嬉しくないわね)
少し遅れてアスファルトを削るような着地音。
ゆらりと立ち上がったウィドウとガスマスク越しに視線が合う。
ドロドロとした感情がこれでもかと言うほど煮詰められた濁った瞳。
―――その辺のDARK悪魔の方がよっぽどマシな目つきをしていた。
「
マスクでくぐもっていても分かる、どこかうっとりとした狂気の滲む声。
幾つもの魔法陣が背後に展開されマグネタイトの奔流が走る。
\カカカッ/
| 妖獣 | ジャージーデビル×8 | Lv27 | 相性:呪殺反射・破魔無効 |
\カカカッ/
| 凶鳥 | フリアイ×4 | Lv21 | 相性:ガン以外の物理攻撃に強い |
現れるのは馬や人に翼が生えたかのような異形の悪魔たち。
レベルが低いものの都合12体。
自我を抑制した上で本来の数には届かない*2ものの驚異的な使役数だ。
ならば―――。
「仲魔呼ぶならこっちもよ」
『おっと出番かねぇサマナー!』
\カカカッ/
| 鬼女 | アマゾーン | Lv43 | 相性:電撃反射、破魔無効、呪殺に強い |
『ムチャしなさんなよお嬢さん』
\カカカッ/
| 秘神 | ヤリーロ | Lv48 | 相性:物理に強い、破魔反射 |
『来るがいい邪悪な者ども』
\カカカッ/
| 神樹 | ハオマ | Lv51 | 相性:破魔・呪殺反射、火炎に弱い |
野性的な女戦士、白いマントの青年、樹木と同化したような石像。
量では負けるが質では遥かに凌駕する悪魔たちが召喚された。
いずれも異界潰しのバイトに業魔殿と邪教の館の反復横跳びの成果。
宗吾とは異なる血反吐を吐く努力と涙とマッカの結晶である。
「
《―――Application Launch―――》
音声入力によりセットされたアプリが起動。
自動的に攻撃強化と物理攻撃反射の結界が行使される。
レベルが上がって《テトラカーン》を覚えた事。
《スキルハック》で《タルカジャ》を一時的に習得した事により使用可能となったアプリ。
自動発動のため無駄なコストも使ってしまう可能性もあるがそこは承知の上だ。
『来なよ雑魚共ぉっ!!』
女戦士の挑発によって敵の攻撃力/防御力が強化/弱体化される。
『まずは様子見っと』
白き豊穣神の守りが味方全体を覆う。
美野里が強化解除の石を投げ込む。
そして最後。
『消し飛ぶがいい』
神聖たる樹木の枝から無数の光弾が降り注ぐ。
レベルが20以上も離れた悪魔からの攻撃、それも
高レベルかつ多少の耐性のあるウィドウはまだしも、その仲魔たちはひとたまりもない。
事前に
「あ、はぁ……っ!!」
だというのに。
ウィドウは何一つ変わった様子を見せない。
痛みに悶えるどころか逆に恍惚の声さえ上げていた。
(こいつ……何なの?!
話に聞いた薬でもキメてる!?)
光弾の直撃を受け破けた喪服から覗く出血が負傷の証。
致命にはいまだ届いていないが決して無視できるものではないはずだ。
なのにその狂気は沈静するどころか、ガソリンを注がれたかのように爆発し炎上を続けている。
「受け取ってぇええええマイラバァアアアアア!!!!」
―――《毒ガスブレス》*8―――
絶叫による指示にならない指示。
生き残った仲魔たち全ての口から放出される緑色のガス。
視界一面を覆う毒霧を回避し切る事は不可能に近い。
「あぐっ!」
状態異常スキルは必中ではない。
しかし完全な状態異常無効でもなければ耐性をすり抜けることもある。
よって残念ながら仲魔含めて全員が毒状態へと陥った。
これが1体2体ならばまだしも、数の暴力で連続して喰らえば耐え切れないのは道理であり。
だが、感覚からしてそこまで厄介な毒ではない。
(攻撃力の低下はない、精々体力が削れる程度?
何でこんなものを―――っ!!)
一瞬過る疑問―――それが必殺へと至る前兆だと気づいた時には遅かった。
| 《ペストクロップ》*10 | 物理スキル | 敵全体に物理属性で小威力の攻撃を1回行う。 状態異常「毒」に貫通大威力。 四騎士が持つ権能、その一端を宿した狂人の一撃。 |
ウィドウのあり余る狂気が体感時間を超加速。
クロックアップした思考速度を無理矢理肉体へと反映。
ブチブチと全身の筋肉が断裂する音を響かせながら、美野里たちの前に躍り出る。
「―――さあ受け止めて、私の愛」
物理結界を左の鉤爪で引き剥がし、死病の輝きを宿した右腕から終末の
・
・
・
―――女の事を語ろう。
その女はいわゆる同性愛者であった。
女のいた世界、時代ではそれなりに容認されてはいたが信心深い家族は別。
幼い頃に自覚し、ある程度成長してから愛する家族に告白するが拒絶され。
以降は“改心”のため暴力を振るわれる事さえあった。
それでも自分の為を思ってくれている事は分かったから嫌いにはなれなかった。
そんな女だがある日、全ての悩みが吹き飛ぶほどの恋に落ちる。
職場である製薬会社で出会った美しい
朗らかに笑うその姿はまるで地上に現れた天使のよう。
当時、己が間違った生き物なのではないかと思い始めていた女にとって運命の出会い。
勇気を出して声をかけ、やがて親しくなるのにそう時間はかからなかった。
共に働き、共に食事をし、共に遊びに出かける。
まるで夢のような幸せに満ちた日々―――その終わりは彼女に恋人が出来た事から始まった。
“結婚を前提に考えているの”
“親友である貴女には一番に伝えたくて”
初めて出会った時と同じ笑顔を浮かべ、
過ちは何だったのか。
家族と同様に拒絶されるのを恐れて同性愛者なのを話さなかった事か?
最初から彼女を愛していた事を口にしなかった事か?
今の立場に甘んじて先に進もうとしなかった事か?
いずれにしろ彼女は自分と結ばれる事は無い。
だって自分と同じように心から恋人の事を愛しているのだと、見るだけで分かったから。
だから悩んだ、苦しんだ、悲しかった。
悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて―――!
そして気付けば―――会社から盗み出した毒薬を2人に盛っていた。
前祝いとしてプレゼントしたワインに混ぜて。
床に倒れ悶え苦しむ様子をじっと見続けた。
必死に助けを求める懇願を無視した。
涙を流して問われた何故という言葉は黙殺した。
そして彼女たちが事切れた時―――女は既に別人と成り果てていた。
そのまま死体の隠蔽もせずに家へ帰ると今度は家族を毒殺。
一度は警察に捕まり精神鑑定の為、病院へ収容されるが脱走。
後にとある殺人ゲームを主宰する組織のスタッフとして拾われ、その手腕を振るう事となる。
ある時、悪魔と合体し更なる力を得た女へ疑問を投げかけた者が居た。
どうして好きだった相手を、家族を殺したのか?
裏切られたと思って憎くなったのか? 積年の恨みを果たしたかったのか?
女はあっさりと答えた。
「私を愛して欲しかったの、私の愛を知って欲しかったの。
女―――ウィドウの特徴を挙げるなら毒使いという事以外にもう一つある。
普段は物静かで淡々と仕事をこなす彼女であるが。
かつて愛した女性、そして肉親と似た特徴のある人間を見つけると豹変するのだ。
愛を叫び、愛を欲し、愛のままに殺害する。
蜘蛛の巣に掛かった獲物が逃げられず捕食されるように。
この女に着け狙われて生き残った者は居ない。
推測するに、ウィドウは生まれ持った性癖や環境によってこうなったのではない。
誰も、それこそ本人でさえ気づいていなかったのだろう。
ただ生まれた時から外れていた、愛した女性との出会いは切っ掛けでしかないのだと。
それは異なる世界に辿り着いたとしても変わらない。
ヤクザたちに拾われ、事実上の鉄砲玉として扱われてもなお。
目の前の少女―――
・
・
・
戦いの行く末は決まった。
これぞウィドウの切り札にして必殺。
劣化とはいえ四騎士の権能、その一端。
かつて悪魔人間と化した時、才能があったのかあるいは波長が合ったのか。
病
これを受けて死ななかった者などいない。
何故ならこれは己が愛そのものなのだから。
現に、女戦士と白い豊穣神は体内で増幅爆発した毒によって砕け散った。
そして神樹たる悪魔とその主も遅れて後を追うように―――。
「ぁ、ああああああああああああ―――ッ!!!!!」
| 不屈の闘志*11 | 自動効果 | この悪魔(キャラ)が死亡するとき、一度だけHPが中回復する。 美野里の場合は《食いしばり》からの限定的変化。 |
確かに耐える事など出来ない、なら
無理矢理にでも息を吹き返す。普段の美野里なら困難極まりない荒業。
だが―――。
(あの
ただそれだけの意地で困難を無理矢理押し通す。
『生きているか主よ!?』
「死んでないから回復ぅっ!!!!」
―――《メ・ディアラマ》*12―――
同じく《不屈の闘志》で蘇生したハオマから癒しの波動が放たれ1人と1体を癒す。
確かに必殺のコンボだった、実際に死んだ―――だが生き延びてみせた。
荒く呼吸を繰り返しながら美野里はウィドウを睨む。
先程までの異常なハイテンションはどうしたのか。
自分が死んでいない現状に首を傾げ理解が追い付いていない。
―――好都合だ。
「バッテリー最大駆動……コール」
その隙に呼び出すのは手持ちの中でも最大戦力。
合体事故で生まれた個体にして今の美野里では消耗が大きすぎる悪魔。
だが同時に―――
「殺りにいくわよ―――!!」
『委細承知ぃいい!!!!』
\カカカッ/
| 凶鳥 | グルル | Lv53 | 相性:破魔に弱い、呪殺反射、精神・神経無効 |
バッテリーから膨大なマグネタイトを喰らって顕現するのは骸骨に覆われた鳥人。
現在の美野里よりもレベルが高い故、長時間の戦闘はおろか維持も難しい。
だが構わない、元よりそこまで時間をかけるつもりも無いのだ。
再び自動発動する攻撃強化。
そして先ほどの接触から読み取った情報を元に
「
突如として語られた自らの過去に、ウィドウは肩を大きく跳ねさせる。
何故知っている? この世界で知る人間などいないはず。
もしや同じ世界の出身いや実はこの少女本当に“彼女”で―――!
「こっちも愛とかそういうの語れるような人間じゃないけど。
これだけは言ってもいい?
――――
その言葉に―――思考が止まる。
何を言っているのか理解できないシタクナイミトメタクナイ。
「ああごめん。馬鹿にしてるつもりは無いのよ。
愛は無敵で負けない、なんてあたしも思ってないから。
でも……もし本気であんたがそう思ってるんだったら」
口元を嘲弄の形に作り、優し気な口調で。
言葉を以て世界を、ウィドウの聖域を踏みにじる。
「あんたの言う“愛”ってその程度の物なんだ……かわいそ」
「―――ィエアアアアアアアアアッ!?!?!?!?!?!?」
それを“彼女”に言われたような気がして。
狂気が振り切れる、思考が“愛”の証明一色に染められる。
よってその思考に従って従えた悪魔たちも動き出す。
先ほど同様、妖獣たちの口から毒の吐息がばら撒かれた。
加えて2羽の凶鳥が唸り声をあげながら爪を振り下ろす。
| 《毒引っかき》*13 | 物理スキル | 技相性。敵2体を引っかき毒状態にする。 追加効果の毒は高確率&相性無視で付着する。 |
それは相性を無視して相手を犯す毒爪。
ウィドウの愛を確実に証明するための狼煙だ。
次こそは逃さない。必ずやその命を―――。
『先程は使い損ねたが此度は違う』
『ケケケ、受けりゃいいんだろこいつをよぉ―――!!』
| 《カバー》 | 自分に攻撃を移し替える |
| 《ステラカーン》*14 | 防御スキル | BSが味方のいずれかに適用される場合に使用。 味方が受ける筈だったBSを相手に反射する。 |
そして呪いは反転した。
まるで自らの刃で貫かれるように。
吐息は撥ね返され、爪は守りに入ったグルルに当たり逆に毒へと犯される。
「―――――――え」
―――《ステラカーン》、それは知る者の少ない魔法。
ほんの一部の悪魔のみが使用する、
GPが上昇し解放されたそれを、
『俺サマの出番だなぁああああ!!!!』
| 《ヤクシャの凶爪》*15 | 自動効果 | 敵が毒状態になったとき、次の連動効果が発動。 ランダムな敵に3回、物理属性の打撃型ダメージを与える。 成功時、ヒットした敵を基礎確率30%で緊縛状態にする。 |
グルルの目が輝き、次の瞬間には殺戮の暴風と化す。
これもGPの上昇に伴い解放されたスキル。
毒状態となった相手に襲い掛かる死の凶爪。
その数6体―――ランダムとはいえ
蹂躙は一瞬で終わった。
・
・
・
「……あ、貴女……愛しい、愛しい貴女……っ」
体の底から絞り出すかのような声。
全身を刻まれ真っ赤に染まるウィドウは、それでも倒れていない。
先程の美野里と同じように、執念だけで立ち続けている。
運の悪い事に―――これまでの報いとも―――凶爪の大半に狙われた彼女に戦う力は残されていない。
生き延びた仲魔は既に全滅し、自らの命も風前の灯火。
それでもなお、ひたすら愛を語りながら手を伸ばす。
「――――」
伸ばされた先にいる美野里は銃を構えるでもなくじっと見つめていた。
この女の願いや祈り、根本的な部分を知った訳ではない。
ただ表層的な記憶を読み取っただけ。
それにしたってとてもではないが共感できるものでもない。
だから、
「あんたの愛は一方通行なのよ、1人で完結してるし終わってる。
ハッキリ言って傍迷惑―――だからここで死んでおきなさい」
遅れて届く狙撃音、そして足元に転がったガスマスク。
頭の無くなった死体が倒れ込むと同時に、インカムへと通信が入る。
≪こちらチャーリー2、ラストアタックは貰ったが構わないな≫
「いえ、助かったわありがとう。
おかげで何の憂いもなく戦えたから」
≪そう言ってもらえるとありがたい。では引き続き頼むぞ≫
チラリと射線を辿れば、高所に陣取ったカーキー色のデモニカスーツが見える。
最初に援護を頼んでいた〈最後の大隊〉のメンバーだ。
仮にここで自分が死んでいたとしても、彼らがフォローに入ってくれていただろう。
結局、何処までも1人で戦っていたウィドウに本当の意味での勝ち目など無かったのだ。
「何でもかんでも1人でやったって……そうそう上手く行かないわよね」
独り言ちて、すぐ首を横に振る。
今は感傷に浸っている場合ではない。
まだ戦いは終わっていないのだ―――なら仲間の為に出来る事をしなければ。
「もうひと踏ん張りしますか……っ!」
頬を叩いて気合いを入れ、美野里は再び駆け出した。
後篇もなるべく早めに書きたいと思います。