自分ひとりでは、到底このトンデモすぎる事態に対処できない。そう判断したダンの召集により、ジールを除く『若葉の契』の全メンバーが集まった。具体的には、同じ階にいたアネットとサラの二人がオレの部屋へと駆け込んできた形である。
そんでもって、未だ現実を受け止められず呆然としているオレの代わりに、ダンが事情を説明してくれたわけなのだが、
「で、何? この子があのアスタだっていうの?」
「あぁ、間違いねぇ。こいつはたしかにアスタだ」
「……ダン、あんたそれ本気で言ってる?」
「マジもマジ、大マジだ。いや、俺だってぶっちゃけ意味わからねぇけどよ……」
当然ながら「はい、そうですか」と皆が納得するはずもなく、魔術師アネットによるダンの取り調べが始まっていた。腰に届きそうなほど伸びた赤髪をうなじの辺りで束ねている取り調べ人の勝ち気な瞳が、憐れな被疑者に鋭く刺さる。
「あのねぇ、女の子を無理やり攫ってきた言い訳するなら、もう少しマシな嘘をつきなさいよ」
「いや、俺が攫ってきたのだとしたら、わざわざおまえらを招集したりなんかしねぇよ!?」
ごもっとも。というか、厳つい顔面と少々乱暴な口調の所為で誤解されやすいが、ダンという男は正義感が強く、割と真っ直ぐな良い奴である。
そんなダンが人攫いなんてするはずがないことは、クエストを何度も一緒にこなしてきたアネットももちろん理解しているはず。それでも疑わざるを得なかったのは、
「うちは、ダンくんの言っていること、本当だと思う。うん、この
「……後半、思いっきり矛盾している気がするんだけど。よくそれで納得できたわね、サラちゃん」
「そんなの、当然。おにいのことなら、なんだって分かる、から。むっふー」
「出た、サラちゃんのドヤ顔……。でも、この子のアスタに対する嗅覚はバカにできないのよねぇ」
窮地に陥っていたダンへと救いの手を差し伸べたのはオレの妹、サラ。故郷を飛び出したオレとジールを追いかけて、たったひとりでこの街までやって来た実績を持つ彼女の嗅覚は侮れない。
兄であるオレとしては、そろそろ兄離れしてほしいのだが……って、物理的に兄じゃなくなっちゃったから、ある意味では兄離れ成功か。あはは。
「ちょっ、 アスタ……かもしれない子が今度は急に泣き出したんだけど!? ダン、あんたやっぱり何かしたんじゃないの? 白状するなら今のうちよ?」
「おにい、泣かせるの、許さない」
「だから俺は何もしてねぇええええ!」
ごめんな、もう少しだけそっとしておいてくれないか。すぐに立ち直ると思うから。ぐすん。
♢
「い〜や〜だ〜! オレは男だぞ!? だから絶対スカートなんて履きたくない!」
なんとか立ち直り正気に戻ったオレを待ち受けていたのは、女子部屋へと連行されてアネットの服に着替えさせられるという恥辱の展開だった。
まだ幼いサラと面倒見の良いアネットが二人で使っている広めの寝室。そこに逃げ場などあるはずもなく。誰かに助けを求めようにも、頼みのダンは早々に部屋から追い出されてしまっている状況で。
「いいから大人しく着替えなさいっての! 貴方がアスタ本人だって話は、あたしもとりあえず受け入れることにしたの。でもね、だからってその身体が女の子であることには変わりないわけ。分かる?」
「アネット姉の、言う通り。おにいが男だったときの服、今の身長だとぶかぶか、だった。胸元が緩々で、かなり危険。ダンくんも、こっそり見てた」
えっ、ダンが? マジで? ひくわー。オレよりアイツの方がよっぽどむっつりじゃないか。
「いや、でもそれとスカートは関係なくない?」
「「……チッ」」
「今二人とも舌打ちしたよな!?」
うちのパーティーの女性陣、怖い。オレも今は女性陣にカウントされるのかもしれないけど。
「細かいこと気にしないの。あんた男でしょ?」
「おにいは、度量が大きい男。カッコイイナー」
「都合よく性別を使い分けすぎだと思うぞ!?」
とりあえず、彼女らの本音がオレを着せ替え人形にしたいだけだということは理解できた。とんでもねぇや、恐ろしいから話題変えよ。
「そういや、さっきなんでアイツいなかったの?」
先ほどから割と気になっていた疑問をここでぶつける。ちなみに着替えは強制進行中。解せぬ。
「アイツ? ……あぁ、ジールのことね」
「なんか、酷い夢を見たみたい。屋敷の裏で吐いていたから、さすがにそっとしておいた」
えっ、何それ? 普通に心配なんだけど。
あぁ、それから……夢って単語を耳にしてようやく思い出した。たしかオレもついさっきまで、自分が刺し殺される夢を見ていたんだよな。身体が女になるという悪夢も真っ青な現実の所為で、すっかり記憶の隅に追いやられてしまっていたが。
「そんなにジールが心配なら、着替えてから様子を見に行ってきたら? ちょうど今、貴方の身に起きた事象についてダンが説明している頃合いでしょうし」
「もちろん顔は合わせるつもりだけどさ、べつに着替える前で良くないか? 優先順が逆だろ」
「ダメ。ジール兄は、ああ見えて意外とやらしいところ、ある。おにいの胸元、絶対チラ見するはず」
「えぇええ……」
なんてこった。うちのパーティー、むっつりスケベ野郎しかいねぇ!
「とんでもなく今更な話だけど、おまえらよくそんな環境で共同生活なんて続けてこられたな!?」
「……ホントに今更ね」
アネットが呆れたように首を振る。
「ま、あたしたちは大丈夫なのよ。理由は、その……察しなさい」
大丈夫な理由? ……あぁ、そういうことか。
言われてみれば、たしかに今のオレの方が二人よりも幾分か膨らみがあるもんな。オレだって、そんなにめちゃくちゃ大きいわけではないけれど。などと思い「なるほど」と納得していると、二人からジトリとした視線が送られてきた。なんでぇ!?
「一応先に警告しておくけど、あたしの服着て胸キツイとか言ったらしばくからね?」
「おにいの素直なところは、魅力だと思うの。ただ、昔からデリカシーが、少し足りてない。そこは今後、改善の余地あり」
「よく分からないけど善処します……」
やっぱりおっかねぇ! オレの視界が涙で少しだけ歪んだ気がした。
「アスタってば、女の子の身体になってから涙脆くなってない!? そうね、そんなにスカート履くのが嫌なんだったら、こっちの服を着るのはどう?」
「うぅ、もうそれでいいや……」
女性陣に翻弄され続けすっかり大人しくなったオレは、言われるがままにアネットから手渡された服へと着替えていく。人間、諦めが肝心なのだ。ついでに髪まで散々弄られた末、鏡の前へと引っ張り出された。
「ほら、着てみたら意外と悪くないでしょ?」
「おにい、かわいい! むふー、むふー!」
「これが……オレ?」
そこにちょこんと映っていたのは、恥ずかしそうに顔を赤らめた中性的な容姿の少女だった。
白いブラウスに茶色のワンピース。けして派手な服装ではないが、素朴な雰囲気の少女にはとても似合っているように思う。一式の持ち主であるアネットより僅かに身長が低くなってしまったものの、服のサイズ的には特に問題ない範疇の差だろう。
また、男だった頃の名残が僅かに感じられる中性味を帯びた顔のパーツも、鏡でよく見るとそれなりに整っていることが理解できる。化粧のひとつでも覚えれば途端に化けそうだ。
と、ここまでまるで他人のように分析してみたが、中身は当然このオレである。それだけが残念であると言わざるを得ない。
「そうよ、これが今のアスタ。なんとなく複雑な気分だけど、正直あたしより似合っているわね……。いいわ、その服は譲ってあげる」
「うちとお揃いのカチューシャ。予想通り、おにいにぴったり! むっふー」
数時間前まで男だったオレが女物の服を着て褒められたところで、これっぽっちも嬉しくない。そう、嬉しくなんてないはずなのに……鏡の中には、満更でもなさそうに照れている少女の姿が映っていた。
TSっ娘はチョロければチョロいほど可愛い。
※諸説あり