死に戻るたびにTSが加速する   作:こびとのまち

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本人の意思は考慮せず

 暫くして再び意識を取り戻したオレは、ひとつ深呼吸し腹を括ってから瞼を開いた。

 

「あ、おねえ、元に戻った」

「よく分かんないけど、意外と復活早かったわね」

 

 その口ぶりから察するに、さほど心配されていなかった模様。これは信頼の証と解釈して良いんだよな? えっ、全然違う? そっかぁ……。

 

「朝から黄昏ちゃって、どうかしたの?」

「あのさ、オレが『実は男なんだ』って言ったら二人は信じてくれるか?」

 

 なんとなく答えは予想がついているが、一応は聞くだけ聞いてみる。

 

「ええっと、そのボケまだ続けるつもり?」

「おねえ、もしかして今日、調子悪い?」

 

 うん、やっぱりね。知ってた。

 

「……なんでもない、忘れてくれ」

 

 先ほどは、目の前にいる彼女たちがオレを生まれながらの女だと認識していることにショックを受けて、倒れてしまったわけなのだが……気を失って一度冷静になったことで、多少なりとも気持ちの整理ができたらしい。オレは二人の返答を静かに受け止めた。

 

 ただ、オレが男であるという事実を誰ひとりとして覚えていない、なんて結論付けるにはまだ早い。落ち込んで涙を流すのは、もう少し検証してみてからでも良いだろう。などと自分に言い聞かせながら、オレはベッドから飛び降りた。そしてそのまま颯爽と部屋の外へ向かう。

 

「えっ!? ちょっ、ちょっと待って! 今その格好で部屋から出るのは――」

「おねえ、ダメ! 戻ってきて!」

 

 アネットたちが妙に慌てふためいているが、ここはひとまず無視を決め込む方針でいこう。今はまず、自分の身に起きている事態の把握が最優先なのだから。

 

 

 

 

「おっ、ちょうど良いところに検証相手が」

 

 女子部屋から抜け出し屋敷の廊下を歩いていると、『若葉の契』随一のむっつり野郎ことダンと正面から鉢合わせした。オレは手を振り上げて声を掛ける。

 

「ダンじゃん、おはよー」

「うぎゃあ、痴女が! って、アスタじゃねぇか。おまえ、なんて格好で……」

 

 ちょっと待て、なんだその反応は……。人の顔を見ていきなり悲鳴上げるとか、とてつもなく失礼な野郎だな!? あとさ、つい最近こいつに似たようなこと言われた気がするぞ?

 

 まあいい、そんなことより検証だ。とは言っても、さすがにダンならオレが男だってこと覚えていてくれる予感がする。同じパーティーに属している男同士、裸の付き合いだってしてきたわけだし。

 

「なあダン、聞いてくれよ。オレさぁ」

「待て待て待て! 俺は男でおまえは()なんだからよ、もう少し恥じらいというものをだなぁ」

「…………」

 

 即撃沈、あまりにも早い答え合わせ……!

 うぅ、もう少しくらい希望を持たせてくれてもいいじゃないか。ってか、人の話はちゃんと最後まで聞けよ、バカ野郎。これが八つ当たりなのは重々承知しながらも、心の中で悪態をつかずにはいられない。

 

 でもさ、よくよく考えてみたら、やっぱりこいつにも非があると思うんだ。だって、オレの本来の性別をあっさりと忘れちまっているんだから。それと、恥じらいって何の話だよ。意味分かんねぇ!

 

「ジールよぉ、幼馴染であるおまえの口からも一言くらい注意してやってほしいんだが」

「ん? ジール?」

 

 ダンの声に釣られて振り返り、オレは思わず自分の目を疑った。だって……今にも死にそうな顔をした幼馴染が、ふらふらと廊下を彷徨っていたから。まるでアンデッドにでも遭遇したような気分だ。

 

「お、おい、また今日も顔色が悪いぞ……?」

 

 心配して声をかけてみると、不規則に宙を彷徨っていたジールの視線がオレを捉える。そして、一瞬ハッとしたような表情を浮かべると、瞬く間にオレの目の前まで駆け寄ってきた。

 

「アス、タ……!」

「な、なんだよ……って、うひゃあ!?」

 

 ジールの鍛え上げられた逞しい腕が、オレの身体を力任せに抱き寄せる。えっ、ちょっ……なに?

 

 驚いたオレは、反射的にその腕を引き剥がそうと試みた。が、すぐに諦めて脱力する。

 今のこの身体ではジールと力の差がありすぎて引き剥がせないと悟ったから、というのが理由のひとつ。そして、ジールの身体がまるで怯えた子どもみたいに震えていることに気づいたから、というのがもうひとつの理由だ。

 

「なあ、おまえ本当に大丈夫か?」

「すまない……っ」

「お、おう」

 

 こんなに弱った幼馴染の姿を目にするのは、もしかすると生まれて初めてかもしれない。そんなことを思いながらジールの背中をさすっているうちに、身支度を終えたアネットとサラが追いかけてきたらしい。未だ離れようとしない幼馴染の胴体越しに、二人の困惑した声が耳へと届く。

 

「……あんたたち、朝から何やってんのよ?」

「はわわ、はわわわわ!? おねえったら、そんな格好で抱き合って……」

 

 んん? なんだか妙な空気が漂っている気がする。

 

 気になって横から顔を突き出すと、引き攣った表情のアネットと、その隣で赤面しながら狼狽えているサラの姿が目に映った。う〜む、やっぱりどこか妙だ。この二人の態度といい、さっきのダンの言い草といい、何か強烈な違和感を感じる。

 

「アスタ、もしかして……気づいていないの?」

「な、何がだよ」

「いや、だから貴女の今の格好……」

「今の、格好……?」

 

 オレ自身が()()()()()()()という可能性を疑うってことは、現状の体勢を指して騒いでいるわけではないのだろう。思いきり抱きつかれている最中なのに、今さら気づくも気づかないもないわけだし。となると、他に考えられるのは……身なりのことくらいか。

 

 あっ、まさか。

 

 一瞬、脳裏に嫌な予感が過ぎる。いやいや、さすがにそんなバカなこと、このオレがやらかすはずないって。そう思いつつも、滲み出る汗が止まらない。

 

「おいジール、ちょっと離れろ!」

 

 両手でジールの肩を掴み、全力で身体を引き剥がしにかかる。やがて生まれた隙間から、己の下着が覗き見えた。

 

 ……下着ぃ??!?

 

「う……うにゃぁああああああ!?」

「ありゃま、ホントに気づいていなかったのね」

「いつもは男勝りなおねえが、かわいい悲鳴を……! むふーっ、何かに目覚めそう」

「サラちゃん、目覚めちゃダメだめよ?」

 

 驚くべきことになんとオレは、下着姿のまま堂々と廊下をふらついていたらしい。その醜態を自覚した途端、名状し難い羞恥心がオレに襲い掛かった。

 

 正直、なんで気づかなかったんだよと自分を責め立てたくもなるが、そんなことにすら気づけないほどに今日のオレは余裕をなくしてしまっていたのだろう。目覚めてからの状況が状況だっただけに、仕方がないと言えなくもない。が、それはそれとしてやっぱり気づいてほしかったぜ、オレ……。

 

「あたしがアスタを着替えさせてあげている最中に、いきなり部屋を飛び出したりするから」

「ぬぅうううう」

 

 つまり、気絶している最中から、サポートが必要な幼児の如く()()()()させられていたわけか……。

 男としてのなけなしのプライドがボロボロと崩れ落ちていく音がした。

 

「それにしても、おねえってば大胆」

「たしかにね。今の格好を自覚した上で、尚も抱き合っているなんて……。いつの間にそんな情熱的な子になったのかしら」

「……はぐゎっ!?」

 

 二人から指摘されたオレは、気がつくと拳でジールを殴り飛ばしていた。

 

「ハッ、オレは何を!? すすす、すまんジール」

 

 中身は男なんだから、下着姿くらいで恥ずかしがるなんておかしい。と、昔のオレが目の前にいたら鼻で笑ったことだろう。だけど、実際に経験してみると半端なく恥ずかしいぞ、これ。

 

「大丈夫だ、僕はまったく気にしていない。そんなことより……()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ……いや、少しは気にしろよ。おまえ、下着姿の(オレ)を強引に抱き締めていたんだからな? しかも「そんなこと」の一言であっさりと片付けやがって。ふんっ、女の身体なんて見慣れているってか? これだからイケメンって生き物は。

 

「覚えていないって何を……あっ、もしかしてオレの性別のことか!?」

「いや、それは今どうでもいいんだ」

 

 どうでも良くはないんだけどぉ!?

 

 ぐぬぬぬ。この様子だと、最も付き合いが長い幼馴染のジールでさえも、オレを女だと認識している可能性が高そうだ。となると、パーティーの仲間は全滅ということになり……。うわっ、割と心理的ダメージが大きいや。拗ねて床にしゃがみ込んだオレを、ジールが心配そうに見つめている。

 

「って、今こっち向くんじゃねぇよ!」

「おっと、すまない。デリカシーに欠いたね」

「うぅううううっ」

しかし、そうか。あのことを覚えているのは僕ひとり……

 

 悲しみと羞恥で胸がいっぱいになり唸り倒していたオレは、ジールが呟いた小さな独り言を聞き漏らす。そうでなくとも聞き取れたか怪しい声量だったが。

 

「えっ、今なんて?」

「それは……いや、きっとアスタは覚えていない方が幸せなんだ」

 

 おいおい、なんだよそれ。自分ひとりで勝手に納得して誤魔化そうとしている幼馴染の態度が気に入らない。こういうとき、うっかり適当に流してしまうと後で碌な目に合わないのが世の常だ。さすがに無視できず問い詰めてやろうと立ち上がったところで、アネットが間に割り込んできた。

 

「このおバカ! いつまで下着姿を晒しているつもりなのよ。というか、そんな格好で無防備に立ち上がっちゃダメだから! あぁもう、朝から頭が痛いわね……。ほら、服を持ってきたから早く着なさい」

「むぅ、たしかに……」

「ジールとダンはこっち向いちゃダメよ?」

「わかった」「言われるまでもねぇよ!」

 

 アネットの言葉で冷静になったオレは、渋々と渡された服に着替える。にしても、相変わらずアネットの少女趣味が全開だな、この服……。あと、なんでエプロンまでセットなんだ?

 

「不思議そうな顔してエプロンを睨んでいるけど……今日はあたしやサラちゃんと一緒にお菓子を作るって約束していたでしょ? まさかとは思うけど、忘れていないでしょうね?」

 

 何それ、そんな記憶どこにもないんだけど!?

 もしかして、オレが男だった事実が消えた影響で、過去の出来事まで変わってしまったのか?

 

「お菓子作りか、ちょうど良い。よし決めた。アスタは今日、一歩も屋敷から出ないでくれ。その間に僕がなんとかしてくるから……」

 

 ちょっ、何勝手に決めているのさ!?

 突然そんなことを言い出したジールに対し、オレは唖然としてしまう。さらにアネットまで便乗して、恐ろしいことを口にする。

 

「そうね、あたしもそのつもりよ。下着姿で男子の前へ飛び出しちゃうようなおバカさんに、今日一日たっぷりと指導してあげるんだから」

「ああ、くれぐれもよろしく頼む」

 

 ジールはそれだけ言い残すと、何か覚悟を決めた様相で玄関の方へと去っていく。

 

「なあ、本人(オレ)の意思は……!?」

 

 困惑に満ちたオレの叫びが、古びた廊下に虚しく響き渡った。





アスタの生死で頭がいっぱいな幼馴染と、環境の変化に戸惑い余裕を失っているTSっ娘。

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