死に戻るたびにTSが加速する   作:こびとのまち

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何が何だかわからない

「アスタから……離れろぉおおおおおお!」

 

 屋敷中に響き渡る迫真の叫び。その声の大きさに、オレは思わず身を竦めてしまう。直後、鞘から剣を抜く音が聞こえた。

 

「ルルリルッ! 今すぐアスタから離れろって、そう警告しているのが分からないのか? なぁ!?」

 

 抜いた剣を威嚇するようにして振り上げたのは、やはりというかなんというか、オレの幼馴染であるジールだった。眼孔が開き、目尻は吊り上がり、とてもじゃないが正気とは思えない表情を浮かべている。

 

 そして、勢いそのままにオレのもとへ……いや、オレの上に乗っているルルリルのもとへとジールが詰め寄り始めたところで、ようやく皆が我に返った。

 

「ちょっとちょっと、帰ってくるなり突然どうしたのよ!? まったく状況が読めないんだけど」

「おい、落ち着けってジール。そのクソ生意気なエルフ女のことは正直どうでもいいが、てめえの大事な幼馴染まで怯えちまっているだろうが……!」

「ジール兄、だめ!」

 

 慌ててジールを取り押さえるアネットとダン。サラもオレたちの前に立って両腕を広げ、必死で盾になろうとしている。

 

「ジ、ジール……?」

 

 一方でオレは、ダンの発言を否定できないほどに驚愕し、戸惑いを隠さずにいた。だって、こいつのこんな表情、今まで一度も見たことがない……。

 

 まさかの事態に驚いているのは、怒りを向けられた張本人であるルルリルも同じらしい。ダンがどさくさに紛れて『クソ生意気なエルフ女』呼ばわりしたことにすら気づく余裕がない様子である。

 ということは、恐らくジールとルルリルの仲が以前から険悪だったという感じでもないのだろう。なら、尚更どうして。

 

「止めないでくれ! そいつは、そいつはぁあ!」

「だから落ち着きなさいっての」

「ふぐえっ」

 

 尚も激しく暴れ続けるジールの後頭部へと、アネットの手刀が容赦なく振り下される。その鋭い一打が効いたのか、やっとのことでジールが大人しくなった。ただし、眼光は依然として鋭いままだ。

 

「何をどう勘違いしたのか知らないけど、剣を抜くような状況じゃないから。ほら、もう一度ちゃんと周りを見てみなさいよ」

 

 そんなアネットの言葉に釣られ、ジールの視線がオレとルルリルへ注がれる。ゆらゆらと揺れ動くその瞳は、何かに怯えているようにも見えた。

 

「アスタ、本当に何もされていない……のか?」

「う、うん。オレは大丈夫」

 

 オレの返事を受け止めたジールは瞼を下ろし「そうか」と小さく呟くと、吐き出すように息を漏らす。そして、再びルルリルへ顔を向けた。

 

「その、急に大声を出してすまなかった……」

「い、いえ……あまり気になさらないでください。わたしも少し悪ふざけが過ぎました、から」

 

 そう言いつつもオレからは離れようとしないルルリルに、内心で「今、反省してオレを解放する流れだっただろ」とツッコミを入れておく。さすがにこの空気の中で口に出したりはしないけど。

 

「いやいや、今の流れならアスタから離れるのが自然だろうが。なんで余計に強く絡みついてんだ!?」

 

 と思ったら、空気を読まないダンがオレの考えていた通りのことを指摘してくれた。ナイスだ、やっぱりこいつとは気が合うな。

 

「むぅ、煩いですよ、バカさん」

「てめぇ、それはもう名前を覚えていないとかって域を完全に超えてんだよ! ってか、純度百パーセントの悪口じゃねぇか。いい加減にしやがれ!」

「ば〜かば〜か、むっつりスケベ」

「この女ぁ、遂に取り繕うのを辞めやがったな!?」

「どうせわたしはクソ生意気なエルフ女ですから」

 

 おっと、これは意外。ダンに『クソ生意気なエルフ女』呼ばわりされていたの、あの状況でもちゃんと気づいていたんだ。そんでもって、しっかり根に持っていたらしい。隙あらば罵り合い始めるダンとルルリルを傍観し、オレは思わず苦笑いを浮かべた。

 まあ、なんだかんだ本気で喧嘩しているわけでもなさそうだから心配する必要はないだろう。

 

 それよりも気になるのは、ジールが取り乱した理由についてだ。実を言うと、オレの中には既にひとつの仮説が生まれていた。だって、あんなのまるで■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■じゃないか――。

 

 

 

 

 夕刻、オレはエプロン姿のまま床にだらしなく倒れ込んでいた。その姿は、さながら家事に疲れた主婦か家政婦のようである。

 

「ゴブリンの群れを狩ったときよりも疲れた……」

 

 あの騒ぎの後、また夕食作りやら何やらに追われ、アネットの宣言通り丸一日かけてたっぷりと指導される羽目になってしまった。しかも、当然のようにルルリルがくっついた状態で。その結果、日が暮れる頃にはオレの女子力がグンと跳ね上がっており、なんとも複雑な心境だ。

 

 ちなみにジールは、弱々しく「軽く稽古でもして頭を冷やしてくるよ」とだけ言い残し、どこかへ姿をくらませてしまった。オレとしては、女子力なんて磨く前に話しておきたいことがあったのだが……。

 

「さてと……汗かいちゃったし、()()お風呂にでも入ってスッキリしちゃいましょ」

「ふぅ、やっと自由の身か。それじゃオレは皆が入浴している間にジールでも探しに行ってこようかな」

「行ってこようかな、じゃないから。アスタも一緒に入るに決まっているじゃないの。逃がさないわよ」

「…………へ?」

 

 ようやく一息ついたタイミングでこの爆弾発言。オレはいよいよ耐え切れなくなって、咄嗟に逃亡を図ろうとする。しかしながら、オレが逃げ出そうとすることは想定済みだったらしい。すんでのところでサラに腕を掴まれ、虚しくも逃亡は未遂に終わった。

 

「おねえ、いっつもシャワー、適当だから」

「サラちゃんの言う通りよ。アスタってば、せっかく綺麗なプラチナブロンドの髪なのに……最近どうにもパサツキを感じるのよね。この際だから、徹底的に女の子として磨いてあげるわ」

 

 ひ、ひぇええええ! 今以上に女として成長なんぞしようものなら、そのうち本気で男に戻れなくなっちゃいそうな予感がするんだ。勘弁してほしい。

 

「いや、でもほら、オレってこう見えても立派な男だから! おまえらと一緒に風呂へ入るのは、いくらなんでもマズいというか……」

「まだそんな下らないこと言っているの? よりにもよって、そんなデッカいの二つもぶら下げておいて」

「ひゃあ!?」

 

 半ば呆れた様子のアネットに胸を鷲掴みにされ、思わずオレは少女のような悲鳴を上げてしまう。

 な、なんだよ、今の可愛い悲鳴……。嘘だろ、オレってこんな声も出せちゃうの!?

 

「あぁ〜! アネットさんズルいです! わたしもアスタ様のたわわを堪能したいのにぃ」

 

 ルルリルが悔しそうに地団駄を踏みながら、縋るような上目遣いでオレを見つめてくる。

 そんな顔しても揉ませてなんてやらないからな!? ってか、なんで羨ましがってるんだ、変態め。

 

「なぁ、そういうやりとりは俺がいないときにやってくれねぇか? 屋敷内に男ひとりで気まずくて仕方がねぇんだよ……。クソッ、こんなことなら食いもんに釣られずジールにでもついて行きゃよかったぜ」

「あっ、いたんですね、ゴンさん」

「またこの流れかよ!? 相変わらず扱いが酷ぇ!」

 

 いや、屋敷内に男は二人いるんだぞ? と指摘を入れたいところだが……今のオレがそんなことを言ったところで、どうせまた変な目で皆から見られるか、否定されてしまうのがオチだろう。無駄に傷つく必要はないので、ここは我慢して黙っておこう。

 

「さ、行くわよアスタ、サラちゃん」

「うん、行く! むふーっ、むふーっ」

「うぅうう、行きたくないよぉ」

 

 そんなこんなで、オレは引き摺られるようにして浴場へと連行されるのであった。





ドナドナ。

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