ー麻雀飛翔伝ー 哭きのTS竜   作:Fabulous

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復活の章

 季節は過ぎる……

 

 時代は廻る……

 

 運命が辿る先に……少女が立つ。

 

 

 

 

 ──インターハイ 東東京個人戦予選会場──

 

 都心のアスファルトすら焼き溶かす夏の太陽の下に、全国への切符を求め熱き想いを滾らせ集った少女たちがいた。

 

 個人戦は参加人数が団体戦よりも遥かに多くその熱意も負けてはいない。

 彼女らの雄姿を見ようと観客やマスメディアが会場内にごった返す中で、一際大きなうねりが起こった。そこに肩で風を切り勝者の威風を吹かせて歩く少女達の集団が現れる。

 

 人混みは自然と左右に割れ歓声が上がる。

 

 

「臨海女子だ!」

 

「団体戦に続いて留学生達の活躍が見れるぞ!」

 

「個人戦王者奪還なるか!?」

 

 昨年度の東東京予選大会優勝校で今年度も圧倒的な強さでインターハイ出場を決めた臨海女子の登場に野次馬は色めき立ちライバル校たちは気圧される中、同校二年生のメガン・ダヴァンは隣を歩く友人の様子を窺っていた。

 

「智葉、何か心配ごとデスカ?」

 

 メガンの友人にして同級生の辻外内智葉(つじがいとさとは)は居並ぶ衆目をつぶさに観察しておりまるで誰かを探しているようである。

 

「出場校の名簿を見たか? 甲斐学園の名がある。昨年に続いて個人戦のみのエントリーだ」

 

「ハイ知ってます。でも彼女が来るのかは分かりませンヨ? あんな事件にあった訳デス」

 

「それでもだ。私はこの一年間ずっと……彼女を倒すことを目標に麻雀を打ってきたんだ」

 

「……それは私も同じデス。ある意味で彼女のおかげで私達はもっと強くなりまシタ」

 

 辻外内は昨年の団体戦には出場してはいなかった。臨海女子が常勝と言われる所以は同校の麻雀留学生をフルに投入した多国籍チーム。そこに当時一年生の智葉が入る枠は無かった。

 

 東東京で最強の臨海。しかし留学生たちが活躍すればするほどいつしか臨海は助っ人外国人頼みの中身のないチームだと揶揄する声も上がっていた。

 

 そこに彼女は敢えて足を踏み入れた。目的は唯一つ、強者との切磋琢磨によるさらなる高みへと至る為。

 

 人数が限られる団体戦にいきなり出られるとは彼女自身も思っていなかった。ならばと出場した個人戦、その進撃を止めるものは同校の同輩や先達たちでもできず一年生ながらにして決勝まで勝ち進むことができた。

 

 ──団体戦は三年生の先輩たちにとっても最後の花、ならば私は個人戦で全国の切符を掴む! 

 

 そのような決意を秘めて臨んだ決勝戦……一人の少女がフラリと現れ全てをブチ壊した。

 

 

 ──竜──

 

 麻雀大会ではほとんど無名の甲斐学園。そこに所属するこれまた無名の陰気な少女……当初はその特異な雰囲気に注目が集まったが誰もその実力に気づきはしなかった。

 

 だが異変はすぐに起こった。

 

 一人、また一人と全国レベルの雀士達がある者は悲鳴を上げ倒れ、ある者はケラケラと笑い出し気を狂わせた。竜など眼中になかった他校選手達が対局後に全ての活力を奪われたかのような無惨な風体で対局室から這い出てきた光景に、ようやく彼女らは自身の愚かさに気づいたのだ。

 

 南四局オーラス、智葉の点棒は僅かだが竜を上回っていた。全国への切符に彼女の手は届きかけていた。

 

 

「あた、背中が煤けてるぜ」

 

 

 

 耳にこびり付く言葉。目に焼き付く倒された手牌。心に突き刺さった敗北の二文字。

 

 

 再戦を誓った。勝利を夢見た。雪辱を果たす機会を待ち続けた。

 

 

 

 しかし其処に飛びこんできたのは竜の狙撃事件。続いて安否不明。その凶報を聞いた智葉は、暫し絶句したと言う……。

 

 

 失意のまま今年の団体戦のメンバーからも漏れた彼女は僅かな希望を胸にこの個人戦に出場していた。

 

 

「私は竜と対戦は出来ませんでシタ。ですがもし彼女が出場しても今の智葉なら勝てると臨海の皆が知ってマス」

 

「ふ、ありがとうメグ。団体戦は順当に全国へ出場できたことだし個人戦も私たち臨海女子が貰……お……」

 

「智葉?」

 

 会場内に入った智葉は突如、立ち尽くした。その視線の先には個人戦対戦表が表示されたモニターに釘付けとなっていたからだ。

 

「竜……」

 

 彼女は一年間思い続けてきた少女の名を見ただけで胸が張り裂けそうだった。誰も居なければ涙も流したいほどだった。

 

 ──個人戦試合会場──

 

 大会規定により予選の区分けによって智葉たち臨海女子と竜の甲斐学園の対戦は本選まで無い。しかし卓へと着いた智葉だったがその心中は穏やかではなかった。対戦相手は失礼な話だが敵ではない。彼女は勿論の事、会場誰もが一席だけ空席となっている卓をずっと凝視していたのだ。

 

「なにぃい~~! 竜選手がいないだぁ~~~~⁉ ちゃんと探したのかぁ‼」

 

「と、当然です! 控室も会場前も隈なく!」

 

「どうすんだよ! もう対局が始まっちまうぞっ!」

 

 大会関係者達の怒号入り混じるやり取りに智葉の心は沈んでいった。

 

「審判、なんとか試合開始時間を延ばせませんか?」

 

「それは出来ません。災害や機材トラブルのような余程の不可抗力でない限り試合開始時刻に対局室にいない選手は大会規定に則り失格となっています」

 

「そ、そこをなんとかっ。竜選手がいないんじゃ観客は納得しませんよ」

 

「甲斐学園さんもなんとか言ってやって下さい! ね! ねぇ?」

 

 尚も審判団に食い下がるマスコミやスポンサーは夜叉のような大男に話を振る。甲斐学園学園長 石川喬は多くの視線を集めながら平然と笑みを浮かべていた。

 

「ご迷惑をお掛けしてすんまへんが、何も心配することはおまへん。竜は来ます。必ず来ます!」

 

 石川の顔には自信が満ちていた。

 

「あ、竜選手から何か連絡でもあったんですか?」

 

「くっ……くっ……くっ。言葉など必要やあれへん。わしには分る。竜は来るんじゃ。必ず来るんじゃ~~!」

 

 だが石川の咆哮も空しく時間は刻刻と過ぎていく。扉はまだ開かない。

 

「竜選手! 甲斐学園の竜選手はいませんか! 試合開始までに着席していないと失格になりますよ!」

 

 係員の呼び出しが会場内に無情に響く。

 

 智葉は諦観にも似た絶望を味わっていた。

 

 ──やはり、竜は来ないのか? 私は、私はこんなにもお前を想って牌を握り続けてきたと言うのに……! 

 

 カチ、カチ、と会場に設置してある時計が試合開始時刻に迫る。係員はインカムからの指示を仰いだうえでもう一度会場内を見渡し竜の名を呼ぶ。

 

「竜選手! いませんかー! あと一分で失格ですよ!」

 

 だが来ない。会場外へと続く扉は微動だにせず竜が入ってくる気配すらない。秒針が50秒を過ぎた時点で審判は裁定を下す決断をした。

 

「……仕方ない。甲斐学園の竜選手は大会規定に則り失格と──」

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 全員がその音の方へと首を回した。

 

 

「り……竜!」

 

 

 智葉の心臓が強く拍動した。

 

 ──来てくれたのか! 竜! 私の為に! 

 

 竜はそこにいた。

 

 血のような真っ赤なシャツ、無骨なズボン、視線を遮るティアドロップサングラス……そして三途の川に漂うかの如き冷気を身に纏い少女は立っていた。

 

「竜~~! 遅かったやないかいっ! はよ卓に着けやぁ!」

 

 石川の怒りと喜びが混じった怒声を気にも留めず何事も無かったかのように歩みを進める竜。サングラスを外して傍の審判へ顔を見せつけると有無を言わせず着席した。

 

「これで勢揃いや。はよ始めましょうや」

 

「あ、え、あっ……ぜ、全員揃いましたので、これより全国高校麻雀大会東東京地区予選個人戦を開始します!」

 

 親である智葉は自動卓が洗牌し眼下へせり上がった配牌に目を落とす。

 

「ふっ……」

 

 彼女の自然と零れた笑みに周囲の面子は一様に不快な表情を示し、対面の三年生が口火を切る。

 

「あなた、今笑った? いくら強豪の臨海とは言え舐めないでくれる」

 

「すみません。貴女を笑ったつもりではないんです。ただ……」

 

「ただ?」

 

 

 {一九19①⑨東南西北白発中}

 

 

「牌が……牌が光って……眩しいんだ」

 

 ──数時間後──

 

「智葉! 予選突破おめでトウ!」

 

「ありがとう。メグや他の皆も無事通過出来て良かった」

 

 全ての対局を終え智葉は暫定一位と言う快挙で予選を締めくくりメガン達が待つ大型モニターが設置されている観客室に来ていた。

 

「凄い観客の人数だな」

 

「出場選手の優先席が無ければ私も入れませんでシタ。みんな()()の対局が見たいようデス」

 

 メガンの言葉通り観戦ルームは参加校の生徒たちは当然として一般客やマスコミ関係者が席に収まらず入り口の外にまで立ち見客がごった返し、中には見覚えのある麻雀プロも複数いた。

 

「竜はまだ対局を?」

 

「ハイ。彼女の卓が最後の様です。今モニターに映ってます……東三局目デス」

 

 智葉がモニターにを見上げると竜の対局が大型モニターに移されていた。

 

「スコアは暫定二位か」

 

「対局相手は三人ともスコアがギリギリで予選通過が危ういデス。死に物狂いで打ってますヨ」

 

 

 ──対局室──

 

 東三局目

 

 下家 打{8}

 

 竜 手牌

 {■■■■}

 副露

 {9横99}

 {8横88}

 {横234}

 

 ちょうど智葉がモニターに目を向けた時、竜から見て下家の打牌が河へ置かれると彼女の白磁のような青白いスラリとした手が副露牌を手牌中央に引き寄せた。

 

 {■777}

 

 {9横99}

 {8横88}

 {横234}

 

 続けざまに手牌の右端から三枚を倒し下家の顔が凍り付く。他家の息を飲む音が聞こえると同時に最後に残った牌を竜はパタリと卓へ露わにした。

 

 {9777}

 

 {9横99}

 {8横88}

 {横234}

 

 

「ロン」

 

 

「よっ……四枚目の{8}で⁉」 

 

 あんぐりと口を開けたまま固まる下家を他所に竜はじっと卓を見つめていた。

 

 

 東四局目 オーラス

 

 

 ただのポン。

 

 されど他家や智葉たち観客は竜の手が牌を手繰り寄せ卓を滑るように流れる副露に目を奪われていた。

 

 その姿、その光景は紛れもなく一年前に見たあの竜の姿だった。

 

 竜 副露   捨て牌

 {横七七七}  {②①⑧45}

 

 ──竜は萬子の清一色か……?」

 

 上家 手牌

              {横2}

 {12334568889⑦⑧}

 

 ──よしいいぞ。索子なら必ず出てくる! 

 

 打{⑧}

 

 上家 次順

              {横1}

 {122334568889⑦}

 

 ──索子は必ず出る! 

 

「立直‼」

 

 打{横⑦}

 

「カン」

 

 竜 副露    ドラ表示牌 {四6}

 {横⑦⑦⑦⑦}

 {横七七七}

 

 

 観戦ルーム

 

「ま、また哭イタ! 智葉っ 凄いデス! 智葉……?」

 

「……」

 

 智葉は無言だった。

 

 竜の哭きにどよめく観客たちとは対照的にただじっとモニターを凝視していた。

 

 ──綺麗だ。あぁ、なんて綺麗なんだ。私は、私は彼女に勝ちたい。一年前にお前を失望させたことを私は心底に恥じている。

 

 だが今回は! 

 

 今回こそお前に勝つ。お前に初めて勝つのはこの私だ。この私に決して消えない疵を刻んだお前に、今度は私が敗北と言う疵を刻んでこそ! 一年前からこの胸に溢れ全てを狂わせる激情が報われる……! 

 

竜! お前は私のモノだ……!! 

 

 

 ──対局室──

 

 上家 打{8}

 

「ロン」

 

「そ、そんな! {8}でロン⁉」

 

 全く予想だにしない捨て牌でのロンに上家は立ち上がり激高した。だが竜の動きは淀みなく流れる。

 

 竜 手牌

 {■■■■■■■}

 

「馬鹿な! その{8}は四枚目だ! 対々和はあり得ない!」

 

 下家は手牌を見渡し{8}が三枚あること改めて確認した。

 

 {五五■■■■■}

 

「すっ 捨て牌に{5}があるから{58}待ちも無いんだぞ⁉」

 

 {五五777■■}

 

「カっ カン{8}ならたっ たっ タンヤオもつつっ 付かな……い……だ……」

 

 竜 手牌

 {五五77779}

 副露

 {横⑦⑦⑦⑦}

 {横七七七}

 

「あっ、あ~~~~~~っ⁉?」

 

 絶叫した少女はまるで糸の切れた操り人形のように床へ崩れ落ち微動だにしなくなった。他の面子も竜の和了に呆然とし言葉を忘れた。その壮絶な光景にまるで動揺せず竜はサングラスを掛けると対局室を後にしていった。

 

「決まった~~~~~~! 奇跡の復活を果たした甲斐学園の竜選手! 昨年に続き今回も予選一位通過だぁ~~~~!! 全国個人戦二連覇の序章の始まりか~~~~⁉」

 

「こーこちゃん、まだ予選が終わっただけだから……」

 

 本大会の実況アナウンサーである福与恒子は力強い声量で竜の勝利を高らかに叫んだ。言ってしまえばまだ個人戦の予選の段階だがまるで優勝したかのようなテンションであるが観客たちはオーラスの竜の鮮やかな和了に大興奮の熱狂に包まれていた。

 

「ここでお知らせです! 本大会は地方予選では唯一全国LIVE放送されていますがなんと先ほど視聴率が30%を超えちゃいました! ありがとう! 竜選手!」

 

「彼女だけのおかげじゃないと思うけどね……」

 

 解説役の小鍛冶健夜プロのツッコミを福与はスルーしつつ実況に熱を上げていた。

 

「いや~しかし竜選手の闘牌はカッコいいねぇ。20年前の学生時代のすこやんより凄いんじゃない?」

 

「10年前だよ! ……でも確かに彼女は強いね。プロでも勝てる人は思いつかないなぁ」

 

「すこやんも?」

 

「う゛……答えにくいこと聞かないでよぉ。でもそうだなぁ、私も一応プロだし頑張ればなんとか勝て──」

 

「それではこれより予選一位通過の竜選手にインタビューをしたと思います! 無理だと思いますが応援して下さい! 明日の本選もお忘れなく! ではチャンネルはそのままで!」

 

「私はスルー⁉」

 

 実況席に小鍛冶プロを残し福与は竜にマイクを向けるべく走り出していった。無論、竜のコメントが取れることはなかったが、カメラの前に竜の横顔が映るその瞬間を収めようと日本全国の視聴者がテレビに噛り付いたという……。

 

 

 ──インターハイ 長野県個人戦予選会場──

 

 

「お、おい! 龍門渕だ!」

 

「団体戦に続いて個人戦も総なめのつもりか⁉」

 

「団体戦の大将も参加するらしいぞ! 全国行きは確実だな……」

 

「何にしても恐ろしい……あんな麻雀を打つ奴と絶対に卓なんか囲みたくないな」

 

──龍門渕高校──

 

 それまで六年連続で団体戦全国大会へ進んでいた名門風越女子を一年生メンバーだけで打ち破り堂々の全国出場を勝ち取った話題の高校である。

 

その高校が個人戦にも出場をする。予想できたことだが団体戦の暴れ振りを知るライバルたちは早くも悲愴な覚悟を抱いていた。

 

「フフフ! 目立ってますわっ 目立ってますわっ 個人戦も団体戦同様目立ちまくって勝ちまくりですわ!」

 

「個人は上位3名だけが全国行きだから最終的にはつぶし合いになるぞ?」

 

「そーそー。それに目立ちすぎると対策もされちゃうし油断は出来ないよ」

 

「……団体戦の対局を見るに警戒すべき相手はいるけど必要以上に恐れる必要はないよ」

 

 会場へ向かう龍の集団に誰もが畏怖し道を開けた。彼女らが通り過ぎ、ほっと胸を撫で下ろそうとした所に更なる暴風が襲来した。

 

 

 龍の集団の後方に、一頭の怪物が現れる。

 

 130㎝にも満たぬ身長に夏の日差しにも負けぬ金の髪を靡かせ、怪物は背に昼間とは思えぬ巨大な月を背負い眼光は鋭く不気味に輝き光っていた。

 

 龍門渕高校一年 天江衣(あまえころも)

 

 麻雀を打つが為に生まれてきたような少女である。

 

 

彼女は十一の時 ()()()()()()

 

 

 彼女は引き取られた龍門渕家にて孤独の極みにいた。

 

 だから、友を欲したという。

 

 もう一度あえて言う。

 

 十一の夏、彼女は両親を喪った。

 

 彼女、天江衣。

 

 生まれついての『怪物』である。

 

 

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