スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

1 / 11
前書き

お恥ずかしながら投稿させていただきました。
理由は後書きで。

――――――――――――――――――――――――――――――


第1話

 それは、宇宙全体からすれば小さな、されども一つの星から見れば極めて大きな戦争が最終局面に向かっていた時だった。

 

 

 地球の衛星軌道上に、一体の機動兵器が漂っている。

 禍々しさと荘厳さが合わさり、まるで王の様な偉容を醸し出していた。

 

 だが、その機動兵器は戦いに負けてしまった。その代償として本来ならばかなりの巨体を誇っていたであろうその姿は、胴体と首、そして片腕だけとなり全体から火花を飛ばし、哀れな骸を暗黒の宇宙に晒していた。

 人が乗り込んで操る筈のそれはコックピットが丸ごと吹き飛び、主を失った機体はただ宇宙空間に漂う事しかできない。

 

 そして、その禍々しい機動兵器が漂流している場所から少し離れた宙域では、サイズも機種も全く違う様々な機動兵器達が一堂に集結している。

 禍々しい機動兵器は彼らと戦い、そして破れたのだ。

 

 

 その彼らが、一つの巨大な衛星に対して一斉に攻撃を仕掛けていた。

 衛星が何者かの悪意によって地球へ落とされようとしている。それを阻止せんと、機動兵器達は攻撃を続けるがしかし、その衛星は直径10キロ以上はある。並大抵の攻撃では表層を削るだけで砕くには至らなかった。

 

 機動兵器達は果敢に衛星を止めようと奮闘するが、それを嘲笑うかのように衛星は徐々に地球へと近づき、とうとう大気圏間近にまで接近を許してしまった。

 

 

 衛星が、落ちていく。

 止められなかった事に機動兵器達は無力感に苛まれたのか、動きを止めていく。中には押し返そうと衛星へ突っ込もうとする機体もいたが、仲間達に止められていた。

 

 これによって多くの命が死んでいく。それを止めたくて彼らは戦った。しかし、どうにもならなかった。

 

 

 絶望が辺りを満たし始めた時、一隻の戦艦が赤く巨大な機動兵器を伴い衛星へと向かった。

 それに呼応するかの如く、もう一隻の緑色の戦艦が続く。

 

 

 自棄になったのか? いや違う。

 赤い機動兵器を連れた戦艦は、確かに不屈の意思を秘めて向かったのだ。

 

 

「イデよ! お前が何を求めているのかは分からない。しかし、お前の導きによって我々は此処に来た。そして今、心からこの星が救われる事を願う!」

 

 

 赤い機動兵器を連れた戦艦に乗っている男が、何者かに向けて叫ぶ。

 地球を守ろうというその願いは、偽りではない。

 

 

「だから、だからもう一度お前の力を! 全ての未来と過去に可能性がある限り、俺は信じ続ける! 人は分かり合えると言う事を!」

 

 

 そして、その願いは何者かに届いた。

 突然赤い機動兵器から計り知れない力が溢れ出し、そして次の瞬間、赤い機動兵器を中心に光が広がった。

 それは、一個の機動兵器が持つには余りにも大きな力の発現だ。

 

 

 その場所からやや離れた場所に漂っていた、禍々しい機動兵器の残骸もその光に飲み込まれる。

 大勢の人たちの意思が、大いなる力を喚起させたその瞬間に立ち会ったのである。

 

 

 禍々しい機動兵器は、火のともらぬその両の眼部でその全てを見ていた。

 

 

 ……本来、この禍々しい機動兵器の大元は、地球を守るためにある科学者が心血を注いで作りあげたものだった。

 その性能は現行の全ての機動兵器達の上を行く、“究極のロボット”を目指して開発され、そのコンセプトに恥じないポテンシャルを秘めていた。

 

 しかし、制作者が亡くなった後はその性能に目をつけた多くの人間達の私利私欲に利用された。この機体も、オリジナルを参考に作られたコピーに過ぎない。

 そして挙句の果てには、本来の目的から大きく逸脱して地球を危機に陥れる片棒を担ぐ役目すら担わされる始末だ。

 

 

 生みの親である科学者がそれを知ったらどれだけ悔やんだことだろう。

 もしかしたら、今向こうで衛星から地球を守ろうと奮起している機動兵器達の中に混ざって、その力を十二分に振るっていたのかもしれないのに。

 

 

 心を持たぬ機械の体では何も思いはしないだろう。

 だが、生みの親の想いだったならばあるいは……?

 

 

 光に飲み込まれていく最中、その機動兵器に異変が起きた。

 

 もしかしたらそれは、偶然デブリがぶつかった事で生じたものなのかもしれない。

 

 

 それでも確かにその機動兵器は、傷付き欠損したその鋼鉄の手を、大いなる力の奔流の中にいても尚青く輝く地球へ向けて伸ばしていたのだ。

 

 

 

 光が止み、再び宇宙が暗い闇に染まったその時、衛星――アクシズはその姿を欠片も残さず消えてしまった。赤い機動兵器とその戦艦達――イデオンとソロシップ、そしてバッフクランの戦艦と共に。

 

 だが、その光によってにもう一体の機動兵器も姿を消していた事を、誰も知らない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 新西暦175年。

 西暦2015年に地球連邦政府が年号を改称してから2世紀近くが経った頃に、それは地球圏に姿を現した。

 

 大気圏外から現れたのではなく、突如として何もない空間から現れ、その身を南アメリカ大陸北部のギアナ高地へと落着させたのだ。

 

 最初の発見者は、当時現地を観光に来ていたツアー客達だった。

 エンジェルフォールの遊覧飛行の最中にギアナ高地上空からテーブルマウンテンへとその身を落とす姿を見たツアー客達は、パニックに陥りながらも地元の警察へ連絡した。

 しかし、それを見た警察達も大いに困惑した。何分、自分達の領分を越える物なのだ。おいそれと判断が出来ない。

 警察は政府へとその判断を任せ、政府はその案件をある機関へと回した。

 

 テスラ・ライヒ研究所。

 宇宙暦171年に設立されたオーバーテクノロジーを取り扱う総合研究機関だ。

 設立されてからさほど年月の経っていない機関だ。

 しかしそこに在籍する研究員達は皆世界でも極めて優秀な人材達で、度々新しい技術を発明しては世間を賑わせ今後の活躍が期待されている。

 

 そんな研究所から派遣された調査隊は、現地でそれを見て驚愕する。何せ今の時代であのような物は“未だ”存在しないのだ。

 

 何故この様な物が、と疑問を抱くがそれ以上に大きな期待と未知への好奇心に胸を膨らませ、目を輝かせている者達が大半だった。

 

 研究所へ持ち帰って詳しく調べる必要があると判断した調査隊は大型輸送機を手配し、機内へ運び込まれるロボットの姿を感嘆の声を漏らしながら見上げた。

 

 それは推定50m以上にもなる青い人型のロボットの残骸だった。

 胸から肩にかけて大きく肥大したボディに辛うじて残った片腕と頭部だけしか存在しておらず、酷く損傷していた。

 残ったボディは曲線で形作られたパーツで構成されており、刺々しさも相まって、かなり威圧的な印象を与える禍々しい外観をしている。

 ボロボロの外観だが、その恐ろしげな姿から現地住人はまるで怨念を抱いて眠りにつく悪魔の様だと不気味がっていた。

 

 成程、確かにどこか悪魔じみた外観をしている。友好的な面構えとはお世辞にも言い辛い。

 調査隊に参加した研究員の男は、件のロボットの搭載作業を着々と済ませながら現地民の言葉に同意し、呟く。

 

 

「まあ、悪魔かどうかはテスラ研に戻れば分かる事か」

 

 

 このロボットの正体は一体何なのか。

 どこぞの物好きが作ったガラクタか、それとも虚空の彼方より出でた未知の文明のひとかけらか。

 

 

「こいつを調べるのは中々に楽しそうだが、さて……どうしたものかね」

 

 

 この時調査隊に参加していた研究員の男、ジョナサン・カザハラは研究者として沸き上がる知的好奇心と共に、言葉に出来ない不安の様な感情が過ぎっていた。

 

 

 

 新西暦175年

 南米アメリカ大陸北部ギアナ高地で未確認の巨大人型ロボットを発見。「UR-1(UnKnown Robot =未確認機械第1号)」と命名され、世間には「出自不明の謎のロボット」という触れ込みで一躍有名となった。

 テスラ・ライヒ研究所に運び込まれて調査を行った所、地球の技術に酷似している箇所と、全く未知の技術が使われている箇所がある事が判明した。

 だが、その未知の技術のほぼ全てがブラックボックスと化しており調査は難航。解明出来た一部の技術の実用化に力を注ぐ方向へと徐々にシフトする。

 

 

 新西暦177年

 UR-1のブラックボックス部の解析が一向に進まないまま続いた調査は突如凍結。

 理由は公表されず、UR-1は新設した特殊格納庫へ封印処置を施される。

 

 

 この時期を境にUR-1は少しずつ世界から忘れ去られて行く事になる。

 UR-1の存在は、そのまま時の流れと共に記憶と歴史の中に埋没して行くかに思われた。

 

 

 そして、時は進み、新西暦179年の事だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それは突然喚起する。

 もしかしたら、必然だったのやもしれないが。

 

 

 濁流の如き奔流の波から溢れ出たのか、もしくは狙い澄ましたかのように掬い上げられたのか。

 

 電源が切れていた筈のディスプレイに光が灯る様に、“彼”は目覚めた。

 

 

(……う、ううう!?)

 

 

 視界がスパークする。

 熟睡している最中に、突然照度の高いライトを浴びせられた様な気分だ。

 意識が朦朧としており、どうにも体の感覚が良く分からない。

 “彼”は仕事の疲れに身を任せ、帰宅後そのままベッドへ倒れ込むようにして爆睡してしまった筈だったのだが、目覚めてみれば見知らぬ場所。幾ら寝ぼけた頭でも疑問に思わざるを得ない。

 

 

(何だこれ、一体……)

 

 

 目覚めた瞬間の出来事で、“彼”は訳が分からないながらも辺りを見回した。

 視界が暗い。だが、“彼”は暗闇の中でもしっかりと回りが見えた。目が慣れた、にしてはいやに鮮明すぎるが。

 そして何より首が上手く回らない。首を大きく回そうとした瞬間、大きな鉄の塊がぶつかった様な音が響いた。

 しかもそれが頭に響く、何故だ。そう思って頭に手をやろうとした時、“彼”は驚愕する。

 

 

(う、腕が!?)

 

 

 伸ばした右腕は、”赤い”鉄の腕だった。

 曲線で構成された物々しい腕の先には、角張った指が鋭い爪を備えており、先程“彼”が顔を触ろうとしたため指を広げた状態のまま固定されていた。

 

 彼は慌てて自分の体を上手く回らない首を動かして見回す。

 右腕と同じ造詣の左腕には鋭く長い先割れた盾の様な物体が取り付けられており、両の腕は良くて上へ100度上げられれば良い方と、随分と体が動かしにくくなっていた。

 胸部が鎧の様な構造物が前へせり出している状態なので下半身がろくに見えなかったが、両肩が大きく刺々しい構造をしていると言う事が判明した。

 両の脚はしっかりと付いており、今自分の態勢は直立したままだった事が分かった。

 

 

(……嘘だろう?)

 

 

 ここまでくれば、仮に非現実的であっても自身がどんな状態に置かれているのかが何となく理解できてしまった。

 

 

 “彼”は、自身の体がロボットになってしまったらしい。

 

 

 その事実が胸に痛く響く。

 つい先ほどまで、自分は人間だったのだ。

 会社に勤めて、日々の暮らしを特に問題も無く過ごしていた普通の人間だったのに、何故。

 

 試しに右手で左人差し指を握り、少しずつ力を入れて逆方向へと折り曲げてみる。少し軋みを上げるだけで痛みは無く、ビクともしなかった。

 痛みは無い、ならばこれは夢なのか。そんな淡い期待が込み上げてくるが、ロボットにそもそも痛覚なんぞあるのだろうかと疑問に思うし、状況があまりにもリアルすぎる。

 

 

(……まずい、会社に連絡出来ないぞ。部長にどやされる)

 

 

 こんな状況では会社もへったくれもないのだが、“彼”は一種の現実逃避に陥っていた。少しでも精神の均衡を保とうとする悪あがきである。

 

 

 しかし、何時まで経っても進展が無いので、“彼”は諦めて現状を再確認する事にした。

 

 時間と場所は全く分からないが、自身のいる場所は鉄の壁で出来た何処かの倉庫の様だ。大きさは、“彼”が入るだけ程度の小さなスペースしかない。

 しかしその作りは機械的で、ドラマ等で見かける港の倉庫群の様な物ではなく、まるで何かの格納庫の様な近未来的な構造をしていた。

 

 さしずめ自分の様なロボットの収納スペースなのだろう。其処に自分は立たされたままの状態で置かれている。

 ここ以外にも、自分の様にロボットにされた者が収納されているのだろうか。

 

 

 そう考えた瞬間、“彼”は背筋に怖気が走る様な錯覚を感じた。

 見知らぬ人間を拉致してロボットに改造し、そして利用する。そんな、まるでどこぞの悪の組織が行うかのような悪行が思い浮かんだのだ。 

 

 そして自分はまだ自我がある。いずれは人格まで弄り回され、組織の良い操り人形とされてしまうのではないか。

 あり得ない話ではない。何せ今現在もあり得ない状況が続いているのだ。何が起ってもおかしくは無い。

 “彼”はますます自身のおかれた状況に危うさを感じ、恐怖が込み上げてきた。

 このまま此処にいては、自分は完全に自分では無くなってしまうんじゃないか。そんな最悪の可能性が“彼”の心に警鐘を鳴らした。

 

 

(冗談じゃない、こいつはぼやぼやしてられないぞ)

 

 

 人格を変えられてしまう事は、“彼”にとってみれば死と同意義だった。

 恐怖に駆られた“彼”は体に力を込め、その場から2本の脚を動かして目の前の扉まで近付いた。

 足の形状の問題か、歩くのが少しギクシャクする。踏み込むたびに重い足音が格納庫内に響くが、それに気付かない“彼”は扉の前でふと止まった。 

 外に警備がいるかもしれない。そう考えられる位には余裕のあった“彼”は、壁に耳を当てるなんて芸当が出来ないため困り出した。

 

 

(どうやって向こう側の様子を探れる?…………そうだ、ロボットだからセンサー類が付いているかもしれない)

 

 

 “彼”は急いでセンサーの起動を試みたら呆気なく起動した。視界の隅に四角いウインドウが浮かび上がり、センサーが起動する。

 どうやらシステムの動作機能は思念一つで自身に組み込まれたコンピューターが対応してくれるらしい。

 

 起動した事への安堵も忘れ、彼が倉庫の外の様子をセンサーで探り、その結果を見て戦慄した。

 

 

(何かが近付いている……数は……50!? 嘘だろっ!?)

 

 

 詳しい事までは分からないが、かなりの数の物体が此方へ接近しているのが分かった。

 

 

(まさか、此処で動いたのがばれて取り押さえに来たのか!?)

 

 

 考えてみれば、此処はロボットを格納する場所だ。そんな場所に、ロボットを管理する機能が備わっていたっておかしくは無い。しかし、幾らなんでも数が多すぎる。其処までして此方を取り押さえたいのか。

 

 恐怖に駆られて軽率に動いたのが不味かったのか。

 自分の迂闊さに悪態をつきたくなったが、そんな事を許してくれる様な時間は無い。こうしている間にもセンサーには大量の何かが此方へと確実に近付いて来ているのだ。

 

 

 慌てている暇すらない。“彼”は急いで目の前の扉をこじ開けようと腕に力を入れた。

 ジワジワと扉がひしゃげ、光が差し込んで来る。

 だが、最後のひと押しが足りないのか、扉は中々開かない。

 

 

(こうなったら……武器は、何かないのか?)

  

 

 素手で駄目ならば武器で破壊してこじ開けるしかない。

 “彼”は急いで自身に組み込まれたコンピューターに問い掛けた。

 ロボットなら武器の一つはあるかもしれない。そんな安直な発想から試みた事だが、武装らしき物のリストが表示された。

 

 それを見た“彼”は絶句する。

 

 

(……何だって?)

 

 

 武装リストに載せられた名称に間違いが無いか何度も見直した。しかし間違いが無いと分かった“彼”は顔を少し俯かせ、そして再び顔を上げて武装を選択した。

 

 彼が右腕を前に向けると、右腕に備え付けられていた手甲のパーツが中央から左右に分かれ、中から砲身がせり出してくる。

 出力は低めに抑える。最大出力で使用すれば何が起るか分からない。今は目の前の扉を破壊出来れば良い。そして。

 

 

(クロスマッシャー、発射)

 

 

 それは放たれた。光の濁流が赤と青のエネルギーを伴って突き進み、いとも容易く倉庫の扉を貫いた。

 目の前にあった扉は跡形もなく破壊され、その余波で倉庫に大きな穴が空いた。

 

 エネルギーの放出が止まると、左右に分かれたパーツが砲身を引っ込め元の手甲の形状へと戻る。

 “彼”はそれを確認すると、光の射す穴の外へと歩き始めた。

 

 その際中、光の向こう側から大量の砲撃が雨あられの如く降り注いできた。先の一撃への反撃なのだろう。

 しかし、“彼”はそれをものともせずに進む。

 直撃し、内蔵された火薬が炸裂して無数の爆発を起こす。それによって倉庫が原形を失う程に崩れてしまうがしかし、“彼”の体にはビクともせず、焦げ付きすら付かなかった。

 

 

 倉庫の残骸から姿を現した“彼”を待ち受けていたのは、研究所と思しき施設と一面に広がる荒野、そして多数の兵器群だった。

 兵器群は、見た事の無い戦闘機や戦車で揃えられており、“彼”を包囲するように集結している。

 

 しかし、“彼”は先程の様にうろたえてはいなかった。

 未だ困惑してはいるが、少しは物事を冷静に考えられる程度には落ち着いてきた。

 

 

 “彼”が当初恐れていたロボットへの改造の件だが、それは大きな間違いだったらしい。

 何故なら、こんな“巨大なロボット”に人間を改造する事など、“彼”の常識から考えて無理があると思ったのだ。

 てっきり人間よりも一回り大きいサイズ程度の認識だったのだが、全くの見当違いだった。

 

 そして今の自分の体が何なのかも分かってしまった。

 自分の体と、特に武装名を見た時に、その名前に見覚えがあった事である可能性が浮かび上がった。

 そして、念のためにコンピューターに自身のボディの名称なり形式番号なりを問い合わせてみた所、出てきた名前を見て確信に至った。

 

 何せ、自分が昔やっていたゲームに登場するロボットだったのだ。しかも味方側では無く、敵側のボスでだ。

 ボディの形状はゲームだと大分ディフォルメされていた事もあって、目に付くパーツを見た限りでは判断がしきれなかった。

 

 

 それは、地球の危機を知らせるために敢えて世界の敵になろうとした天才科学者が作った機動兵器。

 全長57mを誇る巨体。当時現存するロボット達のどれよりも強くあらんとして生まれた通称“究極ロボ”

 “彼”の知るゲーム――スーパーロボット大戦では最期の敵を務めた事もあった機体だ。

 

 

 EI-YAM-001 ヴァルシオン。

 

 それが、今の“彼”の名前だった。

 

 

 そんな“彼”からすれば、戦車や戦闘機が幾らいようがおもちゃも同然の戦力差だ。

 過去に超科学で生み出された多くのスーパーロボット達を恐怖のどん底に叩き落としたその性能ならば、戦車や戦闘機の砲弾が何発当たろうがそよ風と変わらない。

 故に彼には考えられるだけの余裕が生まれた。機体の性能に助けられたと言った所か。

 

 

 “彼”の周りを包囲している兵器達はあれから攻撃する素振りを見せない。此方の出方を窺っている様だ。

 “彼”にはもう攻撃するつもりは無い。先程のクロスマッシャーもあくまで倉庫から出る為に撃っただけで、敵対の意思は無いのだ。見た所、直撃した機体は無かったらしいので彼は少し安堵した。

 とは言え、相手方が此方をどうするつもりかによってはまた対応が変わって来るのだが。

 果たしてこの状況をどうした物かと考えていると、向こうから通信があった。

 

 大人しく“彼”が通信を受けてみると、案の定というか、目の前の兵器達の指揮官らしき男からのものだった。

 

 

『こちらテスラ・ライヒ研究所所属の戦車部隊。UR-1、貴官は包囲されている。大人しく武装を解除して投降せよ』

 

 

 どうやら投降の呼びかけだったらしい。従うかどうかはまだ判断しかねる。

 しかしそこで“彼”は聞き覚えのあるキーワードを耳にした。

 

 

(テスラ・ライヒ研究所? 今そう言ったのか?)

 

 

 であれば、この世界はスーパーロボット大戦の世界なのか。

 ならばその研究所とは、今“彼”の視界に見える白い建物の事なのだろう。

 ヴァルシオンがいるのだから、それに伴ってテスラ研があるのは別段おかしな話ではない。

 

 しかし、何故ロボット兵器が出てこないのだろうかと彼は内心首を傾げた。

 此処の研究所は他の研究所同様かなり重要施設の筈だ。原作主人公が乗り換える後継機が此処で開発されるのだから、低いわけがない。

 

 

 それに、さっき戦車兵がこちらを呼んだ際に口にしたUR-1という単語も不可解だ。

 ヴァルシオンの形式番号は“彼”が知る限りではEI-YAM-001しかない筈だ。

 何かのコードネームならば話は変わって来るのだが……。

 

 

 ますます持って分からない。“彼”には現状を判断する材料が足りなさ過ぎた。

 

 

 先程からこちらへ声を呼び続ける戦車兵の声が少し荒くなってきた。

 何度声をかけても応答が無い事にイラつき始めたのだろう。

 

 

 ……テスラ・ライヒ研究所ならば悪い様にはされないかもしれない。

 いくらヴァルシオンといえども、メンテナンス無しではいずれ機体に不具合が起きてしまうだろう。そう言った意味では此処にいた事は幸運だった。

 そこらの軍事施設に預けられるよりは、よっぽど信頼が出来そうな場所だ。研究所という性質上、分解される可能性は否定できないが、其処は出来るだけ譲歩してもらうしかない。

 “彼”は過去にプレイした経験からそう判断し、呼びかけに応えようとしてはたと思い付いた。

 

 

(……俺は喋れるのか?)

 

 

 事ここに至ってぶつかった問題点。ロボットの体になった自分に言葉が話せるのか?

 

 慌ててコンピューターに言語機能についての問い合わせを行って見た結果、あった。

 ボイスチェンジャーに地球圏全ての言語の翻訳機能、プログラムの打ち込みによる発声機能、果てには未知の言語の解析プログラムまで搭載されている。最後の機能に関しては、もしかしたら宇宙からの侵略者とは戦う以外に、対話をする可能性も密かに想定していたのだろうか。

 こいつは渡りに船だと、彼は早速ヴァルシオンに積まれている機能を駆使して会話を試みた。

 

 

「……先程から呼びかけている者、応答せよ」

 

 

 “彼”は慎重に言葉を選んで相手に投げかけた。映像通信を想定し、コックピットが見えない仕様だ。

 最初はヴァルシオンの名を告げようかと思ったが、もう少し様子を見てから判断する事にした。 

 軍隊式の言葉なぞ、アニメや漫画等でしか知らないので下手に使っても墓穴を掘るだけだが、かといって変に下手に出る様な言葉を使っても下に見られそうだ。

 悩んだ末、少し機械的な言葉で相手をする事にした。

 

 声は20代男性の良く通る様な音程にしている。人間だった頃の自分の声は、お世辞にも聴きやすいとは思えない。ならば変に自分の声に拘るより、円滑にコミュニケーションを取れる方を選択した。

 果たして此方の言葉は通じたのだろうか。返事を待っていると、戦車隊から返事が返ってきた。

 

 

『…………聞こえている、貴官はUR-1のパイロットか?』

 

 

 緊張している様な声が返って来た。

 妙な質問である。このヴァルシオンはテスラ・ライヒ研究所で作ったか、または預かりの機体で、それに自分が乗り移る様な形を取ってしまった事が発端となり、向こうは何者かがこのヴァルシオンを勝手に動かしているのだと思っていたのだが、何かが違う気がする。

 パイロットというのは正式な乗り手の事を言うのであり、この場合相手が此方に投げかける言葉は「動かしている」と言った方が適切だろう。

 

 

 正式なパイロットが今までいなかったのか?

 だが、それにしたってこの反応は何かが変だ。

 ……もしかしたら、自分は何か大きな勘違いをしているんじゃないのだろうか。“彼”はその勘違いが何か分からず密かに焦った。

 

 

「……質問の意図が分からない。詳しい話の出来る人間との対話を要求する」

 

 

 今の彼にはそんな返事が精一杯だった。

 一体どのような言葉が発端でこの状況が悪い意味で崩れるのか分からないのだ。

 まるで、地雷原の中を地雷を探しながら前へ進んでいるかのような気分だった。

 

 暫くすると、先程まで応対していた戦車兵は「……少し、待って欲しい」と言ったきり連絡が切れてしまった。

 

 

 あの発言は不味かったのだろうか。

 互いに沈黙が続く程、“彼”の中で後悔の念が増し始めて来た所で、事態に変化が起きた。

 先程の戦車兵のとは全く別の人間が通信を入れて来た。

 

 その人物の名前を聞いて、“彼”は今日一番驚愕する事になる。

 

 

 

 

 

『テスラ・ライヒ研究所代表のビアン・ゾルダークだ。UR-1よ、応答せよ』

 

 

 ビアン・ゾルダーク、その名前はヴァルシオンと切っても切れない存在だ。

 何故ならば、彼こそがこのヴァルシオンを作り上げた生みの親なのだから。




――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

前歯を抜歯する事になったので、その絶望感を紛らわすために書いてしまった……。

何だと!? 歯は32本あるんだぁっ!(ヤザン的な意味で

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。