スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

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前書き

あの後抜歯しましたが、更なる試練が!

この話は1万文字以上ありますので、読む際はお気を付け下さい。

――――――――――――――――――――――――――――――


第2話

(ビアン・ゾルダーク! 本物か!?)

 

 まさかヴァルシオンの制作者本人がテスラ・ライヒ研究所から出て来るとは思いもしなかった。通信機の向こうで大勢の人間達のどよめく声が少し聞こえるので、研究所の管制室あたりからのものだろうか。

 声に関しても、ゲームの声と同じ辺り声優とかそういう要素とは何か別の不思議なものを感じてしまう。

 

 しかし、ビアン・ゾルダークとテスラ・ライヒ研究所には何の関連性があるのだろうかと“彼”は疑問に思った。

 彼の知っている知識の範囲は、SFCのEXからPSのα外伝位までで、それ以降のシリーズにはとんと疎い。テスラ・ライヒ研究所といえばグルンガストやヒュッケバインが造られた場所という認識が“彼”には強かった。あとはビアン博士もテスラ研も、版権作品と言うものが存在しないゲームオリジナルの設定と言う点だろうか。

 どうにも関係が分からず反応に困ってしまったが、それを悟られまいと“彼”はビアンの声に応えた。

 

「貴方が代表者か。ならば、今の状況を詳しく説明できる人物と言う認識で相違ないか?」

 

『その認識で間違いない。それで、君は何が知りたい?』

 

 その声には臆した様子は見られない。

 流石は、世界を敵に回した男と言った所なのだろうか。肝っ玉の出来が違うらしい。

 

 知りたい事は沢山ある。この世界はどういった状況で、何故ビアンはヴァルシオンをUR-1と呼ぶのか。

 

 ヴァルシオンが完成して間もないが為に、まだ正式名称が決まっていないのではという可能性も考えたが、何だかこの人らしくないなと思ってしまう。

 “彼”の知るビアン・ゾルダークとは天才科学者にして、あらゆる分野においても極めて優秀という完璧を体現したかのような傑物であり、地球を守るためならば我が身を世界の敵として犠牲にする事も厭わない人物でもあったと記憶していた。もっとも、別のシリーズでは敵対せずに自分の立ち上げた組織を人類の味方としてそのまま存続させたケースもあるので、全てがそうとも言い切れないが。

 

 考えても埒が明かないし、このビアン博士相手に腹芸でどうこうするのも土台無理そうなので、“彼”はストレートに答えた。

 

「現在、当方を取り巻く全ての事についてである。今の事態は、当方にとっても想定外である」

 

『ならば、先程の砲撃にはどのような意図があって撃ったのだ?』

 

「当方が収納されていた格納庫から出るためであって、敵対の意思は無い。巻き込まれた者がいるのか?」

 

『戦車が何台か衝撃で横転した様だが、幸い隊員は皆軽傷だ』

 

 “彼”はその言葉に、内心胸を撫で下ろしていた。

 死者が出ていたら、今後の話が不利になる可能性が大きかったと言う打算的な懸念もある。しかし、無意味に他者の死まで望んではいないのだ。

 しかし、此方に弾薬の雨あられをお見舞いしてきた相手に対して随分と寛大だとも思う。普通だったら恨みつらみの一つくらいは抱いてもおかしくは無い筈だ。

 これも、自分の体であるヴァルシオンと他者との間に圧倒的な力の差があるからこそなのだろう。傷一つ付かないのならば気にする必要は無いのだと、まるで上から目線でいられるのだ。

 そう考えると、我が身の傲慢さとあさましさを垣間見た気がして、“彼”は少しばかり気が重くなった。

 

 だが、時間が“彼”に感傷する暇を与えなかった。

 “彼”が最後に言葉を発してから様子を窺うように沈黙を保っていたビアンから再び通信が入った。

 

『UR-1よ、……君は自分の身に何が起きたのかを知りたい。そうだな?』

 

「そうだ」

 

『……』

 

 今度はビアンが沈黙した。

 此方の言葉の裏に隠された真実を探ろうとしているのだろうか。

 尤も、仮に腹の探り合いになってしまったら、勝ち目は薄いのではと“彼”は危惧した。

 何せ相手は天才科学者と言う枠から大きく逸脱した超人の様な男だ。多くの組織を取り込み、DC(ディバインクルセイダーズ)を立ちあげて瞬く間に世界の8割を支配下に置く程の事をやった事だってあるのだ。中小企業で働くサラリーマン程度の人間が舌で太刀打ち出来るとは、悲しい事に思えなかった。

 

『UR-1よ、出来ればそちらと直接話がしたい』

 

 少しの沈黙の後、ビアンからそんな言葉が返ってきた。

 

『一対一で、誰からも口出しはさせない。どうだ?』

 

(一対一……話をする分には良いだろうが……何を考えているんだこの人は?)

 

 何か裏があるのでは、と〝彼”は先の提案に疑問を抱く。自分と一対一で話をするという事は、ヴァルシオンと相対するという事だ。相手はその事を分かっているのだろうか。

 

 しかし、どこかでビアンを信じたいと思う気持ちも〝彼”にはあった。

 

 ビアン・ゾルダークという人物像は、作品によって2種類ある。

 

 ひとつ目は、DCによって世界征服を行おうとした事。いわゆる悪の親玉であった。

 ふたつ目は、DCを設立しても世界征服を行わず、地球を守るための組織の長としてあり続けた。

 後者に関しては、ビアンの存在がストーリー上行方不明という事で一切登場しなかったため、人物像が今一つ分からないが基本的には前者の時と同じと見て良いだろう。

 

 

 彼は善と悪という相反する姿を見せていたが、しかし変わらないものもあった。

 

 それは、ビアンという男が純粋に地球を愛していた事だ。

 世界征服を計画したビアンも、結局は人類の意思を統一させ、宇宙からくる侵略者達に対抗しようとしたが故の結論だった。

 

 被害者からすれば、ただの言い訳に過ぎないだろう。どれだけ綺麗事を並べても、無慈悲な暴力によって多くの血が流れたのは紛れもない事実なのだから。

 だからこそ判断の難しい人物だった。

 

 しかし、それでも彼は自分と話をしているこのビアン・ゾルダークにも、そんな心がある事を期待してみたくなった。

 そもそもの話、今ここがスーパーロボット大戦の、どこの時間軸の世界なのかが全く分からないのだ。それによってビアンの立ち位置も違うため、決めつけも良くないと思った。

 

 

「…………その提案を受けよう。方法はどうする?」

 

 〝彼”は悩んだ末、ビアンの話に応じる事にした。通信機の向こうで、研究所の職員であろう者達のどよめく声が聞き取れた。

 

 この研究所を、ビアンゾルダークをネガティブな印象で見るのはまだ早計過ぎる。

 彼らの態度を知ってからでも遅くはないはずだ。

 

『今からそちらへ向かう、少し待って欲しい』

 

 〝彼”が了承の旨を伝えると、通信の向こう側で慌てて引き留めようとする声をBGMにしながらビアンは通信を切った。

 そして少しすると、研究所の方角から装甲車が一台こちらへ向かって来た。

 

 慌てて戦車達がそれに道を開けようと動き出し、そこへ装甲車が進み、彼の近くで止まった。

 距離で言うならば500mといった所か。装甲車の扉が開き、そこから一人の男が現れる。 

 

 青みがかった黒髪を後ろへ倒し、口の回りにひげを蓄えた三十半ばの男性だ。強い意志を秘めた目を持つその姿は、“彼”が画面越しに見ていたあのビアン・ゾルダークだった。

 服装に関しては、白衣を羽織った研究者然とした姿をしているが、白衣の裾が風にたなびくその姿がとても様になっていた。俗に言う所のダンディズムというやつだろうか。

 

 

 ビアンは装甲車の中にいる運転手へ声をかけると、一人でこちらへ歩いてきた。

 随伴者は誰もいない。強いまなざしをこちらへ向けながら、ビアンは本当に一人で話をしに来たのだ。

 

 すさまじい胆力だ。普通の人間ではこんな選択はしない。それがビアンをビアン足らしめている所以なのか。

 荒れ地の砂を踏みしめながらこちらへ歩いてくるビアンの姿には一切の迷いが無い。

 周囲を囲う兵器たちの輪から一人離れ、まるで啓示を受けた賢者のようにビアンが進む。

 

 〝彼”は微動だにせず、ビアンが来るのを待っていた。

 たったの500m程度の距離だ。 しかし、それが〝彼”にはとても長く感じる。そこで気負っているのが自分の方だと分かり、深く深呼吸をしようとして……今の自分には呼吸器官が存在しないことを思い知った。

 

 ビアンが〝彼”の足元に着いた。

 その身長差はもはや人とビル位の違いがある。

 〝彼”が見下ろし、ビアンが見上げる構図だ。

 

 最初に口を開いたのはビアンだった。

 身長差故に、まるで叫ぶような声色だ。地上の人間が、ビルの屋上にいる相手へ話しかけるようなものである。

 

「約束通り、私一人で君のもとへ来た! 君と話がしたい!」

 

 〝彼” はビアンの言葉に耳を疑った。ビアンは自分に対してパイロットと一言も口にしていない。

 ビアンは、〝彼”の事をヴァルシオンのパイロットではなく、ヴァルシオンそのものと認識しているのだ。 

 

(……これは、腹を決めるしかないのか)

 

 向こうは自分の事を何か知っている。ならば多少のリスクを負ってでも手に入れるだけの価値ある情報をビアンは持っているだろう。

 

 〝彼”は、自分の身に起こった事を知るべく、覚悟を決めた。

 そのために、彼はビアンと二人きりで話せる場を設ける事にした。

 

「……今から貴方を〝中に入れる”。そこならば誰にも邪魔はされない」

 

 そう言うや〝彼”は全身を可能な限りかがめてビアンに手を伸ばした。

 足腰の可動範囲に関しては見た目以上に動いてくれたため、〝彼”が伸ばした手は人間でもよじ登れるくらいの位置まで近づける事が出来た。

 流石にビアンも〝彼”の行動には面喰ったらしく、目を僅かばかり見開かせて腕と〝彼”の顔を交互に見やっていた。

 

 そしてビアンは〝彼”の差し伸べた手に乗り、〝中”へと誘われた。

 

 

 

 

「……やはり、コックピットは存在していたか」

 

 〝彼”の中――操縦席へと誘導されたビアンは中へ入ると、周りを見回して呟いた。

 操縦席は思いの外広い。ビアンが足を踏み入れると、どこからともなくライトが灯り、〝彼”の操縦席を明るく照らした。球体上に作られた空間は大の人間が8人位は入っても余裕がありそうだ。 〝彼”の体からしてかなりの巨体だったが故に人を収納するスペースに余裕でもあったのだろうか。

 その中央に、人が座る躯体が設けられていた。コックピットの入り口からちょうど真向いの壁面から部屋の中央へ延びるように作られているその操縦席は思ったよりもシンプルで、椅子で言う所の肘部分はあるのだが、操縦桿らしいものが見当たらない。代わりに、手の平が丁度収まる位のサイズの窪みが両肘部分に設置されていた。

 

 〝彼”にとっては生まれて初めての経験だった。ヴァルシオンのコックピットの構造を初めて見た事に驚いたが、自分の体内に人を入れる事のほうが衝撃は勝っていたらしい。普通の人間ならば経験できない未知の世界に〝彼”は、内視鏡で自身の体内を見るのは、こんな気持ちなのだろうかと益もない事を考える。

 操縦席内にも〝彼”の目は存在する。操縦席の彼方此方に設けられた機器類に内蔵されているカメラのレンズがビアンの様子をつぶさに観察している。複数のカメラから送られてくる映像を一気に見ていると、少し目が回りそうになる。まるで虫の複眼で見た世界を体験しているようだ。

 しかし、幸いな事に吐き気や眩暈はない。ヴァルシオンの体に馴染んできているのは喜ぶべきなのだろうか。

 

 ビアンはコックピットにしてはやや広い空間を進み、シート部へ登って腰かける。後頭部まで包み込むように作られたシートの感触を確認したビアンは、力を抜いてシートに体を預けはじめた。

 頃合いを見て、〝彼”の方から話しかける。

 

「ここなら誰にも邪魔をされずに話が出来る。盗聴の心配もない」

 

「成程、確かに。しかし良いのかね、ここまで私を招き入れてしまって」

 

 ビアンが目を細めて、コックピットの内壁を見つめながら肩を竦めて言う。

 お道化(どけ)ているのか、それともこちらの出方を試しているのかは知らないが、〝彼”はそれに付き合うつもりはなかった。ストレートでかつシンプルに答えを求めるつもりでいた。

 

「ビアン博士、この際だから回りくどい言葉は止めにして、率直に訊きたい事があります」

 

「良いとも、私に答えられることならば」

 

 〝彼”の口調の変化と言葉を耳にしても、ビアンは表情を変えずに静かに聞いている。

 しかし、コックピット内に設けられたパイロット用のバイタルパターンを観測する機能からは、ビアンが少し緊張している事が判明した。

 この人でもやはり緊張するんだな、とビアンの人間らしさを垣間見た〝彼”は、そのまま今自分が気になっていたことを訪ねた。

 

 

「……私を作ったのは貴方ですか?」

 

 正確にはこの機体を、であるが、それを言ってしまえばもしかしたら何か感づかれて話がややこしくなるため、純粋に今の体――ヴァルシオンの出所を問う事にした。

 UR-1という呼称と周りの反応から〝彼”が感じた違和感。それを知るために問いかけた言葉は、ビアンの表情を変えるのには十分な内容だった。

 ビアンは目を見開き、驚愕した表情を浮かべたかと思えば、今度は何かを悟ったかのように瞠目したのだ。

 

「いや、私は君のようなロボットは作ってなどいない。――――正確には、君は〝まだ存在していない”のだ」

 

 ビアンの答えは聞き流せるものではなかった。ならば、何故此処にヴァルシオンがあると言うのだ。自分の体となったこの機体は、いったいどこから来たのだろうか。

 

「それは矛盾しています。私は、此処にいる」

 

「君の言う事はもっともだ。だが、事実でもある」

 

 要領を得ないビアンの言葉が〝彼”を焦らす。しかし、ビアンの表情とつぶさに記録されているバイタルデータからは、ビアン自身も困惑しているようだった。

 更に問いを重ねるよりも、〝彼”は沈黙でビアンに話を促した。

 

「私も率直に答えよう。…………君はこの世界の存在ではない、別の世界から来た。そう言わざるを得ないのだ」

 

「……平行世界、という概念ですか」

 

「此方にもその概念は存在している。何より君という存在が大きな証拠だ。第一発見者は、君が突然空中から現れたのを見たのだからな。その時の映像も記録として保管している」

 

 荒唐無稽。その言葉が思い浮かんだが、此処がスーパーロボット大戦の世界ならば、ビアンが口にした事は決してあり得ない話ではなかった。

 

 あるロボットは、魔法が存在する世界と現代の世界とを行き来する術を持っている。

 

 あるロボット部隊は、何らかの力の作用で異世界・もしくは遥か彼方の未来へと飛ばされた事がある。

 

 スーパーロボット大戦には、その様な計り知れない力が主人公達を翻弄して物語を進める場面がいくつも見受けられた。

 だからこそ、〝彼”はビアンの言葉に納得出来た。

 

 

「……今から4年前、南アメリカのギアナ高地にある物体が突如姿を現した―――」

 

 ビアンの言葉を吟味していく〝彼”に、ビアンが語り部のように言葉を紡いだ。

 

 それは、〝彼”の体――ヴァルシオンがこの世界に来た際の事のあらましだった。

 

 最初に発見された時は、何らかの戦闘があったのだろう。ヴァルシオンのボディはその大半を失い、朽ち果てていた。

 それをテスラ・ライヒ研究所が預かり調査に乗り出した。そこで一部の技術に地球のものに限りなく似ている部分があったらしいのだが、それ以外の大半が未知のテクノロジーで構成されているらしく、全く分析出来なかったという。

 何もない空間から突然現れた未知のロボットという事で、ヴァルシオンの残骸は「UR-1(UnKnown Robot =未確認機械第1号)」と名付けられてテスラ・ライヒ研究所で保管、解析され続ける事になった。

 

 

「そして、調査を続行して2年経った時の事だ。その時UR-1の調査は解析作業が難航した。その結果、予算削減に伴い調査の規模も縮小され、代わりに解析できた技術の実用化に力を入れていた頃……ある事件が起きたのだ」

 

 新西暦177年。

 最初にそれに気づいたのは、UR-1の調査を任されていた作業班だった。

 

 調査が開始されてから2年経ち、進展の見込みが少ない何時もの作業を取り掛かろうと、UR-1のボディに触ろうとしたその時だった。

 最初は仕事疲れによる目の錯覚かと思った。しかし、目を凝らしてボディの表面を見て、作業班達は驚愕する。 

 

 UR-1の装甲が、突然直り始めてきたのだ。

 破損個所を新品の部品に取り替えたのではない。まるで、生き物のように表面の金属装甲が欠けた個所から蠢き、元の形へ戻るようにその体積を広げていたのだ。

 

 それだけに留まらなかった。今度はUR-1の装甲だけでなく、内側までもが同様に直り始めているのだ。

 多数のケーブルが触手の様に伸び出し、機械部品が内臓の様にせり上がる。それらがフレームを形作り、内部機器が形成されていく様は、まるで生物の細胞が再生するのを見ているかのような光景だ。

 

 形状記憶合金? そんな生易しい代物ではない。UR-1の機体を構成している材質は、生物の細胞と同じ特性を持った金属で作られているらしい事がここで判明したのだ。

 

 UR-1には修復機能が搭載されているのか。

 UR-1に取り付いて分析を行っていた作業班達は慌てその場から離れて研究所内に連絡し、UR-1の再生する光景を呆然と眺めていたその時だった。

 

 突然UR-1の体を修復していた触手状のケーブルが、近くにいた作業班達に襲いかかって来たのだ。

 

 作業班達は離れた所にいたため辛うじて難を逃れた。しかし、そこから更なる脅威が研究所内に牙を剥いた。

 UR-1の体内からケーブルだけでなく、大小さまざまな機械の塊で出来た触手上の物体が飛び出し、それらが格納施設の至る所を貫いて来たのだ。

 触手状の機械が突き刺さった箇所は突如金属的な物質に変貌し、その金属物質が施設を少しずつ侵食し始めては、その金属がまるで生き物の様にうねりながらUR-1の元へと流れ込んで行ったのだ。

 

 その現象に、研究所内は一時パニックに陥った。侵食する速度はナメクジの様にゆるやかだったが、格納施設内にあった無機物、有機物問わずにありとあらゆるものと同化してその範囲を広げていくのだ。研究所の職員達が火器を持ち出して何とか進行を食い止めようにも全く傷が付かず、ようやっと進行が止まった頃には周囲の格納施設も巻き添えになっていた。

 幸いなのは人的被害は無かった事だろうか。UR-1の格納されていた施設はテスラ研から一番離れた所だった事もあって、研究所の心臓部にまで被害が及んではいなかった事も救いであった。

 

 そして研究所内に混乱を巻き起こしてからおよそ24時間後、厳重な監視体制が敷かれたUR-1は侵食した金属を取り込みながら徐々に修復していき、遂には完全な人型の姿を取り戻してその場に立っていたのだ。

 

 この事態に研究所内で緊急対策会議が行われ、様々な議論が飛び交った。

 その中にはUR-1に危険性を感じて破壊するという提案も挙がっていたが、未だ解析出来ていない未知のテクノロジーが修復された事でより完全な状態になった今、手放すのが尚更惜しいという意見も多かった。

 結果として、UR-1は研究所から更に離れた荒野の大地に専用の格納庫を設け、そこに封印されることになる。表向きの理由を世間へ告げずに。

 

 それ以降UR-1へのアプローチは調査から監視へと完全に移り、いつか解析が可能な時が来るのを待つという楽観的な保留という形で格納庫内に隔離されていたのだ。

 

 

「――――それから2年後、突然UR-1は動き出したのだ。誰に操られるでもなくな」 

 

 これが〝彼”が目覚めるまでの経緯だった。

 ビアンが語り終わる中、〝彼”は今しがた聞いた内容と自分の知識の食い違いに困惑していた。

 

(ヴァルシオンに自己修復機能? そんな話、聞いたことがないぞ)

 

 ヴァルシオンは強力なロボットとして登場する。だが、破損個所を再生させる機能なんてものは搭載されていなかった。よもや精神コマンドを使いましたなどという事もあるまいに。

 

 

 

 ――――いや、あった。〝彼”が記憶している知識の中で、その様な機能が積まれているヴァージョンが1体存在した。

 

 それは、F完結編というシリーズで最終ボスとして登場した機体だ。

 

 人間の生命エネルギーを取り込んであらゆる事象を引き起こす事ができる〝バイオリレーションシステム”

 元々は別の作品のシステムなのだが、ゲームオリジナルの仕様でヴァルシオンに組み込まれ、パイロットの生命エネルギーを吸ってあり得ない性能を叩き出していた事がある。その中には、確かに機体を修復させる効果もあった。

 

 だが、解せない点がある。

 そのシステムは、力を発揮するには人間の生体エネルギーが必要だ。つまりエネルギー供給源である人間――パイロットの存在だ。

 ビアンの話を聞いたところによると、発見された当初はコックピット部分は吹き飛んでいるらしいので、まずパイロットは存在していない。それならば、システムは機能しないはずなのだ。

 

 そうなるとまた色々と前提が違ってくるのだが、〝彼”はビアンが説明した話の中に出てきたあるキーワードが引っかかった。

 

 

 

 

 〝生物の細胞と同じ特性を持った金属”

 

 “F完結編”の世界を前提にしたならば、そんな物に該当する存在などあの世界には一つしかない。

 

 かつては環境再生用として開発されていたが、創造者の予想を超えた凶暴さを見せ、その危険性から悪魔の名を付けられた金属細胞。

 

 その名は〝DG細胞”。

 〝自己再生”〝自己進化”〝自己増殖”の機能を持ち、無機物・有機物を問わずあらゆるものを取り込み、浸食し、支配する。科学が生み出した人造の怪物。ある悪魔の名を冠した機動兵器を構築する物質として有名であり、その力は悪魔の名にふさわしく世界規模でその猛威を振るった。

 

 そんな代物が自分の体内に潜んでいるのかもしれない。いや、ほぼ確定と言っていいだろう。

 〝彼”はそれを恐ろしく感じた。何せ〝あの”DG細胞だ。彼も原作とゲームでその能力を知っているが、とてもではないがあれは人が完全に御せる代物ではない。最初は出来たとしても、進化を繰り返すその細胞はいつかは制御を離れ、更なる進化と再生を繰り返して史上最悪の悪魔が誕生しかねない。

 

 

「……ビアン博士、貴方は私の体から何か採取されましたか?」

 

「ああ、金属片やパーツを少しな。だが、君が再生した件があったので厳重に処分した。暴走する危険性のある物を研究所に保管するわけにはいかんからな」

 

 

 ビアンの言葉に〝彼”は安堵した。

 もし採取したものが何らかの影響で活性化でもしたら、テスラ・ライヒ研究所でDG細胞のバイオハザードが起きてしまう。最悪、地球規模で恐ろしい災害が起きるやもしれない。

 

「……その判断で正しいでしょう。それにあれは、本来私の機体に備わった物ではありません」

 

「偶発的な産物だというのか? あれが」

 

「いいえ、修復機能自体には覚えがあります。ですが、その前に私自身の事を話す必要があります」

 

 下手な欺瞞は不信感を与え、そこから生じる不和が後に大きな弊害を招くかもしれない。

 〝彼”は誠意を示す為に伝えられる限りの内容をビアンに話す事にした。とはいえ、ヴァルシオンになった自身の事は省いての話になる。

 それこそまさしく荒唐無稽な話だ。それに、自分の全てを曝け出す事に怖気づいてしまったというのもある。未知の世界へ放り出された己に残された最後の砦の門を、出会って間もない相手に開く勇気が〝彼”には無かった。

 

「当機の名はEI-YAM-001〝ヴァルシオン”。製作者の名は――――ビアン・ゾルダークです」

 

 故に、〝彼”は自身を機械と偽った。

 

「……そうか、やはり君は〝ヴァルシオン”だったのか」

 

 腕を組み、どこか確信したように目を細めてビアンが呟いた。

 

「……私を、ご存じだったのですか?」

 

「知っている、知っているとも。だが私の知っている君は、まだ構想段階のものであって、此方ではまともな設計図の一つも引かれていない。その構想自体もまだ私が紙に書き殴っただけで、誰にも見せていないんだよ」

 

(つまり自分は、ビアン博士が作る前の時期に来てしまったのか)

 

 それならビアンが完成したヴァルシオンを知るわけもない。

 ビアン自身も複雑な気分ではないだろうか。自分が密かに考えていたロボットの完成体が、突然目の前に姿を現したのだから、その心中は如何程のものだろうか。科学者ではない身ではビアンの心情を窺い知る事の出来ない〝彼”だが、少なくともいい気はしないのではと思った。

 

「するとUR-1、いやヴァルシオンよ。コックピットがあるという事は、君はさしずめパイロットをサポートする為のAIという事かね?」

 

「そう、かも知れません」

 

 〝彼”はその問いに肯定しても良かったのだが、そうなると今度は様々な事に辻褄が合わなくなる事を恐れ、敢えて曖昧な答えを出した。

 

「私は此処に来る前までの記憶が殆どありません。ですので、その問いに明確に答える事が出来ません。話を聞くに、発見された当初は大破していたらしいので、その影響かもしれません」

 

「……戦闘があったのか」

 

「恐らく、そして私はそれに敗れた可能性があります」

 

 だが、そのパイロットはビアンではないだろう。

 〝彼”の推測が正しければ、このヴァルシオンは元々オリジナルのヴァルシオンを基に再設計された機体で、パイロットは全く別の人間だ。

 ボディの色も元々は青色だったと聞く。それがオリジナルの赤色になったのは、DG細胞で再生した影響があるのだろうが、理由は不明だ。

 

「ならば、再生した理由は何だ? 覚えがあるのだろう?」

 

「……修復された際に極一部データが復元されました。その中に該当するものがあります。それは――――」

 

 〝彼”はDG細胞について名前は伏せ、大まかな性能をビアンに話した。

 故意ではないにせよ、既に研究所の職員を襲ってしまっているのだから、知らないと隠せば不審がられる事は間違いないし、分からないのならば判断不能とみなして更に危険視されるのは確実だ。それに相手がビアンならば、ある程度情報を開示していた方が良い。

 話を聞くビアンは度々目を見開き、そして時折哀しげな表情を見せる事もあった。

 

 DG細胞の在り方に思う事があったのかも知れない。

 この悪魔の名をつけられた金属細胞も、本来は地球の汚染物質を浄化する為に開発されたナノマシンがその正体だ。それが欲のある人間達に目を付けられ、利用され、その果てに恐ろしい悪魔へ変えてしまったのだ。

 

 〝彼”が知っているビアンは、地球を愛していた。もし此処にいるビアンも同じ考えを持っているのなら、DG細胞の姿を哀れに思ったのだろうか。それとも冷徹に人類の脅威となり得るであろうとみなして対抗策を考えているのか。

 

 〝彼”が説明を終えると、コックピット内部に沈黙が広がった。ビアンは顔を伏せ、眉間の皺を深くしたままだ。”彼”の処遇について考えているのだろう。

 

「……君は、それを制御する事が出来るのか?」

 

「分かりません。幸い暴走の兆しは見られません。今の所は落ち着いているようですので、何とも」

 

 〝彼”はビアンと話している間にも、自身に感染したDG細胞の状態を確認するべくボディとシステムの両方へチェックを繰り返していた。 

 その結果、特に異常な変化は見られない。しかし、感染しているものがものなだけに、暴走の可能性は捨てきれない。チェックに反応していないだけで、知らない間に機体内部ではDG細胞による変化が起きている恐れだってあるのだ。

 

「ビアン博士、私はこれからどうなるのですか?」

 

 〝彼”はビアンに問う。

 淡々とした口調で話しているが、その心中は不安の二文字で埋め尽くされている。

 DG細胞についてはある程度説明した。おそらくビアンはそこからDG細胞の危険性に気づくだろう。

 

「……まだ分からん。だが、もし君の存在を再び世に晒せば、世界は大きな混乱が起きるだろう。底の知れない戦闘能力と修復可能な未知の金属細胞を備え、自立行動が可能な巨大ロボットだ。人々はそんな君を危険に感じるかもしれないだろう。君には未知の可能性が秘められている。それが、人類に何をもたらすのかは分からないがね」

 

 ビアンの話によれば、この世界にはまだ人型の巨大ロボットを開発する技術が存在していないらしい。そんな世界に〝彼”が完全な姿で現れれば、多くの人間たちの思惑が交錯するだろう。

 分解・利用・破壊。思いつくだけでも数多くの選択肢が出てくる。

 

 そうなったら、〝彼”は抗うだろう。何も知らない場所へ連れてこられて機械の体にさせられた挙句に、大人しく弄ばれる気など毛頭ない。そうなったら、このヴァルシオンの機能をすべて使ってでも自身の自由を手に入れるしかなくなる。

 だが、そうならない為にビアンと対話をする選択肢を選んだのだ。そうでなければ、あの場からさっさと逃げ出していただろう。

 〝彼”は、ビアンの口から続く言葉を待った。

 

「私は、君を人目のつかない場所に隠そうと考えている」

 

 ビアンが提案した。

 それは確かに〝彼”にとっても都合が良い。しかし、敢えて〝彼”は訊ねた。

 

「何故、私を匿おうとしてくれるのですか」

 

 〝彼”自身が望んだ展開ではあるが、ビアンの真意が知りたかった。

 

 ビアンは腰かけているシートの肘を手でなぞり、コックピットを見回した。

 

「別の世界の私は、なぜ君を、ヴァルシオンを作ろうとしたのか知りたかった。初めて君のコックピットの中へ入る事が出来たが、一見しただけでもかなりの技術力で作られているのが分かる」

 

 ビアンが空を仰ぎ、コックピット天井部へ鋭い眼差しを向けていた。

 

 否、その視線の先は、もっと遥か彼方に向けられていたのやもしれない。

 

「……一体、何と戦おうとしていたのだろうな」

 

(この人は、もしかして気づいているのか?)

 

 ヴァルシオンの存在は、突き詰めればある存在に対抗するために作られたといってもいい。

 

 それは、異星からの侵略者達だ。ビアン・ゾルダークは独自に異星からの侵略者達の存在を察知し、それらの対抗策の一つとしてヴァルシオンを作り、DCを立ち上げた。

 しかし、結局は主人公達のスーパーロボット部隊に敗れ、彼らこそが地球を守る力だと見定めて散ってしまったのだが。 

 

 この世界のビアン・ゾルダークも、もしかしたら宇宙から何者かが地球を狙っている事に気付いたのだろうか。この男ならばそれすらやってのけそうなので、妙な納得感がある。

 

 

 しかし、〝彼”はビアンの呟きに応える事はしなかった。

 一応ヴァルシオンのAIと認識されているようだが、ぽんと出てきたような自分がおいそれと口にしていい事ではないと思ったのだ。

 ゲーム画面の向こう側で繰り広げられていた時とは違い、この世界は間違いなく現実だ。そこで、例え断片でもビアンの想いを口にする事は、あまりに重い。

 

「ヴァルシオンよ、出来れば私の提案を受けてはくれないか。君をこのまま外に出しても、決して良い事にはならないぞ」

 

 その言葉に此方を陥れようとする感情は無く。むしろ案じている様に見えた。

 〝彼”としても、自分の身を守る術が手に入る事は願ったり叶ったりなので、その話を受けるつもりでいた。

 

「私としてもありがたい話ですので、お願いします。……私も、何も知らないまま外に出されるのも不安でしたので」

 

 話が上手い方向に向かっていると確信した所為でホッとしてしまったのだろう。〝彼”は己の心情をつい吐露してしまう。

 すると、それを聞いたビアンはキョトンと呆けた顔をすると、次には可笑しそうに笑いだした。真面目な顔が印象強いため、〝彼”にとっては初めて見たビアンの別の側面だった。 

 

「ふふ、不安と来たか。並の電子頭脳では〝不安”などと言う言葉は出てこないぞ」

 

「……どうにも緊張が解けたせいか、つい本音が出てしまいました」

 

 

 

「本当に、君は人間の様だな……」

 

〝人間の様”という言葉に〝彼”すこしはギクリしたが、ビアンが現状の情報で自身の真実にたどり着く事は無い筈と踏んでいるため、そこまで心配はしていない。

 現に今のビアンは、ヴァルシオンに乗り移ってしまった(?)人間の自分ではなく、ヴァルシオンに搭載されているらしいAIとしての自分に感心を抱いているようだ。

 

 

 

 

 それから幾つかやり取りをすると、ビアンが研究所の職員達に話をしてくると言って〝彼”の中から出ていった。

 

 装甲車へ向かうビアンの背中を見送りながら、彼はようやくひと段落ついた事を実感して内心盛大なため息をついた。

 だが、完全に落ち着くにはまだ早い。ビアンが研究所内の人々を説得できるか、そしてそこから自身を隠すための手段について詰めていかなければならない。課題はたくさんあるのだ。

 

(……大変な事になってしまったな)

 

 〝彼”はヴァルシオンの首を動かし、周りを見回す。

 周りにはまだ戦車隊と戦闘機隊の包囲が敷かれている。

 話はついたといっても、まだ出だしに過ぎず、人間側からすればそう簡単に警戒を解いていいほど安心の出来る相手ではないという事だ。

 体格差からして、怪獣とそれに立ち向かう自衛隊のような様相だ。馬鹿正直に安心しろと言うのも無理な話だろう。

 

 

 とりあえず今は、自分が生き延びる事を考えるしかない。

 そういう点では、あそこで慌てて逃げなくて正解だった。

 

 ビアンの話や時代の流れから察するに、今後何らかの人型の機動兵器が登場する可能性は高い。とすれば、いずれロボット同士の戦争が起きるかもしれない。

 そうなったら、自分も駆り出されるのだろうか。

 DG細胞の件もある、このヴァルシオンのスペックをもう一度見直す必要がありそうだ。

 戦争が無ければいいが、果たして……。

 

 〝彼”が思いつくだけでも考える事が沢山浮かび上がってくる。

 

 情報が必要だ。何かをするにしても、取捨選択をするための判断材料が欲しい。

 その点についても、可能なら追々ビアンに相談してみようか。

 

 ビアン達が結論を出すまで、しばらく時間がかかりそうなので現状と今後の展望について考えを巡らせながら彼を待つ事にした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ビアン博士、本気ですか!? UR-1をこのテスラ研内に隠すなど、危険です!」

 

 ビアンがテスラ・ライヒ研究所に戻り、管制室で皆に事の次第を伝えた際に職員の誰かが抗議の声を上げた。

 UR-1とコンタクトを取る事に成功したと聞かされた時は皆驚きと歓声に沸いていたのだが、そのあとにビアンから出された提案は職員内で物議を醸し出し、たまらず声を上げた者が出たのだ。

 声の主は、一年前に起きたUR-1再生に立ち会い、同時に襲われた解析班の一人だ。間近で襲われた事もあり、彼はUR-1の危険性を強く主張していた。

 

 しかし、ビアンもそれは承知の上で話を持ち出したのだ。

 ビアンはその言葉に退かず、逆にUR-1の存在をこれ以上世間に知られる事のデメリットと、現状の彼に対して少なくとも安全性が認められる事を彼らに説いたのだ。その中には、再生したおかげで完全な状態のUR-1が調べられるというメリットも織り交ぜていた。

 結果、反対意見を出していた職員達から一応の理解を得て、UR-1の隠蔽が決定する事となった。

 

 決まるや否や、今度はどこにUR-1の格納庫を作ろうかという話になり、早速打ち合わせを行う事にした。

 もたもたしていれば、それだけUR-1が世間に知られる可能性が上がる。故に迅速な対応を求められるのだ。

 

 その前に、UR-1にこの旨を伝えるべく再び彼の元へ向かう最中、ビアンは通路に設けられたガラス窓からUR-1のいる方角を見た。

 

 初めてこの世界に現れ、大破した状態の姿を見た時から確信があった。

 あれは、自分が作ろうとした機体、その完成形だ。

 

 だが、人間と同等の知性を持つAIによる自律機能が与えられていたのは予想外だった。UR-1のいた世界では、AI制御による自律稼働技術が確立されていたのだろうか。だが、それならばあれほどのコックピットが設けられている必要性は無いように思える。

 

 しかし、何かがおかしい。言葉では言い表せない、第六感の様な感覚があのヴァルシオンに違和感を覚えている。

 

 今の地球では解明できない未知の技術、高性能なAI、そして大破した状態から完全に再生させるほどの性能を持つ金属細胞。

 

 

 ……果たして、あれは本当に〝全て地球の技術で作られた”ヴァルシオンなのだろうか? 

 

 設計者は自分だろう。デザインはまさしく今自分が構想中のロボットそのものだ。他人が考えたにしては不思議なくらい似通っている。

 しかし、その後か同時期に、何かがあったのかもしれない。その時、果たして自分は……。

 

(急がねばならん、か)

 

 ビアンは歩み始めた。己の懸念が確信になりつつある未来に布石をする為に。

 

 

 

 そして数か月後、ビアンの懸念は的中した。

 

 新西暦179年。

 〝彼”が目覚めてから数か月後、地球を出発して冥王星外宙域で活動していた外宇宙探査航行艦ヒリュウが、何者かの襲撃を受けた。

 昆虫型の機動兵器群によって構成されたそれらは異星文明の代物と判明、政府はその存在を〝エアロゲイター”と命名し、地球圏は外宇宙の脅威を思い知る事となる。

 

 同年、今度は地球へ巨大な隕石が南太平洋のマーケサズ諸島のアイドネウス島へ落着。

 奇妙な事に、それは落下の際に減速がかかり、まるで〝降下してきた”かのような有様で、予想よりも極めて小さな規模の被害にとどまった。

 後に人々は、過去に落ちてきた隕石の名にちなんで〝メテオ3”と名付けた。

 

 二つの事件が地球圏へ大きな警鐘を鳴らし、人知の及ばぬ宇宙のどこかで、今確かに何者かの影が蠢いた。




――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

歯医者「君、歯が顎の骨に癒着しててちゃんと取れないから外科医に行って来なさい。紹介状渡すから」

そよ風ミキサー「ワッザ!?」

 ア、アイエエエ!? 手術? 手術ナンデ!?


 本作を書いている時に思ったのですが、OGシリーズでは龍王機と虎王機がテスラ・ライヒ研究所に保管されていた時がありましたが、そこら辺は地球連邦政府は知っていたのだろうかとふと疑問に感じました。
 知っていた上でテスラ研にすべて任せていたのか、それとも独立した裁量権や独自の権力を持っていたので、それを利用して隠蔽していたのでしょうか。
 ダブルGシリーズを秘密裏に地下に隠していた事もありますので、色々と気になる研究所です。

 まあ、それを言ってしまえばロボットアニメに出てくる研究所は皆そんなものな気もしますけれども。
 ※単に私が知らないだけで、コミックか資料で明記されている可能性もあります。
 そこらへんについて悶々と考えた結果、主人公にはこのような処置を取る事となりました。

 あと、主人公ことヴァルシオンのコックピット内部の構造はオリジナルです。OG仕様ならともかく、ウィンキーソフト時代の仕様っていろいろ不明な点が多いのでまあいいかって感じで。

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