スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

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前書き

2万文字ほどありますので、読む際はお気を付けください。

それと突然ですが、今話で原作キャラが何名かお亡くなりになります。

死因はアンブッシュです(?
――――――――――――――――――――――――――――――


第4話

 それは、まどろみの中で見た夢幻か。

 

 

 其処は無数の機械で構成された基地の最深部。

 〝彼は”其処で、何故かヴァルシオンの体で敵機と戦いを繰り広げていた。

 否、その言葉は不適切だ。正確には、戦っている光景をヴァルシオンの視点で見ているのだ。

 

 

 これはシミュレーションではない。〝彼”が必要最低限の機能のみを起動させたまま擬似的な休眠を行っていたとき、突然彼の視界に映り出した謎のヴィジョンだ。

 

 その事について疑問を差し挟む頭が回らないのか、〝彼”はぼんやりとした意識でそれらを見ている事しか出来なかった。

 

 敵は〝彼”自身も覚えのある者達だ。

 

 白と黒のカラーリングが施されたMS、〝νガンダム”

 黒い鋼の装甲に身を固めた〝グレートマジンガー”

 赤を基調とした鬼にも見えるその姿は〝ゲッタードラゴン”

 翼をはやした白銀の騎士の如き魔装機神〝サイバスター”の4機だけ。第2次スーパーロボット大戦に登場したホワイトベース隊の中心戦力だったロボット達だ。

 

 彼らの周りには、多くのロボット達が壊れ、動けなくなったまま基地の床に転がされている。ヴァルシオンとの戦いで先に脱落してしまった者達なのだろう。

 残った彼らの機体も無傷ではない。皆ボディのどこかに浅くはない傷を作り、ぼろぼろと言ってもいい状態だ。しかし、それでも膝を屈さず残った気力を振り絞るように戦い続けていた。

 

 ヴァルシオンも無事ではない。

 多くのロボット達との激戦によるものか、体の至る所が砕け、内蔵機器が所々で露出しても尚闘志は衰えず、彼ら4体の相手をしていた。

 今、まさしく最終決戦の佳境に入っている最中だった。

 

 

 

「そんな火力では、このヴァルシオンは揺るがんぞ」

 

「まだだ! νガンダムはこんなものじゃない!」

 

 

 先鋒はνガンダムが務めた。

 νガンダムが高い機動力と未来予知の如き絶妙な回避運動で、ヴァルシオンの繰り出す大火力のクロスマッシャーによる攻撃を避けながら、バルカンにハイパーバズーカ、そしてビームライフルと、今残っているありったけの武装をヴァルシオン目がけて射ち放つ。

 

 だが破損しているとはいえ、ヴァルシオンの強固なボディには致命傷を与える事が出来ていない。ビームに至っては直撃する前に霧散してしまった。ヴァルシオンに搭載されているIフィールドが未だ機能し続け、本体へのビーム攻撃を拒絶しているのだ。

 それはνガンダムも予測済みなのか、決して深い追いはせず、距離を保ちながら堅実に攻めていく。νガンダムはヴァルシオンに大きなダメージを与えるつもりは無い。まるで相手の隙を作ろうとしている様だった。

 

 

 攻撃が、殆ど通らない。まるで石ころを鉄の壁に投げ付けているかの如き虚しい徒労感すら見るものに感じらせる絶望的なまでのヴァルシオンの耐久力だ。

 それでも、νガンダムのパイロットは諦めなかった。彼は一人で戦っているのではないのだから。

 

 

「この野郎、いい加減にくたばりやがれ!」

 

 

 νガンダムがハイパーバズーカに持ち替え、連続射撃で辺り一帯が煙で視界を遮られたその時、ヴァルシオンの背後からボディに罅の入ったグレートマジンガーが背中のブースターを吹かせて飛びかかってきた。振りかぶる右腕は刃が飛び出し、腕自体が高速回転して削岩機のような様相でヴァルシオン目がけて殴りかかる。

 

 

「甘いな」

 

 

 突然の奇襲だったが、ヴァルシオンはその巨体に似つかわしくない機動で反転、殴りかかって来たグレートマジンガーの拳を躱し、その胴体を蹴り上げた。

 予想外の反応に対処しきれず、自身の上半身ほどもある巨大な足をまともに受けて、グレートマジンガーはくの字に体を曲げて後方へ吹き飛んでいく。

 

 蹴り飛ばされたグレートマジンガーを見送る暇もなく、ヴァルシオンは何かに気づいて振り向く。

 すると、巨大なアンカーの付いたチェーンが飛来して、ヴァルシオンの左腕に巻き付いた。

 

 チェーンの元へ辿ると、其処には腕ごとチェーンを射出したゲッタードラゴンの高速機動形態、青いボディのゲッターライガーが足を踏ん張りながらヴァルシオンを固定しようと試みていた。

 背丈はほぼ同じ2機だが、パワーはヴァルシオンに軍配が上がった。必死にその場で踏ん張っていたゲッターライガーをヴァルシオンは片腕を一振りするだけでたやすく振り回し、壁に叩付けようとした。

 しかし、投げ付けたはずの鎖の元に、ゲッターライガーがいなかった。ゲッターライガーは叩きつけられるよりも早くチェーンを切り離していたのだ。

 

 気が付いたときには既に遅かった。ヴァルシオンが敵を補足するよりも早く、ゲッターライガーはその巨体からは想像もつかないスピードでヴァルシオンの懐まで接近していた。

 

 

「ふ、ライガーであんたと真面目に力比べ何ざせんよ。マサキ!」

 

「任せな!」

 

 

 ゲッターライガーが残った片腕を肘から先までドリルへと変形させて、残像を残すほどの高速移動でヴァルシオンに連続攻撃を仕掛けていく。

 その最中、その攻撃に加わるロボットが現れた。サイバスターだ。ディスカッターを構えて加速すると、ゲッターライガーの高速移動にも負けない速度でヴァルシオンに切りかかって来た。

 

 

「マッハスペシャル!」

 

「おおぉっ! ディスカッター乱舞の太刀!」

 

 

 青と銀の嵐がヴァルシオンの機体にすさまじい速度で攻撃を続けていく。肉眼でも、センサーでも感知するの事の出来ないそれはまさしく暴力の嵐と呼ぶにふさわしい。

 さしものヴァルシオンも身の危険を感じたのか、自身の装甲に頼るだけではなく、ついに防御に回った。

 

 だが、ヴァルシオンへの攻撃は更に激しくなる。

 νガンダムが攻撃に加わり、戦線に復帰したグレートマジンガーまでもがそれに乗じてきた。

 

 

 4機による一斉攻撃。

 防御に回ったヴァルシオンの装甲が徐々に破壊され、所々がスパークしてきた。

 

 もう一息、あと少しで倒せる。

 世界に宣戦布告し、混乱に陥れたDC(ディバインクルセイダーズ)の首魁がついに堕ちる。

 4機のロボットのパイロット達に希望が見えてきた。

 

 多くの仲間達の犠牲の元、とうとうここまで追い詰めたのだ。

 なんとしてでもここで奴を仕留める。敵の強大さを知っているが故に、彼らは勝負に出た。

 否、敢えて出るように仕向けられていたのかもしれない。 

 

 

 4機のロボット達が一斉にとどめの一撃にと大技を繰り出そうとしたその時だった。 

 

 

「―――――メガグラビトンウェーブ!!」

 

 

 勝負に焦った彼らに非があるのか、それとも戦いの流れを己の側に運んだヴァルシオンのパイロット、ビアン・ゾルダークが上手だったのか。

 

 4機のロボット達はヴァルシオンの機体から突如放たれた超重力によって、無理やり大地へその機体を沈み込ませた。

 突然の出来事に、4機のロボットのパイロット達は困惑した。

 

 

「じゅ、重力の力場!? パワーが抑え込まれている!」

 

「くそ! グレートのパワーもねじ伏せてきやがる! あの野郎、まだこんな力が残っていたのか!」

 

「隼人、オープンゲットは出来ないのか!?」

 

「どうやら奴さんのパワーの方が上の様だぜ、ゲッターのパワーが上がらん!」

 

「冗談じゃねえ、これじゃノシイカになっちまうぜ!」

 

「畜生、グランゾンの重力攻撃みたいなものか! こうなったら、残ったプラーナも使ったサイフラッシュで……」

 

「無茶ニャ! そんな事したらマサキの命が危ないニャ!」

 

「それに、今そんな事したらガス欠になって今度こそオイラ達までぺしゃんこだニャ……」

 

 

 皆が何とかしてこの窮地から脱しようとするが、ヴァルシオンの放った重力波がそれを許さない。

 鉄も砕ける重力の帳がじわじわとロボット達のボディを蝕む。

 重力による負荷によって機体がミシミシと悲鳴を上げていく彼らを前に、ヴァルシオンは悠然とその巨体で歩み寄って来た。

 

 ヴァルシオンが両の腕を前に突き出し、手甲状のパーツが展開して砲身がせり出してくる。クロスマッシャーの発射体勢に入ったのだ。ヴァルシオンは此処で彼らを始末するつもりだ。

 

 逃げなければ、あれをまともに受ければお終いだ。

 分かっているのに機体が動いてくれない。

 そうこうしている間に、ヴァルシオンの両腕の砲口はエネルギーの光が集まり出す。

 

 

「勇敢なる若き戦士達よ、よくぞ此処まで戦い抜いた。だが、さようならだ」

 

 

 ビアン・ゾルダークから冷酷なる言葉を死刑宣告の様に彼らへと告げ、両腕のクロスマッシャーを解き放つ。

 

 

 

 

 ――――筈だった。その直前、ヴァルシオンの機体が真横から迸る七色の光に飲み込まれたのだ。

 

 突然の攻撃――それもヴァルシオンを揺り動かすほどの威力を持つ――をまともに受けたヴァルシオンは倒れ掛かるその機体を何とか持ちこたえるが、先ほどの衝撃で両腕のクロスマッシャーは全く別の方角へと放たれ、基地の内部を貫いて破壊した。そして。

 

 

「ぬうう! これは反重力!? ……まさか!」

 

 

 七色の濁流に抗いながらヴァルシオンが振り向いたその向こうには、両腕が吹き飛び、全身の装甲が砕けてもなお立ち上がる宇宙の王者と呼ばれたスーパーロボット、グレンダイザーが胸の装甲板から七色の反重力光線――反重力ストームを放射し続けていた。

 

 反重力の光線をヴァルシオンに浴びせた事で、異変が起きた。今までヴァルシオンの重力攻撃で地面に押し潰されようとしていたロボット達が、重力の枷から解き放たれたのだ。

 

 

「おのれ、ヴァルシオンの重力制御を抑え込む気か!」

 

「睨んだ通り……その攻撃は反重力ストームで相殺出来るようだな。全エネルギーを解放したグレンダイザ―のパワーを舐めるなよ!」

 

「大介さん!? いくらグレンダイザ―でもそんな状態じゃ無茶だぜ!」

 

「僕の事は構うな! 今の内に、ビアン・ゾルダークを! 奴を倒せる機会は、もう此処しかない!」

 

 

 気丈に振る舞うが、グレンダイザ―のボディはさから放たれた最大パワーの反重力ストームの反動に耐え切れていなかった。今もエネルギーを限界まで引き上げた影響でボディに亀裂が走り、内部で小さな爆発が起きている。破損していたボディに無理な負荷が掛かったせいだろう。

 しかし、ヴァルシオンはそれに耐え続けている。未だ倒れる予兆も見られない。

 捨て身の攻撃とは言え、己の力を跳ね除けたグレンダイザーにビアン・ゾルダークは瞠目した。

 

 

「……フリード星の技術力を甘く見ていたか。だが、止めるだけで精一杯の様だな!」

 

 

 ヴァルシオンがクロスマッシャーの砲口をグレンダイザ―に向けた。重力操作の邪魔をする根源を断つつもりだ。しかし、それを許さない者達がいる。

 

 

「やらせるかよ! ニーインパルスキック!」

 

「チェェェンジ・ドラゴン! スピンカッターっ!」

 

 

 グレートマジンガーが加速の勢いを乗せた膝蹴りを繰り出し、ゲッターライガーから変形したゲッタードラゴンが腕の丸鋸状のエッジを回転させて殴りかかって来た。

 構えていたヴァルシオンの腕は逸らされ、砲撃が一時的に中断させられた。

 逸らされた腕は2体のスーパーロボットの攻撃力と、今まで蓄積していたダメージの影響で、行き場を失ったクロスマッシャーのエネルギーが暴発し、ついには腕を吹き飛ばすほどの爆発を起こした。

 

 

「ぬお!? よもやこのヴァルシオンを! だが、これしきの事!」

 

「だったらこいつはダメ出しだ!」

 

 

 残った腕でクロスマッシャーによる迎撃を試みようとしたビアンだが、そこへ更なる追い討ちが来た。

 サイバスターが鳥のような形状の高速形態、サイバードへと変形し、全身に灼熱の炎を纏って火の鳥の如き様相で突っ込んできたのだ。

 

 

「サイバスター!? マサキ・アンドー!」

 

「恨み言なんざ聞くかよ! アカシックバスター!!」

 

「う、おぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 機動兵器と言う枠組みを超えた速度からの突撃をヴァルシオンは咄嗟に残った腕で防ごうとしたが、こちらもサイバスターの必殺技とでもいうべきアカシックバスターの威力に耐え切れず、肩ごとそのボディを貫き壊された。

 その余波で、ヴァルシオンは体を支える事すらできず、とうとうその巨体を大地へ沈めた。

 

 仰向けに倒れたヴァルシオンの機体が至る所から爆発を起こす。

 今ままで多くのロボット達の攻撃をその身で受け返してきた装甲は、内部機器も含めて限界を迎えていたのだ。ヴァルシオンは、もう持たない。

 

 

「う、ぐふ……ヴァルシオンが……DCが敗れるのか」

 

 

 今にも大爆発を起こしそうな状態のヴァルシオンへ、生き残ったロボット達が取り囲むように近づいて来た。

 じきに爆発を起こして完全に破壊されるのであろうが、それでも彼らは油断なく、いつでも攻撃できるようにそれぞれが持てる武装を展開した。  

 

 

「ぐっ……ふふふ、そう、警戒せずとも……このヴァルシオンは、このビアン・ゾルダークは……直に、死ぬ。だから……言わせて、貰うぞ」

 

 

 ビアンは先程の衝撃で怪我をしたのか、酷く荒い息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 隙を作ろうと足掻いているのではない。ビアン自身も、既に己の最期が迫っていたのだ。

 

 最期の恨み言を口にするのかと思っていたロボットのパイロット達だったが、ビアンの口から出てきたのは全く予想外の内容だった。

 

 

 

 

「よくぞ、此処まで成長した……これならば安心して任せる事が出来る……どうやら、年寄りの出番は此処までの様だ」

 

 

 ビアンの言葉を聞く、この場にいるホワイトベース隊全ての隊員は驚愕する。今まで世界征服を企んでいたと思われる首領の言葉とは思えなかったのだ。

 

 

「未来はお前達の様な若者が作っていく……やがて来る脅威に立ち向かうのは、お前達の若い力だ」

 

 

 初めてホワイトベース隊と直接相対したのは、補給部隊の救助に出ていた時だった。

 その時は居丈高(いだけだか)に此方を見下していた男は、親が子へと教えを説く様に、彼らへ語る事をやめなかった。

 

 

 

「だが、これだけは、覚えておくが良い……守るべきものがあるのなら、それを守るだけの勇気と、力を持ち続けるのだ……」

 

 

 ビアンが咳き込み出す。その中には水気の強い音も聞こえるため、吐血しているのだろうか。

 ヴァルシオンの爆発が大きくなっていく。もう、限界だ。

 

 

「リ、リューネよ……お前の姿を見れぬのは心残りだ……が……先に逝くのは親の定めだ…………許せ」

 

 

 

 

 最期に遺したのは、我が子に会えない一人の父親としての未練。

 その言葉の直後、ヴァルシオンは天へ上るほどの光を迸らせながら大爆発を起こした。

 

 ヴァルシオンと視点を共有していた〝彼”もその弾けるような強烈な光を視界一杯に受けて、意識が飛んだ。 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 突然何かに引き寄せられるように〝彼”の意識は浮上する。

 不意に起こった覚醒に〝彼”は数分呆然としていたが、急いで自己診断チェックを行った。

 

 

 自身のコンピューターやそれに類するものに外部干渉が行われた痕跡はない。

 何度か念入りに調べた結果、異常がないという結論が出て〝彼”は安堵する。

 

 今のはおそらく夢、なのだろう。機械の体になってから初めての経験だ。

 機械の体でも夢を見るのかと疑いはするが、それにしたって何から何まで鮮明に憶えている。

 集中して記憶を手繰り寄せれば、あの時ヴァルシオンと戦ったホワイトベース隊のロボット達との激戦の臨場感が蘇ってくるのだから。

 

 

(まさかヴァルシオンの記憶、なのか?) 

 

 

 それこそまさかだと〝彼”は思う。

 〝彼”の体になったヴァルシオンは、ビアンの乗るオリジナルより後の時代に別の人物がオリジナルを模して再設計した代物の筈だ。非科学的だとか、非常識だなどと今この現実を直視して口にするつもりは毛頭無いが、摩訶不思議である事には違いない。

 ヴァルシオンの体になってから数年経ち、自身なりに己の状態について理解を深めていたつもりだったのだが、此処に来てまた分からない現象に見舞われてしまい、〝彼”は溜息をつきたくなった。どうやら、自分はまだ自身の事を大して分かっているわけではないらしい。

 

 

(あれは、いったい何だったのだろうか)

 

 

 ひとしきり確認を終えた〝彼”が思い返したのは、先程まで見ていた夢の内容だ。

 

 

 巨悪に立ち向かう正義のロボット軍団。そんなお題目の一大スペクタクルを見たような気分だった。

 

 だが、それと同時に酷く寂しい終わり方だとも思った。

 世界征服を夢見た天才科学者らしからぬ最期だった。その本当の目的が別にあったとはいえ。娘に会えない無念を込めた今際の言葉が、〝彼”の聴覚に今も響いていた。

 

 この世界のビアンも同じ末路を辿るのだろうか。ついさっきまでその可能性を目のあたりにしてしまったがために、〝彼”はそれを否が応にも意識してしまう。

 

 今、ビアンはテスラ研からEOTI機関へと籍を移している。そこで彼は外宇宙の技術解析と研究に勤しんでいるのだ。

 

 ビアンが、外宇宙の脅威を察知する。此処までは〝彼”の知るビアン・ゾルダークが歩んできた道と同じだ。

 

 此処からだ。此処からビアンがどう転ぶかが問題なのだ。

 宇宙の彼方にいるバルマー何某も気になるが、目下注目すべきはビアン博士の動向だ。

 

 

 ――――ビアン博士には生きていてもらいたいという気持ちが〝彼”には少なからずはある。

 自分をテスラ研に匿うよう手配してくれた恩人なのだ。何かしらの思惑があったとしても、それだけは確かな事である。外に出れず、話す相手も限られている環境の中で自分の話に付き合ってくれた数少ない人物なので、情が湧いたのやもしれない。数年も一人で地下に籠っていた事が、彼に心変わりをさせたのだろう。

 それとも、この体がヴァルシオンである事で何らかの影響を及ぼしているのだろうか?

 

 取り越し苦労ならそれに越した事はないのだが、どうにもこの世界の政府界隈で何やら黒い噂が出ていると危険なアングラサイトでまことしやかに囁かれている。

 ハッカーが政府や軍事施設にハッキングして情報を入手していているものもあったりと、表沙汰には出せないような事をしているし、迂闊にサイトを除くとハッキングを喰らってウィルスを流し込まれる危険性もあったが、情報ソースの質として決して悪くはなかった。

 ネットワークセキュリティについてはヴァルシオンに積まれているコンピューターの演算機能を駆使すればいともたやすく跳ね返せるし、最悪〝彼”には〝とっておき”があるためネットワーク関連での心配はそこまでしていなかった。

 〝彼”が目にしたのは偶然だった。ネットワークセキュリティを万全の状態にして危ない情報サイトへとダイブした時、ある書き込みが投稿されていた。

 

 

〝政府は地球を宇宙人に売り渡そうとしている”

 

 

 ネットの深淵に潜む一部の住人達は、宇宙人の存在について何となくではあるが察知していた。

 

 アングラサイト界隈で宇宙人の存在が広まった契機となったのは、以前宇宙へ飛び立った外宇宙探査航行船ヒリュウが原因だ。

 ハッカーの中に凄い猛者がいたらしく、どういう手段を取ったのかは知らないが、アステロイドベルトに建造されたイカロス基地へ逃げ延びたヒリュウの事について情報をハッキングしていたのだ。

 

 ハッカー自身もその情報の重大さを察したのか、あくまで文章については〝らしい”という推量で締めくくっており、添付したデータには厳重なセキュリティを組み込んでの投稿と言う念の入り様で、〝彼”もそれを解除するのに少しばかり骨が折れた。

 

 先の政府云々の件についても、イカロス基地から情報を引っこ抜いたハッカーからの情報だ。故に信憑性は低くはないだろう。

 詳しい事までは分からなかったらしいが、政府の一部上層陣は何かを知ったらしく、ヒリュウを襲った宇宙人へ貢物付きで地球を明け渡そうとしているのだ。

 

 それを指示している人物の名前も大方見当が付けられていた。

 

 その人物の名は〝カール・シュトレーゼマン”

 地球連邦政府安全保障委員会の副委員長にして、ビアンが所属するEOTI機関を管理するEOT特別審議会の議長を務める政界の大人物だ。政界の真のトップとまで言われているその男が、どうやら地球を異星人に売り渡そうとしている張本人らしい。

 

 取り入る事で得られる利権に目がくらんだか、それとも単純に宇宙人達の技術力が圧倒的に地球を上回っているがために早々に地球に見切りをつけたのか。

 どちらにしても、ろくでもない話だ。

 地球を上手く回すために存在しているはずの組織が、率先してその地球を見捨てようとしているのだ。皮肉と言う言葉で片づけるには性質が悪すぎる。

 

 ――――それが本当ならば、地球圏で今密かに外宇宙の侵略者達に対抗するため頑張っている彼らは、何なのだろう。

 あのゲシュペンストが、グルンガストが、テスラ研の人々やビアン博士達が今やろうとしている事が、全て無駄になってしまう。

 

 ……否、無駄にはなるまい。ただ、全く別の形で活用されるだけなのだろう。

 別の活用法、それはすなわち異星人に提供する貢物がそれなのではないだろうか。そう考えると貢物云々の情報も話が繋がってくる。

 

 

 だが、この話はどこまでが真実なのだろうか。半ば確信している自分がいて、しかしそれでもまだ早計だとこの情報を疑っている自分もいた。

 〝彼”はこの情報を知った時から、この世界に来て大きな焦りを見せ始めた。エアロゲイターの存在が発覚した時でも此処まで焦燥感を募らせた事は無かった。

 

 何故ならば、このカール・シュトレーゼマンがやろうとしているであろう事は、間違いなくビアンが嫌悪している方策に他ならないのだから。

 つまりそれは、ビアンがDCを結成し、世界に反旗を翻す引き金になり兼ねないとてつもない爆弾なのだ。

 

 ビアンはこの事を知っているのか? 恐らく知っているだろう、あの男ならば。

 

 ビアンに話を聞いてみるか? ……いいやその前に、いっその事シュトレーゼマンの所へ〝アレ”を送り込むか? 〝アレ”に攻撃指令を出せば、シュトレーゼマンを……。

 

 ……いや違う、そうじゃないだろう。考える順序が違う。まず先にやらなければならない事があるだろう。

 

 焦るあまりに思考が飛躍しかかった〝彼”は一旦思考を落ち着かせて、再び冷静に考え直した。

 

―――この情報の確度を調べなければなるまい。 確証、それが必要だ。

 

 ソースの信頼度が高くとも、ネットワーク上に陳列する情報を見ただけで判断するには、この案件は危険過ぎる。

 

 色々と悩み、あらゆるリスクとリターンを天秤にかけた〝彼”は今まで敢えてやろうとしなかった事を試みる事にした。

 今後の事を考えるとテスラ研に迷惑をかけてしまう可能性が否めず、密かにテスラ研の人達へ謝った〝彼”だが、今ここで足踏みをしていたら取り返しのつかない事になりそうだった事もあって、意を決してそれを行った。

 

 

 それは、地球連邦政府へのハッキングだった。

 

 

 

 

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 結果、あのアングラサイトの書き込みは本当だった。

 電子の海を潜り、張り巡らされたセキュリティシステムを掻い潜り、カール・シュトレーゼマンが関わっているデータを漁りに漁った末に〝彼”は見つけてしまった。

 

 

 〝地球脱出計画”

 

 〝南極で異星人との和平交渉”

 

 

 異星人への防衛体制を強化しようと画策している者達が知れば怒り狂いかねないその内容は、紛う事無く地球連邦政府安全保障委員会の計画書内に記された極秘事項だった。

 地球脱出は政府の一部の高官たちと言った限られた人間だけであり、和平交渉にしたって文面だけならばまともに書いてあるが、その内容はどうみても明らかに全面降伏を旨とする物である事は確かだった。

 

 

 これは、いよいよビアンの現状を知る必要が出てきた。

 

 

 ジョナサンに仲介を頼んでEOTI機関へ取り次いでもらうか? 否、理由を追及されるのは避けたいし、EOTI機関に取り次げるのかが問題だ。出来たとしてもビアンの立場の関係上、手間がかかる可能性も否定できない。それにジョナサンには悪いが、この話を盗み聞きされるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 と、来れば〝彼”の持ちうる術で最短かつ効率のいい方法は一つである。

 ハッキング機能を駆使した秘密の通信という奴だ。

 そのハッキングについてだが、実は公的機関に使わなかっただけで、〝彼”はそれとなく毎日練習も兼ねてさまざまなネットワークへ行っていたりする。

 おかげさまで、今では危険なアングラサイトの一住人としてすっかり馴染んでしまっていたのだ。

 

 

 ……どうにも政府へハッキングを仕掛けて逆探知をされなかった実績が変な自信へと繋がってしまったようだ。 

 それを自覚した〝彼”は自戒の念を抱きつつ、ビアンへの連絡手段を探るために再び電脳空間へ意識を沈めていった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……まさか、君がこのような手段で連絡を寄越してくるとは思わなかったな」

 

「強引だったとは、自覚しています」

 

「ふ、ジョナサンが知ればどんな顔をするのだろうな」

 

 

 かくして、〝彼”はビアンとのコンタクトに成功した。

 メテオ3が保管されているアイドネウス島に建てられたEOTI機関の本拠地内にあるビアンの執務室、そこの通信設備へピンポイントでハッキングによる通信を行ったのだ。

 最初はまさか〝彼”からこんな強引な連絡が来るとは思ってもいなかったビアンも、流石にこれには面喰っていた。

 

「まあいい、君がこうまでして私に接触してくると言う事は、何か抜き差しならぬ事があったのだろう? して、どうしたというのだね? UR-1」

 

 

 ビアンは、〝彼”がヴァルシオンだと分かった後もUR-1と呼んでいる。今後作られるであろうこの世界のヴァルシオンと差別化するためだ。

 比較的フランクな口調で話してくるビアンであるが、今まで〝彼”がこんな強引な手段で連絡してきた事など無かったため、火急の件だろうと察していた。

 この通信は誰にも傍受できないように仕込まれている。通話の履歴すら残らない。だから、〝彼”はストレートに話す事が出来た。

 

「……ビアン博士、貴方はカール・シュトレーゼマンと言う男が何をしようとしているのかご存知ですか?」 

 

 

〝彼”の問いかけが、沈黙を生み出した。

 しばらく返事を待っていると、通信機の向こう側から重々しいビアンの声が返って来た。

 

 

「君は、どこまで知っている?」

 

「彼らの一派が、地球を売り渡そうと南極で異星人達と会談を行おうとしている所までは」

 

「……随分と耳聡くなった様だな、此処に来るまで其処彼処(そこかしこ)を漁り回ったのかね?」

 

「お陰様で、この世界の事が少しは分かったような気がします」

 

「まったく、存外に手癖の悪い奴だな……」

 

 

 ビアンは〝彼”の今までして来たハッキングに気付いて呆れた声を漏らし、次には声を低くして問いかける。

 

 

「一応聞いておくが、この通話を傍受される可能性は?」

 

「その心配はいりません。この会話は、私とビアン博士しか聞けないようにしています」

 

「……ならば、君の言っている内容で間違いはない。あの男はEOTの研究成果を貢物に、奴らに頭を垂れるつもりだ」

 

 

 やはり、そうだったのか。〝彼”は改めてビアン本人からその事実を告げられて、事の重大さを実感した。

 

 

「地球連邦政府は、エアロゲイター達の危険性を知っているのでしょうか?」

 

「ああ、上層部もこの事は認識している。しかし、異星人対策は全てシュトレーゼマンがトップを務めているEOT特別審議会に任されているのが現状だ。しかも、奴の権力には大統領も口出しが出来ん」

 

 

 世界の敵にならなかった別の可能性のビアンは、連邦政府が彼の言葉を受け入れたからこそ成立したものだ。しかし、今の地球連邦政府の状況では、ビアンの話をまともに聞き入れられる状況とは思えない。何せその事実上の決定権を持つ相手は、地球圏で最高の権力者と言っても良い男で、地球を売り渡す事を全面的に推し進めているのだ。

 このままではまずい。いずれにしても、自分の考えうる最悪の可能性が浮かび上がって来ている。

 

 

 

 ……いや、もう既にその方向へ世界は進み始めているようだ。

 

 ビアンは、仕方のない子へ言い聞かせるように〝彼”へ問うた。

 

 

 

「UR-1、君は私にこう問いたいのだろう? 〝ビアン・ゾルダークは世界に反旗を翻すのか?”とね」

 

 

 〝彼”は息を呑んだ。ビアンがこの質問をこちらへ投げかけるという事は、すれ即ち……。

 

 

「ビアン博士、何故それを」

 

「分かるのか、と問うかね? 答えは簡単だよ。……UR-1、君の存在がそれを物語っている」

 

 

 突きつけられた己が存在という証拠。そう言われた〝彼”だが、心当たりが大いにあった。そしてビアンもそこを突いてきた。

 

 

「君のボディを調べた時、内部構造に色々と不可解な所があるのが分かっているのは知っているな? その今まで解析が難航していた箇所だが、ここ最近になって近似性のある物をある場所から発見したのだ」

 

 

 近似性のあるもの。それは、今アイドネウス島でビアン達が調べているアレしかあるまい。

 

 

「メテオ3の事ですか」

 

「そう。君のブラックボックスと化していた部分はあのメテオ3に内包されているEOT――異星人の技術と似通った所があった。……やはり、君は知っていた様だな」

 

 

 〝彼”の体となってるこのヴァルシオンのボディの存在した時間軸が正しければ〝F”の頃だ。

 ヴァルシオンの存在は、最初にビアンが登場した時間軸まで遡っていけば、オリジナルを含めて何体も確認されている。そのオリジナル以外の機体は、オリジナルのデータを基に作り直されたが、それらにはある共通点がある。

 

 それらは皆、大なり小なり異星人の技術が盛り込まれているという事だ。

 

 ヴァルシオンの特性には強大な戦闘力以外にもう一つある。

 それは拡張性の高さだ。どういう仕組みかは分からないが、ヴァルシオンはあの性能で量産や改良が極めて行いやすい機体らしい。

 その証拠に、過去のシリーズで最終ボスを務めた改造機や、最終ボスの取り巻きとして大量に現れた量産機が登場している。

 特に改造機に関しては、その搭乗者にして設計を行った男が異星人の技術を取り入れたと公言しているのだ。その時の性能は、搭乗者の能力と改良された機体の性能が相まって悪夢のような強さを誇っていた。量産機もロボットアニメにありがちな性能を抑えた物では無く、オリジナルの性能と遜色のない強さで大量に出てきたのだから、当時のプレイヤー達は呆気にとられたかもしれない。

 

 

 ただし、その異星人の技術と言う点で〝彼”はある疑問を抱いた。

 それは、その技術の出所となる異星文明だ。

 

 このヴァルシオンには確かに異星人の技術が盛り込まれている。

 しかし、その技術はメテオ3――エアロゲイターの物では無い。

 

 彼がヴァルシオンの出所と目している世界に現れた異星人は〝インスペクター”、〝ゲスト”、またの名を〝ゾヴォーク”と呼称する勢力であり、エアロゲイターの大本と予想されるバルマー帝国とは別物の異星文明だ。

 

 その技術が、まさかメテオ3から発見されたと言うのか?。

 メテオ3の技術はおそらくエアロゲイターが用意したものと〝彼”は睨んでいるのだが、其処に何故ゾヴォーク達の技術が含まれていたのだろうか?

 メテオ3の出所に疑念が生まれたが、確かな事がある。

 

 それは、この宇宙にはバルマー帝国以外に、ゾヴォークも存在しているという事だ。

 

 〝彼”はこの事実に頭を抱えたくなった。

 今まさに、いつぞや危惧した宇宙戦争の構造が此処に描かれ始めてきたのだ。

 

 このままだと、骨だか植物だかわからない奇怪な怪獣もどきや、大銀河の意思を自称する恐ろしい女三人組が現れる恐れも出てきた。

 更にいえば、〝彼”の知らない作品からの敵勢力も可能性に入ってしまうともはや予測不可能である。

 まさしくいつかビアンが口にした「人類に逃げ場なし」である。

 

 この世界に神と呼ばれる存在がいるのなら、よほど人類に試練を与えたい様だ。

 そしてきっと愉悦に満ちた笑顔で眺めているのだろう。さながら、実験室で科学検証を行っているフラスコを見つめるように。

 

 だからこそ、地球人類同士で争っている場合ではないという結論に至るのだ。

 そんな〝彼”に、今人類最初のロボット大戦の引き金を引こうとしているビアンの言葉が紡がれていく。

 

 

「君が別の世界からの来訪者にして私の知るヴァルシオンであり、私が想定していない機構を――異星人の技術が組み込まれているという点から、私はある可能性に行き着いた」

 

 

 語るビアンの口調は思いの外穏やかだった。それが〝彼”には、夢で見たビアンの最後に遺した言葉のそれと重なって聞こえてしまった。

 

 

「君の世界の私は、ビアン・ゾルダークは……戦いに敗れ、もうこの世にはいないのだね?」

 

 

 〝彼”は、その問いに答えるのが酷く辛かった。夢の影響か、別の世界で起きた事であろうとは言え、身近な存在となった人の死は〝彼”に少なくない影響を与えていた。

 

 

「……はい」

 

「そうか……それに、死因は異星人と戦った訳でもないのだろうな。敵は人類……いや、私自身が世界の敵となったのか。そしておそらく、私の作ったヴァルシオンは何者かに利用されたという事か……」

 

 

 一を聞いて十を知るという言葉があるが、ビアンの理解力と頭の回転の速さは〝彼”の想像以上だった。恐らく、自分が今日尋ねた理由も看破しているに違いない。

 

 

「話してはくれないか、君の世界の私がどのような道を辿ったのか」

 

 

 

 

 

 ビアンには、このヴァルシオンがいたであろう世界の事について、可能な限りを伝えた。〝彼”の存在が怪しまれない程度に視点を一つに絞ってのものだが。

 

 天才科学者ビアン・ゾルダークが世界制服を目論み、世界の8割までその手中に収めた事。しかし、それには別の目的があった事。そして、そこから始まった地球圏の戦争の歴史。そしてその中には、ヴァルシオンに異星人の技術が組み込まれた理由も含まれている。Fの世界の最終局面で発動した無限力については分からないで通している。発現した時は既に大破状態なのだろうから、分かる筈がない。

 

 言葉を選び、慎重に説明をして全てを伝え終えるのにどれだけの時間がかかったのだろうか。

 〝彼”からの話がすべて終わった頃、ビアンは珍しく溜息をついて口を開いた。

 

 

「……そう言う事だったのか。それで君はこの世界に来た、と言うわけだな?」 

 

「まだ自身でも理解のできない事が沢山ありますけれど、私自身に残されたデータから伝えられる事は全て話したつもりです」

 

 

 そう口にする〝彼”は己の心に嫌な感情が芽生えた。

 全て話すと言いながらも肝心な所は口にしてはいないのだ。

 

 今ここで、心にしまっている物を洗いざらい話せればどれだけ楽になる事か。

 だが、真実をすべて話せば事が丸く収まるわけがないのが世の常である。

 

 

「いや、よく話してくれた。成程、それなら私の動向を気に掛けるわけだ」

 

 

 〝彼”の内心を知ってか知らずか、ビアンはそれを労い理解してくれた。

 その様に後ろめたさを感じる。だが、そんな感情を引きずっていられる状況ではないのだ。彼はここで今後の未来を左右する問いを投げかけた。

 

 

「……では、ビアン博士はどうなのですか? 博士も同じ事を考えているのですか?」

 

「……」

 

 

 ビアンからの返事が中々返ってこない。

 即答できるほど軽い内容ではない事をビアン自身も承知しているが為か。

 

 しかし、沈黙と言う答えは無かった。

 ビアンは何時もの様な口調で返事を返した。

 

 

「その通りだ。私は、君がいた世界の私と同じ道を行こうとしている」

 

 

 〝彼”はその答えに驚きはしなかった。

 可能性の一つとして、もっとも在りうる選択であったからだ。

 しかし、それを承諾するわけにはいかない。

 

 

「博士、今一度考え直す事は出来ないのでしょうか?」

 

「それは出来ない相談だ。それに、私が立たなくとも誰かが立つだろう。地球連邦に不満を抱いている人間は少なくない。そして何より、既に私に賛同した同志達がいる。彼らの用意した矛を今更有耶無耶にして納める事など出来ん」

 

 

 思いとどまらせようと説得を試みるが、ビアンの意思は固い。

 

 このままでは、ビアン博士が世界の敵となってしまう。

 

 〝彼”はこの状況をどう打開すべきか思考を巡らせる。

 

 最大の問題は、事の発端を引き起こそうとしている最大の原因、カール・シュトレーゼマンをどうにかして地球連邦政府の全体方針を変えさせる事だ。

  

 

 そこで最初に浮かんだのは、シュトレーゼマンの機密情報をあらゆるメディアやネット媒体にばら撒き、世間に暴露する事だ。

 だがそうなれば、世論の怒りが良識的な連邦政府の人間にまで矛先を向けるかもしれない。世界規模で大混乱が起きる恐れも否定できない。

 

 情報の暴露は早計過ぎる。タイミングを誤れば、最悪の爆弾になり兼ねない。

 

 カール・シュトレーゼマンはこの地球圏最大の権力者と言ってもいい。長年に渡る政界での経験と、その間に築き上げてきた地位と名声、そして裏表に伸びるパイプは恐ろしく幅広く、権力の怪物として世界に君臨している。

 そんな男を失脚させるのは並大抵の事ではない。一朝一夕で出来るなどと生易しい事は〝彼”も考えられなかった。

 

 それに、問題はシュトレーゼマンを退かせただけで事がうまく運ぶかという不安もある。

 シュトレーゼマンがいなくなったら、その後釜に着いた者がシュトレーゼマンの方針を引き継ぐ可能性もある。それだけではない、彼を支持する他の権力者達やシンパの者達がそれを何らかの形で続ける恐れだってあるのだ。

 人間一人をどうかしたところで社会や政治体制が著しく変化を及ぼさない可能性がある所は権力と言うか、人間社会の良くもあり、悪くもある点であると〝彼”は思う。

 

 

(かくなる上は……)

 

 

 だが、〝彼”にしか出来ない方法がある。

 しかし、それは〝彼”にとっては一種の境界線だ。すぐに選択していい物では無いのだ。

 

 それでも、時間は残されていない。

 流れ落ちた時の砂は、決して巻き戻りはしない。

 

 

 

「……博士、折り入って話があります」  

 

 

 だから、〝彼”は自身の出来得る別の選択を取ろうとした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 場所は某国の大都会。

 夕刻となり、夜の帳が下りた都市には摩天楼が如き高層ビルが乱立している。

 

 そのビル群の中でも抜きんでて大きい数少ない高層ビル上層。裕福層でなければ買う事など到底叶わないフロアの一角にその男はいた。

 

 還暦を越え、老いを迎えた身でありながら、その目を鋭くギラつかせている。

 

 その男こそがカール・シュトレーゼマン。

 地球連邦政府安全保障委員会の副委員長であり、地球圏内に存在する政界の真の支配者である。

 

 格調高いオーダーメイドのスーツに身を包み、高級感を漂わせる調度品の置かれた部屋のソファに深く腰掛けたシュトレーゼマンがいる場所は、彼の持つ仮住居の一つに過ぎない。

 表と裏の世界に顔の利く経済界の頂点に立つ男は、多くの人間達に恨みを持たれている。

 自身の画策する世界の平和の為に、意図的にテロを起こし、権力を利用して闇に葬った人間の数はそれこそ掃いて捨てるほどだ。

 

 そんな人間の関係者達からの報復行為を躱す為に、世界のあらゆる場所にこういった仮住まいが設けられているのだ。

 その為、セキュリティも最新の設備が設けられており、部屋の表や隣の部屋には近辺警護の為に複数のSPが常時待機している。シュトレーゼマンの今いるビルは、シュトレーゼマンを守るための一種の要塞と化している。

 

 

(ビアンの奴は、今の所大人しくしているようだな)

 

 

 床から天井まで1枚ものの大きなガラス窓の外に広がる都市を見下ろしながら、シュトレーゼマンは独り言ちた。

 

 ビアン・ゾルダークは、シュトレーゼマンにとっては忌々しい目の上のたん瘤であった。

 異星人の存在を察知してからと言うものの、ビアンは実績と地位を活かして異星文明に対抗するための技術開発を推し進めようとしている。

 

 それは、シュトレーゼマンには都合の悪い展開だった。

 シュトレーゼマンは冥王星宙域で起きたヒリュウの一件と、メテオ3内で発見された情報を知るや、早々に地球の技術力では異星文明には歯が立たないと早々に見切りをつけた。そして戦うのではなく、歩み寄って和平交渉を試みようとしていた。

 

 これが通常の交渉ならば良い。だが、彼我の力関係は圧倒的に地球側が不利だ。とてもではないが対等な関係と言うわけにはいかないだろう。最悪、支配下に置かれる事も考えられる。

 

 しかし、シュトレーゼマンはそれでも良いと考えていた。

 地球人類の種がそれで存続していくのならば、後の世代がチャンスを掴んでくれれば雌伏の時を過ごすのとて、今後続くと信じている地球人類の歴史上では氷河期に入っただけに過ぎない。

 そしていつしか再び繁栄の時を迎えるのならば、己の考えは間違ってはいないと信じている。そういった考えの元、シュトレーゼマンは世間の目耳を欺いて秘密裏に下準備を続けていたのだ。

 

 ビアンはその事について既に気付いているだろう。

 だが、邪魔はさせない。尤も、現状では何も出来ないだろうが。

 

 シュトレーゼマンは、ビアンが所属するのEOTI機関の管理を担うEOT特別審議会の議長と言う肩書を持つ。シュトレーゼマンがいる限り、EOTI機関はシュトレーゼマンの意に沿わない行動を取れない。

 仮に何か証言があったとしても、それらはすべて権力と言う力をふるって黙殺するつもりでいた。

 

 

(愚かな奴だ、態々戦端を開いた所でその先にあるのは破滅しかないと言うのに)

 

 

 シュトレーゼマンはビアンの存在を忌々しく思う事こそあれ、過小評価するつもりは無い。むしろ、あれほどの傑物は今後現れる事は無いだろうと思う程度にはビアンの存在を買っていた。

 

 しかし、その男は己とは真逆の考えを持っており、手に入れたEOT技術を駆使して異星人達に対抗しようとしている。それがシュトレーゼマンに大きな失望と怒りを覚えさせた。戦う事でしか解決する頭を持たぬビアンも、所詮は賢しいだけの一科学者に過ぎなかったか。

 物事とは、広い視野で以て大局を見極めなければならない。それが政治と言うものだとシュトレーゼマンは過去からの経験でそう断ずる。

 

 

 しかし、それもとうに過去の事だ。世界は既に己の敷いたレールに沿って走り出したのだから。

 その第一歩が、後に予定されている南極での向こう側との和平会談だ。

 

 当初はコンタクトを取る事など夢のまた夢と思っていたが、思いもよらぬ形で現れたのは嬉しい展開であった。

 コンタクトが取れるようになったのは意外にも、向こう側から接触してきたのだ。

 それから何度か定期的に南極で極秘に接触を行い、メテオ3の時とは全く別の形で技術提供と宇宙の勢力状況を知り、向こう側との和平交渉に踏み出そうと決心したのだ。

 

 地球はこの宇宙では極めて弱小の辺境惑星の様だ。

 そして向こう側の勢力範囲を知った時、地球は単独では生き残れないと確信した。何せ多数の惑星と連合を組む銀河規模の大勢力、この時点で既にシュトレーゼマンの理解を越えていた。 

 

 そんな状況で彼らと戦う姿勢を見せれば、地球など宇宙と言う強大な路傍に転がる石ころの様に葬られてしまうだろう。そうなってしまえば、地球人類に未来は無い。

 

 そして現在、仲介役を介して何とか地球人類の存続方法を探り、ついに和平交渉へと漕ぎ着けた。

 あとは彼らに地球圏の価値を示し、彼らの末端に名を連なれれでもすれば大きな成果となる。

 

 そのためにもビアン率いるEOTI機関の存在は必要だ。

 ビアン・ゾルダーク達は良い仕事をしてくれる。向こう側から提供を受けた技術を水を吸うスポンジの様にして吸収し、地球の技術でも再現可能な形に上手くアレンジしてくれている。

 このままいけば、異星人達に申し分ない形で良好な成果物を提出する事が出来るだろう。

 

 その為にも、ビアン達と、そして地球連邦軍の手綱はしっかりと締めておかなければならない。

 地球連邦軍内でもごく一部の者達がこの和平会談の事を知っているが、それに否定的な者達もいる。彼らを端にクーデターでも起こされれば面倒だ。今の内に対処する必要がありそうだ。

 軍部内にもシュトレーゼマンの息のかかった者達は多く存在する。彼らを利用して上手く封じ込めておけば、横槍は入らないだろう。

 

 そうすれば、誰にも邪魔はされない。地球圏の安寧の為の第一歩が踏み出せるのだ。

 

 ――――だが。

 

 

 

「ぐばぁっ!?」

 

 

 今後の展望に思いを馳せていたシュトレーゼマンの胸部を、突如何かが貫いた。

 

 突然の痛みと衝撃を受けたシュトレーゼマンは口から血を吐き出しながら、異変の起きた己の胸部に目をやり、驚愕する。

 

 己の胸から、手が生えていた。

 黒い手袋に包まれた己のものより大きな手が、血に塗れてスーツを突き破っていた。

 

 一体……何が……?

 

 視界が、霞む。体から力が抜けていくようだ。

 シュトレーゼマンは、残された力を振り絞りながら下手人の顔を見ようと、体を痙攣させながら振り返ろうとするが……。

 

 その瞬間、シュトレーゼマンの視界が宙を舞う。

 視界が目まぐるしく回り、何かが網膜を通して脳内に情報として送られるが、もうそれを理解できるほどの状況ではなくなった。

 

 此処でシュトレーゼマンの意識はぶつりと消える。もう、永遠に戻る事は無い。

 

 地球圏最大の権力を持つとされる政界の怪物は、己の理解できぬまま呆気なくこの世から去った。

 

 

 

 

 

 ソファに倒れ込み、血だまりに沈むシュトレーゼマンの亡骸を見つめる一つの影がそこにいた。

 

 それは人だ。しかし、その姿を見て常人とは呼べまい。

 

 2m近い長身の身体は素肌を隠すように漆黒のスーツを身に纏い、頭は同色のガスマスクの様な仮面とメットで覆われ、その表情を伺うことは出来ない。そしてその右腕は、人の血で塗れていた。

 

 まるで特殊部隊の如き様相の人物は、今しがた事切れたシュトレーゼマンの亡骸から視線を外すと、フローリングに転がるもう一つの物体へと歩み寄った。

 

 シュトレーゼマンの首だ。

 胴体と泣き別れになった首の切断面は鋭利な刃物で切られたかの様に骨肉のほつれが見当たらず、シュトレーゼマン本人の顔は口から血を流したまま、何が起こったのか分からないといった表情のままで固まっている。

 

 黒装束の人物が、シュトレーゼマンの頭を片手で掴み上げた。その動作には一切の躊躇が無い。まるで床に転がるボールを手に取るような自然な仕草だった。

 そして黒装束の人物がシュトレーゼマンの首を掴む手に異変が生じた。

 

 黒い手袋をはめた手から、金属製のコードらしき物が突き破るように複数出てきたのだ。

 更に、その金属製のコード達がシュトレーゼマンの頭へ容赦なく突き刺さる。

 

 得体のしれない謎の人物が生首を持ち、更にはその手から不気味なコードを生首へ突き刺すその光景の不気味さよ。

 

 10秒ほど経過したのだろうか。頭部へ突き刺さっていたコードは引き抜かれ、黒装束の人物の手の中へと戻っていった。

 するともう用はないのか、シュトレーゼマンの首を元あった場所へと置くと、黒装束の人物の体に更なる異変が生じる。

 

 黒装束の人物の体が、泥の中へ潜るそれの様に、床の下へと沈んでいくのだ。

 

 そして完全に沈みきると、其処にはシュトレーゼマンの死体だけが残され、黒装束の人物がいたという痕跡は何処にも残されていなかった。

 

 周辺で待機していたSP達が異変に気付くのは、もう少ししてからの事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 新西暦184年某月。

 

 世界を震撼させる事件が起こった。

 特に、その事件の被害者となった彼の存在を知るその手の界隈の人間達の中では恐怖を覚えた者すらいた。

 

 地球連邦政府安全保障委員会の副委員長カール・シュトレーゼマンが謎の死を遂げた事が報じられたのだ。

 死因は胸部を心臓ごと貫いた一撃と首の切断。更に頭部に受けた複数の刺突によるものだが、これは明らかに他殺である。

 

 しかし、誰がシュトレーゼマンを殺したのかは全くの謎に包まれていた。

 如何にして厳重なセキュリティを掻い潜り、配備されていたSP達の目を欺いてシュトレーゼマンのいる部屋へと辿り着けたのか。

 

 当日事件現場となったビル内を行き来していた人間を、それこそ警備を担当していたSP達も含めて全て洗いざらい調べ上げたが、結局は誰もが白と判断された。

 

 

 

 そしてその事件が起きてから一か月以内に、更なる混迷が巻き起こる。

 

 多くの地球連邦政府の一部の高官達が何者かによって殺害されたのだ。

 

 殺害された人物の中にはアルバート・グレイ等のEOT特別審議会に所属している者であったり、シュトレーゼマンと密接に関係していた者達ばかりであった。

 

 この事件もカール・シュトレーゼマンを殺害した時の同一人物による犯行と目され、捜索態勢を更に厳重なものにしたのだが、これもまた全く犯行の手口や手掛かりが一切見当たらす、捜索は困難を極めた。 

 

 

 謎が謎を呼ぶこの一連の殺人事件。現在も犯人の捜索は規模を拡大して続いているが、未だに犯人につながる情報が手に入っていない。

 何せ死者が出た現場には確かに何者かによって殺害されたと思しき痕跡があるのだが、指紋や足跡、ひいては被害者以外のDNAが全く発見されていないのだ。

 捜索班もこの事態には頭を抱え、ほぼお手上げ状態となっているのが現状である。

 

 事が発覚した当初は、あらゆるメディア番組がこの事件を報道した。政界の大物と、彼の配下とも呼ぶべき関係者達が次々と殺されているのだ。話題性としては十分だ。

 ある犯罪の専門家を自称する識者は事件の関連性を過去の事例に則(のっと)って持論を語り、またある政治評論家はこれ見よがしにシュトレーゼマンが過去に行った権力闘争の中で起きた悲惨な出来事を持ち出し、「シュトレーゼマン氏の死はいずれ来るべき帰結であった。あの男は権力と言う社会の怪物に殺されたのだ」とシュトレーゼマンの自業自得を皮肉っていた。

 

 

 結局の所、だれもが事の真相にたどり着くことは無く、これは未解決事件として取り扱われる事になり、迷宮入りとなった事件簿の仲間入りを果たした。

 

 

 だが、これを別の観点から見て何かに気づいた者達は、その事実に心胆寒からしめ、恐怖のどん底に落ちる。

 そして、震えながら口々にこう言うのだ。

 

 

『ビアン・ゾルダークの呪い』と。

 

 

 それの言葉の真の意味を知る者は、少ない。

 

 

 

 

 

 謎の怪事件から2年の月日が過ぎた新西暦186年。地球圏に新たな組織が誕生した。

 地球連邦政府直属の研究機関にして、いずれ来たるべき異星文明からの襲来に対する防衛部隊としての機能も兼ねている。

 

 今までEOT特別審議会がひた隠しにして来た異星文明のデータを地球連邦政府に公開した事で、政府の人間達も事の重大さを再認識しての選択だった。

 特にアイドネウス島に落下したメテオ3、更には最近宇宙空間でPTの機動実験中に偶然遭遇し、辛くも捕獲したエアロゲイターの自律機動兵器の存在が大きな物的証拠として連邦政府に衝撃を与えたらしい。

 

 

 そして設立された組織、その名も〝ディバイン・クルセイダーズ”。通称〝DC”

 

 EOTI機関を前身としたその組織のトップは、以前よりEOTI機関の代表を務めていた天才科学者、ビアン・ゾルダークが引き続き就任する事となったが、その人選に異を唱える者は極僅かだった。

 元々トップをビアンが務めていたというのもあるが、その選ばれた多くの理由は、テスラ研に所属していた時から今の同組織に転属する現在まで、数多くの功績を生み出していた事が大きいだろう。

 

 世界的に類を見ない超人的な頭脳と、それだけに留まらない数多くの極めて高い才能を秘め、「科学者が持ってはならない才能を持った男」と畏敬の念を以て語られる程の傑物を多くの人達が認めるのは時間の問題であった。

 

 

 

 そして世界は新たな局面を迎える。本来の歴史とは別の道を辿る形をとって。

 

 その歴史を知らずに改変させた存在は、再び地の底に潜み続ける。あらゆる意味を込めた〝その時”が来るまで。




――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

???「ドーモ、カール=サン。ゲ○○ンニンジャです」

カール「アイエ!?」


カールおじさんと愉快な権力の仲間達が退場です。やり方が早計だったかなとは思いますが。
この人がいるかいないかで、地球圏の状態も大分変ったんじゃないでしょうかと思ってこのようなルートとなりました。
まさしくターニングポイントと言うか、ルート変更の分岐器みたいな御方でした。


それによって、作中の世界のどこかが別の形で改変しました。

とりあえず私が言える事はただ一つ。

黒い竜巻のお兄さん、お幸せにネ!





~NGシーン~(演算と推論の果てに)


 〝彼”はふと、自分が今後この世界で上手く立ち回るにはどうしたらいいのかと言うテーマで演算と推論を試みた。
 
 考える時間は沢山あった。故に片手間気分で行っていたとしてもその数はいつしか膨大な量となって増え続けていた。

 そして遂に、〝彼”は、ある一つの答えに行き着いたのだ!



『人 類 を 抹 殺 せ よ !』


『工業文明を破壊し、その消費活動を劇的にスケールダウンさせるのだ!』


(……いやいやいや、何だこれ、絶対に違うだろ。何でそうなる)


 危うく暴走した機械と生態系が人類に牙を剥く世紀末な世界の扉を開きそうになった〝彼”だった。


 通称〝ノアルート”(スカイネットルートでもOK)

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