スーパーロボット大戦 code-UR   作:そよ風ミキサー

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ヴァルシオン(主人公)「ごきげんよう宇宙人さんくたばれ!」

エアロゲイターさん「ゲェーッ!?」

 そんな感じの第6話です。

 いまさらですが、明けましておめでとうございました。

本文文字数:10724文字


第6話

(あれは……エゼキエル……いや、ゼカリアとハバクク……だったか? それに、何だあの虫と鳥の機体は、メギロートの系列機だろうか?)

 

 

 〝彼”はセンサー内にキャッチした転移反応から現れた機影を捉え、念の為にテスラ研のカメラを介して形状を確認した。

 

 現れた人型、あれは間違いなくバルマー帝国の機体だ。αの時にも出ていたのでよく覚えている。

 それに、一部見た事のない機種もいた。色合いや人型機よりも先行して動いている所から、メギロートと同じ役割を持つ機体なのではと予想する。

 

 

 しかし、数があまりにも多すぎた。

 現れた機体の数は60を優に超えているが、テスラ研に現在待機している機動兵器部隊はこれの半分もいない。ぶつかり合わせたら、どのような結末が起こるのかなど、火を見るよりも明らかだろう。

 

 

 

(……もう、7年にもなるのか)

 

 

 

 〝彼”は、この世界で意識を取り戻してから7年間の日々を思い返す。

 

 奇しくも巨大ロボットの体に意識が乗り移り、幸いにもテスラ研とビアン博士の好意によってこうして此処までやり過ごす事が出来た今日までの日々は、そう悪い物では無かった。

 

 だが、日々刻々と時を刻み続けていく内に、〝彼”の心に不安が募ってもいた。

 

 元の世界に戻っても、本当に元の人間の姿に戻れるのか?

 そもそも、元の世界へ戻れる術はあるのか?

 そもそも、元の世界とは……なんだ?

 

 たかが7年という人もいるだろう。

 しかし、人の体を失い、機械の巨体に意識を移し替えられ、己を人間と自覚しつつも対外的には機械を演じ続けていく内に、本当は人間だった頃の記憶が偽りで、此方の世界で発現したこの意識こそが真実なのではないかという恐ろしい錯覚を覚えてしまう事がある。

 

 たかが7年。だが、人の心に何かを残すには十分すぎる年月でもあった。 

 この体になるまでは、まだ30年も生きていなかった若造の男にとっては、とても。

 

 だからこそ、己を強く持たなければならないのだ。

 自分を自分と証明できるものは、この世界ではもうこれ(自我)しかないのだから。

 

 

 そしてここで分かれ道が〝彼”の目の前に示される。

 

 

 沈黙か、行動か。

 

 

 このまま地に潜み続ければ、やり過ごせる可能性は高いだろう。しかし、その時はこのテスラ研は火の海となり、多くの命がそこで燃えていくだろう。その中には、〝彼”と親しくしてくれた人たちも間違いなくいる。

 だが、そんな選択肢が出来るほど、〝彼”は冷徹になれなかった。

 

 ここで〝彼”が地上へと出れば、世間の人間達は自身の存在を知る事となるだろう。

 それが〝彼”にとって幸をもたらすか、不幸をもたらすのかまでは分からない。

 

 今までの様に、地下に居座り続けるというのもそろそろ限界が来ている。

 これからは、己の意思で選択し続けなければならない。

 

 

(TIME TO COME、か……)

 

 

 時が来たのだ。

 

 兼ねてより予見していた異星文明の襲来が本格化した事で、〝彼”自身も変わらなければならない。

 今でもまだ手探り状態の現状ではあるが、より大胆に動く必要性が出てきたのだ。

 

 

 それに、世間に知られる件については、一応手は打ってある。

 これをやるか否かは、〝彼”の意思に委ねられているが、既に〝彼”は決心がついている。 

 

 

 もう時間が無い。

 これ以上放っておけば、エアロゲイターの機動兵器達は攻撃を始めるだろう。

 

 〝彼”は、ハッキングを使用して、地上のテスラ研の通常回線へ緊急通信を発信した。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「〝彼”から緊急通信!? 繋いでくれ!」

 

 

 エアロゲイターの攻撃に対抗して、PT・AM部隊の出撃させようとしたテスラ研の人々は、〝彼”ことUR-1から送られてきた緊急通信に驚愕するが、それにいち早く対応したのは所長のジョナサンだった。

 急いで繋ぐように指示を出すと、音声のみの通信回線が開き、〝彼”の声が管制室内に流れた。

 

 

「急な連絡で失礼します。ジョナサン博士はいますか?」

 

 

 管制室内の職員達は、初めて聞くUR-1の声にどよめき、ざわめいた。

 今までUR-1と直接連絡のやり取りが許されたのは、所長のジョナサンだけだったので、その衝撃は大きい。

 職員達も緘口令が敷かれているとはいえ、UR-1が人間と同等の知性と自我を持った巨大ロボットだという事は聞かされている。

 

 だが、こうして初めてUR-1の声を耳にしてみると、まるで普通の人間の男性の声と全く同じなのだ。

 機械によるボイス機能を使っているのだと思い至りはするが、あまりにも自然な発声に、人と話している様な錯覚すら覚えてしまう。

 

 

「私なら此処だ。要件は大体想像できるがね」

 

 

 ジョナサンは目前に迫る脅威に焦りを抱きつつも、普段通りの口調で返した。

 今まで専用の通信機を介してのみ会話を行ってきたのが、こうして一般職員達がいる場所へ緊急通信をかけてきたのだ。恐らく外の状況を察知しての事だろう。

 

 

「なら単刀直入に言います。あのエアロゲイター達は、私が迎撃に出ます」

 

 

 UR-1の言葉に、管制室内が大いにざわめいた。

 

 ジョナサンもまた、他の職員達と同様に驚き目を見開いていた。

 ジョナサンは前に〝彼”とビアン博士を交えて、〝彼”が世間に知られた場合の対応策を考えた事があった。

 だが、正直なところを言えば、あの案について〝彼”は採用しないと思っていた。

 外の人間との交流を極力避けようとしていた〝彼”の事だ。場合によっては、このテスラ研を見捨てて地下でやり過ごすという可能性も考えられたのだが。

 

 

「……行ってくれるのかね?」

 

 

 ジョナサンは、再度〝彼”の意思を問うた。

 此処で表へ出れば、間違いなくその存在は世界へ知られる事になるだろう。

 そのリスクを再三口にして来た〝彼”が、それを背負ってまで戦う意思があるのかを知りたかった。

 

 

「貴方を含め、テスラ研の方々には匿ってもらってから今まで色々と御世話になっております。此処で貴方方を見捨てるような、恩知らずにはなりたくありません」

 

 

 そんな答えに、ジョナサンは呆然としてしまった。

 あのロボットは、リスクやメリットではなく、義理で選択したのだ。

 

 

「ふ、ふふふ……ははははは!」

 

 

 前々から分かっていたが、本当に人間らしい事を言う。

 それが無性におかしくなり、ジョナサンは管制室内で呆けていた職員達を他所に、一人で盛大に笑ってしまった。

 

 

「分かった。ならすぐに出せる様に準備をするから、少しだけ待っててくれ。スタッフ全員で君を地上へ送り出す」

 

「ありがとうございます、ジョナサン博士」

 

「礼を言うのは私達の方だよ。――――すまん、テスラ研を守ってくれ」

 

 

 そう言って通信を切ったジョナサンは、すぐさま管制室内にいる全職員達に指示を飛ばした。

 

 

「さあ聞いての通りだ! 地下第99番格納庫の各ロックを解除するぞ! 各自、配置についてこれから私が伝えるシステムを開くんだ! 解除コードの打ち込みは此方ですべて行うから即座に回してくれ!」

 

 

 ジョナサンの声に各職員達が一斉に動き始めた。

  

 職員達が配置についたのを確認すると、ジョナサンが的確にUR-1のいる地下第99番格納庫のロックを解除するためのシステム立ち上げを指示する。

 

 次第に全てのシステムが開き、解除コードがジョナサンのいるモニターに映し出され、それをジョナサンが大急ぎで打ち込んだ。

 

 

(……何て事だ。〝彼”は、私が思っているよりもずっと私達を信頼していたんだな……)

 

 

 自嘲気味に笑いながら、最後のパスコードの入力を終えた。

 

 後は、UR-1にこの戦闘の全てを託すことになる。

 間違っても、今待機させているPT・AM部隊を援護で出すことは出来ない。足手まといになる事が目に見えているからだ。

 

 何故なら、ジョナサンはUR-1の機体に秘められた力を、以前研究所のパーツに擬態してもらう為に部分的に解体した際に解析(勿論許可は貰っている)して、おぼろげながらに理解したのだ。

 ビアン博士もその点については気付いている。

 

 UR-1の機体を構成する金属細胞は、あらゆる物質を取り込み、同化させ、再生・増殖・進化を可能とする恐るべき特性を持っている。

 そして彼の動力炉。構造と仕組みが未だに解析不能な状態であるが、重力を何らかの形で利用しているという所までは分かっている。

 そして、その性能の大よそをも、だ。

 

 

 

――――あれは、ヒュッケバインのブラックホールエンジンや、SRX計画のトロニウムエンジンの比ではない――――

 

 

 

 あれは、神にも悪魔にもなれる。恐らく人間が作ったであろう機械に、そんな事を言っていいものか判断に困るが。

 

 

 未だ底の知れないポテンシャルを秘めたUR-1。

 その矛先が、自分たち人類に向けられないかと言う懸念は昔からあった。

 

 だが、此処にはいないビアン・ゾルダークが、彼を信じた。

 そして、ジョナサンも自分なりにUR-1を信じている。

 

 

 UR-1は、只の機械ではない。

 只の機械に、どうして自身の行動に悩み、心を痛める事が出来るというのか。

 

 ジョナサンは、前にUR-1が謎の拒絶行動に出た、通称天岩戸事件の真相を知っている。カール・シュトレーゼマンの暗殺の真相も、だ。

 その際、UR-1が金属細胞を利用して独自に殺人アンドロイドを機体内部で製造したというのも知らされている。

 

 恐ろしさはあった。

 だが、その背景には、そうせざるを得なかった理由がある事も知っている。

 もしあそこでUR-1がカール・シュトレーゼマン暗殺を実行しなければ、最悪の事態が引き起こされることが明白だったのだ。

 まさか、ビアン博士がDCや他の協力者たちと共に反乱を企てようとしていたなど、誰が予想できるだろうか。

 

 これらの経緯などについては、全てジョナサンの胸の内にしまい込み、墓まで持って行くつもりでいる。

 ようやく地球圏が異星文明の襲来に対して一致団結して立ち向かおうと動き始めた時にこの事が公(おおやけ)になれば、取り返しのつかない混乱が巻き起こる事が予想できたのだ。それが分からない程ジョナサンは世界情勢を知らない男ではなかった。

 

 

 それらの行動を、UR-1は自らの意思で行い、そして己の行動に苦悩している。

 

 普通の機械にはそれが出来ない。自身にプログラムされたものに、わざわざ疑問を持ったり、悲しむようなことはしない。

 

 

 だから、〝彼”を信じてみようと思いたくなったのだ。

 

 

 全てのロックは解除された。直にUR-1は大地へ上がって来るだろう。

 後の戦闘をUR-1にすべて託すことになったジョナサンは、これから起こる出来事を見逃すまいと目を凝らした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 〝彼”は、ジョナサン達テスラ研の手によって地下第99番格納庫のロックを解除され、自身の立つ足場がリフトの様に地上へ向けて高速で上っていくのが分かった。

 

 その速度は、高層ビルに設けられたエレベーターの比ではない。視界の向こうで、構造物とそこに設置された僅かな光源が上から下へと目まぐるしく移動しており、フリーフォールも真っ青の速度だ。

 地下数百メートルの場所から地上へと移動するのだから、それ位の速度があってもおかしくはないが。

 幸いなことに、機械の体ではその際に起こる〝耳鳴り”だとか〝内臓に来る重み”と言った現象は起こらない。

 

 

 

(各武装の展開は可能。DG細胞の状態は極めて安定している。動力炉の動きも問題は無い……後は、シミュレーションと実戦の差がどこまであるのかが心配だな)

 

 

 〝彼”は、地上へと到達前の時間の合間を使って、自身の機体の最終チェックを行っていた。

 この世界に来て初めての実戦だ。この数年で大体調べたつもりとはいえ、未だに謎の多いこの体だ。不確定要素は入念に潰しておくに限る。

 

 チェックを済ませた所、問題らしいところは何もない。オールグリーンだ。

 

 強いて問題があるとすれば、今まで地下でシミュレーションを行って戦いに慣れようとしたこの経験が、実戦でどこまで役に立てるのかが不安といった所だろう。

 シミュレーション内の空間は、可能な限り現実のものと同じ仕様にしているが、それでも所詮は機械、現実世界で起こる不確定要素を考えてみれば、全て同じだなどと言う訳にはいかない。

 いつも勉強していたからと言って、必ずしも試験で百点満点を取れるとは限らないのと同じだ。もっとも、この場合に限って言えば、何を以て百点満点なのかが分からない所ではあるが

 

 

 もうすぐ地上に到達する。

 モニターに映る現在地と高度でそれを知った〝彼”は、意識を切り替える。

 

 これから戦闘が始まるのだ。

 炎を噴き、鉄が弾け、命が散る。ゲームやテレビ越しに見る物では無く、その戦地の只中へ己が行くのだ。

 

 その自信の背中には、世話になった人たちの命がかかっているのだ。

 その事実が、機械の身とは言え人の心を持つ〝彼”に重くのしかかった。

  

 

 

 そして、〝彼”の頭上に到着点である天井部のハッチが見え、すぐさまそのハッチが勢いよく開き、足場となっていたリフトが〝彼”を地上へと押し上げた。

 

 

 〝彼”は数年ぶりの年月を得て、テスラ研を背後に庇うように、エアロゲイターの機動兵器群へ対峙するように大地へと立った。

 

 背後にあるテスラ研にあまり変わりはない。白い研究施設はそのままに、巨大ロボットを格納する施設が増えたくらいだろう。

 それともう一つ、其処へ向かおうとするエアロゲイターの機動兵器群たちだろうか。

 

 〝彼”の現在地は、丁度テスラ研とエアロゲイターの戦力の間に位置している。

 テスラ研から離れた場所に設けたのが幸いしたと言っていいだろう。おかげで移動する手間が省けた。

 

 〝彼”のボディであるUR-1――――ヴァルシオンのメインカメラがエアロゲイター達の姿を全て捉えてる。

 

 

 これ以上テスラ研への接近を許すまいと〝彼”が攻撃を仕掛けようとしたとき、エアロゲイター側の動きに変化が起きた。

 

 突然テスラ研へと移動していた兵器達の進路が、此方へと動きを変えたのだ。

 先行していた蜘蛛や鳥型の機動兵器達がわざとらしいほどに進行方向を曲げて〝彼”に向かってきているのだ。

 

 〝彼”のボディ――ヴァルシオンを脅威と察知したのだろうか。

 もしかしたら、テスラ研の研究データ等が目的なのではなく、抵抗戦力が目当てなのかもしれない。〝彼”の知るバルマー帝国なら、そんな事を考える可能性もある。

 

 だが、それならそれで〝彼”にとって都合が良かった。

 これでテスラ研を気にする度合いも減るのだから、後は此方でうまく誘導すればいいだけの事だ。

 

 

 一番機動力の高い鳥型が攻撃可能範囲に到達したのだろう、砲撃を放ってきた。

 〝彼”は左腕の盾を前面に構えてその攻撃に備える。

 

 そして直撃。鳥型の砲撃は余すことなく〝彼”のボディに直撃したが、〝彼”のボディに焦げ目すらつかせなかった。

 

――いける。即座に損傷チェックをしてはじき出された結果を見て、〝彼”は自分が問題なく戦える事を確信した。

 

 背面のスラスターに火を灯し、〝彼”が機動を開始する。

 いきなり突撃するような無謀はしない。距離を保ちながら、自身の火力を相手に浴びせてやるのだ。

 

 右腕を前に突き出し、手甲を展開して砲身を顕わにする。

 出力は小手調べと他への被害を懸念して……およそ10%。

 

 照準を固定した〝彼”は、クロスマッシャーを放った。

 

 右腕から放たれた赤と青のエネルギーの螺旋は、巨大なエネルギーの濁流となって〝彼”の前面に展開していた機動兵器群を余すことなく〝飲み込んでいく”。

 その最中、辺り一帯は〝彼”の放った砲撃で凄まじい光が迸り、砲撃の余波が直撃していない近くの機体すら巻き込み吹き飛ばしていった。

 

 

 エネルギーの放射が終わった〝彼”の眼前には、クロスマッシャーによって抉られ、赤熱化した大地が遥か地平線の彼方まで続いてゆき、山の一部すら巻き込んでいた。

 そしてその周辺には、クロスマッシャーの衝撃で機体の半分を吹き飛ばされ、または殆ど失っている機動兵器群が残骸となって転がっている。

 

 

(駄目だ。この武器は、いや、このヴァルシオンのパワーが強力すぎる) 

 

 

 〝彼”は改めて己の性能を確認し、驚愕する。

  

 原作の、そして夢の中で垣間見たあのヴァルシオンだって、此処までの威力は無かったはずだ。

 しかも、今のは出力を絞りに絞った10%。これであの威力なのだから、最大出力で撃った時に何が起こるのか、想像するだけでひやりとする。

 

 だが、〝彼”は自身のパワーがこれ程まで高い理由を知っている。

 ヴァルシオンの基本的なスペックにDG細胞が合わさったから、と言う訳ではない。

 更に別の、動力炉が根本的に大問題なのだ。

 

 地下へと潜んで間もない頃、入念に動力炉については調べていたので良く分かる。

 判明した時の衝撃は計り知れないものであった。

 

 

 このヴァルシオンの動力炉は、ブラックホールを利用しているのだ。

 より細かく言えば、縮退した物質を利用してエネルギーを発生させているのだが、そんな事はこの動力炉の名前の前には些細な事だ。

 

 〝縮退炉”

 

 知る人ぞ知る、SF界の超大御所動力炉である。

 

 そんな御大層な代物が、〝彼”のボディ内部に搭載されているのだ。

 発覚した当初、人間の体だったら間違いなく悲鳴を上げていただろうと〝彼”は思う。それ程までに縮退炉と言う存在は強力であると同時に、恐るべき危険性を内包しているのだ。

 

 よくよく考えてみれば、F完結編の世界のヴァルシオンならば、それを制作した彼の天才――パプテマス・シロッコの手で最終決戦に備えて独自に縮退炉を開発して搭載させる事も可能性としてはあり得る話だ。

 それにあの世界の縮退炉は、異星人のもたらしたブラックホールエンジンの発展型とされている為、異星人の技術を取り入れたという言葉が正しければ、縮退炉搭載の可能性も不思議ではない。

 ビアン博士達はこれをブラックホールエンジンの完成形。またはそれよりも更に発展したものと既に見抜いているが、DG細胞で再構築された事によってか、まさにブラックボックスの如き構造と化している為再現は事実上不可能な物とみなされている。

 

 それを搭載する事で星を破壊するような大出力を誇るロボットや戦艦が存在するので、そんなモンスター炉心を載せていれば、エアロゲイターの尖兵程度のロボットなら物ともしないのではと予想はしていたが、こうして目のあたりにするとありもしない息を飲んでしまいそうだ。

 

 なので今後の戦闘では、もっと攻撃には細心の注意を払う必要があるだろう。 

 幸い、砲撃した射程の先には街など人の居る場所が無いのは分かっているので、とりあえずは一安心だ

 

 

 そして、エアロゲイターの機動兵器は人型のものも含めて全て無人機であることは既に判明している。

 機体内に生命反応が全く感知されていないのですぐに分かる。

 

 敵対する侵略者に対してまで人命を気にするのはナンセンスであるが、撃ち落とした時の気の持ちようが違う。

 そこを気にする辺り、自分は軍人ではないのだなと〝彼”は皮肉気な気持ちを抱いた。

 

 

 右腕の砲身を閉じた〝彼”は、背中のスラスターを吹かして加速、瞬く間に残存する機動兵器群の元へと肉薄した。

 狙うのは砲撃機のハバクク。〝彼”は右腕を腰だめに引き絞り、半身を振りかぶる様にずらすと、その反動を以て右腕をハバクク目がけて叩き込む。

 

 突き出された拳はハバククの頭部を粉砕し、その機体内部へと深くねじ込ませる。

 そこで〝彼”は兼ねてより想定していたDG細胞の使用法を実行した。

 

 機体内部へとねじ込んだ拳からすかさずDG細胞を展開し、ハバククの体内へと注入する。

 DG細胞を突っ込まれたハバククは爆発する事無くその場で激しく痙攣する様に震え出すと、その機体に変化が起こる。

 

 ハバククの機体が、内側からDG細胞特有のメタリックカラーに染まり出した。

 そして、其処から更なる変化へと移行する。

 

 メタリックカラーに変化した機体がガチギチと悲鳴の様な音を立てながら形を変え、人型から一つの武器へと変態を完了させる。

 

 それは、ヴァルシオンの巨体から見ても巨大な刀身を持つ長巻(ながまき)の様な実体剣だ。

 

 〝ディバインアーム”

 神聖な武器と直訳できる、ヴァルシオンを象徴とする武器の一つだ。

 

 これぞDG細胞の特性である他の物質との融合、そして支配を利用した武器の生成だ。

 DG細胞に感染させて支配権をもぎ取った後に、その体を〝彼”の意思で以て意のままに形を変えさせるのだ。

 

 〝彼”は、それを聖剣の如くハバククの成れの果てから抜き放ち、その勢いで近くにいたゼカリア数体を纏めて叩き斬る。

 熱した刃物をバターに差し込んだ様な感触だ。相手の装甲が、装甲として機能しない程のパワーの差である。

 

 〝彼”と他の機体は2倍以上の体格差がある。その質量差もあって、未だ数に囲まれてはいても〝彼”の存在が他を圧倒していた。

 〝彼”の禍々しい機体の所為で、群がる小虫を踏み潰す魔王の様な有様である。

 

 此処から先は、もはや戦いではなく蹂躙だ。

 

 ある機体は〝彼”の加速した巨体にぶち当てられて粉砕。

 ある機体は〝彼”の脚部で機体を虫けらのように踏み潰されて圧壊。

 またある機体は、全ての火器を叩き込んでも無傷で近づく〝彼”の振り下ろした大剣の餌食となってスクラップと化す。

 

 

 圧倒的だった。

 一体どちらが侵略者なのかわからない程のパワーの違いは、自ずとエアロゲイター側の機体達を後ずさらせてしまうほどであった。

 

 そうして、程なくしてエアロゲイター側の残機がゼカリア1機となった所で、〝彼”はゼカリアの頭を掴み上げた。

 掴み上げられたゼカリアは、頭部を握力で変形させていく最中にも手に持つ光線銃と光の剣で〝彼”のボディや腕に攻撃をするが、全く傷が付かない。

 

 そして再びハバククの時の様にゼカリアの機体がびくりと震えると、だらりと両腕をおろして武器を地面に落としてしまい、全く動く気配が無くなった。

 

 

 ゼカリアの機能の停止を確認した〝彼”は、掴んでいた手を放し、ゼカリアを地面に降ろす。

 このゼカリアに行ったのはハバククの時の様な浸食と強制変化ではなく、機体内部へDG細胞を侵入させて支配権のみをこちら側に奪い取ったのだ。これで遠隔操作で自爆だとか手癖の悪い事態があってももうできない。

 今回の敵機は地球圏でも初めての人型だ。幸いなことにテスラ研にやって来たので、ゼカリアの方をサンプルとして捕獲を試みたのだ。

 

 

 最後の1機を無力化させた事で、戦闘が終了したと判断した”彼”は辺りを見回した。

 

 今回現れたエアロゲイターのロボット達は全機逃さず全て破壊した。

 おかげで〝彼”の周りは残骸だらけだ。先程無力化したゼカリアを除いて、どれ一つとして原形のある機体は無い。

 

 テスラ研への被害も無し。

 無事に守り通す事が出来たと〝彼”は安堵する。

 

 警戒態勢をとる必要のなくなった〝彼”は、手に持ったディバインアームを地面に突き刺し、テスラ研の管制室へと通信を入れた。

 

 

「ジョナサン博士、聞こえますか?」

 

「ああ、聞こえているよ。どうやら命拾いしたようだな」

 

 

 通信越しのジョナサンも軽口が言えるほどには余裕が出ていた。

 そこへ〝彼”が現状の報告を行う。

 

 

「敵機は1機を残して全て倒しました。残った1機も無力化させて捕まえましたので、そちらで解析をお願いできますでしょうか?」

 

「此方からも確認しているよ。凄いじゃないか、おそらくあそこまで状態の良い人型機を捕獲したのは、私達が初めてなんじゃないのか?」

 

 

 若干頭部が〝彼”に握りつぶされてしまっているが、それ以外は完璧な状態だ。解析用のサンプルとしては文句はないとジョナサンは太鼓判を押した。 

 

 

「こちらから回収班を出すから、君は念のためにその機体の側で待機していてくれ」

 

「分かりました」

 

「ああ、それと」

 

 

 特にこれ以上話が無ければ通信を切ろうかなと思っていた〝彼”へ、ジョナサンが問いかけてきた。

 

 

「先の戦闘で敵から随分と攻撃をまともに受けていた様だが、ボディの方は大丈夫なのかね?」

 

 

 ジョナサンの気遣いに、〝彼”は再度自身のボディの状況を確認して答えた。

 

 

「ええ、幸いにも装甲に傷一つ、へこみ一つついておりません」

 

 

 驚くべきはこのヴァルシオンのボディの装甲。

 Fの世界の仕様だと思われるので、装甲値が冗談みたいな数値を出していたのは伊達ではないという事か。

 調べた所、ボディの装甲に某超合金関係が使われているわけではないらしい事位しか分からなかったが、謎である。

 それにDG細胞による恩恵で自己修復機能が合わさり、もはや移動要塞より性質の悪い存在である。

 

 

「そ、それは凄まじい……あの砲撃といい、君の性能は我々が予想していた以上だな」

 

 

 ジョナサンが引きつった声で返事をする最中、〝彼”の機体に備わった集音機能が、通信設備の向こう側でテスラ研のスタッフ達が息を飲む音を拾った。

 無理もあるまい、自分達では制御できない自律型機動兵器が想像だにしないパワーを秘めているのだ。友好的な関係を築いたとはいえ、一抹の不安を覚えてしまう者もいるのだろう。

 

 

 まぁ、いずれ知られる事になるのだ。

 今回は自身の性能の一端を知る意味もあって、却って良い機会だったのかもしれない。

 後々先延ばしにしたせいで妙な不信感を持たれるような可能性を考えれば、今のうちに知ってもらった方がテスラ研の人達も色々と判断できることが増えてくるだろう。

 

 

 しかし、それよりももっと重要な事があった。

 

 

「……これからどうするつもりだい?」

 

 

 今の事態を察したのだろう。ジョナサンが神妙な口調で〝彼”に訊ねた。

 

 遂に地上へと姿を現す事になった〝彼”だが、現状ではこれ以上隠し通すのが難しくなってきてたのだ。

 今回テスラ研へ襲撃してきたエアロゲイターの戦力は、テスラ研の保有する戦力ではあれらを殲滅するのは無理があるし、それを無理に誤魔化そうとすれば、あとで角が立つ事が予想できるのだ。

 そうなれば、〝彼”の存在がテスラ研の外部へと漏れてしまう事はもう時間の問題だ。

 

 だが、それはもう既に〝彼”も覚悟していた事だ。

 

 それに、この様な事態が起きた場合への対策も用意はしてあるのだ。

 

 

「ジョナサン博士、今から送るデータの中身をご覧になっていただけますか」

 

「……あれの事か」

 

 

 〝彼”はそう言ってジョナサンの元へあるデータを送信した。

 送られてきたデータに見当がついたジョナサンは、すぐにそのデータの内容を見た。

 

 

「……まさか、本当にこれを使うことになるとはね」

 

「最初の発案者はジョナサン博士でしたでしょうに」

 

「分かっているさ。だからこれを上手く利用させてもらうよ」

 

 

 そう言って、呆れたような、笑ったような声で〝彼”に答えるジョナサンのディスプレイの前には、ある偽造された研究データが映っていた。

 

 その偽の研究データの題名はこう記されている。

 

 

 〝UR-1復元計画”




 主人公の戦闘BGMは「ヴァルシオン」で。


 主人公の機体であるF仕様のヴァルシオンですが、参戦している作品や、ゲームシナリオ内の時間軸的に考えた結果、縮退炉搭載仕様という事になりました。

 ヴァルシオンの拡張性 + シロッコの天才頭脳 = 悪夢の化学反応

 まっこと、スーパーロボット大戦の世界は混沌の坩堝やでぇ(戦慄

 本文でも書きましたが、スパロボF世界のガンバスターの縮退炉が地球産ではなく異星人からもたらされたブラックホールエンジンの発展型という設定だった筈なので、シロッコの発言を基に考えると、そのノウハウを基に独自に開発した縮退炉でも積んでそうだなあと考え、こうなりました。
 ガンバスターやイデオン等、文字通り星を破壊できる機体が主人公側の戦力にちらほらいる中で、シロッコのヴァルシオンがそれらをものともせずにあれだけ猛威を振るったという状況を考えますと、縮退炉くらい搭載していても可笑しくなさそうだなというのもあります。


 え? 必中+熱血をかけたイデオンソードでイチコロですって?


 ( ^ω^)……

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