それだけスパロボが好きだという方がいらっしゃるのでしたら、大変喜ばしい事です。
かく言う私もスパロボファンですので、皆さんのご期待に添えればなと思います。
本文文字数:20145文字
……うわあ、なんだか凄い事になっちゃったぞ。
新西暦187年、地球圏はエアロゲイターが初めて人型機動兵器を投入した事により、ようやく有利に進めていたと思われた戦況が激化し、膠着、または不利な状態へと追いやられ始めてきた。
今までのバグスの様な虫型偵察機とは全く違う運用方法の、より戦闘に特化した完全な人型機動兵器の攻撃に、今まで人型機動兵器との戦闘経験が少なかった地球側の部隊は少なくない被害を被った。
そして、それから間もなく地球圏のL5宙域へコロニーをも上回る巨大な人工衛星が空間転移によって姿を現した。
宇宙統合軍から偵察部隊を出した所、人工衛星からエアロゲイターの偵察機が現れ、その人工衛星をエアロゲイター側の拠点と断定された。その際、偵察に向かった部隊は全滅に追いやられてしまっている。
同タイミングに、その人工衛星、地球側のコードネームで〝ホワイトスター”と呼ぶ事になった場所からと思しき謎の通信が地球圏へ一部の人間にしか受信出来ない回線で送られてきたのだ。
それには、知的生物と思しき存在からの、地球圏の言語でのメッセージが内包されていた。
メッセージの主は〝レビ・トーラー”
此度のエアロゲイターの首魁を自称する存在だった。
その人物が送って来たメッセージの内容は、30日以内という猶予つきの武装解除と降伏勧告だった。
地球連邦政府、及びスペースコロニー政府はそれを拒否し、戦う事を選択した。
幸か、それとも仕組まれたことなのか、30日の猶予があればホワイトスター用の新型兵器の調整や部隊編成が十分準備できる。
地球圏は、これを機にホワイトスター攻略作戦という人類史上最大となる作戦に挑むつもりでいる。
その為にも今は、エアロゲイターの動きに細心の注意を払いつつ、力を蓄えているのだ。
地球圏が総力をかけて異星文明に立ち向かう日は、そう遠くは無い。
そんな最中、ちょうどエアロゲイターが初めて人型機動兵器によって世界各地へ奇襲をかけてきてから間もない頃、テスラ研とDCが合同で地球連邦軍にある研究データを提出した。
〝UR-1復元計画”
12年前にギアナ高地で発見され、動力炉の暴走事故で跡形も無く消失してしまった当時話題となった謎の巨大人型ロボットを、現在の持てる技術を駆使して復元しようという計画である。
計画自体はUR-1が消失してから数年経った新西暦182年には開始されており、当時発見されたメテオ3の技術と、オリジナルのUR-1から解析できた技術を駆使し、グルンガスト零式より後発で既に完成はしていたのだ。
その後、研究資料として保管し、後にこの復元されたUR-1の技術を基にしてDCの最新機DCAM-01 ヴァルシオンは開発されたのだ。つまりこの復元されたUR-1は、ヴァルシオンのアーキタイプでもあるという事になる。
そして改修を繰り返し、この度のエアロゲイターの人型機動兵器による襲撃の際、保有戦力のみでは対処不可能と判断したテスラ研所長のジョナサン・カザハラの判断の元、急遽迎撃戦力として投入し、日の目を見る事となった訳である。
……という設定の、テスラ研所長のジョナサン・カザハラとDC総帥のビアン・ゾルダーク、更には当人(当機?)である〝彼”によるでっち上げであった。
話自体は此方の世界のヴァルシオンが完成する前から3人で概要だけ作っておき、ビアン・ゾルダークを筆頭とした幾人の権力者たちの力によって根回しを済ませておき、あまり不自然にならないように準備だけは進められていたのだ。
そうして遂にUR-1が地上へ出る必要が出た為、雛形データの保管役を任されていた〝彼”がデータをジョナサンへ回し、それに分析データや設計図等の肉付けをした後ビアンと打ち合わせて最終チェック。
予定調和の名のもとに、UR-1の偽造データはあっという間に完了し、根回しのされている地球連邦軍の方へと送られたと言う訳だ。
そんな苦労の甲斐あってか、地球連邦軍側の反応と言えば、特に何も追及なくその事後申告ともいうべき内容を受け入れたのだ。
恐るべきは権力の二文字。使いどころを間違えれば恐ろしい事態を引き起こすであろうと思った〝彼”は、協力してくれた二人の博士へ礼を告げると同時に、軽い注意を呼びかけた。もっとも、この二人に限って言えば余計なお世話で終わるかもしれないが、それならそれで〝彼”は良かった。
こうして偽造戸籍もとい、偽造データを作成した事によって〝彼”は未だ枷は多いが、外へ出る事が可能になったのだ。
そんなUR-1はテスラ研を離れ、現在DCの本拠地アイドネウス島へと運ばれる事となった。現在の地球圏は来たるホワイトスター攻略の為に戦力を集めるのに精いっぱいで、現状は猫の手も借りたい状況であるため、自然とホワイトスター攻略のための戦力として投入する事をテスラ研が命じられてしまったのだ。単独でエアロゲイターの人型部隊を蹴散らした戦績が報告されている為、そんな力を死蔵させるのはもったいないという事なのだろう
UR-1が抜けたテスラ研はと言うと、UR-1が外れた分の戦力を補う為に、DCから戦力の補充を受けられている。
そして現在、アイドネウス島のDC本拠地へ機体を運ばれたUR-1は、ビアン・ゾルダークの指示の元他のロボットが格納されている場所とは別のヴァルシオンが格納されている特別性の格納スペースへと移された。ヴァルシオンと体格や規格が似通った所があるため、同規格の格納庫に収納した方が良いというのが表の理由だ。
裏の理由は、現在作戦開始までアイドネウス島の防衛を行うという名目でDC本部にいるわけだが、その実態はビアンの手元に置いて他者からの干渉を極力抑えようという措置であった。下手な部隊に所属させて、其処から干渉されて接収されたり、調べられるのを避けるためだ。
そういった面では、このDC本部はビアン・ゾルダークの城の様な所であり、そこで働くスタッフたちも人格や背景をUR-1が事前に調べたうえで採用しているので信頼が出来る。後はUR-1を知る者たちが下手をしなければ問題は無い筈だ。
更に――――
「本日よりDC本部所属となりました。テスラ・ライヒ研究所所属のUR-1のテストパイロットを務めている〝アケミツ・サダ”と申します。よろしくお願いいたします」
そう言って、DC本部の総帥ビアン・ゾルダークがいる部屋で、ビアンと顔を合わせて挨拶をする者がいた。
外見は20代後半から30代に差し掛かっているのだろう日系の男。
三白眼ぎみの強い眼差しと、少しばかり長めで癖のある黒髪が特徴的だ。
背丈は2メートル近くの引き締まった体つきをしており、鍛錬をしているように見受けられる。
「うむ、よく来てくれた。歓迎するぞ」
対するビアン・ゾルダークもアケミツを歓迎する。
今のビアンの姿はテスラ研で働いていた時の様な白衣姿ではなく、防衛組織の長を務める為か、厳めしいコートを羽織り、本人の威風も相まって実に貫録のある姿になっていた。
ビアンはアケミツと互いの挨拶を交わすと、アケミツの姿を上から下まで興味深げに見回していた。
悪意のある視線ではない。敢えて言えば、子供の様な純粋なまなざしだったとでもいうべきか。
「……とてもその体が機械だとは思えないな」
僅かに感嘆の声を上げたビアンに対して、アケミツと呼ばれた男が己の手を見た。
「〝本体”の金属細胞のおかげですよ。ナノマシンレベルで構成されてまして、人間と全く同じ作りになってます」
そう言って握り拳を作っては開き、腕を動かしたりしてみるが、男の体からは服の擦れる音しか聞こえてこない。まさしく見てくれのとおり、人間の動きだ。
「あと、人間と同じ様に飲食も可能です」
「ほう、消化はどうするのだ?」
「人間と同じプロセスで可能ですが、体内で完全に分解してエネルギーに換える事も可能です。ですので、機械と怪しまれる事はそうないかと」
「レントゲンやセンサー類にかかった場合は?」
「生体反応が出る様にしておりますので、そちらも問題は無いかと思います」
「……戦闘能力は?」
「……以前の暗殺アンドロイドの物を流用していますので、白兵戦や偵察も出来ます」
幾つか問答を繰り返すと、ビアンは腕を組み、しみじみといった雰囲気の似合う声が口から洩れた。
「まるでSF世界の産物だな君は」
「ビアン博士、貴方も間違いなくその住人ですよ」
今、こうしてビアンと会話をしているこの男、アケミツ・サダの正体は人間ではない。その実態は、〝彼”が遠隔で操作しているアンドロイドだ。
以前シュトレーゼマン暗殺の為に生み出したアンドロイドをより人間的な姿にして、テスラ研に所属しているテストパイロットという偽造の戸籍データを持たせ、〝彼”ことUR-1のパイロットという役割を与えて〝彼”の乗り手も事前に確保させるという役割を与えられているのだ。テスラ研所属のテストパイロットと言う話は、所長のジョナサンから既に了承を得ている。
それを格納庫に収納されている本体である〝彼”がリアルタイムで操作しているのだ。簡単に言えば、ラジコンロボットとでもいえばいいだろうか。
なお、現在の服装については組織の上役に会うという事でジョナサンからもらい受けたお古のスーツを折り目正しく着込んでいる。親しい中にも礼儀は必要なのだ。
立ちっぱなしで会話をするのもアレだと思ったのか、二人は室内に設えた応接スペースの肘付椅子に腰かけて再び会話を続ける。
「さて、こうして君はこのDC本部勤めとなったわけだが、作戦が行われるまでは、君にはこれから伝える部隊に所属してもらう事になる。それについては、大丈夫かね?」
「はい、問題ありません。それと、その後の作戦なのですが、私はどこの部隊に所属されるのか決まってますでしょうか?」
アケミツの気になる所はそれであった。
とうとう自分も宇宙に鎮座する異星人の本拠地へ殴り込みに向かう戦力として徴兵(?)されたわけだが、所属する部隊が何処になるのかまだ聞かされていなかった。
正直、悪い人格の持ち主が指揮する部隊なぞに入れられるような事だけは避けたい。
もっとも、DC所属の兵士からスタッフまで、隅々まで調べて不安要素のある人材はある程度振るいにかけられている為、そうそうおかしな人はいないだろう。
それに、ビアン博士もそれについては考えてくれるだろうから、ビアン博士の采配を信じたい所であった。
そんな懸念を抱いているアケミツ越しの〝彼”に、ビアンは安心しろと前置きを付けて教えてくれた。
「君には、エルザム少佐の部隊へ所属してもらう予定だ」
「あの、DCのトップ部隊にですか?」
「うむ、戦線に出される事になるだろうが、あの部隊を指揮する隊長は信頼できる男だ」
アケミツはその部隊に覚えがあった。
何せ、DCきっての優秀なパイロット揃いで有名な最新鋭部隊だ。
そしてその隊長は、宇宙統合軍の総司令マイヤー・V・ブランシュタインを父に持つ男、エルザム・V・ブランシュタイン少佐。
エルザム少佐自身も優秀な部隊を率いるだけあって、DC内、ひいては以前所属していた地球連邦軍内でも抜きんでた優秀さを持つ男だ。
人格的にも極めて人望があり、DC内でエルザム少佐を慕う者たちは多いと聞いている。
成程、これは優良そうな部隊だ。もっとも、優秀な部隊なので最前線に投入される事はまず間違いないのだが、部隊長が賢い人物なので、それなら大丈夫だと思った〝彼”だが、以前エルザム少佐について噂に聞いていたため調べた事があったのだが、そこで思わぬ事実を知った。
(まさか、あの男の兄だとは)
アケミツの知るスーパーロボット大戦シリーズに何度か登場するSRXチームでR-2のパイロットを務めていた、あのライディースの兄にあたる人物だったのだ。
少なくとも、アケミツはエルザムと言う人物の存在を人間の頃は知らなかったので、不思議な縁が続くものだなと内心改めて感じた。
ただし、ちょっと疑念と言うか、不安もある。
「ビアン博士。ご紹介いただいてあれなのですが、そんな優秀な部隊に私の様な実績のない新参者が配属されても大丈夫でしょうか?」
アケミツが懸念しているのはそこだった。
実力のある精鋭部隊だというのならば、そういった部隊に所属している隊員の矜持といった感情的なものが異分子も同然の自分を受け入れてくれるのかと言う不安もある。
もっと実質的な所で言えば、部隊内の連携なども慣れ親しんだ隊員だからこそ可能だというものもあるのではないか。
そういう点を考えると、アケミツこと〝彼”はこの世界のロボット戦闘で他者と連携を取る事など全くの未経験者であった。
そもそもまともな実戦自体も、テスラ研での迎撃戦が初めてでそれ以来未だ行っていない。実戦経験が圧倒的に足りていないのだ。流石にシミュレーションをやり続けているので問題ないなどというおこがましい考えをいだくつもりは無かった。
「確かに私もその点については懸念していたのだがね。正直君の戦闘力は他の部隊にはいささか手に余るように思えてな、自然とエルザム少佐の部隊に白羽の矢が立ったと言う訳だ」
成程、消去法でこうなったのか。
確かに〝彼”の単純な破壊力は思い上がりでなければ、この地球圏ではかなり上位に位置しているのではないだろうか? という認識がある。
何せ、間違いが無ければ全力で戦えば星が破壊、できずとも大被害を与えられる超出力だ。そんなものをおいそれと部隊内で振り回すわけには行かない。
状況次第によるが、アケミツは今回の戦闘で最大出力を出すつもりはあまり考えていない。
恐らく敵味方が入り乱れた乱戦状態になる恐れがあるため、砲撃を行う前に事前連絡などの手間をかける必要がありそうな気がした。
「そう言う事でしたら分かりました。後であちらの時間が開いている様でしたら、挨拶に伺わせていただきます」
「ああ、よろしく頼む」
程なくして、アケミツはビアンの部屋から退出する。
その際、ビアンに一言声をかけた。
「ビアン博士、何から何まで御配慮いただき、本当に――――?」
アケミツが深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べようとしたが、ビアンが困ったように笑いながら手で制した。
「その言葉は、全てが終わってから改めていただくとしよう」
さ、行くが良いとそのまま退出を促されたアケミツは、何とも言えない微妙な顔をしながらその場を後にした。
出鼻を挫かれたアケミツは、少しだけ渋い顔をていたがすぐに元の表情に戻し、基地内の通路を進んで近場のトイレへと入った。
丁度良い事に人は誰もおらず、中は極めて清潔さが保たれていた。地球を守る前線基地と言っても良い場所のトイレが不潔なのは世間体的にも格好が付かないのだろうかと益にもならない感想を抱きつつ、手洗い場に設けられた鏡に映る自分と相対した。
自分で言うのもなんだが、悪くは無い筈、と〝彼”は鏡に映るアケミツの顔を見ながら思う。
顔のつくりに違和感はない。むしろ、〝懐かしさすら覚える顔”を数年ぶりに見る事が出来て、自然と頬が少し緩んでしまう。
〝彼”がそんな反応を示すこのアケミツ・サダというアンドロイドは、何を隠そう〝彼”自身が人間だった頃の体と顔をそのまま再現した物なのだ。
名前だってそうだ。サダ・アケミツ――――真 明参は〝彼”自身の名前だ。
人間だった頃の自身の姿にした理由は他でもない。自分が、人間であった事を忘れたくなかったからだ。
幸いな事に自由度のあるDG細胞のおかげで、自身の姿と同じアンドロイドを作るのはそう難しくはなかった。
もう諦めていた人間の頃の記憶を思い起こす事が出来たので、この体を構築しているDG細胞に今は感謝している。
そうして、少し自身の顔を懐かしんでいた時にこのトイレへ入る人影があった。
この基地には些か似つかわしくない、優しげな顔をした東洋系の若い男だ。まだ未成年なのではないだろうか? と思わせるような幼さが未だ顔に残っているのでそう感じさせる。
しかし、身に着けている服装は間違いなくDCのパイロットの制服だった。
それに妙にがたいが良い。背丈はそれほどではないが、鍛えているが故に引き締まった体つきが服越しに見えるあたり、兵士としての調練の賜物なのだろうか。
そんな風にちらりと入って来た若い兵士を見ていたら、つい視線が合ってしまった。
若いとはいえ、此処で働いている人間であれば失礼が無い様に、アケミツは静かに会釈をした。
すると、向こうの若い兵士もつられてか、会釈をしてはっとした。
「あの、もしかして日本の方ですか?」
未だ声変わりをしていなさそうな高めの声が、目の前の若い兵士から問い掛けで以て発せられた。
「ええ、そうですよ」
「ああ、やっぱり。会釈する人って日本の人しかしないそうですし」
問われたアケミツは、偽造戸籍的にも日本人の為、素直に敬語で肯定する。
自分の外見より若そうに見えても、組織に所属する人間である以上、それはつまり一社会人だ。社会人同士の礼儀は一般常識であろうと認識しているアケミツは、例え年下でも礼を弁える。
どうやら、先ほどのアケミツの態度にピンと来たらしい。
思えばアケミツがこの基地内を歩いていた時、日本人らしき外見の職員たちがいなかった。
もしかしたら偶然見かけていないだけなのかもしれないが、頻度的に言えば此処では珍しい人種なのかもしれない。
恐らくこの日本人であろう若い兵士は、同郷の人を見つけてつい声をかけたのだろうか?
だがその前に。
「お話は、用を済ませてからにしましょうか?」
そういうと、若い兵士はあ、あははと照れた様に顔を赤らめ、笑ってごまかしながらそそくさと用を足しに向かった。
「先程はすみませんでした。改めまして、僕はDC所属のパイロットをしているリョウト・ヒカワ少尉と言います」
若い兵士をトイレの外で待ち、出てきた所で若い兵士の方から自己紹介してきた。
やはりこの兵士はパイロットだった。この若さでパイロットを務めているという事は、それだけ優秀という事なのだろうか?
そんな疑問を脇に置き、アケミツもリョウトへの礼儀に対して名乗った。
「私はテスラ・ライヒ研究所からの出向で来たテストパイロット、アケミツ・サダです」
そんなアケミツの名乗りにリョウトは何か察した様な顔をした。
「ああ、貴方でしたか。テスラ研から出向されるパイロットって」
既に話は基地内に伝わっている様で、リョウトもアケミツが来る事を知っていた。
「僕が所属している部隊に配属されるって聞いていまして、隊長から貴方の案内役を任されているんですよ」
そこでアケミツを探す前にトイレを済ませようとして出くわしたと言う訳を、少し恥ずかしげにリョウトが説明してくれたのだが、その話の最中に意外な事が含まれていた。
「リョウト少尉は、エルザム少佐の部隊の人間だったのですか」
「え、ええ、まあ」
アケミツが感心していると、リョウトは言葉を濁しながら頬をかいた。
そのままリョウトに案内を任せて基地の中を歩いている最中、リョウトがDCに所属した経緯を話してくれた。
元々リョウトは軍とは縁の遠い、ごく普通の学生だったらしい。
だが、趣味で遊んでいたバーニングPTをやっている最中、知り合った年上のプレイヤーがDCの関係者であり、後にその人物を介してパイロットを志願したという。
しかし、志願するまでには色々と複雑な事情があった。
当初は自分がパイロットになるなど自身の性格を知っている為、合わないと判断して視野に入れていなかった。
けれども、エアロゲイターの偵察機が実家のある街を襲った事で状況が一変した。
幸いにもDCと地球連邦軍の部隊が撃退してくれたため、街は壊滅の危機から逃れる事が出来たのだが、それでも民家や施設が被害を被った事に違いはない。リョウトの家も、その内に含まれていた。
家は経営している空手道場ごと半壊。家族は皆命に別状こそなかったが、病院へ運ばれ、痛々しく負った傷の治療跡がリョウトに大きなショックを与えた。
エアロゲイターの襲撃の際、リョウトは幸い別の街にいた為被害を免れていた。そして実家のある町が襲われている事を知るや血相を変えて自宅へ戻り、その惨状を見て目の前が真っ暗になった。
そこで思い出したのが、いつぞや知り合ったプレイヤーがDCの関係者であるという事。
葛藤はあった。戦いに出る事への恐怖が足を竦ませる。
だが、家族が傷つく中自分だけが無事であった事への後ろめたさと無力さ、それでもまだ尻込みする自分への怒りが、今の自分にしかできない事を選択させた。
そして、その知り合いのプレイヤーの伝手でDCへ入り、パイロットとして今日まで戦い抜いてエルザム少佐の指揮する精鋭部隊のポストを勝ち取るまでに至った。
尚、リョウトはDCへ入る際、エアロゲイターの被害で経営の難しくなった実家への支援を紹介してくれた知り合いのプレイヤーへと掛け合ったらしい。
その知り合いは〝結果次第でそれも考慮するように相談してみる”という約束をして、今こうして結果を残しているリョウトとの約束を守り、家の立て直しの支援をしてくれている。
「それはまた……当事者でない私がいう言葉ではないですが、大変だったでしょう?」
「まあ、辛いと思う時が無いとは言いませんが、部隊の人や上司に恵まれてましたので。僕は幸運な方だと思います」
「……ご家族はリョウト少尉の所属を認めてくれたのですか?」
「最初は大反対でしたよ。でも、その時つい大声で怒鳴っちゃいまして、そのままなし崩し的に了承を得ました」
話を聞いていたアケミツは、リョウトがパイロットになる背景に同情の念を抱くと同時に、内心である人物への突っ込みをしていた。
(ビアン博士、何でそんな所でバーニングPTやってるんですか)
驚く事に、リョウトが知り合ったバーニングPTプレイヤーのDC関係者とは、街行き用に変装していたDCの総帥ビアン・ゾルダークその人だったのだ。
バーニングPTには機動兵器の操縦適性を図るという裏の機能がある事を〝彼”は知っているので、ビアンはそれでリョウトの適性を知ったのだろうとあたりを付けた。
〝彼”はビアンがバーニングPTのプレイヤーだという事は既に知っている。
と言うよりは、〝彼”もビアンと一緒にプレイしていたのだ。
たまに仕事の関係で日本へ足を運んだついでに近場のゲームセンターでプレイをしていると聞いた事があるが、不思議な巡りあわせがあるものだとアケミツは思う。
そもそもの話、リョウトの話を聞いてアケミツは思い出したのだ。
この少年、スーパーロボット大戦αの主人公だ、と。
8人の男女から選択する形式の主人公で、内気で優しいタイプの男性主人公だ。
しかも、この世界にはリョウト以外にも同じようにゲームで主人公として登場していた人物が何人も確認されている。
今更驚きはしないが、本当に何なんだろうなこの世界は、とアケミツはこの世界の集約っぷりに呆れすら覚えてしまう。
リョウトと会話をしながら基地内を案内され、粗方済んだところで最後にエルザムの所へ挨拶に向かう事となった。
順番的にはエルザムへの挨拶の方が先の様な気もしたが、当のエルザムが仕事の都合上離席状態だったのでこの様な流れとなった。
エルザムの部屋の前に辿り着き、リョウトがドア横にあるインターホンを押すと、スピーカーから『私だ』と声が返ってくる。
「リョウト・ヒカワ少尉です。本日テスラ研から出向されたアケミツ・サダさんを連れてきました」
『分かった。入れ』
簡潔な返事と共にドアのロックが開き、リョウトとアケミツは中へと進む。
室内は入居者の人柄が反映されているからか、綺麗に荷物の整頓がされている。
設けられた棚には本人の趣味か、黒い馬の写真や女性の写真が飾られていた。
そして、執務スペースで静かにキーボードを叩きながらディスプレイに文字を打ち込む部屋の主がいた。
やや癖のある金髪を肩より長めに伸ばし、その顔つきは貴公子と称しても文句のない気品のある美男子だ。
この男がDCが誇る精鋭部隊を指揮するエルザム・V・ブランシュタインその人であった。
部屋に入ってすぐ、リョウトはその場で敬礼した。
「リョウト・ヒカワ少尉、アケミツ・サダさんを連れて参りました」
「うむ、確認した。道中案内もしてくれたのだろう? ご苦労だったな」
「いえ。……あの、お仕事中でしたか?」
リョウトがエルザムが何やらディスプレイに打ち込んでいる様子を見て遠慮がちに尋ねると、エルザムは苦笑した。
「これはプライベートな事だ。気にする必要はない」
「それなら良いのですが……」
二人のやり取りを一歩引いて見ていたアケミツに、エルザムが気が付いて声をかけた。
「すまない、本命をそっちのけにしてしまったな。そちらがテスラ研から出向されたパイロットかな?」
「先程ご紹介いただいたアケミツ・サダと申します。本日よりDC基地への勤務を命じられました。エルザム少佐の部隊へ配属されるとお聞きしましたので、ご挨拶に伺いました」
「〝クロガネ隊”隊長エルザム・V・ブランシュタイン少佐だ。これからよろしく頼む」
エルザムの理知的な眼差しがアケミツを見つめる。まるで此方の事を推し量っているかのようでもある。
「リョウト少尉、私はこれからアケミツ氏と話があるので、仕事に戻ってくれ」
「了解しました。それでは失礼いたします」
敬礼をして、リョウトがその場を退出する。
その場に残ったのは部屋の主であるエルザムと、新参者のアケミツだけだ。
立ったままなのも何だという事で、エルザムから席を勧められるとアケミツは座って対面する。
「ビアン総帥から話は聞いている。総帥直々の推薦で君は私の部隊へ配属されるというのは聞いているかな?」
「ええ、私も今日ビアン総帥の元へ挨拶に伺った時に聞きました」
アケミツの返答に、エルザムは少しばかり苦みを携えた笑みを浮かべる。
今回の配属には思う事があるのかもしれない。
「ふむ……本来ならばこの様な事は無いのだが、他ならぬビアン総帥からの命令で、今回は異例ではあるが私の部隊へ入隊してもらう事になる。そこで、本格的に動く前に貴方の能力を確認しておきたい」
「仰る事、御尤もです。私ならいつでも可能ですが、如何いたしますか?」
「ほお、やる気が十分なのは良い事だが、大丈夫か?」
「新参者ですので、こうやって皆さんから信頼を得られればと思いまして」
明け透けな良い様に、エルザムの口から笑いが漏れた。
「ふふふ、そうか。分かった、ならば夕方に部隊内への顔合わせも兼ねて、隊員の誰かとシミュレーターでひとつ勝負をしてもらえないか?」
「分かりました。では、それまで関係各所の皆さんへ挨拶に回ってきます」
「承知した。では時間は1600、シミュレータールームまで来てくれ」
「了解です」
未だ慣れない敬礼をして、アケミツは部屋を出た。
その間、エルザムがその背をじっと見ていた事に気付きながら。
各部署への挨拶と細かい手続きを済ませていく内に、いつの間にかエルザムが指定していた時間が迫って来た。
その際、リョウトに案内されていた場所を再度確認しながらもアケミツはある人物を探していたが、ついぞ会う事は無かった。
その人物の名は、シュウ・シラカワ。
22歳という若さで10もの博士号を持つ天才の二つ名が似合う科学者にして、このDCで副総裁を務めている若き傑物だ。
面会の目的は至極単純で、挨拶に伺おうとしただけの事である。総帥への挨拶を済ませて、副総裁に挨拶をしないというのは失礼だと思ったが為だが、多忙な人間らしく、関係部署へ問い合わせてみた所暫く此処に戻らないらしい。
アケミツはそれにほんの少しだが安堵していた。何せ彼が知るゲームでの知識とは言え、シュウ・シラカワと言う男は、シリーズに登場する度何をするのか分からない核爆弾以上の破壊力を持つ不発弾の様な存在だ。
突然現れては謎めいた発言をし、敵に回れば恐るべき人型機動兵器グランゾンを駆って全滅に追いやる恐怖のジョーカーだ。
現にこの世界でもグランゾンはシュウを中心に開発が行われ、完成している。過去に一度その時の開発データを調べてみようかと思ったのだが、機械的ではなく、彼が持つとある技術によって逆探知などされたら危険だと思い自制した事があった。
さる科学者曰く、乗りこなせれば一日で地球戦力を壊滅させられると言って他の科学者たちからバッシングを受けていたが、アケミツこと〝彼”はその科学者の発言を真実だと確信している。
シュウ・シラカワが存在するとなると、自ずと他にも彼の出生に関わる様々なものが実在しているという事になる。
実際、シュウ・シラカワを探して現れたと思われる超高速飛行物体、通称AGX-05(エアロゲイター機の識別コードだが、実際は別物である)の存在も確認されており、現在はスペースノア級二番艦のハガネを旗艦とする部隊に保護されているらしい。
(……お爺さんの質問に答えて、隠し通路を通るだけで仲間になってくれないものだろうか)
人間の頃、それも結構幼い頃にプレイした某ゲームでの事である。
まあ、それは無理な話なのだろうけれども。
恐らく今後あり得るであろう最悪の事態を想像すると、憂鬱な気持ちになった。何が悲しくてワームホールから襲い掛かる無数のエネルギー砲やブラックホール、フェルミ縮退現象の弾を受けようというのだ。まあ、一人だけシュウ・シラカワ憎しで確実に突っ込もうとするどこぞの方向音痴がいるのは確かだが。
そんな気持ちで肩に重さを錯覚しているアケミツが目指しているのはシミュレータールームだ。
到着した頃の時間は、約束の時刻まで丁度10分前。だが、既に何人か集まっているのが見えた。皆DCの制服に身を包んでる所から、エルザムの部隊の隊員たちなのだろう。
視線が此方に集中した。
アケミツが今身に着けているのはDCのパイロットが着る制服ではなく、テスラ研で支給された制服を着ているので周りからすると浮いているのだろう。
その制服のデザインなのだが、第4次からFの頃の主人公が着ていた物と似ており、違いがあるとすれば、アケミツの着る上着が長袖で全身が黒一色な所だろうか。
何だかコスプレみたいだなと思いはするが、実際に服としての機能は優秀で、着心地も悪くはないので今後活動する時はこの服を着る事になるだろう。
只今アケミツへ一点に集中しているDC隊員の視線だが、幸いと言うべきか、好奇の眼差しこそあれ嫌悪感は無い様だ。もっとも、これからの身の振り方でそこから先の反応が変わるわけだが。
視線に晒され、声でもかけて挨拶でもしようかと思ったアケミツであるが、其れより先にアケミツへ声をかけてきた者がいた。
「すいません、もしかして今日からうちの部隊に入る人って貴方の事ですか?」
明るげな口調で話しかけてきたのは赤髪褐色の少女だ。
人懐こそうな明るい笑みは、話しかけられた相手の緊張を解してくれそうな印象を与える。
「ええ、そうです。後でご挨拶させてもらいますが、アケミツ・サダと言います」
「あ、やっぱり。私はリルカーラ・ボーグナイン。パイロットで少尉やってます」
此処に来て何度目になるか分からない挨拶を交わしていると、そこへ更にアケミツへ話しかけてくる者が現れる。
「失礼、同僚が慣れ慣れしく話しかけてしまったみたいで」
「お気になさらず。貴方もエルザム少佐の部隊の方ですか?」
「ええ、ユウキ・ジェグナンと言ます。階級は先ほどのリルカーラと同じ少尉です。よろしくお願いします」
この男も若い、多分リョウトやリルカーラと同じくらいだろう。
ブラウンの髪を肩まで伸ばしており、優等生の様な雰囲気がある。
と、言うかこの二人もリョウトと同じαで主人公だった者たちだった。
……もはや何も言うまい。アケミツは驚く事も無く、悟ったような気持ちになった。
「どうやら、皆もう揃っているようだな」
そうこうしている内にエルザムが数名の隊員と一緒にやって来た。
その中には、リョウトもいる。
エルザムの登場にその場にいた隊員たちが皆敬礼をして迎えた。
その中をエルザムが敬礼をしながら歩いてくる様は、SFのワンシーンの様でとても絵になる。
「さて諸君、今日ここに集まってもらったのは事前に話した通り、我が隊へ新たに配属される者との顔合わせと、その者とのシミュレーターによる模擬戦だ」
エルザムの前に隊員たちが並んで話を傾聴していると、エルザムがアケミツに顔を向けて挨拶を促してきた。
エルザムの横に立ち、隊員達が見える場所で挨拶をする。
「皆さんはじめまして、本日よりテスラ・ライヒ研究所から出向で来ましたアケミツ・サダと申します。皆さんのお役に立てるよう努めさせていただきます」
「アケミツ氏はテスラ研でテストパイロットを務めており、我が隊へはヴァルシオンのプロトタイプのパイロットとして所属する事になる」
エルザムの補足に、皆が興味深げにアケミツを見る。
何せDCが誇る最新鋭機にして現行機の中でも最強を誇るヴァルシオンのプロトタイプ、そのパイロットを務めているというのだから、腕前は如何程のものかと考えさせられてしまうのだ。
そんな隊員たちの視線を察しているエルザムは、笑みを浮かべた。
「そこで、今回は彼の操縦の腕を皆と確認する為にシミュレーターで彼の相手をして欲しいのだが……ユウキ少尉」
エルザムの呼びかけにユウキが一歩前に出た。
「一つ彼と相手をして欲しい。構わないか?」
「了解しました。アケミツさん、あのテスラ研でテストパイロットを務めていた貴方の腕、見させていただきます」
どうもテスラ研でテストパイロットを務めている事が一つのネームバリューになっている様で、ユウキは表情こそ真面目そのものだが、その目は純粋な興味を携えてアケミツを見ていた。
これは下手をするわけには行かないな、とアケミツはユウキの期待に応える事にした。
シミュレーター機の中に二人が入り、筐体(きょうたい)を起動させるとアケミツはそこで機体を選択する。
選択できる機体には、既に本体である〝彼”のデータが入力されているが、今回は敢えてそれを選ばず、量産型のゲシュペンストMk-Ⅱに決めた。
相手を侮っているわけではない。パイロットの腕を試すのにはゲシュペンストが一番適しているのだ。
ゲシュペンストはパイロットの力量次第でスペック以上の力を発揮する事も可能で、人間に近い動作を行う事も出来るのだ。それだけゲシュペンストの完成度が非常に高いという事でもある。
〝彼”が地下にいた時にシミュレーターの一環で、此方の世界の機体を使用した事もある。その時よく使っていたのが量産型のゲシュペンストMk-Ⅱであった。シミュレーターのみでの経験年数で言えば、トップクラスなのではないだろうか。何せ人間の生理現象を無視してぶっ続けで出来るのだ。
武器の選択も忘れない。
この世界ではPT・AM問わず同規格で携帯可能な武装が多数あるため戦闘の幅が広い。
今回選択するのは遠距離用のM950マシンガンとメガ・ビームライフル、そして近接対応としてネオ・プラズマカッターの3種類だ。
全ての調整が終わると、本格的にシミュレーターが作動し、筐体内に光が広がる。
映し出されたのは仮想空間内で構築された戦闘フィールドだ。
有難い事に、地形はゲシュペンストが地に足を付けられる荒れ地である。
空間のリアリティ度合いは〝彼”がいつも行っていたシミュレーターの方が上かな? と思うのは手前贔屓だろうか。
「ゲシュペンストMk-Ⅱですか。アケミツさんが持ってきた機体ではないのですか?」
ユウキの声だ。
そして現れたのは、AMの最新機ガーリオン。
エースパイロットの中にはこの機体をカスタマイズして独自の個性を持たせている者がいるが、見た所、特に手を加えられていないノーマル機の様である
テスラドライブで空を飛ぶ事がセールスポイントなので、ユウキが駆るガーリオンは悠々と空を飛びながらの登場だ。
「パイロットの腕を試されていますので、最初の内はこの機体で相手をさせてもらいます」
「……了解しました。では、行きます」
少し煮え切らない感じではあるが、ユウキから理解を得られた。
実際、本来の機体で戦うとなると機体のスペックばかりが目立ってパイロットの腕と言うものが見えにくくなりそうな気がしたというのもあるが、アケミツは敢えてこの場で口にはしなかった。
そうして始まったシミュレーションによる模擬戦闘。
当初は空から頭を押さえているユウキのガーリオンが有利かと思われていた。
実際、戦いが始まった頃のアケミツのゲシュペンストは、ガーリオンの所持するバーストレールガンによる砲撃を避ける事しかしていなかった。
しかし、それから少しすると徐々に状況が変わっていった。
「こうも当らないとは……!」
ユウキは模擬線相手のゲシュペンストMk-Ⅱの回避率の高さに舌を巻いていた。
何せ戦闘が始まってからと言うものの、未だに一発もこちらの攻撃が相手に当たっていないのだ。
相手の回避先を予測し、フェイントを交えて砲撃を放てば、それを見越したかのように必要最低限のモーションで避けていくのだ。
後ろに目でも付いているのか、と疑いたくなる。
(この男、ゲシュペンストMk-Ⅱの動きを熟知しているのか?)
そうとしか思えない動作だ。背面のブースターや各駆動時の反動すら活かして動かすのは、ゲシュペンストの構造を知り尽くしていないと分からない芸当だ。
流石はロボット開発ではマオインダストリー社やイスルギ重工とは別のベクトルと次元で突出しているテスラ・ライヒ研究所のテストパイロット、と一応は称賛しておく。
だが、それで今の状況を納得出来るほどユウキは諦めの良い男ではなかった。
(バーストレールガンの残弾は後一発。マシンキャノンはまだ余裕……ならば!)
おそらく相手の戦法は、避けて遠距離武器の弾薬を無くした後、懐まで飛び込ませたところでゲシュペンストの間合いで迎撃しようという寸法なのだろう。
事実、ガーリオンの遠距離武器はもう一発しかなく、残った武装も距離を詰めないと有効打にならないものばかりだ。
なのでユウキはこれ以上はジリ貧と見做し、相手の思惑に乗った。空中から遠距離での攻撃スタイルを止め、懐まで潜り込んで弾薬を叩き込みつつ必殺の一撃を仕掛ける戦法に切り替えたのだ。
テスラドライブの出力を上げて、ガーリオンがゲシュペンストMk-Ⅱ目がけて飛び込む。
マシンキャノンで弾丸をばら撒いて牽制を行い、距離を詰めつつガーリオン最大の一撃を試みる。
ソニック・ブレイカー。ガーリオンに搭載されている最強の武装だ。
両肩のユニットを前に倒し、フィールドを生み出して突撃するという武器の為、どうしても加速と距離が必要となる。
その為の急接近だが、相手は此方の動きを読んでいるのだろう。細かく動きながらマシンキャノンを掠りこそするが、直撃弾を避けて正面に補足されないようにしている。
やりにくい、だが此処まで来たら迷えば落されかねない。もうゲシュペンストMk-Ⅱとの距離は間近にまで迫っているのだ。
ユウキは意地でゲシュペンストMk-Ⅱを補足させ、ソニック・ブレイカーを敢行した。
直撃せずとも一部を巻き込めば十分ダメージは与えられる筈だ。そしてその勢いで距離を開き、再び空へ逃げ込んだ後にダメージで動きの鈍くなった機体を仕留めれば良い。
そう睨んでユウキは突撃を行う。
しかし。
「何ッ!?」
予想外の事が起こった。
目の前にいたゲシュペンストMk-Ⅱが、突然消えてしまったのだ。
一体何処に? いや、その前に離れなければ。
驚き、一瞬のスキが生まれてしまったのだろう。その瞬間機体に大きな衝撃が発生した。
「うっ! うおぉぉ!?」
突然の衝撃、そして機体から発せられるアラームは、ガーリオンの背面に重大なダメージを受けていることを知らせてきた。
受けているダメージ箇所にはテスラ・ドライブも含まれていた。
直撃だったのだろう、テスラ・ドライブが破壊され、ガーリオンの出力が急に落ち、コントロールが出来なくなった。
そして、先のソニック・ブレイカーで生み出した衝撃が災いし、その勢いのままに地面に叩きつけられてしまった。弾丸の様に加速していた機体が、地面を何度も跳ねながら仮初の大地を削っていく。
その影響で、シミュレーター内に凄まじい衝撃とGが発生する。このシミュレータは極めて実戦と同じ状況を生み出す事が出来る為、戦いの際に生じる衝撃やGすらリアルに再現する。今回は、それがユウキにとってアダとなった。
激しく揺れる体を必死に抑えながら、ユウキはモニターへ目を凝らす。
既に機体は全身至る所のダメージレベルが最大値へ達しており、大破と言っていい状況だった。
「一体、何が起こった……?」
機体は既に動かず、赤い照明で一面真っ赤なコックピットの中、呆然とするユウキの呟きに応えてくれるのは、危険を知らせるアラームだけであった。
こうして、ユウキとアケミツの模擬戦闘は、ユウキの敗北と言う形で終わった。
「ちょっとユウ、大丈夫?」
「無理もないよ、あれだけの事があったんだから……」
シミュレーターの筐体からよろめきながら出てきたユウキを迎えたのは、同僚のリョウトと相棒のリルカーラだった。
「大丈夫だ……それより、何があったんだ? こっちからだと、何が何だか分からず大破になっていた」
ユウキはリルカーラへ先程起きた現象の実態を訪ねた。
正直、今でも何が起こったのか分からないのだ。外でシミュレーター内の戦闘を観戦していた隊員たちなら分かる筈だと、身近にいたリルカーラに訊ねる。
「それが凄いんだよ! ユウもあっちで見た方が良いよ。私なんて、今見てもどうやって動かしているのか分からないんだから」
興奮気味に話してくれるリルカーラの様子に首を傾げつつ、ユウキはモニターを見ていた隊員たちを見る。
皆一様に驚きと感心でそのモニターを食い入るように見ていた。
隊長のエルザムもそのモニターを気難しげな眼でじっと見つめてる。
筐体から出て近づくと、エルザムがユウキに気が付き声をかけた。
「ユウキ少尉、ご苦労。どうだった?」
「は、それが……最後、何が起きたのか小官の方では確認が出来ませんでした」
「……そうだろうな。とにかく、これを見ると良い」
そう言って、他の隊員たちもユウキの為に場所を開けてモニターを見た。
場面は、丁度ユウキのガーリオンがアケミツのゲシュペンストMk-Ⅱへ高度を下げながらソニック・ブレイカーを仕掛けていた時の場面だった。
そして、ソニック・ブレイカーがゲシュペンストMk-Ⅱに当たる直前まで迫る。そこで見た光景にユウキは声を驚きに上げた。
「こ、これは……っ」
あろう事かあのゲシュペンストMk-Ⅱは、当たる直前にスライディングを行い、ガーリオンと地面の間をすり抜けたのだ。ユウキ側が加速していた事と、相手に下を潜られた事で、まるで消えたかの様にゲシュペンストMk-Ⅱの姿を見失ってしまったのだ。
そして、潜り切ったその場で勢いをつけて腹這いになったゲシュペンストMk-Ⅱが、両手に持った銃火器をガーリオンの背面目がけて叩き込む。
砲撃は全てガーリオンの背面に直撃。機体に受けたダメージとソニック・ブレイカーの加速が合わさりガーリオンは叩きつけられるように墜落し、何度も跳ね飛び土煙を巻き上げながら、惨憺たる有り様で大破に追いやられたと言う訳だ。
「……リョウト、あのゲシュペンストMk-Ⅱの動きは実際に可能なのか?」
一連の敗北の原因を知ったユウキは、目を見開いたままじっとモニターを見ていたが、丁度隣にいた同僚のリョウトへ訊ねた。機動兵器に対する造詣の深いこの同僚なら、何らかの答えを持っているかも知れないと思ったのだ。
「……ゲシュペンストMk-Ⅱの構造なら出来なくはないけど、モーションパターンの組み立てやあのタイミングで使う事を考えると、よほど経験がないと実戦では使えないよ。そもそもあの動きは……」
何か言いかけた所で、渦中の人物がモニターに集まるユウキたちの元へと近づいてきた。
黒い制服を着こみ、2メートル近い長身の男。
今日から自分たちの部隊へ配属される事になった、テスラ研のテストパイロット、アケミツ・サダだ。
アケミツは、ユウキを見ると、気遣わしげに訪ねてきた。
「ユウキ少尉、体の方は大丈夫ですか? 凄い勢いで落ちてしまった様ですが」
嫌味の様には感じられない。本気で此方を心配している様子が見て取れた。
なのでユウキは素直に気にしないで下さいと答えていると、エルザムがアケミツに質問してきた。
「アケミツ、模擬戦の最後に見せた動きなのだが」
「……何か、不味かったでしょうか?」
「いや、そうではない。――あの最後の動き、TC-OSをマニュアルにしたのか?」
Tactical Cybernetics Operating System(タクティカル・サイバネティクス・オペレーティング・システム)通称TC-OS。
現存する大半の人型機動兵器に搭載されているシステムで、機体に登録させた動作パターンを、パイロットが行動を取る際人工知能が適切な動きを選んで実行させる事が出来るというものだ。
これによって、練度の低い兵士でもそれなりの動きを行う事が可能なため、現在の機動兵器にはとても重宝されている代物だ。
だが、極めて例外であるが、それを切って、マニュアルで操作するという方法もあるにはある。
しかし、それは極めて困難な作業だ。戦闘の際にリアルタイムで行動パターンを入力しなければならないのだから、並のパイロットでは碌に動かす事すら出来ず、敵の攻撃に晒されて終わりだ。
それを、まさかこの男が行ったというのだろうか?
この場にいる隊員たちは皆目を見開く。皆、TC-OSをマニュアルで動かす事の難しさを嫌と言うほど思い知っているが故に。
「はい、確かにあの時はマニュアルで動かしました。正直、間に合うのかちょっと不安ではありましたが」
事もなげにアケミツはそう答える。
嘘ではないのだろう。それを嘘と決めつけられない理由があったのだ。
「やはりそうか。……あのような動き、通常の機体へ登録されているはずが無いのだからな」
TC-OSに登録されているモーションは、あくまで常識的な範囲でのデータのみであるため、スライディングからの伏射(ふくしゃ)紛いの動きなど、並の兵士では途中でミスをして事故になる可能性が高いので、登録されているとは思えないのだ。
そうしてエルザムたちの部隊は改めて、アケミツと言う男のパイロットとしての腕前の一端を垣間見る。
ユウキの腕が悪いわけではない。そもそも、エルザムが率いる精鋭部隊にいる事から並のパイロットではないのだ。それをシミュレーションとは言え、苦も無く倒してのけたアケミツの腕前が優れていたのだ。
その後、ユウキとは遺恨も無く純粋に先程の操縦の腕を称賛され、今後ともよろしくと握手をする所まで友好的な関係を構築する事が出来た。
他にも、アケミツの腕に興味を持った隊員達ともシミュレーターで勝負をする事となり、夕飯時まで連戦を繰り返す事になった。
結果、シミュレータでの戦績はユウキとの勝負も含め10戦中9勝1敗と言うスコアを叩き出して隊員達の度肝を抜かせる事になる。
その唯一の1敗というのも、負け続けている隊員達の姿を見てアケミツに興味を持ったエルザムがついに参戦し、それで僅差で負かせたというのが実態である。
やりすぎただろうか? とアケミツはその時自身の頑張りすぎに内心焦ったが、結局その事でアケミツの評価がますます上がり、他の隊員達とも交友を深めるきっかけとなったので、結果オーライと相成った。
その事にアケミツ――――アンドロイドが無事に所属先の人達と上手く溶け込めた事に、格納庫に収納されている〝彼”は安堵しつつ、予断を許さない地球圏の情勢に対してネットワーク経由で目を光らせていた。
自分の知らないエアロゲイターの衛星基地――ホワイトスターの登場。
コロニー規模の巨大戦艦――ヘルモーズでない事に意外だったが、大きさで言えばこちらの方が上だ。
(いるんだろうな、ジュデッカの奴が)
レビ・トーラーの存在が確認されたのならば、合わせてあの白い巨大機動兵器もセットでいるであろう事は容易に想像できる。
問題は、あのホワイトスターの主がレビ・トーラーだという事だ。
ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォではないのか?
それとも、裏で仮面の男――ユーゼス・ゴッツォが暗躍しているのだろうか。少なくとも、ユーゼスの存在はいる物と考えていた方がよさそうだ。イングラム・プリスケンが存在しているのだから、自ずと引っ張られるようにして存在しているはずだと予想する。
そのイングラム・プリスケンだが、スペースノア級二番艦のハガネを旗艦とした部隊へSRXチームの教官と言う立場で所属していたが、それはもう過去の話である。
ついこの間起きたエアロゲイターの迎撃戦の最中に味方機を攻撃し、エアロゲイター側のスパイだったという事が発覚しているのだ。
……どうやら、この世界でのイングラムはユーゼスの傀儡状態と見ていいのかもしれない。
そうなると敵対戦力に、あの因果律の番人と呼ばれるグランゾン並みに恐ろしい機動兵器が現れるという事になる。
すわ宇宙消滅の危機かと思いもするが、〝彼”がやる事はもはや変わらない。
エルザム少佐の部隊の元、このヴァルシオンの力でエアロゲイター達と戦う事だ。
もし先の機動兵器たちと戦うようなら、最悪素性を晒してでも全力で相手をするしかあるまい。何処まで対抗できるのかは分からないが。
(……ビアン博士たちだけに、頑張らせるわけにはいかない)
今日まで、この世界をそう仕向けさせた自分にも責任があるのだ。
それを無視して、自分だけが安寧を貪る事を良しとしなかった。
既にこの世界で自分も友人の様な相手が出来た。
彼らを見捨てるわけには行かないのだ。
〝彼”は、人知れず格納庫で自分に出来る事を模索していった。
主人公、DC本社へ出向。
軍や組織内のやり取りの描写で不安な所がありますが、こんな物なのだろうかと思いながら書きました。
極めて余談ですが、主人公の人間の頃の名前は 真 明参 (さだ あけみつ)になりました。
ちなみに、少々特殊ですが読み方を変えますと……?
ついでに外見はゲ○マン忍者のお兄さんその人。
ゲル○ンカラーのマスク? ハハハ! こやつめ!
アニメと現実じゃあ比較なんてできないよねーという事で、人間だった頃の本人も周りの人も認識していませんので、自覚はありません。