この作品の感想が久しぶりに届いたおかげでまたモチベが上がってきたので続きを書こうかなと思います。
「ふいい…やっぱり日記書くだけでも大変だなぁ…」
いつものように日記を書いた後の右腕の激痛に耐えつつも、ワンコに日記を渡して本棚に戻してもらう。
慣れたとはいえ、やはり体が崩れそうで崩れない痛みというのは辛いものだ。
嫌でも出てきてしまう脂汗を拭いつつ、ベッドに倒れ込む。
「はぁ…書くのやめたほうがいいんだろうけどなぁ…」
前にもラニに「あまり体を動かしすぎるな」と言われたばかりだし、実際にラニの心配している通りに痛みがひどくなってきている。
今すぐにでもやめるべきだが…しかし、これは私にとって唯一の楽しみになっていた。
「やめたくないけどなぁ…」
ため息をつきつつ、すぐそばにいる腐敗犬を見る。
腐敗に侵されてボロボロになっているその体は、しかし私の体とは違い崩れる様子はない。
「…私も、あんな感じだったらなぁ」
思わず呟きつつ、すり寄ってきた犬の頭を撫でる。
常に体にまとわりついているこの激痛がないことが、私にとっては羨ましかった。
そんなことを考えているとはつゆ知らず、犬はもっと撫でてと言わんばかりに近づいてくる。
「…ふふ、よーしよし、かわいいね〜」
そんなふうに犬と戯れていると、部屋の外の廊下が少し騒がしくなる。
犬も気づいていたのか、耳をピンと立ててドアの先を見ている。
「…なんだろうね?」
「…! バウっ!」
部屋にいた犬の一匹が、廊下の扉を突き破って走り去っていった。
そしてその先で、何やら刀を抜く音と、犬の吠える声が聞こえる。
「っ……何? 何が起こってるの?」
「ウウウ…」
いまいち掴めない状況に思わずベッドの上の体を縮めてしまう。
誰かにこの状況について問いただしたいが、普段は廊下を巡回しているであろう兵士の鎧の音すらしない。
聞こえてくるのは犬の吠える声と刀を振るうような音だけだった。
「…逃げたほうがいいのかな…? でも…」
この体ではベッドから降りることすらできないのに、どう逃げると言うのか。
何もできない自分に少し苛立っていると、廊下の外に出ていった犬との、魔術によるパスが切断された。
「な…んで!?」
ケイティナの腐敗魔術は、掛けた対象、あるいは掛けた魔術師が死ぬまで切れることは無い。
他の魔術の干渉で稀に切れることはあるが、しかしそれを極めていると言っても過言ではないケイティナは、自分が掛けた魔術が切れることは無いと知っている。
…つまり、このパスが切断されたことが意味するのは、外に出た犬が死んだことだ。
呆然としていると、犬が突き破って壊れた部屋の扉から、一人の男が入ってくる。
「…」
葦の地と呼ばれる場所でつくられると言う特徴的な鎧に、老人の顔を模した面…いわゆる、翁面をつけている男。
男は、たった今外にいた犬を切ったであろう抜身の刀を持ち、ケイティナの部屋に入ってきた。
「…誰、ですか?」
「バウッ!」
「っ、まって!」
ケイティナの問いに男が答える前に、そばにいた犬が男に向かっていく。
「…」
だが、男は自らの刀を構え、そして振り下ろす。
二連斬りと呼ばれるその構えから繰り出された斬撃は、刀から血を飛ばすことでとんでもないリーチを実現していた。
犬は男にたどり着くこともなく、そのまま無惨に切り落とされる。
「っ…!」
男は犬を見下ろしつつ、刀を懐の鞘にしまうと、改めてケイティナの方を見る。
「…其処下、腐敗の幼女神殿とお見受けするが、如何か」
「…はい。間違いありません」
「そうか。では、失礼する」
男はそう呟くと、素早くケイティナに近づくと、その体をベッドから持ち上げる。
「っ、何を!?」
「…」
男は何も言わず、そのまま懐からある褒章を取り出す。
男がそれを使うと、魔術の紋章と共に転移術式が発動する。
「っ、転移魔術ですか…!」
「左様。…暴れても無駄だ。其方の腕では私を振り払う事などできるまい」
「くっ……」
男の言う通りだった。
こんな手足では、明らかに鍛え上げられているであろう男を振り払う事などできない。
ならば、おとなしくついていく他ないだろう。
「…」
「それで良い」
男のつぶやきと共に魔術が発動し、ケイティナはそのままどこかに転移することとなった。
♢
「…ここ、は…」
目覚めてすぐ、ケイティナが周囲を見渡すと、そこは石造の神殿のような場所だった。
空は陽の光がなく、どうもここは地下に秘密で作られている神殿らしかった。
「…お待ち申し上げておりました、ケイティナ様」
「っ…!」
突然上から声をかけられ、そちらを見ると、そこには忌み子の特徴を持った大男がいた。
彼の奥には、まだ不完全な繭が置かれていた。虫にしてはずいぶん大きい、しかしまだ羽化していないであろう綺麗な状態の繭だ。
そしてその繭からは何故か、ケイティナの兄であるミケラの魔力を感じられた。
「…ほう、さすがは妹君だ、すでにお気づきになられましたかな?」
「…嘘。なんで、兄様がここに…?」
大男はそのケイティナの言葉ににんまりと笑うと抱えていたケイティナをゆっくりと地面におろし、彼女に向かって跪きながら自己紹介をする。
「…申し遅れました、私はモーグ。ミケラ様と婚姻を結び、そしてこの地に新たな王朝を作ろうとしている者です」
「婚姻…? それに、王朝って…」
「はい。私はミケラ様の
モーグはそのまま立ち上がると、繭に近づき、それを撫でつつ言葉を続ける。
「そして、我々の願いである新たなる王朝に、妹君であるあなたが必要なのです、ケイティナ様」
「…まさか」
「そう。あなたにはミケラ様の代わりにこの繭で
「…やっぱり」
王朝を開くためには、まずその王朝の主神が必要となる。
その神の候補として神人と呼ばれるデミゴッドたちを神戸して昇華させる必要があり、それをするためには今目の前に置かれている繭が必要となる。
この神人の候補として上がっているデミゴッドは、ラニ、ミケラ、マレニア、そしてケイティナのみである。
「…兄様では、ダメだったのですか」
「あの方が神に成ってしまわれてはさまざまな問題が起こってしまうのです。故に同じ神人候補であるあなたに、ご協力いただけないかと」
「…よくわからない王朝のために、私にお飾りになれと、おっしゃるのですね」
神になると言うことは、人としての生活全てを捨てることを意味する。
友人関係や家族との関係なども全て捨て去ることになるのだ。
「…お断りします、いくら兄様の願いであろうと、私には私の願いがあるのです」
「…ほう、
ケイティナの言葉を聞いたモーグは、繭から離れると、地面に座り込んでいるケイティナの体を持ち上げる。
「なっ、離して!」
「暴れるでないわ。…やはり貴様も我らの理想をわからぬ愚か者と同じだったか。ならば、せめて我らの役に立つといい」
モーグは繭を引き裂くと、持ち上げたケイティナの体をその繭の中に入れる。
「嫌です! 嫌だ! 出して!」
「…では、妹君。せめて次会うときは、神として成熟されていることを祈りますよ」
モーグはそう言うと、そのまま繭の前を去っていった。
ケイティナは繭から出ようともがくが、しかしその小さな体では繭を破ることすら叶わず。
徐々に体力を奪われていき、いつしか意識すらもなくなっていた。
彼女のその小さな体は、いつか来る褪せ人がモーグを破るまで、永遠に見ることはできないだろう。
血に塗れた日記
モーグウィン王朝の繭に落ちていた、血に塗れた日記。
ほとんどは血で読めなくなってしまっていたが、それでも幸せそうな日常が描かれている。
少女には願いがあった。
それは彼女の友人と、腐敗が消え去った自らの体とでのんびりと過ごすことだった。
しかし、その小さな願いは、新たな王朝に握り潰されることになったのだ。
♢
バッドエンドですね。モーグ君をめっちゃ悪役みたいに書いてしまったけど、まあ魅了されてるわけだし(諸説あり)目的のためならなんでもやりそうだしこれでいいんじゃないかなと。
多分次でこのシリーズは完結すると思います。いつ投稿になるか全くわかりませんが、楽しみにお待ちいただけたら幸いです。