ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで 作:ノートン68
お待たせ致しました。
今回はベアトリーチェ側のお話です。
よろしくお願いします。
世間がエデン条約の話題で盛り上がっている頃の事。
席が一つ空いた薄暗い部屋で4人の大人が相対していた。
ゲマトリアの拠点だ。
しかし以前とは異なり、お世辞にも場の雰囲気は良いものとは言えない。
どっちかと言うと険悪、なんなら現在進行形で喧嘩していた。
「要請によって、私の力を貴下に貸したのは覚えているな?戒律を守護せし者たちを
「えぇ、とても感謝していますよマエストロ。おかげさまで私は
戒律の守護者、つまりユスティナ聖徒会の事だ。
ベアトリーチェのエデン条約を滅茶苦茶にする計画に協力する代わりに、マエストロは《太古の教義》に触れるといった契約内容になっていた筈だが──
「私は貴下が作品をその様に扱う事を許可していない筈だ」
「あの現象は貴方の所有物では無いはずですよ、マエストロ?」
「……不躾だな、私は所有権を主張している訳では無い。それは
「不躾?よくもまぁ……私にそんな口を」
冷徹なまでな合理主義のベアトリーチェと反りが合うはずもなく、この2人は顔を合わせる度に衝突していた。
あくまで契約外の事なのでベアトリーチェに非は無いが、《利用規約に書かれてないから何やってもOK》精神は普通に嫌われる。
「まぁまぁ……2人とも落ち着いて、事を荒立てないで下さいよ」
そろそろ手が出るタイミングでゴルコンダが仲裁に入る。
ゴルコンダとしては懐かしい感じだ、本来もっと早いタイミングで諌める人物が居たから。
だが今、この場にその人物は居ない。
ゴルコンダが諌めたにも関わらず、それでもマエストロは美学が足りないと愚痴っている。
彼の言う美学とは一種の
だが、残念なことに彼女にはポリシーなどという崇高なものは無い。
当の彼女はその通りですが何か?と開き直り逆に煽っている。
糞ガキか?
「貴方だけではありません。黒服の提供した技術力も、ゴルコンダが解釈したテクストも、ホモの製作した《神名のカケラ》も。……肝心の本人が音信不通ですが」
そもそも今回集まったのはベアトリーチェの計画の確認と、ホモの行方不明について話し合う為だ。
テロの最中はまだ現在地が掴めていた様だが、ミレニアムに飛んだきり帰ってこない。
彼が連絡をすっぽかしてサボるとは思えない、あるとすれば誰かに襲われたか───
「今まで無断で休む事は無かったのですが……心配ですね」
「彼なら放っておいても問題ないでしょう」
『まぁ、そういうこった!!』
決してホモが嫌いだからとか、そんな考えでは無い。
それどころかホモへの純粋な評価は結構高かった。
ホモを傍に置いて改めて、カリスマ性に嫉妬と同時に羨望した。
元々自分の
彼女は恐怖を以て支配することしか出来ない、だから使い捨ての兵力しか持ち合わせできない。
「それよりも初期の頃から、貴方たちの芸術には興味が無いと再三宣言した筈ですが?」
「クックックッ……、それはそれでも良いのではと私も思っています。」
先程の言い争いと言い、ベアトリーチェが追放されないのはそれだけ彼女の功績が大きいからである。
貢献度で言えばホモと同レベルだ。
ホモは神秘への足掛かりを、ベアトリーチェは学園都市に領地という名の実験場を。
2人とも他のゲマトリアがなし得なかった偉業を成し遂げたのだ。
「黒服のアビドスは残念でしたが……おっと失礼。皮肉ではありません」
「クックックッ……お気になさらず、もっと良い物が手に入りましたからね?」
黒服の足元で影が揺らめいた気がした。
気にせずベアトリーチェは記憶の片隅から情報を引っ張り出す。
黒服が何故、計画に失敗したのか。その要因を。
「《シャーレ》……例の者ですか。我々の敵対者の」
『そういうこったァ!!』
「いいえ、彼とは敵対せず仲間に引き入れるのが良いでしょう」
「私としても彼の事は気に入っている。あの者は、我々の理解者になってくれるかもしれない」
「私はまだ決めかねていますが……ベアトリーチェもというのであれば」
『まぁ、そういうこった!!』
全員、先生のゲマトリア参入には肯定的のようだ。
黒服やゴルコンダはメリットとデメリットを計算した上で。
マエストロに関しては完全に気に入ったからといった理由だろう。
デカルコマニーは相変わらず肯定しかしない。
そんな彼らの様子を見てベアトリーチェは深く溜息を吐く。
「愚かで怠惰な思考ですね、《シャーレ》の先生は必ず排除しなければなりません」
「「「『………』」」」
「そもそも、あのホモでさえ『それは有り得ない』と言っていたでしょう。彼の者は決して自分達と相容れないのは異論ない筈です」
生徒を食い物にする組織に、先生が鞍替えする筈がないのだ。
もしそんな事があればホモが先生を殺す。
実際にはそんな事言っては無いのだが、雰囲気としては伝わっていた様だ。
「言わんとしている事は理解できますとも。ですが──我々としてはあまり敵対するような真似はしたくないのですよマダム」
「いいえ、排除します。先生が介入すると私の所有物の意味も変わってきそうなので。あの者は危険です、だから排除します」
「……」
「私の決定が気に入らないようですが──あなた方に妨害する権利もないでしょう?」
「……ええ、そのような権利はありません。思うままになさって下さい、ベアトリーチェ」
しばし痛い沈黙が続く。
黒服としてはゲマトリアに入れずともあまり刺激はしたくないスタンスであったが、コレも駄目。
仕方ないので黒服は話を逸らすことにした。
──話題はベアトリーチェの計画について。
「《儀式》ですよ、黒服がアビドスでしようとしていた事と本質的には変わりませんよ。ただ
ベアトリーチェの言う通り、本質的には一緒だが少し違う。
契約とは対等な関係で結ばれるものであり、その分制約も多い。
しかし儀式は見返りを貰うといった簡易的な側面から比較的成功しやすい代わりにデメリットは大きい。
実際《色彩》に見つかってしまったのだが、今の彼女たちには未だ知覚できていなかった。
「アリウスを選んだのは本当に唯の偶然でした。ロイヤルブラッドがいた事も同じく、ですが──気のせいですか」
「?」
計画上の理由で先生は排除するべきだという妥当な判断だと訴えかけている最中、何かが視界の端で揺れた気がした。
ほんの一瞬、誰かに見られているような視線を感じたベアトリーチェは言葉を区切り、辺りを見渡すがなんの姿もない。
「少し喋りすぎました。兎も角、私はここから忙しいので退室させて頂きます」
ベアトリーチェが部屋から退室したのを皮切りに、黒服達も解散した。
ガサゴソ……ピョコリ!!
そうして誰もいなくなった部屋の隅から、狐耳が生えた。
恐らく頭頂だと思われる部分にはシマエナガが居る。
少しして、キョロキョロと周囲に人気がない事を確認した彼女はその姿を現した。
「危ない危ない。彼の夢に繋げようとしたら、まさかゲマトリアの方と繋がるなんて」
彼女は生まれ持つ《予知夢》でゲマトリアのアジトと繋がってしまったのだ。
本来なら相棒と呼べる仲の骨と繋がる筈だったのだが……。
ぶっちゃけベアトリーチェの言葉の半分も理解はできていないが、分かることは一つ。
アリウススクワッドが窮地に立たされている事。
彼女の協力者であるホモの仲間にはアリウス出身がいる。
本来自分の領分では無いが──
「放っておく訳にもいかないな、先生の耳に入れてあげよう。……しかし、彼と全く繋がらないのは何故だ?心配する身にもなって欲しいものだよ、まったく」
少なからずとも、ホモに恩のあるセイアが放置するわけが無かったのである。
そしてセイアは夢から覚め、《シャーレ》の先生の元へと向かった。
少し時が流れてアリウス分校敷地内にて──
サオリの土下座等など紆余曲折はあったが、原作通りに事を進めている。
ミサキやヒヨリも回収済みで、アツコを救出する為に旧校舎の回廊を目指していた。
現在彼女達はカタコンベを抜けて自治区に到着して間もないのだが、ミサキが怪訝な顔をして口を開く。
「おかしい、領地内に入ったのに追手が少なすぎる」
「それは私も気になっていた、追手はもっと大勢いると思ったんだが……」
【私達の他はコッチに来てないはずなんだけどね】
なんならカタコンベ内の方が多かったまである。
少し不気味だが状況自体はいい方向に転がっている。
サオリ達は連戦続きで消耗している、戦闘はできるだけ回避したかった。
そんな先生たちを見つめる影が一つ、遠くの建物に存在した。
「──対象の移動を確認、まっすぐバシリカへと進んでいるようです」
そこにはアリウスチームⅤのメンバー3が居た。
彼女は双眼鏡を片手に先生たちの動向を監視している。
奇襲の為にでは無い、これは全て彼らをできるだけ万全な状態でベアトリーチェにぶつける為。
それだけでは無い、
時に予め追手を排除したり、逆に追手を合流させたり結構忙しかった。
他のメンバーは散り散りになって待機中だ。
通信機越しにリーダーの音声が流れ込む。
『了解、メンバー3はそのまま待機しろ。メンバー2はそろそろ持ち場に入るから準備を欠かすな』
『ガツガツ……そうですね、モグモグ……頑張ります!!』
『おい、何を食っている?』
『唐揚げと、肉まんと、芋ようかんとですねぇ──』
出るわ出るわ、大量の食品名。
予めエンジェル24で購入したお菓子やらホットスナックやら、総額5000円程を図太いメンバー2は食っていた。
因みに通話中も食い物の咀嚼音が、モッキュモッキュと聞こえている。
『違う!なぜ今食っている!?それに量が多い!!』
『だって、意外と暇なんですもん』
『任務に失敗したら、分かっているな?』
『ひぇえ……』
作戦自体は単純で、4人で対象の周囲を監視してメンバー3の榴弾を叩き込むというもの。
アリウス生徒を潰すだけではなく、遠ざける囮としても使う事によって見事コントロールに成功していた。
勿論4人だけの力では無いのだが、今回は割愛する。
『そろそろ
「了解」
そんなやり取りがあった事も知らず、バシリカへと向かう先生達。
そんな先生達の進路を阻むように
大量の《ユスティナ聖徒会》を引き連れて。
「うわわ、敵がいっぱいです!?」
「チッ、やっぱり罠だったか」
「私たちがここを通るって分かってたんだ」
『ええ、勿論です』
【ベアトリーチェ……】
真紅と純白の混ざった女がそこに映し出された。
ドレスのような格好をした彼女の頭部には羽状の様な物が生えており、その中からは複数の眼球が先生達を覗いていた。
『既にご存知でしょうが、改めてご挨拶を。私はベアトリーチェ、ゲマトリアの一員です。黒服やマエストロ、ホモからは色々と話を聞いています』
【貴方がアリウスを支配しているの?】
『はい。そして、ゲマトリアにおける唯一の成功者です』
自惚れでは無い。
黒服の計画は頓挫し、マエストロの作品は退けられ、ホモの鍵破壊計画も止められた。
これらは紛れもない事実である。
そして、ベアトリーチェの儀式が殆ど進み、長年の計画が成就しようとしている事も事実だ。
『ふふっ、私は今気分がいいので、必要ならば情報交換致しますよ?例えば……このキヴォトスの正体とか』
愉悦で心が満たされているベアトリーチェは笑みを漏らし催促する。
が、返答は求めていなかったらしくさらに話を続ける。
『正体不明のこの箱庭……理解などが一切及ばない、神秘と恐怖が入り混じった崇高の
普通の大人であれば飛びつくような話。
この世界の真実。
神秘とは、恐怖とは、崇高とは、そしてキヴォトスとは一体何なのか。
そんな甘い言葉を先生は───
【いい加減にして、そんな事に興味は無い】
『ほぅ?』
キッパリと突き返した。
興味が無いのは本当だがそれ以上に先生はイラついていた。
実の所、先生はゲマトリアの事を見直し始めていた。
彼らの行いを許した訳では無いが、大きな影響を与えたのはやはりホモであった。
初めての自分以外に生徒を導く存在。
そして、自分とは正反対の価値観を持つ先達。
彼の行動は褒められたものではなかったが、そこには生徒に対する愛情があった。
だからベアトリーチェにも、何か考えがあるんじゃないかと考えていたのだ。
少なくとも話し合うまでは、色眼鏡で見ないと。
だが、少ないやりとりで確信した。
目の前の大人が
【貴方はカスだ、ベアトリーチェ。教育を侮辱した貴方を、生徒を使い潰した貴方を私は許しはしない】
『……宣戦布告と受け取っても?良いでしょう、バシリカにてお待ちしております。出来るものならですが』
コイツとだけは決して理解し合う事もない。
ここまで他人に向けて怒りを感じることは初めてだった。
体が興奮していることが分かる。
先生は一旦深呼吸を行った。
怒りで我を忘れることがあってはならない。
大事なのはアリウスを、アツコを救う事なのだから。
『さぁ先生──不可解な者よ』
『黒服は貴方を仲間として、互いを高め合えると信じ。
マエストロは貴方を作品を通して、互いを理解できると信じ。
ゴルコンダは貴方をメタファーだと認識し、互いを完成できると信じ。
ホモは貴方を鏡合わせだと理解し、時には相容れる存在だと信じ
そして私は敵対者と認識し、互いに反発すると信じています』
『貴方は私の敵です───始末しなさい』
ベアトリーチェの宣言の後に、《ユスティナ聖徒会》が動く。
チームⅢも隊列を組みスクワッドと徹底的にやるつもりだ。
それに対してサオリが言葉をかけた。
「さっきの話を聞いていただろう!私達は使い捨てられたんだ、そんな奴の話を聞く必要が何処にある!!」
「………我々は
【(うん?今なんだか違和感が……)】
チームⅢの言葉のどこかに違和感を覚えた先生。
どこがとは言えないが、何か見落としている事があるような気がしたのだ。
しかし、時間は待ってくれない。
「リーダー、もうぶつかるしかないよ」
「くそっ、来るぞ!!奴らも《神名のカケラ》で強化されている。気を抜くな!!」
「───作戦開始」
だが意外にもあっさりと勝負はついた。
《ユスティナ聖徒会》は相変わらず脅威だが、チームⅢの動きが悪かった。
スクワッドと同じく連戦だからだろうか?
それにしては、あっさりと倒れていく。
まるで最初からやる気は無いように。
【(やっぱり変だ、でも今は先を急がないと……)】
《儀式》までの猶予はすぐそこだ。
急ぎ足で先生たちはバシリカへと向かった。
「………総員、起きれるな?」
「問題ありません、全員次の作戦準備を開始!!」
先生達の姿が完全に消えたあと、チームⅢ全員がムクリと起き上がった。
気絶していたはずの彼女たちはケロッとしている。
更に《ユスティナ聖徒会》は復活しない。
互いに負傷、弾薬の消費状況を確認しあっている、まるでこれからが本番だと念入りに。
そんな時、リーダーであろう存在に通信が入った。
発信者はチームⅤのリーダーだ。
「……ベアトリーチェの通信は戦闘のどさくさで破壊しました、指示をお願いします」
『任務の完了を確認、チームⅢは持ち場に向かうように』
「了解」
裏舞台は大人だけの特権では無い。
ベアトリーチェの首元へ、徐々に反逆の牙は迫っている。
次回は続きの予定です。
(キリエ・エレイソン後編)