ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで 作:ノートン68
お待たせ致しました。
おまけ話その③です。
勘のいい読者様達なら気づいたかも知れませんが、このおまけ話は結構重要な事を仄めかす事があります。
厳密には次の章の伏線、ホモ君の秘密などです。
今回はVol.2.2の補完と振り返りになります。
蝉の鳴き声がけたたましく響く。
6月中旬、いよいよ夏に相応しい気温と日差しになった今日この頃。
いずれの学園の自治区にも属しないD.U区内の連邦生徒会拠点、そこから30km離れた外郭地区に佇むビル。
それが連邦捜査部シャーレのオフィス。
今は先生の仕事場兼忙しくて自宅に帰れない時の別宅と化していた。
夏の暑さ特有の湿気の高い中、先生もまた仕事に忙殺されるうちの一人だ。
先生の業務が始まるであろうAM10:00より前、シャーレオフィスへと小さな人影が忍び寄る。
腰のホルスターに2丁の拳銃を差し込んだ少女が影に隠れた。
「目標地点付近に到達、任務を開始します。」
彼女は【元】名も無き神々の王女───
現在はオーナーの護衛として活動しているAL-1Sだ。
他でもないオーナーの依頼により、この地を訪れた。
元々シャーレのセキュリティは優れたものではなかった。
不法侵入され放題、それが生徒なら先生も咎めないという穴だらけ。
この状況を重く見た
特に先生の居る頻度の多い事務室に。
そんな易々と侵入できない城と化したシャーレに、AL-1Sはどう潜入するのか。
本来なら当番に渡されるカードキーがなければ侵入できない。
ならばどうするか、AL-1Sは懐からカード状の何かを取り出した。
その手に持つは『コユキ特製マスターキー(違法)』。
それをかざすだけで、堅牢なはずの扉は即落ち二コマより早く解錠された。
因みにAL-1Sはコレを便利な鍵程度にしか思っていない。
「確認、人の気配なし……侵入します。」
素早く無駄のない動きで事務室へと侵入した。
ひとまずダクトへ入り、部屋の様子を観察する。
程なくして1人の足音が聞こえる。
ドアの開く音の後に続いて現れたのは1人の大人と1人の少女だった。
酷くやつれている大人は少女におんぶされている。
その少女、依星ケイこそが彼女のターゲットである。
「何故、廊下のど真ん中で寝てたのですか?」
「仕事中に気を失っちゃって……。」
エリドゥで暗躍していた頃に、十分な無名の神々の技術力を抜き取ったホモ。
利益面で言えばケイに固執する理由はない。
それは利益面だけ見ればの話。
今頃になってシャーレへの侵入を依頼した理由。
それは依星ケイがキヴォトスの平穏を脅かす存在か否かをハッキリさせる為。
要塞都市エリドゥで行われたクリフォト戦で、ケイの危険性は著しく下がった。
だからこそ、それらしい理由をつけてあの場でホモ達は撤退した。
だがそれが永久的な物だと誰が判断できるだろうか。
ホモの気がかり、それはクリフォトが完全消滅しなかった一点。
それは即ち、ケイが完全に『鍵』の生き方を否定していないという事。
だから見極める必要がある。
本当ならばホモが直接確認できれば良かったが、彼の容姿は悪い意味で注目を集めるし、
そこで不確定要素をなるべく排除しておきたいホモはAL-1Sに命じた。
依頼内容の内一つは『依星ケイの経過観察』。
他にも幾つかあるが、これが最優先事項である。
「(依頼を完璧にこなせば褒められつつ、オーナーへのプレゼントも視察できて一石二鳥です。)」
オーナーへのプレゼント。
チームⅤは既に動いているが、外に単独で出動する機会が少ないAL-1Sにとって今回の依頼は天啓だった。
プレゼントは何にしようか……。
浮ついた思考を仕事へと切り替える。
部屋の様子を見るに、もう仕事を始めるようだ。
「今日の業務は『ミレニアムの活動記録の作成』、あとは各学園への訪問ですか。」
「うん、百鬼夜行の陰陽部とトリニティのティーパーティに呼ばれてね。」
各学園への訪問とは、シャーレの先生は多忙のようだ。
机の上に山積みされた書類がそれを物語っている。
「ミレニアムの活動記録ですが──」
「実は半分程度は手をつけててね、後はエリドゥでの活動を記録するだけだよ。
心配しなくても外部に提出するような物じゃないから安心してね。」
「……そうですか。」
外へ発信されるのは、シャーレのホームページに掲載される少々の情報と、クロノス報道部が大袈裟に記載したゴシップ記事程度だ。
内部に関しても閲覧者は連邦生徒会の上層部、その中でも先生か七神リンに限られる。
ケイの正体を外にばらすと大変なことになるのは想像にかたくない。
「さて、何から振り返ろうか……。」
「AL-1S、そしてクリフォトとの戦闘は私が完璧に記録しています。それ以外の場所での記録から進めましょう。」
1番規模が大きかったのは、あの青のヘルメット団と奇妙な装甲車との戦闘であった。
あの場に居なかったAL-1Sも興味が湧き耳を澄ました。
「私も詳しくは知りませんが、バイクに騎乗して戦闘したとか……。」
「元々C&Cは彼女達と戦闘した経験が有るらしくてね。」
C&C所属のアカネはこう語る。
「彼女達の戦闘力は脅威の一言でした。しかし1番の脅威はあの装甲車の機動力です。ひとたび逃げに徹されては場所によっては捉えることは不可能でしょう。
ネル先輩は普通に追いついてましたが……。
とにかく、足を用意した相手に対して有利に動く対策は必須でした。
その対策こそがバイクです!!
(発案者はアスナ先輩です。)
最初依頼した時はセミナーが予算を渋って実現しませんでしたが、ユウカがこっそり予算を握ってくれてたお陰で何とかエリドゥでの決戦には間に合ったという訳です。」
そんな事でぶっつけ本番でバイクに騎乗するC&Cが爆誕した。
しかし、予想より遥かに戦闘は苦戦を強いられた。
先生が不在というのもそうだが、『デュカリオンの箱舟』が想定よりもアップグレードされていたらしい。
装甲はより硬く、機動力はそのままに。
青ヘルメット団の戦闘力も健在で、バイクがなければ一方的にやられていただろう。
あの後、別の区画に幽閉されていたヒマリ達のサポートを受けたが軍配が上がったのは青ヘルメット団であった。
特にヒマリは悔しがっていた。
「私が居ながら満足に支援出来ずに敗北するなんて……ッ!」と。
ヒマリ曰く、ヴェリタスの手の内を知る者が相手側に居たとか。
こちらのとる手段全てに対抗策が用意されていたと。
あの時リオは管制塔に拘束されていたため、別の誰かとなる。
「ユウカは心当たりがあるようでしたが……」
「元ミレニアムの生徒なんだっけ?」
元セミナー生徒、『白兎』黒崎コユキ。
ミレニアムでもヴェリタスに次ぐ問題児の彼女は突如、退学届けを残して学園を去ったという。
長らく行方不明だったが、今回の件で
今の今まで、彼との取引によりその情報は秘匿されていたが。
「あまり心配はしてないようですね?」
「……彼なら心配要らないかなって。」
あの最終盤面で出揃ったAL-1S、青ヘルメット団、そしてリオの様子を見るに彼は他の大人とは違うと確信した。
少なくとも生徒を道具として使い潰す外道ではないと。
これでも先生は自分の人を見る目を信頼している。
不思議な信頼感がそこにはあった。
「後は事後報告です、先ずはリオから。」
今回の首謀者兼、被害者とされるセミナー会長の調月リオ。
そう、
本来ならば矯正局行きだって有り得たが、リオの保有する機密情報等の理由から軽々と送れなくなった。
よってセミナーと各関係者で集まり、先生が間を取り持つことで裁判擬きを行う事となった。
リオは納得いってなさそうだったが、セミナー会長としての責任感、そして
「ただでさえコユキが抜けて手が足りないのに、会長まで辞めさせる訳ないじゃないですか!!」
とはユウカの言だ。
リオがエリドゥの建築で席を空けていた期間に溜まった案件は少なくない。
「エリドゥでの一件が終わったあとですが、大きくは変わらなさそうです。」
「そうだね、変わったといえば───」
あの一件が収まった後、不思議とリオ達をどうこうしようという話は出なかった。
リオは変わらずセミナー会長へ復帰。
セミナーの溜まった仕事を片っ端から手をつけているらしい。
先生は今度、落ち着いた頃に話をしようと思っている。
改めて挨拶と叱咤と謝罪と感謝を。
エイミによると相変わらずヒマリとは馬が合わないようだが、以前よりも仲良くなったと言っていた。
先生には分からないが、エイミが言うならそうなのだろう。
逆にトキはC&Cへ正式加入する事となった。
今まで自分の専属として他者と関わりを持つ機会の少なかったトキに思うところがあったのか、それとも単純にもう自分には必要ないと思ったのか。
真相は分からないが楽しくやっていけそうだ。
特にネルとは仲良く(?)しているらしい。
ケイはゲーム開発部にそのまま所属する事となった。
縛られるものが無くなったケイは学園生活を満喫している。
気のせいか、以前よりも物腰が柔らかくなった気がする。
「後は被告への質疑応答だけど……。」
「あぁ、ユウカがシナシナになってましたね。」
質問内容は『何故ミレニアムの誰かに相談しなかったのか』。
当の本人はこう答えた。
「相談相手に必要な要素、『客観視』が欠けていたから。」
理由は忖度の発生しない第三者の視点だった。
ここで候補先を考えてみる。
先ずミレニアムの学園生
既に依星ケイとして過ごした期間がある為却下。
どうしたって私情が挟まるのは否めない。
唯一対策案の期待できそうなヒマリも既に依星ケイの味方となった為、問答無用で拘束した。
同じ理由でシャーレの先生も却下。
生徒全員の味方を謳ってはいるが、人間である以上ケイ側に付く。
事実先生達との交渉は決裂、リオが破壊を望んでいるのだから当たり前だ。
ならば他学園の者へ相談するのはどうか。
できるだけ他校に借りを作りたくない。
学園の政治活動のプロパガンダに利用される事は避けたいからだ。
特にゲヘナは論外。
遠回しに相談相手になり得ないと言われたユウカはシナシナになった。
「色々と間違えてるところもあるけど、リオの杞憂は正しかった。あの時の私はリオのやり方に真っ向から反対してしまったからね。」
思い出すのはケイが強制連行される前の問答。
あそこで先生がリオとゲーム開発部の仲を取り持ち、対話のテーブルにたどり着けばまだ過程は違ったかもしれない。
「彼の言う通り、私はリオにも寄り添うべきだった。」
今になって分かると、自分自身が情けなくなる。
自分のやったことはリオ1人に全ての責任を負わせたようなものだ。
確かに彼女にも非はある。
しかしその責任を負う事こそが自分の、大人としての責務だった筈なのに。
結果的に彼女を槍玉に挙げる形となってしまった。
「何が生徒全員の味方だ、生徒に重い責任を押し付けて。……私は先生失格だ。」
結果的に『鍵』はケイと成り、一難去った。
だが、その結末は奇跡が重なり掴み取った薄氷の上の幸せに過ぎない。
このままでは終われない。
ケイはどう声を掛けるべきか迷っていた。
そもそも声をかけて良いのだろうか、元凶である自分が。
悩んでいると突然、先生は自身の
「よし、ウジウジ悩むのもここまで。さっさと仕事を終わらせようか!!」
「……なんというか、切り替えが早いですね。」
「悩んでも仕方ない事だからね、それに今度こそ間違えはしないさ。」
いつまでもクヨクヨしていられない。
そしてホモに何を言われようとも、この生き方を変えることは出来ない。
『馬鹿は馬鹿でも、全てを吹き飛ばすような大馬鹿者なら違ったかもしれないな。』
彼は去り際にこう言い放った。
なればこそ全員を全力で。それが滑稽に映ろうとも構わない。
それでもし生徒を救えたなら、はじめて自分を許せる気がする。
先生は夢を諦めきれない。
『生徒全員の味方』
その在り方を二度と忘れない。
その心持ちの限り、先生は決して折れることは無い。
そう、
若干の危うさを感じ取ったケイは口を開く。
そこから出るセリフは全て本心だ。
「忘れないで下さい、貴方達に助けられた生徒がいる事実を。前にも言ったかもしれませんが、私は先生とゲーム開発部に恩があります。依星ケイとして認めてくれた大恩が。」
あの場の数分の猶予が無ければ、ケイは破壊されていた。
そこに至らなかったのは、先生達が自分を信じ助けようとしてくれたからだ。
立ち上がれたのも『依星ケイ』として歩む道のりが見えたから。
「だから決して自分を犠牲にしようだなんて考えないで下さい。恩人に先立たれるのは心が痛いですし、先生には私の道を見守って貰わなければ。」
「……勿論だよ、私には『生徒全員の卒業を見守る』夢もあるからね。」
「(………。)」
その様子を見守っていたAL-1Sはダクトを通りそのまま外へと脱出した。
報告レポート 作成者:AL-1S
報告内容:『鍵』の経過観察結果
・○月✕日シャーレオフィスにて『鍵』依星ケイの観察を開始。
・心身ともに落ち着いた状態での生活を確認。特に異常は見られない。
・11:00頃に彼女の心境の変化を確認。
・『鍵』としての罪を忘れず、贖罪のためキヴォトスで暮らすと判明した。嘘ではないとハッキリ言える。
・上記からこのキヴォトスに害なす存在なり得ないと判断し撤退。
・結論、依星ケイはキヴォトス滅亡の引き金になり得ない。
追記
・シャーレの先生は引き摺ること無く前を向いた。
・
中途半端な終わりで申し訳ない。
面白いかは置いておいて、先生の成長の布石を何処かに入れる必要があったので……。
次回は『【ボツ回】暁のホルス覚醒RTA』です。