死に戻りTS転生者は未来を掴めるか? 作:アーセラ
妙な久しさを感じた。
長らく味わっていない感覚、もう忘れ去ってしまったのではないかと思ってたあの感覚を。
絶体絶命に追い込まれ時に感じる恐怖、死に戻りを得た自分にそんなものは訪れるとは思ってもいなかった。
たった今、この瞬間までは。
「グレミィ・トゥミュー……ですか」
「そう、僕はグレミィ。さて、じゃあ次は僕の番だ。いったい君は誰なのかな?」
「天内琴音、天の内にある琴の音色で天内琴音。琴音と呼んで貰えれば」
『本物か?』などという疑問など、抱く余裕もなかった。
容姿が、発言が、声が、全てが彼がグレミィ・トゥミューであると物語っていたのだから。
そんな思考の結果、俺の脳みそは今世において前代未聞のフル回転を続けていた。
それも当然、何故ならグレミィの能力は完全に『死に戻りを封じる』ことが可能だからだ。
夢想家である彼は『想像した事象を現実に反映する』能力を持っている。
そんな力があれば、死に戻りを発動させることはなく俺を生かさず殺さずに状態にしておくことなど容易い。
できるからと言ってその選択を取れるかどうかは別問題だが。
「そっか、じゃあこれからは琴音ちゃんって呼ぶね」
「これから?別に二度も三度も会う間柄じゃないでしょう」
「それなら今からそういう間柄になればいい、友達とかね。それになんとなくの勘だけど、君とは長い付き合いになる気がするんだ」
微笑、彼はずっと微笑を浮かべている。
いつもなら『なんですか不審者みたいなこと言って』と流せる言葉も今は別。
夢想家の言葉は全てが警戒対象、指一つ動かさずに俺を制圧できる相手。
慎重に、されど大胆に、俺は相手の目的を探ろうとしていた。
原作とは違う展開、バタフライエフェクト、それら全てを知っておきたいんだ。
俺と一護たちが最終的にハッピーエンドを迎えられるように。
「まあ、その勘が外れるかどうかは置いておいて。とりあえず俺はもう帰りますけど、一護に何か伝言とかあります?あるなら伝えておくけど」
夢想家、グレミィの目的は黒崎一護。
何故今この時系列で彼がいるのかは定かではないが、それだけは確かだ。
自分の口でそう言ってたし、そこで俺に嘘をつく意味もないだろう。
「聞かないんだね」
「聞いてますよ?伝言があるかどうか」
「いや、騎士団の方さ。見た目が外国人の少年が星十字騎士団という正体不明の組織所属していたなんて言ってたら気にならない?」
「初対面ですし、そこまで踏み込んだ質問をするのもあれでしょ。それに……」
「それに?」
気になってる、実はめちゃくちゃ気になってる。
何故そんなことを自ら口にするのかも、何故そんな存在がここにいるのかも興味がある。
だが面と向かってそんなこと言うわけにもいかない、俺はあくまで『初めてグレミィという少年にあったJK』という設定なのだ。
事前に俺が彼について知ってたらおかしい、故に演ずる。
演じ切る。
『
ここで突き放した言い方をすることにデメリットはない。
俺はこの世界に来てから誰にも死に戻りのことを話してはいない、誰もこの力は知らない筈だ。
つまりもしもグレミィが些細な言葉で激昂して俺を殺しても、俺は死に戻るだけ。
生かさず殺さずの選択肢を初見で取れるわけはない。
丁寧な言い方ばかりでも不自然な感じが出てしまう、故に自然体でいつものように喋るのだ。
今は『変な子供に絡まれて面倒くさがってるお姉さん』という設定、というより友達以外には口が悪いいつもの俺だ。
「……おかしいね」
「おかしい?フードを深く被ってポケットに手を突っ込んでる君のスタイルが?」
「───
してやったり、と言った顔で彼はこちらを眺めている。
一歩一歩近づきながら。
彼はこちらへ近づいてくる。
「どうしてって星十字騎士団だから星でしょ?」
「それはおかしいって言ってるのさ、僕は正式名称の『シュテルンリッター』ではなく日本語読みの『
「だから何を……あっ!」
とんでもないミスを犯してしまったことに、今更俺は気づいたのだ。
漫画知識という先入観に浸っているからこそのミス、知恵があるからこそ犯してしまった間違い。
「最近日本語を勉強しておいて良かったよ、こんなところで役に立つ。さあ、解説を始めようか」
「ミスった人間に解説?追い討ちかける気?」
もう、気づかれてしまった。
俺が星十字騎士団の村さを知っていることに気づかれてしまった。
長年表舞台から身を隠してきた見えざる帝国、その秘密の一端をこんな女子高生が知っているわけがない。
なのに俺は知っているという事実を、グレミィはどのように解釈するのか。
「『せい』って二文字には色々な単語が当てはめられる。正義の正、聖火の聖、その他諸々。でも、十字騎士団のカシラの付く文字と言って真っ先に「星』が出てくる人間は少ないと思うよ。大抵は『聖』か『正』、聖騎士団とかの前例はあるしね」
解説は進む。彼は夢中になって解説をしている。
このまま逃げても気づかれないんじゃないか?と思うくらいには熱中している。
「それに今の君のリアクションで決定的だ。つまり、君は元から見えざる帝国及び星十字騎士団について知っている。どう?僕の推理、少し熱を入れすぎたよ。長年檻の中だったから妄想には強くてね、頭の中で推理ショーをする妄想なんて何度したかな」
何故あんなにも推理に熱が篭っていたのか、その理由が彼自身の口から語られた。
一方の俺はと言うと、少しばかり余裕を持てていた。
理由は簡単、どうにもグレミィという少年が会話が通じそうな気がしてきたからだ。
人は未知には怯えるが、話は通じる既知には案外平気で接することができるものだ。
「……完敗だよ、確かに俺は星十字騎士団を知っている。見えざる帝国を知っている。で、俺のことどうする気?」
「さあ?僕はもう星十字騎士団を抜けてるし、ユーハバッハへの報告義務もないからさ。特に何かしようとは思わないね」
「じゃあ少し聞いていい?黒崎一護が特記戦力ってどういうこと?」
特に、特に相手が俺を殺したり封じようとする気配はない。
ならば聞いてしまって問題はないだろう、この後帰りに死に戻れば「俺だけグレミィの目的を知って、グレミィは俺と出会ってすらない』という状況に持っていけるだろう。
「────それは秘密。ごめんね、これだけは言うなって言われてるからさ」
ほんの少しだけ申し訳なさそうな笑みを浮かべた後、グレミィは懐から何かを取り出した。
名刺のようなものだ、太陽光でよく見えないが。
「代わりにこれあげるね、今僕がいるところへつながる電話番号」
「そんな初対面の人から……ってもう猫かぶる必要はないんですよね。じゃあ受け取っておきますよ、俺としても君の存在について気になることが多すぎる」
受け取った名刺に視線を落とす。
そこには─────
─── XCUTIONと書かれていた。