EP01 灰被りの死神
銃声が響く。
まるで轟音の様な銃声だった。
銃声が響く。
それはまるでこの世のモノとは思えない"十字架"を携えた巨銃だった。
銃声が響く。
髑髏の装飾が施された鉄の箱。それはまるで"棺桶"の様だった。
銃声が響く。
十字架の装飾が施された白のコートを羽織った彼女。それはまるで死体の様に白く──
『死神』の様な女性だった。
──EP01「
全ての始まりは数日前に行われた鉄血の支配地区開放作戦後に指揮官より言い渡された、未だに地区に潜む鉄血の残党部隊を排除するという任務がきっかけ。
発足したばかりの基地…『S13地区前線基地 683支部』にとっては大規模だった作戦は初めてという事もあり終始緊張しており、準備にも時間がかかったがその分入念な準備のおかけで誰一人とて欠ける事無く作戦は無事完了し鉄血に支配されていた地区を開放し奪還する事が出来た。
そしてその後処理として待っていたのが今回の任務だった。
「以前展開された作戦の領域に残存する鉄血の部隊を排除。それが今回の任務よ」
指揮官から言い渡される任務内容を聞いているのは配属して一週間と少しの私ことG36c。
数日前に行われた支配地域開放作戦よりも一週間前に配属された身で、来て早々大規模な作戦に参加する事となってしまった身でもある。
訓練を受けているとは言え実戦での経験は皆無に等しい私だったが、所属していた人形や姉のG36姉さんのサポートもあって大規模作戦を切り抜け生き残る事が出来、多少であるが自信がついた所に今回で三回目となる残党部隊排除任務が言い渡されたのだ。
「分かりました。それで今回の任務に出撃する方々は…?」
「安心して。メンバーは以前と同じで変わらないわ」
その方が貴女にとっても楽でしょ?と尋ねてくる指揮官の台詞に私は頷く。
以前と同じメンバーであるのであれば気を張り過ぎずに済む。
指揮官の配慮に感謝の言葉を述べつつ私は任務へと赴く準備をする為、執務室を後にした。
今思うとほんの僅かに慢心していたのかも知れない。
何時もの様にやれば問題ないし敵の少なさからして厳しい任務にはならない、と。
その油断がこんな事になるとはこの時の私は全く思ってはおらず、手早く準備を済ませて今回共に出撃する皆の元へと向かった後、以前行われた作戦の舞台となった場所へと赴いた。
そこは荒れ果てた家屋と無数の弾痕が残された地区。
今は居ないが此処は以前まで鉄血に占拠され支配下に置かれていた地区であった。
数年前は人の行き来もあったとされた地区だったらしいが、第三次世界大戦の影響もあって今ではその面影すらなくなっており、以前行われた地区解放作戦もあってこの町の景観は酷くなっていた。
復興の目途すら立たないこの地区に私たちは鉄血の残党部隊を排除すべく訪れていた。
『こちらスプリングフィールド、確認された敵残党部隊の一つの排除に成功。G36c、MP5、そちらはどうですか?』
私が所属する部隊の部隊長であるスプリングフィールドから通信が飛んでくる。
先ほどから聞こえていた数発の銃声からして、行動してから暫くしない内に敵を排除したのだろう。
「こちらも少数の残党を発見、排除しました。このまま予定集合地点へと向かいますね」
『了解です、MP5。周囲の警戒を怠らずに目標地点へと向かってください。私とG36、ナガンもすぐに向かいますので』
「了解です!」
指示に対し元気よく返事するのは私と同じSMGの戦術人形 MP5。
赤い帽子と黒い衣装が良く似合う人形で、どうやら背が低い事を気にしているとか。
だがスプリングフィールドと同時期に基地に配属された人形であり、エースに分類される人形の一人である事は変わりない。
「それでは私たちも移動しましょうか」
「分かりましたわ」
彼女の言葉に頷きながら私たちは歩き出す。
周囲の警戒をしながら街を見つめている時、とある建物が視界に入った。
その建物から感じてしまった違和感につい足を止めてしまう。
それに気づいたのか先を歩いていたMP5が声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「いえ…。ただあの建物が気になって…」
釘付けにされたかのように、とある建物を見つめる私に釣られてMP5も視線をソレへと向けた。
此処からでは遠いが、その姿は第三次世界大戦による被害や以前の作戦の戦火から辛うじて逃れたのだろう。全く無傷ではないにしろ、その建物がどういうものかは一目見ただけでも分かった。
「教会、ですか?見た感じ、変わった所はなさそうですが…」
「ええ。けど、どうしても気になって…」
MP5の言う通り、建物自体に変わった様子はない。ごく普通の教会だ。
しかしこの違和感は一体何なのだろう。
一度調べるべきではないかと思うも目標地点へと向かうルートから外れる事となる。
独断での行動は流石に慎むべきだろう。今ではなくとも後日調べることだって出来る。
感じた違和感については帰還して報告の際に指揮官に伝えるとしよう。
そう思った時、体に衝撃が走った。
「え…?」
「G36cさん!伏せて!!」
地面と激突し身体に伝わる衝撃。
MP5が私を抱えて地面へと押し倒したのだと理解した瞬間、先ほどまで立っていた場所に無数の光線が飛来した。
それが攻撃だと。鉄血による残党部隊によるものだと分かるとすぐさまMP5と共に近くの壁に身を寄せて、銃のセーフティを解除し応戦しようとした時、戦慄が走った。
「数が多すぎる…!」
残党部隊にしては明らかに数がおかしかった。
つい先ほどまで排除した残党部隊は良くて二人か三人程度の部隊だった。
だが攻撃を仕掛けてきている鉄血の数は見えるだけでも15体以上は居た。
これだけの数、どこに潜んでいたのか。突然の事に焦りが生まれていた。
「一旦引きましょう!ここに居ては危険です!」
「でも何処に!?」
叫ぶようにして尋ねる私。合流地点へと向かうルートは鉄血によって塞がれており、この数もあって強行突破など出来る筈もなかった。
身体を出さずに銃だけを壁から出し弾をばら撒いているとMP5は、とある建物を指さした。
「あそこに逃げましょう…!」
彼女が指さした先。
そこは先ほどまで私が違和感を感じていたあの教会だった。
今の状況ではあそこに逃げる他ないのは明白。
どうにかしてスプリングフィールドと基地に連絡を取らなくてはならない為、私とMP5はタイミングを見計らってその場から後退。
違和感を感じさせるあの教会へと向かった。
私たちがこの教会に逃げ込んだ時には陽がゆっくりと落ち始めていた。
ここまで止まる事無く走って来た為、息が絶え絶え。
何とか呼吸を整えつつ、周囲の安全が確認できると手にした銃をゆっくりと下ろす。
教会内部には照明はないみたいだが、外がほんの僅かに明るい為、内部の様子は一目見ただけでも分かり、そして奇妙だった。
「綺麗すぎる気が…。荒れ果てた感じが全くない…?」
それはMP5も感じていたのだろう。私と同じ感想を口にしていた。
支配されていた地区とはいえ、此処は以前から廃墟ばかりが並んでいた。
にも関わらずこの教会だけは建物は全く無傷と言わなくても綺麗であり、内部も荒れ果てた様子すらなく、寧ろ気持ち悪いと思えるほどに余りにも整っていたのだ。
何故此処だけがこんなに綺麗なのだと疑問を覚えるが今答えを探している場合ではない。
MP5がスプリングフィールドと基地へと連絡を取っている間、周囲の警戒を務める。
そんな時、私の視界にとあるモノを入り込んできた。
「地下…?」
祈りを捧げる祭壇のすぐ傍。
まるでくり抜いた様に下へと続く階段が存在していた。
そこに通信を終えたMP5は歩み寄ってきた。
「スプリングフィールドさんと基地に居る指揮官に連絡が取れました。他のメンバーもすぐに此方へと合流するようです。基地の方からもすぐに救援を寄越すとのこと。それまでどうにか耐えてほしいと……って、G36cさん、どうしました?」
「あ、いえ…すいません。少し下へと繋がった階段が気になったものでして」
「地下、ですか。ふむ…」
地下へと繋がる階段を見て、考える素振りを見せるMP5。
どうしたのだろうかと首を傾げるも、数秒経たな内に態勢を解き彼女はある提案をしてきた。
「地下に隠れて何とかしてやり過ごしましょう。入口は何か塞ぐものを探さないと」
現状の火力ではあの大部隊に太刀打ちできないのは分かっている。
その提案に乗ろうとしようとした時だった。
「そんな事をさせる暇を与えると思いますか?」
自分でもなければMP5でもなく。
ましてや部隊の皆の声ではない第三者の声がこの教会に静かに響いた。
「「ッ!!?」」
人形だと言うのに冷や汗の様なものが流れる。
素早く身体を動かし、手にした銃を第三者へと向けようとする。
それよりも先に私の体に衝撃が走った。
「ぐあっ…!!」
強烈な痛み。
第三者によって放たれた光線が私の肩と両足を撃ち抜き、私の体は撃たれた反動で後ろへと倒れた。
両足を完全に破壊された事により、その場から逃げる事は出来ない。
力を振り絞り、首をそこにいる第三者と向ける。
グリフィンの人形とは違う姿。周囲に展開された三基のピット。
そこにいた存在こそが撃ってきた本人であり、私はその名を知っていた。
「どうして…鉄血のハイエンドモデルが…?スケアクロウがこんなところに…!」
「大した戦力にもならない人形風情が私の名を口にしないでくださいまし」
淡々とした物言いだが、何処か怒気が含まれていた。
その証拠にスケアクロウのピットから光線が放たれ、負傷していない右肩を撃ち抜かれた。
「ぐっ…!」
「G36cさん!!」
回避が間に合ったのだろう。
スケアクロウの攻撃から逃れ、近くの柱へと身を隠していたMP5の声が教会全体に響く。
「逃げて…下さい、MP5…!早く、皆と合流を!」
「でも…ッ!!」
「急いでください…!早く…!」
スケアクロウの後ろには二体のリッパーが控えている。
ハイエンドモデルに加え、リッパー二体を相手にするには分が悪すぎる。
「逃げてくれても構いませんわよ?此処から逃げ出した所で外で控えている者に破壊されますが」
「…!」
「貴女達の死に場所はここ。グリフィンの人形にお似合いのジャンクヤードではなく、この教会で死ねるのです。その配慮だけでも感謝して欲しいものですわ」
それを合図にスケアクロウのピットと二体のリッパーのサブマシンガンが私へと向けられる。
両腕、両足ともに破壊された。当然ながら回避も出来ない。
このまま光線の雨に晒され、無惨に破壊されるのだろう。
──G36姉さん…ごめんなさい
姉に謝罪しつつ、私は迫りくる死と目を合わせない為に瞼を閉じる。
──誰か…助けて…
そして祈った。奇跡が起きる事に…。
スケアクロウは気付かなかった。否、気付く筈がなかった。
祭壇の傍に存在していた地下へ通ずる階段が自身が立っている地点から丁度真下に存在していた地下へと繋がっている事に。
何よりその地下で太さ異なる管と繋がった冷たい椅子に一人の女性が座って静かに眠っているなど気付く筈もなかった。
部屋全体に広がる氷霧。
部屋の中央で椅子に座る顔が下へと俯いた女性の周囲に配置された巨大なタンク。そこから伸びた管は全て椅子の背凭れへと繋がっていた。
そして壁には複数のモニターと何かを知らせるためのカウンター。
それも315360000秒と記されており、このカウントがゼロになるまでは十年は掛かると示していた。
何故十年かかるのか。それを知る者はいない。
だが一つだけ分かるものがあった。椅子に座る女性の名前である。
『アッシェ・ノーグレイヴ』。どうやらそれが椅子に座る女性の名前であった。
─G36姉さん…ごめんなさい
何処からか誰かの声が届く。
それが少女の声であり、薄っすらと交えて涙と共に少女は姉へと謝罪している様であり、その声に物言わぬ女性の指がピクリと動いた。
それを合図に黒で染められていたモニターが突如として画面が映り出すと思えば、まるで混乱しているかのようについたり消えたりを繰り返し始めた。
─誰か…助けて…
か細い小さな声で聞こえた誰かの助けを乞う声。
その時、ゆっくりと進んでいたカウンターが素早くカウントダウンを開始。
あからさまにおかしいと言っていい程に凄まじい速度で数字はゼロへと向かっていく。
215360000秒…360000秒…1000秒とカウントの勢いは止まらない。
そして数秒も経たない内にカウントは──ゼロを示した。
椅子と繋がった管が外れる。
壁から飛び出す様に現れる棚に収められていたのは…
白と赤の十字架を備えた二丁の巨銃と髑髏の装飾が施された棺桶だった。
(音…?)
微かに聞こえた音にスケアクロウは眉を顰めた。
傍に控えるリッパーに様子を見に行くように指示を飛ばそうとした時─
「ッ!!?」
破砕音と共に地面から飛び出したのは十字架を備えた巨大な二丁の銃だった。
驚きの余り固まるスケアクロウ。
地面から飛び出した双銃の銃口は、やがて轟音の嵐とも言うべき銃声が刻んだ。。
銃声が鳴る。
まるで轟音の様な銃声で嵐のような弾幕だった。
無数の銃声が響く。
それはまるでこの世のモノとは思えない"十字架"を携えた巨銃だった。
銃声が響く。
髑髏の装飾が施された鉄の箱。それはまるで"棺桶"の様だった。
銃声が響く。
十字架の装飾が施された白のコートを羽織った彼女。それはまるで死体の様に白く──
『死神』の様な女性だった。
という訳で一話でございます。
色々描写はアレでございますが、目覚めのシーンに関してはガングレイヴO.Dを意識しています。
また本作は時期を見て、チラシの裏へと移行するつもりでございます。
何卒宜しくお願い致します。
あ、もう一つの作品の方もきっちり更新しますよー。
ただ、コラボ参加者の更新を待っている感じなのでー