嵐が過ぎ去ったかのように静けさが辺りを支配する。
爆風が駆け抜けた後に残った熱と硝煙の匂い。それだけがこの教会に残されていた。
何より──
「助かっ、た?」
絶望的だった状況から脱した事が今のG36cを安心させるだけの現実として広がっていた。
「G36cさん!」
そこにMP5が身を隠していた柱から飛び出し、動けずにいるG36cへと駆け寄る。
スケアクロウの攻撃で両手足を破壊されたその姿は何とも痛ましい。
完全に破壊されてはいないだけ幸いというものだろう。
良かった、とMP5は僅かに安堵するも再びその表情は険しいものへと切り替わる。
G36cの前に飛び出ると手にした銃のセーフティを解除し、銃口を自身の前に立つ存在へと向けた。
緊迫とした状況が再び訪れる。
「…」
後ろから銃を突きつけられている事に感づいたのだろう。
ゆったりとした動きでアッシェは後ろへと向いた。
帽子をかぶった小柄の少女が自身へと銃を突きつけ、動けずにいる少女の前に立っている。
そしてその表情は恐怖に怯えながらも立ち向かわんとする勇敢なものであった。
「た、助けてくれたことには感謝します。で、でも…!」
少女がその先に伝えようとしている事をアッシェには理解できた。
目覚め、助けたと言ってもアッシェは目の前にいる少女や動けずにいる少女の仲間ではない。
それもあって敵かも知れないと思われている事が言葉にせずとも分かり切った事であった。
「…」
MP5を虚ろの赤い瞳が見つめる。
するとアッシェは両手に握っていた巨銃…ケルベロスを手放し、デスホーラーと繋がった鎖を外した。
ズシンと重々しい音が響き渡る。地へと落とされた武器らを前にMP5の表情は困惑へと変わる。
にも関わらずアッシェは気にする事もなく、ゆっくりと後ろへと下がり、落とした武器から距離を取った。
その様子にMP5は思う。
この人は敵ではないのでは、と。
その証拠に相手は自ら後ろへと下がり、武器と距離を取っている。
これでもか言わんばかりに下がっていくその様にMP5が持つ銃がゆっくりと下ろされる。
その時───
「MP5!G36c!無事ですか!」
現場へと向かってきていた部隊の残りメンバーの一人であるスプリングフィールドの声が教会内に響き渡り、駆け寄る彼女の姿があった。
飛び込むような形で教会に侵入したスプリングフィールドの目に映ったのは、戦いの爪痕と損傷を負ったG36cの姿と、そんな彼女を守ろうと前に立つMP5の姿。
そして両手を上げ、二人から下がろうとしている白いコートを纏った謎の女性。
状況が全く読めない所に来てしまったスプリングフィールドは困惑した。
そして…
「どういう事ですか、これは…?」
思わず、その場で起きている事に対する問いを口にするのであった。
状況が困惑に変わった所で、MP5はスプリングフィールドに事情を話した。
鉄血の襲撃を受け、その中にハイエンドモデルであるスケアクロウの姿があった事。
そしてスケアクロウの攻撃を受けG36cが破壊されそうになった所を謎の女性が地面から突如として現れ、鉄血を撃退したという事を。
自身の目の前で起きたこと全てをスプリングフィールドへと伝えるMP5の傍で四肢を破壊され動けずにいるG36cを姉のG36が起こし抱える中、謎の女性…アッシェはナガンM1895の見張りの下、その場で立ち尽くしていた。
行動を起こす様子すら無ければ、喋りもしない。沈黙を貫く彼女の後姿をナガンはジッと見つめていた。
(…こやつ、何かがおかしい)
一目見た時からナガンはアッシェから発せられる何かに違和感と覚えていた。
(見てくれは人じゃ。じゃが…人間で言う所の"気配"が全く感じられん)
古参だからこそ、と言うべきだろう。
ナガンがアッシェを見つめる瞳は鋭い。
(それに…)
視線が大きく開いた穴へと向けられる。
その穴はアッシェが飛び出した際に開けられたもの。
誰も気にしている様子は無いが、そもそもにして"人が地面の中から飛び出した時点では可笑しいと思うべきだろう。
(何故この者は地下に居たのじゃ…。地下で過ごしていたとは到底思えん。あれだけの戦いが以前に起きておきながら微動だにしなかったのも付け加えると尚の事)
視線が再びアッシェへと向けられる。
相変わらず沈黙を保ったまま。その姿を見つめながらナガンは己の内で彼女へと問いかける。
(お主は一体何者じゃ)
その問いに答える者はいない。
答えたのは暗闇に包まれた夜空の中で破壊された教会を夜風が駆け抜ける音だけだった。
「そう…既に戦闘は終わったのね。全員無事で何より」
そこはS13地区前線基地 683支部のオペレーティングルーム。
備え付けの画面と向き合い、現場にいるスプリングフィールドと連絡を取り合う一人の女性の姿があった。
彼女の名は『ソユーズ・I・セリー二』。ここS13地区前線基地 683支部を統べる指揮官である。
「迎えは既に寄越してあるわ。周囲の警戒を怠らずに戻ってきて」
『分かりました。それと…"彼女"はどうしましょうか?』
「…G36cとMP5を助けてくれた彼女の事ね」
突如として地面から現れ、二人を助けた謎の女性。
初めてその報告を受けた時は困惑したものの、即座に切り替えられるのは流石と言うべきか。
「連れてきて。一度会ってみたい」
ソユーズの中では謎の女性に対する対応は既に決まっていた。
コラボ編ではなく、本編の方を更新です。
また今回の話でS13地区前線基地 683支部の指揮官、ソユーズ・I・セリー二を登場させました。
細かい情報などは追々記載しますので、今は彼女の名前だけでも覚えていてもらえると幸いです。