Gungrave D.S.F.L   作:白黒モンブラン

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―死神は死なず─


EP-Extra Grim reaper in a girl's tears 3.5

あの光の雨からどれ程の時間が経ったであろうか。

誰とも連絡が取れない中、彷徨う様にアッシェはグレイと共に移動していた。

助ける理由を話してからはというもののお互いに会話はなく、ただただ沈黙に包まれていた。

廃墟で埋め尽くされた市街地を抜けた時、ふとアッシェの目にあるものが映った。

 

「……」

 

既に朽ち果てた存在。

とは言え、その外観は僅かにであるが喫茶店の面影を残していた。

 

「…そこに何かあるのか?」

 

何もある筈がないその小さな建物をジッと見つめるアッシェを不思議に感じたのか、グレイがそう尋ねるもアッシェは答えない。

だがその代わりに彼女は朽ち果てた喫茶店へと足を進めた。

まるで誘われるようにして。

 

「……」

 

「…何もないな」

 

入り口を閉ざす様に貼り付けられた廃材を蹴り破り、二人は喫茶店の中に足を踏み入れる。

だがその様子はグレイが口にしたように特に気になるようなものは何一つ無かった。

それでも尚、形を保ち続けていたのかは只の奇跡か、或いは─

 

「……」

 

アッシェの中に存在しながらも、奥深くに閉ざされた記憶を呼び覚ます為だけに残っていたかのどちらかであった。

 

──■■■■!──

 

誰かが、誰かの名を呼んでいる。

ノイズが走ったように映し出される映像は不鮮明だ。

 

──ア■■■──

 

また誰かが、誰か名を呼んでいる。とても優しく、懐かしさを感じさせるような声で。

けれどその顔は分からない。モザイクがかかったようにハッキリとせず、その声の主が男なのか女なのかさえ分からない。

 

(思い出せ、ない…何かが思い出せない…)

 

大事なものなのに、忘れてはいけないものなのに。

それでも思い出そうとして思い出せない。

 

「…大丈夫か?」

 

微動だにしないアッシェにグレイは声をかける。

その声に反応してゆっくりと首を上げると、アッシェは頭を横に振って何でもないと伝える。

ここに居る必要はない。速く他のネイトらを見つけなければならないと思われ、後ろへと振り返った直後だった。

 

「!!」

 

「ッ!?」

 

突如として走った衝撃。

身体は地面とぶつかり、その痛みに耐えながらもグレイはアッシェにへと視線を向ける。

そこに映ったのは、無数の光弾がアッシェにへと襲い掛かろうとする瞬間。

 

「避けろ!!」

 

何故そう叫んだのか分からない。

反射的にそう叫んでしまったのか。或いは何かしらの思いがあったのか。

だとしてもその声がアッシェに届く事はなく。

回避する余地すら与えられる事もなく、アッシェの体は襲い掛かった光の嵐に飲まれた。

直撃時の反動を物語る様に土埃が舞い、グレイの視界を覆い尽くす様に勢いよく広がった。

 

「くっ…!」

 

向かってきた土埃に対し、両腕で視界を守りながらグレイの目は未だに光の嵐に晒され続けているアッシェにへと向けられる。

そして次の瞬間、止めと言わんばかりの榴弾が嵐に晒されたアッシェに直撃した。

広がる爆炎、爆音、破砕音。その中から飛び出すアッシェらしき人影。

煙によってその体が欠ける事無く存在しているかどうかの判別は付かない。

だが、そんな事を気にする必要はない。

あれほどの攻撃を浴びて、生きている筈がないのだから。

それよりも気になる事がグレイにはあった。

 

(今の攻撃…私も狙っていた)

 

先ほどの攻撃はアッシェだけを狙ったものではない。

それを確かめようと傷ついた体に鞭を打ち、壁に手を付きながら立ち上がる。

ゆっくりと外を覗いた時、その声は響いた。

 

「よぉ、無事か?グレイ」

 

男の声。

その声に聞き覚えがあり、後ろに控えたストレツィ、ロデレオ、ガンナーらの前に立つ男の姿を見てグレイは嫌悪感を見せた。

まるで自分が助けたんだと思わせる様な嘘の台詞に対して、その男の存在に対して、その全てに対して。

 

「無事だと?良くそんな台詞が吐けるな?ロキプラ」

 

「おいおい、そんな言い方はないだろ?助けてやった恩人なんだが?」

 

「助けただと?ハッ…!」

 

嘘はもういい。

それでも味方であると装うロキプラの台詞にグレイは笑う。

そこまで隠すのであれば告げよう。

貼り付けた笑顔を剥がすだけの事実を。

 

「殺し損ねたの間違いだろう?」

 

場が静まり返った。

建物を吹き抜ける音すら聞こえなくなる程に。

あの光の雨が降った後を再現するかのように全てが静まり返った。

 

「酷い言い草だなぁ。お互いに嫌ってるつっても一応仲間なんだが?それにさ、お父様は期待を背かれるのを嫌う。そして俺らをその期待に応える為にここに来た」

 

まぁでも…とそこまで言いかけて、ロキプラは前髪を後ろへと掻き分ける様な仕草を見せる。

貼り付けていた笑顔から一転。その笑みは狂気だった。

そしてグレイは思う。漸く本性を見せたと。

 

「そんだけボロボロじゃ、もうお父様の役には立てねぇなぁ?グレイさんよぉ?」

 

「…」

 

「お次はだんまりかぁ?素直に吐いちまえよ。私はもうお役に立てませんってな」

 

遺憾ながらも、ロキプラの言っている事は間違ってはいなかった。

あの光の雨のせいで身体は相当傷ついている。立つだけでやっとの今、ここまで来れたのはあの(アッシェ)のおかげである。

そうだと分かっていたとしても、彼女は認めない。

まだ自分はお父様の役に立てるのだと。まだやれるのだと。

最早洗脳に近いソレが彼女の中に現れた時、ふとあの声が響く。

 

─戦う為だけの存在にはさせない…。人として生きさせたい…。だから守る─

 

どこか熱いものが籠った彼女(アッシェ)の声。

その声が洗脳に近いソレを一つ残らず焼き尽くした。

 

(…人として)

 

確かに人として生きた事はある。

しかしそれはそう思わせる為に演技でしかなかった。

 

(そして守る、か…)

 

確かに守って来た。

お父様の言う事は何でも守ってきた。

お父様が命令する事は忠実に実行してきた。

お父様の邪魔をする者は例え味方であろうと排除してきた。

失敗は許されない。お父様は失敗を嫌うのだから。

故にお父様の為なら何でもやって来た。

そうする事に疑いはなく、それが当たり前だと思ってきた。

だが、今のグレイは彼女らしからぬ感情が存在していた。

 

(私は一体…)

 

命令とあれば、大量の屍を築いてきた。

けれど、そこに報酬はなかった。

褒められる事も、愛される事も…娘の様に扱ってくれる事も。

何かが違う。今まで信じてきたものが一つ、また一つとして崩れ去る様な違和感。

やがてそれは自ら生み出してしまった問いによって明らかとなる。

 

(私は…今まで誰を守ってきたんだ…?)

 

その時、崩れ去る音が彼女の中で響いた。

作り上げてきた全てが崩れ去り、胸が張り裂けそうな激痛が彼女を襲う。

 

「くっ…つぅ…ッ!!!!!」

 

呼吸が乱れ、体が動かない。

嫌な汗が流れ、頭の中はぐちゃぐちゃにかき乱される。

そんな事が起きているとは知る事はなく、グレイからの返答が返ってこない事を不思議に思うもロキプラはそのまま言葉を続けた。

 

「確かに換えの効く安い駒さ。けどな?今ここにいる俺が死んだとしても、全てが別の俺に引き継がれる。無駄にコストが高くて、くたばったら終わりのテメェらとは違う。まぁ俺からすりゃ、"アレら"に始末されてたら良かったんだけどな」

 

煽るような台詞を口にするもグレイからは返答は返ってこない。

だがロキプラからすれば大した問題にはならない。

 

「そんなボロボロじゃもう役に立てねぇだろ。ならテメェは用済みだ、グレイ。始末するのはじ~つに心苦しいが、お父様にはちゃんと伝えておいてやるよ。あいつは役立たずでした~ってな!」

 

アッハッハッハ!と狂気を感じさせる笑い声をあげるロキプラ。

それを合図に彼の後ろに控えていたストレツィ、ロデレオ、ガンナーらが武器を構え、狙いをグレイが居る建物へと向ける。

 

「お父様の役に立てるのは俺だけ。上に立つ為ならば、何だってやってやるさ。だからよぉ──」

 

三日月の様に口角を吊り上がる。

歪んだ笑みと共にロキプラは告げる。

 

「大人しく踏み台になりな…俺の為になぁッ!!!!」

 

叫びと共にその引き金に指が掛かる。

その時、地獄の番犬が咆哮した。

 

「ッ!?」

 

響き渡った銃声。

身体に奔った衝撃にロキプラの表情は固まる。

よく見れば右腕の肘から先が無くなっており、断たれた部分からは大量の血が噴き出していた。

数秒遅れて襲い掛かって来た激痛に歯を食いしばりながら耐え状況を理解しようとした矢先、崩壊寸前の建物から無数の弾丸がロキプラの後ろに控えるパラデウス兵にへと襲い掛かった。

常人で不可能な壮絶な早撃ち。咆哮にも似た銃声と共に放たれる弾丸が瞬く間にパラデウス兵を木端微塵に破壊し尽くす。

 

「何だよ…どうなってやがる!?」

 

グレイの攻撃ではない。

でなければ一体誰がと思った時、彼は目を見開いた。

建物の奥からゆったりとした動きで向かってくる白いコートを被った女。

巨大な拳銃を携え、二の腕に巻き付けた鎖と繋がれた棺桶を揺らしながら彼女は一歩、また一歩と向かってくる。

生気を感じさせない白い肌。虚ろな赤い瞳の奥に宿した確かな意思。

あれだけの攻撃を浴びていながら無傷なその姿はロキプラもグレイも信じられないと言った目を見ていた。

 

「…何故、生きて…」

 

ハチの巣にされる光景を見ていたからこそ、グレイは彼女にそう尋ねる。

 

「……」

 

だが彼女は答えない。

グレイを一瞥した後、ゆったりとした動きで建物の外へと出ると片腕を抑えながらもアッシェを激しく睨めるロキプラがそこにいた。

 

「ふざけんな…何で生きてやがる!?くたばったんじゃねぇのか!??」

 

「……」

 

自身が想定した通りの展開にならなかった事に苛立ちながら叫ぶロキプラ。

対するアッシェは決して答える事無く、ロキプラを睨めながら静かにケルベロスを構えるのであった。




コラボ編です。

この話でアッシェさんを大暴れさせようかと思ったのですが、次回に持ち越し。
次回こそはすげぇ暴れます。

そしてNTK様、申し訳ない…ロキプラさんをこっちで出してしまいましたが、何か不都合や、「このキャラはこんな感じじゃない」といった部分があれば指摘してください。
その際は修正いたしますので。

では次回ノシ
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