モルモット君への恋を自覚する時のアグネスタキオンの独白です。

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pixivに投稿していたアグネスタキオンの小説です。
アレなんですよね。自分って『誰かに恋愛感情を抱けるようなキャラじゃなく、また本人もそれを自覚してる』て感じのキャラが恋しちゃったときの心情みたいなのを書くのが好きなんで、個人的には結構気に入ってます。なので「うわなにこの女めんどくさっ!!」みたいに思いながら読んでいただけると……。
自分の好きを詰め込んだ話なんで、キャラ崩壊とか解釈違いとか起こしまくってるやも……一応注意です。

よろしくお願いします。





モルモット君に恋をしたアグネスタキオンの独白

 

「……困ったねぇ」

 

 とある日のトレセン学園にて。

 私こと、トレセン学園所属のウマ娘、アグネスタキオンはそう呟きながらため息を吐いていた。

 目の前にはパソコンの画面がある。ここのところの私の走りのタイムを記録したものだ。一目でタイムの推移がわかるようになっている。

 

 私が困っていた理由。

 それは、タイムが遅くなってしまったからではない。

 

 むしろ、逆。

 

 

「……格段に早くなっているねぇ。以前よりも」

 

 

 走っていた私自身が苦笑いをこぼす程度には、私のタイムは早くなっていた。

 しかも徐々に、ではなく急にである。とある日を境にして突然タイムがぐんと縮まり、以降そのタイムが私の標準になり始めたのだ。折れ線グラフにしたら、さぞ面白い形になるだろうねぇ。

 しかるべき人が見ればドーピングを疑われるんじゃないだろうか。なにせ私もそう思うぐらいだし。

 

 これはなんとしても分析しなければ。

『負けに不思議の負け無し』とは有名な言葉だが、いやはや勝ちにも不思議の勝ちは無いものだ。つまりこの場合は、タイムが縮んだのにもちゃんと理由があるはず。

 

 ……だが、私は走り方を変えた覚えはないし、新たなスキルを習得した覚えもないし、筋肉が急成長した様子もないねぇ。

 となると、肉体的な成長ではなく何か精神的なものが影響を及ぼしたと考えるのが自然。

 

 精神的なものといえば……『感情』だな。おそらくそれに違いない。

 それも、ここまでの変化を与えるとなれば、感情の矛先は私と親しい身近な人間ということになる……。

 

 身近な人間……まぁ、あのモルモット君だね。

 

 あのモルモット君に私がなんらかの感情を抱いたことが、この異様なタイムの変化に関係していると考えるのが自然だろう。

 

 

 しかしてその感情の正体は……。

 怒りや憎しみ、悲しみではないねぇ。感情の中では『怒り』が一番肉体に影響しやすいが……めんどくさいと思ったことはあれどモルモット君に怒りを覚えたことはない。

 

 

 となると他の感情は……。

 

 

 いや……他にもあるか。肉体に影響を及ぼしやすい感情は。

 

 

 それは、喜びや……こい(・・)だ。

 

 

 

『喜び』……おそらく違うな。

 正確には、合っているが違う。

 

 モルモット君を得てから、私の研究は飛躍的に進み始めた。その事に対して私は常に喜びを感じている。

 だから、仮に喜びが影響を及ぼしたとするなら、もっと前から表れていないとおかしい。

 よって『喜び』は違う。

 

 

 

 となると、私は一つの仮説に行き着くことになる。

 

 

 それはつまり……あー……私のキャラじゃないせいか、どうにも言うのは躊躇われるな……。

 だがしかし、言わなければ先へは進めない。マウスを実験台に乗せることを躊躇っていては、実験なんてできやしないからね。

 

 

 

 ……コホン。あー、つまりだ。

 

 

 

 つまり私は、あのモルモット君にこい(・・)をしているのではないか、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こい。コイ。恋。

 

 ああ、知っているとも。恋。

 

 

 特定の相手に強く惹かれ、深く想いを寄せること。二人だけでいたい、触れ合いたい、好意を持ってもらいたい、性的嗜好を満たして欲しいなどという願い。

 

 

 知っているとも。

 

 

 人間の感情において最も尊ばれるべきモノであり、生物の進化において大いに貢献してきた。

 そんな、素晴らしい感情だ。

 

 

 

 

 

 ……で?

 

 

 

 それを、私が抱いていると?

 

 

 

 あのモルモット君に対して?

 

 

 

 彼が好きだから、彼に褒めて欲しくて、彼に良いところを見せたくてタイムが早くなったと?

 

 

 

 いやー……面白い冗談だ。

 

 ちっとも笑えないよ。

 

 

 

『恋』だって?まだ『感情』のことも理解しきれていない私が?いっちょ前に?

 

 ははっ、傑作じゃないか。今まで真っ当に恋をして生命の歴史を育んできた森羅万象に土下座するべきだね。

 私が抱くこの気持ちが、恋であるはずがない。あってはいけない。

 

 だいたい、順序がメチャクチャだ。感情を知らずに恋をするなんて。

 自転車に乗れていないのに飛行機を操縦しようとする奴があるか。

 シャカール君が聞いたらきっと爆笑必至だろうね。

 くだらない。

 

 

 

 

 

 ……少し落ち着こう。

 先ほど、『恋』を知っていると、私は言ったね。

 

 その情報の源は、この世における一般的な娯楽にあたる本から……所謂、少女マンガから仕入れたものだ。

 

 意外かな?

 しかし、閃きや妙案というのは、案外関係ない知識を仕入れているときにポツっと降りてくるものなのだ。

 それを狙って、私は研究に詰まったときはわざとその研究とは程遠い少女マンガを読むようにしてる。まぁ読んでいるというよりは、ただ活字と絵を目で追っているだけだけどね。

 

 登場人物に感情移入したりもしないよ。

 なにせ、その世界の住人は私とは別物だからね。いや、二次元三次元だからという話だけではない。

 

 

 恋なんてものはある意味、健全な者が健全に抱く感情の象徴だ。

 感情の回路。生物としての本能。どちらかがイカれていては恋なんてできない。恋ができる者というのは、道徳的にも生物的に見ても『健全』だというのが私の理論。

 

 なれば逆説的に、私は恋ができないはずなんだ。

 

 私とて、自分がおかしいという自覚はあるよ。

 周りからそう言われ続け、そういう目で見られ続けたからね。よくわかっているよ。

 こう言ってはなんだが、もはや私も自分がクレイジーだということを一種のアイデンティティーにしかけているぐらいだ。

 

 そんなおかしい人間である私なんかが、恋などできるはずがないんだ。

 

 

 

 だから、私が彼に対してなにかしらの、他の人に対しては感じられないトクベツなオモイを抱いたのだとしても。

 確かに、その感情に伴う様々な異常行動が体に起きていたのだとしても。

 

 それは恋ではなく、『恋らしきナニカ』によって引き起こされているだけなんだ。

 

 

 

 時々鼓動が異様に早くなるのも。

 

 気づけばモルモット君を目で追ってしまうのも。

 

 喧騒の中でも彼の声と足音だけが真っ先に耳に入るのも。

 

 彼とちょっとした嗜好が一致していると嬉しくなるのも。

 

 私だけのモルモットでいてほしいのも。

 

 見て欲しいのも。

 

 構って欲しいのも。

 

 褒めて欲しいのも。

 

 傍にいて欲しいのも。

 

 

 

 

 これらのオモイは全部『恋らしきナニカ』によるもののはずなんだ。

 私が他人に『恋』なんてできるはずがないんだから。

 

『恋』というのは、なんというかこう……もっと高尚で、崇高な感情で無ければならない。

 

 異常者である私ごときが、抱いてはならない感情なんだ。

 

 

 

 

 ……しかし。

 

 このオモイが『恋』でないのなら、なんだ?

 

 

 タイピングする手を止め、ラボに備え付けられていた、失敗作の研究品などが陳列された棚を見つめる。

 あの棚の奥には、書くだけ書いて放置した惚れ薬や精力増強剤やらの理論をまとめた用紙がある。この謎の感情を抱き始めた頃、気がついたら書き上げていたのだ。

 

 まぁ私の科学力は学園一なのでね。作ろうと思えば作ることは可能だろう。材料も既に揃っているし。

 だが……いざ作成に取りかかろうとすると、決まって私の腕は止まってしまう。止まってしまうというより……拒否してしまうのか。

 

 なぜなのか。

 どんな感情によるものであっても、とにかく『彼が欲しい』と私の中のナニカが命じているのは確定。

 ならば、どんな手を使ってでも早急にモノにすべきだ。マッドサイエンティストとしても、私自身の目的のためにもね。

 

 ……と、頭では理解しているのだが、どうしても心が拒否してしまう。

 

 訳がわからない。

 自他共に認める効率厨である私が、なぜこんな回り道……下手すりゃコースアウト同然の行為をしているのか。

 

 ……いや、なんとなくはわかっているさ。

 ただ、それを言葉にするのが……なんとなく、無理な、だけだ。

 

 しかし、やはりここは言葉にしなければならない。今は自問自答中なんだ。言葉にできることはちゃんと言葉にして、分析していかなければならない。

 最初にも言ったぞ。マウスを実験台に乗せることを躊躇っていては、実験なんてできやしないと。

 

 ……言葉にするとだ。

 

 

 

 

 

 モルモット君には、ありのままの私を好きに───だー……。

 

 

 

 あー。

 

 

 あー。

 

 

 あー。

 

 

 

 

 

 

 やはりやめよう。これを言葉にするのはやめておこう。こんなの私のキャラじゃない。

 おかしいじゃないか。

 

 

 私はマッドサイエンティストのクレイジーキャラなんだぞ?

 こんなの私じゃない。私には、似合わない。

 カフェが先の台詞を聞いたら、きっと目を丸くしながら『明日は地球最後の日かもしれませんね……』なんて言うに決まってる。

 

 

 だってこれではまるで……年頃の普通の女の子じゃないか。

 

 

 そんな感情は似合わない。

 持ってちゃいけない。持てないはずなんだ。

 この異常者の私が。私なんかが。

 

 

 てか、だいたい何なんだ。ありのままの私を……なんて。

 私はそれほどモルモット君に誇れるような体をしているか?

 

 生まれてこの方、美容に意識を割いたことなんてなかったし、夜更かしや栄養バランスを考えない食事もしょっちゅうだぞ。

 カレンチャンあたりと比べればその美意識は雲泥の差だろうし、これから改善しようと努力する気も正直ない。

 

 スタイルもなぁ……。B83て。微妙すぎるだろ。

 イナリワンやマーベラスサンデー、マルゼンスキーとかと比べれば月とすっぽんだぞ。

 ウマ娘に生まれた時点で顔良しスタイル良しは確約されたも同然だというのにこの有り様とは……。

 

 

 これではモルモット君を悩殺など夢のまた夢だな。

 ……もっとスタイルが良ければ、モルモット君も簡単に私の方を向いてくれたのだろうか。

 

 私自身も、自分の感情に自信を持つことができたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、私よ。

 

 

 先ほどからやたらと自分は異常者だの、『恋』は健常者のモノだの、異常者が『恋』をしてはいけないだのとのたまっているが。

 

 

 実際問題私は、この『感情』について何を思っているんだ?

 これは自問自答だ。嘘はつけない。許されない。

 

 ハッキリとした答えを出さなければならない。

 

 実態はわからなくとも、確かに今心に渦巻いている、この『恋らしきモノ』に対して。

 

 

 私自身はどう思って、どう感じているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ。

 

 

 

 

 

 そうさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嬉しい』し『心地良い』に決まってるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モルモット君のことを考えていると、どうしようもなく胸が苦しくなってしまう。

 だけど、どうしようもなく楽しい。

 

 モルモット君のお弁当は美味しい。食材を箸で掴んで、口に入れて、ちゃんと咀嚼して味わうことがこんなに良いことだとは思わなかった。

 だけど私はたぶん、この料理を作ったのがモルモット君じゃなければ食べない。ここまで美味しいとは思わない。

 

 走ったあとや、レコードを塗り替えたとき。

 さすがだな、すごいなタキオン、と褒められただけで、その日の疲れなど全て吹き飛んでしまう。

 

 

 私なんかが抱いて良い感情でないというのはわかっている。

 だけど仕方ないじゃないか。タイムを見る限り体には良い影響を及ぼしているようだし。

 

 この感情を感じるのは非常に心地良い。ただひたすらに、身を任せて流されたくなる。

 どこまでも、溺れたくなってしまう。

 

 

 ああ単純。言葉にしてしまえばなんたる単細胞。

 バカ。救えない。忠犬か。

 

 最悪のウマ娘だ、私は。

 

 

 

 こんな異常者の分際で。普通のウマ娘みたいにドキドキしてしまって。

 

 

 

『恋』なんか、してしまって。

 

 

 

 

 

 

 ……だけど、それの何が悪い?

 

 

 

 ああうん。なんだかもうめんどくさくなってきた。

 もう、ここは開き直らせてもらおうじゃないか。

 

 

 そうだよ。

 

 私はモルモット君のことが好きだ。どうしようもなく大好きだ。

 

 彼に褒めて欲しい、称賛して欲しい一心で走りを洗練させてしまうほど好きだ。

 

 

 常に隣にいて欲しい。

 

『果て』を私と一緒に見て欲しい。

 

 私以外を見ないで欲しい。見るな。なびくな。迷うな。君の女は私だけだ。

 

 

 

 

 ……なにかしらの理論を撤回する必要があるな。

 

 異常者でも恋はできるのか。

 

 それとも……以前彼が称したように、私は泥臭く、自分をクレイジーだと思い込んでいるだけのただの一般ウマ娘なのかもしれない。

 

 

 クレイジーで変人な私も、恋の感性は一般人と同じだった。

 もうそういうことでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 あーほらもう。

 なんだかここまでずっとトレーナー君のことを考えていたせいで、無性に彼に会いたくなってしまったじゃないか。

 

 

 

 

 すぐにラボの席を立って、私はトレーナー君がいるトレーナー室へと急ぐ。

 距離は遠くない。ウマ娘のスピードならすぐだ。

 

 

 だけど遠く感じる。彼に会うと思ったら。

 

 

 こんな距離でさえももどかしい。

 

 

 早く会いたい。

 

 

 

 

 あーくそっ。本当に私は脳に異常をきたしてしまったようだな。

 異常者が異常になったら、それはもう一周回って健常者になるのか?

 

 

 もう自分でもなにを言ってるのかわからない。

 

 

 

 ただ。結局、どれだけ理屈を捏ねようが。

 

 

 どれだけ自分を異常者だとしようが。

 

 

 

『私が今トレーナー君に会いたいと思っている』

 

 

 

 結局これはもうどうしようもなく変えられない、私が確かに抱いている想いだ。

 

 

 さて、責任を取ってもらおう。

 

 

 

「さぁさぁさぁ!実験の時間だよモルモット君!!」

 

 

 

 今日も私は実験(求愛行動)とシャレこむのだ。

 

 


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