オグリキャップを高級なお肉で労おうと頑張るトレーナーのお話です。
当初は普通に焼肉パーティをする予定だったのですが、気が付いたらなんか凄いことになってました。
作品内でなんかそれっぽい設定を登場させていますが、ただの妄想ですのであしからず。

※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください

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タマ「オグリに高級焼肉を奢りたいやてぇ?!」

「う……うせやろトレーナー? 本気で言っとるんか?」

 

「ああ、俺は本気だ」

 

「せ、せやかてそこまでせんでも……他にもいろいろと方法が……」

 

「確かにタマの言うこともわかるよ。心配するのももっともだ。けど、俺はもうこれしかないと思ってる」

 

「そんな…………」

 

ある日のトレセン学園。その放課後の、まだトレーニングが始まる前の時間帯。

校舎の一角にあるトレーナー室で、俺はウマ娘のタマモクロスと話していた。

俺は別に彼女の担当ではないのだが、訳あってここ最近話し合いを重ねている。

非常に重要かつ、重要な話だ。

 

「やっぱりダメや! 早まったらあかん! トレーナーが良いと思ってもウチは反対や!」

 

「けど他にどうするって言うんだ? 正直俺には全然良い案が思いつかないぞ?」

 

「そんなもん、ウチかてそうや! けどここでトレーナーをそのまま地獄へは送れへん!」

 

「地獄ってそんな……大げさな……」

 

「本当に大げさやと思うか?」

 

「うっ…………」

 

痛いところを突かれてしまい、言葉に詰まる。

勢いだけで啖呵を切った事はバレているようだ。

 

「まあ……状況によっては地獄に……なる……かも……」

 

「せやろ? だからここまで言っとるんや。何もウチは、トレーナーの気持ちを無下にしたいわけじゃないんや。一人の選手として、レース関係者として、これからもトレーナーがトレセン学園の職員として問題なく生きていくために、下手な選択をするんは考えて欲しい言っとんねん」

 

「それも分かるけどさぁ、ならせめて具体的な代案がないと……」

 

「うむむ……それはそうやな……」

 

俺とタマは再び頭を悩ませることになる。

 

「ぶっちゃけそろそろ本当に決めないと、時間もあんまりない。少なくとも明後日には確定させておきたいんだ」

 

「てなると……流石に悠長にしてはおれんな。ここ数日の話し合いもあんまし進展ないし、ウチもトレーナーを止めるだけじゃあかんのはわかっとる」

 

タマの言う通り、話し合いはほとんど進展がない状況だ。

とある催しに対する俺の案をタマが止める、という構図。かれこれこの状態が一週間近く続いてる。

その催しというのが非常に特別なものなのでこうして毎日のように会議を重ねているのだが、いかんせんいいアイデアが出てこない。

 

「なあ、やっぱりもう少し妥協せんか? いくら何でもあのオグリを高級焼肉で満腹にするなんて、無茶やで?」

 

「しかしなぁ…………」

 

そう、俺の担当ウマ娘であるオグリキャップをいかにして満足させるかという点において、俺たちは悩み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オグリキャップ。地方からはるばるトレセン学園へとやってきたウマ娘。

やや天然ではあるものの、レースへの情熱は本物であり、向上心も強く努力も怠らない。才能という面でも申し分なく、指導すれば飲み込みも早い上に変な癖や我儘もない。

その実力は確かなもので、トゥインクルシリーズに参戦したときは大きな話題になったほど。現在では多数の実績から伝説的な人気を誇るスターウマ娘だ。

そんな彼女のトレーナーとして俺は、出来る限りのことをしてきたつもりだ。練習メニューの発案や対戦相手の分析、コンディション管理や出走ローテーションの構築など、どれも全力だった。

ただ一つ『彼女の食欲を満たすお祝いをする』という事だけは、どうしてもしてあげられなかった。

 

 

「なあトレーナー、今度、あそこのお店に連れて行ってはくれないか?」

 

 

先日レースに勝利したオグリキャップがご褒美として希望してきたのは、高級焼肉店への訪店。

それを聞いた瞬間、俺は固まった。

 

「あ、あー…………あそこの店か、いいよなぁ~、俺も正直行ってみたい」

 

「そうなのか? なら是非……」

 

「けどなオグリ、残念ながらそういうお店は予約が結構先まで埋まってたりしてなかなか行けないんだよ」

 

この言葉の半分は事実から来る本心だったが、もう半分は別の理由からくるごまかしが含まれている。

実は彼女はかなりの健啖家で、トレセン学園随一の食欲を誇るウマ娘なのだ。

その胃はブラックホールだとか、オグリが食堂に現れると戦争が始まるだとか、トレセン学園の食料の半分はオグリが食べ尽くしているとか、そんなとんでもない噂が立つほど。

当然トレセン学園にはオグリの他にも食欲旺盛なウマ娘が何人もいるが、いずれもオグリには敵わない。

例え大食い対決のような状況であっても、オグリほど美味しそうにかつ大量に食事をするウマ娘は他にいないのだ。

そんなオグリが高級焼肉店に行けばどうなるか、想像に難くない。少なくとも俺個人の財力ではどうにもできないのは明らかだ。

 

「だからちょっと難しいかな。少なくともすぐにっていうのはね」

 

「そうか…………それは残念だな…………」

 

「!!」

 

さて、この時のオグリの残念そうな表情が見てない者に伝わるだろうか。

普段のオグリは何事も気にしないぐらい肝が据わっており、それでいておっとりとした性格だ。声を荒げたり、感情を激しく表に出すようなことはめったにない。

そんなオグリが俺の言葉を聞いて、絵にかいたような落ち込み顔を浮かべているのだ。嫌でも心境を察してしまう。

客観的に見ても別に俺が悪いことをしたわけではないと思うのだが、それでも悲しんでいるオグリを見ると、罪悪感が半端じゃない。

だから俺は思わずこう続けてしまったのだ。

 

「お、お店は無理でも、俺が肉を買ってきてやるよ!」

 

「ん、 それは本当か?!」

 

「ああ、本当だ。今までなんだかんだご褒美らしいご褒美を上げてなかったしな! 今までの分をまとめて喜んでもらうぐらいの肉を用意してやる!」

 

「今までの分を……まとめて…………!」

 

「それにだオグリ。正直高級焼肉店なんて窮屈でお前には合わないと俺は思うぜ? こういう店はお上品だからな。お前みたいにたくさんいろんな肉を楽しみたいっていうなら、家とかで焼肉パーティでもした方が絶対に楽しいはずだ」

 

「焼肉……パーティ……!」

 

俺は正直この時点で『やっちまったああああああああああああ』と内心絶叫していた。

が、俺の言葉を聞いてドンドン表情を明るくするオグリを見ていたら、何が何でもこの言葉を現実にせねばならないと感じたのだ。

 

 

そしてその数日後。

 

 

「てなわけでオグリと焼肉パーティの約束しちゃったんだけど、どうすればいいと思う?」

 

「な、なんやてえええええええええええええええええええええ?!」

 

と、タマにこの世の終わりだと言わんばかりの表情で驚かれたのが、大体一週間前の出来事なのだ。

ちなみに、相談相手としてタマモクロスを選んだのは、オグリと仲がいいから。オグリの身近なウマ娘として参考のために協力を仰いだだけである。

つまりは、完全なとばっちりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずタマにもトレーニングがあるし、俺も担当の子たちを見なければならないということで話し合いは一時中断。トレーニング後に持ち越されることになった。

 

(どうしようかなぁ……)

 

もちろん指導自体はちゃんとやるが、それでも頭の片隅には焼肉パーティの悩みが渦巻いている。

オグリ本人はトレーニング中非常に真面目な為、特に何も言ってはこない。しかし約束した以上、期待はされているはずだ。

あまり先延ばしにするべきではないし、誤魔化したりするのも論外だ。

とはいえ、やはりあの無尽蔵とも言えるほどの食欲を果たして個人の財力で、しかも高級な肉という条件付きで何とかできるかと考えると、無理問言わざるを得ないだろう。

 

(うーん、肉の相場……それに量……うーん…………)

 

別に俺も一応人並み以上には稼いでいるはずだし、貯金もある程度はある。無理をすればもしかしたら……と、思わなくもない。

それにいくら高級焼肉と言っても100%肉だけを食べるわけではない。アスリートとして栄養バランスは考えないといけないので、肉にあった分の野菜や炭水化物も取ってもらうことになる。そしてオグリならそのことに文句は言わないし、むしろいろいろなものを食べれると喜ぶだろう。

だがそれにしたってただではない。ただでなければ当然金がかかる。

せっかく御馳走するならば満腹にしてあげたいし、妥協もしたくない。が、俺のその信念のようなこだわりがあるからこそ、今回の件はややこしくなっているのだ。

 

(タマにもこれ以上時間取らせたくないしなぁ……何かいい案は……)

 

タマモクロスはとても心優しいウマ娘だ。故に俺のことを手伝おうとしてくれているが、できることなら俺だって自分一人の力でなんとかしたい。

相談を受けてもらう以上時間を使わせてしまうわけだし、同僚ならまだしもタマはウマ娘。担当ではないとはいえ指導する立場からするとなかなか申し訳ない。

 

(とはいえ現状心配されてる感じだし、不甲斐なさ感じるなぁ……)

 

もし俺に財力があれば、相談の必要性もないし、仮に相談するにしてもそこまで心配されることはなかったはずだ。

大の大人がトップアスリートであるとはいえ学生に心配されてしまっているのはちょっとくるものがある。

 

(あれ、でも俺の収入の話って、タマにしたことなかったよな…………)

 

そこでふと、そんなことが脳裏によぎる。

そういえばそうではなかったか。

タマとはもう何度も相談を重ねているが、俺の金銭事情に関してはこれといって明かしたことがない。

特にそんな必要がなかった上、尋ねたりもされなかったので忘れていたが、実はその辺りで誤解があるのではないか。

毎回俺の無茶を止めるような反応を見せるタマだが、もしかしたら……

 

(そもそも結構余裕はあるし……最悪貯金崩してなんとか……いやでも…………どっちにしろなぁ…………)

 

「ちょっとトレーナーさん? 聞いてます?」

 

「あっ……すまんすまん! 大丈夫、聞いてるよ」

 

あまり思考を寄せすぎてしまうとこのように指導に支障が出るので、じっくりは考えられない。

答えが出ずに悶々と考えを巡らせ、それでいて手を抜かないよう気を付けながら、午後の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして各々やるべきことに取り組み、迎えた夕方。

トレセン学園を後にした俺とタマは商店街を目指し歩いていた。

 

「そもそもの話に戻るんやけど、オグリに肉の違いなんか分かるんか? あいつやったらどんな肉でも美味しい言うて食べるんとちゃうか?」

 

「うーん……どんな肉でもうまそうに食うってのはそうだろうけど、せっかくだしいいもん食わしてやりたいんだよなぁ」

 

「せやかて、トレーナーにも予算はあるやろ? ちょっとぐらい誤魔化したってバチは当たらんとちゃうか?」

 

「まあ、そこは俺の誠実さというか、信用の問題というか…………いくら金がかかるって言っても、約束を破りたくはないし、嘘ついたり誤魔化したりもしたくない」

 

「うーん…………気持ちは痛いぐらいにわかるんやけどなぁ…………」

 

相変わらずいい案は出ない。

あれこれ話すがやっぱり問題は『オグリキャップをどう満足させるか』に尽きるのだ。

と、そこでタマから鋭い意見が出た。

 

「あ、でもトレーナー、ウチ昨日気になって調べたんやけどな、一口に高級な肉言うても、やっぱりいろんな種類があんねん」

 

「まあ、そうだろうな。部位もそうだし、どこ産とか、品種とか」

 

「トレーナーはもう目星ついとるんか? 買う肉」

 

「いや、それがまだ全然でさ」

 

「それやったら、あんまり悩む必要ないんとちゃうか? ここまで色々と話しといてなんやけど」

 

「え?」

 

一体どういう意味なのか。その時の俺はタマの言わんとしていることを読み切れていなかった。

 

「まず、高級な肉ってなんや?」

 

「そりゃあスーパーで売ってるような肉じゃなくて、専門店で扱われてるような値段の高い……」

 

「でも最近はスーパーでごっつ高い肉が売られてることもあるやろ? それに専門店でも安い肉は扱ってるはずや」

 

「あ…………言われてみれば確かに」

 

「せやろ? 肉もピンキリや。となると問題になってくるんは、どっからが高級で、どっからが普通の肉なんかってことや」

 

「高級か否かの基準ってことか」

 

「せや。そしてその高級か否かを決めるんは誰や? 肉を選ぶトレーナーと、食べるオグリ本人やろ?」

 

「なるほど、そういうことか!」

 

タマが『悩む必要がない』と言った意味を、俺はようやく理解した。

確かに『世間一般的な高級な肉』というのは存在する。グラム当たりの値段というのはちゃんとした基準に則ってつけられているはずだ。

しかしそれはあくまで値段をつける店側の判断に過ぎない。

極端な話、滅多に食べれないステーキが一万円だったとして、一般人からすればそれはとても高級だ。だが、年間何億も食事につぎ込めるような富豪がいたとしたらさほど高級とは思われないだろう。

相対的な評価は個々人で変わる。タマが言いたかったのはそういうことなのだ。

 

「トレーナーが誠実にオグリを労いたいっていうのは素晴らしいことや。けど何もほんまに最高級なごっつ高い肉だけでオグリを喜ばせる必要はないんとちゃうか? そらウチも『高級な肉を奢る』ちゅう約束してんのは破ったらあかんと思う。だけどそれで無理して金使いきったりでもしたら本末転倒やで?」

 

「そうだな……ありがとう、タマ」

 

無理をするぐらいなら、高級と呼べる範囲内で妥協点を探る。その上でオグリに満足してもらえばいい。

単純な話だが、変に悩み続けて煮詰まっていた俺一人ではこの考え方に至れなかっただろう。

俺はずっと高額な肉をどうやって用意するかを考えていた。金を工面する方法はないか、安く肉を仕入れられないかと、そっちばかりに気を取られていたのだ。

オグリのために高級な肉を用意しよう、そのためにはどうしたらいいのだろう。その気持ちばかりが先行しすぎていたがために、現実的な思考や柔軟な発想が抜けてしまっていた。

 

「いやー盲点だったな。本当にありがとう、タマ」

 

「気にすんなや。それっぽい言うたけどな、ウチかて今日まで全然思いつかんかったんやからトレーナーと大して変わらんで」

 

「いや、そんなことないよ。おかげで色々と見えてきた気がする」

 

「そか、それならよかった」

 

これで大きく前進するだろう。少なくとも俺が約束を反故にすることはないはずだ。

 

「そうと決まったら色々と調べないとな。時間があんまりないのは変わらないし」

 

「せやな。それに肉のグレードを調節するとしても、オグリの胃袋は底なしやからな。慎重に決めなあかんで」

 

「あ、そのことなんだけどさ。案外なんとかなるかもしれないんだ」

 

「ん?」

 

タマが首を傾げる。俺は続けてずっと引っかかっていたあることを説明した。

 

「そもそも今回の話が面倒になってる原因はそこだと思うんだ。要は、俺の出せる金額に限度があるっていう前提さ」

 

「そりゃあそうやろ? いくら実績あるトレーナー言うても、オグリの胃袋をええ肉で満たすとなったら給料何か月分になるか…………」

 

「いや、そこそこ、そこなんだけどさ。多分俺はタマが想像してるより貰ってるんだよ、これでも一応トップトレーナーだしな」

 

「そ、そうなんか?」

 

「まあ、流石にタマと言えど詳しい金額までは教えてあげられないけど、それなりにな」

 

自分で言うのもなんだが、そもそもトレセン学園のトレーナーは全国でもレベルが高い。かくいう俺もかなり難しい試験だの資格取得だのを乗り越えたが故にトレセン学園所属のトレーナーとなったのだ。

他の職業のことは詳しく分からないが、友人と話した限りではそれなりに給料は高いはずではある。

しかもトレセン学園所属のトレーナーは、チームの実績によって最終的な給与の金額が異なる。

これは至極単純な話で、担当するウマ娘のレース結果によって賞金額が異なってくるからだ。

この辺りの仕組みについては複雑な上に税金なども絡んでくるので割愛するが、学園側からの契約に基づいた基本給以外にも、状況によっては、ウマ娘のレース賞金の一部・スポンサーからの援助・雑誌等インタビューなどの謝礼、なども加算される。

これは本当に個人差の大きいところなので、人によってまちまちだ。トレーナー同士であまりそっちの話題を出さないので正確なところはわからないが、差があることは間違いない。

 

「それこそ俺なんかはオグリが勝って成績残してくれてるってのがあるからさ。結構もらってるわけよ。それをオグリに還元するって考えたら、結構無理はできるんだよね。もちろん普段からできる限りのことを色々としてあげてるつもりだけど、たまにはパーっと使ってもいいんじゃないかってさ」

 

「そこに関しては、ウチがあーだこーだ言える部分じゃあらへんけど、本当に大丈夫なんか?」

 

「タマに相談持ってきた時は大出費になりそうでやばい、としか思ってなかったんだけどさ。さっきの話でだいぶ視点が広くなったから、結構いけそう」

 

「なるほどなぁ…………」

 

これにはタマも納得してくれたようだ。

俺の言い方が悪かったのもあるが、恐らくタマのイメージでは『俺が薄給で金銭的に厳しい中オグリを満足させるために大量の肉を買う』という感じだっただろう。ここまでなかなかいい案が出てこなかったのもそれが原因のはずだ。

しかし問題点であった予算に関して光明が見え始めた。であればこの話は大きく前進するだろう。

 

「けど、やっぱりウチは油断したらあかんと思うで」

 

「油断はしないよ。流石に俺だって……」

 

「ほんまか? 一気にいけそうな気がしてきて忘れてるんとちゃうか?」

 

てっきりここからトントン拍子で進められるかと思いきや、再びタマの制止が入る。

言わんとすることはわかるが、そこまで気を張ることだろうか。

 

「確かにトレーナーが稼いでるらしいことは分かった。それにオグリへの感謝とか労いの気持ちを一気に込めるっていうのもええことやと思う」

 

「なら…………」

 

「けどウチから言わしてもらえれば、まだまだや。相手はあのオグリやで?」

 

「そんなの、俺だって十分すぎるぐらいにわかって…………」

 

「話は最後まで聞きいや。ウチが行っとるのは量のことだけやない。トレーナーが肉を用意するとなれば、ウマ娘が受けられる割引なんかもややこしくなってくるで?」

 

「あ…………そういえば…………」

 

割引。それはこの話の場合ウマ娘たちに適応される特殊な割引制度のことを差している。

そもそも人間よりも遥かに運動能力の高いウマ娘たちは、普通に生活するだけでも人間の数倍の代謝を行っている。必要カロリーもその分多くなる場合がほとんどだ。

故にそのまま食料の値段を換算すると、ウマ娘たちは普通の人よりも多くの出費を強いられることになる。が、世の経営者たちはそこに目を付けた。

企業からすれば、人よりも多くの商品を買ってくれるウマ娘は是非とも顧客として定着させたいところだが、通常価格では安い他店に行かれてしまう可能性も大きい。そこでウマ娘のニーズに合った割引システムを組み込み、ウマ娘の顧客を取り込もうという戦略が様々な企業で行われている。

 

「まあ、トレーナーはウマ娘ちゃうからなぁ。忘れんのは仕方ないで」

 

「そっか……いろいろ値段変わってくるもんなぁ……」

 

厳密に言えばこの手の割引の根本自体はウマ娘に限った話ではない。世の中の商品というのは大量に買えば買うほど安くなるものだ。市場の中で売り手と買い手の双方が納得しやすい形に金額が動くと、自然と割引は発生する。

商売において売り手はたくさん売れば売るほど得をするので出来るだけ多く売りたいが、大量に買ってくれる相手は少ない。そのため少しでも多く買ってもらうために、多く買うほどお得になるような絶妙な値段設計になる。

大半の場合そうしたお得なまとめ買いとウマ娘専用割引が重なるので、より多くの食料を買うならばウマ娘と人でかなりの金額差になる。実際にトレセン学園の食堂やカフェテリアで使われる食材などは、もろもろ込みで相当安くなっているという話だ。

 

「あ、でも俺がタマにお金渡して買ってきてもらえば割引適用されるだろうから、全部解決だな」

 

「って、切り替え早いなおい」

 

「いやだって、そうだろ?」

 

「それはそうやけど…………」

 

ちなみに悪用もされそうなウマ娘専用割引ではあるが、企業側もバカではないので変なことはできないようになっている。

 

「流石に俺もちょっとはもらうつもりだけど、基本的に食べるのがオグリだからな。重大な違反とかにもならないはずだ」

 

「それはそうやけど……」

 

「なんだ? ダメか?」

 

「いや、ダメやないけど……その……店に買いに行くんやったら、ウチだけじゃそんな大量の肉運べんで?」

 

「ああそうか、その問題もあるのか」

 

「それにウチに肉の良し悪しなんてわからへんからな。購入自体はウチがやるとしても、トレーナーにも選んでもらうことにはなるで」

 

オグリキャップのライバルとして激戦を演じてきたタマモクロスだが、その嗜好は真逆。

オグリが大食いなのに対してタマは小食であり、昔からの癖で普段から節制に努めている。タマのトレーナーから聞いた話によれば、少しお高いカフェに行ったら普段とのギャップで体調が悪くなってしまったとか。

流石に事前に目的が決まっていれば臆することもないだろうが、それでも心配にはなる。

 

「いや、待てよ?」

 

「ん? どないしたんやトレーナー?」

 

ふとアイデアが湧く。自分で言うのもあれだが、もしかしてこれは名案なのではないだろうか。

 

「ちょっと思ったんだけどさ、そういう問題ってなら通販とかネットでまとめて買えば全部解決するんじゃないか?」

 

「通販?」

 

「アカウントをタマに作ってもらって、タマの名義で俺の金を使って肉を購入する。そうすれば配達は業者がやってくれるわけだから、量が多くても届いた後は家で何とか出来る。それにちゃんとしたサイトで買えば、肉の品質は保証される」

 

「ほう……そう言われると確かに…………」

 

「だろ?」

 

自分で言ってて自信が出てくる。これはかなり良い案なのではないか。

 

「けど、ちゃんとしたサイト言うても当たりはずれあるんとちゃんうか? 評判ええところでもはずれつかまされたり、みたいな話も聞くで?」

 

「そう……かな? まあでも確かに、確実ではないかな?」

 

「悪くないとは思うんやけどなぁ……失敗はしたくないやろ?」

 

「そりゃあ勿論」

 

「なら、確実性もあったほうがいいっちゅうことやろ? そうなると通販は博打なんやないか?」

 

「うーん……確かにそう言われてみると……」

 

「信用できてなおかつ通販やってる店を選ぶにしても、どっちみち詳しいやつに話聞かんといけんのちゃう?」

 

タマの言う通り、肉に関して俺らはあまりにも知識がない。このままではどこかで失敗しそうだ。

料理についての知識はある程度あるつもりでいたが、食材の、それも普段扱わないような高級なものとなると全くの無知と言ってもいい。

 

「そうだな、正直俺もなんとなくの違いしか分からないし、予算が増やせそうって言っても無尽蔵に金があるわけでもないし、失敗は避けたい」

 

知り合いに肉に精通してるやつでもいればいいのだが、残念ながら俺の知り合いにはいない。

と、思ったが…………

 

「あ、せや、そういえばおったやん、詳しいやつ」

 

「詳しいやつって……タマの知り合いにいるのか?」

 

「いや、ウチの知り合いというか、トレーナーも知っとるやろ?」

 

「俺も知ってる?」

 

「ほら、メジロのお嬢様たちや。あの子ら育ちええし、全員当たれば詳しい子もいるんとちゃうか?」

 

「なるほど、確かに!」

 

メジロ家はトレセン学園所属のウマ娘の中でも有数のお嬢様一家。過去に俺もメジロ家主催のパーティなんかに参加したことがあるが、その時の食事の豪華さは覚えている。

肉という食材にばかり捕らわれるのではなく、関連のある別側面からのアプローチはかなり有効そうだ。

 

「そう言うことならメジロ家以外にも何人か詳しそうな子もいるな」

 

「せやろ? 上手くいけばいい肉紹介してもらえるかもしれへんで?」

 

「いやぁナイスアイデアだよタマ! ありがとう!」

 

「こんぐらいどうってことないで。それより、善は急げやろ? ウチはこのまま一人で商店街行くから、はよ帰って連絡したほうがええで」

 

「そうか? でもせっかくだからタマの買い物の手伝いとか……」

 

「ええねんええねん、ウチより担当のオグリのこと気にかけるべきやろ? それに礼なら焼肉パーティの時にちょっと肉食わしてくれればそれで充分や」

 

「タマ…………」

 

「ま、あんまし高すぎる肉ばっかやとウチ食えへんかもしれんから、そこのところだけ頼むで?」

 

「ああ任せろ! それじゃあほんとありがとうな!」

 

「ほなまた今度~」

 

その後タマのアイデアを参考に何人かにコンタクトを取ってみた結果、頼もしい助っ人たちに協力を取り付けることができた。

のだが、これが思わぬ形で更なる問題へと発展することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

協力者一人目、メジロのマッスル担当メジロライアン。

 

「なるほど、いいお肉ですか……」

 

「そうなんだ、俺じゃちょっと分からないことが多くてな」

 

「そういうことなら力になりますよ!」

 

「本当か! ありがとう!」

 

「ええ。いい筋肉を作るためには食べ物も重要になってきますからね! 美味しいお肉なら任せてください!」

 

俺が事情を話すと二つ返事で引き受けてくれた。

爽やかな笑顔と美しい筋肉。かなり頼りになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

二人目、ジンクスブレイカーことサトノダイヤモンド。

 

「そう言うことなら私にお任せください!」

 

「ありがとう!」

 

「ついでですから会場の手配も任せていただけませんか? せっかくのパーティですから盛大に開催したほうがいいと思いますし」

 

「あー……それは嬉しい提案だけど、会場の費用もプラスってなるとちょっと俺の金銭的には…………」

 

「いえいえ、トレーナーさんの負担が増えるようなことにはしませんので。それにお肉の費用も一部私のほうから出させていただきますから!」

 

「え、それはちょっと申し訳ないというか……その……」

 

「どうぞ遠慮せずに!」

 

サトノダイヤモンドはオグリと特別仲が良いというわけではなかったと思うのだが、想像以上にノリノリだった。というか異常に押しが強かった。

サトノ家自体が優秀なウマ娘、ひいてはレース業界そのものに対して非常に好意的なので、その流れなのだろうか。

 

 

 

 

 

三人目、ウマ娘大好き、トレセン学園理事長秋川やよい

 

「希望! 私も是非そのパーティに出資させて欲しい!」

 

「え、理事長!? どこで話聞いたんですか?」

 

「周知! 知らないのか? 既に学園内ではかなり噂として広がっているぞ?」

 

「え゛」

 

「担当ウマ娘の活躍を惜しみなく労おうとするその姿勢見事! たづなに怒られない範囲で協力させてもらう!」

 

「えええええええええええ?」

 

俺はこの辺りからなんか当初の予定と違うことに戸惑いを隠せずにいた。

いつの間にか話が広がっていること、そしてそれに伴って規模感がドンドン大きくなっていること。どちらも俺の想定外の事態だ。

 

 

 

 

 

四~人目、メジロのお嬢様たち。

 

「あれ? 皆さんお揃い?」

 

「ライアンから話を聞かせていただきましたわ。オグリさんを労うためということでしたら、是非とも私たちにも協力させてくださいませ」

 

「マックイーン……」

 

「うふふ~私たちも微力ながらお手伝いさせていただきます~」

 

「ブライト……」

 

「オグリさんを労おうということでしたら、是非私もお手伝いさせていただきたいですわ」

 

「アルダン……」

 

「わ、私も……協力するわ」

 

「ドーベル……」

 

「面白そうだし私も! いいパーティにしようね」

 

「パーマー……」

 

 

 

n人目、ご飯担当?ライスシャワー。

 

「あ、あのね! ライスもお手伝いさせて欲しいんだ!」

 

「う、うん、ありがとう。人出が増えるのは大歓迎だよ」

 

「や、やっぱりね、お肉を食べるならご飯があったほうがいいと思うんだ! ライスだけに……」

 

「…………」

 

「な、なんちゃって…………」

 

(めっちゃ可愛いな…………)

 

 

 

 

n人目、お肉大好きナリタブライアン。

 

「私にも肉を食わせてくれ」

 

「えっと…………」

 

「パーティをするのだろう?」

 

「うん……まあ、そうなんだけど……」

 

「ならば肉を食わせてくれ。その分は手伝う」

 

「お、おう、ありがとうな」

 

ただのパーティ参加希望者な気がしたが、手伝ってくれるのはありがたい。

 

 

 

 

と、そんなこんなで、他にも数えきれないほどの協力者が殺到し、いつの間にかパーティの規模がどんどん拡大してった。

俺の当初の予定では、オグリとオグリに関わりのあるウマ娘数人を誘って小規模なパーティをするつもりだったのだが、いつの間にか学園公認イベントとして認知されていた。しかも協力者が本当に『強力』なので、引くに引けない状況だ。

 

「ど、どうしようタマ……俺……俺どうすればいいかわからねぇよ…………」

 

「うわぁ…………酷い顔やな…………ゾンビ映画に出られそうやで?」

 

パーティ開催が迫る中、俺は再びタマモクロスに相談を持ち掛けた。

 

「こんなことになるなんて思ってなかったんです…………出来心だったんです…………」

 

「いや犯行後の犯人かいな! そんだけボケれるんやったらまだ余裕あるんとちゃうん?」

 

「余裕なんてあるわけないだろ?! ボケないとやってられないからボケてるだけだって!」

 

「ちょ……とりあえず落ち着きぃや」

 

「ああ……すまない…………」

 

タマに諭され、深呼吸をする。

気休め程度にしかならないが、しないよりはましだ。

 

「で? トレーナーは何をそんなに焦っとんのや? パーティが豪勢になるんはええことやないか」

 

「ただ豪勢になってるだけだったら俺だってここまで取り乱したりしないって。俺の予想を遥かに超える形で、しかも俺の知らないところでドンドン話が進んでいくのが怖いんだよ」

 

「あー……なるほどな?」

 

そう、俺だって出来ることなら最高のパーティにしたい。これだけ多くの人々が協力してくれるのは願ってもないチャンスだ。

だけど俺にだってキャパシティというものがある。所詮はただのトレーナーだ。大がかりな行事の主催なんて経験がないし、ここまで来ると何かあった時に責任を取り切れない。

俺の主催でありながら、俺の制御の効かない方向へと勝手に舵が切られて行ってしまっているのが怖いのだ。

 

「別に責任を取りたくないとかそういうわけじゃないけどさ…………なんというかこう……不安なんだよ、いろいろと」

 

「不安ねぇ…………」

 

「俺の意思とは関係なく、俺の知らないところで話が進んでいくんだ。絶対失敗できないし、なんかあっても絶対俺の手には負えない。まるでブレーキの利かない暴走機関車を運転させられてる気分だよ……」

 

「確かにそりゃ不安やなぁ…………」

 

極めつけにその暴走機関車は現在進行形でどんどん加速していっている。嫌でも事故のリスクが気になるというものだ。

 

「上手い事止められればいいんだけどさ……俺はただの一般人トレーナーなんだよぉ……」

 

「トレーナーの時点で一般人ではないと思うけどな。まあでも話聞く限り相手が悪すぎるなぁ」

 

「だろ? 会場借りて大々的になんて全く考えてないしさぁ、勘弁して欲しいよ」

 

「せやけど四の五の言うててもなんも変わらんで? ここいらでもう覚悟決めたらどうや?」

 

「そりゃあ俺だって決められるもんなら覚悟決めたいけどさぁ…………難しいよ…………」

 

普段の俺はどちらかというと楽観的な方ではある。どんなことでもなんとかなると思っていることの方が多いが、いかんせん規模が違いすぎる。

自分でもここまでビビるとは予想外なのだ。

 

「あーもーじれったいなぁ。しゃんとしいや! あんたそれでもオグリのトレーナーなんか?!」

 

「なっ……」

 

「いつまでもグチグチ言っても仕方ないやろ! 男ならここいらで覚悟決めや!」

 

「タマ…………」

 

タマの一括で少し気合が入る。

 

「何で誤魔化さなかったん? 何でウチに相談しようと思ったん? 諦めようと思えばいつでもできたはずやで?!」

 

「それは…………」

 

「それでもトレーナーが諦めんかったのは、オグリのためを想っとったからやろ? オグリに感謝を伝えたい、オグリの活躍を労いたい、そう思ってたからこそここまであきらめずにやってきた。ちゃうんか?」

 

「そう……だな、その通りだ」

 

「ならトレーナーがやるべきことはなんや?! ウジウジ弱音を吐くことか?! 弱気になって二の足踏むことか?! ちゃうやろ? 担当のため、オグリキャップというウマ娘のために全力であがいてみることのはずや!!」

 

「ッ!!!」

 

確かに諦めることはできた。素直に謝って別の妥協案をオグリに提示することもできた。普通の食事で腹いっぱいにするだけだったら、ここまで悩むことも無かったはずだ。

でも俺はこだわった。オグリの希望を叶えることにこだわった。そのために悩んでタマに相談して、様々な人に協力を依頼して、できるだけいいパーティにしようと奮闘したのだ。

今現在そのパーティは俺の予想を遥かに超えるとんでもないことになっている。しかしそれも元はと言えば俺の望んだことだ。ただその形が若干想像と異なっていただけに過ぎない。

であれば、ここで止まっていても何も変わらない。どんな結果になるにしても行動は必要だ。

『やらない後悔よりもやって後悔しよう』と、かつてうつむきがちだったウマ娘の一人にそうやって指導したこともあった。自分で実践できないなんてあってはならないだろう。

 

「そっか……そうだよな、タマの言う通りだ。覚悟決めないとな」

 

「せやろ? 大丈夫や、あんたならできる。なんたってあのオグリをここまで引っ張ってきたトレーナーなんやからな」

 

「ありがとう、そう言われると自信が湧いてくるよ」

 

現状ですら、パーティがどうなるかは分からない。この先さらに俺の予想外の方向に進むかもしれない。

それでも俺は絶対にやりきろうと、心に固く誓ったのだった。

 

そこからは予想通りというか、やはり大変だった。

通常業務であるところのウマ娘への指導と並行して、オグリにできるだけバレないように各準備を進めていく作業。

どちらも手を抜くわけにはいかないので、必然的にスケジュールは常に厳しい状態となる。

各種打ち合わせはもちろん、会場の手配や当日の参加人数を元にした食材管理と、参加者の確認。細部はそれぞれ詳しい担当者に任せるにしても、大まかなチェックは俺も行わなくてはならない。

途中、やっぱり全てプロに任せてしまおうかとも思った。自分がやるよりも上手くいくだろうし、失敗もないだろうと。

だが、それでも俺はやめなかった。何よりも自分の手で準備をすることに最後までこだわった。

それがオグリへの、オグリキャップという偉大なウマ娘に対する敬意であり、俺からの感謝であると信じていたからだ。

 

そして、ついにパーティの開催日となった。

 

やはりと言うべきか、パーティは俺の予想をはるかに超える規模になり、メジロやサトノといったトレセン学園所属のお嬢様方の力を借りるだけでは飽き足らず、誰の発案かファン向けのクラウドファンディングも開催され、ネットニュースでも取り上げられるほどの一大イベントとなった。(ちなみにたった数日にも関わらずクラウドファンディングの総額はとんでもないことになり、金額を聞いたタマが気絶した)

知名度が上がるに伴って追い打ちをかけるように、ウマ娘好きの富豪からの支援、有名企業の協賛、全国各地のウマ娘関連施設からの協力など、多方面からの支援も増えていった。

最終的にはもうこれ以上ないだろうというほどの超豪華パーティと化し、非常に多くの人が参加することに。

内容も当初は普通の焼肉のつもりだったが、最終的には凄腕シェフを多数招いての豪華肉料理を楽しむものへと変化していった。

来場者は数千を超え、規模だけ見れば完全に俺一人ではどうしようもなかったが、心強い協力者、もとい強力者たちのおかげでパーティは問題なく開催まで進んだ。

ちなみにオグリ本人は噂話に無頓着すぎてパーティのことを全く知られていなかったので、実質サプライズとなった。大規模パーティで好きなだけ肉を食べていいと告げると、とても嬉しそうな表情を見せてくれた。

 

「後は開催の挨拶を俺がするだけ…………つってもなぁ…………」

 

会場の控室にて、俺は小さくため息をついた。

どれだけ手伝ってくれる人たちがいようと、主催は俺だ。流石にここは避けて通れない。

 

「これだけの人の前で……ウマ娘じゃなくて俺が注目されることになろうとはなぁ……いやまあ今回も別に俺よりオグリの方を気にしている人が多いだろうけど……」

 

「ん? 私がどうしたって?」

 

隣にいるオグリが反応した。

 

「いや、なんでもないよ。ちょっと緊張してるってだけだ」

 

「そうなのか、トレーナーにしては珍しいな」

 

オグリは普段とは違い上等なドレスを着ている。パーティにふさわしい恰好をということで用意してもらったのだが、とてもよく似合っていて綺麗だ。

本人曰くドレスは動きにくいのであまり好きではないとのことだったが、今回のドレスは機能性も良いのか気に入ったらしく、珍しく喜んでいた。

俺もちゃんとしたスーツを着込んで準備は万端。ちょうどスタイリストさんのチェックも完了し、いよいよパーティ開始だ。

 

「オグリはどうだ? 緊張とかしてないか?」

 

「私か? 私は大丈夫だ」

 

「そうか、なら良かった」

 

「トレーナーはどうして緊張しているんだ? 今日はレースではなくパーティだろう? 緊張する必要はないと思うが」

 

「いやまあそうだけどさ、なんていうかこう……人が多いからさ、その分緊張してるんだ」

 

「けどレースの観客の方が数は多くないか?」

 

「うんまあそれはそうなんだけどね? そうなんだけど…………」

 

流石にオグリは多くのレースで勝ってきただけあって人の数など恐るるに足らずといった感じだ。そもそも緊張なんかするような性格ではないだろうが、残念ながら俺はそうではない。人並みに緊張はする。

 

「人数は確かにな? いつもの方が多いんだけど…………その、雰囲気がな。いつもと全然違うからかな」

 

「なるほど、そういうものなのか」

 

「ま、緊張してるって言っても俺は何とかなるからさ。オグリは今日のパーティを思う存分楽しんでくれればいいよ」

 

「ああ、わかった」

 

オグリは笑顔でそう返してくれた。

今日一日オグリはずっと嬉しそうだ。会場に着くまでも終始笑顔が絶えなかったほどだ。もしかしたら重賞レース本番よりも楽しみにしていたのかもしれない。

ならば、俺がヘマをしてその楽しみに水を差すわけにはいかないだろう。ビシッと決めるしかない。

 

「まもなく配膳が終わりますので、準備の方お願い致します」

 

「はーい」

 

スタッフの人が呼びに来た。いよいよパーティの開始時刻だ。

 

「じゃ、行こうかオグリ」

 

「ああ」

 

そうして、俺たちはパーティ会場へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんお待たせいたしました! 今パーティ主催であり、不肖ながらオグリキャップの担当としてトレセン学園でトレーナーをしている○○と申します! 本日はお集り頂きありがとうございます!」

 

俺の声が会場中に響き渡る。改めて会場を見渡したが、凄い数だ。

心臓は走った直後のように早く鼓動し、マイクを持つ手はわずかに震え、口の中は乾ききっている。だが、ここまで噛まずにしゃべりきってしまえばこっちのものだ。

 

「知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、元々このパーティは私が個人的にオグリキャップを労おうと思い立ったものでした。それが協力者を探すうちに誰のいたずらかドンドン話が大きくなり、いつのまにかこのような大規模なパーティとなっていました。そしてその過程で皆さまからも協力の申し出を多くいただき、ご助力いただくこととなった次第でございます。」

 

「私の予想を遥かに上回る多くの方々からのご支援、本当にありがとうございます。まずはこの場にてご協力いただきました皆様へ、お礼申し上げたいと思います」

 

俺はそう言ってから深々と頭を下げる。

数秒の後頭を上げ、言葉を続ける。

 

「このパーティの概要はいたってシンプルです。主賓の彼女に、オグリキャップに思う存分食事を楽しんでもらう。そしてその楽しみを会場の皆で共有し、各々が幸せな気持ちになることができれば、大成功でしょう! 残念ながらもろもろの事情で酒類は提供できませんが、皆さんどうぞ楽しんでいってください!」

 

そう言い終えると、俺は再び深く頭を下げた。すると会場中から大きな拍手が巻き起こる。

緊張はしたがこの様子なら上々だろう。

 

「それではまず最初に! このパーティの主賓となるオグリキャップに一言コメントを頂きたいと思います!」

 

その言葉が言い終わると同時ぐらいに、ドレスに身を包んだオグリがゆったりと隣まで歩いてくる。

俺はマイクを渡した。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう」

 

「私は、みんなで食事をするのが好きだ。だから今日、こんなにたくさんのみんなが来てくれたことが嬉しい」

 

「そして今日は、好きなだけ食べてもいいと言われている。だからみんなも、遠慮せずに一杯食べて帰ってくれ」

 

オグリがそう言いきると、再び会場が拍手に包まれる。

俺にマイクを渡したオグリは、主賓用に準備されている席へと座った。

 

「皆さん既に料理を食べたくて堪らないと思いますが、もう少しだけ我慢をお願いします。最初の一口目は主賓のオグリキャップに。そしてその一口目を持って、このパーティの開始とします!」

 

俺の言葉にタイミングを合わせて料理が運ばれてくる。それはどう見ても美味しそうなぶ厚い肉たちが乗った皿だった。

 

「いただきます」

 

オグリが食材への感謝の言葉を口にする。そしてナイフとフォークで慎重に肉を切り分けると、ゆっくりと口へ運ぶ。

 

(どうだ…………?)

 

多くの人々がその様子を見守る中、オグリは隅々まで肉の旨味を堪能せんと咀嚼する。

その顔は、過去見たどんなオグリよりも喜びに満ちていたかもしれない。

 

「美味いか?」

 

思わずそう尋ねる。するとオグリは満面の笑みでこう答えた。

 

「凄く……凄く美味しいぞトレーナー!」

 

「そうか…………良かったよ!」

 

「トレーナーも早く食べてみてくれ! そうだ! トレーナーだけじゃなく、みんなも是非食べてくれ!」

 

ワアアアアアアアアアアアア!!!

 

そこから他のみんなも一斉に肉を食べ始める。

すると会場の各所から感動の声が上がる。

それを見た俺も流れに乗らんと目の前の肉に向き合う。

 

「改めてみると……やっぱりすっごいなこれ……」

 

先程までは開会のあいさつのことで頭がいっぱいだったため、凄いとは思っていたもののあくまで意識はしゃべることに向いていた。

しかしこうして落ち着いた状態で見てみると、その迫力に圧倒されてしまう。

まず食べる前に匂いを嗅いだ時点で、感じる旨味が暴力的だ。本能を刺激するほどの重厚な肉の香りと、スパイスや調味料の刺激豊かな香ばしさ。それでいて鼻にこびりつくようなしつこさはなく、むしろ爽やかさすらある。

ただただ純粋に食欲をそそるための匂い。これも全て料理として計算し尽くされたものと考えると、恐ろしいぐらいだ。あまりの心地よさに前衛的なアロマ商品だと言われても納得してしまうかもしれない。

次にその見た目。一流の料理ともなれば雰囲気まで重視するのだが、その点この肉は完璧だ。

肉の茶系の色はそのままだと綺麗とは言い難いが、肉汁の輝きと赤みがかったソースがそれを芸術品の如き美しさに変えている。更には肉と皿のサイズバランス、付け合わせの野菜をも含めた完璧な配置により、美しさすら感じる。美術館に芸術作品として展示されていても、何ら違和感のないビジュアルだ。

 

「さーて、味の方は…………」

 

もはやいつまでも眺めていられそうだが、あくまでも肉であり食べ物だ。やはり食べてこそだろう。

食べやすい大きさに切り分けてゆっくりと口へ運ぶ。

そして、一口。

 

(んッ?! んんんんん?!?!)

 

あまりの美味さに脳内の語彙が消失した。ただただ最高というほかない美味さだ。

口に入れた瞬間、噛むまでもなく柔らかい部分は蕩け始め、肉汁と共に口の中を旨味で満たしてしまう。この時点で既に食事であることを忘れそうなほどの衝撃に襲われる。

そこから慌てて肉を噛むと、今度は固すぎず柔らかすぎない絶妙な触感の肉を噛む喜びが訪れ、噛むたびに溢れる肉汁と旨味の追撃がやってくる。

そして最後にそれら全てが飲み込まれて過ぎ去ると、甘いながらも全くしつこくのない油の余韻が舌の上に残り、胃に送られてもなお衰えることのない存在感が尋常ではない満足感を生む。そして本能が次はまだかと催促を始める。油もある肉なのだから本来であれば少しぐらいしつこさがあってしかるべきだが、絶妙な焼き加減のおかげかそのしつこさも皆無だ。

まさに食という幸せの極致。これが肉を食べ続ける限り永遠に続くのだから、食べないなんて選択肢はない。

 

「う、嘘だろ……なんてクオリティだよ……」

 

勿論今回のパーティの料理を担当してくれているのは一流のシェフたちだ。それぐらいは充分すぎるぐらいにわかっている。

が、にしたってここまでとは思うまい。しかも今回はただ質を高めればいいというわけではない、量も考えなければならない大規模パーティなのだ。

プロが本気を出せば一皿二皿本気のクオリティで料理を作ることは訳ないかもしれない。しかしそのクオリティを保ったままこれだけ多くの人に料理を提供するというのは、生半可なことではないはずだ。

 

「まいったなぁ……こんなの食べたらしばらく普通の肉じゃ満足できないくなっちまうよ。なあオグリ?」

 

一皿目を充分すぎるほどに堪能した俺がそう言ってオグリに顔を向けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

「そうだな……私もここまで美味しいとは思わなかったよ」

 

「お、オグリ?」

 

「ん? どうしたんだトレーナー? 私の顔に何か変なものでもついているか?」

 

「い、いや、そうじゃないんだけど…………」

 

俺が驚いたのは、オグリの食べるスピードがあまりにもゆっくりだったからだ。

普段のオグリならば、俺が一皿食べるうちに何十倍もの量を平らげてしまう。しかし今日のオグリはまだ三皿。俺の三倍と考えると決して遅くはないはずなのだが、普段とは明らかに様子が違う。

 

「オグリらしくないな? いつもだったらもっと食べるペース早いだろ?」

 

「ああ……そう……だな、確かにいつもはもっと早いな」

 

「あんまり口に合わなかったか?」

 

「いや、全然そんなことはないぞ! さっきも言ったが、こんなに美味しいとは思ってなかったぐらいだ」

 

「なら、どうして…………」

 

俺がそう尋ねると、オグリは少し考えてからこう言った。

 

「いつもより、嬉しかったから……だと思う」

 

「嬉しかったから?」

 

思わず聞き返す。

するとまたオグリは少し考えてから口を開いた。

その表情は先程一口目を食べた時と同じような、幸せそうな表情だった。

 

「きっとみんなと一緒だからだと思う」

 

「みんなと一緒だから?」

 

「ああ。そうだ」

 

他の人と一緒に食事をすると楽しい、というのは俺もわかる。

だが、それだけで大きく変わるものだろうか。というか、楽しいのならばむしろ食が進むような気もする。

するとオグリは説明してくれた。

 

「いつもはカフェテリアでご飯を食べているだろう? けど、全員が一緒というわけではない。トレセン学園のみんなが集まるから人数は多いが、食べるタイミングはみんなバラバラなんだ」

 

「まあ、そうだろうな。流石に一緒に揃って食べるってのはな」

 

「だろう? だけど今日はみんな一緒だ。これだけたくさんのみんなと、同じものを一緒に食べることができる。それが嬉しくてたまらないんだ、私は」

 

「オグリ……」

 

オグリキャップというウマ娘は、一見すると大人しく、あまり積極的にしゃべる方ではない。人によってはクールに見えることもあるかもしれない。

だがそんな彼女は誰よりもファンのみんなが大好きなのだ。だからこそ、今回の交流を誰よりも楽しんでいる。

それも自分の好きな、食事という最高の形で。

 

「私は一人でご飯を食べるのも好きだ。ひたすらご飯に集中して、じっくり味わうことができる。けど、それ以上に、みんなと一緒に食べるご飯が大好きだ」

 

「…………そうだよな。よーくわかってるぜ俺も」

 

「だから凄く嬉しい。いつまでもこうしていたいくらいだ」

 

その笑顔を見て、俺は達成感に包まれた。

色々あったが、このパーティを開けて良かったと。恥を忍んでタマに相談を持ち掛けたのも、責任感に押しつぶされそうになりながらも準備を頑張ったのも、全部この笑顔のためだったのだろう。

変に誤魔化そうとせず、全力を尽くしてよかったと、心からそう思える。

 

「けど、流石にこんなゆっくり食べていたらもったいないな」

 

「もったいない……か。オグリらしいな」

 

「トレーナー、今日はいくらでも食べていいんだろう?」

 

「ああ。オグリが満足するまで、腹いっぱいになってこれ以上食べられないってなるまで、好きなだけ食べていい」

 

「なら、せっかく用意してもらった料理をしっかりと完食しなければいけないな」

 

「いや……まあでも、そんな張り切らなくても大丈夫だぞ。この人数とオグリの食欲を考えても十分余裕があるぐらいの量を用意してもらってるからな」

 

「しかし……余ってしまったらもったいないだろう?」

 

「いや、そこは余っても無駄なく他のことに使ってもらえる……とは思うぞ? その辺りもプロの人たちが集まってるからな今日は」

 

「それでも食べ切ってしまって問題ないのだろう?」

 

「まあ、食べれるならな?」

 

「食べる」

 

オグリは凛々しい表情でそう言い切った。さっきまでの穏やかな笑顔はいつの間にかどこかに行ってしまったようだ。

その眼はレースの時と変わらない、真剣そのものだ。切り替えの早さが凄まじい。

 

「トレーナー、本当に食べても大丈夫か? コンディションの面は……」

 

「え……あ、うん。えーっと……スケジュール的には大きなレース控えてるわけでもないから、コンディションとかは気にしないで好きなだけ食べてくれていいけど、無理だけはするなよ?」

 

「ああ、勿論だ」

 

そう言うとオグリは普段と同じように、いや、普段よりも早いペースで肉を食べ始めた。

とんでもない速度で肉が消えていき、次から次へとおかわりが補充されていく。目の前で食べているところをしっかりと見ているはずなのに、何故こんな異次元の早さで肉が消えていくのか理解できない。

これこそいつものオグリだ。もはや安心感すらある。

しっかりと野菜なんかも食べているので、今日はこれ以上何も言うことはあるまい。

 

(俺も自分の分を楽しむとするかな。今日ぐらいは胃に詰め込んでみるか!)

 

その後、俺たちは淡々と料理を食べ続けた。

様々なバリエーションで調理された肉料理の数々はどれも魅力的で、食べても食べても無限に食欲が湧いてくるようだった。

誰もが名前を知っているような有名料理から、見たこともないような一品、アニメに出てきそうな漫画肉まで網羅されていたメニューの数々は、それはそれは美味しかった。

この至福のひと時がいつまでも続けばいいと思いながら料理を楽しんでいたが、残念ながらオグリはともかく俺には限界がある。というかオグリでさえ凄いペースで食べていたため流石に満腹が訪れたようだった。

最終的にはオグリの希望通り料理はほぼ完食。残った僅かな料理も皆で協力して食べ、用意されていた全ての食材は参加者の胃袋に収められた。

最後には再び俺の挨拶と、オグリの締めの言葉によって、パーティは締めくくられた。

これといって大きな問題も発生せず、主賓のオグリも参加者も皆大満足の内容。大成功だったと言えるだろう。

 

「はぁ~食った食った。こんなに胃が詰まってるの久しぶりだよ」

 

「ああ、私もお腹いっぱいだ」

 

パーティ終了後、俺とオグリは帰る前に控室で食休みをしていた。

オグリは大丈夫なのかもしれないが、俺は腹部に相当な圧迫感がある。胃の中の料理が多少消化されるまでは、無理に動かないほうが良さそうだ。

 

「トレーナー、今日は本当にありがとう」

 

ふと、オグリが俺に向かってそう言った。

 

「美味しい料理だけじゃなく、みんなと一緒に楽しめたことが、私は本当に嬉しかった。だから、改めてありがとう、トレーナー」

 

「こちらこそ、喜んでもらえてよかったよ」

 

無難にそう返す。面と向かって言われるとどこか恥ずかしい感じがするが、たまにはいいだろう。

俺がそんなことを考えていると、オグリは何か言いたいことがあったらしく言葉を続ける。

 

「ひとつお願いがあるんだが……」

 

「ん、なんだ?」

 

「ウマスタに上げる写真を撮りたいんだが、トレーナーも映ってくれないか?」

 

「ん?」

 

俺は少し理解に時間を要した。胃が消化で忙しいせいで血が頭に回っていなかったせいもあるかもしれないが、それ以上にこのタイミングで写真を意味がよくわからなかった。

いや、正確にはわからないわけではなかったのだが、少し驚いてしまった。

 

「ウマスタ?」

 

「ああ」

 

「写真だよな?」

 

「ああ。トレーナーとのツーショットを上げたいんだが、ダメだろうか?」

 

「いや、それ自体は全然いいんだけど」

 

「?」

 

どうやらオグリはウマスタのこと、というかSNSをあまりうまく利用できていないようだ。

 

「あー、オグリ。今回みたいな場合は、終わった後のお疲れさまでしたっていう投稿よりも、料理そのものを写した方が良かったかもしれないぞ?」

 

「ん? そういうものなのか?」

 

「うん、恐らく世間一般的にはそういうものだ」

 

「そうなのか……それは困ったな。料理はもう全部食べてしまった」

 

普通であれば『今から皆でパーティです』的な文章と共にメインであるところの肉料理を撮って上げるだろう。しかしオグリにはそういった発想はなかったようだ。

 

(ま、オグリらしいか)

 

自然と口角が上がるのを感じた。きっとオグリのことだから、料理を美味しく食べるということ以外は考えていなかったのだろう。下手にウケを狙ってる投稿よりもよっぽどいいかもしれない。

 

「トレーナー、どうすればいいだろうか。もしかして私は、とてももったいない事をしてしまったのだろうか?」

 

「うーん、まあちょっともったいないかもしれないけど、問題ないだろ。パーティが無事に成功して良かったってのと、来てくれた人ありがとうございました、みたいな投稿だったら全然ありだと思うよ」

 

「本当か? なら少し映ってくれないか?」

 

「勿論」

 

オグリがインカメで角度を調整し、俺も画角に入るように体制を調節する。

あくまでメインはオグリなので俺は無難にピースでもしておこう。

 

「それじゃあ撮るぞ?」

 

「ああ、オグリも笑ってな」

 

パシャリ

 

その数分後、ウマスタに投稿されたその一枚は幸せそうに映るオグリキャップと、控えめにピースをしているトレーナーのツーショットだった。

パーティを訪れた人々の内、ウマスタをやっている者は大多数が反応し、とある有名なウマスタ女王なども拡散しかなりの盛り上がりを見せた。

かくして、オグリキャップのために開催されたパーティは終わりを迎えることとなった。

この日はオグリキャップというウマ娘にとって、とても大切な思い出の一ページとなったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

ライアンのとの小話

 

「そう言えば、オグリさんって毎日あんなに食べててトレーニングの方は大丈夫なんですか?」

 

「ん? オグリ? 全然大丈夫だぞ。体調とかで問題が起きたことは一回もない」

 

「凄いですね。あれだけ食べてたら身体が重くなっちゃいそうですけど」

 

「まあそれは俺も疑問に思っていろいろ調べようと思ったこともあるんだけどさ、全く分からなかったんだよね」

 

「全くですか?」

 

「うん、全く。見てても他の子と変わらないし、病院の検診も異常ないしさ。考えられる可能性としては代謝がとんでもないとか、運動してる時のパワーに全部変換されてるって線だけど……」

 

「それだとたくさん食べる子=パワーが強くて速く走れるってなっちゃいますもんね」

 

「そうそう、全然そんなことないんだよねこれが。いろんな子見てきたけど小食でもパワーあって速い子もいるし、マジで謎だよ」

 

「オグリさんが特別ということなんでしょうか……」

 

「うーん、かもしれないよなぁ。ライアンはどう? 結構食べる方?」

 

「ええ、勿論。しっかりバランスの取れた食事をしないと、いくら鍛えても筋肉は付きませんからね」

 

「そうらしいよな。俺もトレーナーになってから一時期ちょっとだけ筋トレに挑戦してみようかなぁなんておもってたんだけどさ、残念ながら小食でね。一回でたくさん食べたりはできなくないんだけど、一日ごとのカロリー摂取が追い付かないんだよね」

 

「そうなんですか……まあ確かに、食べる量に関しては才能みたいなところもありますからね。トレーニングメニューを調節して少しずつっていうのは出来なくなさそうですが」

 

「けどこれでも学生時代はスポーツ結構やってたんだよ。でも一向に食う量増えなくてさ。成長期にめっちゃ動いてて食う量増えなかったら、大人になった今筋トレ始めても難しそうじゃん?」

 

「うーん、なるほど」

 

「それもあってさ、オグリ見てると、なんだか余計凄いなって思うんだよ。とんでもない量食うだろあいつ?」

 

「凄いですよねぇ。私もあれぐらい食べられたらなって思いますよ」

 

「絶対関係ないんだけど、俺の分まで楽しんで食ってくれてるみたいでさ。すげぇ嬉しいんだよね。まあ、だからこそ、食ったもんがどうなってるのか気になるんだけど」

 

「本人は何かおっしゃってないんですか? 食べたものに関してというか、食後の体調について」

 

「あー、それも聞いてみたことあるんだけどさ、いたって普通だったんだよね」

 

「普通……ですか」

 

「そうそう、『そんだけ食べてちょっとお腹が出るだけだし、残りは一体どこに消えてるんだろうな』って言っちゃったことがあるんだけど」

 

「オグリさんは、なんと?」

 

「『い、いくらトレーナーでも、女の子にそんな体型の話は良くないと思うぞ』ってな」

 

「あっ…………な、なるほど…………」

 

「うん、流石に俺のデリカシーが無かったから、その後謝ったんだ。で、食事に関しては『全部ちゃんとお腹に収まってる感覚がある』ってさ」

 

「オグリさんって結構しっかり女の子なところありますよね。結構ストイックな印象の方が強いんですけど」

 

「まあな。ちゃんと女の子だよ。身だしなみにも結構気を使ってるみたいだし、ああ見えて可愛いデザインのものが好きだったりするし」

 

「へぇ~、そうなんですか」

 

「ライアンも実はそういうところあるよな?」

 

「ふえっ?!」

 

「いや、前に図書室の隅で恋愛小説か、漫画?みたいなの読んでただろ? たまたま見かけちゃったことがあるんだよね」

 

「そ、それはっ…………」

 

「なーに心配すんな、誰にも言ったりしてないよ。もしよかったらオグリにおすすめの作品でも紹介しといてくれ。俺はそういうのわかんないからさ」

 

「は、はぁ……そういうことなら、考えてみます」

 

「おっと、そういや次の打ち合わせあるからそろそろ行かないと。そんじゃ、協力ありがとね。今度なんかお礼するよ」

 

「ああはい! こちらこそ!」

 

そうしてトレーナーが去った後。

 

「あああっっ! まさかオグリさんのトレーナーさんに知られてたなんて!!!!」

 

一人赤面し、行き場のない恥ずかしさで悶えるライアンだった。


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