ポケットモンスター 緋めし記憶と花色の夢路   作:kozmo78

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第2話 嚙みしめた記憶

 部屋の外からか、はたまた内に秘める靄の奥からか…誰かに呼びかけられた………気がした。

 

 

 

「………………まぁ、そうだよな…。」

 

 顔を濡らしたままに振り向いてみるがルルサさんが来ている訳もなく、見知らぬ人だとしても勿論居る訳がない。

 ……そもそも聞こえてきた声は女性の声の筈だ。一度しか聞こえていないため確証は無いが、ほぼ無いような記憶と耳に残っているこの“声”は一致しな………

 

 

 しない、と納得しようとしたが………自分の頭はそれを拒んだ。

 

 どこか懐かしさを感じさせるこの声を「勘違いだ」と判断することは到底出来ない。

 

 

 ………まず分析しよう。

 

 幻聴の中で気になったのが『ヒギリ』と言う言葉だ。

 これが何を指すかを考えようとしたが………………

 この言葉を噛み砕こうとする度に、自分の名前であるかのように思わされる。何故この洗面台の前でこの現象が起きたかは分からないが、不思議と違和感はなく既視感すら感じている。

 

 それに声の主は誰だろう。昔とは違い名前も知らない相手かもしれないがその声には緊張感はなく、優しさが帯びていたように感じる。例えば自分の家族の誰か、母親か姉妹のどちらか………こう考えるなら母親であるように感じる。既視感のあるこの行動は昔にあったであろう事象がフラッシュバックしたのかもしれないが、記憶回復の切っ掛けに成りえてはいない………

 考察が頭の内に巡っていくが、結局のところ核心に至るモノは出てこない。得られたのは自分の名前が『ヒギリ』かもしれないということと、声だけだが母親の幻想を視れたかもしれないということだけだ。

 

 ……って言うか顔を洗いに来ただけなのに、ルルサさんに何も言っていないのに時間をかけすぎている。さっさと切り上げて彼の元へ向かおう。

 

 

 

 

 

  ~ ~ ~ ~ ~

 

「おお来たか!ここ座ってくれ! なんか少しでも思い出せたか?」

「はい………、多分……名前だけは思い出せたかもしれません。」

「ホントか!?」

「『ヒギリ』……だと思います。………確信はないですが。」

「ヒギリか!良かった良かった!このまま名前を思い出せなかったらこっちで決めちまうところだったわ、ショーネンとかボウズとか!」

「……思い出せて良かったです。」

「そうだな!!」

 

 先ほどの出来事で得たことをルルサさんに伝えてみたがすんなりと受け入れてくれた。………贅沢を言うのは失礼なので細かく言わなかったが、例えで挙げられた名前にならずに済んで良かったと思えた。

 

「名前を思い出す中で母親のことも思い出せそうだったのですが……無理でした。」

「まあそう簡単にはいかねぇわな………、そうだ!腹減ったか?丁度普段の朝食の時間でな。」

「………頂いて良いんですか?」

「当たり前だろ!一緒に食おうぜ、ちょっと待ってろ今用意する。」

「ありがとうございます………。」

 

 そう言ってルルサさんは椅子から立ち台所へ向かう。

 ………見ず知らずの自分を看病してくれたり料理を恵んでくれたり、本当に優しい人だ。頭が上がらない。正直記憶のない自分では恩返しが出来る自信がない。

 

 料理を待つ間に部屋の中を見渡してみる。一人で住むには少し大きいと感じさせるぐらいの広さであるが、寝椅子や目の前にあるテーブルの上が生活用品などで少し散らかっている。畳まれずに背もたれに掛かったままの服が目に付く。

 しかしそれ以上に目に付くのが釣り竿や先の尖った金属製の道具などの作業道具らしきモノたちだ。それらが壁に掛けられていたり、無造作に置かれていたりと、さっきはルルサさんが言っていたリョウシが猟師のことを指していることを物語っていた。

 

「あ!散らかったまんまでゴメンな、すっかり忘れてたわ!」

「いや、全然気にしてないので大丈夫です。」

「そういうの気を付けねぇとな………よし出来たぞ!俺特製サンドウィッチだ!」

 

 テーブルの上に置かれたのはハムやレタス、トマトなどが挟まれているサンドウィッチだった。具材の挟み方に少し粗さがありながらも、青い旗が刺さることで綺麗に収まっている。

 

「遠慮なく食べていいからな!もっと食べたかったら言ってくれ!」

「…分かりました。」

 

 警戒している訳ではないが、少しだけ…手が進まない、…良い意味で。

 こんなに恵んでもらっていいのか、と考える気持ちも存在しているが、人の厚意を無下にしてはいけない。

 手に取り、口に運ぶ。………久し振りの食事だからだろうか、より口の中で生まれる味を鮮明に感じる。パンの食感や、ハムの塩味と旨味や、レタスのみずみずしさや、トマトの酸味や………

そして…“あの”時と同じだ。 どこか懐かしさも感じる。話を聞いてる限りは生涯で初めて食べた筈なのに………

 

 

 嚙みしめる度に、泣きそうになる。

 

 

「良い食べっぷりだな!食欲があって良かっ………、そんな気しかしなかったが何かこうなったのも訳がありそうだな…………

 …何が何だか分からないまだ若いのになぁ……辛い時は気持ちを押し殺す必要はないぞ。」

 

「………心遣いありがとうございます。」

 

 知り合ってから少ししか経っていないのに配慮までさせてしまった。

 

 しかし度々泣きそうになったが心の中の自分が問い詰めてくることで、段々と冷静になってくる、

「何も無いお前が感傷的になるな、泣こうが何も解決しない」と。

 そもそも問題が山積みになっている現状をどうにかしないといけない。

 ……解決案を考えても不安と焦りばかりが湧いてくる。

 

「……これからどうしましょう。」

「そうだなぁ、別にここに思い出すまでここで暮らしても構わねぇぞ?幸い部屋は空いてるし。」

 

「え………良いんですか?」

「ああ、問題ねぇよ!一応アカデミーとかに連絡を取ってみるが何も変わんなかったらここで良いか?」

 

 なんと優しい人なのだろうか。

 

 ………もう自分のことばかり考えてはいけない。

 

「………何でもします。」

「え?」

「家事でも仕事でもそれ以外でも………それぐらいしないと釣り合いません。」

「いやいや!?そんなに気負わなくていいから!………まぁ確かに助かるが。」

「お願いします!」

「ん~~………分かった。……別に命懸けるみたいな感じじゃなくて良いからな!」

「精一杯頑張ります!」

「まぁ………いっか。よろしくなヒギリ!」

 

 ルルサさんの厚意により目覚めて初の仮住まいを手に入れることが出来た。

 

 これからの目標は彼への恩返しと、記憶の復活だ。

 

「じゃあまずは仲間への挨拶だな!先に約束の俺のポケモンだ、出てこいミガルーサ!」

「ガルルラァ!」

 

 手に持ったボールのようなモノから出てきたのは、ピンク色の背ビレと牙が目立つ魚みたいなケモノが出てきた。この子がポケモンに分類されるモノだということか。

 ミガルーサと呼ばれたポケモンがこちらの様子をうかがっているので敵意がないことを挨拶で示す。

 

「よろしく……「ガルルッ!」!?………。」

「あっ!!」

 

 寄ってきたと思ったら足に噛みつかれた。痛みはそこまでではないが少し虚を突かれた。

 

「…へー、ミガルーサって言うんですね。」

「いや噛まれたまんまだぞ!?ってごめんな!おい離せミガルーサ!」

 

 

 ………ポケモンとの初めての邂逅は足に歯型が残る結果となった。

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