ポケットモンスター 緋めし記憶と花色の夢路 作:kozmo78
あれは私が7歳の頃だった。
お母さんとお父さんの結婚記念日と私の「旅行行きたい!」という幼気な要望により、サザナミタウンを訪れることとなった。
私にとってはもっと幼い頃から色んな所には行ってたから別に特別なモノって訳ではなかったが、子供心には満足いっていなかったんだと思う。
いざ着いてみるとお父さんの故郷の海、もしかしたらそれ以上の美しさを放っている景色を見たことで当時の経験以上に幼い私は興奮していたと思う。
……別にこれはおじいちゃんの街の海を貶してるわけではない。あの海は漁業や貿易業が中心にあるからこそ遊泳目的のビーチと比べる方がおかしく、そもそも思い出の一つだからこそ補正がかかってるのだと思う。
「久し振りの海だな!」
「あれ?先月お義父さんの所にも行かなかったかしら。」
「あそこじゃあ本格的に泳いだりしなかったしー、あとやっぱ海好きだしな。」
「そういうものなのね「ねーオカーサンオトーサン!」ん、どうしたの?」
「色んなポケモンとも遊べるのかなー?!」
「そうよ、おじいちゃんのとことは違うポケモンもいると思うわよ!」
「でもあんまり遠くに行ったりしないでな!」
「うん分かった!」
当時の私はポケモンとの関わりはほぼ無かった。
親二人とものポケモンも家や庭で遊んだり見たりすることはたまにあったが、幼い私にはまだ危険だとそこまで身の周りに連れてくることはなかった。
そのため反動的に目新しいモノ、特にポケモンに関するモノへの関心が尽きなかった。
その結果、私は思い存分に遊び尽くし父母共々私に付き合ってクタクタになっていたが、今の私も子供の部類に入るが当時の幼き子供であった私はそれだけでは満足しなかった。
「イヤー疲れたな…。」「こんなに体を動かすとはね…。」
「ねぇねぇもうちょっと遊んできて良い?」
「うーん…どうしようかしら………」
「こんなとこ中々来ないしな…まぁ良いんじゃないか?でも絶対遠くに行っちゃ駄目だかんな!」
「やった!」
「そうだコイツ連れてってくれ!もし何かあったら出してやって………いやまず危険なことがあったらすぐに逃げてくれ!絶対に!」
そう言って渡されたのはモンスターボールだった。その時まで使ったことは無かったけど二人の姿やテレビで見た記憶はあったし、使ってみたい欲求は元からあった。
うずうずする気持ちを抑えきれず、簡単な返事をしてそのまま再び浜辺の方に急ぎ足で向かった。
段々と太陽が海の向こうに落ちていく景色の中で、無邪気に水遊びをしていた。
元々ポケモンには興味があった。この時の私と同じくらいの年齢で一緒に暮らしている子もいるが、世界の通例として存在する「ポケモンは10歳から」が私の家族にもあり、別にそれに対してむきになって嫌がることもなかった。
それでもここに来て見たことのないモノやポケモンを知ったことで興奮するとともに、思った以上に浮かれていたかもしれない。
そんな時であった。
ブクブクブクブク.。o○.。o○.。o○
「ん?なんだろう………………」
一旦戻ろうかなとも考えていた時に海の左手から何かが泳いでるような音が聞こえた。
興味本位で近付こうとしたら、海水越しに紫色で細長いモノが泳いでるような姿が見えた。
潜ってみて追いかけれるかなと思ったけど子供の力じゃ無理そうだった………が塩水で沁みらせながら目で追ってみるとその影は徐々に海岸側に向かっている。
「(ポケモンかな………追っかけてみよう!)
正直この時点で私はもうこの正体を知ることしか頭にはなく、親との約束なんて頭の中から抜け落ちていた。
「あ!あれかな?」
度々海に潜って確認しながら夢中になって追いかけていたら、海岸の奥の方にさっき見た色と同じ姿のモノが砂浜の上で寝そべっていた。
体の色は紫色であり細長く見えたのはそのポケモンがヘビや竜の姿に近かったからであった。
当たり前に初めて見るポケモンだったけど、初めてでもわかるくらいには状況がおかしかった。自分の力で浜に出てきたのではなく波によって打ち上げられたかのように、力なく倒れているのである。
「どうしたんだろう……だ、だいじょうぶ?」
「リュ~………」
体を見てみると所々に噛まれたり引っ掻かれたりされたような傷があった。朧げな眼差しで近付いてきた私を見つめようとしているが僅かながら体をよじらせながら痛みに悶えている。
手を差し伸べようとしたが応急処置すらしたことが無い私じゃ何も助ける方法を思いつかない………けど何もせずにはいられなかった。
体に抱き寄せようとしたら少しだけ暴れたが、私に敵意が無いことに気付いたのか動く気力も出せなくなったのか落ち着いて身を預けてくれた。
「痛そうだけどガマンしてね……おかーさんおとーさんのところに診てもらうから!」
自分の力で無理でも親二人なら何とかなるかもと思い、抱えるにはつらい重さを感じながら二人の元へ戻ろうとした。
戻る時になって気づいたらだいぶ遠い場所まで来てしまっていて、日も沈もうとしているほどに辺りがオレンジ色に染まっていた。
夕暮れの中腕の内で元気がどんどん無くなっていくのを感じながら小走りに向かっていると、
ゴボゴボゴボゴボ○o。.○o。.○o。. ザバッ!
「きゃっ……………ひっ!?」
「グウォォルル!!」
海中から危険が近づくような音がしたと思うと突然得体のしれないものが大きな音を立てて飛び出してきた。無知な私でも分かる恐怖の塊は、青い体皮と鋭く伸びた牙が目立った自分よりも二回りも大きいポケモンだった。
見た途端恐怖で足が動かなくなったが腕の中のこの子も怯えるかのように震えていた。もしかしたら怪我の原因は目の前のポケモンかもしれない。
威嚇しながらジリジリと近付いてきているがこの子を見捨てることはしたくない。
何とかしなければと頭が真っ白になりながら考えていると走馬灯が如く浮かんできたのはお父さんの言葉だった。
「(そうだモンスターボー………あれ無い?)!」
お父さんに渡されたモノを思い出したが手に内にも身の回りにも無い。
それはそうだ。海の中で追いかけようとした時点で約束なんて忘れていたのだから。
「やだ………怖いよぉ………誰か………」
「ギャオッッ!!」
「ひぃっ!?」
この時になって自分の身勝手さを呪った。
ちゃんと約束を守って無茶な行動をしなければよかった。
ポケモンのことを詳しくもないのに興味本位でついていかなければよかった。
楽しいことばっかり考えずに忘れちゃいけないことを頭に入れておけばよかった。
過ぎてしまったことばかり思い出してしまうが解決策なんてまるで思いつかない。それでも危険は止まらず目の前に迫ってくる。
もうダメだ、と腕の内を強く抱きしめて目を瞑ってしまった。
怖くて声も出ない中雄叫びが大きくなっているのを耳で聞きとっていた。
「グウォッ!?」
呻くような声が聞こえて目を開けてみるとそれとの間にまた知らないポケモンが立って………いや飛んでいた。
赤と紺の翼の向こう側を見てみると、この鳥のようなポケモンに迎撃されたのかさっきまでの勢いが収まり怯んでいるように見えた。
助かったのかと思い一気に力が抜けて腰が抜けてしまっていると遠くの方から声が聞こえてきた。
「………ありがとうウォーグル、間に合って良かったわ。」
目を向けると長い金色の髪を靡かせている女性が、こちらに微笑みながら立っていた。