ポケットモンスター 緋めし記憶と花色の夢路 作:kozmo78
「どうしてこんな所に………そういう事だったのね。」
現れたその人は今の状況を確認するなりすぐに何故こうなったかを理解した。
さっきまでこちらを攻撃しようとしていたポケモンが新しい敵として見据えていたが、彼女が放っている雰囲気によって幼い子供と手負いのポケモン一匹に吠えていた時よりも戸惑っているように見える。
「トドゼルガね、こんなに興奮して襲ってきているということはそのミニリュウが何処かで縄張りでもはいったのかしら………このまま戦うなら相手するけど早くその子の治療をしたいから手加減は出来ないの……
あなたはどうしたい?」
「………グウォウ」
あんなに強そうで怖かったポケモン、トドゼルガが彼女の言葉を聞いた途端に戦意を失って海の方へ引き返していった。今となっては当たり前だが、数分も顔を合わせてなくても彼女とその仲間の実力を理解したのだろう。
張り詰めた空気が緩み始めた中、助太刀してくれた鷲のようなポケモン、ウォーグルは退散するのを見て私の方に振り返り、私と腕の中のこの子の状況を探ろうと顔を覗き込んでいる。
「悠長している暇は無さそうね、その子を早くポケモンセンターに連れていきましょう。
貴方のお名前は?」
「メ、メリアナです…」
「メリアナね、そのミニリュウはあなたの手持ちの子かしら?」
「あの、海で見たのを追っかけて、そしたらたおれてて………」
「成程ね。あなたの方は……怪我はなさそうね…じゃあこうしましょう、出てきなさい!」
そう言って彼女のモンスターボールから出てきたのは青と黒の体毛を持つ人型のポケモンだった。このポケモンは幼い時の私でもテレビで見たことのあるぐらい有名だった。
「ルカリオ、その子をポケモンセンターに連れて行ってあげて、頼んだわよ。」
「ガルッ!」
「メリアナもそれでいいかしら?」
「わ、わかりました!」
その提案に賛同してルカリオにミニリュウと呼んでいたこの子を預けた。
私が抱きかかえた時は少しだけだけど抵抗しようとして体をよじらせていたような気がしたが、もうこの時にはそうするのも辛いのか眠っているかのように静かだった。
私の手から離れて紫色の体から伝わっていた冷たさとあの子の傷から出ていた少しの血液の痕だけが残った。
「お願いねルカリオ………これでひとまず悪化さえしなければ大丈夫かしらね。
…それじゃあ帰りましょうか。貴方もお母さんたちが待っているでしょう、心配してると思うわよ。」
「…そうだった。………あ、助けてもらってありがとう、ございます!……」
「どういたしまして、あなたも逃げずによく頑張ったわね。」
「でも私!……なにも…できなかった…」
「いやあなたのおかげよ、私が気付けたのはこのモンスターボールを見つけたからなの。」
「あ!それ……」
「息抜きついでに浜辺に出てみたら海からこのボールが転がってきてね、何となく違和感を感じたからウォーグルを飛ばしてみたら気付いたってわけ。要するに貴方がいたからあの子を救えたのよ、まだ治ったわけではないけどね。」
「そう……なのかな………」
「自信もっていいわよ………………あら、話してたら来てくれたようね。」
「あ!居たぞ!!」「メリアナ!良かったわ無事で……」
話していたら覚えのある声が町の方から聞こえてきた。
心配そうな顔で駆け寄ってくる二人の姿を目にして急に安堵感と罪悪感が心を満たし始めた。こちらに辿り着くよりも先に自然と足が走り出していた。
「おかーさんおとーさん!」
「………無事でよかったわ。」
「どうして、こんなところまで来たんだ?…それに父さんが渡したボールは?」
「ミニリュウって子を……追っかけて…あと……ボールは…海で落としちゃって……」
「…遠くに行っちゃ駄目って、約束…したよな?」
「…う、ん………ごめんなさ「ごめんな、メリアナ」……え」
「…なぜかこっちの方からルカリオが傷ついたミニリュウを抱えて走ってきたのを見つけたんだ。もしかしたらと思ってたが急いでこっちに来てみたら……怪我がなくてホントに良かったっ………!」
「目を離さずに一緒にいてあげれば怖い思いさせずに済んだのに……本当にごめんなさいね…。」
「……う、うわああん、ごめんなさいいっ………!」
私が謝らなければいけないのに、お父さんは目に涙を溜めて抱きしめながら、お母さんは目線を合わせて私の背中をさすりながら、「ごめん」と言ってくれた。
そんな“優しさ”に、嬉しくて愛しくて申し訳なくて…心が想いで一杯になって涙が溢れ出てきた。底冷えるような潮風の中で人肌の温かさを感じながら、疲れて泣き疲れるまで目いっぱい泣き続けた。
「………良かったです、この子を探してくれてる人が来てくださって」
「「本当にありがとうございます!」」「あなたが助けてくださったんですよね?」
「いえ、当然の事です………これから一緒についてきてもらってよろしいでしょうか?メリアナちゃんがここに来た理由が分かると思いますので」
「……さっきのルカリオの事か?…やっぱり何かに襲われたんだな…」
「フフッ知ってたんですね…メリアナちゃんも頑張ったので起きたら褒めてあげてください。」
「そうなんですか………………あれもしかして……あなたは!?」
~ ~ ~ ~ ~ ~
「………う、うんん………あれ………寝てたんだ………」
目覚めたら泊まる予定だったホテルのベットの上に居た。あの後ずっと私は眠っていたらしい。
「あら早起きね、よく眠れたかしら?」
「おはようメリアナ!一人でトドゼルガに立ち向かったってな、父さんは誇らしいぞ!」
「え?あ、うん………いや私はなんにも………」
「そんなことないわ。助けてくれた人が言ってたわよ、『あの子のおかげで命を救えた」ってね。」
「うん、そうさ!さすが自慢の娘だな!」
「そ、そうかなぁ………えへへ」
「じゃあ朝ごはん、なんだけど……まずフロントに向かいましょう。あの人も待っているわよ?」
お母さんの言っていた通り部屋を出てフロントに出てみると、黒いドレスのような服を纏ったあの金髪の女性が入り口近くのソファに座っていた。
彼女の膝の上にはあの時助けた紫色のポケモン、ミニリュウも居た。よく見ると、怪我を隠すように包帯が巻かれている。
「おはようございます皆さん………来たわよミニリュウ。」
「リュ?……リュ―!」
「うわっ!?」
「あら、思っていたより元気そうね。」
ミニリュウが気付いた途端、私を目掛けて勢いよく飛びかかってきた。
昨日まであんなに辛そうにしていたのに、一日経てばこんなにも元気になるとは思わなくてびっくりした。
勢いに負けて尻もちをついた私にお構いなくミニリュウがじゃれてくる。
「もう少し気付くのが遅かったらもっと悪化してたらしいわよ……お手柄ね。」
「ていうか色違いのミニリュウなんて珍しいよな。」
「そうね、初めて見たわ。」
私にとってはそもそもが初めてだったからそんなことは知る由もなかった。………それでも私が少しでも力になれたのがとても嬉しかった。
それと、こうやってポケモンと仲良くできるのがお父さん達みたいでなんだか心地良かった。
「折角じゃれてるところ申し訳ないけれど………いいかしらメリアナ?」
「わっ、は、はい、なんですか?」
「今のところポケモンセンターで何日か診てもらうことになっている後に海に帰すことになっているんだけど………あなた“たち”はどうしたい?」
「え?………私は………」
「リュ―リュ―!」
「フフッ、思った通りメリアナになついたようね………ミニリュウはこう言っているみたいよ?」
今後について尋ねられ迷っている私を見て、ミニリュウはまるで何かを訴えるかのように身を寄せてきた。何となくだけど二人が何を言おうとしているかはポケモンに詳しくない私でも分かる気がした。
だって私も想いは一緒だからだ。
「良いわよメリアナ」
「………良いの?」
「少し早いかもって前までは思ってたんだが………新しい家族、欲しいだろ?」
そう言って、お母さんは中身のないモンスターボールを渡してくれた。
昨日結局使うことはなかったけれど、ここで本当に初めて使うことになる。
「うん!!………じゃあ、一緒に来てくれる、ミニリュウ?」
「リュ―!」
目の前でボールを見せてみるとミニリュウは自分から頭をコツンとぶつけ、吸い込まれるように中に入っていった。
晴れてミニリュウが、新しい“家族”になった。
「新しいポケモントレーナーの誕生ね、ちゃんと仲良くしてあげてね?」
「はい!」
「約束よ?…では私はここでお暇させていただきます。」
「え!?」
「もう行ってしまうのですか!?感謝に一緒に食事でもと思っていたんですが……」
「すみません、新しい仕事ができてしまったんです。……また機会があればよろしくお願いします。」
「………ちょっと待ってください!」
「ん?」
私を助けてくれた人ともっと話がしたいとも思っていたけど、そんなわがままを言って迷惑をかけたくなかった。
けど、ずっと前から心残りがあった。
「あの、名前、何て言うんですか?!」
「あ、そういえばメリアナには言ってなかったわね。………
『シロナ』よ、シンオウ地方でチャンピオンをやっているわ。」
これが、私の家族で相棒のミニリュウと………そして私の人生の目標となるシロナさんとの初めての出会いだった。