ポケットモンスター 緋めし記憶と花色の夢路 作:kozmo78
「アカデミーに来るのも久しぶりだな!ココの階段長いから気を付けろよー………いや、気を付けるべきなのはオレの方だな…」
「辛かったら休み休み行きましょう、所定の時間にはまだ余裕があると思うので。」
「お、言うようになったじゃねぇか!漁師の足腰を舐めってもらっちゃあ困る!張り切って上るぞ!」
自分が先に言ったのでは………と言う問答は自分の胸の内に仕舞っておいて、目の前にある長い階段を見上げる。言われた通りに先が遠いが目を凝らしてみると、その先には煙突のような円錐型の尖塔とモンスターボールを模したシンボルが見えてくる。
初めての“家族会議”から少し経ち、今日は普段とは違いアップルアカデミーに向かっている。
本当にありがたいことに自分は1ヶ月後にアカデミーに通わせてもらうことになった。記憶と居場所を失うと言う不幸に遭ったとはいえ、環境に恵まれているのだとつくづく実感する。
そしていざ事が決まるとそれからの話は早く、メリアナの編入と並行して入学する手続きを行い、そのための戸籍などの登録をメルサさんの家系に入れさせてもらい………と言うところでアカデミーの校長であるクラベル先生の方から「手続きと見学を兼ねて一度こちらに来られませんか?」とのお誘いが来た。
…このような流れでメルサさんと共にテーブルシティを訪れることとなった。
とは言えこんな急に通うことになったのは問題無いのか、と考えこのアカデミーについて調べる又は教えてもらったが、ここは本来の学校やトレーナースクールとは少し異なる体系であった。
そもそもポケモンに関することを重点的に教える学び舎は限られており、特に珍しいのは入学における年齢制限の緩さであった。トレーナースクールに通える年齢から入学でき、それに加えて基本的には年齢上限はないことで人によっては仕事をしながらの通学も授業数次第で可能となっている。
実際マリナードタウンでは従来の学生と呼べる世代でしか見たことは無かったが、この街では学生服を纏ったメルサさんと歳が近そうな男性が同じように向かおうとしていたのを見かけて当たり前であるが本当だったとより実感した。
このように入学自体のハードルが低く設定されているため自分のような特殊な存在も問題無く入学することが出来るようで、ただでさえ費用が高く済んでいたら申し訳が立たなかったが、単位数と授業年数を減らすことで抑えることが出来るのでその方針でお願いすることにした。
………本当のところはルビナさん達は遠慮しないでいいと言ってくれていたが、流石にそこは自分の意地を通してもらった。これ以上の施しを受けることは自分が許せなくなりそうであった。
そんな事を考えていると、高く聳え立つアカデミーが近くに見えるトコロまで来た。左を見てみると足並みが少しずれていて、若干息を切らしながら足を上げている姿があった。
「大丈夫ですか?……少し休みますか?」
「はぁ……はぁ… いや気にすんな! 漁じゃあここまで疲れんのだがなぁ…ふぅ…」
笑顔でそう答えてくれたが気付かれない程度にペースを落としてみる。…とは言ってももう少しで着くのでそこまでの時間の差は無いが。
校門に近くなると制服姿の人が多く見えるようになり活気も溢れてくる。生徒によっては四足歩行のポケモンに跨ってバイクのように移動している人もいる。
「あ゛ぁあれはポケモンライドって言ってな、あのモトトカゲみたいに移動に向いたポケモンに乗せてもらえるように整備してあるんだ。…場合によっちゃあ過度な改造をしてるやつもいるがな。」
「へぇー………メルサさんのミガルーサもライドポケモンになれるのでしょうか?」
「オレの身長じゃあ無理だがヒギリなら海で載せてもらえるんじゃねーかな………まぁあいつならすぐ噛んじまいそうだがな!」
「ふっ、確かにそうですね…」
「いずれ使うようになるかもな!って言ってたら……よし着いた!先生がいるっつってたのは校長室か、さっさと向かうか!」
話している内にアカデミー前に来ることが出来た。いざ目の前に立ってみると、どれだけ多くの生徒が在籍しているかが分かるほどに広大な敷地と校舎であることが理解できる。
生徒たちの談笑に湧く空間を通りぬけ大きな扉を開けてみると、黄色いアヒルのようなポケモン………確かコダックという名前だったか…が出迎えている窓口と図書館と同じくらいの蔵書数である本棚に囲まれたエントランスホールに出てきた。
これほどの施設に来ることがなかなか無いため幼児みたいに周りを見渡してしまうが、本来の目的を思い出して視線を前に戻す。
「おはようございます!本日はどのようなご用件でしょうか?」
「オレがメルサでこっちがヒギリっつってな、クラベル校長に用があって来たんだが校長室ってどう行けばいいんだ?」
「少々お待ちください………、はい!ご用件は校長から伺っております、左手の一番手前にあるエレベーターで三階に上がってもらえればすぐに見えるので、そちらご利用ください!」
「分かりました、ご丁寧にありがとうございます。」
…
…
…
~ ~ ~ ~ ~
「よく来てくださりました………お元気そうで何よりです。」
“校長室”と表記された部屋の扉が開くと先生直々に出迎えてくれた。
クラベル先生に会うのはあの日以来だったが、今回は用件が違う。
「アカデミーへの入学を検討して下さるとは……こちらとしては嬉しい限りです。前回の件ではお役に立てませんでしたので是非とも尽力させて下さい。」
「ヒギリをよろしく頼んます!それにもうちょいで引っ越してくるメリアナも編入するんでな!」
「私も大変楽しみにしております……ヒギリさん、来学期から宜しくお願い致します。」
「お願いします!…あの、ポケモンについて全然詳しくないのですがアカデミーの授業についていけるのでしょうか………?」
「問題ありませんよ、事情は知っていますし“宝探し”が始まるまでの学期ではそこまで専門的なモノは行わない予定なので気負わずに登校してください。」
「そうだぞヒギリ!もうちょっとポジティブでいいからな!」
「ははは………」
自分の発言を気にかけて励ますかのように背中を叩いてくれる。
不安をこぼすほどの立場にはないがいざアカデミーを訪れて実感が湧いてくると口に出てしまったが………そんな不安は必要なさそうだ。
入学が決まってから自分で教材に成り得るモノを用意して取り組んでいるため基礎的な知識に困る部分は少ないが、いまだにポケモンに関しては造詣があまり深まらない。こういう場合は実際に触れあったり手に入れたりすべきかもしれないが、唯一の経験と言えばミガルーサに会うたびに噛まれることぐらいだ。それ以外は無知な自分の都合を優先するのは気が引けてしまった。
「本日の手続きが終わりましたら、時間の許す限り構内を案内をさせていただきたいと思います。抜け駆けのようでメリアナさんには申し訳ないですが、本校を一度を見てもらいたいと思いましてね………」
「是非ともお願いします…メリアナの方には僕からどうだったかを伝えておくので…」
「まぁあっちは入学直前にこっちに来る予定なんで気にしないでいいさ!」
「分かりました。ではこちらへお座りください、早速こちらの資料なんですが………」
そう言って奥の書斎机に案内される。本来は無い筈の高級そうな椅子も来客用に用意されている。自分も並んで座るが手続きに介入することはほぼ無いので、話を聞きながら少し思考に耽る。
抜け駆けで見学………とはいうがメリアナはそこまで気にするだろうか。
あの日から定期的にカロスとテレビ電話を繋いだりするようになったが、特に彼女は今回の編入を楽しみにしていた。あちらのトレーナースクールに通っているため急な引っ越しは辛い思いをするようにも考えていたが、それ以上にアカデミーへの期待が勝っているようだった。
話を聞くと、メリアナは“ポケモンチャンピオン”を目指しているらしい。
ある日の通話の時に彼女の手持ちであるミニリュウと共にポケモンバトルへの熱意を語ってくれた。最初の頃の会話ではギクシャクしてしまったが、特に憧れとして語っていたシンオウ地方のチャンピオンであるシロナへの想いは聴いているだけで伝わってきた。おかげでテレビ放送されているチャンピオン戦なども知ることが出来、空いている時間に観るぐらいには興味を持つようになった。
そんな彼女ならこのアカデミーは願ってもないモノだろう………少なくともポケモンバトルには事欠かないように思える。
そんな事を考えていたら少し嫉妬されそうにも思ったが………気にしないでおこう。
…
…
…
「こちらがグラウンドですね。バトル学の授業の際によく利用しますが、休み時間などで彼らのようにポケモンバトルを行う生徒が多いですね。………このようにポケモンに関わる多くのことを教えているのが“アップルアカデミー”となります。」
「すごいですね………確かに聞いていた以上ですね…」
最初の目的を終えて現在はアカデミー見学に移っている。メルサさんとは彼の面識のある先生と話すのもあって一度分かれることとなった。
各授業で使う教室や学生寮を主に回ってきたが、これ程広い施設なのに何処に行ってもポケモンがいたように感じた。学期の合間のため授業自体はそこまで行われていなかったが、先生と生徒、そして彼らのポケモンで構内は賑わっていた。それに話を聞くとアカデミーで育てているポケモンが多数存在し、生徒が自由に触れ合えるようになっているらしい。
先生の話に感銘を受けていると後ろから足音が聞こえてきた。振り返ってみると火のように頭が揺らめいて見える人型に近いポケモンが近寄ってきていた。
「ボウボウ!」
「おやあなたはカルボウ…いやボウジロウですね。如何されたのですか?」
「ボウ―!」
「ん?……僕に何か用か?」
ボウジロウと呼ばれたポケモンは自分の方に向いて元気よく声をかけてきている。
面識なんて無いが彼が何かを求めているように感じられるが………
「もしかして……一緒に遊びたいのか?」
「ボウ!」
「これはこれは………珍しいですね…彼らが来なくなったのが関係しているのでしょうか…?」
「?…先生、どうかされましたか?」
「いえ、気にしないで下さい……そうですね、すみませんがヒギリさん、彼と一緒に遊んでみてもらえなませんか?これからの授業の予行練習としても役立つと思いますよ。」
「構いませんが………ボウジロウは…何がしたい?」
「ボウボウ!」
「んー………」
話しかけてみると意気揚々と答えてくれたが、彼の意図を上手く汲み取れない。手持ちもいなければこのような経験もない自分では良い答えが思いつかないのである。ポケモンにとっての“遊び”とは何をしたらよいのであろうか?もしかしてポケモンバトルとか、なのだろうか……………
どうしたもんか、と考えているとバトルコートの方から駆けてくる人がいる。どうやらこちらに向かっているようだ。
「先生こんにちは!それと………初めまして、だね!」
「おやネモさん、こんにちは。こちらの彼はヒギリさんです、来学期から本校に通うことになったのでアカデミー内の案内をさせてもらっています。」
「あ、どうも初めまして…」
「そうなんだ!私ネモって言うんだ、これからよろしくね!」
深緑色のポニーテールが特徴的な彼女が元気そうに挨拶してくる。
メリアナと同じくらい、又は少し上くらいの年齢の生徒のように見えるが、これから彼女が話す様により少し乖離するぐらいに幼く感じさせた。
「もしかしてそのカルボウって君のポケモン?だったらこれからポケモンバトルしない?!あ、出来れば先生審判してもらえないですか?!」
「え……………」
「…相変わらずですね……」
初対面の相手にここまでグイグイ来るのかと面を食らってしまった。さっきまでバトルコートに居たのだからポケモンバトルをしたばかりの筈なのに………メリアナでもこれ程熱くなかったと思う。
急な誘いで戸惑ってしまったが、それに賛成する者が居た。
「ボウ―!!」
「お、そっちは乗り気だね!君は…どうする?」
「ヒギリさん、どうでしょう?初めてだとお見受けしますが……」
「そうですね……………分かりました、やらせて下さい。」
「いいの?!」
「あぁ………元々興味はあったので、ボウジロウもそれでいいか…?」
「ボウボウー!!」
「よし、ではよろしくお願いします。」
「そんなに畏まらなくていいよ!じゃあ………やろっか!」
そんな成り行きで、初めてのポケモンバトルはさっき知り合ったポケモンと手を組むこととなった。